著者
前川 禎通 中堂 博之 大谷 義近 Puebla Jorge
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

1915年にアインシュタイン達は磁性と回転運動の等価性を明らかにした。これは力学回転と電子のもつ角運動量(スピン)が角運動量保存則で繋がっていることを証明するものである。物質の持つ角運動量の間には、角運動量保存則を介して相互変換が可能である。本研究では、物質の巨視的な回転に加えて、流れに現れる渦運動など、様々な力学回転と物質中のミクロな角運動量(スピン)との相互変換による新たな分野「スピンメカトロニクス」を構築する。
著者
和田 哲
出版者
熊本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

ヤドカリには交尾・産卵直前に雌が(1)常に脱皮する種、(2)脱皮しない種、(3)脱皮したりしなかったりする種がいる。(2)や(3)に属する種の存在は、脱皮がヤドカリの配偶行動に不可欠ではないことを示唆する。しかし多くの種で雌は交尾直前に脱皮する。本研究は交尾直前脱皮の適応的意義の解明を目的としておこなった。上記(3)に属する種では、同一個体群の雌が連続産卵雌(過去に産卵した卵を孵化した雌がすぐに雄と交尾し産卵する)と不連続産卵雌(過去の卵を持たない雌が産卵する)に区分できる。本研究はこの点に着目して以下の仮説を検証した。成長仮説:雌は脱皮のコストで不連続産卵となっても、成長するために脱皮する繁殖仮説:脱皮が抱卵場所の更新に役立つならば、雌は連続産卵時に脱皮する上記(3)に属し高知県で普通に見られるホンヤドカリ属3種(ホンヤドカリ、クロシマホンヤドカリ、ユビナガホンヤドカリ)を対象種として、野外で雄に交尾前ガードされている雌をペアとして採集し、研究室で産卵まで飼育して、連続/不連続産卵の識別と脱皮の有無等を比較した。その結果、全ての種で成長仮説が支持された。さらにユビナガホンヤドカリを用いて、脱卵数、抱卵数、オスとメスの体サイズ、メスが背負っている貝殻サイズが脱皮頻度に与える影響を訥べた結果、脱皮によって脱卵数が増加し抱卵数が減少する傾向を認められた。また、脱皮あたり成長率は有意に0よりも大きく、脱皮によって体サイズが増大することが明らかとなった。以上の結果でも成長仮説が支持された。ホンヤドカリ属の他種を含めた種間比較の結果、成長仮説はホンヤドカリ属における(1)-(3)の種間変異もよく説明することが示唆された。
著者
冨田 栄二 佐々木 浩一 赤松 史光 池田 裕二 河原 伸幸
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では,二酸化炭素や有害排出物の排出の低減のために,従来とは異なる新たなプラズマ支援燃焼方式を提案している.すなわち,大気圧・室温状態から高温・高圧状態までの着火・燃焼と非平衡プラズマの関係を物理的・化学的に調べるとともに,スマート燃焼という新たな研究分野を創出するための基礎現象を解明して,熱機関への応用を試みた.ラジカル密度,燃焼に及ぼすマイクロ波プラズマの影響,非平衡プラズマを重畳させたレーザー着火過程におけるラジカル挙動と燃焼特性,含水エタノールの燃焼・化学反応への影響を調べ,火炎の時空間制御の可能性を見出した.その結果,マイクロ波による燃焼の新たな可能性を見出すことができた
著者
宝来 聰
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

モンゴロイドの子孫は今や環太平洋地帯の広い地域に分布し、さまざまな環境に適応している。モンゴロイドにおける先史時代の拡散を研究する際、重要な問題の1つとして最初のアメリカ人、つまり″新世界への移住″という問題がある。アメリカ先住民の祖先は東北アジアからベーリング海峡を越えてアメリカのさまざまな地域に分散して定住し、最終的に南アメリカの南端にまで達したということは疑う余地はない。しかし彼らがいつ、どのような遺伝的背景や文化をもってやってきたのかは未だ十分に解明されていない。16の地域集団(チリ、コロンビア、ブラジル、マヤ、アパッチ)から72人のアメリカ先住民について、ミトコンドリアDNAのノンコーデイング領域の塩基配列を決定し解析を行った。塩基配列はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法をもちいて直接決定した。72人のアメリカ先住民の482塩基対の配列を比較したところ、43の異なるタイプの塩基配列が観察された。アメリカ先住民内での塩基多様性は1.29%と推定され、これはアフリカ人、ヨーロッパ人、アジア人を含めた全ヒト集団での1.44%という値よりいくらか小さかった。また系統樹による解析からは、アメリカ先住民の系統のほとんどが4つの大きな独立したクラスターに分類できることが分かった。各クラスターの人々は他のヒト集団ではほとんどみられない特別な多型部位を少なくとも2箇所共有しており、これは、アメリカ先住民が系統的にユニークな位置付けがされることを示している。アフリカ人、ヨーロッパ人、アジア人、アメリカ原住民の計193人の系統樹を作成すると、4つのアメリカ先住民のクラスターは独立して全体の中に分散していることが分かった。これらのクラスターの大部分はアメリカ先住民で構成されているがわずかに少数のアジア人も混じっていた。このことにより異なる4つの祖先集団がそれぞれ独立して新世界に移住したのだろうと推定した。さらに同一クラススターでアジア人とアメリカ先住民の系統が最初に交わる時間から、ベーリング海峡を渡った最初の移住が1万4千年から2万1千年前ごろに起こったものと推定した。またアメリカ先住民間で観察された塩基置換の特徴より、アメリカ先住民の祖先集団はきびしいボトルネックを受けたのでもなく、新世界に移住する際に集団サイズを急に拡げたのではなかったことが示唆された
著者
中島 知隆
出版者
東海大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

