著者
伊藤 理史
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.15-28, 2017 (Released:2018-06-13)
参考文献数
39

本稿の目的は、政治的疎外意識の長期的変化とその規定要因を、コーホート分析によって明らかにすることである。「政治的有効性感覚の低い状態」と定義される政治的疎外意識は、政治参加の減退をもたらす主要な要因として、様々な実証研究が蓄積されてきた。しかし日本における政治的疎外意識の長期的変化とその規定要因については、ほとんど研究されていない。そこで本稿では、「日本人の意識調査,1973~2008」の個票データの二次分析によって、政治的疎外意識の長期的変化の実態、規定要因としての世代効果と時代効果の大きさ、高齢世代と比較した若齢世代の政治的疎外意識の特徴を、明らかにする。線形要因分解と重回帰分析の結果、次の3点が明らかになった。(1)政治的疎外意識は、1973年から1998年にかけて上昇したが、1998年から2008年にかけて低下・停滞する。またその変化の傾向は、世代間で共通する。(2)1973年から1998年までの政治的疎外意識の上昇は、正の世代効果と正の時代効果から生じていたが、1998年から2008年までの政治的疎外意識の低下・停滞は、負の時代効果が正の世代効果を上回ることで生じていた。(3)団塊世代と比べて若齢世代では、政治的に疎外されていると感じやすい。以上の結果を踏まえた上で、世代効果は戦争・民主化体験の有無、時代効果は55年体制崩壊による政権交代可能性の上昇として解釈した。
著者
伊藤 勇 池田 稔 末野 康平 杉浦 むつみ 鈴木 伸 木田 亮紀
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.104, no.2, pp.165-174, 2001-02-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
19
被引用文献数
2 9

日本人の耳介に関する計測学的研究の多くは1950年代までに報告されており, それ以降, 本邦における耳介の加齢変化についての詳細な計測学的な検討はほとんど行われていない. 今回, 当時よりも体格が向上し, また, 高齢化の進んだとされる現代日本人の耳介形態について, 乳児から高齢者までの幅広い齢層における詳細な計測学的検討を行ったので報告する. 対象は, 0歳から99歳までの日本人1958名 (女性992名, 男性966名) で, 耳長, 耳幅, 耳介付着部長, 耳介軟骨長, 耳垂長, 耳指数, 耳垂指数, 耳長対身長指数, および耳介の型について検討した. 各計測値はほぼすべての年齢群において男性の方が女性よりも大きく, 10歳代までの年齢群に見られる成長によると思われる急激な計測値の増加傾向に加え, それ以降も高齢者群になるに従い加齢変化によると思われる有意な増加傾向を認めた. 各指数, 耳介の型についても同様に成長によると思われる変化と加齢によると思われる変化を認めた. また, 以前の日本人の耳介を計測した報告に比べて耳介計測値の多くが大きくなっていた.今回の計測学的研究は現代日本人の耳介の大きさについて成長や加齢による変化を検討したものであり, 今後, 日本人の耳介形態についての一つの指標になるものと考える.
著者
伊藤 美武 佐藤 秩子 田内 久
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.382-387, 2000-05-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
24
被引用文献数
2 2

