著者
岡本 素治
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

ブナ科の殻斗の形態学的起源について, 2つの説が対立している. 即ち, それぞれの花の下の小花柄の盛り上りに起源するという説と, 二出集散花序の一つ高次の枝に起源するという説である. 前者は, 現生のすべての属の完成した形態の比較研究に基づき主張されている. 一方, これまでの形態発生の研究者はすべて後者の説を支持している. たしかに, 観察された種では, 殻斗片の分裂組織の位置や形態は, 高次の花の原基と区別が困難である. しかし, この立場から, ブナ科の殻斗のすべての形態を説明するのは困難である. 例えば, 二出集散花序のそれぞれの花が, それぞれの殻斗に包まれるマテバシイ属で, 二次の花の殻斗は三次の枝から導かれるとしても, 中心(一次)の花を包む殻斗はいかにして生じえたのだろうか.2つの説のどちらが支持されるべきかを判定するために, マテバシイ属とクリ属の殻斗の発生過程を比較した. その結果, マテバシイ属の中心の花の周辺(特に向軸部)に, 殻斗の発生に先行して, 特徴的な細胞分裂が起ることが明らかになった. そこでは, 接線方向に細長い表皮細胞が規則正しく密に配列し, 放射方向に急速にその数が増大する. これは, この部分で, 著しい介存生長が起っていることを示している. (このような現象はこれまで観察されていなかったし, 今回のクリでも見られなかった. )一方, マテバシイの二次の花の側方には, 三次の枝の原基があらわれ, その部分の殻斗形成に中心的役割をはたす. つまり, これまでの2説はいずれも不完全で, どちらの要素も殻斗形成に関与しているということが明らかになった.以上の成果をふまえ, ブナ科における殻斗の進化過程をより詳細に描きあげることが今後の課題となる.
著者
前川 玲子 若島 正 加藤 幹郎
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、両大戦間の時期を中心に、ファシズムを逃れてアメリカに亡命した知識人たちが、アメリカの文化や社会との出会いの中でどのような思想変容を遂げ、同時にアメリカ社会にどのような変化をもたらしたかという相互変容の歴史を辿るものである。我々は、「亡命」という概念を、政治的・民族的な迫害による望まざる移動という客観的現実と、トランス・ナショナルな可能性を追求しようとする新たな主体の形成という二重の視点から捉えようとした。具体的には、ロシア、ドイツ、東欧を逃れてアメリカに移住し、「異郷」を永住の地にした多彩な知識人の生き様、彼らの残した作品、アメリカ文化・社会への影響などに焦点をあてた。地理的移動、文化的な異種混交、祖国からの心理的断絶と望郷、および「家郷なきもの」の疎外感などに注目しながら、個々の人物や集団の思想的変容や新たな表現形態の獲得などを探っていった。学際的な亡命知識人研究を目指そうとした我々は、三つのアプローチを用いた。第一は、ナチズムから逃れてきた学者に研究の機会を提供した高等教育機関や財団などの資料をもとに、ヨーロッパとアメリカを結ぶ知のネットワーク作りに果たした亡命学者の役割を検証するものである。第二のアプローチでは、亡命知識人の中でアメリカ文学に大きな影響を与えたウラジーミル・ナボコフの小説を取り上げ、そのテキスト分析を中心に据えた。第三のアプローチでは、亡命者がアメリカの大衆文化、とくに映画産業に与えた影響を辿った。本報告書において我々は、ナチズムと対峙するなかで新たな学問的パラダイムを形成していった社会科学者たち、ナボコフを中心とした亡命文学者、さらには映画の観客としてまた製作者としてアメリカ映画史に一時代を築いた移民や亡命者などの実像に迫ることで、知識人の「亡命」という現象がもたらしたアメリカの文化的、社会的変容の複雑な諸相を示そうとした。
著者
若月 剛史
出版者
学習院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

