著者
小野 尚彦 山本 紀之 角南 明彦 山崎 靖人 三宅 秀和
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.95, no.2, pp.63-81, 1990 (Released:2007-02-20)
参考文献数
20
被引用文献数
9 10

新規非ステロイド性鎮痛,抗炎症薬mofezolacの鎮痛,抗炎症,解熱作用および消化管障害作用をindomethacin,ibuprofen,mefenamic acid,aspirinおよびaminopyrineの作用と比較検討した.mofezolacはマウスおよびラットphenylquinone writhing,マウスacetylcholine writhing反応を10mg/kg以下の低用量で抑制し,その作用はindomethacinより若干弱かったが,他の対照薬に比べ3~31倍の効力であった.このように,mofezolacは化学発痛物質によるwrithing反応に対しては比較的感受性が高かった.この傾向はphenylquinoneで誘発したマウス腹腔内色素漏出反応においても認められ,mofezolacはindomethacinより若干弱かったが,他の対照薬の6~24倍の効力であった.また,ラット炎症足の痛覚過敏反応(硝酸銀関節炎,Randall-Selitto法)に対するmofezolacの作用は,indomethacinよりは弱かったものの,他の対照薬の0.6~8倍であった.また,イヌの尿酸関節炎において,mofezolacはindomethacinと同程度の治療効果を示した.一方,mofezolacの抗炎症作用(ラットcarrageenin足浮腫,ラットcarrageenin肉芽嚢,ラットadjuvant関節炎)および解熱作用(ラットyeast発熱,ウサギLPS発熱)は,indomethacinよりも明らかに弱く,概してibuprofenと同等以下であった.さらに,副作用として危惧される消化管障害作用は軽微であった.mofezolacは,in vitroにおけるprostaglandin生合成およびsodium arachidonateあるいはcollagenで惹起したウサギ血小板凝集を,indomethacinと同程度に強力に抑制した.これらのことより,mofezolacは主としてcyclooxygenaseを阻害することにより薬効を発現するものと考えられる.また,mofezolacは経口投与後,速やかに吸収され,消失も比較的速いことが明らかにされている.以上から,mofezolacは急性炎症性疹痛の緩解に速効性の期待できる有用な鎮痛,抗炎症薬であるものと思われる.
著者
三田村 宗樹 中川 康一 升本 眞二 塩野 清治 吉川 周作 古山 勝彦 佐野 正人 橋本 定樹 領木 邦浩 北田 奈緒子 井上 直人 内山 高 小西 省吾 宮川 ちひろ 中村 正和 野口 和晃 Shrestha Suresh 谷 保孝 山口 貴行 山本 裕雄
出版者
Japan Association for Quaternary Research
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.179-188, 1996-07-31 (Released:2009-08-21)
参考文献数
19
被引用文献数
1

1995年兵庫県南部地震は,阪神地域に甚大な被害を生じさせた.阪神地域は都市化の進んだ場所で,人工的な地形改変が多くの場所で行われている.しかし,現在の地形図上では,その箇所が不明確であるため,過去の地形図との比較から人工改変地形の抽出を行ったうえで被害分布との関連を西宮・大阪地域について検討した.大阪地域では,基盤断層の落下側に被害が集中する傾向があり,基盤構造との関連性が存在することを指摘した.これについては,既存地下地質資料をもとにした地震波線トレースのシミュレーションの結果から,地震波のフォーカシング現象がかかわっているとみている.結論として,日本の大都市の立地する地盤環境は類似し,地震災害に関して堆積盆地内の厚い第四紀層での地震動増幅,伏在断層付近でのフォーカシング,盆地内の表面波の重複反射よる長時間震動継続,表層の人工地盤や緩い未固結層の液状化など共通した特性を有していることを指摘した.
著者
藪内 英子 山本 啓之 遠藤 卓郎 八木田 健司 守尾 輝彦
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.137-140, 1998-04-30 (Released:2010-07-21)
参考文献数
14

