著者
前嶋 康浩
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.151, no.3, pp.100-105, 2018 (Released:2018-03-10)
参考文献数
10
被引用文献数
4 4

心機能の維持にはオートファジーが最適なレベルに保たれていることが欠かせないが,その詳しい分子機序についてはいまだ解明されていない.私たちは,アポトーシスを誘導するキナーゼであるMst1にはオートファジーを阻害してタンパク質の品質管理システム機構を負に制御する機能があることを発見した.ストレスにより活性化されたMst1は心筋細胞においてオートファゴソームの形成を抑制し,p62の集積とアグリソームの蓄積を促進することや,Mst1はBeclin1のBH3ドメインにあるThr108をリン酸化し,Beclin1とBcl-2またはBcl-xLとの結合を強化してBeclin1のホモ二量体を安定化させることを見出した.その結果,Vps34複合体IのPI3キナーゼ活性が抑制され,オートファゴソームの形成が阻害されることを見いだした.実際に,心筋梗塞モデルマウスや拡張型心筋症患者における不全心筋において,心筋内のMst1活性が上昇してオートファジーを抑制し,心筋障害を惹起していることを示唆する所見が観察された.この他にもオートファジーが心保護効果を発揮する分子機序が次々と明らかになってきており,オートファジーによる心保護作用を活性化させる戦略は心不全に対する新規の薬理学的な治療標的として有望であると考えられる.
著者
湧上 聖 末永 英文 江頭 有朋 平 敏裕 渡嘉敷 崇 山崎 富浩 前原 愛和 上地 和美
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.304-308, 2000-04-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
15
被引用文献数
9 5

長期経腸栄養患者に銅欠乏が出現することが時々報告され, 貧血及び好中球減少症を伴うことがある. ある種の経腸栄養剤の銅含量が少ないことが原因で, 治療は硫酸銅や銅含量が多い経腸栄養剤で行われている. 今回, 食品である銅含量の多いココアを用いて銅欠乏の治療を行い, 銅の必要量を検討してみた. 当院に平成10年に入院していた経腸栄養患者86人を対象とした. 男性40人, 女性46人, 平均年齢69歳であった. 基礎疾患は脳卒中71人, 神経疾患5人, その他10人であった. CBC, 電解質, 腎・肝機能, 総蛋白, コレステロール, 血清銅 (正常値78~136μg/dl) を全症例に検査した. まず, 血清銅が20μg/dl以下の8症例に対して, ココアを一日30~45g (銅1.14~1.71mg), 血清銅が77μg/dl以下の31症例に対してはココアを一日10g (銅0.38mg) 経腸栄養剤に混注して1~2カ月間投与した. ココアの量が30~459の8症例の内, 2例が嘔吐と下痢で中断した. 残り6症例は血清銅が平均8.7±6.2から99.0±25.4μg/dlと有意に改善した. ココアの量が10gの31症例は血清銅が平均50.5±19.3から89.0±12.9μg/dlと有意に改善した. 銅欠乏に伴う貧血及び好中球減少も改善傾向がみられた. その後ココア10gで改善した23例についてココアを5g (銅0.19mg) に減量したところ, 平均98±36日で血清銅は90.7±10.4から100.6±17.1μg/dlへ有意に上昇した. これまで成人の一日銅必要量は1.28~2.5mgとされていたが, 今回の結果から銅欠乏の治療に関してはココア一日10g, 銅として0.6mg (ココアの銅含量0.38mgと栄養剤の平均銅含量0.22mg), 維持についてはココア5g, 銅として0.37mg (ココアの銅含量0.19mgと栄養剤の平均銅含量0.18mg) で十分だと示唆され, 経腸栄養剤開発における銅含量の参考になると思われる.
著者
増間 弘祥 南⾥ 佑太 河端 将司 野﨑 康平 澁⾕ 真⾹ 前⽥ 拓也 代⽥ 武⼤ ⼆瓶 愛実 相川 淳 岩瀬 ⼤ ⾼野 昇太郎 福⽥ 倫也
出版者
一般社団法人 日本運動器理学療法学会
雑誌
運動器理学療法学 (ISSN:24368075)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.7-13, 2023 (Released:2023-09-30)
参考文献数
26

