著者
冨永 靖徳
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.48, no.10, pp.773-780, 1993-10-05
被引用文献数
2

水は,地球の環境にとっても,生命にとっても極めて大切な物質でありながら,なかなか正面から取り上げにくい物質である.それは,あまりにも身近過ぎる物質であることに加えて,多くの先達が優れた成果とともに,尤もらしい俗説や魅惑的な誤りを,とりまぜて残してきたためである.しかし,液体の水が単純なH_2O分子でないことは,誰もが認めるところであり,水が我々に対してもつ重要性は今も変わらない.そこで,なんとか水のみせる素顔の一面を分光学の手段で覗くことができないものかと考えた.液体の水が,短い時間では,ある種の構造をとっていることを示し,またその構造の変化が,生理作用にかかわる,情報の鋳型になっている可能性をさぐるのが本稿のねらいである.
著者
大隅 昇
出版者
日本行動計量学会
雑誌
行動計量学 (ISSN:03855481)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.20-44, 2002-03-29
被引用文献数
6 8

Rapid development in the survey methods available on the World Wide Web (WWW) is having a major impact on conventional survey data collection methods. The wide range of opinions has given rise to an ongoing debate regarding the future role of Internet surveys (in particular, Web surveys) based on the role that self-administration will play in research. We started by arranging a practical procedure for electronic data collection on the Web surveys experimentally designed from the viewpoint of "data science." Aiming to verify the applicability, possibilities, and limitations of Web survey methods, we conducted three experimental surveys during the period from 1997 to 2000. They were designed to enable comparison with each other and with traditional methods such as face-to-face interviews and online surveys using conventional sampling procedures. These surveys provided informative results about the characteristics of Web surveys. In the first survey, consisting of 12 continual surveys of a single panel of registrants, we examined the relationship between the response rates and the questionnaire's design, volume and content, as well as response rate differences among the 12 surveys and the discrepancies in repeated surveys. In the second experimental survey, we carried out Web surveys at about the same time on three different sites together with non-internet surveys using conventional sampling methods. Our experimental design enabled objective comparison of the surveys by using as much identical questionnaire design as possible. Our experimental surveys showed that Web survey results are similar to each other while distinctively differing from those of conventional surveys. In the third experimental survey, we simultaneously carried out a series of comparative surveys in order to examine the general characteristics of Web surveys found during the second experimental survey. Except that the number of sites used was two instead of three, the third experimental surveys were carried out in the same way as in the second trial. We confirmed the results that the same characteristics were evident again in the second survey. We also found that how the registrants of the surveys (named "resources") were selected and whether the interval between solicitation and survey was short or long would be factors influencing the answers and response-rate. We also found that the respondents do not necessarily represent the resources. In addition, as an addendum in this paper, we report partly the results of a fourth experimental survey which has been carried out in 2001 to 2002 and compare it with the findings of the previous three trials. In particular, we also analyze the itemized causes of "nonresponse" on the datasets obtained from the tracking procedure of tracing electronically each respondent on the WWW. The fourth survey consists of Web surveys on three separate sites while the other surveys were based on conventional sampling methods (e.g., face-to-face interviews and mail surveys). While we use the same questionnaire design, content, and duration as those used in the past surveys, we also attempt to examine how the questionnaire design has influenced responses. Through these experimental surveys, an appropriate route to how to design a Web survey, evaluate its quality and avoid possible risks or perils in design is proposed from the concept of "data science."
著者
本橋 令子
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

網羅的タンパク質解技術(プロテオミックス)を利用し、葉緑体からクロモプラストへの分化に関与するタンパク質を同定することを目的に実験を行った。まず、成熟段階の異なるマイクロトム果実(緑、黄、オレンジ、赤)よりプラスチドを単離し、各ステージのプラスチドタンパク質をLC-MS/MSを用いたショットガンプロテオーム解析により約440を同定した。2番目に、白、黒やオレンジ色の果実を持つ変異体や栽培系統を集めた。2次元電気泳動法により、それら果実のクロモプラストのプロテオームデータを野生型のマイクロトムの4つのステージのプロテオームデータと比較し、クロモプラスト分化や成熟、果実色に関与するタンパク質を同定中である。
著者
鉄 拳
出版者
九州大学大学院人間環境学研究院
雑誌
九州大学心理学研究 (ISSN:13453904)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.63-69, 2010

