著者
宮崎 安将 金子 真也
出版者
独立行政法人森林総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

きのこの子実体形成には光が必要である。シイタケの光受容体遺伝子 Le.cry は、担子菌初のクリプトクロム型光受容体をコードしていた。その産物Le.CRY の解析 の結果、青色光領域を吸収し子実体形成に関わることが示唆された。プロテオーム解析の結果、 リン酸化や糖鎖付加などの翻訳後修飾を介して、子実体形成に関わる代謝経路やシグナル伝達 経路が存在することが分かった。トランスクリプトーム解析の結果、光応答遺伝子群を網羅・ 同定した。
著者
宮崎 安将 金子 真也 坂本 裕一
出版者
国立研究開発法人 森林総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

シイタケの子実体形成には光が必要である。現在までに光受容体をコードする遺伝子phrA, phrB, Le.cryを単離・同定しているが、光受容体は光を一番最初に受け取る分子であるため、これらの発現は分化ステージによらず、構成的であることが多い。そこで、きのこ類に存在する光応答メカニズムを含めた関連因子(タンパク質)を網羅するため、シイタケにおける子実体形成過程を①栄養増殖菌糸、②子実体原基、③成熟子実体に分け、各々の試料から細胞内タンパク質を抽出し、二次元電気泳動に供した。3種の蛍光染色(全タンパク質染色、リン酸化タンパク質染色、糖鎖付加タンパク質染色)を行い、モレキュラーイメージャーにて解析した。検出されたタンパク質は、各々の分化ステージにおいて約6000種類、リン酸化タンパク質は約300種類、糖鎖付加タンパク質は約30種類存在することが明らかとなった。発現に差異のあるスポットをゲルから切り出した後プロテアーゼ処理を行い、目的タンパク質の分解産物(ペプチド)画分を得た。サンプルはLC-MS/MSにてアミノ酸配列解析を行った後、タンパク質質量分析器データベース(マスコット・サーバー)に対し相同性検索を行い、目的産物タンパク質を同定・機能推定を行った。その結果、子実体形成期に特異的に発現するタンパク質は、その発現が上昇するもの(脂肪酸分解酵素、ATP合成タンパク質、G-タンパク質ファミリー、細胞骨格タンパク質、シグナル伝達関連因子等)と、一方減少するもの(カタラーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、オキシドレダクターゼ等)が同定された。これらタンパク質は、現在までのトランスクリプトーム解析によるデータと照らし合わせ、きのこの子実体形成期間に細胞内で起こっている代謝やシグナル伝達経路を如実に反映しているものと示唆された。
著者
那谷 耕司 菅原 明
出版者
岩手医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

EXTL3はヘパラン硫酸の生合成に関与する糖転移酵素である。本研究では膵β細胞特異的にEXTL3を欠失したマウスを作製した。このマウスでは膵β細胞の増殖能が低下しており,ランゲルハンス島に特徴的なマントル・コア構造が認められなかった。またインスリン分泌が低下しており,耐糖能異常が認められた。以上の結果から, EXTL3が合成するヘパラン硫酸が,膵β細胞の増殖,インスリン分泌機能において重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
著者
皆月 昭則 西川 奏 三好 邦彦 渋谷 卓磨 土田 栞
出版者
釧路公立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

医療資源の集約化による地方・地域の長距離移動マタニティの存在を明確化して,マタニティ支援アプリを開発した.アプリは,スマートフォンとクラウド基盤によって,妊娠期のマタニティへ情報・知識を表示する機能や妊娠後期においては陣痛推移機能と記録の共有が可能である.開発では,地域の行政の保健師・医療機関の専門家の知見を用いながら実装し,医療者の検証によって改良したアプリケーションをホームページサイトで公開配付した.
著者
菊本 統 中島 伸一郎 小山 倫史 酒井 直樹
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では,吸排水に伴うヒステリシスや体積変化による飽和度変化の影響も考慮した発展型の水分特性曲線モデルと、それを組み込んで締固め過程から変形・破壊までシミュレートできる不飽和土の構成則を開発した。これらのモデルの適用性は,排気非排水圧縮や浸水,せん断シミュレーションを通して検証し,同モデルを用いれば最適含水比と最大乾燥密度を持つ締固め曲線を解析的に表現できることを明らかにした。さらに,有限変形理論に基づいて、2年目までに開発、検証を行った構成モデルと水分特性曲線モデルを組み込んだ有限要素解析コードを開発するとともに、大変形問題のシミュレーションを通して検証を行った。
著者
山岸 典子 Matthew de Brecht
出版者
国立研究開発法人情報通信研究機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

