著者
小幡 光汰 古庄 誠 今村 央 成松 庸二
出版者
一般社団法人 日本魚類学会
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
pp.23-018, (Released:2023-08-05)
参考文献数
26

Five specimens of scaleless dragonfish of the genus Melanostomias (Stomiidae: Melanostomiinae) were collected off the Ogasawara Islands, southern Japan and Fukushima Prefecture, Pacific coast of northern Japan. The specimens conformed to Melanostomias nigroaxialis Parin and Pokhilskaya, 1978 as follows: tips of the upper and lower jaw teeth bifurcated; chin barbel distally expanded from midpoint, the dorsal and ventral expanded areas membranous and transparent, and including small luminous bodies; a single ovoid body without a terminal filament on terminal part of chin barbel; distinct luminous patch on dorsal surface of head absent; and axis of chin barbel almost entirely black, except terminal part. However, the present specimens had a shorter chin barbel than noted in the original description of M. nigroaxialis. Because a plot of barbel lengths (as % of standard length) versus standard length of the present specimens and three specimens examined in the original description indicated that barbel lengths tended to decrease with growth, the difference in barbel length between the two groups of specimens was consistent with intraspecific variation. In addition, the present specimens had different numbers of VAV, AC, IC, VAL and OA photophores compared with the original description of M. nigroaxialis, although the ranges were less than the those in many congeneric species, also indicative of intraspecific variation. Consequently, the present specimens were identified as M. nigroaxialis, previously known only from the Banda Sea, southern Philippines Sea and northern New Zealand. This is the northernmost record of M. nigroaxialis, and first from Japanese waters. The new standard Japanese name “Tomoshibi-kanten-tokagegisu” is proposed for this species.
著者
古川 聡子 河口 勝憲 岡崎 希美恵 辻岡 貴之 通山 薫 佐々木 環
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.563-568, 2018-07-25 (Released:2018-07-28)
参考文献数
6

2008年にクレアチニン(Cre)から算出した推算glomerular filtration rate: GFR(eGFRcre)が,2012年にはシスタチンC‍(Cys)から算出した推算GFR(eGFRcys)が公表され,推算GFRは臨床現場で簡便な腎機能の指標として活用されている。しかし,しばしばeGFRcreとeGFRcysが乖離する症例に遭遇する。そこで,今回eGFRcreとeGFRcysはどの程度一致するのか,また乖離症例にはどのような特徴があるのかを検証した。全症例(n = 226)での相関関係は回帰式y = 0.92x + 2.44,相関係数r = 0.868と良好な結果であったが,CKD重症度分類のGFR区分におけるeGFRcreとeGFRcysの一致率は55.8%と約半数であった。不一致例はeGFRcreと比較し,eGFRcysの区分が軽い症例と重い症例が同等に存在し,どちらか一方への偏りは認めなかった。さらにGFR区分が2段階以上異なる症例は8症例で全体の3.5%であった。eGFRcys/eGFRcre比の比較では,その比が最も1.00に近かった60歳代を基準とすると,若年では高く,高齢では低くなる傾向を認めた。また,eGFRcys/eGFRcre比は体表面積が大きいほど,血清アルブミンが高値なほど高くなる傾向を示し,高度蛋白尿では低値となった。腎機能評価においては,各推算式の特徴や乖離要因を把握した上で使用することが重要である。
著者
村井 政史 伊林 由美子 堀 雄 森 康明 古明地 克英 八重樫 稔 今井 純生 大塚 吉則 本間 行彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.227-230, 2017 (Released:2017-12-26)
参考文献数
12

症例は31歳の女性で,出産後に上下の口唇に黄白色の痂皮ができ,剥けるようになった。剥脱性口唇炎と診断し,陰証および虚証で,出産後で気血ともに虚した状態と考え帰耆建中湯で治療を開始したが無効で,同じく気血両虚の十全大補湯に転方したが改善せず,胃の調子が悪化した。胃腸への負担が少ない虚証の方剤がよいと考え補中益気湯に転方したところ,口唇の痂皮は著明に改善しほとんど目立たなくなった。剥脱性口唇炎は慢性に持続した炎症性疾患であることから少なくとも口唇の局所は陽証と考えられ,少陽病をもカバーしうる補中益気湯が奏効したものと思われた。また,剥脱性口唇炎には何らかの精神医学的要因が関与している可能性があり,柴胡の解鬱・抗ストレス作用や陳皮の理気・鎮静作用もまた,本症例で補中益気湯が奏効した一因であると思われた。
著者
佐伯 いく代 横川 昌史 指村 奈穂子 芦澤 和也 大谷 雅人 河野 円樹 明石 浩司 古本 良
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.187-201, 2013-11-30 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
2

