著者
村上 亮 飛田 幹男 矢来 博司 小澤 慎三郎 西村 卓也 中川 弘之 藤原 智
出版者
Tokyo Geographical Society
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.109, no.6, pp.944-956, 2000-12-25 (Released:2009-11-12)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

The power of interferometric Synthetic Aperture Radar (SAR) when applied to studies of crustal deformation has been fully demonstrated by Massonnet et al. (1993, 1994) and Zebker et al. (1994) for the Landers, California earthquake of June 28, 1992. This method is unique in its capability of providing a two-dimensional representation of a deformation with a dense spatial coverage over most of the globe. Since 1994, the Geographical Survey Institute (GSI) has been conducting a study on applications of differential InSAR (Interferometric SAR) for the detection of crustal deformations associated with earthquakes and volcanic activities. Crustal deformations of many episodes were mapped by InSAR, such as those due to the 1994 Northridge earthquake, the 1995 Hyogo-ken Nanbu earthquake, the 1995 Neftegorsk earthquake, and volcanic deformations of Mt. Iwate and Mt. Usu. These interferograms played an important role in constructing geophysical models.
著者
萬谷 惇 中川 誠司 小谷 賢太郎 堀井 健
出版者
公益社団法人 日本生体医工学会
雑誌
生体医工学 (ISSN:1347443X)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.114-120, 2007 (Released:2008-06-05)
参考文献数
14

Although several studies have reported that the rise-time of sound stimulus affects on auditory evoked magnetic fields, effects of each parameter which vary in connection with rise-time—whole energy, rising-speed (dL/dt), spectrum—have not been clarified. In this study, N1m amplitudes and latencies were examined using noise-bursts with varying rise-time and constant energy or rising-speed. The results showed that N1m increased in amplitude and decreased in latency as rise-time increased (i.e, energy increased) under the rising-speed-constant condition. In contrast, N1m amplitudes and latencies did not vary significantly as rise-time increased (i.e., rising-speed decreased) under the energy-constant condition. These results indicate that sound energy has greater effects on N1m amplitude and latency than rising-speed.
著者
新吉 直樹 清野 智史 上垣 直人 藤枝 俊 植竹 裕太 中川 貴
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.171-177, 2022-07-15 (Released:2022-07-07)
参考文献数
13
被引用文献数
1

放射線照射により誘起される反応を利用し,Sn系ナノ粒子を合成した。SnCl2水溶液に60Co γ線を照射すると,金属Snナノ粒子が生成した。照射により生成する還元性活性種によりSn2+イオンが還元され,ナノ粒子化したものと考えられる。カーボン担体を添加して照射すると,SnO2ナノ粒子が得られた。担体表面に金属Snナノ粒子が分散担持することで微細化し,酸化したと考えられる。放射線を用いた合成法がスズにも適用可能であることが示された。
著者
馬場 天信 佐藤 豪 齋藤 瞳 木村 穣 中川 明仁
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.52, no.10, pp.937-944, 2012-10-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
21

肥満治療において臨床心理士を加えたチーム医療システムは効果的である.また,パーソナリティ尺度は,肥満症患者の置かれている心理社会的状況を理解するツールとして,患者と治療スタッフ双方に有益な情報を提供する.パーソナリティと肥満に関する研究報告は近年増加しているが,日本人の肥満症患者に関する報告は数少ない.本研究ではNEO-PI-R, TEG II, TAS-20を用いて,肥満症患者と一般成人におけるパーソナリティの違いを検討したところ統計的差異は認めらなかった.次に,肥満度別によるパーソナリティの違いについて分散分析を用いて検討したところ,BMI35以上の肥満症患者は神経症傾向(特に不安と抑うつ)が高く,感情同定困難という特徴が認められた。以上の結果は,肥満度の高い肥満症患者に対する介入にはパーソナリティの査定が有効であることを示唆している.
著者
中川 啓 河村 明
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.73, no.5, pp.I_131-I_140, 2017 (Released:2018-01-15)
参考文献数
18