同じ人が同じ作業をやる時でも、ある時はうまくでき、あるときはうまくできない。この違いは、作業を行った時の注意や準備状態に大きく左右されている。本研究では研究代表者が開発した「準備内観報告パラダイム」による行動実験の知見を基に、準備状況の進行過程の神経メカニズムを明らかにすることを主目的とした。「準備内観報告パラダイム」に基づいたfMRI並びにMEG実験を実施し、rCMAが準備に関わる脳部位であることを特定した。また、リアルタイムで脳活動を読みだしコーディングができるハードウェアシステムを構築し、脳活動から被験者の注意や準備状況を推定することに成功した。
著者
後藤 恵 梶 龍兒 森垣 龍馬
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

大脳基底核回路の中核的役割を演じる線条体にはストリオソームとマトリックスと呼ばれる2つの機能分画が存在する。研究期間内に、ジストニア症状を呈する遺伝子改変動物モデルまたヒト疾患モデルではドパミンD1受容体シグナルの低下がストリオソームに選択的に存在することを見出した。さらに、ジストニアを主症状とする線条体変性疾患ではストリオソーム優位の神経細胞脱落がみられるが、このコンパートメント特異性病変の形成にニューロペプチドYやPSD-95 などの神経保護因子の発現が関与していることを示した。これらの所見はジストニアの発現機序として私が提唱する“ストリオソーム仮説”と符号するものである。
著者
水内 俊雄 吉原 直樹 高木 彰彦 山野 正彦 野澤 秀樹 竹内 啓一 久武 哲也 水岡 不二雄
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

本研究グループのテーマは次の3つに設定されていた。(1)地理思想、(2)地政学、(3)最近の地理学の理論的動向のキャッチアップであり、こうした成果を直ちに公刊するという課題を掲げていた。この、成果の公刊という点では、3年間の研究助成を通じ、『空間・社会・地理思想』を1号から3号まで刊行し、論説3本、フォーラム5本、翻訳22本を掲載したことを指摘しておきたい。本雑誌が人文地理学会に与えた影響は大きく、良書、良論文の翻訳が根づかないといわれた中で、欧米の地理学会を代表するハ-ヴェイ、ソジャ、グレゴリーを始め、多くの地理学者の近年の成果を翻訳し、他の諸学問において空間論へのまなざしが強くなっている中、地理学での理論的議論を深める基礎を提供したと考えている。特に、2号ではハ-ヴェイ特集、3号ではジェンダー地理学特集を組んだ。こうした翻訳のみならず、政治地理学と唯物論の関係、批判的地理学とは、社会問題に対する地理学の貢献、フ-コ-の空間論の地理学への影響、地政学研究の課題といった理論的研究動向が整理された。日本の地理思想での貢献として、福沢諭吉の地理的研究の書誌学的系譜が明らかにされ、日本の経済地理学の思想的動向と批判的地理学との関係も学史的に明らかにされた。海外に関してもIGUの地理思想史研究委員会の活動も学史的に明らかにされた。こうした本研究グループの活動を通じて、研究分担者によって『ドイツ景観論の生成』、『空間から場所へ』という2つの著書が公刊されたことも、その貢献として強調しておきたい。
著者
平井 悠久
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