我が国ではこれまで、主に個体数の少ない種(希少種)に着目した保全施策が展開されてきた。これは貴重な自然を守る上で大きな成果をあげてきたが、いくつかの問題点も指摘されている。例えば、(1)「種」を単位として施策を展開するため、現時点で認識されていない未知の生物種についての対応が困難である、(2)人々の保全意識が一部の種に集中しやすく、種を支える生態系の特徴やプロセスを守ることへの関心が薄れやすい、(3)種の現状をカテゴリーで表すことに困難が生じる場合がある、などである。これらの問題の克服に向け、本総説では絶滅危惧生態系という概念を紹介する。絶滅危惧生態系とは、絶滅が危惧される生態系のことであり、これを保全することが、より包括的に自然を保護することにつながると考える。生態系、植物群落、および地形を対象としたレッドリストの整備が国内外で進められている。22の事例の選定基準を調べたところ、(1)面積が減少している、(2)希少である、(3)機能やプロセスが劣化している、(4)分断化が進行している、(5)開発などの脅威に強くさらされている、(6)自然性が高い、(7)種の多様性が高い、(8)希少種の生息地となっている、(9)地域を代表する自然である、(10)文化的・景観的な価値がある、などが用いられていた。これらのリストは、保護区の設定や環境アセスメントの現場において活用が進められている。その一方で、生態系の定義、絶滅危惧生態系の抽出手法とスケール設定、機能とプロセスの評価、社会における成果の反映手法などに課題が残されていると考えられたため、具体の対応策についても議論した。日本全域を対象とした生態系レッドリストは策定されていない。しかし、筆者らの行った試行的なアンケート調査では、河川、湿地、里山、半自然草地を含む様々なタイプの生態系が絶滅危惧生態系としてあげられた。絶滅危惧生態系の概念に基づく保全アプローチは、種の保全の限界を補完し、これまで開発規制の対象となりにくかった身近な自然を守ることなどに寄与できると考えられる。さらに、地域主体の多様な取組を支えるプラットフォーム(共通基盤)として、活用の場が広がることを期待したい。
著者
古田 繁行 佐藤 英章 辻 志穂 眞鍋 周太郎 北川 博昭
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.7, pp.1230-1233, 2015-12-20 (Released:2015-12-20)
参考文献数
13

症例は8 歳,女児.半年間持続した膿血性帯下を主訴に来院した.MRI 検査で膣内異物の膣壁穿通を疑う所見を得た.異物の一部の膣外局在確認ならびに腹腔側からの処置に備え腹腔鏡下にダグラス窩を観察したところ,後膣円蓋付近から後腹膜腔に露出した異物と思われる腫瘤様隆起が透見された.膣鏡では膣壁の癒着により異物の観察ができなかったが,子宮鏡を用いて経膣的に異物の確認と全摘除をし得た.摘出異物は長さ1.5 cm の円錐型のプラスティック製玩具であった.異物挿入が性的虐待行為によることも疑われ,児童相談所員が調査したが,その可能性は低いと判断されたため経過観察となった.術後6 か月経過した現在,現在まで性的虐待行為の形跡はなく,帯下の再発も認めない.
著者
田嶋 宏隆 久米 学 小川 真由 渡邊 俊 内山 里美 内山 耕蔵 大坪 鉄治 古賀 春美 亀井 裕介 三田村 啓理
出版者
アクオス研究所
雑誌
水生動物 (ISSN:24348643)
巻号頁・発行日
vol.2023, pp.AA2023-11, 2023-06-01 (Released:2023-06-01)

ニホンウナギ Anguilla japonica はかつて日本全国で豊富に漁獲された。しかし、現在は個体数が激減している。福岡県柳川市の掘割も本種の個体数が減少した場所の一つである。これは、水門の改修に伴い、シラスウナギの川から掘割内への侵入個体が激減したことが要因であると考えられている。現在、地元の高校やNPO法人により掘割へのニホンウナギの放流活動が行われている。しかしながら、野生個体または放流個体が掘割内に定着しているかは明らかになっていない。そこで本研究では、現在、福岡県柳川市の掘割にニホンウナギが生息しているかを明らかにするため、電気ショッカーを用いて本種の採集を試みた。その結果、5回の調査(2021年10月、2022年2月・3月・11月、2023年2月)において、合計47個体のニホンウナギを採集した。採集した個体が放流個体か天然個体かは判断することができなかった。採集された個体の全長は122–623 mmの範囲であった。47個体のうち2個体の銀ウナギが2022年11月の調査時に採集され、残りの45個体は黄ウナギですべての調査時に採集された。砂泥中からは139 mmから558 mmまで様々な全長の個体が採集された。中・大礫から採集された個体に比べ、巨礫や石垣から採集された個体の全長は大きい傾向があった。調査月の違いやウナギの全長に関わりなく本種を採集できたことから、掘割はニホンウナギが生息・成長するための環境を少なからず備えていると推測した。
著者
古川 洋和
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.213-222, 2010-09-30 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
1

