著者
佐藤 和夫 汐見 稔幸 宮本 みち子 折出 健二 杉田 聡 片岡 洋子 汐見 稔幸 宮本 みち子 折出 健二 杉田 聡 片岡 洋子 山田 綾 小玉 亮子 重松 克也
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

男女共同参画社会を形成するにあたって不可欠な課題と言うべき男性の社会化と暴力性の問題を、ヨーロッパおよびアメリカ合衆国の研究と施策について、比較研究調査した上で、日本における男性の暴力予防のために必要な研究を行い、その可能性を学校教育から社会教育にまで広めて調査した。その上で、先進諸国における男性の暴力性の関する原理的問題を解明した。
著者
紅野 謙介 藤森 清 関 礼子
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究は、近代日本において女性/男性の差異と境界が文学言説においていかに構成されたかを探る動態的なジェンダー研究を目的としてスタートし、そこでわたしたちは共時的な観測をおこなうとともに通時的な観点からの考察を行ってきた。最終年度の研究成果は以下のようになっている。藤森清は、1910年前後の文芸雑誌や文芸記事を精査するかたわら、男性作家が女性を表象する際のバイアス、また男性ジェンダーの構成のありようを探り、具体的には夏目漱石や森鴎外の小説を分析することを通して同性愛嫌悪と女性嫌悪の痕跡を見いだした。また関礼子は、1890年から1910年にかけての女性表現者の文体を調査するかたわら、草創期『青鞜』を細かく分析することを通して、擬古文から言文一致にいたる文体にあらわれた「ジェンダーの闘争」を摘出した。紅野謙介は、1920年前後の雑誌メディアを調査し、なかでも与謝野晶子の批評活動をとらえ、その批評にジェンダーの枠組みを越える可能性を発見するとともに、菊池寛とは異なる「文学の社会化」のコースを見いだした。また本研究の研究協力者である金井景子によって、教科書教材に見られるジェンダー偏差が指摘され、ジェンダー規範からの解放を目指す教育の方法論が提起された。補助金の支出に際しては、ひきつづき図書資料の購入や各種図書館・文学館での貴重資料のコピーのデータ整理を行った。また数回にわたり、収集と整理の結果を報告する研究会を都内で開催した。研究会にはほかに常時10入程度の研究者の参加があった。3年間の研究をへて、近代文学研究とジェンダー研究のクロスする領域がはっきりと見えてきた。これらの成果をふまえ、2001年5月には日本近代文学会春季大会において「ヘテロセクシズムの機構」と題されたシンポジウムが開催され、藤森清が司会を、金井景子が発表を担当し、ほかにも本研究会の参加メンバーが運営に関わった。その内容は岩波書店から刊行された「文学」2002年2月号に掲載されている。
著者
高際 澄雄 高際 澄雄
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

18世紀イギリスの音楽と詩との関係は、音楽研究と文学研究が分離していたために長く解明されて来なかった。本研究では、18世紀イギリス文学の研究者がCDやDVDなどの記録を利用して当時のイギリスにおける音楽と詩の結び付き方を明らかにしたものである。これにより、詩に音楽を付す3形式が17世紀末に確立し、18世紀に入ってまずイタリア歌劇で、1730年代からオラトリオで独特の展開が行われたことが明らかにされた。
著者
小田 清 小坂 直人 松田 光一 武市 靖 大西 有二 山田 定市 千葉 卓
出版者
北海学園大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

