著者
村山 英晶
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

約6mの複合材料製翼ボックスおよび約1mのアルミ製風洞模型に光ファイバセンサを設置し,構造試験または風洞試験で得られたひずみ情報をもとに逆解析手法を用いて荷重を同定した.複合材料製翼ボックスには,1系統あたり30~40個の光ファイバひずみセンサを直列に配置し,翼長手方向に7系列設置した.極めて高い精度でひずみ分布が測定でき,同定した荷重もよい推定精度を示した.アルミ製風洞模型には,母材,フラップ,スラットに全長にわたりひずみ計測が可能な1または2本の光ファイバひずみセンサを設置し,風洞試験時の測定ひずみから圧力を同定し,おおよそ良い一致を示した.
著者
大澤 香奈子
出版者
名古屋女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

甲南女子大学所蔵のモード新聞Journal des Dames et des Modesパリ版を資料とし、服飾の諸側面をテクストとファッション・プレートの両面から分析することによって,スタイルの段階的推移を数値的に示すことができた.さらに服飾における色の役割,装いのコンセプトに係わる新たな知見が得られた.本研究で行った調査はJournal des Dames et des Modesの一部であり,得られた諸結果は資料が発信した,限定された服飾についてのものであるが,調査結果は資料のデータベース化に活用できるものと考える.
著者
濱田 瑞美
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は、東アジアにおける仏教図像を、儀礼空間のなかで解き明かしていくことにある。最終年度である本年度の実地調査は、インドのデリー国立博物館所蔵のスタイン将来の敦煌画のうち、千手観音変相図6件および薬師経変相図1件を対象に行い、図像データを収集した。また、中国四川省の夾江千仏岩の千手観音寵および四川博物院所蔵の仏教彫刻の調査や、中国石窟のルーツにも関わるインドの石窟の仏教図像についての調査を行った。これまでに取得した図像データを基に、中国重慶大足石刻の薬師如来の図像と仏龕の尊像構成に関する論考、中国敦煌石窟の唐代の薬師経変の図像に関する論考、敦煌石窟吐蕃期の千手観音の図像に関する論考、敦煌莫高窟第323窟における窟内図像プログラムに関する論考を、誌上あるいは口頭で発表した。このうち、大足石刻の薬師寵の論考では、薬師如来と地蔵菩薩や尊勝陀羅尼幢とがいずれも地獄済度という共通の意味をもって寵内で組み合わされていることを明らかにした。敦煌石窟の薬師経変の論考では、薬師経変図中に設斎の様子が描き込まれていることから、薬師信仰の中で設斎が重要な行為であったことが確認されるとともに、そうした設斎図が中唐期以降の敦煌の窟内正面の仏龕内壁にも描かれる例から、現在欠失している窟本尊が薬師如来であった可能性を指摘した。窟内全体に関わる本尊に対する言及と、窟内空間において設斎と図像とが密接な関係性を持つという見解は、薬師如来だけに限らず、他の仏教図像研究にも適用できるものとして重要である。また、敦煌莫高窟第323窟の研究では、周壁図像の検討から、窟内全体の図像が相互に関連していること、図像を観ていく順序、石窟造営の目的の一端、および石窟造営時期についての新たな見解を提示し、石窟空間の機能を踏まえて仏教図像を解釈することの有効性が示されるに至った。
著者
中山 満子 池田 曜子
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、ママ友関係を小規模に形成された集団と考え、(1)ママ友という小集団のつながり方(強さ、多様性)、(2)ママ友間の対人葛藤の特徴と、葛藤及び対処法に及ぼす社会的文脈の影響、(3)ママ友関係が他の社会活動に及ぼす影響について検討することを目的とした。研究の結果、(1)ママ友関係のつながりは、ゆるやかで希薄な場合が多い、(2)対人葛藤は、つながりが緊密な場合に生じやすい、(3)対人葛藤を経験したときのコーピングは、社会的文脈(関係流動性)に調整される、(4)ママ友を含む対人関係についての成果感覚を得ることが、広く向社会行動への契機となりうることが示された。
著者
喜多 千草
出版者
関西大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

