著者
永元 則義 斉藤 泰紀 佐藤 雅美 佐川 元保 菅間 敬治 高橋 里美 薄田 勝男 藤村 重文 仲田 祐 大久田 和弘
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器内視鏡学会
雑誌
気管支学
巻号頁・発行日
vol.15, no.5, pp.399-405, 1993

胸部X線写真無所見肺癌切除例149例中に認められた37例の隆起性病変の気管支における増殖特性を検索し, 術式の選択について考察した。肉眼所見から四型に分類できた。隆起した癌が内腔に全周性に増殖し気管支を狭窄しているもの(AC型 : 輪状狭窄型), 非全周性に一部が内腔に突出し, その周囲に表層浸潤を伴うもの(PSE型 : 進展性ポリープ型)と伴わないもの(LP型 : 限局性ポリープ型)があり, LP型はさらに有茎性(PLP型)と無茎性(NLP型)に分けられた。これら四型についてさらに組織学的に検索し, 気管支壁への深達性, 癌の広がり, リンパ節転移を検討した。以上の結果, (1)四型とも気管支鏡検査で隆起型をある程度推定しうる可能性がある, (2)PLP型, 横径小のNLP型およびPSE型は局在部位によっては区域切除やスリーブ葉切の適応となりうる, (3)AC型と横径大のNLP型は癌の根治性から考えて標準的な術式が妥当であろう, と考えられた。
著者
島 伸和 伊勢崎 修弘 兵頭 政幸 山崎 俊嗣
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究では、海底電位差磁力計を新たに開発し、背弧海盆であり海底拡大がはっきりしているマリアナトラフをターゲットにして、マリアナトラフの詳細なテクトニクスの解明と、マリアナトラフ付近での電気伝導度構造の推定を行なった.開発した海底電位差磁力計は、すでに実用段階に入っており、その大きさとしては世界最小レベルであり、機動力という点でも優れている.また、この電極には、FILLOUXタイプの電極を採用して、このタイプの電極を国内で安定した性能で作る体制を整えた.海上での観測で得られた海底地形、重力、地磁気データを解析することにより、次のように詳細なテクトニクスをあきらかにした.(1)北緯16〜18度付近は、約6Maに海底拡大を開始した.拡大速度(片側、以下同じ)は20mm/年程度と遅い.(2)北緯16度以北では、拡大開始時の拡大軸の走向は北北西-南南東であった.つまり、トラフ北部では西マリアナ海嶺の走向にほぼ平行であるのに対し、南へ行くに従い西マリアナ海嶺とは斜行するようになる.トラフ中部及び北部では、現在の拡大軸の走向は南北に近い.(3)北緯14度以南のトラフ南部では、海底拡大は3Ma頃開始し、拡大速度は35mm/年程度と中部・北部よりやや速い.中軸谷が存在せず、地形的には東太平洋海膨型の速い拡大の特徴を持つ.(4)北部マリアナトラフにおいては、リフフティング/海底拡大の境界は北緯22度付近にある.北緯20〜22度では約4Maに拡大を開始した.1年間設置して観測した海底電位差磁力計によるデータの初期的な解析結果より、マリアナ島弧火山下には、70kmの深さに部分溶融と見られる電気伝導度の高い領域があることがわかった.また、マリアナトラフ下には、数10kmのリソスフェアに対応すると考えられる低電気伝導度層が存在することを明らかにした.
著者
高嶋 礼詩
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