北海道・有珠山は平成12年3月31日、23年ぶりに噴火した。事前避難活動が徹底していため、人的被害は皆無であったが、道路や水道等のライフラインや住宅地、工場や病院等は大きな被害を受けた。また、地域経済の活動中心地であった洞爺湖温泉街は、「危険地域」という風評被害的なものもあって観光客が激減し、地域経済にとって大きな痛手となっている。その後、噴火活動は沈静化し、大部分の地域では平常さを取り戻しつつある。しかし、3年有余が経過した現在、復興に向けて、各種の公共事業が展開しつつあるが、新たなハザードマップの作成や土地利用計画、観光産業の不振による経済生活の不安定さと有効な手段の欠如、教育施設や福祉施設の移転等による不便さなど、新たな問題が山積している。本研究では、平成13年度に引き続き、(1)経済・産業の復興視点、(2)地域社会・生活・教育の復興視点、(3)復興に伴うインフラ整備と地方財政問題視点、(4)復興に伴う行政・法的諸問題の視点から、総合的な地域復興計画を探ることを目的とし、地域実態調査と補足調査を実施してきた。その結果、ほぼ、上記の4つの視点からの研究成果が得られた。すなわち、(1)の視点からは、現実に経済活動を行っている地域を「危険地域」として非居住地にすることの根強い地域住民からの反対と法的規制の困難さ、(2)医療・福祉・教育施設の移転に伴う諸問題と避難住民・生徒のケア問題の存在、(3)インフラ整備と財政負担問題、国庫補助の引き上げ問題、(4)災害復興に関する行政対応と義援金配分問題の存在などである。その結果、20〜30年周期で予想される再噴火に対応しての防災マニュアルづくりの難しさが浮き彫りになってきている。行政の防災対応と生活している地域住民との折り合いをどうつけるのか、地域経済の再興をどのように実現するのか、これらに関しては、さらに詳細な地域実態調査・研究が必要であると考えている。
著者
森 元孝
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

2004年10月に、1999年10月に実施したアンケート調査結果と比較研究ができるように設計した質問項目と、「グローバル化」「外国人」についての意識を問うを質問を含めて、2003年の東京都知事選挙で石原慎太郎候補が獲得した300万票の意味を考えるためのデータの収集を目的とする質問紙法による調査を実施した。質問票は、1999年の調査項目をもとに作成したもの(A票)と、外国人についての意識を問う調査項目で構成されたもの(B票)、そして対象者の自由記述形式(C票)とから成っている。(1)調査地域杉並区、港区、新宿区、国立市、江戸川区、大田区、多摩市(2)調査対象上記各地域に居住する男女(3)標本数6300人(4)標本抽出ゼンリン住宅地図から世帯名簿を作成して系統抽出(5)調査票配布方法郵送法(督促葉書1回も含む)(6)実査期間2004年10月20日から11月10日まで2005年10月に、前年2004年10月に実施した2003年4月の東京都知事選挙における投票行動調査の結果分析から、この選挙で300万票の得票をした東京都知事石原慎太郎氏についてのイメージ、とりわけ何がそれを形成し、どうして300万票を獲得することを可能にしているのかという仮説を設定することができた。この仮説を、いかに支持していくことができるかについて、経験的データを得る質問紙法による調査を実施した。質問票は、2004年の調査項目をもとに作成した部分と新たにイメージを問う質問項目の部分からなるもの(A票)と、外国人についての意識を問う調査項目で構成されたもの(B票)、そして対象者に自由に記述していただく形式(C票)とから成っている。(1)調査地域品川区、豊島区、葛飾区、立川市(2)調査対象上記各地域に居住する男女(3)標本数4800人(4)標本抽出ゼンリン住宅地図から世帯名簿を作成して系統抽出(5)調査票配布方法郵送法(督促葉書1回も含む)(6)実査期間2005年10月20日から11月10日まで
著者
山本 政儀 星 正治 遠藤 暁 今中 哲二
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

旧ソ連核実験場周辺住民の長期低線量率・低線量放射線被曝の健康・リスク評価を行うための基礎研究として、被曝を受けた周辺集落住民の出来るだけ正確な被曝線量を評価することを目的とした。この目的達成のために、最も大きな被害を被ったドロン村を中心に、南の集落、サルジャール村、カラウル村できめ細かな土壌サンプリングを行い、放射性雲の通過したセンター軸の位置,幅、さらに降下量を明らかにし,被曝線量を推定した。
著者
菅原 正義
出版者
長岡工業高等専門学校
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