実験的に寿命延長効果が明らかとなっている食餌制限ラットを用い, 特にラットの主要な加齢にともなう病変に対する食餌制限の利的効果を異なる臓器で比較し, その作用点を病変の発現様相から検討した. ドンリュウ系雄ラット145匹を自由摂取群と制限食群 (給餌量を自由摂取群摂餌量の60%に制限) の2群に分け, タンパク源として植物性タンパクのみを含有する飼料を3週齢より給餌した. 検索対象は定期屠殺 (6, 12, 24, 29, 33カ月齢) および実験経過途中に死亡または切迫屠殺したラットとし, 下垂体, 心臓, 腎臓, 骨格筋 (咬筋, 前脛骨筋) に観察された肉眼的, 組織学的病変の発現様相を検討した. その結果, 以下の点が明らかとなった. 1) 食餌制限によって加齢にともなう疾病の発生 (下垂体腫瘍, 慢性腎症, 骨格筋 (前脛骨筋) 変性症) が抑制または遅延する. 2) 病変の発現様相に対する食餌制限の影響は病変または臓器の種類によって異なる. 3) 下垂体腫瘍と慢性腎症の発生抑制あるいは遅延はラットの寿命延長の要因の1つである. 4) 心筋症はラットの寿命を短縮する要因ではない. 5) 骨格筋の老性萎縮には筋変性症の発生に加え筋肉の生理的機能 (運動能) が関与する.
著者
谷川 久一 瀬田 勝雄 町井 彰 伊藤 進
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.414-419, 1961-08-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
11

28才女子例.数カ月にわたりノリを1~2帖毎日食べていたところ,重症の柑皮症となつた.血清ビリルビンその他の肝機能は正常なるも,血清カロチン448γ/dlと上昇し,ノリ中に含まれるカロチンによる柑皮症と診断す.柑皮症の発来は,カロチンを含む食品の多食といつた外因のみならず,個体側の内因も重要と考える.多汗体質,甲状腺機能低下などは,同症の発来を助けるもので,同患者にも自律神経失調によると思われる多汗体質および甲状腺機能低下おあつたのは興味深い.本症の皮膚黄染のメカニズムは,組織学的検討から,いつたん汗とともに出たカロチンが外から体表を染めるものと思われる.肝生検によりカロチンと同定し得た顆粒が肝細胞内,特にその周辺部に多くみられ,電子顕微鏡でみるとこの顆粒は滑面小胞体とゴルジー体と形態学上密接に関連していると思われる所見であつた.
著者
伊藤 佐紀
出版者
北海道大学大学院文学研究科
雑誌
研究論集 (ISSN:13470132)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.35-48, 2010-12-24

20世紀半ばから英米圏で興隆した分析美学は、「芸術とは何か」という問いを「芸術」概念の分析に主眼をおいた「あるものが芸術概念に適応されるための必要十分条件とは何か」という問いへと再定式化した。このような「芸術定義論」は現在も分析美学の中心的テーマの一つとされている。近年、スコットランドの美学者ベリス・ゴート(Berys Gaut)は、反本質主義を擁護する「芸術クラスター理論」を提唱した。ゴートは、「芸術は束概念であり、それゆえ定義することができない」と主張し、あるものが芸術概念に適応されるための条件として、複数の改訂可能な基準を選択的に結合させることによって芸術概念を特徴化する、選言的結合形式を持つ記述の束(the Cluster Account of Art : 以下CAAと略記)を提示する。こうした議論に対し、芸術概念の定義不可能性を主張する反本質主義擁護の立場に立ちながら、芸術であることの条件を挙示するゴートの主張は矛盾を包含しているという批判が集中した。本稿はこうした批判に対するゴートの応答を検討することによって、一見矛盾を包含するように思われるゴートの主張の目的を整合的にとらえるよう試み、理論の位置づけを明確化する。そのうえで、ゴートが提示したCAAの妥当性を検討する。まず芸術クラスター理論の前提と背景を確認し(第一節)、次いで基本的な概要(第二節)を確認する。さらに、ステッカーとデイヴィスによる「CAAは定義である」という批判を取り上げ、この批判にゴートがどのように応答しているか検討する(第三節)。ここでゴートがCAAは「高度に選言的で多様性に富む」定義であると譲歩しながらも、反本質主義者の立場に固執したゴートの意図を明確にするよう試みる。最後に、反本質主義を擁護しようとするゴートの主張は維持できず、CAAの妥当性は選言的定義として認められうることを示唆する(第四節)。

9 0 0 0 OA 学術雑誌

著者
伊藤 憲二
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.9-14, 2023-01-01 (Released:2023-01-01)

