著者
武村 重和 バビリオ・ウマンカ゛イ マ 池田 秀雄 小原 友行 小篠 敏明 中山 修一 溝上 泰 MANZANO Virgilio U.
出版者
広島大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1990

本研究では、オ-ストラリア、ニュ-ジーランドの文部省の担当官の要請と協力で、両国の11ー15歳の児童・生徒を対象に、日本の児童・生徒向きに作成された日本の文化・社会、科学技術、日本人の生活様式などの視聴覚メディアを、解説しながら視聴させ、学校レベルでの国際理解の推進を図ることをねらいとした。さらに、日本に関する教育用教材として何が求められているかを調査し、ニ-ズアナリシスを行うこににより、これからの海外向けの教育用視聴覚ソフト開発の基本方針を究明することを目的にした。小篠敏明は、「異文化コミュニケ-ションに関する教育情報とソフト教材」について、オ-ストラリアのカンベラのテポベア・パ-リ中学校、ブリスベンのケドロン中学校の生徒たちに視聴したい日本文化の内容を調査した。5月5日、3月3日の子供の日、忍術使い、柔道、剣道などの武道、相撲、茶道、華道、歌舞伎、盆栽、四季、桜、武士道、伝統音楽、日本食、着物、日本建築、生活様式、宗教、祭り、庭、舞踊、文化行事などをあげている。日本の現代については、交通、通信、電子・電気機械、コンピュ-タ-産業、自動車・カメラ産業、建築、スポ-ツ、学校、家庭生活、若者の日常生活、食べ物、余暇の利用、婦人の社会進出、両親と子供の関係、日本の近代化の過程、教育、田園生活、環境問題、文化の保存、東京、旅行、ビジネス生活、新旧生活スタイルなどをあげている。教育委員会の職員や教師たちは、日本の急速な、社会、文化、経済、科学技術の変化に注目し、日本人の現代の生活様式の変化に関する視聴覚教材に関心をもっていることがわかった。画面については、カラフルで、美しく、自然と人間の調和があり、言葉少なく、適切な英語で興味・関心を持続するものがよい、という意見が多かった。武村重和は、オ-ストラリアのカンベラとメルボルンで教育関係者や一般人にインタビュ-を行い、国際理解の教育で視聴覚教材の編集の視点を導き出すことに努めた。その結果、(1)自然、歴史、社会、文化、生活、言語、宗教、価値観などの自国と他国の違いの理解と尊重、(2)国家間の対立・環境汚染、人口増加、富の遍在、などの国際問題の把握と解決への協力参加、(3)国際化によるコミュニケ-ションと交流の活性化、(4)貿易等による相互依存関係と共存の認識、(5)平和、自由、平等、人権、正義、人類愛などの世界共通の思想や地球共同社会という世界意識の育成に関する教材こそが、国際理解に通じるという視点を得た。溝上泰らの社会班は、ニュ-ジ-ランドの10〜17歳の児童・生徒及び小・中学校の教師を対象に、日本で作成された市民生活、歴史や伝統文化、生活様式などを中心に日本の都市・広島市の社会生活を紹介するビデオ教材を視聴させ、日本学習に関する経験の有無とその内容、ビデオ教材に関する興味・関心の程度とその内容、異文化理解に関する実態、日本学習に求める内容と方法などを調べる調査を行い、解答を得た。調査の集計結果に基づいて、児童・生徒及び教師はどのような日本学習を求めているのか、日本学習に関する教育用教材として何が求められているのか、ニュ-ジ-ランドにおけるニ-ズアナリシスを行った。その結果、日本の歴史、伝統文化、人間生活、日本と海外の国々との関係などの教材化の要請が強く、気候、自然、宗教、観光、産業などの日本の実情については小中学生・教師の間で関心が低いことがわかった。さらに、事実認識やデ-タ・情報の提供だけを意図したものではなく、現状や問題点の背景にある条件や原因を究明するような、また、問題解決のための判断を行うような問いを発見することができる教材の開発を要求した。さらに、貿易や文化やスポ-ツなどの相違点や共通点の両面を取り入れた教材の要請があった。また、日本人の立場から日本の社会や文化を理解させたいという教材が現地に少ないことがわかった。池田秀雄は、海外向けの環境教育用視聴覚教材ソフトを開発する目的で、英語版のビデオ環境教材を持参して、多面的な調査を11〜15歳の生徒に行った。その結果、特定地域の環境汚染に目を向けることだけではなく、グリ-ンハウス効果、オゾン層の破壊など全地球レベルで理解、ロ-カルな環境問題に各国相互の共通理解の必要、環境破壊や保全の社会的、歴史的背景の理解が重要である。
著者
犬飼 義秀
出版者
岡山県立短期大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