今年度はヒマラヤ山脈と同様の衝突帯である,ヨーロッパアルプス西縁部のフランスプロバンス地域と日高山脈西縁部の北海道中軸帯において,白亜系の構造地質学的・層序学的検討を昨年度に引き続き行った.1)フランス南東部の研究結果フランス南東部のDigne周辺地域は,第三紀のアルプス造山活動によって,白亜系が東傾斜の軸を持つ南北性の褶曲と東傾斜の南北性の衝上断層群による変形を被っている.同地域の白亜系について,微化石を用いて詳細な年代を解明することにより,衝上断層による地層の欠損量を定量的に計測した.また,白亜系を不整合に覆う前縁山地堆積物の時空分布から,同地域における衝突に伴う構造運動の時空変遷を考察した.2)北海道中軸部の研究結果衝突帯の前縁部である夕張山地から石狩低地帯に至る地域と,幌加内・朱鞠内から羽幌・小平にいたる地域の2箇所で,広域で詳細な地質図を完成させた.特に前者の地域では塊状泥岩が卓越し,岩相的に単調であるために,同地域の構造を把握することはこれまで全くなされてこなかった.しかしながら,微化石による精密な化石基準面を同定し,それらを広域にマッピングすることにより,岩相上識別不能な同一時間面をトレースすることが出来た.また,夕張山地の白亜系の泥岩中には,数10層の凝灰岩層も挟まれているが,各凝灰岩を識別することが困難なために,鍵層として用いられることもなかった.しかし,各化石基準面と組み合わせることにより,他の地域(羽幌・小平)にまで対比できることが明らかになった.これらの鍵層・化石基準面に基づく地質構造の解析の結果,双珠別衝上断層,芦別岳衝上断層,桂沢衝上断層という,3つの大規模な衝上断層を発見した.さらにこれらの断層によって,それぞれ10km以上の短縮が起こっていたことを解明した.以上の結果により,日高山脈西縁部の複雑な褶曲・衝上断層構造が復元され,島弧衝突帯前縁部における構造を解明することが出来た.この結果の一部をCretaceous Researchに投稿し,受理されている.これまで行ってきた,ヒマラヤ山脈,アルプス山脈,日高山脈の研究結果から,大陸間,島弧間の衝突過程における山脈の形成と,衝上断層の発達過程を比較検討した.その結果,島弧間の衝突では,前縁山地の地質体における衝上断層系の発達のみであるが,大陸衝突では,地殻深部の変成岩ナップの大規模な前進が起こり,前縁山地堆積物に変成を起こしながらのし上がっていくことが明らかになった.
著者
三宅 真紀 佐藤研 赤間 啓之
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告人文科学とコンピュータ(CH) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.1999, no.85, pp.25-30, 1999-10-15
参考文献数
8

本論文では、聖書学の分野に、コーパス言語学的な統計的解析を用いた方法論を導入をすることを目的としている。そこで、新約聖書学において、福音書の成立上の相互関係を整合的に説明しようとする「共観福音書問題」に着目し、その最も説得的な解決法と考えられている「二資料説」について、数量化モデルを立てた。統計処理については、特異値分解(Singular Value Decomposition SVD)を基盤とするLSA (Latent Semantic Analysis)を用いて仮説を検証し、数量化モデルを用いて「二資料説」を実証した。LSAは、膨大な量のテクストを扱うのに非常に適している。また、解析ソフトウェアの開発も同時に行い、将来的に聖書学研究者の統計的研究をサポートすることを目的としている。In this paper, it is our aim to use a statistical analysis for the study of Bible. We deal with the "synoptic problem" in New Testament Studies. For the first step, a statistical model is created for the "two sources theory" which plays a important part in this problem. Then, the hypothesis is explored by a mathematical technique called Latent Semantic Analysis (LSA). This thechnique uses Singular Value Decomposition (SVD), a mathematical generalisation of factor analysis. And also it is applied to a large corpus of text. Finally the hepothesis is proved by the satistical model. In addition we develop a application applied to the statistical analysis for the study of Bible.
著者
秋根 茂久
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

不斉情報の自在な記録を可能にする分子素子の開発を目指し、メタロヘリセンの合成と機能化について研究を行ってきた。本度は、直鎖状オリゴオキシムの末端のベンゼン環部分にアリル基などのらせん固定化部位を導入した配位子を合成し、金属と錯形成させてメタロヘリセンへと導くことを検討した。ここで、金属としては、亜鉛(II)-ランタン(III)や亜鉛(II)アルカリ土類の組み合わせを用いることとした。らせん型金属錯体のらせん構造の固定化について、閉環オレフィンメタセシスによる検討を行ったところ、第二世代のGrubbs触媒を用いた条件で反応が進行した。特に、亜鉛-カルシウムの系では、単離収率64%で環化体が得られた。また興味深いことに、cis体のオレフィンのみが生成していることが明らかとなった。亜鉛-ランタンの場合には副反応が進行するために収率は低下したが、この場合も環化体の生成はcis選択的であった。また、らせん型構造とならない亜鉛(II)ホモ三核錯体の場合は、cis,trans体の混合物(32:68)が得られた。一方、金属と錯形成させていない配位子のオレフィンメタセシスではtrans体が主として生成した。これらの結果から、直鎖状配位子をらせん型金属錯体に変えても十分にメタセシス反応が効率的に進行し、その際に、生成するオレフィンのcis/trans比が逆転するということがわかった。このように、Grubbs触媒を用いた閉環メタセシスが不斉情報保存のためのらせん構造の固定化反応に有用であることを明らかにした。
著者
阿部 泰記
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