本稿は学術情報流通の重要な媒体である学術雑誌の歴史と,その質担保の重要な仕組みである査読制度の発展について述べたものである。学術雑誌,より一般には科学を歴史的に検討することの意義を科学史研究の観点から説明したうえで,現時点における比較的最近の研究に基づいて学術雑誌の歴史と査読制度の発展を概観し,最後に学術雑誌にかかわる現在の課題のいくつかと,それらの問題を乗り越える可能性について論じた。とくに最近出版されたAileen Fyfeらによるロイヤル・ソサイエティにおける学術出版についての大部の研究書の紹介に大きな重点を置いた。
著者
伊藤 嘉浩 佐藤 洸志
出版者
日本消費者行動研究学会
雑誌
消費者行動研究 (ISSN:13469851)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.2_95-2_120, 2014 (Released:2018-08-31)
参考文献数
28

本稿では、日本の映画料金に関して、映画館関係者へのインタビューおよび、顧客側へのアンケート調査による、価格反応性分析、PSM法による価格受容意識分析、料金に関するイメージ分析の3つの分析を行い、割引制度などの価格戦略の考えや効果、および顧客の考える価格意識などを明らかにした。これらの結果から、映画料金を透明化して、600円程度まで引き下げることを提言し、飲食物の売上げへの貢献により、利益が増加する可能性を提示した。学術的には、ものの商品にはあまり見られない、アート消費である映画特有の価格反応性や価格受容意識が見られ、特に、映画経験が豊富で、非常に高関与なユーザー層が存在することが明らかになった。
著者
伊藤 健彦
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
pp.1930, (Released:2021-06-15)
参考文献数
32

This study aims to examine the effect of relational mobility on the Willingness to Communicate (WTC) in English of Japanese people. Previous studies have focused on internal factors such as perceived competence and personality to predict the WTC, but did not reveal which environmental factors influenced these factors. This study focused on relational mobility as a socioecological factor. A pilot survey showed that to predict the WTC in English of Japanese people, perceived communication competence in English had the strongest positive effect, as in previous studies. Study 1 showed that relational mobility positively influenced the WTC via perceived competence, targeting university students. Study 2 showed that, targeting different university students, the mediation effect found in Study 1 was confirmed. In addition, we examined whether relational mobility enhanced the WTC via a decreased evaluation concern and increased the perceived competence or not, but the whole indirect effect was not confirmed.
著者
山口 慎太郎 伊藤 裕 吉野 純
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.213-223, 2020-07-25 (Released:2020-09-04)
参考文献数
73

老化・加齢は癌,糖尿病,アルツハイマー病などの種々の疾患の最も重要な危険因子として知られている.未曾有の超高齢社会にある我が国において,高齢者の健康寿命の延伸を図る新しい方法論の開発は喫緊の課題であると言える.Nicotinamide adenine dinucleotide NAD+は,約110年前に発見された古典的な補酵素として知られている.言わばルネッサンスを迎えた近年のNAD+生物学研究の爆発的な展開により,ヒトを含めた哺乳動物において,老化に伴うNicotinamide phosphoribosyltransferase(NAMPT)を含むNAD+生合成酵素活性の低下,あるいはCD38に代表されるNAD+分解酵素活性の亢進により,全身性に臓器NAD+量が減少することが明らかとなった.そして,遺伝子改変動物モデルを駆使した解析により,このNAD+量の減少が老化に伴う機能障害,老化関連疾患の病態形成に重要な役割を果たすことが解明されつつある.さらに,数々の疾患モデル動物,老化マウスを用いた検討により,nicotinamide mononucleotide(NMN),nicotinamide riboside(NR)に代表されるNAD+中間代謝産物が,健康増進作用,抗老化作用を発揮することも続々と報告されている.これらの結果は,NAD+生物学研究の臨床応用,社会実装への機運を高め,現在,ヒトにおけるNAD+中間代謝産物の安全性,効能を検討する臨床研究が世界的に展開されている.本総説では,目紛しいほどの進化を遂げるこれらNAD+生物学研究トランスレーショナル研究の進捗を最新の知見を交え紹介し,超高齢社会日本におけるその研究の意義,可能性を考察したいと思う.
著者
伊藤 孝
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

