著者
竹山 重光
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

カントが『実践理性批判』で語っている「自己満足」という感情に着目し、『実践理性批判』以外の諸著作をも検討、さらには現代の哲学的感情研究をも参照して、この感情の存在・意義を明らかにした。カントの実践哲学は峻厳なものであるが、同時に、きわめて人間的であり、人間の有限性を厳しく自覚したものである。「自己満足」概念の検討はこの点をはっきりと示してくれる。
著者
エイビス デイビッド
出版者
京都大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

当該研究の目的は京都大学における幾何計算研究拠点の設立であり、現在その目的は達成されている。ここでは、主として3つの課題、多面体計算、離散最適化、量子情報について取り組んだ。これらの課題の共通テーマは高次元幾何であり、とりわけ多面体とそれに関わる凸体の研究である。また、ここでは、質の高い理論結果を生み出すとともに、それらの結果の工学・科学分野における広い利用を可能にするソフトウェアの開発も行っている。
著者
田口 文広 松山 州徳 森川 茂 氏家 誠 白戸 憲也 座本 綾 渡辺 理恵 中垣 慶子 水谷 哲也
出版者
国立感染症研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

1)SARSコロナウイルス(SARS-CoV)に関する研究SARS-CoVは通常エンドゾーム経由で細胞内へ侵入することが報告されているが、我々はSARS-CoVのS蛋白の融合活性を誘導するプロテアーゼ(trypsin, elastase等)存在下では細胞膜径路で侵入することを明らかにした。更に、この径路による感染は、エンドゾーム径路感染より100-1000倍感染効率が高いことが判明した(PNAS,2005に発表)。SARSの重症肺炎の発症機序は、ウイルス感染を増強する様なプロテアーゼの存在が重要ではないかと考え、マウスに非病原性細菌感染で肺elastaseを誘導し、SARS-CoVを感染させることにより、ウイルス増殖及び肺の組織障害が高くなることを観察した。今後、更に重症肺炎に至るウイルス側及び宿主側因子の同定を進めたい。2)マウスコロナウイルス(MHV)に関する研究神経病原性の高いMHV-JHM株は受容体発現細胞に感染し、その細胞から受容体を持たない細胞に感染することが知られている。我々は、JHM株を直接受容体非発現細胞へ吸着させることにより、感染が成立することをspinoculation法(ウイルスが接種された細胞をウイルスと共に3000rpmで2時間遠心)により証明した。また、受容体非依存性感染にはJHM株のS蛋白の自然条件下で融合能が活性化されるという性質によることも明らかにされた(J.Viro1.2006発表)。
著者
加藤 哲郎
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究の目的は、ソ連崩壊で明るみに出た秘密文書を発掘・解読しながら、旧ソ連在住日本人に対するスターリン粛清の規模とメカニズムを探求することであった。その基礎は、申請者が『モスクワで粛清された日本人』(青木書店、1994年)及び『国民国家のエルゴロジー』(平凡社、1994年)で挙げた、約80名の粛清候補者リストであった。初年度の95年秋には、代表的犠牲者である元東京大学医学部助教授国崎定洞について、川上武と共著で『人間 国崎定洞』(勁草書房)を刊行し、以後も犠牲者遺族・関係者から聞き取り調査を進めてきた。その間、研究費で購入したパソコン・スキャナー等を用い、インターネットの専用ホームページを立ち上げ、「現代史の謎解き」ページと題して、これまでの研究成果をもとにしたデータベースをそのまま掲載した。その結果広く関係者の情報を集めることとなり、重要な関連情報が電子メール等で寄せられた。その経過と概要は、『読売新聞」1998年2月5日に大きく報道されたが、この3年間で、1920年代・30年代にソ連に在住した86人の日本人について探求し、(1)旧ソ連秘密文書など記録による粛清確認者32名(内銃殺15名、強制収容所6名、国外追放4名、逮捕後行方不明6名、逮捕後釈放1名)、(2)資料・証言で逮捕・粛清の可能性濃厚16名、(3)1936-38年在ソ連が確認され以後行方不明2名、(4)ソ連側資料で当時在ソ連が推定され行方不明約10名、(5)日本側資料で当時在ソ連が推定され行方不明約20名、(6)大粛清期前後の日本人推定犠牲者6名をデータベース化できた。また、そこに、日本人共産主義者同士の疑心暗鬼による密告・告発と、ソ連秘密警察による拷問・強制自白の結合による、明瞭な粛清連鎖のメカニズムを発見して、相関図に仕上げた。98年3月には、モスクワで収集した秘密資料をも用いて、本研究の総括を英文論文にまとめた。この英文論文は、スターリン粛清研究の国際的センターとなっているドイツ・マンハイム大学社会史研究所ヘルマン・ヴェーバー教授の要請により、同研究所編『歴史的共産主義研究年報 1998年版』に寄稿したものであるが、同時にこれをインターネット上にも公開し、広く世界から情報収集するシステムが確立した。また本研究の副産物として、安保由五郎・勝野金政・片山千代・箱守平造らの粛清資料と遺族を発掘して名誉回復をはかり、3年間で10回以上も新聞で取り上げられた。世界でも初めての研究として、所期の目的を達成し得たと結論づけることができる。
著者
内田 諭 内田 聖二 赤野 一郎 Danny Minn 工藤 洋路 石井 康毅 ハズウェル クリストファー
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