This paper examined regional characteristics of stress in junior school students in Yun-Nan and Iner Mongolia The result showed that the frequency and strength of stressor in Yun-Nan is higher than Inner Mongolia. Social support for students in Inner Mongolia's is higher than those for Yun-Nan. However, there is no significant difference in stress response between students in Yun-Nan and Inner Mongolia. It is considered that students in Yun-Nan managed stress better and less likely to show stress response. Also, they received more social support from friends, comparing to students in Inner Mongolia. Furthermore, comparison between subscales of the questionnaire, differences in expression of stress reaction were found between students in the two provinces. Since the present results were based on questionnaire investigation, interview study is necessary in the future, in order to understand the student's situation and compare with the quantitative data. Also further study in different regions to understand regional characteristic is necessary.
著者
南里 豪志
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

IPv6対応インターネットとMyrinetで構成された階層型クラスタ向けにRMA機構を開発するとともに、通信最適化技術を開発した。また、ソフトウェアで制御されたキャッシュメモリシステムをRMA機構上に構築して、有効性を確認した。
著者
Ng Peter K.L. 武田 正倫
出版者
国立科学博物館
雑誌
Bulletin of the National Science Museum. Series A, Zoology (ISSN:03852423)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.111-116, 1993-09

The identity of the poorly known Philippine freshwater crab, Telphusa cumingii, is clarified on re-examination of the type in the British Museum. The species, briefly described by MIERS in 1884 and never reported since, has been regarded as belonging to the superfamily Gecarcinucoidea, and allied to species like Sundathelphusa picta and Holthuisana transversa. Telphusa cumingii in fact, belongs to the superfamily Potamoidea, family Potamidae, in the recently established genus Ovitamon NG et TAKEDA, 1992.
著者
谷村 晋
出版者
ITヘルスケア学会
雑誌
ITヘルスケア誌 (ISSN:18814808)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.30-39, 2006-09-25 (Released:2007-01-18)
参考文献数
12

学会プレゼンテーションの映写機器をコンピュータと液晶プロジェクタに切り替える学会が一般化してきたが、このときMicrosoft PowerPointが排他的に指定される傾向にある。学会プレゼンテーションに必要なソフトウェアの条件項目を多角的に検討した結果、PowerPointは学会プレゼンテーションのための映写ソフトウェアとして、むしろ不適切であることを明らかにした。必要とされる条件項目を満たす代替手法として、本稿ではPDFファイルによるプレゼンテーション(PDFプレゼンテーション)を提案するとともに、その具体的な例と留意点を示す。PDFプレゼンテーションを採用すると、学会運営側はPowerPointの場合よりも低費用低リスクで安心でき、発表者側はスライド作成負担が軽減される。
著者
相原 玲二 岸場 清悟 近堂 徹 西村 浩二 田島 浩一
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

移動するコンピュータから複数の相手端末に対し同報通信を行うことができる移動透過マルチキャストとして、IPモビリティ通信方式から得られるIPアドレスなどのネットワーク情報を積極的に活用する移動透過アプリケーションレイヤマルチキャスト通信方式を提案した。研究代表者らが過去に提案している移動透過通信方式を、マルチキャスト通信が可能となるよう拡張し、その具体的な実装設計、プロトタイプ作成および性能評価を実施した。
著者
Vercammen-Grandjean P.H. 熊田 信夫 NEWELL I. M. ROBAUX P. 鈴木 博
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.245-249, 1974
被引用文献数
3

ケダニ上科のケダニ科・ジョンストンダニ科などに属するダニ類の大部分は節足動物寄生性であるが, 同上科のツツガムシ科のダニ類に似た形態的特徴を持つために, しばしば混同されることがある。本稿では, さきに著者のひとりVercammen-Grandjeanによってツツガムシ科のアポロン亜科からジョンストンダニ科に移籍されたNothotrombicula, Grossiaの2属に, その他の既記載属6属とここに記載する新属Ralphaudynaを含めて, 合計9属が互いに近縁であり, 少なくともTrombellinae亜科の従来の定義を拡大して, そのChyzeriini族としてこれら9属を取り扱うべきこと, さらに独立科の新設の必要性などについて予報を行ない, 新種R. amamiensisを命名記載した。本種は奄美大島湯湾岳中腹において恙虫類の調査中, 著者のひとり鈴木により土壌中から採集されたものである。また新属名Ralphaudynaは, 永年にわたる恙虫病および恙虫に関する研究によって, 衛生動物学の発展に多大の貢献をされたJack Ralph Audy博士の死を悼み, 同博士を追慕する思いを込めて捧げられた。
著者
吉田 栄夫
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.78, pp.58-82, 1983-03