本年度は、前年度の「児童期における社会性の発達」「仲間集団における社会性の発達」に関する諸理論を、子供の日常生活に求めた。まず、平日・土曜日・日曜日の生活時間および、家庭学習、塾・習い事、テレビ視聴、遊び、スポ-ツ活動等について650名の小学生(4〜6年生)を対象に調査を実施した。その結果、塾通いや習い事が日常化しており、友人仲間それぞれのスケジュ-ルが異なり、共通して遊べる時間あまりなく、集団的な遊びが弱体化している。現代の子供達の遊びは、全体として(1)室内において、(2)少人数で、(3)活動量の少ない、(4)商品化された物を相手に、(5)受動的な遊びが多くなっている。しかし、一方では外遊びと家の中での遊びとでは、外遊びを好み、遊ぶ人数では、より多くでの遊びを好んでいる。このように戸外で多人数の遊びを求めながら、家の中での遊びが中心であることは、子供達が友達と遊べなくなったというよりも、遊べなくなったという深刻な問題がある。このように、遊び活動の衰退は、仲間集団の形成を阻害し、形成されても脆弱化する。次に、こうした仲間集団の具体的状況を、子供スポ-ツ集団の事例的研究に求めた。その結果チ-ムメイトは、クラス内においては好きな友達として上位に選択される。しかし、チ-ム内における相互選択では、レギュラ-はレギュラ-を、イレギュラ-はイレギュラ-を選択するというスポ-ツ集団における層化した人間関係の構造が存在する。さらにレギュラ-同士の人間関係は強いが、イレギュラ-同士の関係は弱い。二層分化したレギュラ-とイレギュラ-を結ぶ関係が弱いことは、集団全体の課題達成や統一維持にとって問題である。レギュラ-・イレギュラ-という層化した人間関係の構造は、地位構造・勢力関係にも反映されている。レギュラ-間における地位ランクは、技能、活動に対する知識水準の高い者と、キャプテンというオ-ソライズされた地位付与者が上位にある。このことは、レギュラ-成員は、活動や勝利という課題達成の遂行者を上位にランクしていることがわかる。一方、イレギュラ-間の地位ランクは、レギュラ-で自分たちとの人間関係の強い者が上位にランクされている。地位ランクの上位者は、スポ-ツ集団におけるリ-ダでもある。リ-ダ-シップ機能には、集団の目標達成機能と統一機能とが見られる。レギュラ-間においては課題達成機能が、イレギュラ-間では統一維持機能がより重要視されている。特に、イレギュラ-は、やさしく・親切な成員をリ-ダ-の選択基準にしている。このように子供スポ-ツ集団の内部に、二層分化の構造が生まれる背景には、過度な勝利志向と技術的上達を求める監督・コ-チの指導態度が強く関係している。今回対象にした子供の発達段階からすれば、親の庇護を離れて仲間の世界へと入っていき、仲間との共通の基盤の上に立ち、大人への全面依存からそれを断ち切り精神的自立の達成を課せされた時期である。現代の子供の人格発達のゆがみは、基本的には子供集団と子供文化が存在していないこと、その中での能動的な活動が保障されていないことから派生されている。学校の週休2日制を前に、地域における子供集団とその文化の再生についての検討が必要である。
著者
斉 光
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