今年度は、大正期から昭和初期にかけての技術官僚の政治的動向について重点的に研究を進めた。その一環として、東京大学工学部や国立国会図書館などで史料調査を行ったほか、2010年8月から2011年3月にかけて、米国のUC・バークレー校日本学研究所に滞在し、戦前日本の技術官僚の政治運動に多大な影響を与えたアメリカの技術者諸団体(ASCEやAICEなど)に関する史料を収集した。その成果の一部として、同研究所のセミナーで"The activities of technocrats under Political Party Rule in Japan"(「政党内閣期(1924年~1932年)における技術官僚」)と題する報告を行った。また、前受入研究者であった村松岐夫氏(京都大学法学部名誉教授、行政学)が残された文書を整理し、目録を作成して公表した。同文書には、戦後の各種審議会や研究会についての貴重な史料が含まれており、本研究を進めるうえでも大きく資するものであった(同文書は今後、しかるべき史料収蔵機閥において公開される予定である)。他に、戦前日本の政党内閣制や官僚制を考えるうえで重要な史料である「牧野伸顕日記」、「入江相政日記」、「浜口雄幸日記」についての小論を執筆した。現在、これらの研究成果を踏まえたうえで、本研究の完成を目指して研究を進めているところである。
著者
鳥越 兼治 竹下 俊治 大塚 攻
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

エコミュージアム構想の中で,コア施設を竹原市の広島大学水産実験所と江田島市の環境館を選び,それぞれの場所における里海として隣接する場所を選択して活動を実践した。・水産実験所をコア施設とした活動は水産実験所の前の海でウミホタルが採集可能であることから,ウミホタルの採集・観察・発光実験と一連の活動が5月から11月までの期間が可能である。・水産実験所は近くに里海として活用する場所が多様であり,そこへの移動手段の船があることで,自然景観や生態系などを中心としてさまざまな利用形態が可能である。・水産実験所での活動は教育施設として学校関係には広くオープンであるのでコア施設として有効であり広く小・中・高の各学校の生徒に体験学習の場として場所と情報を提供可能であるが,研究主体であるので地域の紹介所としての機能は持たせにくい。・環境館をコア施設とした里海の活動は環境館自体が地域の生涯学習サポート施設であるから,多様な活動を支援できる体制があり,エコミュージアムといっても良いので多様なものが提供できる。・環境館は地域住民が積極的に参加し利用しているので,里海の保存・活用の活動が可能である。しかし,まだ地域全体が博物館という考え方は浸透していないので,地域活性の一つとして先ず地域住民に理解を求める必要がある。・環境館を中心にした周辺フィールドを整理しディスカバリー・トレイルを構築しておくことで,情報を発信することにより地域住民だけでなく他の地域(特に都市)の住民にも体験を提供できる。・里海の活動は産業とも関連している。活動の一部はボランティアだけでは解決できないこともあるので,活動を計画するならば何らかの組織を構築する必要である。
著者
大島 康行 角皆 静男 小川 利紘 内嶋 善兵衛 樋口 敬二 吉野 正敏
出版者
早稲田大学
雑誌
総合研究(B)
巻号頁・発行日
1990

国際学術連合は地球圏ー生物圏国際協同研究計画(IGBP)ー地球変化の研究ーを1990年から10年計画で実施することを決め,1990年9月パリで開かれた第二回IGBP科学諮問委員会で(1)The international Global Atomospheric Chemistry Project(IGAC),(2)Joint Global Ocean Flux Study(JGOFS),(3)Biospheric Aspects of the Hydrogical Cycle(BAHC),(4)Global Change and Terestsial Ecosystern(GCTE),(5)Past Global Change(PAGES)の5つの課題を実施することを決めた。わが国でもこれらの課題を考慮しつつ日本の研究課題を検討し,最終的に(1)大気微量成分の変動および生物圏との交換(2)海岸における物質循環と生物生産(3)陸上生物群集への気候変化の影響(4)大気圏・水圏・陸圏と生物圏の相互作用を考慮した気候解析とモデリング(5)環境変化のモニタリング(6)古環境の変遷,(7)地球環境と人間活動の相互作用の7研究領域で研究を進めることとし,研究内容とその組織について検討し,最終案を作成後,具体的に研究を進めることとなった。また,IGBPから送付された資料を印刷し,関係各方面に配布し,国際的な計画を衆知することに務めた。とくに本年度はReport9〜15までと資料が多く,そのため印刷費の支出が増大した。班員は国際的な課題ごとに積極的に交流をはかり,国際対応を今後積極的に行うための基礎づくりに努力した。また国際課題ごとに国内の対応小委員会を設ける努力も行なった。