地方都市であるU市では,今後の良好な環境の保全と創造に向けた環境行政を推進するため,環境行政の基本的な方向性を示す環境基本計画の策定に向けて,計画策定の前提となる現状把握に関する調査の手段として,市民に対するアンケート調査を実施している.本研究では,このアンケート結果を入力とした自己組織化マップによって,市民の環境に関する意識を分析した.その結果,関心がある環境問題,環境への取り組み,環境政策の満足度および重要度についての市民の意識構造が明らかになった.またアンケート結果の分類の一手段として,自己組織化マップが有効であることが確認された.
著者
樫葉 みつ子 中川 篤 柳瀬 陽介
出版者
中国地区英語教育学会
雑誌
中国地区英語教育学会研究紀要 (ISSN:03851192)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.95-105, 2018-03-31 (Released:2019-04-10)
参考文献数
10
被引用文献数
1

With increasing work-related communicative demands for school teachers, it is imperative that universities provide prospective teachers with learning opportunities to successfully communicate in challenging situations. This paper reports a case study of introducing Tojisha Kenkyu, or a communal exploration by and for persons in challenging situations, to university students before their graduation with the English teacher’s license. Through the four sessions coupled with reflection on an electronic bulletin board, students (re)learned the importance of equality between speakers, self-exposure of negative points, a context with shared metacommunicative values, and reciprocity of communication.
著者
森河 裕子 中川 秀昭 田畑 正司 西条 旨子 千間 正美 北川 由美子 河野 俊一 寺西 秀豊 城戸 照彦
出版者
The Japanese Society for Hygiene
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.46, no.6, pp.1057-1062, 1992-02-15 (Released:2009-02-17)
参考文献数
13
被引用文献数
3 2

We studied an outbreak of itai-itai disease in the Jinzu River basin, in Toyama, Japan. One hundred and fifty females recognized as itai-itai disease patients till by 1990 were studied for the ages and years of onset and residence in the cadmium-polluted area.1. Cases were recognized from as early as 1929, increased gradually to the peak of 1955-1959 and rapidly decreased up to the 1970s.2. It was found that the later the patients was born, the younger the age of onset, though there was no difference of ages of onset between the cases born in the 1910s and the cases born from 1920.3. The onset of itai-itai disease was most frequently seen at 50-59 years of residence in the cadmium-polluted area. It was found that the later a person started to inhabit the cadmium-polluted area, the shorter the period of residence in the cadmium-polluted area up to onset of itai-itai disease.4. Comparing the patients who inhabited the cadmium-polluted area from birth and those who had moved there from non-polluted areas, the age of onset was higher in the latter, but there were no significant differences in the period of residence up to onset.From these findings, it appeared that itai-itai disease was not caused by aging, but by cadmium exposure starting from the 1910s.
著者
中川 憲之 萩原 博嗣 久我 尚之 寺本 全男 田中 智顕 花田 麻須大 河村 好香
出版者
西日本整形・災害外科学会
雑誌
整形外科と災害外科 (ISSN:00371033)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.82-84, 2009-03-25 (Released:2009-06-02)
参考文献数
7

日本では,猟,クレー射撃などでの散弾銃の所持が許可されているため,事件,事故により散弾銃創を治療する可能性はある.今回我々は2007年12月に佐世保市のスポーツジムで発生した散弾銃乱射事件の被害者の治療を経験した.当院に搬送された被弾者は4例で,1例は死亡,3例は待機的に散弾摘出を行った.1例はすべて摘出できたが,2例は全摘困難であり一部残存した.散弾銃創における治療,合併症について報告する.
著者
松田 祐真 中川 匡弘
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.J105-A, no.7, pp.81-91, 2022-07-01

頭皮上脳波から情報を取り出し,使用者と機械とを繋ぐBrain Computer Interface (BCI)の研究が取り組まれ,感性の定量化が注目されている.深層学習技術の発展から,BCIの解析手法に深層学習アルゴリズムが用いられ,よい結果が報告されている.その一方,深層学習アルゴリズムはマシンパワーや大量のデータセットを必要とするなど,頭皮上脳波を用いたリアルタイムBCIとしての実装と運用には不向きな特徴も有している.本研究ではリカレントニューラルネットワークの一つであり,よりシンプルで高速なEcho State Network (ESN)を用いた手法を提案する.提案手法はESNの中間層出力の時系列をフラクタル解析することで高速に頭皮上脳波データの分類を行うものである.結果,ESNのフラクタル解析可能性が確認され,感性脳波データセットを用いた分類実験からよりリアルタイム性の高い実用的なBCIの構築可能性が示唆された.
著者
中川 千鶴 大須賀 美恵子 竹田 仰
出版者
Japan Human Factors and Ergonomics Society
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.131-138, 2000-06-15 (Released:2010-03-12)
参考文献数
22
被引用文献数
6 5