2018年度の研究計画は和英連語辞書に収録すべき見出し語の選定と連語抽出の試行を主眼とし、次の3段階で実施した。・(1)見出し語の選定:BCCWJやTWCなどの日本語大規模コーパスを用いて、収録すべき見出し語の選定を行った。名詞を中心に選定し、日本の英語教育(特に高等学校レベル)の実情に合ったものになるように心がけた。・(2)連語表現の抽出の試行:(1)で選定した見出し語のうち、頻度の高い最重要名詞について、連語表現の抽出を行った。研究分担者の意見や研究会や学会などでの専門家からの助言、コーパスにおける共起指数等を基に、教育目的で有益な連語表現を選定した。また、次年度以降の研究・執筆作業が円滑に行えるよう、連語抽出に関する全体の方針について議論し、手続きをある程度明確化した。・(3)英訳の試行:(2)で抽出した連語表現について、英訳を予備的に実施した。英語母語話者の意見・助言を基に、特に日本語と英語でずれのある表現について集中的に討議した(例えば、「体」は英語ではbodyであるが、「体が温まる」はbecome warm from inside、「体が覚える」はbecome automaticなどのように必ずしもbodyを使うとは限らず特別な注意が必要となる)。これらの作業に加えて、辞書を公開する際に用いるウェブインタフェースのプロトタイプを作成した。これにより、早い段階から研究の最終成果物のイメージを共有することが可能となった。
著者
日下 隆 安田 真之 久保井 徹 小久保 謙一 小谷野 耕佑 岡田 仁 三木 崇範 岩瀬 孝志 上野 正樹 中村 信嗣 岡崎 薫 小林 弘祐
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

新生児低酸素性虚血性脳症の動物モデルとして、新生仔豚を対象に負荷時の脳血液量を指標とした低酸素負荷を行い、低体温療法、ラジカルスカベンジャー(エダラボン)と低体温併用療法の効果、および水素ガス吸入療法の安全性の検討を行った。その結果、無治療の蘇生後24時間での脳血液量増加と低振幅脳波持続時間は正の相関を示したが、低体温療法では負の相関を示した。また低体温療法と併用療法は無治療と比較し、大脳皮質および白質障害は少なかったが、低体温療法のみと併用療法は中枢組織障害の差異は認めなかった。さらに水素ガス吸入は、体・脳循環、脳波及び血液ガスへの影響がなく、その使用上の安全性が確認された。
著者
片柳 克夫 堀 貫治
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は今まで構造研究が着手されていなかった新しいレクチンファミリーに属する海藻レクチンに属するいくつかのレクチンに着目して構造学的研究を進めたものである。このレクチンは多くのレクチンと異なり単糖には結合せず高マンノースのみに結合する特異的な性質を持ち,また近年,強力な抗HIVウィルス作用を持つことがわかってきた。本研究ではその分子構造をX線解析による詳細に解明し,この新規レクチンファミリーの構造的基盤を構築した
著者
山口 創 本田 美和子
出版者
桜美林大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