本研究の目的は、歯科恐怖症に対する認知行動療法(CBT)の効果研究について展望を行うことであった。文献検索の結果、12編の研究が抽出された。主な結果は、以下のとおりであった。(1)CBTの技法として、エクスポージャー、リラクセーション(応用リラクセーションを含む)、認知的再体制化、ストレス免疫訓練、系統的脱感作が行われていた。(2)すべての治療技法は、治療前後にかけて主要評価項目の値を改善していた。(3)治療後において、エクスポージャーと系統的脱感作は、統制条件と比較して大きな効果サイズが認められた。(4)治療後において、応用リラクセーションは、統制条件と比較して中程度以上の効果サイズが認められた。(5)治療後において、認知的再体制化は、統制条件と比較して中程度以下の効果サイズが認められた。最後に、わが国においても統制研究を行うことの必要性が提示された。
著者
田坂 樹 日髙 玲奈 岩佐 康行 古屋 純一 大野 友久 貴島 真佐子 金森 大輔 寺中 智 松尾 浩一郎
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.312-319, 2023-03-31 (Released:2023-04-28)
参考文献数
19

目的:回復期リハビリテーション(リハ)において,口腔問題解消と摂食機能向上のためには,適切な口腔機能管理が不可欠である。今回われわれは,回復期リハ病棟における歯科の関わりを明らかにするため全国調査を実施した。 方法:回復期リハ病棟協会会員の1,235施設を対象に,歯科との連携に関する自記式質問調査を実施した。質問内容は,歯科との関わり方,連携による効果などから構成された。回答を記述統計でまとめ,歯科連携体制によって回答に相違があるか検討した。 結果:319施設(25.8%)から得られた回答のうち,94%の施設で入院患者への歯科治療が実施されていたが,そのうち院内歯科が26%,訪問歯科が74%であった。常勤の歯科医師と歯科衛生士の人数の中央値は0であった。院内歯科がある施設のほうが,訪問歯科対応の施設よりも歯科治療延べ人数が有意に多く,歯科との連携による効果として,患者や病棟スタッフの口腔への意識の向上との回答が有意に多かった。 結論:本調査より,限定的ではあるが,院内歯科がある施設では,常勤の歯科専門職は少ないが歯科との連携の効果を実感している施設が多くあった。一方,本調査の回答率から,回復期リハ病棟を有する病院では,歯科との連携がなされていない施設が多くあることも考えられた。今後,回復期リハにおける医科歯科連携強化に向けて,エビデンスの創出や診療報酬の付与が必要であると考えた。
著者
岩間 信之 佐々木 緑 田中 耕市 駒木 伸比古 浅川 達人
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.178-196, 2012-12-31 (Released:2013-01-31)
参考文献数
27
被引用文献数
1 4

本稿の目的は,被災地における食品流通の復興プロセスを明らかにするとともに,仮設住宅入居後における買い物環境の変化と食品供給問題改善のための課題を整理することにある.研究対象地域は岩手県下閉伊郡山田町である.東日本大震災により,山田町の市街地は壊滅的な打撃を受けた.震災発生当初,被災者は深刻な食糧難に見舞われた.現在,商業施設の復興はある程度進んでいるものの,仮設住宅の住民の間で買い物環境が悪化している.市街地および仮設住宅周辺において,フードデザートエリアの拡大が確認された.
著者
遠藤 美紀子 村上 和代 楢本 和美 古賀 江利加 恒川 浩二郎 小澤 幸泰 加藤 秀樹 湯浅 典博
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.70-77, 2018-01-25 (Released:2018-01-27)
参考文献数
18

血液製剤の廃棄量を減少させることはその有効利用のために重要である。1998年から2015年までの当院における血液製剤廃棄量を減少させるための取り組みと,廃棄率,廃棄要因を検討し,最近の廃棄要因の特徴を明らかにした。廃棄率は18年間で0.24%から0.04%に減少した。職種別では,医師と検査技師が要因による廃棄量が減少していた。手順別では,近年,運搬と取扱い要因の廃棄量が増加していた。血液製剤廃棄量を減少させるために,輸血療法に関する正しい知識を輸血療法に携わる医療スタッフ全体で共有することが重要である。
著者
古後 晴基 村田 潤 東 登志夫
出版者
日本ヘルスプロモーション理学療法学会
雑誌
ヘルスプロモーション理学療法研究 (ISSN:21863741)
巻号頁・発行日
vol.4, no.4, pp.189-193, 2015-01-30 (Released:2015-03-04)
参考文献数
17
被引用文献数
3 4

