著者
安田 大典 久保 高明 益満 美寿 岩下 佳弘 渡邊 智 石澤 太市 綱川 光男 谷野 伸吾 飯山 準一
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.78, no.4, pp.341-352, 2015-10-27 (Released:2015-11-12)
参考文献数
28
被引用文献数
1

目的:本研究の目的は、大学生の入浴スタイルの違いが、睡眠と作業効率に及ぼす影響を検討すること。さらに、保温増強が作業効率に及ぼす影響を検討することである。方法:対象は、普段シャワー浴のみの健常学生18名とした(19.6±0.7歳、平均年齢±SD)。41°Cの浴槽に肩まで浸漬し10分間入浴する群(保温無群:BB)と、入浴後に保温シートと寝袋にて身体を被覆し30分間保温する群(保温群:BBW)について、各々を2週間で実施するcrossover研究を行った。なおWash-out(シャワー浴)期間は2週間とし、平成24年11月〜12月の6週間実施した。測定した項目は、起床時の起床時睡眠感(Oguri-Shirakawa-Azumi sleep inventory MA version; OSA-MA)、主観的入浴効果(Visual Analog Scale; VAS)、作業効率検査(パデューペグボードのアセンブリー課題)の3項目について測定を実施した。起床時の主観的評価は6週間毎朝記載してもらった。作業効率検査は2週間ごとに4回行った。結果:OSA-MAのBBおよびBBWは、シャワー浴と比較して有意差はなかった。VASの結果は、BBおよびBBWは、シャワー浴と比較して、熟睡感、身体疲労感、身体の軽快感が有意に高値を示した。パデューペグボードテストは、BBおよびBBWはシャワー浴に比べて有意に高値を示した。考察:シャワー浴からバスタブ浴へ入浴スタイルを変えることで睡眠の質が良好となり疲労回復がなされ、その結果、パデューペグボードの作業効率が向上したと考えられる。
著者
木村 啓太郎 久保 雄司
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.106, no.11, pp.756-762, 2011 (Released:2017-03-21)
参考文献数
25
被引用文献数
2

我が国の大豆発酵食品の中で,納豆は味噌,醤油と並んで広く愛され,食されている食品である。本解説では,納豆菌と枯草菌の由来,納豆種菌の由来と製造の現状について歴史的変遷を含めて解説していただいた。また,著者らが研究されてきた納豆菌と枯草菌の系統解析や最近の納豆菌ゲノム解析の完了にともなって得られた研究成果から,納豆菌と枯草菌の相違点について,ゲノム上の一塩基多型とクウォーラムセンシング遺伝子の多様性等,明らかになってきたことや今後の納豆,納豆菌研究の注目点と展望について解説いただいた。
著者
秋山隆 久保沙織 豊田秀樹 楠見孝 向後千春
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第58回総会
巻号頁・発行日
2016-09-22