肩峰下インピンジメントの腱板、とくにCodmanの定義した‘critical portion'に対する影響を定量的に解析して腱板断裂ないし変性の発生メカニズムについて検討した。明らかな腱板断裂のないインピンジメント徴候を呈した手術症例(9肩、43-75歳、平均59.7歳)を対象とし、腱板付着部より2mm,7mm,12mm(critical portion)および17mm(筋腱移行部)の四点の滑液包側表面にプラスチック製圧力センサを設置した。また、血流測定用白金電極と組織内酸素分圧測定用電極を挿入した18G針を各点の深さ3mmと8mmまで刺入し、肩峰下接触圧分布とともに組織内血流量、酸素分圧を同時にモニタして、上肢の安静下垂時、他動的前方挙上(30〜180゜)および側方外転時(30〜90゜)における各パラメータの変化と相互の関連性を調べた肩峰下接触圧は安静下垂位〜60゜挙上、30゜外転位まで0であり、その後ほぼ直線的に上昇し140゜挙上、80゜外転位にてピークとなった。安静時、腱板表層の血流量は深層のそれに比べて約1.9倍で、両者は肩挙上、外転時に平行して減少し、90゜挙上、55゜外転位で安静時血流量の1/2、130゜挙上、75゜外転位にて0となった。肩峰下の接触圧と腱血流量の変化は密に相関し、付着部より12mmの表層部ではとくにその傾向が著しかった。一方、腱板酸素分圧は筋腱移行部で最高(243mmHg),critical portionで最低(127mmHg)であり、140゜挙上、80゜外転位において安静時の約1/2に低下した。腱板血流量は上肢を140゜挙上した直後に0になるのに対し、腱板酸素分圧の半減には約20分を要した。すなわち、腱板のなかでもcritical portionにおける易損性は肩峰下インピンジメントによる虚血ではなく、比較的長時間にわたる低酸素状態が腱細胞の軟骨化生を促してその弾性を低下させることに起因すると考えられる。今後、腱組織における酸素代謝がいかに腱変性に関与しているか、について実験モデルを作成してin vitroに検証する予定である。
著者
影山 隆之 河島 美枝子 小林 敏生
出版者
大分県立看護科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

勤労者のコーピング特性を評価するための既存の質問紙にはさまざまの問題があった。これらを参考に、職域健診や健康教育場面で使いやすい6尺度20項目からなる新しい簡易質問紙を試作した。これを勤労者集団に適用しては信頼性と妥当性を確認する作業を、数回繰り返した。最終的に、18項目からなるコーピング特性簡易評価尺度(BSCP)を完成した。BSCPの下位尺度(積極的問題解決、解決のための相談、気分転換、視点の転換、他者への情動発散、回避と抑制)には十分な内的一貫性と構成概念妥当性が認められ、また因子構造妥当性に男女差がないことも確かめられた。さらに、職業性ストレスや抑うつとBSCP下位尺度との間には中程度の相関があることや、職業性ストレスと抑うつとの関連をコーピング特性が媒介していることも認められ、職業性ストレス過程モデルとの理論的一致が確認された。BSCPを用いた研究の結果、コーピング特性は、喫煙・飲酒習慣・自殺に関する態度などと関連している可能性がある他、病院看護師の喫煙行動が交替制勤務に伴う眠気に対する対処行動の一種である可能性も示唆された。BSCPの再現性の検討、および大集団における標準化の作業は研究期間中に終了できなかったが、近日中に実行する準備を進めている。BSCPは、職業性ストレスに起因するストレインの予測、勤労者の健康問題関連行動・態度の関連要因分析、職場の「ストレスマネジメント研修」の教材などとして、実用的なツールであることが示唆された。
著者
赤間 亮 Tomsen Hans 松葉 涼子 李 増先
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