著者
足立 明久
出版者
桃山学院大学
雑誌
桃山学院大学社会学論集 (ISSN:02876647)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.175-194, 1975-03-01

本研究の目的は組織風土の変革について心理学的見地より実験的な調査を行ない,組織開発の実践に具体的かつ実証的な論拠を得ようとすることである。それに伴う問題は二つある。第一は組織風土の把握に関する問題であり,他はリアルな組織開発の実践面をいかなる形で実験的に計画するかという問題である。前者は心理学の認知論的アプローチの立場から組織風土を操作的に把握することにし,後者は今日,組織開発の実践特に組織風土の変革において最も有効な方法だと考えられている職場ぐるみ訓練(ファミリートレーニング)が実施された。具体的な方法としては,内容とすすめ方を一定に統制した職場ぐるみ訓練を大阪にある金融機関N社のA支店とB支店に実施し,各支店の組織風土が訓練の直前と終了直後に本研究用に作成された調査用紙で測定された。結果と考察は次のように要約される。組織風土の変革の状態を把握するためには,どのような風土が新しく形成されたのかという形成面と,どのように良くなったのかという改善面の両方の次元から統合的に見ていかねばならない。その形成面は訓練の実施前と実施後の分散の変化でその状態が把握でき,改善面は同様に平均値の変化で把握できるであろう。そういう観点から職場ぐるみ訓練の一般的な効果を抽出するために,A,B両支店に共通して有意な変化を示したものをそれぞれあげれば下記の通りである。形成面では「危険負担」の指標が強く形成され,改善面では「葛藤の処理」「目標水準」「グループへの一体感」の指標が著しく改善されるといえる。そして,A,B両支店に共通して形成面も改善面もともに有意に変化しているものは「方法を考えるとき新しいアイデアを出しあおうとする」という測定項目であった。この項目は危険負担の指標に入るものであるが,一般的にいって職場ぐるみ訓練を実施すれば,この項目を頂点としかつ以上にあげた各指標がそれに関連するというひとつの体系的な組織風土の姿が職場には新しくできるがると考えられるのである。これが本研究の目的とするもの,即ち組織開発の実践における具体的かつ実証的な論拠となるものである。
著者
内嶋 善兵衛 大島 康行 浦部 達夫 吉川 友章 丸山 隆司 清野 豁 OHKITA Takeshi 大北 威
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1989

人為的な環境変化,とくに温室効果ガスによる気候温暖化と放射能汚染とに焦点をしぼって,気候変化と自然植生・作物生産および原爆・原子炉事故による放射能汚染の広がりを3年間わたって研究した。その結果は次のように要約できる。1.水田水温環境への気候温暖化の影響は顕著で,現在より2〜4℃高まり、安全移植期は2週間早まることが分かった。水温上昇により水面蒸発は気温上昇あたり3〜6%増加し,温暖化気候下(2100年頃)では10%以上蒸発が増大する可能性がある。2.作物収量へのCO_2直接効果と気候温暖化の影響を評価するため,作物モデルと気候シナリオを利用した。イネは現行農法下では減収となるが、早生品種導入を試みると増収が予想され,増収率は北日本で大きくなった。トウモロコシ・コムギは降水変動の影響が大で,灌がいを施すと増収する。3.植生分布へのCO_2気候温暖化のインパクトを評価し,低温地帯の植物種に好適な気候域の急減することが分かった。暖地系植物にとっての好適気候域は4〜6km/年の速度で北上すると予想された。この移動速度は花粉分析からの植物移動速度の5〜10倍で,温暖化による植生分布の混乱が予想される。4.原子爆弾・原子炉事故による放射能汚染域の推定に拡散研究用数値シミュレ-ションモデルを用いた。広島・長崎原爆による汚染評価に,熱対流雲モデルを用いて,1kmメッシュ上での微粒子落下,ショック麈,火災煙からの被曝量を個別に評価した。最大の被曝総量は12時間後に,13R/hrとなった。チェルヴィリ原子炉事故による放射能広域拡散の研究に,広域拡散モデルを用いて,その有効性を確認した。