統計的方法を学ぶことは,これまで,すなわち有意性検定を学ぶことでした。長期に渡りこの大前提はゆるぎなく盤石で,無条件に当たり前で,無意識的ですらありました。しかし,ときは移り,有意性検定やp値の時代的使命は終わりました。アメリカ統計学会ASAは,2016年3月7日に,p値の誤解や誤用に対処する6つの原則に関する声明をだしました (Wasserstein & Lazar, 2016)。この声明は「『ポストp < 0.05 時代』へ向けて研究方法の舵を切らせることを意図している」(R. Wasserstein (ASA News Releases, 2016)) ものだと言明されています。2016年現在,統計学における著名な学術雑誌バイオメトリカ (Biometrika) の過半数の論文が,ベイズ統計学を利用しています。多くの著名な学術雑誌も同様の傾向です。スパムメールをゴミ箱に捨て,日々,私たちの勉強・仕事を助けてくれるのは,ベイズ統計学を利用したメールフィルタです。ベイズ的画像処理によってデジタルリマスターされ,劇的に美しくよみがえった名作映画を私たちは日常的に楽しんでいます。ベイズ理論が様々な分野で爆発的に活用されています。ベイズ的アプローチなしには,もう統計学は語れません。 有意性検定にはどこに問題があったのでしょう。3点あげます。 Ⅰ.p値とは「帰無仮説が正しいと仮定したときに,手元のデータから計算した検定統計量が,今以上に甚だしい値をとる確率」です。この確率が小さい場合に「帰無仮説が正しくかつ確率的に起きにくいことが起きたと考えるのではなく,帰無仮説は間違っていた」と判定します。これが帰無仮説の棄却です。しかし帰無仮説は,偽であることが初めから明白です。それを無理に真と仮定することによって,検定の論理は複雑で抽象的になります。例えば2群の平均値の差の検定における帰無仮説は「2群の母平均が等しい (μ1=μ2)」というものです。しかし異なる2つの群の母平均が,小数点以下を正確に評価して,それでもなお等しいということは科学的にありえません。帰無仮説は偽であることが出発点から明らかであり,これから検討しようとすることが既に明らかであるような論理構成は自然な思考にはなじみません。p値は土台ありえないことを前提として導いた確率なので,確率なのに抽象的で実感が持てません。このことがp値の一番の弊害です。以上の諸事情を引きずり,「有意にならないからといって,差がないとは積極的にいえない」とか「有意になっても,nが大きい場合には意味のある差とは限らない」とか,いろいろな言い訳をしながら有意性検定をこれまで使用してきたのです。しかし,これらの問題点はベイズ的アプローチによって完全に解消されます。ベイズ的アプローチでは研究仮説が正しい確率を直接計算するからです。 Ⅱ.nを増加させるとp値は平均的にいくらでも0に近づきます。これはたいへん奇妙な性質です。nの増加にともなって,いずれは「棄却」という結果になることが,データを取る前に分かっているからです。有意性検定とは「帰無仮説が偽であるという結論の下で,棄却だったらnが大きかった,採択だったらnが小さかったということを判定する方法」と言い換えることすらできます。ナンセンスなのです。これでは何のために分析しているのか分かりません。nを増加させると,p値は平均的にいくらでも0に近づくのですから,BIGデータに対しては,あらゆる意味で有意性検定は無力です。どのデータを分析しても「高度に有意」という無情報な判定を返すのみです。そこで有意性検定ではnの制限をします。これを検定力分析の事前の分析といいます。事前の分析では有意になる確率と学術的な対象の性質から逆算してnを決めます。しかし検定力分析によるサンプルサイズnの制限・設計は纏足 と同じです。統計手法は,本来,データを分析するための手段ですから,たくさんのデータを歓迎すべきです。有意性検定の制度を守るために,それに合わせてnを制限・設計することは本末転倒です。ベイズ推論ではnが大きすぎるなどという事態は決して生じません。 Ⅲ.伝統的な統計学における平均値の差・分散の比・クロス表の適合などの初等的な統計量の標本分布を導くためには,理系学部の2年生程度の解析学の知識が必要になります。すこし複雑な統計量の標本分布を導くためには,統計学のために発達させた分布論という特別な数学が必要になります。それでも,どの統計量の標本分布でも求められるという訳ではなく,導出はとても複雑です。検定統計量の標本分布を導けないと,(教わる側にとっては)統計学が暗記科目になってしまいます。この検定統計量の確率分布は何々で,あちらの検定統計量の確率分布は何々で,のように,まるで歴史の年号のように,いろいろと覚えておかないと使えません。暗記科目なので,自分で工夫するという姿勢が育つはずもなく,紋切り型の形式的な使用に堕す傾向が生じます。でもベイズ統計学は違います。マルコフ連鎖モンテカルロ (MCMC) 法の本質は,数学Ⅱまでの微積分の知識で完全に理解することが可能です。標本分布の理論が必要とする数学と比較すると,それは極めて初等的です。生成量を定義すれば,直ちに事後分布が求まり,統計的推測が可能になります。文科系の心理学者にとっても,統計学は暗記科目ではなくなります。 学問の進歩を木の成長にたとえるならば,平行に成長した幾つかの枝は1本を残して冷酷に枯れ落ちる運命にあります。枯れ果て地面に落ちた定理・理論・知識は肥やしとなり,時代的使命を終えます。選ばれた1本の枝が幹になり,その学問は再構築されます。教授法が研究され,若い世代は労せず易々と古い世代を超えていく。そうでなくてはいけません。 統計学におけるベイズ的アプローチは,当初,高度なモデリング領域において急成長しました。有意性検定では,まったく太刀打ちできない領域だったからです。議論の余地なくベイズ的アプローチは勢力を拡大し,今やその地位はゆるぎない太い枝となりました。 しかし統計学の初歩の領域では少々事情が異なっています。有意性検定による手続き化が完成しており,いろいろと問題はあるけれども,ツールとして使えないわけではありません。なにより,現在,社会で活躍している人材は,教える側も含めて例外なく有意性検定と頻度論で統計教育を受けています。この世代のスイッチングコストは無視できないほどに大きいのです。このままでは有意性検定と頻度論から入門し,ベイズモデリングを中級から学ぶというねじれた統計教育が標準となりかねません。それでは若い世代が無駄な学習努力を強いられることとなります。教科教育学とか教授学習法と呼ばれるメタ学問の使命は,不必要な枝が自然に枯れ落ちるのを待つのではなく,枝ぶりを整え,適切な枝打ちをすることにあります。ではどうしたらいいのでしょう。どのみち枝打ちをするのなら,R.A.フィッシャー卿の手による偉大な「研究者のための統計的方法」にまで戻るべきです。「研究者のための統計的方法」の範囲とは,「データの記述」「正規分布の推測」「独立した2群の差の推測」「対応ある2群の差の推測」「実験計画法」「比率・クロス表の推測」です。これが統計学の入門的教材の初等的定番です。文 献Wasserstein, R. L. & Lazar, N. A. (2016). The ASA's statement on p-values: context, process, and purpose, The American Statistician, DOI:10.1080/00031305.2016.1154108ASA News Releases (2016). American Statistical Association releases statement on statistical significance and p-Values. (http://www.amstat.org/newsroom/pressreleases/P-ValueStatement.pdf)R.A.フィッシャー(著) 遠藤健児・鍋谷清治(訳) (1970). 研究者のための統計的方法 森北出版 (Fisher, R. A. (1925). Statistical Methods for Research Workers, Oliver and Boyd: Edinburgh.)1 纏足(てんそく)とは,幼児期から足に布を巻き,足が大きくならないようにして小さい靴を履けるようにした,かつて女性に対して行われていた非人道的風習です。靴は,本来,足を保護するための手段ですから,大きくなった足のサイズに靴を合わせるべきです。靴に合わせて足のサイズを制限・整形することは本末転倒であり,愚かな行為です。他の靴を履けばよいのです。
著者
大久保 進
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.32, no.7, pp.557-561, 1977-07-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
17

