著者
中島 尚樹
出版者
調布学園女子短期大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

本研究(今年度実施分)では、英語における受動文の意味的条件となる概念の明確化、および、日本語の「テアル」の構文において「受動化」という性質がどのように導入されたか、という点を検討した。前者に関しては、これまでの研究から「影響性(Affectedness)」と「主語の特徴づけ」という概念を取り上げて検討した。まず、これらの概念が「状態/非状態」、stage/individualという概念、また、意味役割とどのような関係にあるかを調べた。一般に「主語の特徴づけ」という性質を持つ状態動詞の受動文は、受動化で移動する要素がその動詞の項でなくてもよいが、影響性に従う受動文のタイプにも、小節をとる知覚動詞の受動化の例など、その動詞の項でないものがあることが分かった。これらの意味概念を明確にするには、その概念が統語的にどの項との意味合成から得られるかということを明示することが有益であると思われる。この点をTenny(1987,1982)の「限定性(delimitedness)」stage/individualという概念を取り上げて検討した。また、これらの意味的条件の適用範囲を調べるために、統語的、意味的性質による受動文タイプの細分化を行なった。後者に関しては、受動化の性質を持つ補助動詞「テアル」をserial verb constructionとして分析し、本動詞「アル」の等位構造から補助動詞の「テアル」が生まれたという分析を動的文法理論の枠組みで検討した。この分析は、補助動詞「テモラウ」などにも一般に拡張して適用することが出来ると考えられ、今後この可能性も検討する必要がある。
著者
井山 諭 佐藤 勉 小船 雅義
出版者
札幌医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

多発性骨髄腫の予後は新薬の登場によって改善されたものの、造血幹細胞移植を行ってすら治癒を得られる症例はなく、新たな機序の治療法が希求されている。我々はこれまでにDPP4ファミリーに属するDPP8/9の活性を阻害する1G244 は骨髄腫細胞にアポトーシス細胞死を誘導することを見出した。このことはDPP8/9 の阻害を機序とする新たな骨髄腫の治療を示唆していると考えている。そこで本研究では、1G244 の抗骨髄腫効果を検討し、更にそのシグナルを解析した。
著者
櫻井 美佳
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

アトピー性皮膚炎、掌蹠膿疱症、関節リウマチおよびクローン病等の慢性炎症性疾患において、血清ビオチン値の低下やビオチン投与による症状の改善が報告されているが、ビオチン代謝がこれらの疾患発症にどのように関わるのか、その機構は殆ど明らかにされていない。当研究室の先行研究により、血清ビオチン値とスギ花粉症の発症との間に有意な相関が見られていることから、本研究ではスギ花粉症のモデルマウスやヒト鼻粘膜培養細胞の炎症モデルを用いて、ビオチンが炎症性サイトカイン、ケモカイン、MMPの発現、分泌にどのように関与するのかそのメカニズムを明らかにすることを目的としている。昨年度までに、アジュバントを用いずに花粉症を誘導するマウスモデル系を確立したが、本年度は、4週齢より約2ヶ月間通常あるいはビオチン除去飼料により飼育したマウスに対して花粉症を誘導し、ビオチンの有無がその症状や分子病態に与える影響を解析した。その結果、精製スギ花粉抗原 Cry j1の局所感作による鼻かきの症状はビオチン(+)と比較してビオチン(-)の方が高い傾向が見られたが、ビオチン(-)についてはPBSでも鼻かきを起こす個体が見られたことから、SPFでない飼育環境では、ビオチンの除去そのものがアレルギー性疾患の発症に関与する可能性が考えられた。現在、鼻粘膜細胞におけるサイトカイン(IFN-gamma、IL-5、IL-4)の遺伝子発現や免疫組織学的解析により好酸球浸潤を検討している。
著者
谷口 隆晴
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究では,ハミルトン偏微分方程式に対するエネルギー保存型数値解法を導出する新たなフレームワークを提案した.提案したフレームワークでは,エネルギー保存型数値解法は方程式を定めるラグランジアンの時間対称性から導出される.この方法は既存の方法と比べ,様々な対称性を用いることで他の保存量を保存する数値解法を導出できるなど,応用範囲が広い.また,このフレームワークの拘束をもつ系への拡張や,局所保存則を保った数値解法の導出法の創出,離散微分形式の理論との連携なども行った.
著者
小林 健太 土屋 卓也 渡部 善隆 劉 雪峰 高安 亮紀
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

