著者
秦 多恵子 伊藤 栄次 西川 裕之
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.115, no.1, pp.13-20, 2000 (Released:2007-01-30)
参考文献数
48
被引用文献数
5 5

ストレスによって誘発される不安について,その誘因ストレス,生物学的背景の違いによる不安への感受性・不安レベルの相異,関連する脳内物質の動きなどを中心に以下の項目を述べた.(1)はじめに:どんなに小さなストレス刺激であっても生体はそれに反応し,各種内在性物質の量的変化や代謝回転の変化を生じる.またストレス状況下で誘発されるであろうマイナス情動の1つに不安がある.(2)不安はストレスにより誘発されうる:環境温度リズムの急変に基づくSARTストレスや,拘束ストレスなどによって生ずる異常行動が抗不安薬によって改善されるなど,ストレスと不安が関係しているという間接的な事例と,高架式十字迷路でオープンアームへの進入回数,探索時間等を測定することにより,不安との関係を直接求めた各種拘束ストレスやSARTストレスの実験例を示した.(3)不安レベルは受ける側のコーピング・ストラテジーにより異なる:Fischer 344系およびLewis系ラットでは雄性は十字迷路のオープンアーム上に全く進入しない.Wistar系では高週齢ほど不安レベルが高い.また雄性の方が早い時期(低週齢)から不安レベルが高くなるなど,同じラットでも系統,性別,週齢,ファミリー等によってストレスから受ける不安レベルが異なる.(4)不安に関連する脳内物質のストレスによる変化:各種の拘束ストレスやSARTストレスにより脳内のCRF,NA,5-HT,DA,AChなどが変化し,この変化は抗不安薬によって改善する.(5)おわりに:ストレスに伴って現れる不安行動はいずれの1つの神経系に異常が生じても誘発される可能性がある.しかし,1神経系あるいは1物質の変化のみによるものではなく,それらのバランスが崩れた場合に不安を含む様々の異常が現われると考えられる.従って,この崩れたバランスを元に戻すように働くものが抗不安薬の候補となりうる.
著者
吉賀 夏子 堀 良彰 只木 進一 永崎 研宣 伊藤 昭弘
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.310-323, 2022-02-15

わが国には,江戸時代以前に記された業務記録や証文などの古記録が数多く存在する.これらを有効に活用するためには,少ない工数で機械可読データを構築する必要がある.特に,地域特有の資料の場合には,地域特有の固有表現への対応が必要となる.本研究では,江戸期の業務日誌である「小城藩日記データベース」の目録記事文からLinked Dataなどの機械可読データを生成することを具体的目標とし,固有表現抽出の効率化を行う.その第1の手法は,市民参加による人手そのものの有効活用である.第2の手法は,機械学習による固有表現の自動抽出である.これらの手法を組み合わせることで,通常は収集の難しい地域特有の固有表現を記事文から,自動かつ高精度で抽出可能である.
著者
馬場 匠 伊藤 毅志
雑誌
研究報告ゲーム情報学(GI) (ISSN:21888736)
巻号頁・発行日
vol.2019-GI-41, no.13, pp.1-8, 2019-03-01

本研究では,なるべく少ない棋譜から将棋プレイヤの棋力を推定する手法を提案する.先行研究の将棋AIを用いた棋力推定の手法では20局程度の対戦を必要としていた.これは,分析対象とする局面の条件に「序盤や終盤の除外」などの制約があるため,1局あたりの分析局面数が少なることが原因である.本研究では,どのような局面が棋力推定に有効に働くのかを詳細に調べた.その結果,接戦の局面ほど棋力推定に適していることが判明した.そこで,接待将棋AIを用いて接戦の局面を多く作ることにより,少ない対局数から棋力推定をする手法を提案した.この手法により,3~4局程度の対戦でかなり正確に棋力推定ができることを確認した.
著者
多田 早織 渡邉 恒夫 寺林 伸夫 伊藤 亜子 島村 美咲 篠田 貢一 野久 謙 古田 伸行 伊藤 弘康 清島 満
出版者
一般社団法人 日本超音波検査学会
雑誌
超音波検査技術 (ISSN:18814506)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.287-294, 2015 (Released:2015-06-17)
参考文献数
15