研究二年目の19年度も、前年度に引き続き、(1)聞き取り調査および一次資料の電子化と、(2)事例の分析と報告のふたつの柱をたてて研究を行った。1.国鉄のみどりの窓口システム開発については、設計を行った大野豊氏、実装を行った谷恭彦氏、国鉄の事務部門から開発を支えた石原嘉夫氏に聞き取り調査を行い、特に大野氏・石原氏からは貴重な資料をお借りすることができたので、これを電子化した。また、JR総研の図書館等をご紹介いただき、情報技術の導入に関する資料を閲覧することができた。こうした研究の進捗により、みどりの窓口システム開発の初期の動きに関して、従来の研究をさらに深める意義深い資料収集が行えた。2.研究実施計画に挙げていた国際学会での論文発表を、2007年秋には二件行うことができた。特定領域研究の第三回国際シンポジウム(2007年12月14日から15日)では、自分の研究課題についての発表に加え、資料の電子化やOCRでの情報処理の経験を生かして、パネルディスカッション「技術革新研究における情報技術活用」のコーディネートおよびモデレートを行った。3.さらに、本特定領域で行った研究をもとにモデル化を行い、その成果を情報処理学会論文誌に発表することになった。(査読を経て採録が決定し、最終校正も済み、4月に発行される。)本特定領域では、公募研究を行っている研究者間の交流の場がたびたび設けられ、互いの研究成果を発表し合う中で刺激を受けることができた。特に、上記3に挙げたシンポジウムでは、この領域内で情報技術活用を行っている研究者と、領域外で情報技術活用を進めている研究者を合わせてのパネルディスカッションをコーディネートすることができ、大変有意義であった。
著者
濱田 瑞美
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

中国の摩崖石窟がどのような宗教的空間を現出していたかを明らかにするため、四川地域と関係の深い唐宋時代敦煌石窟の実地調査で図像資料を収集し、関連する経軌の解読および図像との照合を行い、論文を執筆した。また四川地域の千手観音龕における図像の解明および仏教儀礼との関係について、海外で研究発表を行った。敦煌地域の石窟壁画の千手観音変相についての実地調査は、莫高窟13箇窟14図〔第148窟主室東壁門上(盛唐)・第231窟甬道天井(中唐)および前室天井(宋)・第292窟前室西壁北側(五代)・第332窟前室天井(五代)・第335窟前室天井(宋)・第79窟前室南壁(盛唐)・第172窟前室南壁(宋)・第386窟主室東壁門上(中唐)・第45窟前室天井(五代)・第302窟甬道天井(宋)・第329窟前室天井(五代)・第402窟前室西壁門上(五代)・第380窟甬道南壁(宋)〕、西千仏洞1箇窟2図〔第13窟甬道東西壁(五代)〕、楡林窟7箇窟8図〔第36窟主室北壁(五代)・第35窟前室天井(五代)・第38窟前室天井(五代)・第39窟甬道南北壁各一図(回鶻)・第40窟前室天井(五代)・第30窟北壁(晩唐)・第3窟東壁南北両側各1図(西夏)〕に及んだ。各図における眷属像の配置図を作成するとともに、眷属像の種類や表現の相違について関連経軌によって解釈を加え、石窟の千手観音変相図と大悲会との密接な関連を指摘するに至った。また、石窟内の空間構想に関しては、莫高窟北周時代の中心柱窟の構造と図像考察を通して、窟内全体が説法空間に構想されていることを論じ、研究誌に発表した。そのほか、上記の海外研究発表を契機とし、宗教的な空間形成のコンセプトと図像および儀礼とが密接に関わるという筆者の理論を軸とした共同研究の計画が立ち上がった。
著者
井上 暁子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