1.最終年度に実施した研究の成果【目的】平成30年度は、自閉症を有する子どもに対し、母親以外の人物によるユマニチュードに基づく介入を行うことの効果について明らかにするための実験を行った。医師による自閉症スペクトラムの診断がある自閉症スペクトラムの症状のある3歳~9歳児計8名を対象とし、3週間の介入を行った。介入は、参加者と目を合わせ、距離を近づけて挨拶することや、触れることを主眼としたものであった。指標は、施術前後に参加者の唾液を採取しオキシトシンの含有量を測定した。また第1回目の施術前と最終回の施術後に質問紙調査(東京自閉行動尺度、対児感情尺度、母性意識尺度)を参加者の母親を対象に行った。研究の結果、介入初回の施術前後において、参加者のオキシトシン濃度は3.20から8.00に増加した。介入3週間後には、施術前の数値が、3.60に増加していた。この結果より、本実験の介入により普段からのオキシトシンの分泌が促され、その結果不安が低減したことがわかる。さらに東京自閉行動尺度の「くせ・きまり得点」、「自閉症状の強さ」について、介入による効果が確認され、介入により不安症状が軽減した結果、症状が全般的に緩和されたと解釈できる。2.補助事業期間を通じた全体の結果3年間の補助事業期間のうち、1年目は実験の準備に費やした。2年目は自閉症児に対して医師と養育者によるによるユマニチュードに基づく長期的な介入効果を検討した結果、自閉症状が緩和され、対人志向が高まる効果が確認された。3年目は施設職員による介入効果を検討した結果、オキシトシンの分泌が促され、特に不安やストレスが原因とされる自閉症状が緩和される傾向が確認された。今後、自閉症児の対人関係(家庭と施設職員)すべてにおいてユマニチュードに基づく接し方をすることで、症状の全般的な緩和が期待できる。
著者
村上 健太郎
出版者
北海道教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

人為的硬質構造物(ハードスケープ;例えば壁、石垣、建造物間隙)はもともと崖や露岩地あるいは林床にすんでいた生物の代替生育地になりうるが、日本ではそのような視点の研究は少ない。そこで、ハードスケープが動植物の高い種多様性を保持し稀少種の生育場所として機能しうるかについて野外調査(歴史的遺産の古いハードスケープやどこにでもある市街地のハードスケープなどを対象とした生物調査)と文献調査(ハードスケープに生物が生育するという事例の整理)から検討し、ハードスケープを用いた緑化や、都市緑地保全あるいは人工構造物保全に役立つ知見を得るための研究を行う。特に石垣等に生育するシダ植物に焦点を当てて研究する。
著者
玉田 敦子
出版者
中部大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究課題「18世紀フランスにおけるミソジニーとナショナリズム」は、フランス啓蒙のジェンダー的瑕疵を「近代」社会の構想が内在的に抱える矛盾、すなわち「マイノリティのマジョリティへの従属」の一形態と捉え、その核心として包括的に検討することを目指してきた。今年度は、以下の国際研究集会、研究会において研究報告をおこなった(題目等詳細は別記)。(1)ソルボンヌ大学(仏)のセリーヌ・スペクトール教授、リール第3大学(仏)のガブリエル・ラディカ准教授らとSkypeやメールにて打ち合わせを重ね、2019年7月に英国エジンバラにて開催される国際18世紀学会に「啓蒙期フランスにおける女性の地位とアイデンティティ」をテーマとしたセッションをアプライ、受諾された。(2)モンプリエ大学(仏)のクレール・フォヴェルグ氏がパリのCollege International de Philosophie において主宰するセミネールで「啓蒙期における表象の複数性」について招待講演をおこなった。(3)2014年より、奈良女子大学高岡尚子教授を中心として、同大学中川千帆准教授、駒澤大学倉田容子准教授とともに「ジェンダーと文学」をテーマに開催している研究会を本年度は中部大学にて開催した。また、文化的ナショナリズムの生成の起源を探究する試みとして、シチリアの僭主による文化戦略について考察する論文「レトリック発祥の地の輝きー紀元前5世紀の南シチリアにおける僭主政とオリンピック」を『中部大学人文学部研究論集』に執筆、刊行した。さらに今年度は女性史の観点から近現代フランスにおける分娩について考察し、『助産雑誌』に2本の共著論文を執筆した。
著者
岩倉 成志 吉枝 春樹 小林 渉
出版者
芝浦工業大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