近年, 仮想環境 (Virtual Environment: VE) の技術は著しく進歩しており, 多くの分野で普及しつつあるが, 一方で, VEシステムの利用時・利用後に生じる「酔い」の問題が顕在化し, その低減や防止策が強く望まれている. そこで, 我々は, VEシステム利用時の嘔吐に至らない程度の軽度の「酔い」を簡便かつ客観的に評価する手法を検討した. 13名の健常成人を被験者に用い, 黒い3次元空間に白いドットがランダムに分布している仮想空間内を移動する映像を刺激として用い, 暗室内の70inchの画面に提示して最大15分暴露した. この間の心電図, 呼吸などの生理反応を収集し, これらから得られる指標値と「酔い」の程度の主観評価との関係性を調べた. その結果, 軽度の酔いが発症した場合に, 呼吸周波数と心拍変動の0.1Hz近辺の成分が低下するという特徴的な現象がみられた. これらは, 他のストレス事態における生理反応パターンと異なるものであり, VEによる軽度の「酔い」の評価指標として用いられる可能性が示された.
著者
中川 雅文
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.651-657, 2007-12-28 (Released:2010-08-05)
参考文献数
18

健聴者7名および難聴者5名を対象として有意味単語 (親密度の高い4モーラ音) と無意味単音 (語音聴力検査用音源 57S) を用いて音場での聴取能の比較評価を行った。健聴群では有意味単語およびそれを構成する有意味単音いずれの正答率も無意味単音よりも高値を示した。難聴例では, 健聴例同様のパターンを示すものと有意味単語と有意味単音いずれも低下するケースを認めた。親密度の高い有意味単語を用いた検査は, 脳内の処理資源 (ことばの記憶・イメージ) の活用や不足する音素を類推・補完するトップダウン処理を定量的に評価する手法として今後の臨床応用が期待できる。
著者
中川 有 中鉢 誠司
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.76, no.7, pp.1577-1581, 2015 (Released:2016-01-30)
参考文献数
9

症例は55歳,女性.皮膚の浮腫と胸壁固定を伴う6cmの左乳房腫瘤を自覚し当院を受診した.浸潤性乳管癌(triple negative)と腋窩および傍胸骨リンパ節転移T4c N3bM0 Stage IIIcと診断し,FEC100×5,ドセタキセル×4を施行後,左乳房切除術および腋窩リンパ節郭清を施行した.病理組織学的には腫瘍径24mm,pN0であったが,化学療法前に傍胸骨リンパ節腫大を認めたことから,胸壁と鎖骨上窩に術後放射線照射(50Gy)を行った.照射6カ月後,発熱と呼吸苦あり,胸部レントゲンで左肺野に浸潤影を,胸部CTで多発する浸潤影とスリガラス様陰影意を認め,放射線療法後器質化肺炎と診断した.ステロイド投与を開始したが,ステロイド減量中に3回の再燃を繰り返したため,シクロスポリンを追加投与した.乳癌術後放射線照射後器質化肺炎にて免疫抑制剤の投与を必要とした症例を経験したので報告する.
著者
中川 成美
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

近代以降、日本人の海外渡航に伴う紀行文、旅行記、旅行日記などは膨大な量に及ぶ。本研究ではその堆積を基礎に、日本人が残した海外体験の実相を追及するとともに、そこには異文化への興味を媒介とする自己の相対化が断行されていたことが了解される。それはまた歴史的な事象によって変転する自身の運命との対峙ともなっている。移民や戦争によって戦地に連れ去られる兵士など、日本人が経験した多様な海外体験は膨大な記録となって積み重ねられているが、その殆どが忘れられている現状を鑑み、それらの資料の発掘と、別の視点からの照射は、あらたな文化研究を拓いていくものと考えている。
著者
中川 栄利子 樋口 倫代
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.447-458, 2022-06-15 (Released:2022-06-15)
参考文献数
33

