- 著者
-
百々 幸雄
川久保 善智
澤田 純明
石田 肇
- 出版者
- 一般社団法人 日本人類学会
- 雑誌
- Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
- 巻号頁・発行日
- vol.120, no.1, pp.1-13, 2012 (Released:2012-08-22)
- 参考文献数
- 67
- 被引用文献数
-
5
3
北海道アイヌの成立には,オホーツク人の遺伝的影響がかなり強く及んでいたという近年の研究成果に鑑みて,視野の中心を北海道に据えて,東アジアと北東アジアにおける北海道アイヌの人類学的位置を,頭蓋の形態小変異を指標にして,概観してみた。使用した形態小変異は観察者間誤差の少ない9項目で,日本列島の10集団とサハリンおよび大陸北東アジアの3集団を対象に分析を行った。集団間の親疎関係の推定にはスミスの距離(MMD)を用い,棒グラフとMMDマトリックスの主座標分析で集団間の相互関係を図示した。オホーツク人は北海道アイヌとサハリン・アムール・バイカルといった北東アジア集団のほぼ中間に位置したが,北海道アイヌとの形態距離はかなり近く,北海道や本州の縄文人と同程度であった。これに対して,大陸東アジアにその原郷が求められる弥生系集団は,北海道アイヌから遠く離れていた。9項目による分析結果が妥当なものであったかどうかを検証し,さらに,北海道の続縄文人の形態学的な位置づけを明らかにするために,著者のひとりが独自にデータを収集した12集団についても,20項目の形態小変異を用いて,同様の分析を行った。9項目による分析結果と20項目による分析結果はほとんど同じで,北海道アイヌの母体になった集団は,やはり従来の指摘どおり,北海道や本州の縄文人と北海道の続縄文人であると考えられたが,北海道アイヌの成立には,オホーツク人の遺伝的影響をも考慮しなければならないと思われる。