東京圏の都市鉄道は,極めて高い混雑率の路線が存在し,列車遅延も発生している.抜本的な輸送力増強が必要だが,予算の縮小や投資リスクで,大規模投資は困難である.わが国は運行間隔120秒程度が最小だが,海外では90秒で運行されている.わが国でも運行間隔90秒まで引き上げれば,混雑率180%を140%以下まで緩和できる.エージェントシミュレーションと運転曲線図の2種の検証で,既存ストックを最大限に活用した超高頻度運行の可能性を検討した.結果,移動閉そくシステムの導入で,田園都市線と半蔵門線で大幅に運行間隔を縮小できることが判明した.また,渋谷駅の容量増強で,運行間隔90秒を達成できることを示した.
著者
戸田 正憲 和多田 正義 田村 浩一郎 加藤 徹
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

全ゲノム配列情報を「骨格」として,さまざまな部分配列情報を網羅的に利用可能にする,分子系統解析のための新しい方法論を考案し,モデル生物群としてのショウジョウバエ科の系統解析を行った.その結果,極めて高い解像度の系統樹が推定され,新しい方法論の有効性が実証されるとともに,これまで未解明の部分があった最大の属,ショウジョウバエ属について,いくつかの重要な新しい系統情報が得られた.これにより,ショウジョウバエ科の系統分類学および進化学的枠組みを大きく変える必要がある.
著者
吉良 直 北野 秋男 北野 秋男
出版者
日本教育大学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、平成4年から日本でも導入された同制度のモデルとなったアメリカの大学におけるティーチング・アシスタント(TA)制度と養成制度に関する現状と課題を解明することを目的とした研究である。本研究では中西部の主要大学の実態に着目し、TA養成制度の全学的、分野別プログラムの区分、学問領域間の差異、並びに大学院生の教育力を育成する一貫したシステムが確立されていることを解明した。研究成果は日米の学会で発表し学会誌に論文が掲載された。
著者
金光 義彦 廣理 英基
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究では、半導体ナノ粒子や単原子層材料に固有の電子状態、電子間の強いクーロン相互作用、さらには特異的な表面電子状態に起因した高調波発生を探索するとともに、バルク結晶と比較することによりナノ構造固有の高調波発生のメカニズムを解明することを目的としている。初年度は、高次高調波発生の理解とその制御を目的として、2色の励起光源を組み合わせた励起・計測手法を新たに開発した。試料を中赤外光で強く励起することにより、バンド端から離れた大きな波数領域に電子を駆動して生じる高次高調波を測定した。特にレーザーの偏光に対する結晶角度依存性や強度依存性を測定し、強電場励起による非線形光学現象と従来の弱励起下での非線形光学との関係の解明を目指した。その結果、層状化合物半導体GaSeにおいて材料固有の特異なバンド構造を反映して、高次高調波発生の発生選択側が決定されることを初めて明らかにした。また、新しい光電変換材料である有機無機ハイブリッドハロゲン化鉛ペロブスカイト半導体の薄膜試料において、従来の半導体に比べて高効率な高次高調波発生を観測することに成功した。高効率な高次高調波発生の起源を明らかにするために、ペロブスカイト構造固有のバンド構造を取り込んだ理論計算も進めた。高調波の起源である非線形電流は励起された価電子帯内を運動する正孔が主要な寄与であり、従来とは異なるモデルによって説明できる可能性があることが分かった。
著者
大谷 省吾 西澤 晴美 五十殿 利治
出版者
