著者
水野 信男
出版者
日本文化人類学会
雑誌
民族學研究 (ISSN:24240508)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.42-61, 2000 (Released:2018-05-29)

ウンム・クルスーム一この歌手の名を知らないエジプト人,ひいてはアラブ人がはたしているだろうか。実際そうおもえるほど,彼女はいまなお,彼らのこころのなかに生きている。中東地域の音文化のフィールドワークをつづけるうち,筆者はしばしば,ウンム・クルスームの名を耳にした。なかには,その歌の旋律を得意気にくちづきむ人もいた。すでに没後 25年になろうというのに,今なおカイロ放送は,ウンム・クルスームの往年の名歌をことあるごとに電波にのせているし,テレビもまた彼女の生前の演奏会の映像をながしつづけている。 エジプトばかりか,アラブ諸国を旅するごとに,ウンム・クルスームの歌が,そこに住む人びとのなかにつねに新鮮に息づいていることを実感する。ウンム・クルスームに関する音源資料はいまだに各地で続々とリリースされ,文献さえもあらたに刊行されている。ウンム・クルスームをして,これほどまでに現代にその存在を印象づける理由は, 一体何なのだろう。中東の旅でのこの素朴な疑問が,はからずも筆者をウンム・ クルスーム研究へと駆り立てた。そしてそのウンム・クルスームの芸術のなかに,中東の人びとが長年にわた ってつちかかってきた音文化が,さまざまのかたちで脈動していることに気づきはじめた。本稿では,ウンム・クルスームがその生涯をとおしてうたったおびただしい歌曲のレパートリーを追いながら,そこに投影するアラブ・イスラームの伝統をあとづけてみたい。
著者
劔 陽子 山本 美江子 大河内 二郎 松田 晋哉
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.49, no.10, pp.1117-1127, 2002 (Released:2015-12-07)
参考文献数
22

目的 アメリカにおける人工妊娠中絶に関する法律とその実際,10代の望まない妊娠対策などを調査することにより,わが国における10代の望まない妊娠対策の方向性を探る。方法 アメリカにおける中絶,家族計画などについて書かれた出版物,政府機関や主要 NGO 等が発行している文献・統計資料,ホームページから情報収集を行った。さらに,関係諸機関を訪問して現地調査を行った。成績 アメリカでは人工妊娠中絶の是非について,今だ中絶権擁護派と中絶反対派の間で議論が交わされており,社会的,政治的にも大きな問題となっている。こういった背景を受けて,中絶前後のカウンセリングや家族計画に関するカウンセリング,性教育などに重きがおかれていた。 10代の望まない妊娠対策の一環として,特に若者だけを集めるクリニックや,ヤングメンズクリニックなどの施設が設けられ,若者が性に関する情報や,安価もしくは無料の避妊具・避妊薬を入手しやすい状況にあった。結論 アメリカにおいては,中絶権擁護派と中絶反対派では人工妊娠中絶に対する考え方が異なっており,10代の望まない妊娠対策に対しても統一された方法はなく,さまざまな方法論がとられている。しかしアメリカにおける10代の妊娠率,人工妊娠中絶率は低下傾向にある。10代の性行動の活発化や人工妊娠中絶率の増加が危惧されるわが国において,今後10代の望まない対策を打ち立てていくとき,こういったアメリカで既に取り組まれている対策に学ぶべき点は多いと思われる。
著者
藤澤 瑞樹 齋藤 豪 奥村 学
出版者
The Japanese Society for Artificial Intelligence
雑誌
人工知能学会論文誌 = Transactions of the Japanese Society for Artificial Intelligence : AI (ISSN:13460714)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.483-492, 2004-11-01
参考文献数
9
被引用文献数
3

Previous commentary systems generate commentaries only from the viewpoint of a commentator. However there are various viewpoints for comments, and such different viewpoints invoke various comments. The amount of information about a situation may differ between the viewpoints, and the understandings of the situation may also differ between them. In this paper, we propose a method to generate commentaries automatically so that users can easily understand situations by taking into account the different understandings of the situations between viewpoints. Our method is composed of two parts. The first is generation of comment candidates about the current situation, unexpected actions, intentions of players by using a game tree. The second is comment selection which chooses comments related to the prior one so that listeners can compare the situations from different viewpoints. Based on our approach, we implemented an experimental system that generates commentaries on mahjong games. We discuss the output of the system.
著者
出水 享
出版者
日経BP
雑誌
日経アーキテクチュア = Nikkei architecture (ISSN:03850870)
巻号頁・発行日
no.1185, pp.70-77, 2021-02-11