現在, クオーク線則(quark line rule)は素粒子論で最近発見されたψまたはJの安定性を説明するのに有効なだけでなく, φメソンやf'メソンを含む種々の散乱実験の結果やそれ等のdecay の幅等の説明にも役立ちます. この規則の奇妙な点は, 100%完全である事が原理上, 不可能である事です. また, この規則は素粒子のクオーク模型と大変密接な関係があります. このような事実を, 歴史的な見地からここに解説します. 現在の所, クオーク線則は多分量子クロモ力学(quantum chromo dynamics)で説明され得る可能性が一番大きいと考えられて居ります.
著者
小村 智香 濱 武英 一ノ瀬 裕稀 久保田 富次郎
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.43-50, 2021 (Released:2021-03-10)
参考文献数
24
被引用文献数
2

火山地域を含む流域では, 噴火による噴出物により流域河川の水質に影響を与える可能性がある。霧島火山群の1つである硫黄山は, 2018年4月19日に約250年ぶりに噴火活動を再開し, 噴火口から流出した泥水によって近隣を流れる長江川は汚染された。特に, ヒ素は環境基準値 (10 μg L-1) を超過した。本研究では長江川のヒ素に着目し, 流下過程における濃度変化, pHおよび電気伝導度 (EC) との関係, 流出の特徴を連続的な観測により明らかにした。その結果, 以下のことが明らかになった。1) 流下過程において支川との合流による希釈が作用し, ヒ素濃度の低下, pHの上昇, ECの低下が認められた, 2) ヒ素濃度とpHおよびECは相関を示し, その傾向は特に上流部の無降雨時に高い, 3) ヒ素は無降雨時に鉄やアルミニウム酸化物に吸着され, 河床に沈殿することで河川水中から除去される一方で, 降雨時には河床に堆積した懸濁態ヒ素が巻き上がることで水質が悪化する可能性がある。
著者
西野 友年 大久保 毅
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.72, no.10, pp.702-711, 2017-10-05 (Released:2018-08-06)
参考文献数
52