今年度は、博士論文の執筆に費やした。私の博士論文(題目『私の神話、私たちの神話』)は、1980年代にドイツ連邦共和国へ移住した3人のポーランド人作家の文学を、「神話とくわたし語り」」という観点から論じるものである。彼らは皆、1960年代にドイツ=ポーランド国境地帯に生まれた人々で、体制転換以後もドイツで暮らしている。ポーランド語作家ヤヌシュ・ルドニツキや、ドイツ語とポーランド語のバイリンガル作家ダリウシュ・ムッシャーは、国家、地域、歴史、民族的文化的アイデンティティをめぐる様々なディスクールを、移動する一人称語り手の視点から、鋭く脱神話化しつつ、個人とそれらのディスクールとの不安定な関係を描き出している。他方、ポーランド語作家のナタシャ・ゲルケは、ドイツやポーランドといった具体性を一切持ち込まない、寓話的なポストモダン小説を書くことによって、1990年代のポーランド国内で流行する脱神話化傾向と一線を画している(ゲルケの文学については、東京大学現代文芸論紀要『れにくさ』へ寄稿)。さらに、前年度末、ドイツのパッサウ大学で開かれた国際学会での報告内容を、報告集用に書き直した(20枚程度の論文)。国際的なイベントと言えば、2009年11月、名古屋市立大学で2日間にわたり、ドイツ語を執筆言語とする(ないし執筆言語の一つとする)作家5人を招いて、国際シンポジウム「アィデンティティ、移住、越境」(主催は土屋勝彦教授を代表者とする科研費研究グループ)が開催された。パネリストの中には、旧ソ連出身のユダヤ系作家が二人(ヴラディーミル・カミーナー氏、ヴラディーミル・ヴェルトリープ氏)が含まれており、私の研究対象であるポーランド人作家ムッシャーと比較することができた。また、多和田葉子氏や、その他のトルコ系の作家による報告も、「今日のドイツ語文学」について考察する上で、大変参考になった。名古屋市立大学訪問の後、ヴェルトリープ氏の講演について報告を頼まれ、そのテキストは東京大学文学部スラヴ語スラヴ文学研究室のHPにアップされた。さらに、2009年6月、北海道大学スラブ研究センターを訪問し、博士論文の一部を報告した。2010年3月には、再びスラブ研究センターを訪問し、私が論じている移民作家の文学と、ドイツ=ポーランド国境地帯の「地域文学」との共通点と差異について考察し、資料収集にあたった。「ドイツ・ポーランドにまたがる越境的文学研究」という私の専門分野は、日本で先行研究者のいない、未踏の沃野であるが、私の研究は、理論的な応用可能性と普遍性をもち、異文化接触や越境文化論に大きな貢献をする可能性を秘めている。この研究を一日も早く、形にしたい。
著者
与那覇 晶子 鈴木 雅恵 天野 文雄 當間 一郎 幸喜 良秀 高江洲 義寛 狩俣 恵一 板谷 徹 新城 亘 玉城 盛義 伊良波 さゆき 吉田 妙子 前田 舟子 伊野波 優美 MAZZARO Veronica
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

「組踊の系譜」のプロジェクトは、琉球・沖縄芸能の近世から現代に至る通史的な大きなテーマである。2004年に開場した「国立劇場おきなわ」の劇場の形態、そして21世紀以降に創作された20作に及ぶ大城立裕氏の新作組踊まで視野に入れた研究になった。本研究の成果の一つは二回開催されたシンポジウムである。第一回「組踊から沖縄芝居、そして≪人類館≫へ」(2012年2月8日)と第二回「≪劇場と社会≫-劇場に見る組踊の系譜」(2012年3月11日)の両シンポジウムは、組踊と能楽、其々に優れた研究者當間一郎氏と天野文雄氏に基調講演をしていただき、民俗芸能、琉球舞踊、琉球音楽、シェイクスピアなどの研究者、国立劇場おきなわ芸術監督、沖縄芝居実験劇場代表等をパネラーとして招聘し開催した。一方、大城氏の10作の新作組踊上演は、朝薫が初めて冊封使に披露した1719年から現在に至る「組踊」の系譜を逆照射することになり、本研究は当初の目的を超えた発見をもたらした。
著者
麦倉 哲
出版者
東京女学館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