欧州の5か所の所蔵機関が所蔵する浮世絵・絵入版本のカタログを目標に開始したが、最終的に欧州9か国30機関の作品デジタル化とカタロギングを実施し、大部分の作品は、「ARC浮世絵ポータルDB」「ARC古典籍ポータルDB」にそれぞれ搭載され、許諾を得られた組織については、一般公開を行っている。また、自前のコレクション・オンラインDBを運用している機関は、そこからも本研究の成果が発信されている。対象国は以下の通り。チェコ共和国(3機関)、ギリシャ(1機関)ドイツ(4機関)、イタリア(6機関)、英国(7機関)、ベルギー(1機関)、スイス(6機関)、オランダ(1機関)、アイルランド(1機関)。
著者
小野 卓史 細道 純 渡 一平 誉田 栄一
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

口呼吸患者は、口腔内乾燥とともに味覚の異常をしばしば訴える。口呼吸による睡眠呼吸障害が神経系の発育障害および機能障害を惹起することが知られているが、これまで口呼吸に伴う味覚障害の機序について検討された報告はなく、口呼吸が味覚情報処理機構に及ぼす影響やその経路については未知である。本研究では、口呼吸の味覚障害への関与を明らかにすることを目的に、口呼吸患者を対象とした臨床調査および動物モデルを用いた基礎研究を実施する。臨床調査により、慢性口呼吸者における味覚閾値の上昇が生じ、片側鼻閉ラットでは、舌味覚受容体の退行性変化が認められた。したがって、呼吸障害が味覚機能に影響を与える可能性が示唆された。
著者
藤原 祺多夫
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

天然水等の試料を対象にして, ホウ酸やケイ酸を簡便に測定する方法を開発する目的で, ホウ酸及びケイ酸を気体状化合物に定量的に変化させる方法, 及び気体状ホウ素化合物とケイ素化合物の酸化反応にらる化学発光の測定を試みた. まずホウ素については, ホウ酸トリナチルをチッ素気流中に打込みこれを発光させる方法を検討した. まずオゾンとの混合を試みたが, パラジウム, パラジウム/炭素等の触媒を利用しても気相では発光を生じなかった. そこで内径2mmの毛細石英管の外壁をニクロム線で加熱するミクロファーネスを自作し, ここにチッ素気流に混合したホウ酸トリメチルを導入したところ, 500〜600mm付近の波長領域に見かけ上緑色の発光が, 毛細管末端で観測できた. これはBOに由来するものと思われるが, この発光を定量するため, シリコニットで外側を被覆したミクロファーネスをステンレスT字管(内径2cm程度)に入れ, 腕の部分に干渉フィルターを入れた後光電子増倍管に直結するシステムを作成した. この装置を用い, かつフィルターを500nmに変えて, ケイ素の誘導体(トリエチルシラン)も同様に測定できた.一方ホウ酸及びケイ酸から水素化物を含む気体状化合物への定量的変換法は現在まず確立することができなかった. まずホウ酸については, メチルアルコールとの還流によるメチル化を行ったが, これは一試料をメチル化するのに30分程度必要であり, かつ試料スケールを大きくしなければならずミクロ分析として不適当と考えた. 従って内径1.5cm長さ20〜30cmの石英管を100〜400°Cに加熱した反応管内での, ホウ酸のメチル化もしくは還元を検討した. 還元剤として, 水素化ジイソブチルアルミニウム, トリクロルシラン, トリエチルシラン等を検討したが, 現在固形ホウ酸塩を粉末状水素化リチウムアルミニウムとよく混合させた後300°Cに加熱した場合のみ, ホウ素に由来する気相化学発光が観測できた.
著者
大津留 厚 柴 理子 桐生 裕子 野村 真理 家田 修 篠原 琢 佐藤 雪野 馬場 優 柴 宜弘 辻河 典子 森下 嘉之 飯尾 唯紀 村上 亮 ボシティアン ベルタラニチュ 米岡 大輔
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2017-04-01