軍艦島で崩壊へのカウントダウンが始まった─。2020年3月、世界文化遺産・軍艦島(正式名:端島)にある日本最古の鉄筋コンクリート(RC)造アパート「30号棟」(1916年建設)の一部が突然崩落した。2020年6月には大雨の影響で別の箇所が崩落。
著者
杉浦 滋子
出版者
麗澤大学大学院言語教育研究科
雑誌
言語と文明 = Language & Civilization (ISSN:21859752)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.1-27, 2015-03-31

『NHK 全国方言資料』第1-6 巻のデータの分析により、推量形に終助詞ガがつく場合の用法、断定形に終助詞ガがつく場合の用法を記述し、後者は前者から派生したと主張した。また、断定形にガがつく用例がある地点を地図化し、その結果から、断定形につくガはかつてより広く分布していたが、優勢な地域で他の終助詞が用いられることによって分布が狭くなったと考えられる。
出版者
日経BP社
雑誌
日経ビジネス (ISSN:00290491)
巻号頁・発行日
no.1799, pp.70-72, 2015-07-13

バートンは、高出力レーザー光を高精度で放出する装置を開発した。装置内のレンズで、太さ数mmのレーザー光を100μm(マイクロメートル、マイクロは100万分の1)にまで、狙った場所で絞り込む。 見た目の派手さもあり、ダンスクラブなどを運営する海外のエンタ…
著者
深田 博己 平川 真 塚脇 涼太
出版者
広島大学大学院教育学研究科心理学講座
雑誌
広島大学心理学研究 (ISSN:13471619)
巻号頁・発行日
no.10, pp.27-36, 2010

本研究では、詐欺の一種である架空請求を虚偽説得として利用した。そして、虚偽説得メッセージ(架空請求ハガキ)を実験参加者に提示した後、説得者の意図に関する事後警告を提示し、その効果を測定した。事後警告情報には、説得意図(PI)、虚偽意図(DI)、情緒喚起意図(EI)の3タイプを使用した。実験計画は、事後警告要因(3種類の単一タイプと4種類の結合タイプの事後警告、および無事後警告)と実験参加者の性(男性、女性)の8×2の2要因実験参加者間計画であったが、実質的に2×2×2×2の4要因実験参加者計画であった。従属変数の測定には事後測定法を用いた。4要因分散分析の結果、①EIタイプの事後警告が有る場合には、PIタイプの事後警告は連絡行動意思を抑制すること、②PIタイプの事後警告は無いが、EIタイプの事後警告がある場合には、DIタイプの事後警告は振込行動意思を抑制することが分かった。また、共分散構造分析の結果、微弱ではあるが、DIタイプの事後警告は、メッセージ評価を低下させて、振込行動意思を抑制することが解明された。
著者
青山 郁子 高橋 舞
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.39, no.Suppl, pp.113-116, 2016-01-25 (Released:2016-02-12)
参考文献数
15

本研究は, 大学生のインターネット依存傾向,ネット上での攻撃性を,「他者の能力を批判的に評価・軽視する傾向に付随して得られる習慣的に生じる有能さの感情」である仮想的有能感の視点から検討したものである. 大学生176名(男性56名, 女性120名, M=19.51歳, SD=.80)を対象に, 仮想的有能感, 自尊感情, インターネット行動尺度(攻撃的言動, 没入的関与, 依存的関与)を測った. その後, 仮想的有能感と自尊感情それぞれの尺度の高低から4群に分類し, インターネット行動について群間差が見られるかどうか検討した. 結果は, ネット上での攻撃的言動では有意差が見られなかった. 没入的・依存的関与ではともに, 自尊型< 仮想・萎縮型となった. 依存的関与に関しては自尊型と全能型の間にも有意差がみられた.
著者
菅本 守 弓林 司 片桐 奏羽 菅本 晶夫 藤本 直明 コリン レッドパス
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第34回 (2020)
巻号頁・発行日
pp.4I3GS201, 2020 (Released:2020-06-19)

ハートラインはカブトガニの視覚が側抑制のメカニズムを持っていることを発見した。側抑制とは、強い刺激をより強く、弱い刺激をより弱くするメカニズムである。側抑制の機構によって、外界の様子をはっきりと捉えることができる。本研究では、側抑制のメカニズムを応用することによって、エッジ検出の新しいフィルターを作った。それらはラプラシアンフィルターを含むより一般的な定式化である。
著者
矢野 桂司 中谷 友樹 磯田 弦 高瀬 裕 河角 龍典 松岡 恵悟 瀬戸 寿一 河原 大 塚本 章宏 井上 学 桐村 喬
出版者
Tokyo Geographical Society
雑誌
地學雜誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.117, no.2, pp.464-478, 2008-04-25
被引用文献数
2 19