長年山谷地域で生活して晩年の時期を新宿区に転居した、とあるホームレス経験のある女性のライフヒストリーを追った。KMさんは、数奇な人生をたどり路上生活を経験し、生活保護受給後は幾度もの保護喪失の危機に直面しつつも、最後は畳の上で人生をまっとうした。葬儀に参列したのは、ボランティアの面々と、20年ぶりに再開するきょうだいだけであった。私はこの女性と、十数年間にわたり親交を深め、信頼をえて、ライフヒストリーをうかがってきた。私はボランティアとして、この方の近くに存在し、ケアやサポートにつとめてきた。しかし、私が支えているようにみえて、実際は、私を支えていただいたようにも思える。山谷と新宿における調査経験をもとに、1990年代以降に、ホームレス問題が深刻化していく要因を考察し、政治リーダーの政策選択の問題も考察した。男らしさを引きずっている男性ホームレスは、自分自身の生計上の不振とともに孤立化していく。女性らしさを引きずっている女性ホームレスは、救済を受ける機会を得ることもあるが、支配的な男性から従属させられ、一方的に利用されるなどの被害を受けることが少なくない。孤立しがちな男性や、被害を受けやすい女性ホームレスを自立支援するには、それぞれに必要なソーシャルワークの支援の機会を提供することが重要である。男性であれ、女性である、その人生史の一部分に、NPO団体や、ボランティアの個々人が継続的に介在することが、孤立の解消や被害の回避のために有用な意味を持っている。女性ホームレスのケースでは、この女性の日常生活の一部に支援者と過ごすことによって、暴力団関係者の経済的な搾取の被害を受けるのを食い止めることができた。
著者
梶浦 雅己 内田 康郎 安田 賢憲
出版者
愛知学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

近年, ICTの標準,特許の関係が深化している。標準はデファクト標準からコンセンサス標準へシフトしている。標準と特許に関する企業のビジネスモデル事例がどのようなものであるかについて,オープン・イノベーションの視点で解明した。事例を検証した結果,オープン・イノベーションによるビジネスモデル構築は,企業内製でなく外部機関レベルで行われ,こうした変化はデファクト標準の衰退,コンセンサス標準の隆盛として出現したことが明らかにされた。
著者
長谷川 敦章
出版者
(公財)古代オリエント博物館
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究では,大型遺跡の調査や地中海世界からの影響に偏っている北レヴァントの先行研究を顧み,中規模遺跡など北レヴァント内の周縁地域の調査,在地物質文化の検討,シリア内陸部を含めた北レヴァントの周辺地域との比較検討を行い,従来の偏った歴史像を再構築する。最終年度となる第3年目の本年度は,天理参考館での補足的な調査を行うとともに,これまでの研究成果を積極な公開に重きをおいた。天理参考館での調査では,前年度行った受け入れ研究機関である古代オリエント博物館収蔵資料の後期青銅器時代おけるキプロス土器の比較資料として,テル・ゼロール出土のwhite Slip wareの資料調査を行った。この成果を踏まえ,white Slip wareの施文技術についての系譜について研究し,本研究が対象としている,後期青銅器時代の東地中海で重要な役割を果たしたキプロス島の社会変遷を,土器の施文方法の変化から繕いた。その成果を日本西アジア考古学会第17回大会にて発表し,これらの成果を巡って,同地域を対象としている参加研究者と議論を交わした。また,ワルシャワで行われた国際学会"8th International Congress on the Archaeology of the Ancient Near East"にて,本研究で中心となるつの地域の一つ,エル・ルージュ盆地の拠点遺跡テル・エル・ケルクと,ユーフラテス中流域に位置するテル・ガーネム・アル・アリ遺跡での発掘調査に基づく新知見を同地域を対象としている海外の研究者に対して公表し,広く意見を求めた。また,本研究の成果を広く一般向けに公開する目的で,東北学院大学で開催された公開シンポジウム「ユーラシア乾燥地域における河水利用一水が育む歴史・文化・環境」講演をし,ユーラシア乾燥地域という大きな枠組みで本研究の成果を位置づけを試みた。
著者
内原 俊記 織茂 智之 橋本 款 和田 昌昭
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