目的 女性就労者を対象に,代表サンプリングによる全国規模の社会調査のデータを使用し,就労形態別に労働要因および社会経済的要因と受診抑制との関連を分析することを目的とした。方法 日本版総合的社会調査2010年調査(JGSS-2010)のデータセット2,496人分より,20歳以上65歳未満の女性就労者639人分を抽出して行った二次データ分析である。まず,受診抑制の有無,労働要因(職種,就労年数,労働時間,会社の規模)および社会経済要因(年齢,婚姻状況,15歳以下の子どもの数,学歴,等価可処分所得)を就労形態別にクロス集計した。さらに,受診抑制の有無を目的変数,労働要因と社会経済要因を説明変数としたロジスティック回帰分析を就労形態で層化して行なった。結果 全対象者中,受診抑制ありと答えた者は227人(35.5%)であった。受診抑制の有無と就労形態の間に有意な関連は認めなかった。調べた労働要因および社会経済要因は就労形態と強い関連を認めた。正規雇用などの女性に限定すると,就労年数2年未満の者に対する2年以上5年未満,5年以上10年未満および10年以上の者の受診抑制のオッズ比は,それぞれ3.91(95%信頼区間(CI): 1.31-11.7),2.86(95%CI: 0.97-8.44),1.99(95%CI: 0.70-5.66)であった。非正規雇用などの女性の分析では,60代に対する50代,40代,30代,20代の受診抑制の調整オッズ比は,それぞれ2.26(95%CI: 0.99-5.16),4.09(95%CI: 1.70-9.82),5.03(95%CI: 1.90-13.30),5.32(95%CI: 1.87-15.10)と若い年齢群ほど受診抑制のオッズ比が大きくなる傾向を認めた。その他の労働要因,社会経済要因と受診抑制の有無には有意な関連を認めなかった。結論 3割以上の人が過去1年間に医療を受けることを控えた経験を有していた。就労形態と受診抑制の間には有意な関連を認めなかったが,正規雇用などの女性では中堅と考えられる群,非正規雇用などの女性では妊娠・出産や子育ての世代で受診抑制のオッズ比が有意に大きくなっていた。これは,就労形態による女性の健康問題の違いを示唆していると考えられる。個人のライフステージや家族関係とともに,労働状況や環境を考慮した健康支援が必要であろう。
著者
榎戸 芙佐子 窪田 孝 中川 東夫 渡邉 健一郎 亀廣 摩弥 大原 聖子 地引 逸亀 野田 実希
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.46, no.10, pp.897-905, 2006
参考文献数
27