44名の第20次南極地域観測隊は, 1978年11月25日東京港を出航し, 昭和基地に向かった。観測項目は多岐にわたるが, 第20次隊から重点項目として, 3年計画によるPOLEX-Southおよび地学総合調査が実施されることとなった。夏期の観測は, 航路上および氷海接岸中の海洋観測, 昭和基地対岸大陸上での予察的人工地震探査, 露岩地域の地質調査と測地作業であった。FGGEのための漂流ブイ観測に協力して, 7個のオーストラリアのブイ投入も, 39°S;109°E, 62°S;85°Eにわたる海域で行われた。夏期建設作業は2階建の夏期隊員宿舎の基礎部分の建設, 各建物の補修, 通信機関係整備等であった。一方, 11名のNHKチームがインテルサットによるテレビ放映を, 1979年1月28日から2月3日の間実施し, このための建設作業, 取材等に観測隊, 「ふじ」乗組員が協力した。航空機損傷により越冬をとりやめた2名を含む12名の夏隊は, 1979年4月20日東京に帰着した。
著者
岡本 康雄 新宅 純二郎 桑田 耕太郎 玉木 欽也 周佐 喜和 ちょ 斗燮 MASUDA Kazuo SAITO Junichi CIBA Shin OKANO Yayo YANO Kumiko
出版者
文京学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

われわれは、日本製造業の競争優位を分析するに当って、エレクトロニクス産業を主要対象に選ぶこととした。何故ならこの産業は、1980年代半ばまでは、全体として高い競争優位を国際的に誇示してきたにもかかわらず、1980年代後半から90年代にかけてその優位をかなり低下させたと思われるからである。各種のデータは、その事をあきらかにしている。しかもこの様な状況をもたらした諸要因は、現在あるいは近い将来に他の産業においてもおこりうると推定されるのである。これに対し、日本企業の競争力に差をつけられていたアメリカのエレクトロニクス産業は、80年代後半から90年代にかけて国際的競争優位を復元するにいたった。これには色々な要因があるが、その主要な要因、少なくともその一つとして、エレクトロニクス産業に起こった顕著なモジュール化の動き、そしてこれにともなって生じた企業間水平分業の推進があげられる。すなわちモジュール-構成部品さらにそのサブ部品を統合するデザインルールが明示的に構築され、それが守られるならば、各企業は特定部品の開発・試作・生産に特化した開発・生産を行なうチャンスが生まれる。企業の資源がこのような特定部品の革新に集中し、競争が行なわれるならば、イノベーションの速度と水準は向上する。その一つの成功事例がインテルのMPUである。さらに多くのエレクトロニクス企業の製造活動を受託し、コスト低減を実現するEMS企業も生まれた。IBMは高付加価値半導体の生産を除くと製品開発・基本設計・サービスに専念し、製造の多くを外部に委託している。また台湾の製品設計企業と受託生産企業との柔軟な連繋システム、韓国財閥係企業にみられる戦略的投資と急速な技術力の上昇がめだっている。これに対し日本の大手エレクトニクス企業は、程度の差はあれ、部品生産を含む多分野の事業を営む、垂直統合型構造をつくりあげており、モジュール化の大きな流れと不適合状態を生み出している。またこの様な事業構造の下では、特定の事業に大規模な戦略的投資を適時に行なうことは容易ではない。それは80年代半ばまでの成功によって企業戦略の主要標的を日系企業におき、同型の戦略をいかに他社に遅れずに進めるかといった同調行動の慣性から中々抜け出せないことにもよっている。また製品寿命の短縮、開発スピード加速化、短期納入などの必要に直面しているにもかかわらず、企業組織面では、開発・設計・製造・マーケティング各機能内の連繋の弱さがめだっている。また海外事業拠点が発信している戦略的問題提起を柔軟にうけとめることができないといった、本社中心主義がめだっている。このような分析の上でわれわれは、競争優位再構築の可能性、国際経営の在り方についても一定の検討を加えた。
著者
佐藤 夏雄
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.381-393, 1990-11