ミトコンドリアは栄養代謝、エネルギー産生やアポトーシス制御等の生命の根幹を担う。栄養代謝・ミトコンドリア異常が疾患や個体の老化に関わる一方で、ミトコンドリアを標的にする効果的な治療法開発・社会実装には至っていない。我々は特定の乳酸菌により、ミトコンドリア異常を改善できること、モデル生物の寿命を延長できることを見つけた。本研究は外部環境由来因子である乳酸菌がミトコンドリアと個体老化を制御する機構を解明する。進化上細胞内共生する元微生物であるミトコンドリアと、外で共生する腸内微生物がどう宿主健康寿命への役割を共有し、また競合関係にあるのか、その問いにも考察を与える。
著者
海津 亜希子 玉木 宗久 榎本 容子 伊藤 由美 廣島 慎一 井上 秀和
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.58-74, 2022 (Released:2022-02-28)
参考文献数
11

発達障害を対象とした通級での自立活動において教科の内容を取り扱いながらの指導の実態を調査した。通級担当者に任意の1名について回答を求め小学校952名,中学校613名,高等学校173名の児童生徒の回答を得た。教科の内容を取り扱いながらの自立活動の指導の実施について「有り」と回答した割合は,小学校70.3%,中学校76.3%,高等学校25.4%であった。指導の内容は小・中学校のLD,ADHD,ASDいずれの障害種でも「基礎的な学習スキル」,次に「授業への参加の不安を取り除き参加意欲を促すための振り返りや先取り」が高かった。一方「特定の代替手段の使い方」「定期試験,テスト等を受ける際に必要なスキル」は40.0%に満たなかった。自立活動の区分において,50.0%を超えたのはいずれの障害種においても「心理的な安定」であった。また自由記述で求めた課題では「通常の学級との連携」に関するものが24.5%みられた。
著者
伊藤 隆 田中 哲朗 胡振江 武市 正人
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.43, no.10, pp.3012-3020, 2002-10-15

``しりとり''を完全情報ゲームとして数学的に定義した``しりとりゲーム''を考えると,グラフ上のゲームとしてモデル化することができる.これは完全情報ゲームであるため理論上は解けることになるが,問題のサイズが大きくなるにつれ全探索は困難となる.本論文では,しりとりゲームに関する解析を行い,ゲームを効率的に探索する手法を提案する.この手法は数理的解析,探索の効率化の2つの部分から成っており,数理的解析としてグラフのより簡単な形への変形を行っている.加えて,しりとりゲームにおける先手の勝率に関して実験,考察を行う.The word-chain game (SHIRITORI in Japanese) in which two players are assumed to know all the words can be modeled as a game on graph.When given a set of words with a word to start,it is theoretically possible to decide whether the first player can win the game or not because it is a game with perfect information,but it is practically difficult to find the solution because of the huge searching space.In this paper,we propose a mathematical approach to finding a solution to the word-chain game.We show how to simplify the game by means of mathematical analysis,and give a more efficient searching algorithm.In addition, we examine the possibility for the first player to win the game.Our experimental results show that our approach is quite promising.
著者
橋本 貴幸 岡田 恒夫 杉原 勝宣 渡邊 敏文 大西 弓恵 豊田 和典 村野 勇 中安 健 小林 公子 伊藤 万里 大山 朋彦 山口 梢
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.C0366, 2005