【⽬的】⼈⼯膝関節全置換術(以下,TKA)後の患者における術後14 ⽇以内の⾃宅退院可否と術前歩⾏速度の関連を明らかにすること。【⽅法】対象は2016 年4 ⽉〜2021 年3 ⽉までにTKA を施⾏された294 例とした。対象者を術後14 ⽇の⾃宅退院を基準に早期退院群と遅延転院群の2 群に分類した。対象者に対して術前歩⾏速度を調査し,2 群間で⽐較を⾏った。さらにロジスティック回帰分析により術前歩⾏速度が術後14 ⽇以内の⾃宅退院を困難とするリスク因⼦となるか検討を⾏った。【結果】遅延転院群の術前歩⾏速度は早期退院群と⽐較して有意に低下していた。さらに,術前歩⾏速度は術後14 ⽇以内の⾃宅退院を困難とするリスク因⼦となることが分かった(オッズ⽐:0.09,95%CI:0.03–0.32)。【結論】TKA 後の患者において,術前歩⾏速度の評価は術後14 ⽇以内の⾃宅退院可否を予測する上で有⽤であることが⽰唆された。
著者
前田 信治 清家 雅彦 中島 隆 泉田 洋司 鈴木 洋司 精山 明敏 立石 憲彦 関谷 美鈴 谷口 拓也 昆 和典 志賀 健
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオレオロジー学会
雑誌
日本バイオレオロジー学会誌 (ISSN:09134778)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.32-40, 1990-03-31 (Released:2012-09-24)
参考文献数
27

Relation of membrane surface structure and erythrocyte aggregation was investigated by modifying glycoproteins of erythrocytes with trypsin, chymotrypsin and neuraminidase, with a special regard to survival of erythrocytes in circulation. The velocity of erythrocyte aggregation was measured with a rheoscope combined with a video camera, an image analyzer and a computer. (1) Human aged erythrocytes fractionated by a density gradient centrifugation with Percoll were more accelerative in aggregation than young erythrocytes. Young erythrocytes induced in rat by administration of recombinant human erythropoietin were less accelerative in aggregation than normally produced erythrocytes. These phenomena were discussed on the basis of structural change of membrane surface proteins during in vivo aging of erythrocytes. (2) Erythrocyte aggregation was affected by negative charge density of membrane surface (mainly of sialic acid). But structural change of glycoproteins, especially of glycophorin A, was greatly effective on the erythrocyte aggregation. The phenomena were proposed as a model of removal of in vivo aged erythrocytes.
著者
前田 英作 南 泰浩 堂坂浩二
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.624-640, 2006-06-15

私たちの身近にいつも寄り添い,見守り,そっと支えてくれる存在,かつて私たちはそれを「妖精・妖怪」と呼んでいた.物質的な利便性より精神的な安定と豊かさを追うべきこれからの時代に,情報科学技術が取り組むべき課題はこの妖精・妖怪の復権である.本論文では,それを新しい「環境知能」と呼ぶ.復権すべき妖精・妖怪の世界とは何か,情報科学技術との接点は何か,それにより実現される生活様式は何かについて論じるとともに,環境知能の実現に向けて今後取り組むべき具体的課題を提起する.
著者
黒田 裕子 徳田 真実 井上 舞鳥 増田 克哉 寺島 朝子 前澤 佳代子 松元 一明 木津 純子
出版者
一般社団法人日本医療薬学会
雑誌
医療薬学 (ISSN:1346342X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.10, pp.714-721, 2015-10-10 (Released:2016-10-10)
参考文献数
10
被引用文献数
3 3