著者
大島 康行 角皆 静男 小川 利紘 内嶋 善兵衛 樋口 敬二 根本 敬久
出版者
早稲田大学
雑誌
総合研究(B)
巻号頁・発行日
1989

国際学術連合は1990年から10年計画で“地球圏一生物圏国際協同研究計画"(IGBP)ー地球変化の研究ーを実施することを1986年のベルンの総会で決定した。この研究は生命をはぐくんでいるかけがえのない環境、全地球システムで起っている変化、さらに人間活動による影響の在り方を、全地球システムを調節している物理的、化学的、生物的過程の相互作用の面から記述し、理解することを目的としている。1986年以来IGBP特別委員会で精力的に研究計画が検討され、4つの研究領域とこの領域の研究を進めるための共通プログラムを設定した。さらにこれらを基礎に13のコアプロジェクト案が提出されている。本研究班は国際的に対応しつつ、日本における実施計画案を関係諸学会の意見を聞きつつ、また日本学術議のIGBP分科会(人間と環境特別委員会)と緊密な連絡をとりつつ日本における実施計画案の精細についてまとめ、また研究組織について検討した。検討の過程で(1)地球変化は地球の物理・化学・生物の諸過程の複雑な相互作用によっており、従来には例をみない多数の分野の研究者がそれぞれの課題ごとに密接な協力が必要であること。(2)国際研究計画に積極的な役割を果すため国際的、地域的協力のもとに独創的な研究を進めること。(3)日本の地理的条件と研究者層、研究の現況を考慮して研究対象地域を設定すること。を確認し、広義のモンス-ンアジア地域、西太平洋地域、極域を主たる研究地域に設定した。また次の6つの研究の柱をたて各課題を研究することとした。その柱は(1)大気微量成分の変質および生物圏との変遷、(2)海洋における物質循環と生物生産、(3)陸上生物群集への気候変化の影響、(4)気圏・水圏・陸圏と生物圏間の相互作用を考慮した気候解析とモデリング、5)環境変化のモニタリング、(6)古環境の変遷、である。
著者
大島 康行 内嶋 善兵衛 吉野 正敏 浦部 達夫 小野 勇一
出版者
早稲田大学
雑誌
総合研究(B)
巻号頁・発行日
1994

今年度の研究成果は以下の通りである。1.SCOPE第8期は(1)持続可能な開発(2)生物地球化学的サイクル(3)地球規模の変化と生態系(4)健康と生物毒物学の4つのクラスターの下に19プロジェクトを進めている。これにどのようにアジアおよび日本が寄与していくかを検討するため現状を精査し、協力の在り方を検討した。2.これらの現状調査と協力体制の検討結果をふまえ、アジア地域で重要と思われるプロジェクトを想定し、SCOPE本部と連絡をとりつつ協力体制を確立した。3.日本とアジア地域で特有の研究課題候補を策定した。さらにアジア諸国と密接な連絡を取りつつ、検討を重ね1995年5月末、日本で開催される第9回総会に初日はアジアSCOPE分科会を開き、第9期にアジア地域から提案する新しいプロジェクトを検討し決定することが決まった。4.1995年5月29日〜6月3日に日本で開かれる第9回総会はアジア地域では初めてである。第9期以降アジア地域が組織的にSCOPEの活動に積極的に活動し、協力していくためには環境問題への日本の取り組みの現状を加盟各国と国際学術団体に衆知して貰うことが必要と考え、SCOPE理事会との合意を得て日本の環境科学研究の現状というテーマで半日のシンポジウムを決め、具体的な内容と演者を決定した。さらにアジア地域の組織的な今後の活動を進めるため、第9期のメインシンポジウムのテーマに「アジアにおける稲作」を取りあげ、アジア各国と協議しつつ、4つのサブテーマと演者を決定した。5.以上の作業を通じ、日本のSCOPEへの国際対応とその組織化を具体的に検討した。以上の成果を得るための全体会議4回、プログラム委員会3回、事務局会議を11回開催し、合わせてSCOPE本部と月2回連絡し、研究を遂行した。