Purposes: The purposes of this study were to assess blood flow in the shoulders of patients with rotator cuff tears using the Doppler ultrasonography (US) and to evaluate the relationship between blood flow and tear size. Methods: From August 2010 to August 2013, 87 patients with rotator cuff tears (RCTs)and 20 healthy volunteers (controls) were enrolled in this study. The patients were divided into two groups depending on the presence or absence of night pain. The peak systolic velocity (PSV) and resistance index (RI) of the anterior humeral circumflex artery (AHCA) were evaluated using pulse Doppler US. The PSV and RI were compared between the aflected and unaflected sides in patients and between the dominant and nondominant sides in controls. Results: No significant difference in PSV and RI was noted between the dominant and nondominant sides in the controls. In the patients with RCTs, PSV of the AHCA in the affected side was significantly higher than that in the unaffected side (p 〈 0.001). PSV of the AHCA in the group with night pain was significantly higher than that in the group without night pain (p 〈 0.001). Moreover, the patients with night pain showed significantly lower RI on the affected side than on the unaffected side (p=0.012). Meanwhile, no significant relationships were observed between tear size and blood flow of the AHCA. The receiver operating characteristic curve of the PSV revealed that the area under the curve was 0.85 with an optimal cutoff value of 20.5 cm/s, yielding 83% sensitivity and 86% specificity. Conclusion: These results suggest that assessment of blood flow with Doppler US is useful for the diagnosis of RCT, especially in patients with night pain.
著者
山川 恵子 伊藤 憲治 湯本 真人 宇野 彰 狩野 章太郎 加我 君孝
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. PRMU, パターン認識・メディア理解 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.103, no.658, pp.19-24, 2004-02-12
参考文献数
9

縦書き・横書きの表記形式の単語、シンボル、ラインを中心視野に提示し、視覚誘発脳磁場の比較を行った。全頭および左右側頭部の被験者全員分のRMS (Root Mean Square) を算出し、およそ5ms毎に縦・横×刺激の種類(2×3)の分散分析を行い、条件ごとの反応に有意差がみられるかを検討した。単語の処理においてのみ出現する反応として、(1)180-200ms、(2)250msあたり、(3)370msあたりをピークとする三つの成分(N180、RP、P300)が共通して確認された。どの成分においても単語刺激では縦書きの反応が横書きよりも一貫して強く、縦書き文字の処理は横書きに比べ何かしらの高度あるいは困難な過程が含まれることが示唆された。縦書き・横書き文字の脳内の認知処理における本質的な違いが示唆され、これまでの研究で議論されてきたような読みにおける縦書きの効率の悪さは、サッケードや眼球運動によってのみ起因するものではない可能性が示された。
著者
山室 信一 小関 隆 岡田 暁生 伊藤 順二 王寺 賢太 久保 昭博 藤原 辰史 早瀬 晋三 河本 真理 小田川 大典 服部 伸 片山 杜秀
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究においては、女性や子ども更には植民地における異民族までが熱狂をもって戦争に参与していった心理的メカニズムと行動様式を、各国との比較において明らかにすることを目的とした。そこでは活字や画像、音楽、博覧会などのメディアが複合的に構成され、しかも複製技術の使用によって反復される戦争宣伝の実態を明らかにすることができた。そして、このメディア・ミックスを活用する重要性が認識されたことによって、外務省情報部や陸軍省新聞班などが創設されることとなった。戦争ロマンの比較研究から出発した本研究は、戦争宣伝の手法が「行政広報」や「営利本位の商業主義」に適用されていく歴史過程を明らかにすることによって、総力戦という体験が現代の日常生活といかに直結しているのかを析出した点で重要な成果を生んだ。
著者
松村 稔 伊藤 喜宏 木村 尚紀 小原 一成 関口 渉次 堀 貞喜 笠原 敬司
出版者
公益社団法人 日本地震学会
雑誌
地震 第2輯 (ISSN:00371114)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.167-184, 2006-12-15 (Released:2013-08-05)
参考文献数
27
被引用文献数
7 10