2年間にわたって継続的に行ってきた漢川善書に関する調査をまとめ、漢川善書が地方の演芸として無形文化財に指定されるまでに成長した要件を分析するとともに、国内外の図書館において文献を収集して聖諭宣講の歴史的発展を明らかにした。この過程で歌唱による教化が現代に至るまで各地で行われてきたこと、台湾においても現在無形文化財として唸歌による民衆教育が行われていることも明らかにした。
著者
黒川 勲
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究においては,スピノザの自然哲学の全体像に注目し,西洋哲学・科学の歴史的な背景を視野に入れて,スピノザのコナトゥス論の意義の解明を目指す。研究成果として,スピノザの哲学はコナトゥスの現象,力の現象の哲学であり,認識論的・倫理学的にコナトゥスは「現実性」の基盤であることが明らかとなった。また,スピノザの哲学体系・自然哲学おいて,スピノザの方法論の内的・反省的特徴を示しえた。
著者
筏津 安恕
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

プーフェンドルフの自然法論をヨーロッパ精神史のなかに位置づけるために資する可能性のある文献を収集・検討した。また、今年度も八日間チューリッヒ大学に滞在して、後期スコラ学派に関する文献調査を実施した。本研究は、自然法の学問としての自立化と、その枠内でのローマ法の訴権のシステムから独立私法のした一般理論の誕生の秘密を解明するという二つの柱からなる。ヨーロッパ私法の一般理論は、ローマ法の近代化のプロセスにおいて誕生するが、ローマ法の内在的な発展の力によっては、私法の一般理論を形成することは不可能であったという想定のもとで、私法の一般理論の誕生を促進した神学と哲学の影響を解明することに留意した。今年度は、神学の影響をみるために、後期スコラ学派のスアレスとレッシウスの研究を行った。ヨーロッパ大陸法系の制定法文化の成立のためには、私法の一般理論が必要不可欠であるが、これを構築するために、意思概念が重要な役割を果たす。意思概念が神学の影響によることは比較的よく知られているが、それがどのようなルートで法学に影響を及ぼすことになったのかということは、未解明の問題である。今年度の研究で、スアレス、デカルト、プーフェンドルフのラインをたどることができることが判明した。私法の一般理論の誕生のためには、もう一つ体系の配列の仕方についての考え方が問題であり、これについては、後期スコラ学派に属するレッシウスを中心に検討している。後期スコラ学派の道徳神学としての自然法論の内部で、restitutioを中心とした私法学が形成されており、ローマ法の現状回復を意味するrestitutio論を、損害賠償の意味でのrestitutio論に拡大し、これを中心とした私法の一般理論が模索されていたことが解ってきた。最終年度においては、restitutio論を中心とした一般理論の構築の試みから、グロチウス、プーフェンドルフの契約理論を中心とした一般理論への転換の理由を解明することが課題となる。
著者
大谷 竜
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
雑誌
Synthesiology (ISSN:18826229)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.66-76, 2010 (Released:2010-04-28)
参考文献数
14

“社会のための科学”が叫ばれて久しいが、そのような研究開発をどのように評価すればよいのであろうか。本稿では、研究開発評価のそもそもの考え方に立ち戻って概念整理することで、“社会のための科学”研究に有効な評価とは何かについて分かりやすく解説することを試みた。そのポイントは、評価はそれ単独では意味をなさず、研究開発を通じて実現させたいことへの道筋(戦略)と一体となって初めて機能すること、そして評価の役割は、戦略をより良く実行していくために実態をつまびらかにすること、などである。
著者
西田 治文 朝川 毅守 瀬戸口 浩彰 村上 哲明 青木 誠志郎 ARMAND Rakot 湯浅 浩史
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1998