ヒト剖検脳のαシヌクレインは軸索遠位から神経細胞体へ向かって進展する点で、樹状突起から細胞体へ進展するにつれて4リピートから3リピートへ変化するタウとは異なることを示した。これを反映して、レヴィー小体病では軸索末端が早期から脱落し、これをとらえる MIBG心筋シンチグラフィーが高い診断特異性を有する病態背景を明らかにした。さらこれらの病変の光顕像と免疫電顕像を直接対比できる新たな手法を開発した。今後分子機序との関連を追及するのに強力な手段となる。
著者
前田 茂人 林田 直美 メイルマノフ セリック 清水 一雄 兼松 隆之 林 徳真吉
出版者
独立行政法人国立病院機構長崎医療センター
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

2007年から2009年の3年間にかけて、セミパラチンスク(カザフスタン)の核実験場近くのセミパラチンスクがんセンターおよびセミパラチンスク医科大学にて、甲状腺癌および乳癌に対する外科的医療支援を行った。同地域では、1949年から1989年まで489回にもわたる核実験が行われており、2009年は核実験が閉鎖されて20年となる年である。甲状腺癌および乳癌の標準的診断および外科治療が施行されるように、インターネット教育および現地での実践を行った。特に甲状腺癌外科治療おいては、頸部リンパ節郭清の概念および手技の導入が現地外科医になされたと考えられた。
著者
佐竹 暁子 CHAVES L.F. LUISFERNANDO Chaves LUIS FERNANDO Chaves
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

防虫剤を練り込んだ合成樹脂を原料として糸を作りそれで織った蚊帳(insecticide treated net)の利用は、最近注目されマラリア感染を予防する目的で大きな効果を上げている。マラリアを媒介するハマダラカは主に夕方から夜にかけて活動するため、夜人々が蚊帳の中で寝ることができればハマダラカに刺されることもない。アフリカ西部におけるマラリア発症事例数が蚊帳導入後にどのように変化したかを示すデータをもとに、蚊帳利用における人々の意思決定に関するゲーム理論モデル「蚊帳ゲーム」を構築し分析した。蚊帳ゲームでは、各プレイヤーが「蚊帳をマラリア予防に用いる」戦略Tと「蚊帳を経済活動に転用する」戦略Fのいずれかを選択すると考え、戦略Tを選んだプレイヤーは自身のマラリア感染率を下げることができ(個人効果)、戦略Fを選んだプレイヤーは自身の労働生産性を上げることができる(転用効果)と仮定している。また、少なくとも一人のプレイヤーが戦略Tを選んでいるとき、蚊帳に塗布された殺虫剤の影響によりハマダラカの個体群密度が減少し、全プレイヤーのマラリア感染率が低下する(共同体効果)。共同体効果の強さは戦略Tを採るプレイヤーの人数に比例する。各プレイヤーの期待利得は、マラリア感染率と労働生産性から算出され、全プレイヤーめ戦略からなる組に応じて一意に定まるとした。蚊帳ゲームの解析から、自然状態におけるマラリア感染率が比較的低いとき、全プレイヤーが戦略FをとるAll-Fナッシュ均衡が成立し、比較的高いときには、全プレイヤーが戦略TをとるAll-Tナッシュ均衡が成立することが示された。また、自然状態におけるマラリア感染率が中程度のときには、戦略Tを採るプレイヤーと戦略Fを採るプレイヤーが混在するFree-riderナッシュ均衡が成立する。Free-riderナッシュ均衡では、戦略Fをもつプレイヤーが戦略Tをもつプレイヤーから供給される共同体効果に「ただ乗り」する関係Prasitologyに受理された。
著者
松島 格也
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究では,自己の行動をあらかじめ自己規制すること(コミットメント)を表明し,その表明に束縛されることを明確にすることにより,他人が効用を獲得できる場合のコミットメントの経済価値に関する理論的な分析枠組みを開発するとともに,CMV調査による支払い意思額の計測における便益の2重計算(過小計算)の問題を回避iしうる支払い意思額の計測方法を提案した.まず,森林コモンズの考え方の整理及び便益計測のためのCVM調査の調査票設計を行った.過疎地域研究会の参加メンバーから専門的知識の提供を受けながらコモンズとしての中山間地域における森林の役割をとりまとめ,また国内外における人文地理学や林業経済学の分野で行われている森林のとらえ方を探るため資料収集を行った.日野川源流を守る会を結成して先進的な取り組みを行っている鳥取県日野郡日南町の町有林を対象とし,それに対する都市住民としては鳥取県米子市民を取り上げてその意識を探った.その後,CVM調査を実施して森林の便益を計測すると共に当該地域における水源税の導入可能性を探った.設計した調査票を用いて鳥取県米子市に住む住民を対象としたCVM調査を郵送により行い,日野川上流の日南町町有林に対する支払意思額の計測方法について検討した.このCVM調査の結果は森林の資産価値評価の算出根拠となるものである.さらに調査結果に基づいた森林の資産価値を用いて水源税の導入可能性について検討を行った.水源税の理論的根拠として上流域の住民が森林開発を放棄する(森林を保全する)ことを宣言し,下流域の住民がそのコミットメントに対して支払い意思額を有するというコミットメント価値が取り上げた.このような水源税を通じた上下流の住民間の所得移転を分析するために,1)住民間の戦略的な意見の表明行動,2)個人間の効用の相互作用による便益の2重計算,過小計算の問題を克服しうる支払い意思額の計測方法を開発した.
著者
伊藤 隆 渡邉 昭夫 尾高 煌之助 佐道 明広 武田 知己 梅崎 修
出版者
政策研究大学院大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