著者
大島 康行 広瀬 忠樹 内嶋 善兵衛 小川 利紘 角皆 静男 吉野 正敏
出版者
早稲田大学
雑誌
総合研究(B)
巻号頁・発行日
1991

国際学術連合(ICSU)で計画された地球圏ー生物圏国際協同研究(IGBP)は検討を重ね1990年秋5つの課題について研究がまず始められた。日本も積極的にこの研究計画に参加協力するため,昨年学術会議,改租されたIGBP国内委員会と密接に連絡をとりつつ、本研究課題の研究を進めた。1.関連国内外の関係諸機関と連繋し,関係資料の収集整理を行なった。資料は大島,吉野で保管している。2.すでに実施している5つの課題については,各課題ごとに小委員会をつくり,日本の実施計画の検討と各国際SSCの連絡にあたっており,一部は研究が開始された。(旅費は主として各小委員会の開催に使用)3.日本の実施計画案の英文レポ-ト(JAPANーIGBP REPORT No1)をつくり,国際機関,国内機関,各国関係者に配布した。4.国内に広く情報を衆知させるため,IGBPニュ-スNo1,No2を作成し,関係各所に配布した。5.日本学術会議主催のIGBPシンポジウムの報告を英文で作成,近く出版の予定である。6.本研究班が中心になり,アジアーモンス-ン地域を中心としたIGBP国際シンボジウムを早稲田大学国際会議場で1992年3月27日〜29日開催する。全体会議は組織委員会を兼ねて行はれた。プロン-デングは本年秋出版の予定である。
著者
高木 幹雄 本多 嘉明 柴崎 亮介 内嶋 善兵衛 谷 宏 梶原 康司
出版者
東京理科大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

1)多数のパソコンをネットワークを介して並列に結合することで,多量のGACデータを効率的に自動処理するシステムを開発し,GACデータの処理を開始した。一年分のデータを約1ヵ月で処理することが可能となった。2)東南アジアを対象にして,ランドサット画像を自動モザイクし,さらにランドサット画像にNOAA画像を組み合わせることで,土地被覆分類をより効率的に,かつ正確に行う手法を開発した。時系列ランドサット画像から土地被覆変化を抽出する作業を行っている。3)土地被覆分類結果や,植生分類結果の現地検証用データとして撮影された地上写真を,ネットワークを介して分散データベースとして構築する為のソフトウェアを開発し,データベース化を行った。これにより,それぞれの撮影者が別個に作成したデータベースを統合的に共有することが出来る様になり,地上写真データを容易に蓄積することが可能となった。4)衛星データから時系列に得られた植生指標を,さらに気温や降水量のデータと組み合わせることにより,植生の季節変化と環境条件(気温,降水量)の空間的,時間的相関関係を明らかにすることが出来た。ユーラシア大陸では,特に寒冷地となる東シベリア地域では,森林が緑となるのが最も遅いものの,落葉するのも最も遅いこと等興味深い発見があった。5)土地の農業生産性推定を基礎とする土地利用変化の推定モデルに関して,そのフレームワークが確立され,タイ国を対象として検証を行った。また,生産性の推定の基礎としてアジア地域で最も重要な穀物である水稲に関する生産性推定モデルを開発した。6)衛星画像から推定される植生指標の信頼性を改善する為に,大気補正手法,地形補正手法などを開発し,実装を行い,NOAAデータから定期的に植生データを作成し,コンポジット画像を作成している。
著者
村井 康彦 小野 芳彦 コーニッキー ピーター 白幡 洋三郎 園田 英弘 パンツァー ペーター スミス ヘンリー 飯田 経夫 山折 哲雄 KORNICKI Peter SMITH Henry PANTZER Peter ピーター コーニッキー ペーター パンツァー ヘンリー スミス
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1992