平成11年度は、下記地域に分担して最終調査を行い、10年度調査の資料と合わせて順次成果を刊行する予定である。調査に付随した話題の一部は、普及書にゴンドワナ大陸をめぐる植物分布の記事として西田、浅川が紹介したマダガスカル村上が、特にチャセンシダ科、ゼンマイ科の標本を採集した。すでに10年度に西田らとともに収集した資料の遺伝子的解析に着手しており、広分布種とされているレガリスゼンマイに多くの種内変異があることなどがわかり始めている。ボリビア・アルゼンチンボリビアで西田は、シダ類のフサシダ科、チャセンシダ科、シシガシラ科の、青木はタバコ属のそれぞれ遺伝子解析用資料および乾燥標本、、液浸標本を採集した。アルゼンチンではタバコ属を南部パタゴニア地域で広範に採集した。タバコ属内の遺伝子移動に関する論文を投稿準備中である。シシガシラ科の資料は、これまで形態のみで推定されてきた系統関係を検証するために解析が進んでいる。ニューカレドニア浅川が、第三期珪化木化石収集を行い、多数の資料を得た。10年度にマダガスカルで採集したペルム紀および白亜紀材化石とあわせて、比較解剖を進めている。ヤシ科、ヤマモガシ科などの材がみつかっている。ボルネオ瀬戸口が、キナバル山周辺で採集を行い、ビカクシダ属、ヤシ科、ゴマ科など系統解析用の資料を収集した。すでにビカクシダ属については10年度採集のマダガスカルの標本を含め、多の熱帯地域の資料解析が進んでおり、発表の準備をしている。全体として、シダ植物から被子植物まで、いくつかの分類群について、南半球での異なる分布形態とその成立過程が説明できる新たな結果が得られつつある。
著者
青木 繁 BUI Huy Duon YANG Wie KNAUSS Wolfg 北川 浩 岸本 喜久雄 YANG Wei HUY Duong BU WEI YANG WOLFGANG KNA MAIGRE H. RAVICHANDRAN ジー ROSAKIS Ares NAKAMURA Tos 天谷 賢治
出版者
東京工業大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

本研究は,日米中仏の4ヶ国の研究者の共同研究により実施するのもので,材料の破壊プロセスにおける微視的な内部構造変化について総合的に検討するとともに,それらを踏まえたメゾスコピック材料モデルを構築することを目的とする.すなわち,本研究では,原子レベルならびにナノレベルにおける微視的アプローチ,不均質材料,材料界面,高分子材料,複合材料の損傷・破壊モデルの検討,および,衝撃荷重や環境など外因の影響を踏まえた材料モデルの考察など,種々の立場から,材料モデルの構築を進めるとともに,相互に協力,啓発を行い,それらを統合化した材料の寸法尺度,時間尺度に対する階層構造を的確に捉えたメゾスコピック材料モデルの構築を目指している.本研究において設定した調査テーマは下記の通りである.(1)分子動力学法を基礎とする材料モデルの構築,(2)材料の損傷・破壊現象のミクロとマクロメカニクス,(3)界面強度特性とミクロ・マクロ材料モデル,(4)不均質材料の特性発現機構と損傷機構のミクロ・マクロモデル,(5)複合材料の損傷過程とミクロ・マクロモデル,(6)ミクロ構造を考慮した高分子材料モデルの形成とマクロ特性,(7)破壊のプロセスゾーンの損傷モデル,(8)衝撃荷重下における材料の破壊モデル,(9)材料の環境強度に及ぼす電気化学因子のモデル化また,東京工業大学,カルフォルニア工科大学,エコールポリテクニークにおいて共同研究を実施するとともに,中国,カナダ,アイルランド,ポルトガルにおいて調査研究を実施した.それらの結果,材料の内部微細構造の変化のダイナミクスを多面的に捉えるための分子動力学法,境界要素法,有限要素法などの種々の方法に基づくモデリング手法についての知見が得られた.
著者
稲垣 良典
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