報告者は,平成21年度に実施した研究成果は以下のとおりである。(1)2009年6月20日~25日,北京市にある中央民族大学歴史学部・モンゴル学部を訪問した。(2)6月26日~29日,甘粛省夏河市に所在するゲルク派チベット仏教寺院ラブラン寺に赴き,該寺院が保管している清代青海ホシュート部右翼の有力王公チャガン=ダンジンと彼の子孫・王妃らのお墓,ダライ=ラマが授与した印章,遺物などを調査した。(3)6月30日~7月4日、青海省海南チベット族自治州河南モンゴル族自治県〓案館に行って、清代青海ホシュート部に関連する史料,及び右翼の右力者チャガン=ダンジンと彼の子孫らが使用していたダライ=ラマ授与の印章を収集した。また、河南モンゴル族自治県地方誌を購入した。該自治県は、清代では青海ホシュート部右翼4旗の領地であり,その首長層はほとんどチャガン=ダンジン一族であった。該旗における現地調査から、清朝と青海ホシュート部右翼間の境界線が非常に近くて、康煕・雍正年間において、清朝の軍事牽制策が容易に施行できる状況であったことが明らかになった。(4)7月6日~9日,青海省徳令哈市にある海西モンゴル族・チベット族自治州〓案館に行って,清代青海ホシュート部に関連する〓案史料を収集した。該自治州は清代青海ホシュート部左翼の領地であり,北部のチャイダム盆地ガス地帯はジューン=ガル部に通る軍事的要衝であった。(5)10日,青海湖南部のチャガン=トロガイという地に赴き、清代青海ホシュート部の首長らが会盟して湖神を祭っていた場所を確認した。(5)7月11日~17日,北京にある中国国家図書館善本部・北京大学図書館善太室に赴いて,清代モンゴル年代記・アラシャン=ホシュート旗行政区畫図を収集した。(6)2009年12月9日,筑波大学大学院東洋史研究演習において,博士論文構想発表を行なった。
著者
海野 徹也 長澤 和也 小路 淳 斉藤 英俊
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

放流事業によって漁獲量が著しく回復した広島湾のクロダイについて、産卵場、卵分布、稚魚の分布、成長、食性などの初期生態を解明した。クロダイの主産卵場は広島湾の湾口部に形成され、産卵は夜間であり、卵は幅広い水深に分布した。卵密度と稚魚の日周輪解析より、産卵ピークは5月下旬から6月中旬であり、着底は7月上旬から中旬にピークを迎えることがわかった。稚魚の主食はヨコエビ類、カイアシ類、であったが、生息環境に応じ柔軟性を示していた。
著者
小澤 紀美子 松村 祥子
出版者
東京学芸大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1989

日本はきわめて高度な高齢社会に移行していくために、高齢者が自立して暮らせるためのケア付き住宅やソ-シャルケアなどのサ-ビスシステムの開発が緊要な課題となっている。そこで本研究は3年間にわたって調査を進め、次のような成果を得た。1住宅及びケアサ-ビスを受けている程度によって高齢者の住まい方を5カテゴリ-に分類し、7施設居住および在宅高齢者110人に面接調査を実施した。その結果、社会的・文化的要因や家族関係及びライフヒストリ-、地域社会の差異によるサ-ビス受容レベル、供給レベルの実態と住居の形態別のサ-ビスへの要求、生活の自立の程度に差がある等、高齢者のかかえる問題点等を明らかにした。2社会福祉関係者、福祉行政関係者、学識経験者、一般住民61人への面接調査により、高齢者福祉に必要な30項目の相互関連性を調べ、DEMATEL法によりソ-シャルサ-ビスシステムの問題構造を明らかにした。さらに日本型ソ-シャルサ-ビスシステムの問題解決のための方策を検討した。3以上の調査結果、及びフィンランドの研究成果の概要、研究担当者がこれまで調査した住民への意識調査結果から、日本型ケアサ-ビスシステムとそのサポ-トのための組織づくりへの課題を検討し、その方策の提案を行った。
著者
中迫 昇
出版者
近畿大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