1939年9月4日、アメリカ合衆国の週刊誌『タイム』はその前の週の9月1日にドイツ軍がポーランドに侵攻したのを受けて、「第二次世界大戦が始まった」と報じた。この時、「その前の戦争」が第一次世界大戦の名を与えられることになったと言える。その意味での第一次世界大戦が始まるきっかけになったのは、ハプスブルク家を君主とする諸領邦が最終的に名乗ったオーストリア=ハンガリーが、隣国セルビアに対して、ハプスブルク君主の継承者の暗殺の責を問うて宣戦を布告したことにあった。そしてその戦争を終えるための講和会議が開かれた時、すでにこの国は講和会議に代表される存在であることを止めていた。したがってこの戦争はこの国にとっては「最後の戦争」に他ならなかった。1914年からあるいはその前から始まった、ヨーロッパを主な戦場とする戦争を何と呼ぶのか、これがそれから100年経ったときに問われている。そして呼び方の問題はその戦争の継続した期間の捉え方と関係し、またその後の世界の把握の方法とも関係している。本科研ではセルビア共和国の代表的な現代史研究者ミラン・リストヴィッチ教授を招き、また研究代表者がウィーンで開催された1918年の持つ意味を再考するシンポジウムに参加して国際的な研究動向を踏まえながら、分担者がそれぞれ研究を進めてきた。その成果は2019年5月に静岡大学で開催される西洋史学会の小シンポジウムで発表されることになる。そこでは研究代表者が趣旨説明を行い、「国境の画定」、「制度的連続性と断絶」、「アイデンティティの変容」それぞれの班から報告が行われる。
著者
竹村 正明 廣田 章光 王 怡人 細井 謙一 原 頼利 富野 貴弘 土屋 勉男 井上 隆一郎 水野 学 滝本 優枝
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

サンプル調査で、中小企業が過去10年間でどれだけ取引先に対して、ポジションを変更できたのかを調べた。ポジションとは取引先に対する役割のことである。役割は、メインサプライヤーから単なる下請けまで7段階を措定している。変更できた企業の割合は5%以下で予想よりもはるかに少なかった。上方へのポジション変化ができた企業は製品イノベーションから市場を拡大していることがわかった。
著者
竹田 誠 永田 典代 福原 秀雄
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

肺炎や下気道炎を起こすウイルスは多様である。しかしながら、これら呼吸器ウイルスは、ウイルス種としては多様であるものの、それら呼吸器ウイルスの膜融合蛋白が宿主気道上皮のプロテアーゼで活性化するという共通の性質を持つと考えられる。申請者らは「プロテアーゼ依存性トロピズム」理論に立脚した考えのもとに、ウイルス活性化に関する研究を推進してきた。その結果、ノックアウトマウス技術を用いることで、呼吸器上皮細胞に発現しているセリンプロテアーゼTMPRSS2が、インフルエンザウイルスの生体内活性化酵素であることを証明した。本研究では、TMPRSS2の生理機能や細胞内動態の解析、TMPRSS2の阻害化合物の大規模スクリーニングを実施し、TMPRSS2阻害化合物の呼吸器ウイルス感染阻害効果を検証することを目的に実験を行なっている。また、MERSコロナウイルス受容体(CD26)導入遺伝子改変マウスならびにTMPRSS2 KOマウスを用いて、MERSコロナウイルスのin vivo増殖、病原性発現におけるTMPRSS2の役割を解明するとともに、TMPRSS2の阻害化合物による各種呼吸器ウイルスやMERSコロナウイルスの生体内での増殖抑制効果を明らかにすることを目的に実験を行った。本研究開始以前に、MERSコロナウイルス受容体(CD26)導入遺伝子改変マウス(CD26-tgマウス)を作出することによって、すでにMERSコロナウイルスのin vivo(マウス)モデルを確立していたので、本マウスとTMPRSS2 KOマウスを交配されることによって作出されるマウス(CD26-tg/TMPRSS2 KOマウス)を用いて、MERSコロナウイルスのin vivo増殖におけるTMPRSS2の役割を解析した。の結果、TMPRSS2がMERSコロナウイルスの気道での増殖ならびに気道で起こる免疫反応に重要な意義があることが確認された。
著者
菊地 光嗣
出版者
静岡大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