さきに提出した研究実施計画にもとづいて次の通り研究課題に関して研究を行った。(1)哲学史における最も精密な形而上学的・神の存在論証であるといわれる『第一原理について』を大学院の演習において取りあげ、スコトゥスが認識の確実性、概念の明晰さ、言語の一義的な明確さに留意しつつ、形而上学的議論を進めていることを確認した。(2)同じく大学院の演習においてトマスの『有と本質について』を取り上げ、トマスにおいては事態そのものの知解をめざすことに重点がおかれ、確実性、明晰さ、一義性への留意はむしろ背後に退く傾向があることを確認した。このことはスコトゥスにおいて形而上学の学(scientia)的性格が確立されたことと関係がある。そしてスアレスを経て、近代のウォルフへと受けつがれる学としての形而上学の伝統はスコトゥスにおいて確立されたものであることが確認された。(3)最近刊行が開始されたヘンリクス・デ・ガンダヴォの批判版を入手して、スコトゥスが専らそれとの対決において自らの形而上学を構築したヘンリクスの基本思想の理解につとめた。またMediaeral Studies(1987ー88)に収載された14世紀の存在概念の一義性に関するテクストにもとづいて、スコトゥスが存在の一義性の立場を形成するに至る経緯をあきらかにしょうと試みた。しかし、この点に関する研究はまだ発表の段階に達してはいない。これらの研究を通じて、認識理論においてはオッカムにおいて決定的な転回がなされるのにたいして、形而上学においては決定的な転回はスコトゥスにおいて行われているとの見通しが確認されたと思う。
著者
平田 憲 福島 美紀子 木村 章 松本 光希
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

ロドプシンやIRBP、アレスチンといった網膜特異的蛋白の遺伝子のプロモーター部位にはPCE-1領域(CAATTAA/G)とOTX領域(TGATTAA)というシスエレメントが存在しており、OTX領域にはCRXとよばれるホメオボックス型転写因子が結合することが知られていた。我々の一連の研究は、PCE-1領域に結合する転写因子を同定し、網膜特異的遺伝子の発現にそれらがいかに関わりあっているかを検討することにあった。我々はまずPCE-1領域をプローブにしてサウスウェスタン法にて、RXと呼ばれるホメオボックス遺伝子を同定した。次に抗RX抗体を用いて、ウェスタンブロット法と免疫染色法を行い、RXが網膜特異的に存在し、網膜視細胞層以外にも内顆粒層や神経節細胞層など網膜全体に存在することを示した。さらにEMSA法にてRXがPCE-1領域に結合するのを確認した。また変異をつけたプローブによるEMSA法にて、RXとCRXという似通った転写因子が結合領域のコア(ATTAA)の前の2塩基対(CAかTG)によって結合特異性が違ってくることを明らかにした。次いで我々はCATアッセイにてRX, CRXによる綱膜特異的遺伝子のプロモーターの転写調節活性を調べた。RXもCRXもアレスチンやIRBPプロモーター活性を量依存的に増加させた。それに対しアレスチンプロモーターのPCE-1領域のみに変異をつけるとRXによる活性のみが低下した。さらにRX, CRXの領域特異的なプロモーター活性をみるため、PCE-1とOTXをつないだCAT遺伝子を作成し、RX, CRXを導入して実験を行ったところ、PCE-1ではRXのみが、OTXではCRXのみが活性を増加させた。これらのことから、網膜特異的遺伝子の発現にはPCE-1とOTX領域が必要であり、それぞれRX、CRXという転写因子が領域特異的に結合し、活性化していることが明らかにされた。
著者
藤田 悠
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