本研究では、もともとの変動が有限な範囲内に留まっていたり、(飽和型非線形系の)計測器のダイナミック・レンジなどの存在により有限な範囲内の値を示す実際的な場合において、非定常入力を伴う系の応答解析を最終目標としている。今回は研究の初期的段階にあることから、特に飽和型非線形系における非定常変動観測時の雑音対策を、システムの物理メカニズムと直結するパワースケールとの関連で考究した。すなわち、有限レベル変動範囲のダイナミック・レンジをもつ観測データを用いて、任意分布型の外来雑音に汚された未知非定常信号(特に、パワースケールのような正の物理量)を、動的に推定してゆく推定アルゴリズムをベイズ定理に基づき開発した。具体的には、飽和の影響を受ける前の任意変動の観測値と任意非ガウス型変動を示す未知信号間の線形・非線形の各種相情報を階層的に反映した新たな信号復元法を、広義ディジタルフィルタの形で見い出した。更に本研究で得られた理論的結果を、シミュレーションデータや残響室内における暗騒音混入下の実音響データに適用し、その有効性を検証した。本研究で得られた理論の特長を列挙すると以下のとおりである。1)本手法は、外来雑音の混入とダイナミックレンジの存在に整合している。2)実システムが本質的にもつ非ガウス性、非線形性に対応できる。3)推定アルゴリズムが実用的である。すなわち、観測レンジ内では従来のベイズフィルタを形式的に採用し、観測レンジの上限、下限では確率密度の集中を簡易的に考慮している。4)スペシャルケースとして、ダイナミック・レンジが十分広い場合には、従来のベイズフィルタを理論的に包含している。本研究をもとに、今後、非定常な確率現象と計測における有限性を伴うあらゆる実分野への適用とその成果が期待できる(たとえば、機械振動、地盤振動、道路交通騒音などにおける非定常揺らぎの評価や解析など)。
著者
中迫 昇
出版者
近畿大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

本研究では、我々の生活と切り放すことができない音環境システムに特に着目し、その信号処理を目指して、多変量解析の分野で公知の主成分分析法と因子分析法の拡張を試みた。まず、特に音環境における確率評価量(例えば、Lx、Leq)間での双方向変換関係を見いだす目的で、公知の主成分分析法を理論的に拡張した。具体的には、線形関係および自乗誤差評価(すなわち、線形相関を利用)のみに基づく従来の手法とは異なり、非線形モデルの導入や、高次相関情報の誤差評価への利用などを行なった。さらに、公知の回帰分析法と対比させながら提案手法を実測データに適用し、良好な結果を得た。この成分分析の拡張手法には次のような特長がある。すなわち、1)実現象ごもつ複雑さや各変数間の非線形性に対応できる、2)多変数間の線形相関情報のみでなく非線形相関をも利用できる、3)従来の主成分分析法をスペシャルケースで含んでいる、4)2変数のみでなく、3変数以上の場合のもそのまま本手法が拡張できる、などである。ついで、音環境における複雑な多数遮音システムを、暗騒音に埋もれた出力観測のみから同時に同定したり、その出力応答を(騒音評価量とも関連し)揺らぎ分布全体において予測する目的で、特に実用的な立場から因子分析法の考え方を拡張した。具体的には、共通因子と独自因子に実体的メカニズムをまず反映させて、それぞれ騒音入力インテンシティ、各観測点での暗騒音インテンシティとして捉え、インテンシティスケールでの線形モデルに基づきシステムパラメータとして因子負荷量を推定した。この結果を用いて、暗騒音の影響がない場合、すなわち入力騒音のみに対する出力騒音の分布予測を行うことができる。さらに、本手法を実際の音環境データへ適用することによりその有効性を実験的にも確認できた。この因子分析の拡張手法は次のような特長を持っている。すなわち、1)複数システムを同時に扱える、2)入力および暗騒音が未知でも適用できる、3)計測において入出力間の同期をとる必要がない、などである。
著者
得津 愼子
出版者
関西福祉科学大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