本研究は、電力の制御に関わる技術体系であるパワーエレクトロニクスにおける、要素素子の高性能化に関する研究である。シリコンカーバイド(SiC)は、次世代パワーエレクトロニクス材料として要素素子の性能を向上可能な物性を有しているが、SiCと絶縁膜を積層して形成するMOS界面に導入されてしまう界面欠陥の除去が技術的課題である。本研究は、SiC/SiO2からなるMOS界面の材料学的な構造を、電子デバイスにおいて重要となるナノメートル領域に対して調査し、電子デバイスの性能を向上させる手法を獲得することを目的として行った。本年度は、昨年度に着目したウェット雰囲気を応用した実験により、4H-SiCのSi面上に形成したMOS界面の電気特性の評価を行った。ウェット雰囲気を用いて、MOS界面の特性を表す重要な指標であるチャネル移動度およびしきい電圧に注目して評価を行った。現状の技術では、これらはトレードオフ関係にあるが、本研究では両者を独立に制御する手法について検討した。その結果、界面近傍の領域のみを選択的に処理する低温(800度程度)ウェット処理を用いることで、チャネル移動度を現状の標準プロセスと同等以上に向上させつつ、しきい電圧を構成する一つの成分であるフラットバンド電圧の変動を独立に制御できることを明らかにした。これは、低温を用いることで界面にのみ選択的にウェット処理の効果を適用し、フラットバンド電圧変動の原因となる電荷の形成を抑制することが可能になったためと考えられる。本研究の成果の一部について、当該分野最大の国際会議であるICSCRM2017において口頭発表を行った。このように、チャネル移動度向上のためのSiC上のMOS界面形成に対するプロセス指針を提示した。
著者
荒波 一史
出版者
独立行政法人国立環境研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

昨年度に引き続き、英国との共同研究を行った。まずは、殺菌剤のトリクロサンが、紫外線照射下で脱塩素化して二塩化ダイオキシンになることに着目し、純水と淡水と海水を用いて、人工光照射下での光分解実験を行った。その結果、純水中のトリクロサンはほとんど分解せず、淡水に比べて海水中のトリクロサンの方がほぼ倍の速さで分解した。これは、環境水中に含まれる有機物や塩類が、トリクロサンの光分解を促進していることを示唆する。特に塩類の効果に関しては、本研究で初めて示された。一方で、ダイオキシンは海水中で残存しやすいことが示唆された。次に、揮発性および残留性有機化合物における、炭素と塩素の安定同位体比(13Cと37Cl)および炭素の放射性同位体比(14C)に関する文献を集め、個別化合物おける各種同位体比の測定法、起源推定における適用例をレビューした。その結果、新しい炭素が含まれる生物起源炭素と古い炭素が含まれる人為起源(化石燃料起源)炭素を識別できる14Cが、最良の起源推定ツールとして示された。一方で、13Cと37Clに関しては、環境動態(同位体分別効果)を調べるツールとしての可能性が示された。そこで、英国沿岸で採取した汚染底質の抽出試料を分画し、Natural Environment Research Councilに13C測定を依頼し、14C測定のためにプリマス大学で分取型GCを用いて分取濃縮した。また、国際学会では「バイオアッセイを用いた廃油中PCBの簡易分析法の開発」と「トリクロサンの光分解」を発表した。閉会式では、注目すべき研究として、後者の研究が紹介された。
著者
佐々 充昭
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

1992年中韓国交正常化の後、中韓の歴史学者を中心に中国内にある韓国系独立運動関連史跡に関する調査が行われた。その後、中韓関係の緊密化により、それらの中の重要なものが韓国系資本によって整備・復元された。特に中国東北部には数多くの関連史跡が存在し、それらは今や多くの韓国人旅行者たちが訪れる有名な観光地となっている。またこの地域は、高句麗の帰属をめぐって中韓間で歴史認識論争が行われている場所でもある。本研究では、中韓間で先鋭化している歴史認識論争や中国内の朝鮮族コミュニティーの動向と関連づけながら、中国東北部において観光地化が進んでいる韓国系独立運動関連史跡の実態について明らかにした。
著者
山下 政克 桑原 誠 鈴木 淳平
出版者
愛媛大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

CD4 T細胞は抗原を認識して活性化すると、細胞内のエネルギー代謝系路を変化させ増殖することが知られている。しかし、CD4 T細胞の機能分化におけるエネルギー代謝経路変化の役割は不明であった。今回、私たちはグルタミン代謝のヘルパーT細胞(Th)サブセット分化における役割を解析し、グルタミン代謝によって作り出されるα-ケトグルタル酸が、サイトカイン遺伝子座のエピゲノム状態を制御することでTh分化を調節していることを見いだした。
著者
佐藤 幸男 YAKOVLEV Ale BONDER Alexa RAZJUK Rosen CHERSTVOY Ye LAZJUK Genna 松浦 千秋 武市 宣雄 大瀧 慈 AKOVLEV Alexander ALEXANDER Ya ALEXANDER Bo ROSENSON Raz YEGENY Chers GEUNADY Lazj ROSENSON(DMI(ローゼンソン(ドミトリ) ラジュク) YEVGENY Cher GENNADY Lazj
出版者
広島大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