平成29年度において得られた成果は以下の通りになります。小林健太(代表者)および土屋卓也(分担者)は非適合有限要素法の誤差評価について研究を進め、必ずしも正則性条件を満たさないような三角形分割上でのCrouzeix-Raviart有限要素法およびRaviart-Thomas有限要素法について誤差評価を得ることに成功しました。非適合有限要素法は、実際に広く用いられているにも関わらず、三角形分割に制限を課さない誤差評価は今まで得られていませんでしたので、この結果は実用上も重要です。渡部善隆(分担者)は、重調和型非線形方程式の解に対する精度保証付き数値計算の枠組みを理論面・実用面から整備しました。これは今後、流体方程式の精度保証を考える上で基礎となる重要な結果です。また、Poisson方程式の有限要素近似解に対する精度保証付き高精度誤差評価に成功しました。この成果は、他の方程式に対する精度保証の高精度化にも応用できる可能性が高いと考えられます。劉雪峰(分担者)は、Stokes方程式の事前誤差評価とStokes微分作用素の固有値評価を中心に研究を行い、特に、3次元領域におけるStokes微分作用素の固有値の厳密な下界と上界を得ることに成功しました。また、Stokes境界値問題の有限要素法解について、Hypercircle法を用いることで事前誤差評価に成功しました。さらに高安亮紀(分担者)は、半群理論を利用した放物型方程式に対する解の精度保証付き数値計算方法を応用し、非線形放物型方程式の時間変数を複素数に拡張した方程式の解について精度保証付き数値計算を試みました。また、双曲型方程式の一種である移流方程式に対する解の精度保証付き数値計算に成功しました。劉および高安の結果は、流体問題やその他、複雑な構造を持つ方程式への精度保証付き数値計算の応用に向けて重要であるといえます。
著者
山本 野人 中村 健一
出版者
電気通信大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、力学系の研究のための精度保証ツールを開発するため、☆既存の精度保証の技法を再点検してさまざまなテクニックを取り込むこと☆手法の統合や計算効率向上のための新しい理論・技術をつくり出すことを目指し、以下のような研究開発を行った。常微分方程式初期値問題の精度保証法としては、Taylor展開とその打ち切り誤差の評価に基づく方法(Lohner法・TM法など)が主流となっている。これらは時間分割点の上での関数値の包み込みに主眼をおき、時間ステップの進行に伴う特殊な累積誤差(Wrapping Effect)の軽減のために様々な技法が展開されている。これに対し、偏微分方程式の精度保証法である中尾理論を用いても常微分方程式の精度保証を行うことができる。そこで、1)初期値問題に対しstepwiseに中尾理論を適用した場合のWrapping Effectの軽減法2)初期値問題に対し考えている時間範囲の全体に中尾理論を適用した場合に現れる大きなシステムの取扱い3)初期値問題の解の最終時刻における値を包み込むため、境界値問題に対する中尾理論を利用した方法について研究を行い、これらについて3つの海外での国際研究集会をはじめとする複数の国際学会、およびいくつかの国内の研究集会で発表した。研究業績リストには主なもののみを記す。
著者
村重 淳
出版者
公立はこだて未来大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

カオスに代表される複雑な非線形現象を体系的にとらえるためには, システムの基本的な状態(平衡点, 周期解など)の安定性を調べる必要がある. 本研究では, 常微分方程式で与えられるシステムの周期解の安定性を, コンピュータを用いて数値的に精度良く調べる方法を提案した. 代表的な常微分方程式に対して提案手法を適用した結果, 従来の手法ではかなり誤差が大きくなる条件でも, 精度の良い計算結果が得られることがわかった.
著者
宮武 勇登
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

現代科学の多くの分野で,長時間スケール数値計算の需要が高まっている.そのためには,微分方程式の数理的/物理的性質(例えばエネルギー保存則)を活用した構造保存数値解法が適切だが,計算機パワーのハード面の成長に伴い,現場のニーズも多様化・大規模化している現在,精度と計算コストのギャップといった問題がこれまで以上に顕著化している.これらの問題に対して,現状では,各分野の専門性や経験によって解決案が研究されているが,本研究では,より数理的/分野横断的な立場から,汎用性の高い高速かつ高精度な並列構造保存数値解法を開発することを目的とする.本年度はこの目的に対して,主に,微分方程式を離散化した際にあらわれる線形方程式の性質やその解法に関して研究を行った.不連続Galerkin法は比較的容易に高精度な離散化を行える一方,離散化後にあらわれる線形方程式の性質(条件数など)が悪くなることがある.この問題に対する先行研究として,離散化の際に人工的なパラメータを導入するアイデアが知られており,本研究では,構造保存不連続Galerkin法への展開を考え,実際にいくつかの散逸系に対しては有用性を確認できた.ただし,保存系に対してはこのアイデアの素直な適用は難しく,また散逸系に対しても,ほとんど効果の見られない問題例も存在する.その他にも,線形方程式を数値計算するための反復解法についても研究を行い,新しいタイプの適応型SOR法を導出した.
著者
田中 智子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