1.平成14年度の作成した家族レジリエンス尺度(Family Resilience Inventory,FRI)の調査・分析を下に、平成15年度家族心理学学会第21会大会において「家族レジリエンスの家族支援の臨床的応用に向けて」の口頭発表を行った。これについては「家族支援に有用であると思われる家族レジリエンス概念を用いた家族機能尺度の作成」という原稿にまとめた(掲載は未定)。2.平成14年度に行った「家族の危機と回復」についての聞き取り調査の分析を進め、「家族レジリエンス尺度作成に向けて」『関西福祉科学大学紀要』Vo17(2004,3月刊行予定)に発表した。3.平成15年12月に、中途障害者とその家埠から聞き取り調査を行い、家族の持つ家族レジリエンスが働くため、医療ソーシャルワーカ」や支援システムの充実が不可欠であることが考察された。4.FRIは臨床に使用されることを目的としている。今日、家族療法においても、社会福祉方法論においてもナラティヴアプローチがもはやメインストリームとなっている感もある。自記式調査であれ、聞きとり調査であれ、家族員が家族の危機的状況を新たに思い起こし、「語る」ことは極めて臨床的な行為である。ゆえに、家族レジリエンス尺度の自己活用の可能性が示唆された。5.調査の対象者が「家族」を語るときの家族は、対象者の時系列的に異なる複数の「家族」であったり、その故に、同じ家族からの同時の聞き取り調査であっても、その対象とする「家族」は異なっている場合がある。また、絶えず変化生成する家族システムの特徴からも、家族の「今、ここ」での資源としての有用性に焦点化することに意義があるのではないかと考察された。6.本家族レジリエンス概念は、従来のコーピング概念や家族ホメオスタシス概念と混同されやすいが、家族は個人と同様に家族内の相互作用のみならず、外部システムとの相互作用も含めて動き、家族レジリエンスは外部システムからの刺激によっても促進されるものである。ゆえに、単に家族解体を避けるためというよりも、一層機能的なシステムとなるためには、家族レジリエンスが働くための外部システムやその相互作用に注目すべきである。家族レジリエンス概念を盛り込んだ新たな支援システム作りについて一層調査、研究を深めたい。
著者
富田 晋介
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

この研究は、東南アジア大陸山地部を事例に、今後いかに自然資源の利用を行っていけばよいのかという問題に対して、過去数十年間に地域で行われてきた自然資源管理・利用を長期のフィールドワークとリモートセンシングを用いて経年的・定量的に復元し、慣習的な管理・利用の仕組みの形成過程に着目して、取り組んだ。この報告では、1.家族における水田の保有と分与がどのように行われてきたのか、2.水田の分与システムが社会階層の形成にどのように関係してきたか、3.水田の分与システムが耕地面積の拡大にどのように影響してきたかの3点について報告する。調査村では、開拓可能な水田面積の減少による世帯間の経済格差の固定化が、耕地拡大の背景のひとつになった可能性があった。一方で、市場経済が浸透し、商品作物と裏作などの新しい技術が導入され、それまで用いられていなかった乾季の水田や森林が土地として価値をもつようになった。このような土地の資源化は、水田面積による世帯階層の固定化を、土地利用の集約化と耕地の拡大によって緩和したと考えられる。
著者
小野坂 仁美
出版者
愛媛大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