On 9 March 1996, a 57-year-old Japanese drunken male drown in a public bath in Tokyo. He was transferred to a emergency hospital and recovered. After his discharge on 11 March by walking, he became febrile at night. Next day, because of high fever and dyspnea, he came to the medical attention, and was immediately hospitalized under the diagnosis of acute pneumonia. Although bacteriological, serological examinations and chemotherapy for suspected Legionella pneumonia, definite diagnosis was not obtained and the patient died on 6 April. Culture of the autopsied lung tissue yielded colonies of Legionella pneumophila serogroup (SG) 6, and reexamined serum antibody titer against. L. pneumophila serogroup 6 was 1: 1024 by microplate agglutination test.Examinations for legionellae and their host amobae in the water of 22 bath tubs of 6 public bath facilities located in the area including the facility concerned were carried out on 22 April without notification in advance. Free residual chlorine concentrations of the 22 bath water were from 0.1 to more than 5 mg/L, and water from 2 bath tubs (0.1%) of low chlorine level were legionellae-positive. Host amoebae for legionellae were detected from 10 bath tubs of 5 facilities.Though Naegleria was detected, the bath water where the patient drowned was negative for viable legionellae by repeated trials of culture, 3 times intraperitonal passages of guinea pigs, and coculture with amoebae. The 16S rRNA gene specific for legionellae was detected from the bath water by nested PCR method using primers, 225A-854B and 448A-854B. After filtration of 10 ml bath water, the membrane filter was stained by indirect fluorescent antibody (IFA) method. Rodshaped organisms trapped on the membrane filter were IFA-positive against L. pneumophila SG 6, same with the isolates from lug tissue, and their presumptive number in bath water was estimated as 102-103/ml. Based on the results of nested PCR and IFA staining of rod-shaped bacteria trapped on the membrane filter, the bath water was regarded as contained with viable legionellae due to unknown reason and could be the source of infection when the patient was drowned.
著者
山本 泰
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.262-281,363*, 1993-12-30
被引用文献数
1

一九九二年四月のロサンゼルス事件は、現代アメリカのマイノリティ問題の深刻さを改めて浮き彫りにした.この事件が黒人青年を暴行した警察官に対する無罪判決に端を発している以上、これは差別に対するマイノリティの大衆的抗議である.しかし、その背景についていえば、この事件は、 (1) 現代のマイノリティ問題の焦点は人種 (黒人) 問題ではなく、大規模な《都市アンダークラス》の問題であること、 (2) 都市貧困層=黒人ではもはやなく、そこには、きわめて多様な人種・民族が含まれること、 (3) 都市最下層の貧困は、六〇年代の公民権運動以来、少しも改善されていないこと、を劇的な形で示したのである.このような複合的な抑圧・葛藤関係はどのような構造のなかで、いかにして生み出されるのか、本論では、人種や民族に中立であるはずの自由主義的多元主義体制のもとにある現代のアメリカに、何故、人種や民族間の葛藤・反目がかくも顕在的にあらわれるのかを考察する.人種や民族の線に沿った集団形成やエスニシティの主張は下層の人々が上位者の資源独占に対抗する社会戦略であるが、この戦略は逆に、ルール指向・個人主義・手段主義といった基準になじまないが故に、中産階級が下層に対しておこなう差別に識別標識と正当化根拠を与えてしまうことになる.階層間葛藤は、自由主義的多元主義体制を仲立ちに人種間葛藤へと転態されるのである.
著者
山本 幸 柿本 竜治 山田 文彦
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.45.3, pp.553-558, 2010-10-25 (Released:2017-01-01)
参考文献数
11
被引用文献数
1