独立行政法人国立美術館東京国立近代美術館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究は、近年海外からの注目も高まりつつある戦後日本の前衛芸術運動についての研究基盤の整備に寄与しようとするものである。とりわけ文献資料が少なくその実相が十分に明らかになっていない終戦直後の占領期の状況に光を当てるために、1951年に東京で結成された前衛芸術グループ「実験工房」の中心人物のひとりであった山口勝弘(1928-2018)の1945年から1955年までの約10年間にわたる日記を詳しく調査し、記述された内容を他の関係作家の日記・書簡等の資料や公刊資料によって裏づけをとりながら、比較検証していくものである。初年度にあたる2018年度は、山口の日記18冊およびノート8冊(ノートは一部、1960年代のものを含む)をスキャンしてデータ化し、さらにそれらに記された手書きの文章をパソコンで翻刻していく作業へと進んだ。一方で、各研究分担者がそれぞれ担当する時期の日記を読み込み、検討すべき課題について整理をはじめた。日記全体の概要およびその美術史的意義について五十殿利治は論考「「山口勝弘日記」(仮称)の調査研究について」をまとめ、筑波大学芸術系の研究誌『藝叢』(34号、2019年3月)に発表した。また大谷省吾は東京国立近代美術館においてコレクションによる小企画「瀧口修造と彼が見つめた作家たち」を開催し、同展の中で山口らの作品と、瀧口修造の周辺にいた他の作家たちとの「物質」の扱い方を比較考察した。西澤晴美は神奈川県立近代美術館に所蔵されている斎藤義重アーカイヴの手帳・ノート類、書簡類の資料整理を進め、山口勝弘をはじめとする実験工房メンバーとの交流について考察を進めた。斎藤の資料リストは同館ウェブサイトで一部公開しているほか、同館アーカイヴ事業に関する研究会(2019年1月18日開催、非公開)でも紹介を行った。
著者
小田 敦子 野田 明 武田 雅子 藤田 佳子
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

平成15年6月に海外共同研究者アニタ・パターソンを交えての第1回の研究会に始まり、毎月の研究会を持ち、15年から16年度はエマスンのエッセイを17年度は詩を中心にテキストの精読と、共同研究者がそれぞれ専門とするエマスンの同時代の作家・詩人の観点からの議論を続けた。共同研究会は難解なエマスンのテキストを読む効果的な方法で、エマスンのテキストの19世紀における受容の実態、同時代人たちはエマスンを「マスター」と感じ、エマスンに批判的であると考えられているホーソーンやあまり関係づけられることのないディキンスンでさえ、彼の言説に注目し影響を受けていたことがわかった。研究代表者の小田は、平成16年度にアメリカのホーソーン学会に採択された研究発表"The Old Manse and the Concord as Emersonian Symbol"や、アメリカ文学会関西支部大会シンポジアムでの発表「エマスンの‘The Master Word'」で、エマスンがホーソーンに与えた影響を指摘した。野田は、エマスンがメルヴィルに与えた影響について、特に、文学の独創性や文学テキストの引用行為に対する両作家の姿勢・考え方に焦点を合わせることで検証しようとした。武田は、紀要に「ディキンスンの捉えたエマスン-伝記的事実に見る」を発表したが、これを踏まえて、エマスンとディキンスンの関係についての先行の研究をまとめることで、エマスンの影響を考察した。藤田は、当時の興味深い問題、科学と文学のかかわりの点からエマスンとソローを考察しエマスンの特性を論じると共に、この面に於いてエマスンがソローに及ぼした影響を明らかにした。パターソンは、ホイットマンとエマスンとの間の両義的な感情に関するこれまでの研究を精査した上で、彼らの相違点にもエマスンがホイットマンに教えたものの影を認めた。
著者
速水 敏彦
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