本研究では、痴呆性高齢者が人形やぬいぐるみなどの非生物や偶像等を「生きている人、あるいは動物」として認知し、それら対象に対してなんらかの関わりを持とうとする現象を「人形現象」と操作的に定義している。そこで、本研究の目的は、この「人形現象」について、痴呆の病態と認知との関連の有無、痴呆性高齢者のなかでこの現象がみられる割合や傾向、生活歴や病態との関連などを系統的に調査し、当該現象を明らかにすることである。そして、当該現象について明らかになったことをふまえて、人形を痴呆性高齢者のケア及びレクリエーションとして活用できる方策を検討することが次の目的である。当該現象を明らかにするために、脳血管性痴呆の高齢者165名とアルツハイマー型痴呆42名、Pick病7名、ビンスワンガー症候群2名を対象に、形態の異なる3種類の人形を示した上で参加観察法を用いて人形に対する反応の傾向についての調査を行った。結果は、形態の異なる人形の中で最も反応したのは、どの痴呆においても乳児に似せて作った人形であった。人形を見て人形と認知しない割合は脳血管性痴呆とアルツハイマー型痴呆はほぼ同じであったことが判明した。人形として認知しないのは重度の痴呆者が最も多かった。人形に対する関心の高さと継続度は重度の痴呆者が一過性であるのに対し、中等度の痴呆者は継続して人形に対する関心と関わりを維持した。性差でみると、人形に対する関心の高さと関わりについては圧倒的に女性が優位であり、直接自分の乳房に人形の口を当てて哺乳した行為さえ見られた。また、中等度の者は、人形と認知できた上で過去の生活史の回想につながるものが多かったいう結果が得られた。回想については、脳血管痴呆者は人形を「わが子」として認知し世話をするのに対し、アルツハイマー型痴呆者の場合は、人形を見て自分自身が子供に退行し自分の親あるいは子供時代を回想する者が多かった。他者との関係から見ると、人形を介してケア提供者との関わりが容易になり増える反面、人形を人形と認知する他の痴呆者から嫌がらせや叱責を受けたりなどの迫害的行為が見られた。以上のことから、人形を痴呆性高齢者のケア及びレクリエーションとして活用するのは、「子役割」として人形を用いる場合は、脳血管性で中等度痴呆の女性が最も適切であることがわかった。アルツハイマー性痴呆者に用いる場合は、退行が進む可能性に注意する必要がある。また、他の痴呆者やケア提供者との関係性などの環境を整備した上で行うことが重要であることが示唆された。
著者
PERRY 史子 榊原 和彦 福井 義員
出版者
大阪産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

豊かな都市生活環境を創り出す一つの大きな要因である、誰でもがアクセスできる都心公共空間、アーバン・インテリアを対象とし、その空間計画やデザインの方向性を見出す事を目的として、具体的な研究対象地を設定して実態調査を実施した。その実態把握・分析に基づき、都市空間の中でのアーバン・インテリアの位置付け、空間形態の類型、空間的特徴を導き出した。さらに、空間の重なりも含めてアーバン・インテリア空間の実態を総合的に、簡単に把握できるように、GISを応用した視覚的表示システムを構築した。
著者
石原 陽子 中島 徹 富田 幸子 荻原 啓実
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

1.気管内投与したナノ粒子の体内動態について検討したところ、投与3日目では肺胞腔沈着と肺胞マクロファージによる貪食が、7日目ではI型肺胞上皮細胞や基底膜への沈着や血管腔への移行が認められた。10日目では、I型肺胞上皮細胞、血管腔、肝臓クッパー細胞、嗅球で検出され、沈着部位が広範であることが示唆された。2.ナノ粒子としてディーゼル排ガス暴露実験を行ない、生体影響評価の際の指標を検討した。生理的指標として心拍数、不整脈数、HRV,体温等が、分子生物学的指標としては炎症関連サイトカイン類、ANP,BNP等が選択された。しかしながら、これらの指標と心不全との関連性は、明確ではなかった。3.ディーゼル粒子とその表面を有機溶剤で処理した粒子の炎症性サイトカイン遺伝子発現を指標とした検討では、単位重量当たりの効果は無洗浄粒子に比較して洗浄粒子の影響が強かった。洗浄粒子は無洗浄粒子と比較して単位重量当たりの粒子数が多いことから、この結果には粒子の物理的特性が関与していることが考えられた。4.ディーゼル粒子表面の有機成分の心肺機能と炎症作用について検討したが、心拍数、自律神経、血圧、体温には著しい影響は認めず、気管内投与直後に炎症細胞の軽度な浸潤を認めたが、その影響は速やかに回復した。5.ナノ粒子のリスク評価では、最初の吸入・沈着部位としての肺局所のみならず心臓、神経、脳等への全身影響について、粒子の化学的・物理的特性も充分に考慮して評価する必要があることが示唆された。
著者
山田 啓一
出版者
名城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