動物の消化管に常在している細菌は、宿主に有害・有益な代謝を行い宿主の健康に大きな影響を及ぼすことが知られている。本研究では、脂質代謝や発ガンへの影響が示唆されている二次胆汁酸を一次胆汁酸から生成させる腸内細菌由来の酵素7α-デヒドロキシラーゼに関する知見の収集とその代謝制御を目的として研究を行った。これまで本酵素生産菌としてEubacterium sp. strain VPI 12708などが知られ、比較的菌数の低い強い酵素活性を有する菌が主として生産していると考えられてきた。我々は、これまで胆汁酸分析に一般に用いられてきたTLC、HPLC、GPCより感度が高いELISA法を用いて本酵素生産菌の探索を行った結果、総菌数の1〜10パーセント程度の多くの菌株が低い本酵素生産能を有することを確認した。その中でもEubactrium spと考えられる比較的酵素生産能の高い数菌株を用いて酵素精製を試みたが、継代培養を繰り返すにしたがって生産性が低下し精製することができなかった。本酵素活性の食品成分による制御を目的として酒粕粉末をラットに投与した結果、胆汁酸排泄量が有意に増加、二次胆汁酸の排泄が減少した。また、コレステロール吸収に重要なコール酸及びデオキシコール酸の排出が増加した。さらにパスタに難消化性澱粉素材である湿熱処理ハイアミロースコーンスターチを添加してヒトヘ投与した結果、胆汁酸排泄の増加とコール酸とケノデオキシコール酸の増加、デオキシコール酸とリトコール酸の減少を示し、食品成分によって胆汁酸排泄と7α-デヒドロキシル化を制御できることがわかった。
著者
大下 祥枝
出版者
沖縄国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

19世紀前半のフランス社会は、政治体制がめまぐるしく変わる激動の時代にあった。そのような時に思想・信条を発表する場として新聞・雑誌が大いに利用されたが、大衆がつめかけたパリのブルヴァールの劇場も、その場を提供していたのである。いったい舞台の上でどのような場面が展開し、聴衆の心をつかんでいたのであろうか。大衆演劇の枠組みに入る数多くのメロドラマの中から、役者フレデリック・ルメートルが主役を演じた作品を選び、舞台が観客に与えた影響について考察を進めた。第一部では、権力に挑む大衆演劇とその周辺というタイトルのもとに、『ロベール・々ケール』と『パリの屑屋』を取り上げた。主人公たちがいかにして権力に立ち向かっていくかを調査し、またメロドラマと他分野との関連性や検閲について検討を加えた。社会的弱者を描く大衆演劇と題した第二部では、家族制度の矛盾点がメロドラマの『リチャード・ダーリントン』と『三十年間、または或る賭事師の一生』ではどのような形で登場人物の動きに反映されているかを検証した。第三部ではバルザックの劇作品、および劇中劇の形式で描かれた『魔王の喜劇』について、『ロベール・マケール』の影響を調査すると同時に、作家が七月王政下の社会を調刺する手法を探った。以上のような考察を通して、当時の民衆が体制批判をする一つの切っ掛けとなったのが、メロドラマなどの舞台であるといえるのではないだろうか。
著者
比嘉 夏子
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

19年度は、前年度までに実施したトンガ王国における長期フィールドワークで得られたデータを整理、分析し、それを国際的な場において発表することに重点を置いて研究を進めた。具体的な成果としては、ブタをはじめとする多くの伝統財が贈与交換された国王葬儀や宗教行事を比較研究し、2007年6月に開催された第21回太平洋学術会議においてContinuity and Change of Gift and Tribute:Spectacular Practice in the Modern Kingdon of Tongaのタイトルで、英語ポスター発表を行った。また、雑誌Research in Economic Anthropologyへ投稿した論文、Economics Emerging Between Religious Faith and Practice:A Microanalysis of a Donation Event in the Kingdon of Tonga(現在査読中)の執筆をおこない、現代のトンガ王国において、依然として顕著な現象として見られる宗教的贈与について、信仰と経済活動とがどのように人びとの日常生活を織りなしているのか、村落調査で得られた詳細なデータをもとに分析、検討した。年度末にはこれまでのトンガ王国での調査をさらに深めるべく、トンガとは地理的、文化的に隣接していながらも、現在はニュージーランドの自治領であることから島内の過疎化が進行しているニウエ島での短期調査を実施し、王制を維持しているトンガとニュージーランド本島の影響を強く受けているニウエ島の生活が、ブタ飼養や贈与交換のありかたなど、さまざまな点においてかなり異なったものであることが確認された。
著者
村井 文江 田代 順子 谷川 裕子
出版者
筑波大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