原子・分子スケールの微視的な物理は,我々が目にする巨視的な測定量に,どう現れるのだろうか.微視的なものとして,例えば磁性体を構成するスピン自由度を考えてみよう.結晶格子中で,幾つかのスピン自由度を含む“ブロック”に着目すると,これを新たに「1つの有効的な自由度」とみなすことが可能だ.このような「自由度の抽出」はカダノフによって半世紀前に提唱されたもので,ブロックスピン変換と呼ばれている.この変換を繰り返せば1つのブロックに対応する領域が指数的に大きくなり,やがて巨視的な大きさへと到達する.このように物理系を粗く眺める粗視化や,逐次的なスケール変換のアイデアはウィルソンによって整理され,繰り込み群の概念が生まれた.巨視系には普遍的に現れる相転移と臨界現象を,繰り込み群は定量的に説明する.ただ,ブロックスピン変換を用いる実空間繰り込み群によって,相転移を特徴付ける臨界指数を正確に求めることは困難であった.粗視化に伴う相互作用の変化である「有効ハミルトニアンの流れ(flow)」を,精密には追えなかったのだ.実は,ブロックから抽出する自由度の選び方に問題が潜んでいたのである.本稿で紹介するテンソルネットワーク形式では,隣接するブロック間の結合に着目し,相互の連絡に「物理の本質」を見出す.ブロックの境界(辺や面)に並んでいるスピン自由度をまとめ,1つの多状態自由度として取り扱うのだ.例えば立方体のブロックを考えるなら,それぞれの面にi,j,k,ℓ,m,nの,合計6つの多状態自由度を割り当てる.他方,境界に面していないブロック内のスピンは,配位和を取り消去してしまう.このような手続きを経て粗視化を行うと,系が持つ相互作用や相関を全て,局所的な重率テンソルAijkℓmnへと押し込んでしまえるわけだ.この自由度抽出を,系の持つエンタングルメントを保ちつつ,行列の特異値分解(SVD)によって効率的に行うことが,テンソルネットワーク形式の特徴である.本稿では,磁性体の模型であるイジング模型を例に取り,同形式の概要を紹介し,最近のマルチスケールな発展についても触れる.テンソルネットワーク形式は行列積状態(MPS)に,その原型を見ることができる.イジング模型の相転移を導出するクラーマース・ワニエ近似に端を発し,菊池の近似を経て,半世紀前にバクスターが確立した角転送行列(CTM)の手法は,実質的には3脚テンソルAiαβの縮約で転送行列の固有ベクトルを近似する変分法だ.1次元スピン鎖のAKLT状態,デリダによる非平衡定常状態の記述,密度行列繰り込み群(DMRG)による数値計算など,MPSは何度も「再発見的に」用いられて来た.近年では,高次元系への拡張であるテンソル積状態(TPS/ PEPS)が,2次元量子系の基底状態解析に応用されつつある.テンソルネットワーク形式は,数値解析に適した物理系の表現手段なのだ.
著者
奥田 稔 大久保 公裕 後藤 穣 石田 裕子
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.555-558, 2005-06-30 (Released:2017-02-10)
被引用文献数
2

【目的】スギ花粉時然曝露による花粉の身体への付着を花粉症発症予防のために明らかにする. 【方法】非スギ花粉症男性高校生10名を洗顔後, 非花粉汚染木綿Tシャツ, 運動帽を着用, 運動場および教室内で2003年3月16日それぞれ2時間自由行動させ, 粘着テープでシャツ, 帽子, 顔面皮膚から付着花粉を採取カウントした. 不織木綿, 綿ポリエステル混紡, 羊毛布地を水洗, 運動場10カ所で5時間放置乾燥後, 付着スギ花粉を同様に採取カウントした. 実験運動場, 教室の浮遊, 落下花粉数もカウントした. 【結果】Tシャツ, 帽子, 皮膚付着花粉は運動場で教室内より多かった. 教室内外では単位面積当り付着数は有意差がなく, 教室内ではTシャツが皮膚より多い傾向にあった. 水洗布地への付着数は混紡で, 綿, 羊毛より少なかったが傾向差であった. 浮遊花粉数は教室内で少なかった. 【考察】結論:外出には混紡のコート, 帽子を着用し, 帰宅後は洗顔をする. コート, 帽子は玄関のコート掛けにかけておくが良い.
著者
長谷 耕二 河村 由紀 田久保 圭誉 松田 幹
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2020-04-01