[目的]本研究は,身体柔軟性と関節弛緩性において性差および関係性について検証した。[対象と方法]大学2年生の健常人42名(男性28名,女性14名)を対象とした。身体柔軟性および関節弛緩性スコアを評価した。身体柔軟性の評価は,指足尖間距離,指床間距離,膝床間距離,および中指-中指間距離の測定とした。[結果]身体柔軟性および関節弛緩性スコアの測定値を性別間で比較したところ,関節弛緩性スコアにおいて性差を認めた。身体柔軟性の測定値と関節弛緩性スコアとの関連を分析したところ,関節弛緩性スコアと有意な相関を示した身体柔軟性の測定項目はなかった。身体柔軟性の各測定項目間において,指足尖間距離と指床間距離に極めて強い相関関係が示され,指床間距離と膝床間距離に弱い相関関係が示された。[結語]女性は男性に比べ関節弛緩性が高いことが示唆された。本研究における身体柔軟性評価の指標と関節弛緩性評価の指標は関連がないことが示唆された。
著者
岡野 仁庸 古本 政博 大島 草太 竹中 秀樹 佐原 宏典
出版者
特定非営利活動法人 学習分析学会
雑誌
学習分析学 (ISSN:24366862)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-12, 2022-04-07 (Released:2022-11-09)

PBL型授業はチーム教育の手法として広く導入されているが、チームの迷走によって実施側も参加者も今ひとつPBLの効果を感じられないもので終わることがある。本学が提供する「研究プロジェクト演習(4)」の2年度間について、チームによるプロジェクト活動の活性化と評価を作業時間とその一定進捗からの乖離、及びチーム余裕の指標を以って分析した。その結果、前年度の最終報告書のレビューを行うことを導入することと報告会を複数回実施することによって、スムースなプロジェクト開始と作業時間の増加が見られた。また、チームの活性化を評価する指標としてジニ係数を導入し、初年度と第2年度のチームとチーム内メンバーの作業時間に適用した結果、いずれも初年度に比べて第2年度は一定進捗に近付き、チーム作業時間及びメンバー作業時間のばらつきが有意に縮小していることが分かった。本論文の手法によってチーム及びチーム内メンバーの活性化を評価することができ、顕著な活性化が見られないチームやチームメンバーを定量的に顕在化させ、テコ入れの必要性を判断することができる。
著者
古市 憲寿
出版者
北ヨーロッパ学会
雑誌
北ヨーロッパ研究 (ISSN:18802834)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.1-11, 2019 (Released:2020-07-01)

本稿の目的は、ノルウェーと日本の育児政策の変遷を概観することで、その背後にある両国の「男女平等」を理解することである。ノルウェーと日本は共に「母親」の役割を強調しながら、女性に対する権利拡充が進んできた国であった。そのため公的保育サービスの普及は遅れたものの、ノルウェーでは1960 年代の福祉国家拡大による労働力不足、日本では1990 年代の少子化に対する危機から、育児の社会化が意識された。共通するのは、労働力不足や少子化という、「男女平等」とは直接的には関係のない外在的な社会変化によって、公的保育サービスの必要性が認識されたという点である。しかし、市場や家族にとってすぐ保育園を整備することが合理的である労働力不足と違い、少子化という直ちに社会に大きな影響を与えない問題から育児政策を充実しようとした日本では、高齢化対応が優先され、未だに待機児童問題さえ解決の目処が立っていない。
著者
駒木 伸比古
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.2, pp.192-207, 2010-03-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
25
被引用文献数
5 6

本研究は,徳島都市圏における大型店の立地展開とその地域的影響が,出店規制に基づきどのように変化してきたかを明らかにした.徳島都市圏では,大店法の施行から現在に至るまで,大型店の出店に対する規制はそれほど厳しく行われてこなかった.そのため,大店法が強化された1980年代に,県外資本によって大型店の出店が進んだ.大型店の郊外化・大型化は,大店法が緩和された1990年代ではなく,大店立地法が施行された2000年以降に顕在化した.これらの結果は,大店法の施行期間において出店調整に対して行政の関与があったために独自規制や出店拒否が行われず,大店立地法の施行以降も新たな制度に基づく規制の実施に消極的であるという徳島都市圏における出店規制の実態から説明される.加えて,出店規制は,商業集積や消費者買物行動に対しても,間接的に影響を及ぼしてきたことが確認できた.