2011年度に開始した助成事業「官立高等学校設立史の研究――「学都」論序説――」(課題番号23531029)を、最終年度前年度応募によって引き継いだ。主に、文部省「八年計画」を契機とした「ナンバースクール」(第六~第八高等学校)の設置過程、第一次世界大戦後の各「地名校」設立経緯、京都における七度の官立学校設置(誘致)構想について、文部省ならびに地域の諸勢力(県知事・県会・市会・ジャーナリズム・旧藩主・地域出身中央官僚など)の動向、地域の負担実態を明らかにした。並行して、今日、文部省と地方行政府あるいは国立大学法人が主体となって地方都市で行われている「学都」創生諸事業に対する評価を行った。
著者
日野 正輝
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

タイ北部の中心都市チェンマイ周辺に立地する中高等教育機関の新規学卒者の進路先調査を実施した。その結果、次の点が明らかになった。(1)高校卒業者の大学・職業専門学校等への進学率は先進国並みの水準にある。(2)地元高校の卒業生の地元大学に進学する傾向は強い。(3)大学卒業者の多くはチェンマイを中心にした北部に就職している。(4)次いで、バンコク都市圏に就職する者が多い。その点では、高等教育機関が北部からバンコク都市圏に若年の高学歴の労働力を送り出す働きをしていると言える。
著者
大石 進一 渡部 善隆 西田 孝明 柴田 良弘 山本 野人 中尾 充宏 中尾 充宏 西田 孝明 柴田 良弘 山本 野人 渡部 善隆
出版者
早稲田大学
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2005

偏微分方程式や線型方程式等において,計算機を用いて数値的に得られた近似解に対し,その誤差限界も定量的に計算機で与える精度保証付き数値計算の研究を推進した.ベクトルの総和や内積を計算する問題は科学技術計算の基本であるが,この問題に対して精度が数学的厳密に保証された結果を返す世界最高速のアルゴリズムを開発した.このアルゴリズムは,応用として,スパース行列に関する計算や計算幾何学にも波及した.また,偏微分方程式の解の存在証明,一意性の証明及び近似解の精度保証を行う多くの有用な方式を開発することに成功した.
著者
高安 亮紀 大石 進一 久保 隆徹 松江 要 水口 信
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

世の中の自然現象を数学問題にモデル化すると偏微分方程式と呼ばれる未知関数の微分に関する関係式が頻出する。これを数学的・数値的に解いて未知関数を特定することが自然科学の分野での研究対象となる。本研究では、固体燃料の燃焼理論や生物増殖の数理モデルなどで現れる非線形放物型方程式と呼ばれる偏微分方程式のクラスに対して、その初期値境界値問題の解が数値計算で得られた近似解の近傍に存在する、あるいは存在しない事を、数値計算によって証明する計算機援用手法を開発した。これは精度保証付き数値計算と呼ばれ、微分方程式の数学解析に対する現代的なアプローチとして注目を集めている。
著者
高安 亮紀
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