第29次南極地域観測隊は, 隊長渡辺興亜以下52名で編成された。このうち, 昭和基地の越冬隊は渡辺興亜越冬隊長以下27名, あすか観測拠点の越冬隊は矢内桂三越冬副隊長以下10名である。夏隊は, 佐藤夏雄夏隊長以下15名で編成され, 船舶技術者2名と報道関係者3名及び南極条約に基づく交換科学者として, 米国から1名および中国から2名が同行した。1987年11月14日, 東京湾を出港した「しらせ」は, オーストラリアのフリマントル港に寄港したのち, 12月17日, ブライド湾に到着し, 物資の輸送, あすか観測拠点における越冬態勢確立のための作業を実施した。12月30日, セールロンダーネ山地地学調査隊員を残し, ブライド湾を離れた「しらせ」は1988年1月2日に昭和基地に到着した。輸送(約700t), 大型アンテナ基礎工事や衛星受信棟などの建設作業, 野外調査などは1月31日までの間に終了し, 2月1日に越冬交代を行った。2月5日再びブライド湾に向かった。2月7日ブライド湾に到着し, セールロンダーネ山地地学調査隊の収容, 海底磁力計の揚収をした後, 海底地形観測等を実施した。2月14日から2月22日にかけてマラジョージナヤ基地, アムンゼン湾にて野外調査を実施した後, 今次隊から開始した東航(158°Eまで)及び北上中の海洋観測を行い, 3月20日シドニー湾に初寄港した。観測隊員は, 空路にて3月27日に, また「しらせ」は4月12日に東京湾に帰着した。
著者
長友 克広
出版者
弘前大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2009

中脳黒質網様部GABAニューロンは、高頻度に自発発火をしている細胞の1つであるが、その持続的な自発発火を支える制御機構は明らかではない。本研究では、「代謝」という観点から、急性単離ニューロンを用いて、細胞外グルコース濃度および温度を変化させた時、自発発火頻度がどのように変動するのか解析した。以前報告した脳スライスの結果と異なる結果などが得られ、ニューロンの自発発火はニューロン周辺環境の何らかの因子によって調節されていると示唆された。
著者
森 清文 原田 昭夫 露重 美義
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会九州支部会報 (ISSN:02853507)
巻号頁・発行日
no.73, pp.41-43, 2007-05-15

暖地加工用バレイショの収量性,デンプン価向上を達成するための栽培要因解析を行った結果,以下のことが明らかとなった.1.収量性の向上には,施肥窒素量,種いも1個重の効果が認められ,施肥量がN:1.5kg/a,種いも1個重40g使用で増収する.2.デンプン価は,マルチの色,種いも1個重,株間,施肥量のいずれの要因効果は認められず,生育期間と植付期についてのみ要因効果が認められた.3.デンプン価は,植付けを2月1日までに行い,5月中句の収穫によって低下を防ぐことができる.
著者
芳野 赳夫
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.72, pp.61-83, 1981-03

17次越冬隊員29名は, 1976年2月1日から1年間昭和基地, 5月以降はみずほ基地を加えて, 国際磁気圏観測(IMS)に関連した観測を重点的に行った。昭和基地では極光, 地磁気, 電離層, 気象, 地震, 潮汐の定常観測のほか, IMSのための観測機器の増設, 人工衛星追尾受信装置の建設を行い, 人工衛星受信, 7基(2基は夏期間)のロケット打ち上げと, 1基の大気球観測などの超高層部門の重点観測が行われ, 気象・医学の研究も行われた。みずほ基地は, IMSのための超高層観測を開始するため, 4月に観測棟1棟の建設と16kVA発電機の増設を行い, 5月14日以降4名が通年滞在し, 超高層のほか, 雪氷, 地上気象の観測を行い, 特に超高層部門の多点観測に貢献した。
著者
星合 孝男
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.72-94, 1984-03-31

第23次日本南極地域観測隊越冬隊員34名は, 1982年2月1日から1年間, 昭和基地, みずほ基地を中心とした地域で各種観測を行った。極光, 地磁気, 電離層, 気象, 自然地震, 潮汐, 測地の定常諸観測を例年どおり実施した。「極域中層大気の総合観測」(MAPの一環), 「南極沿岸生態系における生物生産の基礎研究」(BIOMASSの一環), 「東クィーンモードランド地域雪氷・地学研究計画」(IAGPの一環)の3長期研究計画に基づく初年度の研究, および医学の研究を行い, 所期の目的をほぼ達成することができた。