バーチャル京都は,歴史都市京都の過去,現在,未来を探求することを目的に,コンピュータ上に構築されたバーチャル時・空間である。本研究では,最先端のGISとVR技術を用いて,複数の時間スライスの3次元GISからなる4次元GISとしてのバーチャル京都を構築する。本研究は,まず,現在の京都の都市景観を構築し,過去にさかのぼる形で,昭和期,明治・大正期,江戸期,そして,京都に都ができた平安期までの都市景観を復原する。<br> バーチャル京都を構築するためには以下のようなプロジェクトが行われた。a)京都にかかわる,現在のデジタル地図,旧版地形図,地籍図,空中写真,絵図,景観写真,絵画,考古学資料,歴史資料など位置参照可能な史・資料のGIS データの作成,b)京町家,近代建築,文化遺産を含む社寺など,現存するすべての建築物のデータベースおよびGISデータの作成,c)上記建築物の3次元VRモデルの構築,d)上記GISデータを用いた対象期間を通しての土地利用や都市景観の復原やシミュレーション。<br> バーチャル京都は,京都に関連する様々なデジタル・アーカイブされたデータを配置したり,京都の繊細で洗練された文化・芸術を世界に発信したりするためのインフラストラクチャーである。そして,Webでのバーチャル京都は,歴史的な景観をもつ京都の地理学的文脈の中で,文化・芸術の歴史的データを探求するためのインターフェイスを提供する。さらに,バーチャル京都は,京都の景観計画を支援し,インターネットを介して世界に向けての京都の豊富な情報を配信するといった重要な役割を担うことになる。
著者
井上 弘貴
出版者
日本イギリス哲学会
雑誌
イギリス哲学研究 (ISSN:03877450)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.19-34, 2016-03-20 (Released:2018-03-30)
参考文献数
28

In his Triumphant Democracy(1886)Andrew Carnegie claimed that American people found something lacking for the original Britons in some races including the German and the French, while he celebrated the British as a basic material to create the American republic. But he came to put more great value on the Teutonic origin for both Britain and America to envision the idea of an Anglo-American reunion in his article, A Look Ahead(1893)which was the new concluding chapter in the revised edition of Triumphant Democracy. Carnegie changed his view again in 1905, the year following the Entente Cordiale between Britain and France. He seemed to take the concept of republic as an important one which could include the three nations, Britain, France, and America while he continued to keep the idea of Teutonic because he thought that it could unite Britain and America with Germany, the Teutonic Power in a peaceful union. In this paper I argue how Carnegie shifted the emphasis in his writing on the balance between the notion of republic and that of race.
著者
美代 賢吾
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.908-916, 2005-11-10

はじめに 個人情報保護法が今年4月から全面施行され,個人情報保護に対する関心が高まっている。これまでも,企業,行政機関,医療機関などでは,それぞれの組織の判断によって,個人情報を保護するために必要な対策がなされてきたが,法律の後押しもあり一層強化されるようになってきている。にもかかわらず,昨今の報道や発表などでもみられるように,電子保存された個人情報の流出があとを絶たないばかりでなく,むしろこれまでよりも増加しているような印象さえ受ける。 医事会計システムから始まった病院の電子化も,オーダエントリシステムを経て電子カルテへとその広がりをみせている。単に診療報酬請求に必要な情報だけをコンピュータで扱っていた時代から,病名や疾病の転帰はもちろんのこと,外来・入院を問わず病院に受診した際のすべての記録が電子的に記録され管理される時代になってきた。さらに,病院の電子化だけでなく,多くの医療従事者が個人でパソコンを所有し,それを利用して研究や一部の業務を行なう状況にもなりつつある。 電子保存された情報の流出が相次ぐなか,医療スタッフは,電子化された患者情報に対して,これまで以上の慎重な取り扱いと情報保護のための知識と技術を身に付けなければならない。同時に,これからの病院管理者や看護管理者は,単に患者情報保護のための規則や規定を定めてその遵守を呼びかけるだけでなく,スタッフに対するより具体的な情報教育にも注力する必要があろう。 すでに,個人情報保護法の概要やその精神,日常の医療への適用などについては,いくつかの文献が発表されている1-4)。したがって本稿では,法そのものの解釈ではなく,「個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない(20条)」という法の精神に応えるには,今日から,我々医療スタッフは個人として何ができ何をすべきか,そして看護管理者は,スタッフに対して,何をどのように指示すべきなのかということに焦点をあてて述べていきたい。