Seven products, currently on the market as acetaminophen suppository 100 mg, are commonly used for pyrexia in children, and yet there have been no reports on their solubility and divisibility. We examined the hourly solubility rate of each suppository using a dissolution tester for suppositories. In addition, we conducted a hardness test using the EZ-test, a questionnaire-based investigation on the accuracy and divisibility when the suppositories were divided. There was a significant difference between each suppository (P < 0.01). While 4 types dissolved completely within 60 minutes, one type took 120 minutes to dissolve completely. Another two had only 51 and 67%, respectively, at 180 minutes. The bases are hard fat in all suppositories. The types and additives of hard fat may have had an influence on solubility. The hardest suppository was assessed as showing marked differences in the weight ratio and solubility between the distal and tail portions when divided in half, due to which division was considered inappropriate, and there were differences in accuracy and divisibility among suppositories.From the above, it was suggested that the acetaminophen suppository 100 mg products may show differences in the solubility, time to action onset, and duration of the action. In addition, we should instruct physicians on important points of caution regarding the characteristics of each preparation when dividing the suppositories so that they can be given safely to infants.
著者
中前 吾郎 Nakamae Goro
巻号頁・発行日
1998

筑波大学博士 (法学) 学位論文・平成10年3月23日授与 (乙第1375号)
著者
前田 廉孝
出版者
社会経済史学会
雑誌
社会経済史学 (ISSN:00380113)
巻号頁・発行日
vol.78, no.3, pp.335-360, 2012-11-25 (Released:2017-06-15)

本稿の課題は,第1次大戦期までにおける日系製塩資本の台湾と関東州への進出過程を検討し,それら勢力圏下製塩業が内地への原料供給地としての役割を果たすに至った過程を明らかにすることである。これを受けて本稿では,野崎武吉郎家と大日本塩業株式会社を事例に,(財)竜王会館所蔵野崎家文書と日塩(株)所蔵史料を主に用いて考察を進めた。本稿の考察より,第1次大戦期まで食塩供給地としての政策的位置づけを得ていなかった勢力圏下製塩業への日系資本の進出とその後の事業は,塩専売制度導入を画期とする内地食塩市場の構造的変化に呼応して展開されたことが明らかになった。さらに,第1次大戦期における内地の食塩需要の急激な拡大に起因した塩専売政策の転換により,台湾・関東州製塩業は内地への原料供給地として勢力圏下の分業構造に組み込まれたのであった。一方で,第1次大戦後には原料塩獲得を目的とした勢力圏下製塩業への食塩需要者による直接進出が活発化した。このことから,国家にとっての原料資源の重要性が増大した第1次大戦期を画期として,日系製塩資本の進出動機は大きく変化した可能性が示唆された。
著者
頼高 朝子 深江 治郎 渡辺 宏久 三輪 英人 志村 秀樹 河尻 澄宏 下 泰司 前田 哲也 大塚 千久美 山田 大介 富山 誠彦 阿部 隆志 平沢 基之 木原 武士 斎木 英資 鈴木 千賀子 風間 明日香 大野 欽司 伊藤 美佳子
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

水素分子はパーキンソン病(PD)疾患モデル動物のドパミン神経細胞の減少を抑制した。この事実を基にレボドパ内服中のPD患者に対して水素水を48週間飲水させた無作為化二重盲検試験でその症状を改善させた。初期及び進行例を含めたPD患者に対象拡大し72週に延長し、無作為化二重盲検並行群間試験を14施設で実施した。レボドパ未内服の患者を含めた178例を登録し、水素水群91例とプラセボ群86例に試験水を1日1l飲水した。水素水による有害事象は認めなかった。主要評価であるPD評価スケールの開始時から72週目までの変化量は水素水群とプラセボ群で統計学的な有意差は認めず、有効性は認めなかった。
著者
室井 尚 佐藤 守弘 吉田 寛 吉岡 洋 秋庭 史典 島本 浣 安田 昌弘 小松 正史 吉村 和真 前川 修 大久保 美紀 丸山 美佳
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-10-21