申請者はこれまで、絶食時にはパイエル板の免疫応答はシャットダウンされ、抗原にまだ暴露されていないナイーブB細胞は骨髄へ移行して再摂食時までリザーブされる事実を見出している。このようなパイエル板の絶食応答は、免疫応答に伴うエネルギーコストを削減する上で重要であるとともに、胚中心細胞の消失による免疫記憶のリセットといった副次的作用をもたらす。本研究では、主に絶食-再摂食モデルを用いて、栄養シグナルによる免疫制御機構や腸管-骨髄連関を担う分子群の同定を試みる。さらに絶食により自己免疫に関わる免疫記憶をリセットすることで、自己免疫疾患における新たな治療法の確立を試みる。
著者
吉田 和佳奈 齋藤 栄 酒向 孫市 野田 政充 川口 諭 新井 一也 安齋 沙織 久保田 聡 渋谷 清 町田 充 堀野 忠夫 青木 学一 尾鳥 勝也
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.142, no.8, pp.893-900, 2022-08-01 (Released:2022-08-01)
参考文献数
12

“Leukerin® powder 10%” containing mercaptopurine (6-MP) is an oral anticancer drug that requires careful handling. As a powder formulation, there are risks of exposure due to scattering during dispensing and possible 6-MP contamination to other drugs due to adhesion to the packaging machine. We previously reported that wiping with an alcohol-containing towel is useful for removing scattered powder after dispensing. However, it is recommended to wipe disk-type powder-packaging machines with water instead of cleaning with the alcohol-containing towel. Hence, we scattered 6-MP powder 100 mg (total amount of 6-MP: 10 mg), and then wiped with water three times using different types of cloth each time. We confirmed that third time wiping cloth did not have any 6-MP. Furthermore, we confirmed that the adhering 6-MP could be removed by wipe-cleaning (water-wiping twice and dry-wiping once) after dispensing 6-MP powder at two pharmacies that routinely dispensed 6-MP powder using a disk-type powder-packaging machine. In addition, we confirmed the adhesion of 6-MP in parts of the machine not cleaned by wipe-cleaning and also in parts that were washed only with water, in both the pharmacies. Based on the above observations, we recommend the following steps for cleaning disk-type powder-packaging machines after dispensing 6-MP powder: (1) wipe-cleaning that includes water-wiping twice and then dry-wiping once, (2) cleaning all areas of the packaging machine, and (3) wipe-cleaning with water before washing with water.
著者
貝瀬 利一 大屋-太田 幸子 越智 崇文 大久保 徹 花岡 研一 Kurt J. IRGOLIC 櫻井 照明 松原 チヨ
出版者
Japanese Society for Food Hygiene and Safety
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.135-141_1, 1996-06-05 (Released:2009-12-11)
参考文献数
40
被引用文献数
22 32

海藻中に含まれる有機ヒ素化合物アルセノ糖の毒性学的評価を培養細胞を用いて行った. 被験ヒ素化合物は有機化学的に合成し, 細胞増殖阻止試験, 染色体異常誘発性試験及び姉妹染色分体交換誘発試験について検討を行った. アルセノ糖の50%細胞増殖阻止濃度 (ID50) は2mg/mlで, 亜ヒ酸ナトリウムの毒性の1/2800, ヒ酸ナトリウムの1/300であった. 染色体異常は5mg/mlの濃度においても15%の頻度でしか誘発されず, また姉妹染色分体交換 (SCE) を起こさないことから, 細胞毒性の低いヒ素化合物であることが推定された.
著者
内海 紗良 前田 圭介 久保田 丈太 中谷 咲良 原田 義彦 成田 勇樹 猿渡 淳二 近藤 悠希 石塚 洋一 入江 徹美 門脇 大介 平田 純生
出版者
一般社団法人 日本腎臓病薬物療法学会
雑誌
日本腎臓病薬物療法学会誌 (ISSN:21870411)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.3-10, 2021 (Released:2021-08-17)
参考文献数
21