本研究の目的は、筆者ら提案する災害リスクマネジメントのフレームの汎用性を検証することにある。山都町菅地区での山間地域の防災力向上への取り組みにPDCAサイクルに基づく災害リスクマネジメントのフレームを適用することで、8回に亘る継続的なWSと2回の避難訓練の運営を効率的に行うことが出来た。また、PDCAサイクルを巡回させることで、防災学習の取り組み内容を地域全体の防災から災害時要援護者の支援へとスムーズに発展させることが出来た。WSを通して、地域の災害リスクの認知、世帯カルテの整備、災害時要援護者の確認、地域のソーシャル・ネットワークの確認が行われ、災害時に地域や行政が特に配慮しておくべき世帯等が絞られた。避難訓練を通して、地域の防災連絡体制の強化と集落間の協力関係の強化が図られ、避難時間が40分短縮されるなどの効果が見られた。また、WSでの議論により、地域ニーズと地域特性に応じた雨量観測システムと安否確認システムが構築され、実装された。最後に、本取り組みを通じて、地域防災学習のWSを継続していくにあたっての留意点を明らかにした。
著者
川端 良子 片山 幸士 長井 正博 山本 政儀 山田 祐彰 五味 高志
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

中央アジア・ウズベキスタン共和国内のヌクスを中心としたアムダリア流域にて,大規模灌漑農業による環境汚染と生態系への影響について以下の調査を行った. 1)飲料水である地下水の調査を行った. 2)潅漑用水,潅漑排水,および河川水を採取し,灌漑農業による河川水への影響を調査した. 3)ヌクス近郊の農村で,人体への影響に関しての聞き取り調査を行った. 4)河川水と地下水を毎月試料採取し,月変動を調査したその結果、地下水の元素濃度の方が、河川水より高い濃度であった。さらに、冬場に、特に、地下水の硝酸イオン濃度が高くなっていることが明らかとなった。また、ヌクスの郊外の農村で,縞状の歯を持つ子供たちが多くみられ過去に何らかのエナメル質を溶かすような有毒な物質が,井戸水に含まれていた可能性が高いことがわかった.そこで,月変動を明らかにすることと,一時的な汚染であれば,どのような時期に汚染されているかを調べるために,毎月この村で地下水の試料を採取することにした.その結果、地下水の元素濃度の方が、河川水より高い濃度であった。さらに、冬場に、特に、地下水の硝酸イオン濃度が高くなっていることが明らかとなったしかし、濃度変化は、年度によって差があり、さらに詳しく調べる必要があることが明らかとなった
著者
松原 康策 仁紙 宏之 岩田 あや 内田 佳子 山本 剛 常 彬 和田 昭仁
出版者
The Japanese Association for Infectious Diseases
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.86, no.1, pp.7-12, 2012
被引用文献数
2