1.存在を主題とする西洋形而上学の歴史に絶えずついてまわる「無」の問題を検討する上で、まずカントの「無」の概念に関する叙述を解明する予定だったが、さらにそれに先立ってベルクソンの哲学を参照する必要性が出てきた。というのも彼は、西洋形而上学の根本的な誤りを「無」の概念のうちに読み取り、それを繰り返し批判しているからだ。しかも興味深いのは、ジル・ドゥルーズが慧眼をもって洞察しているように、この概念が一種の仮像性を帯びており、その限りにおいて人間知性にとって不可避だということをベルクソンが認めていたということ、そしてカントと同様の手法を用いてこれに対処しているということである。ベルクソンが「かくてわれわれは絶対無の観念を獲得するが、こうした無の観念を分析するならば、それが実際には全体の観念である…ということを知る」と語っていることからも、彼がカントと同一の問題圏のうちに立ちながら、これを批判していたのではないかという見通しを得ることができた。2.次いで、ジョルダーノ・ブルーノの思想を検討した。彼の無限宇宙論の主張の背後には絶えず、空虚ないし無に対する拒絶があるからである。ここでもまたベルクソンの場合と同じように、カント的な問題意識が根底に存することが認められた。「ありうるもののすべてであるものは、自らの存在のうちにあらゆる存在を含む唯一のものです。他のものはみなそうでなく、可能態は現実態に等しくありません。なぜなら、現実態は絶対的なものではなく、制約されたものだからです」と彼が語るとき、念頭に置かれているのはスコラ的な空虚の概念である。3.またスアレスの原因論においては、「自然物の生成」という非本来的な原因性が論じられる際、「欠如」の概念が、形相と質料と並列されたかたちで、「生成の出発点」としての意味を持たされていることを確認した。
著者
山本 芳久
出版者
上智大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は、一言で言うと、近世のスコラ学という世界的に未開拓の分野における「人間の尊厳」という概念の構造を詳細に探求することによって、従来の思想史の空白部分を埋めるとともに、人間の尊厳という問題に関する哲学的な議論の土俵を広げていくような新たな視点を提示していくことである。「人間の尊厳」や「人格」といった概念に関する中世と近代の連続性・非連続性の具体的な詳細を明らかにするための最大の手がかりは、中世末期から近世初頭にかけてのスコラ学における人間論の探求にある。だが、本邦においては、近世のスコラ学に関しては、社会思想史に関する若干の研究を除けば、哲学的に見るべきところのある研究は未だ殆ど為されていない。また、世界的なレベルで見ても、この分野は未開拓の分野であり、そこには哲学的探求のための非常に豊かな鉱脈が埋もれていると言える。それゆえ、本研究は、そのような鉱脈の中においても、とりわけ、近世スコラ学における「人格(persona)」概念と法哲学(自然法と万民法)に着目し、人間の尊厳の存在論的な基礎づけに関する哲学的探求を、近世スコラ学のテキストとの対話の中で遂行することを目的としている。本年は、とりわけ、トマス・アクィナス(1225-1274)とスアレス(1548-1617)における自然法と万民法概念の構造を哲学的に分析しつつ、更に、現代の社会哲学のなかでスコラ的な法理論の持ちうる積極的な役割を明らかにした。
著者
松森 奈津子
出版者
静岡県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、16世紀スペインの後期サラマンカ学派(c. 1576-1600,メディナからバニェス)の思想を考察し、初期近代政治思想史におけるその地位と意義を検討するものである。中世スコラ学の刷新を試みた同学派の権力・国家論は、後に主流となる主権論とは別の観点から脱中世型権力理解を提示した点で注目されることを明らかにし、その成果を、著書や口頭報告の他、講義やメディア報道により、多様な読者、聴衆に向けて公にした。
著者
千田 嘉博
出版者
奈良大学文学部文化財学科
雑誌
文化財学報 (ISSN:09191518)
巻号頁・発行日
vol.27集, pp.47-54, 2009-03