現代日本史料の調査、収集、整理、公開等を踏まえた政策課程と政策史研究を目的とし、以下のような研究成果を上げた。1、オーラルヒストリーの実施研究期間内に30人以上のオーラルヒストリーを実施し、終了したオーラルインタビューの速記録をまとめ冊子化した。2、史料整理多くの研究補助者の協力を得て、収集した史料について整理を進め、20冊以上の史料目録を刊行することができた。3、研究会の実施研究期間内に、日本近現代の史料・政策過程・防衛政策等について、計11回の研究会を開催し、速記録をまとめ報告集として冊子化した。4、近現代日本人物史料情報辞典3の刊行及び続巻の編纂平成16年に第一巻、平成18年に第二巻を吉川弘文館より刊行し、第三巻を平成19年12月に刊行した。なお、第4巻の準備も開始した。5、シンポジウムの開催「<戦後>は終わったか?」についてシンポジウムを開催し、活発な討論が交わされた。速記録をまとめ報告書に掲載した。
著者
薮田 雅弘 Noel Scott 金 承華 高尾 美鈴
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究の目的は、昨今の世界遺産ブームにあって、特にわが国の世界自然遺産地域を対象に、持続可能な観光発展が進展しているか否かを評価する事にある。本研究では、①世界遺産制度のガバナンスについて検討し、②コモンプールの観点から、持続可能な地域観光資源の利用と管理運営のあり方を検討した。さらに、③持続可能な管理運営の仕組みを「エコツーリズム」として把握し、④エコツーリズムの原則に基づいて、わが国の世界自然遺産地域が持続可能な観光発展の状況にあるか否かを具体的に検討した。本研究を通じて、持続可能な地域観光資源の利用にとって必要な幾つかの地域観光政策の在り方が検証され提言可能となった。
著者
中地 義和 月村 辰雄 塚本 昌則 野崎 歓 シモン=及川 マリアンヌ 深沢 克己 新田 昌英 畑 浩一郎 本田 貴久
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究は、19世紀初頭から現代までのフランス文学史の尾根をなす作家のうち、その創作が歴史的出来事の経験や歴史をめぐる深い省察に根ざしている例を精選し、彼らがいかに歴史を内面化しながら作品を創出しているかを探ることを目的とした。またその様態を、各時代の文学理念、言語美学、人文知と関連づけながら、独自の視点からの文学史的通観の構築をめざした。対象になりうる事例の数はおびただしく、個々の事例は作家の生涯に根を張っているため、本格的に扱う対象の数を限らざるを得なかったが、第二帝政期から第三共和政初期、第二次世界大戦期、戦後のポストコロニアル期の文学を中心に、当初の計画に見合う成果が得られた。
著者
渡邉 昭彦 細田 智久
出版者
豊橋技術科学大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