神経衰弱,慢性疲労症候群(CFS),うつ病の三者が疑われる3例の診断と治療・経過を紹介し,問題点を指摘し,今後の研究に対する提案を行った.症例1は疲労を主訴にインターネットの情報からCFSを疑って受診してきたがCFS疑診例であり,症状からICD-10の神経衰弱と診断し治療したが軽快に止まった.症例2もCFSを自己診断していたが,客観的所見に乏しく身体表現性障害と考えて治療していたとこう,妄想が明らかになり妄想性障害に診断を変更した.症例3は抑うつエピソード以前から身体徴候があり,リンパ節腫脹,関節痛,咽頭炎の症状からCFSと診断し,治療の結果ほぼ完治した.CFSと神経衰弱は社会的背景・症状が似ており,両者は文化的変異形と考えられる.れが国における神経衰弱の乱用ともいえる現状を考えると,CFSを積極的に診断し治療していくことが患者・家族の福利につながり,疲労の脳機能の解明にも貢献すると考えた.
著者
生友 尚志 田篭 慶一 三浦 なみ香 中川 法一 増原 建作
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0527, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】人工股関節全置換術(THA)後1年間の筋力の推移を報告した研究はほとんどない。本研究の目的は,THA術前から術後1年間の股関節外転(股外転)筋力と膝関節伸展(膝伸展)筋力の推移を明らかにすることである。【方法】対象は当クリニックにて初回片側THAを施行した女性64名とした。対象者は全例が片側の変形性股関節症であり,平均年齢は63.6±9.4歳,罹病期間は7.7±6.6年,Harris Hip Scoreは61.7±11.3点であった。手術は全て同一医師により後側方アプローチにて施行した。術前後のリハビリテーションは同一の理学療法士が主に担当し,1日2回計2~3時間程度週6日実施した。術後2日目より歩行開始し,筋力トレーニングは対象者の回復状況に応じて実施した。股外転筋力トレーニングは,術後3か月までは創部への過負荷を避けるため高負荷な股外転運動は実施せず,ゴムバンドを用いた運動を中心に実施した。術後3か月以降は側臥位や荷重位での股外転運動などの積極的な股外転筋力トレーニングを追加して実施した。膝伸展筋力トレーニングは術後早期より積極的に術側下肢への荷重練習を実施し,段差昇降運動や自転車エルゴメーターなどを実施した。入院期間は4週間であり,退院後は術後2か月,3か月,6か月,1年時に回復状況の評価とホームエクササイズの指導を行った。筋力の測定にはHand-Held Dynamometer(アニマ社製μTas F-1)を使用して,両側の股外転と膝伸展の最大等尺性筋力を測定した。測定時期は,術前,術後3週,3か月,6か月,1年時とした。測定方法は,股外転は背臥位にて股外転0度で大腿遠位外側部にて測定,膝伸展は端座位にて膝関節屈曲約80度で下腿遠位前面にて測定した。測定には固定バンドを使用し全て同一検者にて行い,約3秒間の最大等尺性筋力をそれぞれ2回測定し,その最大値からトルク体重比(Nm/kg)を算出した。また各筋力の患健差の推移を検討するために患健比(患側トルク体重比/健側トルク体重比×100)を算出した。統計解析は,各筋力の測定時期におけるトルク体重比の比較には,Friedman検定と多重比較検定を用いた。患健比の推移の比較には,測定時期,筋力間を要因とした二元配置分散分析を用いた。全て有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には口頭ならびに書面にて本研究の趣旨を説明し,研究参加の同意書に署名を得た。【結果】股外転筋力のトルク体重比は,患側,健側それぞれ術前は0.70±0.26Nm/kg,0.93±0.27Nm/kg,術後3週は0.67±0.23Nm/kg,0.89±0.22Nm/kg,術後3か月は0.87±0.26Nm/kg,1.01±0.24Nm/kg,術後6か月は0.95±0.25Nm/kg,1.06±0.24Nm/kg,術後1年は1.04±0.28Nm/kg,1.10±0.29Nm/kgであった。股外転筋力の患健比は,術前は75±17%,術後3週は75±15%,術後3か月は86±16%,術後6か月は90±13%,術後1年は95±12%であった。膝伸展筋力のトルク体重比は,患側,健側それぞれ術前は1.07±0.39Nm/kg,1.42±0.44Nm/kg,術後3週は1.00±0.28Nm/kg,1.44±0.40Nm/kg,術後3か月は1.30±0.36Nm/kg,1.56±0.40Nm/kg,術後6か月は1.39±0.39Nm/kg,1.57±0.41Nm/kg,術後1年は1.48±0.40Nm/kg,1.62±0.41Nm/kgであった。膝伸展筋力の患健比は,術前は76±18%,術後3週は70±13%,術後3か月は84±15%,術後6か月は90±16%,術後1年は92±16%であった。Friedman検定の結果,両筋力ともにトルク体重比は測定時期によって有意な差がみられた(p<0.01)。多重比較検定の結果,患側のトルク体重比は術前と術後3週では有意な差は無く,術後3か月,6か月,1年では術前と比較して有意に高かった(p<0.05)。分散分析の結果,患健比の測定時期,筋力間の要因による交互作用はみられなかった。両筋力ともに測定時期間では患健比の有意な差がみられたが(p<0.01),両筋力間では患健比の有意な差はみられなかった。【考察】本研究の結果より,患側の股外転筋力と膝伸展筋力ともにTHA術後3週時には概ね術前の水準まで回復しており,術後3か月以降は術前と比べて有意に改善を示し,その後術後1年まで改善し続けることがわかった。また,患健比は両筋力ともに測定時期間での有意な改善はみられるが,術後1年間の推移については両筋力間に有意な差はみられなかった。先行研究では,THA術後早期において他の股関節周囲筋の筋力に比べて膝伸展筋力の回復が遅延することが報告されている。しかし,本研究により術後1年間においては股外転筋力と膝伸展筋力の回復には差がないことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は,THA後1年間の股外転筋力と膝伸展筋力の推移の参考値の1つとなり,THA術前後のリハビリテーションにおいて意義があると考える。