【はじめに】日本人の生活様式は、広範囲な屈曲可動域を要求されることが多いだけでなく、その特徴の一つに正座がある。深屈曲可動域の定義は、第33回日本人工関節学会において130°以上の屈曲を示すとされている。今回、受傷後理学療法までに4ヶ月以上経過し膝関節伸展拘縮を呈した症例の130°から正座に必要な160°までの屈曲可動域制限因子の特異的所見と理学療法について考察を踏まえ報告する。<BR>【対象】膝関節拘縮に伴い屈曲可動域130°以下の制限を呈した5例5膝(左5膝、内2膝は130°までの授動術を施行)を対象とした。性別は、女性2名、男性3名で平均身長162.4±7.8cm、平均体重58.4±7.2kgであった。<BR>【方法】1)膝関節周径計測(裂隙、膝上5・10・15cm、130°屈曲位膝蓋骨上縁の患側と健側差平均値)2)筋力測定(HORGAN社製MICROFET2を用い膝関節角度0°・90°・130°の伸展力を両側各3回施行し平均値を体重で除し指数化し患側/健側比を比較検討した)統計処理には、t検定を用い危険率5%未満を有意とした。3)130°屈曲位での下腿内旋角度計測(外旋位2点・中間位1点・内旋位0点とし指数化した)4)屈曲130°から正座獲得までの期間の4項目について調べ1)2)3)は膝関節の屈曲角度130°獲得時(以下BF)及び正座獲得時(以下AF)の2回計測し比較検討した。<BR>【結果】1)(BF/ AF)は裂隙(2.4/-1.4)5cm(0.3/0.1)10cm(-1.3/-1.1)15cm(-0.3/0.1)130°屈曲位(4.2/1.5)2)130°の場合のみ有意差を認めた(p<0.05)3) BF平均1.6点、AF平均0点4)正座獲得までの期間119.8±59日であった。<BR>【理学療法】1)浮腫管理2)深屈曲位での伸展筋強化 3)下腿内旋可動域拡大4)膝関節伸展機構及び内外側支持機構、関節内靭帯に対しアプローチした。<BR>【考察】深屈曲可動域獲得には、治療期間の長期化と拘縮による膝関節全体の硬さが制限因子である。特異的所見はBF時の130°における周径増大と伸展力低下、下腿内旋制限の3点が挙げられた。格谷らは、正常な深屈曲キネマティックスは、内顆部の2から5mmのlift-off、外顆部の大腿骨外顆の後方移動と大腿脛骨関節の亜脱臼状態及び外側半月板の可動性、膝蓋骨の遠位大腿骨内顆顆間のはまり込み、脛骨内旋・四頭筋腱顆部接触・fad padによる除圧機構が存在すると報告している。理学療法は、浮腫除去、膝伸展力強化・皮膚・膝伸筋機構・内側・外側構成体の伸張性と滑走性・関節内靭帯(ACL/PCL)の長さの獲得、低負荷持続伸張により全例正座可能となった。特異的所見の改善は正常な深屈曲キネマティックスを可能としその運動学的特徴を考慮することが深屈曲可動域獲得に重要である。
著者
陣内 厚子 木村 容子 伊藤 隆
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.56-59, 2017 (Released:2017-07-05)
参考文献数
15

症例は35歳男性で,主訴は眼瞼痙攣である。特に仕事中に右眼瞼が痙攣するようになり,眼科では異常なしと言われ,漢方治療を希望して受診した。疲れやすい等の気虚を疑う症状と,胸脇苦満の所見から,柴胡桂枝湯や芍薬甘草湯を使用したが改善を認めなかった。証を再検討したところ,体格は中等度以上で筋肉質であり,自覚症状からは虚弱な印象を受けたが,虚証ではなく中間証~実証であると判断した。また眼瞼痙攣は,暑くてのぼせる時に起き,上半身の汗や頭痛の症状を認めていたことから,上焦の実熱証と考え黄連解毒湯を開始した。八週後に眼瞼痙攣が軽減し,六ヵ月後に消失した。頭痛やのぼせの症状も改善した。 眼瞼痙攣に対する黄連解毒湯の報告はこれまでにない。同方剤は実熱証による眼瞼痙攣に対しては効果が期待できると考えられる。