インタビュー内容を再度分析した。結果、健康上"しかたない"と認識していることの概念と"しかたない"という認識と健康行動の関連が明確になった。1)健康上での"しかたない"ことの概念健康上"しかたない"と認識されることは、自分のコントロールが及ばないと感じているところで生じた健康上の気がかりや問題(先行要件)によって、深刻ではないがしたいことができないなどの喪失が生じている状態であった。そして、その状態を"しかたない"と認識することで、「なぜ自分が」という否認から「自分のこと」として引き受けていた。"しかたない"と認識する内容は、人生経験や価値観によって個人差があり、状況によっても変化し常に"しかたない"こととして存在するわけでなかった。また、時間的特徴として、月経痛のように生じる期間が限られていることや繰り返すことが認められた。今後の予測としては、軽減または消滅することを期待しているが明らかな見通しがなかった。帰結として、健康行動を模索する場合と自然の解決を待つ場合が認められた。健康行動の結果、解決・軽減することもあるが不変の状況も認められた。2)"しかたない"という認識と健康行動との関連月経時の痛みに焦点を当てて、月経痛の状況と健康行動について、月経時の痛みを"しかたない"と認識している群としていない群で比較検討した結果、"しかたない"という認識と健康行動に以下の関連が見出された。"しかたない"という認識は、月経時の痛みそのもののとそのことに対する健康行動の結果に対するものの2つがあった。月経時の痛みそのものを"しかたない"と認識している場合にとられている健康行動は「我慢する」ことであった。月経時の痛みそのものを"しかたない"とは認識していない場合には、健康行動が模索されていたが、痛みの程度によって模索状況は異なっていた。また、健康行動の結果、月経時の痛みを"しかたない"と認識している場合は、健康行動によって個人が期待する結果が得られていない状況であり、かつ、その後の健康行動の模索があきらめられている状況であった。今後は本研究での成果を踏まえ、女性の健康増進を支援するプログラム開発を検討していきたい。
著者
繁桝 江里
出版者
青山学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

仕事に関わるネガティブなフィードバック(NF)が受け手に与える効果について、大学生に対する面接実験、および、就職活動期と入社後のパネル調査を行い、NFの効果を規定する要因として、表現方法、送り手および受け手の個人特性、職場の組織文化を特定した。また、新入社員に対する上司の日常的なNFは、能力の自己評価や職業価値観に弱い悪影響を与えることがパネルデータにより実証されたが、1回のNFの影響は良い場合と悪い場合が拮抗していることが示された。
著者
矢部 直人
出版者
首都大学東京
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