We have developed an automatic system called the Accurate and QUick Analysis System for source parameters (AQUA System) that provides rapid estimates of hypocenter location, magnitude, and moment tensor for medium to large-scale earthquakes that occur near or underneath Japan. The AQUA System monitors high-sensitive real-time seismic waveform output from the Hi-net operated by the National Research Institute for Earth Science and Disaster Prevention (NIED). Upon detecting an earthquake, the AQUA System provides an estimate of the event’s hypocenter and magnitude within 15-30 seconds. Within a further 2-10 minutes, the system provides centroid moment tensor (CMT) solution by inversion technique using broadband seismic waveform of NIED F-net. To assess the accuracy of the new system, we compared hypocenter and magnitude data derived from the AQUA System over the period from September 2004 to August 2005 with catalog data from the Japan Meteorological Agency (JMA). We also compared CMT solutions derived from the AQUA System with corresponding values from the NIED F-net and catalog data of Harvard University’s CMT Project. A total of 339 seismic events were detected during the period of analysis. The AQUA System determined hypocenters for 324 of these events and CMT solutions for 224 events. The estimated hypocenters are within 10km horizontally and 20km vertically of the hypocenters calculated by the JMA in 80% of cases, and the CMT solutions were approximately the same as those obtained from other systems. The results of analyses by the AQUA System are published on the website of NIED Hi-net.
著者
伊藤 毅志
雑誌
ゲームプログラミングワークショップ2013論文集
巻号頁・発行日
pp.94-97, 2013-11-01

本研究では、コンピュータ囲碁を用いて9 路盤囲碁を研究するプロ棋士の思考過程を発話プロトコルやインタビューを中心に調べた。プロ棋士がコンピュータ囲碁に対して抱く印象が変化していく過程を観察した。利用初期は、コンピュータ囲碁との対戦を通して、コンピュータ囲碁の特性を掴む行動が観察された。その後、コンピュータ囲碁が意外に終盤に弱点があることがわかり、逆に序中盤で人間の盲点になる意外な好手を発見することに気づくと、その意外な好手をもとに研究を進めるという利用法に変化していった。
著者
伊藤 理史 イトウ タカシ Ito Takashi
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科 社会学・人間学・人類学研究室
雑誌
年報人間科学 (ISSN:02865149)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.1-15, 2016-03-31

2011年11月27日に実施された大阪市長・府知事選挙(2011年ダブル選挙)の結果、大阪市長に橋下徹が、大阪府知事に同じく橋下陣営の松井一郎が当選した。このような橋下陣営の躍進(橋下現象)は、現代日本における新しい政治現象の典型例とみなされている。しかし誰が橋下現象の担い手なのかという点については、必ずしも明らかではない。論壇やマス・メディアでは階層との関連が指摘されているが、いまだ適切な個票データと実証研究の蓄積は乏しい。そこで本稿では、階層政治論に注目して主にその有効性を検討した。自ら実施した「大阪府民の政治・市民参加と選挙に関する社会調査」の個票データを使い、多項ロジスティック回帰分析から2011年ダブル選挙における候補者選択と投票参加の規定要因を検討したところ、階層と投票行動の関連が両選挙でみられなかった。このことは候補者選択における階層間対立と投票参加における階層的不平等の不在を意味する。以上の分析結果より、現代日本における新しい政治現象の典型例としての橋下現象は、階層政治論から説明できないことが示された。橋下陣営の人気は、候補者選択における階層間対立と投票参加における階層的不平等を超えて多数派からの支持を獲得したことによって生じている。つまり本稿は、現代日本における新しい政治現象が生じた有権者側の要因について示唆を与えるものである。
著者
狩野 謙一 上杉 陽 伊藤 谷生 千葉 達朗 米澤 宏 染野 誠
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.137-143, 1984-07-31 (Released:2009-08-21)
参考文献数
22
被引用文献数
3 5 4

Active faults and neotectonics in and around the southern part of the Tanzawa Mountains and the Oiso Hills in the southern Fossa Magna region are summarized on the basis of new evidences obtained from fault analyses and tephrochronological studies. The active faults in this area can be classified into the following four systems; the E-W Kannawa thrust, the E-W high-angled reverse faults, the NE-SW left-slip faults and the NW-SE right-slip faults. Most of the strike-slip faults have dip-slip components. The Kannawa thrust probably moved during the Middle Pleistocene, and the other faults have been active since the late Middle Pleistocene, under the regional compressional stress field of N-S direction. The accumulation and deformation of the strata in this area have been strongly affected by displacements along the above mentioned fault systems.
著者
浦田 龍之介 鈴木 満里乃 山本 真生 伊藤 将円 鈴木 皓大 伊藤 梨也花 伊藤 晃洋 飯島 進乃 屋嘉比 章紘 鈴木 彬文 井川 達也
出版者
The Society of Physical Therapy Science
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.188-192, 2023 (Released:2023-06-15)
参考文献数
22
被引用文献数
1