本研究は5名の研究代表者、分担者を中心とした研究会を複数回開催するとともに、大規模な公開研究集会を年に一回開催し、その成果を映像記録や報告書にまとめることによって、一般からもその成果に対する広い関心を集めることができた。最終年度には報告書として論文集を公刊した。また2014年の国際記号学会においてはラウンドテーブルを組織して、海外の研究者との議論を深めることができた。これらの研究活動によって新しい理論的な枠組の構築に結びつけることができた。本研究はポピュラー文化に関する美学的アプローチの最先端の成果を挙げることができた。
著者
前川 玲子
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
2006-03

平成16-17年度科学研究費補助金(基盤研究(C2))研究成果報告書 課題番号:16520146 研究代表者:前川玲子(京都大学環境学研究科助教授)
著者
前田 朗 堀部 秀二
出版者
日本義肢装具学会
雑誌
日本義肢装具学会誌 (ISSN:09104720)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.196-203, 1999-07-01 (Released:2010-02-25)
参考文献数
7

関節は, 骨, 関節軟骨, 靱帯, 関節包, 滑膜, 支帯, 半月, 関節唇などで構成され, 運動の中心, テコの支点, 荷重負担, 衝撃緩和, 位置覚のセンサーとしての機能がある. 関節の運動は並進運動 (すべり) と回転運動 (ころがり) が組み合わさって行われる. 関節の物理的特性としては, 粘弾性特性や小さな摩擦力が特徴的である. 関節の安定性は骨形態, 靱帯, 半月, 関節唇, 関節周囲筋, 関節内の陰圧, 拮抗する関節周囲筋などによって保たれているが, なかでも靱帯の果たす役割は大きい. 靱帯は関節において骨と骨を連結する紐状あるいは帯状のコラーゲン線維組織であり, 関節の安定化, 関節運動の誘導, 過度の運動に対する制動, 関節の固有知覚のセンサーとしての機能がある.
著者
鈴木 恵輔 加藤 晶人 光本(貝崎) 明日香 沼澤 聡 井上 元 中島 靖浩 前田 敦雄 森川 健太郎 八木 正晴 土肥 謙二
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.611-615, 2020-08-31 (Released:2020-08-31)
参考文献数
10

ジフェンヒドラミンは抗アレルギー薬,風邪薬,睡眠改善薬などとして用いられている。今回,ジフェンヒドラミン4,990mgを内服した急性中毒例に対して血液透析を施行し,血中濃度測定を行った症例を経験した。症例:22歳,女性。意識障害のため当院に搬送され,眼振や痙攣を認めた。現場に落ちていた空包からジフェンヒドラミン中毒を疑い,人工呼吸器管理,血液透析などの集中治療を行った。第4病日には抜管し意識清明となり,本人よりレスタミンUコーワ錠®などを内服したことを聴取した。その後,合併症なく経過し第8病日に自宅退院となった。血中濃度測定を行うと腎排泄だけでなく,効果が乏しいと考えられていた血液透析によってもジフェンヒドラミンが除去されることが示唆された。したがって,重症のジフェンヒドラミン中毒例では血液透析を考慮してもよいかもしれない。
著者
安藤 昌也 齋藤 亨 前川 元貴 小林 英樹
出版者
公益社団法人 自動車技術会
雑誌
自動車技術会論文集 (ISSN:02878321)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.382-389, 2023 (Released:2023-03-25)
参考文献数
9

企画段階で創出したコンセプトを想定顧客に対して提示し、その受容性や改善点を把握しようとしたとき、調査協力者は未来の提供価値を想像して反応を返すため、その人の特性をあらかじめ把握することが重要となる。本研究では、解釈レベル理論に着目した心理的距離尺度を作成し、調査協力者の選定に用いることを検討した。