裏原宿に小売店の集積が形成された要因は,店舗の供給側から見ると,1980年代後半のバブル経済期に,不動産開発が住宅地の内部まで進んだことが大きい.一方,店舗に出店するテナント側では,人脈を使った出店が行われていた.小売店の集積が,アパレル生産に与える影響は二つあった.一つは,消費者の情報を商品企画に生かすことであった.もう一つは,小売店が生産工程を商社に外注することによって,中国における小ロット生産が可能になったことである.
著者
圓川 隆夫 鈴木 定省 フランク ビョーン
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、現在多くの企業が目標としているCS(顧客満足度)について、世界ではじめて同一尺度による先進国、新興国からなる8つの国・地域での15の製品・サービスを対象としたCSを含むCS関連指標のデータベースを構築し、CS関連指標の国の文化、そして経済状況の影響と、CS関連指標間の因果メカニズムの違いを実証的に検証したものであり、グローバル化したマーケティングや品質設計に多くの示唆を与えるものである。
著者
後小路 雅弘
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、東南アジアの近代美術が、とりわけ1960年〜1980年の西欧モダニズムの本格的な受容の時期に、どのようにモダニズムを受容したのかを、具体的な作品を通して、検証、考察することを目的としている。その時期は、東南アジア各国が独立を果たし、国民国家が形成されていく時期でもあり、その中で、国民文化としての美術が求められたが、他方、国際的な抽象美術運動を背景に、モダニズムの持つ視覚言語の自律性と普遍性を追求することが時代の要請でもあった。そうした相反する方向のなかで、東南アジアの美術家たちが、国際的な普遍性とローカルな固有性のはざまでどのような制作活動を行い、どのような作品をその成果として生み出していったのかを明らかにすることが主要な課題である。具体的な研究成果は、以下の通り。1.東南アジアの1960年〜80年に活躍した作家の作品について現地調査を行い、作品撮影をし、同時代の資料を収集した。2.現存作家・遺族、関係者へのインタビューを行った。その主要なものは報告書に収録した。3.「アジアのキュビスム」「ベトナム近代絵画展」ふたつの展覧会の企画構成、図録作成に関わり、調査研究を展覧会の形で、広く公開した。
著者
中村 満紀男 平田 勝政 岡田 英己子 二文字 理明 星野 常夫 荒川 智 宮崎 孝治 渡辺 勧持
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

19世紀末にイギリスで誕生した優生学は、瞬く間に欧米列強にも後進国にも受容される。それは、それぞれが優生学を必要とする国内情勢と国際環境に置かれており、民族自滅を回避し、人種(種族)改良をめざしていたからである。その具体策として、肯定(積極)的優生学よりは否定(肯定)的優生学が諸科学の関与のもとに展開される。その主たる対象としては「精神薄弱」「狂気」等が、方法としては断種が選択される。断種の当初の目的は、優生学を目的とする劣等種の減少・解消と収容施設の不足に対する補完を意図する優生断種にあったが、優生学の科学的根拠に対する疑問とともに、精神薄弱者のコミュニティ生活可能論および性行動受容論、子どもをもつことによる生活・養育の困難等の社会適応上の理由に基づく選択断種へと転換することになる。この過程において、精神薄弱者およびその行動を正常とみる範囲が拡大したことは確かである。このような優生学とその影響は、国と地方によって差異があったが、それは優生学に対する支持勢力の有無に基づいていた。宗教的要素と科学の関与の度合いが最大の要因となる。概ね優生学を歓迎したプロテスタント教会と社会学等の関与が強力な場合は、優生学運動は拡大し、断種法が可決されたが、ローマ・カトリック勢力が強大で、科学が消極的な場合は、優生学運動の影響は限定され、断種は促進されなかった。20世紀末に至ってても優生学は消失していない。生殖医療と先端医療技術の普及にともなって、障害発生予防を目的として、優生学的思考を孕んだ新優生学として、社会下層やマイノリティや特定のエスニシティに関連して発展しつつある。
著者
吉田 典子
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究は、エミール・ゾラの《ル-ゴン=マッカール叢書》において、19世紀後半のフランスにおける産業や科学技術、ならびに都市の発達と、そこに新しく生じた文化や人間の心性との関係が、どのように表象されているかを、次の3つの面から検討したものである。1.オスマンの都市改造に関しては、まず『獲物の分け前』において、この事業がどのように巧みに小説化されているかを示し、とりわけプランス=ウ-ジェーヌ大通りの解体工事視察の場面で、都市の「解剖」が、「下方にある真理」をめざす近代の諸科学の隠喩になっていることを示した。また改造後のパリを特徴づける鉄とガラスの建築物の原型ともいうべき「温室」が、展示の空間、欲望の空間として「近代」を具現していることを明らかにした。2.デパートの発展とモード産業の興隆に関して、まずゾラのボヌ-ル・デ・ダム百貨店とオスマンのパリ改造の関係を調査し、ゾラのデパートがめざした新街路「12月10日通り」は、株式取引場とオペラ座を結ぶ通りで、デパートがまさに「投機スペキュラシオン」と「演劇スペクタクル」の結合として提示されていることを示した。またショウ-ウインドウに象徴されるデパートのガラス空間における誘惑の美学についても考察した。また『獲物の分け前』の女主人公ルネの衣裳の分析を通して、第二帝政期のモードと社会、モードと文化の関係を検討した。3.産業化社会とジェンダーの問題に関して、ゾラはム-レの経営するデパートを産業化社会を象徴する一個の巨大で怪物的な「機械装置」として構想している。それは「男性」によって発明された「女性」誘惑の装置である。デパートをめぐる女性たちを、女性客(消費者)、女性従業員(労働者)、経営者の妻(主婦)の3つのカテゴリーにわけ、女性と消費資本主義社会の関係を考察した。
著者
不破 有理
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