日本では、血清クレアチニン(SCr)値を用いたCockcroft-Gault式による推算クレアチニンクリアランス(eCCr)や日本人向け推算糸球体濾過量(eGFRcr)によって腎機能が推算されるが、筋肉量の減少に伴うSCr値の低下により腎機能が過大評価されてしまう恐れがある。これを防ぐため臨床現場ではSCr値が0.6 mg/dL未満の患者に、SCr=0.6 mg/dLを代入して補正するround up法が汎用される。ところが、このround up法により腎機能推算の予測性が向上したといった報告は少なく、科学的根拠は乏しい状況である。本研究では、SCr=0.6 mg/dLへのround up法の妥当性を評価した。2017年5月から2017年8月に玉名地域医療保健センターに入院していた65歳以上でSCr値が 0.6 mg/dL未満のサルコペニア患者11名を対象に、後ろ向き解析を行った。酵素法により測定したSCr値を用いたeCCrおよびeGFRcrと、SCr=0.6 mg/dLにround upしたeCCr(round up)およびeGFRcr(round up)のそれぞれの値を、24時間蓄尿法で求めたCCr(mCCr)およびmCCr×0.715で換算したmodified GFRを基準値として比較した。相関・回帰分析、Bland-Altman分析および誤差指標から、eCCr(round up)値はeCCr値よりも腎機能を過小評価する傾向があった。eGFRcr値は腎機能を顕著に過大評価し、eGFRcr(round up)値は過大評価が軽減されるが、依然として過大評価傾向にあった。今回の検討からは、eCCr値およびeGFRcr値のどちらの推算式においてもround upの妥当性は示されなかった。このことから筋肉量が減少したサルコペニア患者においては、SCr値をround upすることは適切ではなく、むやみにround upを行うことは避けるべきである。
著者
大久保 剛 伊東 利博 日比野 英彦
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.305-309, 2009 (Released:2010-01-29)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

ポリコサノールは, 米糠, サトウキビ, 小麦などの植物ワックスをけん化分解して得られる炭素数20以上の高級脂肪族アルコールの組成物である。ポリコサノールは, 血清脂質の低減作用や肝機能改善作用が数多く報告されており, 海外では医薬品としても使用されている。今回われわれは, 健康な成人男性8名に対して, 1日あたり40 mgのポリコサノールを6週間にわたり摂取した結果, 摂取開始前に比べて有意差をもって飲酒時 (アルコール1単位, エタノール量で約25 g) の血中アセトアルデヒド濃度を低減させることを確認した。具体的には飲酒180分後の血中アセトアルデヒド濃度が摂取前では平均13.0 μmol/Lだったのが, 摂取後には被験者全員が検出限界 (5 μmol/L) 以下になった。このことは, アセトアルデヒドによりもたらされる二日酔い防止効果などが期待される。
著者
久保 正敏 Masatoshi Kubo
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Ethnology (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.943-986, 1991-03-28

This paper traces the history of Japanese popular songs fromthe viewpoint of "Travel". The historical span of the discussionis confined to the Showa era, for the following two reasons:1) The modern system of producing popular songs wasestablished at the very beginning of the Showa era;2) The distinct contrast between urban areas and the provinces,together with the social unrest in those days, motivated thetraveling and drifting of the people, and consequently broughtthe travel songs or sight-seeing songs into fashion.In this paper, travels sung in popular songs are categorizedinto three types: outward travel, homeward travel, andwandering travel. Outward travel is motivated by a yearningfor some place and can thus be viewed as future-oriented travel.Homeward travel is motivated mainly by homesickness or somememory of the past. Wandering travel is accompanied byhomesickness in many cases. The popular songs of the Showaera are reviewed according to these three types of travel.In sections 1 and 2, the themes of travel in popular songs aresummarized, and then songs whose words contain place namesor descriptions of local scenery are analyzed. It is pointed outthat changes in the ratio of the number of such songs to thenumber of all popular songs are very similar to change inpopulation drift.In sections 3, 4 and 5, popular songs are reviewed andanalyzed in regard to outward travel, homeward travel, andwandering travel respectively. The evident correlation betweenthe words in these songs and the social environment is shown.Section 6 deals with a few songs relating to spiritual travels.In section 7, changes in travel songs are reviewed froma unique analytical viewpoint. Assuming that the story of thewords of a popular song is scenarized, each song can becategorized as either a close-up type or a long-shot type interms of camera angle, according to the words depicting scenesand manners and the personal pronouns contained in the wordsof the song. Based on this idea, several genres of travel songs areparameterized and mapped on a two-dimensional space, correspondingto the camera angle of the story of the song. Theresult of the mapping shows that travel songs became more andmore of the close-up type with the passing of time, which seemsto parallel the increasing tendency of Japanese society towardprivate-life-oriented conservatism.
著者
久保田 淳
出版者
日本学士院
雑誌
日本學士院紀要 (ISSN:03880036)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.1-19, 2021 (Released:2021-11-20)