線形化微分作用素に対する逆作用素のノルム評価法:線形化微分作用素の可逆性の証明は偏微分方程式の精度保証付き数値計算において重要な役割を占めている.本研究では自己共役な線形化作用素に対して,楕円型作用素の実固有値を用いて可逆性が検証できる事を示した.そしてLaplacianに対する精度保証付き固有値評価をもとにした固有値評価を導出し,計算された固有値を利用するノルム評価方法を確立した.提案手法は先行研究に比べ検証が成功しやすく,よりタイトな評価を可能にする事が特徴である.さらに,これまでの任意多角形領域上における計算機援用証明法の技巧を用いることで,任意多角形領域に対応することができ,より実用的な逆作用素のノルム評価方法を提案することができた.提案手法の反応拡散系数理モデルへの適応:任意多角形領域上における計算機援用証明方法の応用例として,2つの未知関数(u,v)に関する反応拡散系の非線形連立偏微分方程式を考える.反応拡散方程式は主に化学,生物学,物理学などに表れる現象を記述した方程式である.本研究ではFitzHugh-Nagumo方程式と呼ばれる神経繊維上の電位の伝播モデルを考え,反応拡散方程式の定常解を任意多角形領域上で計算機援用解析できるようにした.これは昨年度提案したHyper-circle equationとNewton-Kantorovichの定理を基礎とする精度保証付き数値計算手法の自然な拡張である.適応にあたり,先行研究では成されていなかった作用素項が含まれる固有値問題に対する精度保証付き評価を提案するなど,既存の理論の応用だけではない新たな手法の発展が適用を可能にした.
著者
松尾 宇泰 相島 健助
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

現代科学・工学では,微分方程式の数値計算に基づくシミュレーションが必須であるが,扱う問題が飛躍的に大規模化する一方,ムーアの法則の終焉により,並列(高性能) 計算のみに頼った性能向上は以前ほど望めなくなっている.本研究は,この状況を本質的に打開するために,数値解析学における最先端の2大トレンド,「構造保存数値解法:方程式の数理構造を活用することで物理的に適切な数値解を保証する手法」,および「モデル縮減法:大規模方程式を低次元近似することで数理的に計算量を削減する手法」を組み合わせ,数理的手法により,物理的に正しい数値シミュレーションを高速に行う,新しい数値計算法の枠組を創出することを目指す.平成29年度は,まず非線形シュレディンガー方程式に対してSymplecticモデル縮減法を適用し,良好に動作することを確かめた.またカーン・ヒリヤド方程式など散逸型の方程式に対して,最新の(非構造保存的)モデル縮減法をいくつか実装し,それらの有効性をある程度確認した上で,構造保存的でないモデル減ではこれらの方程式のモデル縮減に限界があることを初めて明らかにした.以上の成果は,「構造保存的モデル縮減」という考え方がモデル縮減においては必須であり,その方向の研究が望まれることを改めて示すものである.また動的モード分解法について検証し,その新しい拡張を与えた.さらに,一般線形系に対するある種の乱択アルゴリズムについて,初めて理論的収束証明を与えた.
著者
鈴木 幸人 大縄 将史
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

既に提案されている圧縮性Navier-Stokes方程式に対するGENERICによる定式化の手法を調査・検討し,今後の利用に向けて理論を整理した.またvan der Waalsの状態方程式をもつ圧縮性流れに対して,そのGENERIC定式化に離散変分導関数法とmimetic finite difference法を適用することを検討した.さらに,非圧縮流れに対する三次元渦度方程式にCahn-Hilliard方程式あるいはAllen-Cahn方程式を組み合わせたdiffuse interface modelに対しても同様にGENERIC型の定式化と構造保存型数値解法の適用性を検討した.その結果,このdiffuse interface modelに対しては歪対称のPoisson括弧と半負定値対称の散逸括弧を用いた定式化が可能であり,それにmimetic finite difference法と離散変分導関数法を適用できることが明らかになった.そこで,それらに基づき,三次元Euclid空間上のde Rham複体の構造を正しく受け継ぐとともに,運動エネルギーとヘリシティが非粘性流れにおいては正確に保存し,粘性流れに対しては適切に散逸する数値計算手法を開発した.特に,これは流れの物理的解釈において重要な意味をもつ運動エネルギー,ヘリシティ,エンストロフィーの収支をそのまま離散式で模擬できるような計算手法になっている.また実際にC++言語による計算プログラムを作成し,それを用いて周期的に配置された液滴の表面張力による振動運動の計算を行って,開発した数値解析手法の有効性を確認した.
著者
加藤 純一 山口 一郎 山口 一郎 渡部 裕輝 加藤 純一
出版者
特殊法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究の目的は、可視域ほど良い結像素子のない赤外域で良好な3次元像を結像素子を使わないデジタルホログラフィによって形成し、さらに位相の再生機能による干渉計測や顕微鏡機能の実現を図ることにある。まず広い範囲の可視光の3波長(He-Cdレーザー、636nm,537nm,441nm)を使い、位相シフトホログラフィによりカラー像の再生に成功した。この場合、ピエゾ鏡の移動によって与えられる位相シフト量は、中央の波長に対しては正しいが両端の波長では誤差を生じる。その影響をコンピューターシミュレーションにより見積もった結果、大きな影響のないことがわかった。再生における二種類のアルゴリズムの適用条件と像の違いを明らかにした。また移相板と偏光子を組み合わせたachromatic phase shifterを使って、この位相シフト誤差を解消した実験を行ない、良好な再生像を得ることができた。赤外の実験で波長830nm、出力30mWの半導体レーザーを使って、点物体、拡散物体、および位相物体の再生に成功した。位相の再生機能を利用して、鏡面や水面の形状を簡単な光学系で定量的に計測することができた。また拡散面の場合には、物体照射の角度の変更または物体の変形の前後に対する再生位相の差を取って、表面形状や変位分布を633nmのレーザーを使い、それぞれ10μm、10nmの感度で測定できた。結像レンズを導入した物体サイズの拡大も行なった。以上の結果から位相シフトデジタルホログラフィを赤外域に適用することによって良好な3次元像が得られ、可視光に対して不透明なシリコン結晶や生体の3次元計測への応用の見通しが立った。
著者
田中 一之 山崎 武 服部 哲弥 小澤 正直 黒田 覚 隈部 正博 服部 哲哉 小澤 正直 鈴木 登志雄 黒田 覚 隈部 正博 鹿島 亮
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究の主題は, 超準的手法の論理的基礎付けである. 従来集合論をベースに行われた超準的議論を, 計算可能性と結びついた2階算術の弱い体系において実行することにより, 命題の構成的な内容まで超準的に得られるようにする. 代表者が考案した2階算術の超準的方法論の改良と整備を行いながら, 2階算術の超準モデルを研究し, 同時に実数集合の計算構造について探査する. とくに, ランダムな無限列としての実数とその集合の性質を調べる.
著者
柴田 潤二
出版者
熊本大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