当科学研究費補助金を得ての研究の目的は幾何学的測度論を偏微分方程式およびそれに関連する問題に応用することである。幾何学的測度論の偏微分方程式への応用としてはカレント理論に関する研究が盛んであり、最近でもGiaquinta-Modica-SoucekやAviles-Gigaらによって変分問題を中心とする偏微分方程式の問題にカレントが応用されている。しかしながら私の研究は主として幾何学的測度論のもう一つの話題であるヴァリフォルド理論の偏微分方程式への応用を目的としている。ヴァリフォルドに関連した研究としては、K.Brakkeや、Fujiwara-Takakuwaの仕事がある。さらにここ数年平均曲率流の研究が主としてlevel set techniqueを用いて盛んに研究されており、最近これらの結果とBrakkeの仕事との関連が調べられ始めている。このようにヴァリフォルドは非線形偏微分方程式に応用されているが、その研究の数はそれほど多くはない。ヴァリフォルドの理論はそれほど難しくないそういう長所はもっと活かされるべきであり、そのためこの研究に着手した。この目的のために当科学研究費補助金を利用して北海道大学等を訪問して、この分野での日本の中心的人物である北海道大学教授儀我美一氏や北見工業大学講師小俣正朗氏らと連絡をとることにより、この研究に関して有益な情報を得ることができた。そして測度論の一部である確率論との関係から、階数が空間の各点によって異なるような擬微分作用素に関する研究を行い、階数が一定の場合に従来から知られている結果がかなりこのような作用素にも拡張できることがわかった。これに関連する結果は現在確率論の研究者と共同で論文「Pseudodifferential operators and Sobolev spaces of variable order of differentiation」としてまとめているところである。
著者
押谷 仁 乙丸 礼乃 岡本 道子 古瀬 祐気 小田切 崇
出版者
東北大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
巻号頁・発行日
2019-10-07

呼吸器ウイルスの多くはヒトのみを宿主としており、ヒトからヒトに継続的に伝播することでウイルスが維持されていると考えられる。しかし、ウイルスがどのように維持されているかについては不明な点も多い。また、フィリピンのような熱帯・亜熱帯地域では、年間を通して呼吸器ウイルスが伝播しており、ウイルスの維持に重要な役割を果たしている可能性ある。熱帯地域に位置する小規模な島という環境で長期にわたり検出したウイルスを解析することにより、呼吸器ウイルスの地域内での伝播・維持のメカニズムについて明らかにするとともに、グローバルレベルでの呼吸器ウイルスの伝播・維持に果たす役割についても明らかにする。
著者
萬行 英二
出版者
国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

多くの発展途上国で、女性は男性と比較して、教育水準が低く、自己申告の健康状態が芳しくないという結果が出ている。既存文献は、その原因として、家父長制(男子は成人後、実の両親と同居し、女子は成人後、義理の両親と同居)のもとで、未成年時の子供に対する、親の投資が男子を優遇し、女子に不利になるようにするインセンティブが作用することが一因であるとしている。本研究で調査するラオスは、アジアでは稀にみる家母長制の慣習の民族が大多数であり、ラオスにおける家計内資源配分を調査することは、既存文献の仮説(家父長制が男子優遇の家計内資源配分の一因である)を検証する意味で、意義深くもあり、興味深い。ラオスにおける家計内の食料配分を分析した結果、男性の食料消費は、女性の食料消費よりも、家計一人当たり食料消費についての弾力性が高く、特に、壮年期男性の食料消費についての弾力性が高いことがわかった。既存文献では、家計内における消費弾力性が高いことを家計内の地位が低いことの兆候とするものが多いが、理論モデルによる分析は、家計内における消費弾力性が高いことは、必ずしも、家計内での地位が低いこととはならないことを示しており、今次の分析結果から、ラオス壮年男性の家計内での地位について結論を導き出すことは困難である。
著者
梶田 忠 高山 浩司 梶田 結衣 山本 崇 榮村 奈緒子 井村 信弥 石垣 圭一 堤 ひとみ Wee Alison Kim Shan
出版者
琉球大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

汎熱帯海流散布植物のナガミハマナタマメについて、西表研究施設のガラス温室内で7地域19集団から得た植物を栽培し、人工交配実験を実施した。2015年から2017年までの3年間に実施した交配実験と観察実験により、(1) 観察できた全ての地域間の組み合わせで結実と種子形成は正常であること、(2) 種子の発芽も正常であること、(3) F1個体の花粉稔性に受粉後生殖隔離の影響が現れる可能性があること等が示された。F1個体に受粉後生殖隔離が見られた組み合わせのうち1つは、先行研究で遺伝子流動の無いことが示された新大陸東西の集団間であり、このことは、本種が輪状種としての性質を持つことを示すものであった。
著者
風間 計博
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

日本のカツオ一本釣り漁船に出稼ぎに来ているキリバス人乗組員は、言葉さえ通じ難い異文化環境下において、時間感覚や所有観念の差異に根ざした人間関係の悪化、飲酒に起因する問題行動により、頻繁に解雇されてきた。雇用されるにあたり、キリバス人にとって、船上の労働における技能や専門知識の習得以前に、文化的・認識論的な差異が大きな問題である。そしてこの差異は、ホスト社会の人々と太平洋島嶼部から来た出稼ぎ者との間に、容易には越え難い深い溝として存在している。