研究目的1996年はチェルノブイリ原子炉事故から早くも10年目を迎える。我々は事故後4年目の1990年からベラル-シ、ウクライナ共和国の被災地に赴き、特に1992年からは約10数回現地に出向してチェルノブイリ核被災の後障害の調査を行ってきた。その目的は、広島型原爆とは被曝の形の異なる、急性外部および慢性内部被曝が人体にもたらす影響の全体像の把握に務め、その結果を今後の疾病の診断や治療の参考に供する基礎的資料を提供することにある。さらに、現場での観察の視点を重視し、放射能被災を過大又は過少評価することなく種々な専門的立場からの調査・研究をすすめ、その作業過程での人的交流の深まりが核の被災のない社会の創造に向けての一里塚になるであろう事を期して、今後も長期にわたる交流を継続する事も本調査・研究目的の大きな部分を占めていると考えている。研究の内容・方法先天異常研究の内容・方法チェルノブイリ原子炉事故の被災は、ウクライナ、ベラル-シ、ロシアに及ぶがその汚染面積や人的被災はベラル-シ共和国において顕著である。ベラル-シのミンスク遺伝性疾患研究所では1970年代から先天異常児登録のモニタリングシステムを確立し各地から送られる先天異常児の剖検、病理組織的検索、細胞遺伝学や生化学的諸検査も行われている。我々はそこでの共同調査、研究を志向し胎児の剖検、組織検索、資料の検証などを行った。放射能災害が生じた場合、妊婦が被曝すると流産、死産および胎内被曝の結果としての先天異常が最小に生じ、被曝の初期像を観察するのには不可欠な指標である。一方、精原又は卵母細胞が被曝した結果生じる遺伝的な先天異常の観察は長期にわたる観察が必要である。先天異常は放射能事故前も事故後も存在し、且つそれらの多くは複数の遺伝子と環境要因の相互作用で生じる多因子のものが多くを占め突然変異によって生じる骨の異常などは多くはない。そのため、放射線依存性の異常の同定にも長期にわたる資料の収集と解析が必要となる。我々は現地における約30,000例の剖検資料を事故前と事故後、およびセシウム137高濃度汚染地区と低濃度汚染地区(対照)に区分しそれらの発生頻度の差異を調べた。現在も個人や地域の被曝線量の資料の発掘や資料の収集を継続中である。小児甲状腺癌研究の内容・方法事故後数年頃から汚染地区での小児甲状腺癌の増加が指摘され始めた。ベラル-シではミンスク甲状腺腫瘍センター、ウクライナではキナフ内分泌代謝研究所に集約的に手術例が集まるシステムが確立されている。我々は汚染地域での調査や検診と併行して同研究所での小児甲状腺癌の病理組織標本検証、ヨード131との被曝線量依存性、統計的資料の収集、甲状腺ホルモンの機能検査、癌遺伝子活性の解析などを行った。結論・考察先天異常調査の結論・考察 事故後の高濃度汚染地区から得られた人工および自然流産児両群の剖検例に、低濃度汚染地区から得られた対照児の剖検例よりも高頻度に先天異常が認められた。その傾向は1986年から1年間の胎内被曝例で顕著であった。事故前と事故後の剖検例での比較でも事故後に奇形の多い結果が得られた。奇形の内容は多岐にわたき多指症など突然変異によるものの頻度の増加は軽度で放射線被曝以外にも複数の環境要因の関与が示唆された。小児甲状腺癌の結論・考察 広島の原爆被曝者にも例をみない本疾患の発生は現在ベラル-シ、ウクライナで400例を超えている。それらの多くは乳頭癌で、且つ1.5cm以上の大きさの、いわゆる臨床癌に属するものでありヨード131高濃度汚染地域で多発の傾向にある。セシウム137やストロンチウム、プロトニウムの関与、線量依存性の調査は今後の課題である。少数例乍らも小児甲状腺癌の病理組織標本からRET癌遺伝子活性が検出可能となり、その増加がゴメリ地方の高濃度汚染地域で認められ、放射線被曝との関連性がより濃厚となった。
著者
中村 正久 高瀬 稔
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