当研究は、米・英国で経済的な問題などを抱える地域のフル・サービス型コミュニティスクールの訪問実態調査を行い、我が国の学生のドロップアウト10万人以上という問題の解決を目的にしている。1、肪問実態調査-当研究では3年間て米・英の29団体等と47事例を訪問調査し、サービス提供団体等のサービス提供方法とサービス内容、学校でのサービス提供方法とサービス内容、学校内や敷地内のサービス拠点であるファミリーセンター等の施設と利用の実態を示し、全体像を明らかにした。2、サービス対象とタイプ-サービス提供団体及びフル・サービス型コミュニティスクールでは、(1)学生、(2)学生の親と家族、(3)コミュニティに対してサポートを行い、(1)から(3)の対象にA,学習サービス、B、生活サービスを行い、その他のサービス1種類の計7種類の多様な内容のサポートサービスを行っている。3、サービス提供団体-州(例、ワシントン州)や市(例、セントルイス、デンバー市)が制度を設けて実施、民間団体や大学が実施、学校単独で実施等9種類のタイプがある。4、サービス内容-サービス提供団体で異なるが、A,学習サポートでは、英語等の読み書きの基本的学習から職業や環境、スポーツまで幅広く提供され、B,生活サポートでは、衣・食・住の基本的生活のサポートから、事件に関連した場合の法律相談や弁護、福祉サービス等への申請や代行まで幅広くサポートを行っている。5、サービスの提供時間-学生は授業開始前(食事を含む)、昼休み、放課後、土曜日や夏休み期間のサービスもある。学生の親や家族は夜間クラスもあるが昼間の時間帯(主婦は家庭での食事の準備等がある)、コミュニティには昼間と夜間の両時間帯に提供されている。6、サービスの活動場所-多くが学校施設を活用し、ファミリーセンター等はサービスの事務や会合等に活用されている。7、フル・サービス型コミュニティスクールの効果-恵まれない家庭や地域環境が多い学校で、学生が生き生きと学習し、貧しい地域であっても治安などの問題は少なく、フル・サービス型コミュニティスクールが学生や家族、地域に生きる目的を与えていることが明らかに出来た。
著者
杉野 明雄 川崎 泰生
出版者
大阪大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

本研究では、遺伝学が進んでいるショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)を用い、DNAポリメラーゼε遺伝子が高等動物や酵母と同様に存在することを証明し、このポリメラーゼの細胞内での役割を分子遺伝学的に明らかにする。出芽酵母及び分裂酵母DNAポリメラーゼII(ε)触媒活性蛋白の遺伝子間でアミノ酸配列が一致する部分で、別のDNAポリメラーゼ間(I(α)やIII(δ))では保存されていない部分のアミノ酸配列をもとに混合オリゴヌクレオチドを合成した。これらをプライマーとしてショウジョウバエ、カントンS株初期胚より調製した全RNAを鋳型としてcDNA-PCR法によりDNAポリメラーゼε遺伝子の一部を増幅した。このように増幅したDNA断片がショウジョウバエのDNAポリメラーゼε遺伝子の一部であることを大腸菌プラスミド中にクローン化し塩基配列を決定した。こうして得た塩基配列より予想されるアミノ酸配列は出芽・分裂両酵母DNAポリメラーゼII(ε)蛋白のアミノ酸配列に非常に似ていた(DNAポリメラーゼドメイン内では>60%のアミノ酸は三者間で同一であった)。またそれらの配列間では殆どアミノ酸の挿入、欠失なしにアミノ酸配列のアライメントを行なうことができた。これらのことは増幅したDNA断片がショウジョウバエDNAポリメラーゼε遺伝子の一部であることを強く示すものである。この遺伝子はショウジョウバエ染色体の3R94E〜95Bの領域にマップされ、単一の遺伝子であることが強く示唆された。上記のcDNA-PCR法により、この遺伝子のmRNA量を発生・分化の各段階でどのように変化しているかを調べた。この結果より、この遺伝子は発生段階の初期、特に初期胚及びLeavaで発現しており、Pupaやadultでは全然発現していないことが明らかになった。これらの結果は、ショウジョウバエDNAポリメラーゼεは酵母同様、主にDNA複製に関与していると考えて矛盾がない。