わが国の小児期侵襲性肺炎球菌感染症 (invasive pneumococcal disease,IPD) の季節変動とそれに関連する因子を明らかにするために,地域中核病院小児科で IPD 患者を後方視的に検討した.対象は,1994 年7 月から2011 年 6 月までの 17 年間に西神戸医療センター小児科で IPD と診断された 15 歳以下の 72 例 (2回の反復例を3 例に認め,患者数は 69 症例) である.疾患内訳は occult bacteremia 48 例,肺炎10 例,髄膜炎10 例,眼周囲蜂窩織炎3 例,乳突洞炎1 例であった.IPD の関連因子として,1) 月齢,2) 同胞数,3) 未就学の同胞数,4) IPD 発症時の本人の保育園・幼稚園の通園の有無,5) 未就学の同胞がいる場合にその同胞の通園の有無の 5 因子を,カルテ記載または電話問診で調査した.季節変動の結果は,4~5 月 (n=21) と 11~12 月 (n=20) の二峰性のピークを形成し 7~9 月 (n=8) の夏季に最も少なかった.4~5 月の 21 例はその他の月に発症した 51 例と比較して,本人の通園している割合 (4~5 月群vs その他の月に発症群,12/21[57.1%]vs 12/51[23.5%];odds ratio,4.3;95% confidence interval,1.5~12.8;p=0.006) においても,また,本人,かつ/または,同胞が通園している割合 (17/21[80.9%]vs 27/51[52.9%];odds ratio,3.8;95% confidence interval,1.1~12.8;p=0.027) においても有意に高かった.しかし,発症月齢 (中央値:14 カ月 vs 15 カ月),同胞数 (0 人[9 例],1 人[11 例],2 人[1 例]vs 0 人[21 例],1 人[27 例],2 人[2 例]),未就学同胞数は 2 群間に相違を認めなかった.一方,11~12 月の第 2 峰群とその他の月群においては上記 5 因子に有意な相違を認めなかった.<BR> 以上から,わが国の小児期 IPD は二峰性の季節変動を示し,4~5 月のピークは通園者が有意に多いことが判明した.4 月からの集団保育への参加が肺炎球菌の保菌率の上昇をもたらし,4~5 月の小児期 IPD のピークを形成する重要な要因のひとつと推測された.
著者
山本 良三
出版者
The Society of Agricultural Meteorology of Japan
雑誌
農業気象 (ISSN:00218588)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.177-187, 1979-12-25 (Released:2010-02-25)
参考文献数
3
被引用文献数
3 6
著者
山本 雅司 山田 薫 平田 直也 河田 陽一 平山 暁秀 柏井 浩希 百瀬 均 塩見 努 末盛 毅 夏目 修 平尾 佳彦
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.88, no.12, pp.1005-1012, 1997-12-20
参考文献数
22
被引用文献数
1

(背景) 二分脊椎における生命予後を左右する種々の合併症に対する治療法の進歩に伴い, 患者のQOLも向上し, 思春期や成人した女性症例より結婚および妊娠・分娩についての相談を受ける機会が多くなってきた. 本論文では, 妊娠・分娩を経験した二分脊椎症例について報告する.<br>(方法) 当院にて経過観察中に二分脊椎症例のうち妊娠・分娩を経験した5例を対象とした. 初回妊娠時の平均年齢は27.6歳 (26~32歳) であり, 5例においてのべ6回の分娩を経験した. 妊娠前に4例が泌尿器科にて手術を受けており, うち1例は膀胱拡大術が施行されていた. これらの症例につき, 妊娠中の尿路の形態的変化, 尿路感染, 腎機能, 産科的経過および合併症などについて検討した.<br>(結果) 妊娠中に上部尿路の悪化が3回の妊娠において見られたが, 分娩後は妊娠前の状態に回復した. 血清BUN値およびCr値は4例において妊娠経過中安定していたが, 6回の妊娠のうち3回に腎盂腎炎の合併がみられた. 分娩様式は経膣分娩が4回, 帝王切開が2回であった. 産科的合併症は早産, 微弱陣痛, 児頭骨盤不均衡が各2例および羊水過多1例であった. 出生児は平均在胎日数38w2d, 平均出生体重2784gであり, 全例健常児であった.<br>(結語) 二分脊椎症例においても, 予測される合併症を念頭に入れた泌尿器科的および産科的管理を行うことにより, 安全に妊娠・分娩が可能であると考えられた.
著者
松本 麻友子 速水 敏彦 山本 将士
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.87-90, 2013-07-30 (Released:2013-08-28)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

This study investigated what influences assumed competence in high school students. In Study 1, the association between assumed competence and interpersonal relationships was examined. The results showed that good relationships with school teachers reduced assumed competence. In Study 2, a semi-structured interview of class teachers was conducted about their relationships with the students. The results suggested that teachers' deep understanding of each student in the class was an important factor for the decline of the students' assumed competence.