ドラゴンはブリテンの国家の表象として用いられる場合が多いが、ジェフリ・オブ・モンマス以前のウェールズの資料においては、古代ブリテンの王であるアーサーとは必ずしも初期の段階で結びついていたわけではない点を指摘した。また14世紀から15世紀におけるイングランド北西部に分布した一連のアーサー王作品を分析し、写本によって異なる作品の読み方が必要であり、アーサー王伝説が王権の表象として利用されたのみならず、地方の政情安定の表象装置としても作用していることを論じた。
著者
山元 公美子
出版者
山口大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

若年妊娠をした初産婦が、日常生活の中で自身の妊娠に適応していくプロセスについて、《妊娠に対する喜びと葛藤の混在》、《家族の児の受け入れ準備》、《脆弱な将来的基盤》、《母親としての我慢》、《母親役割意識の未熟》、《母親としての芽生え》の6つのカテゴリーが抽出された。若年母が育児に適応していくプロセスについて、《子ども中心の生活》、《育児の重圧からの避難》、《経済的不安》、《実母の強力サポート》、《仲間同士の支え合い》、《実家/実母からの巣立ち準備》の6カテゴリーが抽出された。若年妊婦が母親としての自覚を高めていけるような支援が必要である。
著者
松村 真宏
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本年度は,フィールドマイニングに関する5つの実証実験を行った.一つめのケースは,巨大らくがきマップを用いた地域住民間の非同期コミュニケーション支援である.石橋商店街のコミュニティスペースに巨大らくがきマップを2ヶ月間設置し,その間に書き込まれる情報の分類,および書き込みを介して行われているコミュニケーションの様子を定点観測,巨大らくがきマップを通して地元への興味の喚起および見知らぬ者同士の非同期コミュニケーションが実現していることが確認された.二つめのケースは,子供と大人が一緒になってゲーム形式でフィールドマイニングを楽しめるフィールドマイニングゲーム(FMG)を行った.大阪府池田市および香川県直島でFMGを行い,インタビューおよびアンケートにより、FMGがフィールドのイメージアビリティを高めることが確認された.三つめのケースは,身近な生活環境におけるサウンドスケープの構成音を聞き分けることによる意識変化を検証した.大阪市十三地区を対象として,インタビューや文献調査により得られた十三らしい音風景を収集した.イベント会場にてサウンドスケープを聞き分けるイベントを行い,イベント参加者へのインタビューおよびアンケートを通して,参加者の音風景への意識が変わっていく様子を確認した.四つめのケースは,写真シールと地図を用いたイメージマップゲームについてのイベントを行った.ゲームを通して,イベント参加者の日常の生活行動や,まちに点在する場所間の関連性を明らかにした.五つめのイベントは,石橋商店街と大阪大学の裏門をつなぐ通称「阪大坂」を利用した「えびす男選び@阪大坂2007」を企画・実施した.商店街の人びとおよびイベント参加者からの反響は高く,アンケートにより商店街に対するイベント参加者のイメージアビリティが高まったことが確認された.