The widely-held notion that Hyakunin isshu (“One Poem Each by One Hundred Poets,” also Ogura hyakunin isshu) represented an anthology of waka poems chosen by Fujiwara no Teika for their particular excellence—until then almost an axiom—was shaken in the early 1950s by the discovery of another collection of outstanding poems called Hyakunin shūka (“Poems of Excellence by One Hundred Poets”). Hyakunin isshu is a miniature anthology containing 100 waka poems of excellence by one hundred different poets, beginning with works by Emperor Tenji and Empress Jitō and ending with works by Go-toba and Juntoku, two retired emperors condemned to exile on remote islands after the Jōkyū Disturbance. In the work Hyakunin shūka, by contrast, these final poems by the two retired emperors are missing, with works by the Ichijōin Empress and two others in their place for a total of 101 poems in all. Various theories have been advanced to explain this difference: one theory sees Hyakunin shūka as likely an earlier, draft version of Hyakunin isshu; another theory—assigning with high confidence the compilation of Hyakunin shūka to Teika himself—ascribes the replacement and reordering of poets and poems within Hyakunin isshu instead to Tameie, Teika's son. As such, the identity of Hyakunin isshu's compiler remains, even today, a problem not yet unambiguously resolved. (View PDF for the rest of the abstract.)
著者
久保田 富夫
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.185-188, 2005-11-01

健康なわたしたちも,昼間に耐えがたい眠気を体験することはよくある.ヒトの昼間の覚醒レベルの変動については様々な研究が行われているが,60分から3〜4時間周期で眠気が出現するウルトラディアンリズムの報告があり,いくつかの要素が関連していると考えられている.さらに,約半日リズムとして,昼食後の午後1時から4時頃に眠気を感じることが多い.昼間の眠気には,生体リズムが関係していることは広く知られている.また,外的環境への適応機能として,サーカディアンリズムの補助機能としての役割などがあげられる.今回,以前われわれが大学生におこなったアンケート調査から昼間の眠気の原因と,その対応についても考えてみた.
著者
服部 憲幸 森田 泰正 加藤 真優 志鎌 伸昭 石尾 直樹 久保田 暁彦
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.9, pp.804-810, 2010-09-15 (Released:2010-11-09)
参考文献数
11

2009年に世界規模で流行した新型インフルエンザA/H1N1に劇症型心筋炎を合併した症例を,経皮的心肺補助装置(PCPS: percutaneous cardiopulmonary support)による循環補助を含む集中治療にて救命した。症例は24歳,女性。2009年11月,近医でインフルエンザA型と診断され,オセルタミビルの投与を受けた。2日後には解熱したが発症5日目に頻回の嘔吐と下痢が出現,翌日当院へ救急搬送された。心電図上II,III,aVF,V3-6の各誘導でST上昇を認め,クレアチンキナーゼ,トロポニンTも上昇していた。心臓超音波検査でも壁運動が全体的に著しく低下しており,心筋炎と診断した。当院受診時にはインフルエンザA型,B型ともに陰性であった。ICUにて大動脈内バルーンパンピング(IABP: intra-aortic balloon pumping),カテコラミンによるサポート下に全身管理を行い,合併した急性腎不全に対しては持続的血液濾過透析(CHDF: continuous hemodiafiltration)を行った。来院時にはインフルエンザ抗原が陰性であったことからオセルタミビルの追加投与は行わなかった。一般的なウイルス感染も想定して通常量のγグロブリン(5g/day×3日間)を投与した。しかし翌朝心肺停止となりPCPSを導入した。PCPS導入直後の左室駆出率は11.0%であった。第4病日にPCPSの回路交換を要したが,心機能は次第に回復し,第7病日にPCPSおよびIABPを離脱した。第8病日にはCHDFからも離脱した。気道出血および左無気肺のため長期の人工呼吸管理を要したが,第15病日に抜管,第17病日にICUを退室し,第33病日に神経学的後遺症なく独歩退院した。インフルエンザ心筋炎は決して稀な病態ではなく,新型インフルエンザにおいても本邦死亡例の1割前後は心筋炎が関与していると思われる。本症例も院内で心肺停止に至ったが,迅速にPCPSを導入し救命できた。支持療法の他は特殊な治療は必要とせず,時期を逸さずに強力な循環補助であるPCPSを導入できたことが救命につながったと考えられた。