周辺車両ドライバの状態に応じた運転支援システムのコンセプトを提案し,そのようなシステムが周辺車両ドライバの状態に適応的ではない従来型のシステムと比べ,より効果的に運転支援が行えることを明らかにした。そして,そのようなシステムを実現するための要素技術として,後続車両の車両挙動からその車両を運転するドライバの反応時間や不注意運転傾向の度合いを推定する手法などを提案した。
著者
中辻 隆
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

冬期路面における渋滞時交通特性に関し、1)凍結路面での追従特性を実走行試験データに基づき、反応時間、潜在衝突性などの追従挙動特性、あるいは衝撃波特性について夏期路面との相違を定量的に明らかにした。2)市販の交通シミュレーターのAPI機能を用いてUnscentedカルマンフィルターを用いて交通需要や交通状態を逆推定する手法の開発を行い、3)上の成果を用いてフィードバック手法に基づく旅行時間予測モデルの開発を行った。
著者
小川 禎一郎 中島 慶治 渡辺 秀夫 井上 高教
出版者
九州大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1993

高感度でかつ情報量の多い機器分析装置を開発することは、現代分析化学の最重要課題の一つである。本申請課題は、分子が非対称的に配向している系にレーザーを照射すると、波長が入射光の半分の2倍波が発生する現象をもとに、固体・液体表面や界面の分子やそれらに吸着した分子の構造と配向を決定し、さらにその定量化を行うための高感度な機器を試作することを研究目的とし実施した。補助金により照射するレーザー光の角度や偏光を精密制御するためゴニオメーターと試料の位置を正確に微動するための精密ステージを購入し、新しい光学系を組み立てた。試料表面へのレーザーの入射角を自由にかつ連続的に変えることができ、表面分子からの2倍波の強度のレーザー入射角度依存性を測定できるようになった。これにより分子の表面に対する配向角度をより精密に(近似を行うことなく)決定できるようになった。また、入射角に対する強度依存性から、分析の目的のための最適角度を決定できるようになった。補助金により直流高電圧安定化電源を購入し、レーザー2光子イオン化装置の高感度化を計った。より高い電圧を印可することにより、飛び出した電子の捕集効率が高ま理、より高感度な分析が可能となった。これらの装置を活用して高感度分析を行い、次のような検出下限を得た。レーザー2光子イオン化法……水溶液表面のピレン……0.2fmol金属板表面のBBQ……0.1pmolレーザー2倍波発生法……ガラス表面上のDEOC……0.2pmolこれらの値はいずれも従来法より大きく優れたもので、研究の目的はほぼ達成した。
著者
福井 宣規 錦見 昭彦 實松 史幸
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

樹状細胞は、形態、表面マーカー、機能から形質細胞様樹状細胞(pDC)と骨髄型樹状細胞(mDC)の2つに大別される。mDCは抗原を捕捉しT細胞に提示することで、獲得免疫の始動に重要な役割を演じている。一方pDCは、TLR7/TLR9を介して核酸リガンドを認識し、大量のI型インターフェロンを産生すると言う点で、近年注目を集めている細胞であるが、その活性化機構の詳細が十分に解明されているとは言い難い。Atg5の欠損マウスではpDCの活性化が障害されることから、オートファジーがなんらかの形でこの活性化に関わる可能性がある。また、TLR7/9は未刺激の状態ではERに存在するが、ERを移出後TLR7/9は限定分解をうけることが最近報告された。それ故、このタンパク分解がTLR7/9の活性化に関わっている可能性も考えられる。このため、本年度はpDCの活性化におけるオートファジーとTLR9の限定分解につき解析を行った。このため、LC3トランスジェニックマウスの骨髄からpDCを分化させ、レトロウイルスベクターを用いてYFPを融合したTLR9を発現させた後、Cy5でラベルしたCpGを取り込ませたところ、TLRとCpGが刺激後6時間でLC3ポジティブのドットと共局在することを見出した。しかしながら、生化学および電顕を用いた解析からCpG刺激によるオートファジー亢進の所見は得られなかった。一方、TLR9の限定分解についてもレトロウイルスベクターを用いた強制発現系で解析したが、CpG刺激の如何に関わらずN端を欠失したTLR9が認められることから、この限定分解がTLR9の活性化と直接リンクしているという証拠は得られなかった。
著者
坂神 洋次 小鹿 一 近藤 竜彦
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2006