本稿は新しい戦国期城郭研究を構築するための戦略と、それを実行するためのいくつかの分析視角の整理を試みた。この結果、城郭研究は考古学的研究方法をさらに取り入れ、これまでの成果を戦略的に分析・分類する必要があることを示した。それは以下のようなプロセスをとる。① 地域に存在した多様な城郭群を把握する。② そのなかの拠点城郭(戦国期にあっては戦国期拠点城郭)を抽出し、中心地形成分析などとともに特色を理解する。③ そうして把握した地域ごとの城郭群のまとまりの特色を類型化して分類する。④ 城郭群のまとまりは時期ごとに変化するので、地域の城郭群のネットワークを静的にではなく動的な変遷過程として把握する。⑤ その城郭ネットワークの変遷過程そのものも類型的に整理してつかむ。⑥ 戦国期社会とその変遷を、地域の城郭ネットワークのあり方と、地域の城郭ネットワークがどのように変化したかの変遷そのものの類型的把握から理解する。戦国期社会を分析する資料として戦国期城郭跡を活用していくためには、上記した城郭跡そのものの分析を深化させる必要があるが、さらにそうした評価を文献史学からの分析成果をも勘案しつつ総合的に評価していくことが求められる。城郭研究は遺構・遺物にもとついた物質資料研究であるから、第1段階のモノ資料研究としての分析を究めた上で、次の段階において文献史学をはじめとする関連諸学の成果との比較検証を行い、より高次な評価に進むという研究プロセスとなる。この第2段階の比較検証段階は関連分野の研究者間の相互分析が可能である。だから考古学研究者や城郭研究者が文献史学の研究を勘案することも、またその逆もできる。本稿では第1段階の城郭構造研究を深める視点のひとつとして戦いと城郭・防御施設を取り上げた。この結果、中世の城郭研究だけでなく考古学からの戦争研究は、これまで信じられてきたほどリアルな状況をつかんだ上で議論していたのではなく、論点や評価の基礎そのものに物質資料研究としての特質を踏まえた再検討が不可欠であることを指摘した。つぎに筆者が、城郭構造研究から提唱した戦国期拠点城郭(千田1994、のち千田2000a)が、文献史学から提唱されている「戦国領主」と具体的にどのように関わるかを検討した。この結果、戦国期拠点城郭は、大名の拠点としてだけではなく、戦国領主の拠点としても共有されており、戦国領主の城郭は大名による戦国期拠点城郭のミニチュア的存在であったと評価できた。大名領の内部には細胞の核のように戦国領主による戦国期拠点城郭が分立し、判物を発給して一定の排他性を備えた領の中心として機能したのである。隣接した領をもった戦国領主が必ずしも友好的関係とは限らず、係争地であった境目には軍事機能を卓越させた城郭が出現した。このように物質資料研究の成果を文献史学の研究成果と勘案することで、地域における多様な城郭の分布の歴史的意味を読み解けるのである。
著者
堀口 敏宏 太田 康彦 井口 泰泉 森下 文浩
出版者
独立行政法人国立環境研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

イボニシ(Thais clavigera)を中心に、RXRに関する生物学的特徴と、ペニス及び輸精管の分化・成長・形態形成との関係を解析した。イボニシRXRには2つのアイソフォームが存在し、両者で転写活性能が異なること、並びに9-cisレチノイン酸(9cRA)、トリブチルスズ(TBT)及びトリフェニルスズ(TPT)により転写活性の誘導がみられることなどを明らかにした。イボニシとバイ(Babylonia japonica)における生殖腺の分化及び生殖輸管の発達を組織学的に調べ、明らかにした。イボニシの神経ペプチドに関する基礎知見を得た。イボニシとバイにおける脊椎動物様ステロイドの検出を試みるとともに、ステロイド受容体が見出されないこと、アロマターゼ阻害剤とテストステロンでインポセックスの発症・増進が見られないことを明らかにした。
著者
中村 誠司 吉田 裕樹 山田 亮
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

癌ペプチドを用いたオーダーメイド免疫療法と早期診断法の開発のためには、癌に対する免疫監視機構やその調節機構を十分に理解しなければならない。本研究では、口腔癌の癌ペプチドの中ではSART-1が最も抗原性が強く、免疫監視機構における中心的役割を果しており、それゆえに口腔癌の治療ならびに診断に応用可能な癌ペプチドであることが判った。しかしその一方で、口腔癌が腫瘍関連抗原であるRCAS1を発現・分泌し、活性化T細胞のアポトーシスを誘導して免疫監視機構を制御していることが判った。免疫監視機構を賦活するためには癌ペプチドを用いるだけでは不十分であり、このRCAS1の作用を制御する必要性が明らかとなった。