本年度の調査は、17世紀まで世界の先進文化をリ-ドしていたラテンヨーロッパ、特にスペイン・ポルトガルとそれらによって植民地化されていたラテンアメリカにおける日本文化の現状を調査する事を中心軸に据えた。また先進国の中でも、調査をやりのこしていたアメリカ合衆国を加えた。スペイン・ポルトガルの両国は、現在ヨーロッパ先進国に対する農業生産物の供給国として、むしろ開発途上国的な色彩を持っている。そこで、日本の工業製品はこの両国との競合関係にはなく、日本製品の出超の事態にある。家電製品、自動車等は、いうまでもなくスペインやポルトガルの製品が日本には皆無であり、日本製品のみが両国に進出している。しかしながら、ヨーロッパ先進諸国、ドイツ・イギリス・フランスの製品と比較すれば、日本製品の進出は少ない。現地調査の結果、日本の生活文化として特に注目に値するのは、テレビゲーム、盆栽、テレビアニメの3つでであることがわかった。テレビゲームは、ポルトガル・スペインのおもちゃ屋の店頭でもっとも目立つ場所に飾られており、他国の製品の出番はほとんどないといってよい。じじつジェトロのマドリード支部での聞き取り調査でも現在の日本・スペイン間の貿易に、テレビゲームが占める割合は他の電気製品・工業製品を大きく圧倒するとの事であった。盆栽は、ヨーロッパ先進諸国でも相当の普及を遂げているが、ラテンヨーロッパでは現地の独自の盆栽文化が育っている事が特徴である。すなわち、ドイツ・フランス・イギリスでは、どちらかといえばまだ日本の伝統的な盆栽文化が尊重されており、愛好家は日本趣味の持ち主や日本通である事が多いのに対して、ラテンヨーロッパでは盆栽協会の会長以下幹部を現地人が占めており、盆栽愛好が庶民層にまで広がっている様子がうかがえた。またブラジルの調査でも、多数の日系人の存在にもかかわらず、盆栽協会の活動にブラジル人が進出しており、盆栽が庶民層に普及している事がはっきりした。先進ヨーロッパ諸国と違って、盆栽がもはやエキゾチシズムの対象でもなく、日本趣味の対象でもなくなっている。すなわち本当に現地に根を下ろした生活文化に育っている事は注目に値する。また、茶道・華道とは違って日本人の枠を離れて現地化しつつある点に盆栽文化の特徴があるようだ。テレビアニメはラテンヨーロッパでは極めて頻繁に放映されている日本製の番組である。朝の子供番組の時間帯には毎日2、3本の日本製アニメが吹き替えで放映されている。先進ヨーロッパのうちドイツ・イギリスではほとんど放映がみられないのに比較してフランスでは頻繁に放映されている。テレビアニメに関しては先進ヨーロッパ対開発途上的ラテンヨーロッパという対照がみられない。むしろカトリック圏(スペイン・ポルトガル・フランス、そして未調査ではあるが現地情報によればイタリアも含めてよい)では日本製アニメが多数放映されているのに対してプロテスタント圏ではほとんど放映がないと分析するのがよいだろう。その原因は、視聴者の好みから来るよりは、放映する側の思想にあるのではないかと考えられる。すなわちプロテスタント圏では子供向けに、全体として堅い教育番組が多いのに対して、カトリック圏では娯楽番組にも十分な放映時間を割いているという事情が考えられる。アメリカ合衆国の日本生活文化ではやはり食品が注目に値する。ドイツやイギリスでも同じであるが、インスタント食品としてのカップヌードルがこれらの国では相当の進出を見せている。ところがスウェーデンではほとんどこの種のインスタント食品はみられなかった。日本企業の関心の持ち方にも左右されるであろうが、むしろ、現地の食習慣が進出の多少に影響しているものと考えられる。
著者
八木澤 壯一
出版者
一般社団法人日本建築学会
雑誌
日本建築学会論文報告集 (ISSN:03871185)
巻号頁・発行日
no.315, pp.112-121, 1982-05-30
被引用文献数
2

火葬場内での観察調査に基づき, 送葬行為を分析してきたが, 建築計画上, 特に留意すべき点をまとめると次のようになる。(1)霊柩車を先頭に葬列は車で到着する。会葬者の集団は増加の傾向にあり, 集中する時間帯が各火葬場毎に一定している。同時に車を降りるため, 特に雨天などに対する配慮が必要である。(2)告別の形式は, 各火葬場毎に一定の様式をもつ。遺体との最終的な別れの場であることから, 他の会葬者集団に気を使うことがないよう留意すべきである。したがって火葬炉を1列に数多く並べる配置は避けたい。告別と炉前を組合せた個室化も検討すべきである。(3)骨あげのために居残る人数も, 施設の改善に伴って増加の傾向がみられる。待合は集団ごとが心静かに過せる内部及び外部の環境が求められる。(4)骨あげは日本の火葬の特色の一つである。遺骨との再会の場として位置づけるべきである。会葬者が他に気兼ねなく充分に骨あげできる空間を確保すべきである。(5)火葬炉室, 機械室は職員の労働環境を重視し, 清潔で明るく静かであることが求められる。