〔目的〕本邦理学療法分野の症例報告における情報の欠落の実態について調査することとした.〔対象と方法〕2019年に日本国内の学術雑誌に掲載された理学療法に関する症例報告を対象とした.医中誌Webを含む4つの電子検索データベースを用いて文献を網羅的に収集した.症例報告における情報の欠落について,CAse REport guidelinesを用いて評価した.〔結果〕253件の症例報告が選択された.患者の個人情報の項目では遵守率が100%であった.アブストラクトと本文に関する計12項目では,遵守率は50%未満であった.〔結語〕本邦理学療法に関する症例報告のなかには,必要情報の欠落により読者の誤解を招く表現が用いられている可能性が示唆された.
著者
伊藤 一成 辻 麻衣子 三宅 剛史
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.110, no.10, pp.670-677, 2015 (Released:2018-05-21)
参考文献数
14

現在普及している速醸?や生もと系酒母の原型とされる菩提もとは,速醸もとの技術が全国に普及したのと同時に姿を消したとされている。近年,奈良県において菩提もとの製造メカニズムが解析され,菩提もとを用いた清酒が再現復活している。これと同時期に岡山県内の蔵元において,独自の方法で製造したそやし水を使用するもと造りが確立されていた。本稿では,このそやし水の解析から明らかになったことを解説していただいた。
著者
田中 愛子 伊藤 賀敏 鶴岡 歩 波多野 麻衣 吉永 雄一 重光 胤明 澤野 宏隆 一柳 裕司 西野 正人 林 靖之 甲斐 達朗
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.88-92, 2013-01-15 (Released:2014-09-12)
参考文献数
9

近年,心臓震盪は子どもが突然死する原因の1つとして徐々に認識されてきた.輿水らの報告では,心臓震盪は胸郭のコンプライアンスが大きい若年者に多く,Maronらの報告や国内例ともに18歳以下に多くみられる.当施設では最近3年間で3例の心臓震盪を経験した.症例1:41歳,男性.日本拳法練習中に胸部打撲を受け,心肺停止となった.初期波形は心室細動(ventricular fibrillation;VF)であり,電気的除細動を含む蘇生処置を施行された.心肺停止17分後に心拍再開し,当施設に救急搬送された.搬送後も意識障害が遷延したため,脳低温療法を施行し,社会復帰を果たした.症例2:18歳,男性.フットサルの練習中,ボールを前胸部でトラップした際に倒れ,心肺停止となった.初期波形はVFであり,電気的除細動を含む蘇生処置された.心肺停止6分後に心拍再開し,社会復帰した.症例3:27歳,男性.柔道の試合中,相手ともつれ合い倒れて,心肺停止となった.初期波形はVFであり,電気的除細動を含む蘇生処置にて,心肺停止8分後に心拍再開し,社会復帰した.院外心肺停止のうち,心室細動に対しては,早期の電気的除細動が良好な神経学的転帰と関連しているといわれている.上記3症例からも,特にスポーツを行う場には自動体外式除細動器(automated external defibrillator;AED)の普及が急務と考えられる.
著者
入江 潤一郎 伊藤 裕
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.143-150, 2017 (Released:2017-08-01)
参考文献数
38

睡眠はsleep homeostasisと,中枢の時計遺伝子の支配を受ける概日リズム(circadian-rhythm)により制御されている.末梢臓器である腸管も時計遺伝子による制御を受け,腸内細菌の組成と機能には概日リズムが認められる.時差症候群や睡眠時間制限などによる睡眠障害は,腸内細菌の概日リズムに変調をもたらし,dysbiosisや腸管バリア機能低下を惹起し,宿主のエネルギー代謝異常症の原因となる.規則正しい摂食は腸内細菌の概日リズムを回復させ,中枢時計との同調を促し,睡眠障害の治療となる可能性がある.またプレ・プロバイオティクスなど腸内細菌を介した睡眠障害の治療も期待されている.