これまで、動機づけの研究分野では外発的動機づけと内発的動機づけは対立する概念として扱われることが多かった。また、両者の関係に注目したいくつかの研究も認知的評価理論にみられるように外発動機づけの内発的動機づけへの妨害的効果が強調されてきた。しかし、子どもたちについての日常的観察からもわかるように先生や両親からの賞賛や賞品の授与、あるいはきびしい競争に勝ち抜くといった類の外発的動機づけは子どもたちのコンピテンスを高場させる面もあわせもっているように思われる。すなわち、外発的動機づけ→コンピランスあるいは自信の高まり→内発的動機づけの形成というル-トも考えられる。教育的視点からはこの過程にもっと注目して、どのような場合に内発的動機づけが生起するのか明らかにする必要がある。そこで、次のような研究が実施され、一定の結果をえた。(1)技能学習(ピアノ,習字,珠算,水泳などの学習)過程の検討:技能学習の初期、中期、終期での内発的動機づけや外発的動機づけについて大学生を対象にして回顧させるやり方で質問紙法により検討した。結果としては練習初期の外発的動機づけとその後の内発的動機づけとの間に正の関係が認められた。(2)幼児の課題遂行における外的報酬の効果の検討:個別実験的方法により検討した。この結果、幼児が課題遂行に成功した場合、言語的賞賛だけでなく、外的報酬も与えることが内発的動機づけの高さの指標である課題へのPersistenceを高め挑戦的な課題選択に関係することが明らかにされた。(3)教室場面での教師の子どもに対する動機づけ:小学校教師を対象にして1時間程度の面接を実施し、子どもに対する動機づけの実態や信念を尋ねた。教師の大半は小学校の低学年では賞賛競争,賞品といった外発的動機づけが子どもの内発的動機づけを形成するのに意味があるとみていた。
著者
出利葉 浩司 宮武 公夫 財部 香枝 矢口 祐人 宮武 公夫 財部 香枝 矢口 祐人
出版者
北海道開拓記念館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

明治年間に北海道を訪問し、アイヌの人びとに出会った西洋人とくにアメリカ人が残した記録類について、「出会い」という視点からながめてみることが本研究の目的である。日記、書簡類などのうち、ハイラム・ヒラー書簡、ロミン・ヒチコック講演草稿、セントルイス万国博覧会におけるフレデリック・スター収集資料記載情報については、翻刻、翻訳し、公表することができた。また、セントルイス万国博覧会、ロンドン万国博覧会をめぐる人類学的問題について、調査された資料をもとに、それぞれ論考をまとめることができた。
著者
綿村 英一郎
出版者
東京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2014-08-29

裁判員裁判で運用されている「量刑分布グラフ」によるアンカリング効果について、心理学的実験を行い検証した。一連の検証の結果、①量刑分布グラフのピーク(最頻値)が裁判員の量刑を誘導すること、および②検察官からの求刑と調整されることの2点について明らかした。また、従来の裁判員研究は評議を含めたものが少なかったが、本研究ではそれを含めており、生態学的妥当性の高い結果を示すことができた。以上の成果は、現在国際誌への学術論文としてまとめている。
著者
三好 知一郎
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

多くの真核生物にはレトロトランスポゾンとよばれるゲノム上のある場所から別の場所へと転移する因子が存在し、これらはときにがんなどの疾患の変異原として作用することが分かっているが、その転移機構は依然として不明である。本研究ではこの中でも現生人類で自律的に転移するLINE-1レトロトランスポゾンの転移機構解明に主眼をあて研究を行った。その過程で、1)DNA損傷を認識しこれを修復する多くの因子がLINE-1と物理的に相互作用すること、2)その中でもPARP1、PARP2という因子が転移に重要な働きをしていることが分かり、それらが関与する新たなDNA修復機構のモデルを提唱するに至った。