1 0 0 0 OA 日本外志

著者
山本北山 編
出版者
巻号頁・発行日
vol.巻14-15,
著者
神谷 有希 松野 俊一 田中 史朗 高橋 治海 山本 悟
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第55回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.148, 2006 (Released:2006-11-06)

<はじめに> 非浸潤性乳管癌(以下DCIS)の発見契機は、MMGでの微細石灰化や腫瘤・乳頭異常分泌である。MMG上では石灰化で検出されることが多いというのは知られているが、腫瘤・非対称性陰影・構築の乱れなどでも描出される。 今回は、非触知・US上所見なし・MMG上微小石灰化で発見されたDCISの症例を報告する。<対象> 女性 39歳<経過>2003年10月左乳頭異常分泌により当院受診 MMG・USとも異常なし 1年後のfollow up 2004年12月左MMGに集簇性、円形の微小石灰化 カテゴリー3 USは異常なし 6ヵ月後のfollow up 2005年6月左MMGに集簇性微小石灰化 前回より変化なし 6ヵ月後のfollow up 2005年10月前回の微小石灰化が一部線状 カテゴリー4 ステレオガイド下マンモトーム生検を実施<結果>生検の結果DCISであった。 触診では触れず、US上石灰化の場所が特定できず、ステレオガイド下においてフックーワイヤーを留置し、Bq+Axを行い、断端(-)であった。<考察> 乳癌は乳管上皮層から発生するため、ある時期には乳管の中に留まっており、その時期の癌は非浸潤癌である。この時期はまちまちであり、人により異なる。この非浸潤癌は癌細胞が乳管の中だけで増殖し、乳管内を進展するためリンパ節転移や遠隔転移をきたすことのない癌である。そのため、早期の発見が大切である。 集簇性の微小石灰化は乳がんを疑うものであるが、ごく狭い範囲に微小石灰化がある場合は良悪性の判断は困難である。 今回はfollow upしていたところ一部線状の石灰化が発生したため、マンモトーム生険を施行し、確定診断を行った。石灰化の位置がUS上で特定されなかった為、ステレオガイド下においてフックーワイヤーを留置し、手術を施行した。このように、エコー下にて病変部位が特定できず石灰化がある場合においての生険およびフックーワイヤー留置はステレオガイド下のマンモトームが大変有用である。
著者
沖 大樹 山本 祥輝 奥村 宏征
出版者
三重県科学技術振興センター水産研究部
雑誌
三重県科学技術振興センター水産研究部研究報告 (ISSN:13469320)
巻号頁・発行日
no.11, pp.15-21, 2004-09
被引用文献数
1

平成13年6月から平成14年2月にかけて熊野灘北部沿岸で増加傾向にあるガンガゼについて生物学的知見を収集するとともに試食による評価を行い、食材としての可能性を検討した。また、鹿児島県におけるガンガゼ流通の現状を把握し、三重県における本種の利用の可能性ついても考察を試みた。1.贄浦地先に生息する個体群と宿浦地区の個体群の平均殻長はそれぞれ46.3mm、54.3mmで、贄浦産が平均殻長で8mm大きかった。2.生殖腺熟度指数の月変化より産卵期は、両地区とも7-8月に盛期を迎えると推察された。3.食材として利用可能と判断された7g以上の生殖腺を持つ個体の月別の殻長サイズ別出現率から、殻長が50mm以上の個体は両地区とも利用可能と考えられ、同殻長サイズにおける利用可能な期間は宿浦に比べ贄浦が長かった。4.試食の結果、熊野灘北部沿岸に生息するガンガゼは食用ウニ類に比べ生殖腺の色彩、味覚は劣るが、食材としての可能性はあると評価された。5.鹿児島市内でガンガゼが流通するウニ類の35%と多くを占めた要因として、他の県内産食用ウニ類の水揚量が少ないことに加え、我が国におけるウニ類の主要産地と距離的に隔たりがあったことが考えられた。以上の結果より、三重県熊野灘北部沿岸に生息するガンガゼについては地域差があるものの食材として利用の可能性があると考えられた。また、三重県におけるウニ類の流通事情は鹿児島県とほぼ同様であると考えられることから、県内においてもガンガゼを市場流通させる可能性はあると推察された。