(1)枯草菌のクオラムセンシングフェロモンComXの構造決定、構造活性相関、in vitro酵素反応を用いて特異な翻訳後修飾機構を解明し、さらに翻訳後修飾の普遍性に関する研究をおこなった。(2)前駆体遺伝子が明らかになっているが、実際に作用している化学構造が不明な植物ペプチドホルモンの化学構造を解明する手法を確立し、シロイヌナズナの成長点(茎頂分裂組織)の機能維持に必須の遺伝子CLV3に由来する生理活性ペプチドとしてMCLV3を、同じくシロイヌナズナの気孔形成を誘導するSTOMAGEN遺伝子に由来するstomagenを同定し、その構造を明らかにした。
著者
松原 宏之
出版者
横浜国立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

1930年代に成立するとされるアメリカ型福祉国家の起源を探るには、国内史だけでなく、網の目をなすトランス・ナショナルな人と情報の流通を1900年代から1910年代に遡って視野に入れねばならない。
著者
長柄 一誠
出版者
鳥取大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

構造予測においては成功例が多い第一原理シミュレーションであるが、通常行われる交換相関相互作用に対する局所密度近似(LDA,GGA)のもつ欠点故に、バンドギャップが正しく評価出来ず、金属-非金属転移の評価には使えない。そこで、最近有用性が明らかになって来た準粒子モデルに基づく第一原理計算(GW近似計算)を用いて、バンドギャップの圧力変化のより信頼性の高い評価を行い、圧力誘起金属転移が報告あるいは予想されている水素化合物と水を調べ、より信頼出来る金属転移圧評価を目指した。結果はこれらの物質の圧力誘起金属化実験に対して、指針となるデータとして役立つ。 2011年に、希土類水素化物 YHx、特に YH3について、圧力誘起金属転移の新しい実験が大阪大等で行われ、また内外で理論的な予測構造も報告された。この物質のGW近似に基づく計算結果は、予測されている20数万気圧での金属化という結果よりずっと高い転移圧になるという、大阪大の結果を支持するものであった。(50th EHPRG会議 Thessaloniki, GREECEで発表)。これに続いてより複雑な構造に対するGW計算を実行するため、連携研究者である鳥取大学の小谷岳生氏にGWコード(Ecaljコード)の並列化を進めて頂き、高速計算が可能になった。それを用いて、ヨウ素の圧力誘起金属転移を調べると、通常のLDA,GGAの12万気圧程度でバンドギャップが閉じ金属化するという結果を修正し、実験値に近い約20万気圧でバンドギャップが閉じるという結果を得た。他のコードとの比較を行い、信頼性のチェックが終われば結果を公表する。コード改良の結果かなりの高速計算が可能になり、今まで以上に複雑な構造が扱えるようになって来たため、水をはじめ多くの構造が提唱されながら、金属転移圧が依然としてはっきりしない金属水素の金属転移圧予測を今後めざす。
著者
村上 正隆 折笠 成宏 斎藤 篤思 田尻 拓也 橋本 明弘 財前 裕二 牧 輝弥 荒木 健太郎 松木 篤 久芳 奈遠美
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

つくばサイトに於いて、各種エアロゾル測定・採取装置、雲核計、氷晶核計を用いて通年観測を継続実施した。エアロゾルの物理化学生物特性および雲核・氷晶核活性化スペクトルの季節変化について明らかにした。大気エアロゾルの主要構成要素である、黄砂粒子・バイオエアロゾル・種々の人為起源エアロゾル(標準粒子)を対象とした雲生成チェンバー実験や雲核計・氷晶核計を用いた測定結果と詳細雲微物理モデルの結果に基づき、その雲核能・氷晶核能を種々の気象条件下で調べ定式化した。その結果を用いて非静力学モデルなどに用いるエアロゾル(雲核・氷晶核)・雲・降水を統一的に取扱う新機軸のパラメタリゼーションを開発した。