両生類の性腺分化は、組織・形態学的には、変態前、変態最盛期、あるいは変態後のいづれかの時期に起きることが知られている。本邦産のカエルに性ホルモンを投与すると種によっては機能的な性の転換(性巣⇔卵巣)が見られる。本研究は両生類の性分化に係る遺伝子を人為的に発現させ、それらの遺伝子を解析することによって哺乳類をふくめた脊椎動物の性分化のしくみを明らかにすることを目的としている。研究材料のツチガエルは性ホルモンで性が転換(雌→雄)することから、当初、ステロイドホルモンの合成及び代謝酵素が性腺分化に関与していると考え、3β-ヒドロキシデヒドロゲナーゼ5α-レダクターゼの遺伝子の単離を試みた。二つのcDNA(ヒト、ニジマス、ラット等)をプローブとしてスクリーニングを行ったところ、いくつかの陽性クローンを得たので、塩基配列を決定し、ホモロジー検索を行ったが、目的とする遺伝子ではなかった。そこで、哺乳類で性腺及び副腎の分化を支配すると考えられているAd4BP遺伝子が両生類の性腺分化においても重要であると考え、この遺伝子の単離を試みたところ、2.1kb Ad4BP全長cDNAを得た。現在、その全塩基配列の決定及び発現時期を決定している。また、テストステロン処理個体から全RNAを既に得ているので、テストステロン処理個体のAd4BP遺伝子の発現に変化があるかどうかも検討している。更に、二つのCa^<2+>結合蛋白、カルレティキュリンとカルネクシンcDNAを得、全塩基配列も決定した。この二つのCa^<2+>結合蛋白遺伝子の発現は組織によって著しく異なり、前者が分化時卵巣で強く発現するが、後者は発現しない。カルレティキュリン蛋白をカエル肝臓から精製後、マウスに免疫して抗体を作成し、カエル卵巣を用いて免疫染色を行ったところ特異的分布パターンを示したことから、カルレティキュリン蛋白が卵形成に密接に係っている可能性があること、また、カルレティキュリン遺伝子の発現はテストステロン処理個体で著しく抑制されることから、性の転換に重要な働きをしている可能性もあることが分かった。
著者
宇佐見 義之
出版者
神奈川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

カンブリア紀に生息した節足動物アノマロカリスの生態を研究した。アノマロカリスは種によっては肢を持つ底棲の水棲動物であるが、主に発達した14対のヒレで海底近くを泳いだものと思われる。そこで、本研究では流体の中でこれら14対のヒレをどのように動かしたらうまく前進するか計算した。流体の中で複雑な形状の物体を動かす計算は通常は難しいが、本研究では粒子法を採用することによりこの計算を実行した。粒子法は越塚が開発し配布しているMPS法のプログラムを利用した。その結果、アノマロカリスは14対のヒレを波打たせるように滑らかに動かす方法が速度/エネルギー比という観点で効率良く全身することがわかった。次に、アノマロカリスの形態の変化を研究した。アノマロカリスの形態は化石でしかわからず、また、どのような生物から進化してかについての化石情報は一切ない。そこで、コンピューターの中で原始的なアノマロカリスの形態を仮定し、そこからの進化過程を研究した。原始的な形態としては細い付属肢を仮定し、その幅が広がることにより完成したアノマロカリスの体型になる過程を考えた。その結果、付属肢の幅が広がるにつれ速度/エネルギーが一定になるように速度が上昇するが、完成したアノマロカリスになった途端、速度/エネルギーが飛躍的に大きくなることがわかった。化石では、完成したアノマロカリスの化石しか発見されないが、いずれにせよ、アノマロカリスはなんらかの原始的な生物から進化した筈である。しかし、それらの途中段階は化石には残らず、完成した体型を獲得した段階で繁栄し、また多様化を起こしたと考えられる。このような進化のプロセスが、本研究で解明した力学を背景に起こったと考えることができる。