HIVのエンベロープタンパク(Env)を標的とし、感染を抑制する抗体を誘導するワクチン開発が求められている。しかし、HIVはEnvを変異させ、中和抗体から逃避することができる。変異が引き起こす中和抗体逃避メカニズムを詳細に解明することは、ワクチン開発を行う上で重要である。我々は、これまでにHIVの抗gp120-V3領域中和抗体(抗V3抗体)からの逃避に関する研究を行ってきた。V3領域はHIVが標的細胞に感染する際、受容体との結合に重要な領域であり、この領域を標的とした抗体には強い中和能があることが知られている。抗V3抗体を用い、この抗体から逃避するような中和抵抗性ウイルスを誘導したところ、エピトープ以外の領域であるV2領域の数アミノ酸変異で逃避できることが分かった。そこで、本年度はV2領域変異が引き起こす中和抵抗性メカニズムを詳細に解析した。site-directed mutagenesis法を用い、gp120のV2領域の変異を組み合わせたウイルスを作製し、中和感受性に影響を与える変異を探索したところ、L175P変異が抗V3抗体に対する感受性を20000倍以上上げることが分かった。その変異はウイルス膜上に存在する三量体gp120の立体構造に影響を与え、中和感受性を変化させる働きがあることがわかった。つまり、HIVは感染に最も重要と考えられるV3領域を守るため、エピトープ以外のV2領域に変異を入れることにより三量体構造を変えてエピトープを隠し、中和抗体のプレッシャーから逃れることが分かった。本研究により、今後、中和抗体誘導ワクチンを開発するためには、(1)V2領域の変異に左右されないエピトープを標的とした抗体の誘導、(2)V2領域が変異しても、隠れたエピトープを露出させる方法の探索、などが必要であることが示された。
著者
植戸 貴子 杉野 昭博 新道 由記子
出版者
神戸女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

親による知的障害児者の殺害予防やケアの抱え込みの解消を目的とした相談支援の実践方法について実証的研究を行った。相談支援従事者及び母親に対する調査を実施した結果、子の世話に熱心に取り組む母親には、世話に積極的な意味を見出して子の自立や社会参加を促そうとする「開かれたタイプの母親」と、子と一心同体になり世話に限界や孤立を感じている「閉じたタイプの母親」がいることが分かった。更に「母親によるケアから社会的ケアへの移行」の促進要因と阻害要因を抽出し、それらを踏まえて「社会的ケアへの移行」に向けた相談支援の実践ガイド(案)を作成し、熟練相談支援従事者の意見を踏まえて実践ガイド(案)を修正した。