著者
板垣 博 ちょう 斗燮
出版者
武蔵大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究は、日本多国籍企業の国際的な事業展開とそれを支える統括組織の構造と機能を考察することを目的としている。それには、単なる公式的な組織構造だけではなく、インフォーマルなデータと情報が必要となるため、関連部署及び海外出向経験者とのインタビューを中心とするフィールドスタディを行った。日本の多国籍企業は、従来はグローバルな統合メカニズムというよりは、本社・親工場など日本サイドと海外拠点の1対1の関係の中で経営が行われてきた。しかし、90年代に入って従来の組織構造や情報処理のパターンでは、多国籍企業としての戦略に対応できなくなりつつある。こうした問題意識を背景に、本研究は叙述されている。その内容は以下の通りである。まず第1に、日本の多国籍企業の特色を、「高いオペレーション効率と低収益性のパラドックス」という視点から考察する。この特色は、日本多国籍企業の統括メカニズムの特色、すなわち、日本サイドの権限の強さ、日本人出向社員の比率の高さと権限の強さ、インフォーマルな情報交換の重要性、といった特色と密接な関連がある。第2に、こうした日本の多国籍企業の活動を規定する日本経済の構造変化とそれに対応した直接投資の意義を考察する。第3に、アジア経済危機の中で日本の多国籍企業がどの様な行動をとったかを考察しながら、日本の多国籍企業の特徴ならびに統括メカニズムの具体的な姿を明らかにする。最後に、日本の多国籍企業を代表する松下電器産業の欧州事業展開のケーススタディを通して、グローバル統括メカニズムの実態を検討する。
著者
ショウ ラジブ (2007 2009-2010) ラジブ・クマール ショウ (2008) PARVIN Gulsan Ara GULSAN ARA Parvin
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究では、バングラデシュの首都ダッカ市と南部に位置するハティア島を対象地域とし、災害リスク軽減策の一つであるマイクロクレジットプログラムの適応性について議論を行った。今年度の主な研究成果は下記の通りである。本研究では、マイクロクレジットの適応性を見極める一つとして、、ダッカ市内を対象として、Climate CHange Resilience Iniciative (CDRI)の手法を用いて気候変動に起因した災害に対する適応力を評価した。ダッカ市内は10の地区から構成されており、各地域の災害対応力を評価した。その結果、第2地区は、対応力が高く、第8地区は中間的数値を示した。また、第9地区並びに第10地区は高所得者を対象とした住宅地であることから、経済的側面に於いて、他の地区より高数値を示した。また、ダッカ市内の商業中心地域である第4地区は地域防災力の総スコアが3を示したが、他の地区では1または2のスコア結果を示し、地域防災力はあまり高く無い傾向が明らかになった。マイクロクレジットプログラムへの適応性を議論するため、気候変動に起因した災害への対応力評価の他に、ダッカ市内の財政、貯蓄、予算、および補助金を調査した。その結果、災害への適応力と災害リスク軽減策は必ずしも一致しておらず、担当行政も異なることから、災害や気候変動の脅威に直面した際の対応力に多くの課題点が存在することが明らかになった。これらの研究成果は、2010年9月にオーストラリア・アデライドで行われた国際会議Coast to Coast 2010及び同年10月神戸市で行われたUSMCA2010国際会議において発表を行い、多くの議論を得ることができた。また、研究成果を広く公表する為、論文を国際誌に投稿中である。
著者
村岡 輝三 小井川 広志 ちょ 斗変
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

(1)平成6年-7年の急激な円高など企業を取り巻く経営環境は大きく変転し、かつ厳しさを増している。本研究計画は中部圏中堅企業を対象に、地場企業がこうした経営環境の変転の中にあって、如何なる対応を講じ、また事態に対する認識をもっているか、を重点的にアンケート調査を行い、その回答にもとづき整理・分析し把握したことに最大の成果を挙げたと考える(「冊子」の付録1-3に収録)。(2)アンケート調査は「円高対策」「企業経営」「地域協力」の三分野、25項目、114質問からなっているが、1000社を超える企業が対象に選ばれ、304社の回答をえた。その結果、つぎの四つのタイプを検出した。すなわち(a)「国際環境変化反応型&国際化積極的企業群」、(b)「国際環境変化反応型&国際化消極的企業群」、(c)「国際環境変化鈍感型&国際化積極的企業群」、(d)「国際環境変化鈍感型&国際化消極的企業群」である。よって中部圏中堅企業の「円高」対応(「冊子」の第4章に収録)ならびに環境激変中の企業像(「冊子」の第5章に収録)が明らかにされた。(3)一方、「地域協力」のモーメントに関する企業の対応についても、アンケートの調査からは一定の認識と関心が窺われた。概ねASEAN、APEC、NIESの順位で知られていることと、時期的に1980代に知ったことが相対的多数を占めたいいることなど、かなり興味の深い回答の結果が明らかにされた(「冊子」の第1章に収録)。この方面の調査研究が希少であるゆえに、この方面の吟味と調査の追跡が望まれる。(4)一方、東アジア経済それ自体の全体像の把握と課題提起も、上記の調査との関連で欠かせない。「再編成と転機」(「冊子」の第2章に収録)と「新時代の課題」(「冊子」の第3章に収録)はこの方面の研究成果が示される。貿易依存時代から直接投資時代への段階移行と通貨政策が通商政策と並んで対外経済政策の重要課題である点が把握され、その知見が看取できる。
著者
相澤 洋二 宮口 智成 宮口 智成
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

ハミルトン系カオスの示す新たなエルゴード問題を拓くために、(i)長時間ゆらぎ(非定常カオス)の異常性出現のメカニズムの探求と(ii)非平衡状況下におけるカオス構造の探求に挑戦した。現在までカオスのエルゴード性の研究は、すべて孤立力学系を対象にして発展してきたものであり、注目する力学系の対象を非定常系や開放系にまで拡張してゆこうとする上記二つの挑戦は、従来のハミルトン系のエルゴード性の研究の単純な延長では把えきれない部分が多くあるため、モデル構成や注目する観測量について工夫を凝らし、計算機実験および理論計算を推進した。まづ、ハミルトン系の特徴である長時間相関の現象を整理し、次にそれらが非平衡条件下でどのように効果を及ぼすか、という問題を順次追求した。非定常性に関する研究では、これまでの無限測度系に対する研究手法を一様測度を持つハミルトン系にまで拡張する方法を開発した。これによって一様測度の下でも異常拡散や補足時間の発散などが出現することを理論的に明らかにした。この手法は2次元以上に拡張することはまだできていないが、一般次元のハミルトン系に出現する補足時間のlog-Weibull分布の指数依存性から多くの統計量の異常分布(大偏差特性)を評価する上で非常に意義のある結果と思っている。開放系のエルゴード特性の探求では、熱伝導と運動量輸送に関する多体ハミルトン系(格子振動系、剛体球分子系)を扱い、エントロピー生成に関する分布関数と局所的不安定指数(リヤプノフ指数)の解析を行い、局所的カオスが定常状態の実現とゆらぎ定理の基盤になっていることを確認し、ゆらぎ定理が保証するフーリエ則が非線形性を一般に示すことを高次のモーメントまで考慮することによって理論的に示し、計算機実験によってほぼ確認することにも成功した。また運動量輸送に生じる非散逸的輸送量(虚数部分)に対しても同様の結果を導くとともに、新しいタイプのゆらぎ定理の存在を暗示する計算結果を得たことは、リヤプノフ指数に基礎を置いたこれまでのカオス解析の考え方に変更を迫るものと思っている。以上のほかに、熱伝導・運動量輸送に関するシミュレーションにおいて、通常のフーリエ則が成立するには、いくつかの条件(例えば非線形パラメータが十分に大きいなど)が必要であることも、まだ定性的な段階であるが、いくつか得ており、今後のより精密な研究の基礎となる重要な結果と思っている。