著者
岸本 嘉彦 安福 勝
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会環境系論文集 (ISSN:13480685)
巻号頁・発行日
vol.84, no.758, pp.397-405, 2019 (Released:2019-04-30)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

In order to establish a more adequate prediction method for the indoor thermal environment and the air-conditioning load, it is essential that the calculation condition has good agreement with the actual situation. Although there is a high possibility that the actual usage of cooling and heating equipment of residential houses in Hokkaido is different from that in other districts, the unified conditions are being used for the prediction currently. Moreover, the air-conditioner for cold district is developed and is becoming popular in recent years. However, the actual usage of the air-conditioner in Hokkaido has not clarified yet. Therefore, the aim of this study is to estimate the actual usage of the air-conditioner in Hokkaido based on the results of the web questionnaire. The results are as follows. Among the air-conditioner households in Hokkaido, the rate of the households that the air-conditioner is used in summer reached to 80% over. However, the one in intermediate seasons becomes 40%, and the one in winter becomes 20%. It is found that the main reason of setting the air-conditioner is to use for cooling in summer. And the dehumidification mode is used through a whole year. This may be related with the custom that laundries are dried at indoor in Hokkaido. The rate of the households that the air-conditioner is used for heating in winter is about 20%, it can be said that the rate of utilization as a heating equipment is not high. However, the air-conditioner has advantage of more convenience than other heating equipment, such as instantaneous heating at morning in intermediate seasons and using with timer at bedtime in winter. More than half of the air-conditioner households had never considered that the air-conditioner is used for heating. And, 40% of the air-conditioner households have the negative image without the actual using of the air-conditioner for heating. These become the retards for using of the air-conditioner for heating. At more than 90% of the air-conditioner households, the setting temperature is more than the general temperature for the prediction in all season. It is found that that the indoor temperature has been kept about 24 degree C year-round. Because there are few customs that the feeling temperature is controlled by amount of clothing in Hokkaido, the indoor temperature is controlled constantly in the comfortable range without large changing of the amount of clothing.
著者
岸本 秀樹
出版者
The Linguistic Society of Japan
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.153, pp.5-39, 2018 (Released:2018-12-29)
参考文献数
64
被引用文献数
2

本稿では,文の否定辞のスコープの拡がり方を観察することにより,日本語において,主要部移動と名詞句移動の存在を確認することができることを論じる。日本語の否定辞は主要部移動を起こす要素で,移動が起こるかどうかによって,そのスコープの拡がり方が異なる。否定のスコープ内でのみ認可される否定極性表現の振る舞いから,日本語では,形容詞から脱範疇化により文法要素となった否定辞は主要部移動を起こし,形容詞の範疇的性質を残す否定辞は移動を起こさないこと,および,日本語の主語は,時制辞が主格の項を認可する場合に,文の主語位置への移動を起こすことを示す。また,「なる」に節が埋め込まれた複文では,主語の移動が起こった場合に,主節の主語位置に移動する構文と主語が埋め込み節内でのみ移動する構文があることも示す。
著者
大隅 秀晃 江尻 宏泰 藤原 守 岸本 忠史
出版者
大阪大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

山脈の宇宙線トモグラフィーを得ることに成功すれば、掘削不可能な広い範囲の地質や地層に対する新しい情報(エネルギー損失係数の3次元分布dE/dX(p,A,Z)-つまり地層の密度と構成粒子の原子番号等の関数)が得られ、地質や地層の研究に応用できる。この方法を推し進めれば、宇宙線地学という新しい研究分野開拓の契機となる。この研究をめざして、紀伊半島中部にある山岳トンネル(大塔天辻トンネル、地下約470m(最大)、長さ約5km)内から、そのトンネルを覆う山脈の宇宙線(μ粒子)トモグラフィー(山脈の断層写真)を得るために以下の検出器開発と実験研究をおこなった。1.宇宙線(μ粒子)の方向・強度を測定するためプラスチックシンチレーターホドスコープ(1m×1m)、データ取り込み回路の開発をおこなった。開発したプラスチックホドスコープは、位置分解能と検出効率とコストパフォーマンスを考慮した設計で、シンチレータとウエーブレングスシフタ-を組み合わせて少ない光電子増倍管で、大面積を覆う設計となっている。2.大塔天辻トンネルの地層に対する資料調査を行なった。建設時に地質調査が詳しくなされていることが判明し、地質、地質の境界、断層、破砕帯、風化帯等の資料が得られた。また各地点の弾性波速度の詳細な資料も得られた。したがって本研究で測定できるエネルギー損失係数の3次元分布との詳細な対比が可能となった。3.プラスチックシンチレーターホドスコープの地上(大阪大学理学部)でのデータ取り込みテストを行ない、設計で目標とした、予定通りの性能が得られた。また地上での宇宙線の3次元強度分布の測定を行ない、今まで発表されている、地上での宇宙線強度と矛盾のないことを確かめた。4.大塔天辻トンネルに持ち込み各点での宇宙線の強度および方向の精密測定については、その予備テストを行なったが、核物理センターの大塔コスモ実験室の建設のため、トンネル内への立ち入りが制限されたため、本格的な三次元分布の測定は次年度にひきつづき行なう予定になっている。
著者
山内 健生 岸本 年郎 角坂 照貴 杉浦 真治 岡部 貴美子 藤田 博己
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集 第60回日本衛生動物学会大会
巻号頁・発行日
pp.39, 2008 (Released:2008-07-01)

東京都の小笠原諸島は特異な生物相を有する海洋島で,コウモリ類を除く陸生哺乳類は本来分布していなかった.しかし,19世紀以降,様々な陸生哺乳類が同諸島へ持ち込まれ,現在では,こうした哺乳類が外来種問題を引き起こしている.これまで同諸島のマダニ相に関する知見は皆無であったため,われわれは2007年4~10月に同諸島父島列島の弟島(5.2 km2)と父島(23.8km2)においてマダニ相調査を実施した. 弟島では,外来生物対策として駆除されたノヤギとノブタの体表を調査して寄生個体を採集したほか,フランネルを用いて植生上から未寄生個体を採集した.父島では,外来生物対策として駆除されたクマネズミの体表を調査して寄生個体を採集した. 採集されたマダニ類は,Boophilus microplus(弟島),Haemaphysalis flava(弟島),Haemaphysalis hystricis(弟島),Ixodes granulatus(弟島,父島)の3属4種であった.なお,採集法別の内訳は以下のとおりであった. 植生上:H. flava(NL),H. hystricis(NL),I. granulatus(L) ノヤギより:B. microplus(♂♀),H. flava(N),H. hystricis(♂♀N) ノブタより:H. hystricis(♂♀) クマネズミより:I. granulatus(♀) (L:幼虫,N:若虫)
著者
岸本 直文
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

急速に進歩する測量技術により、従来の測量図よりもはるかに精度高く墳丘の形状を把握できるようになっている。倭国王墓の変遷については、測量図による従来の比較作業から推移が見通され、また研究代表者は2系列があることや、さらに第3の系列の存在を指摘している。しかし倭国王墓の築造には、本来、個々に具体の割り付け設計があり、また数字による寸法が与えられたはずであり、精度の高い墳丘データがえられるようになったことで、設計仕様レベルでの比較検討が可能となっている。本研究は、最新データにもとづき前方後円墳の設計の実際を解明すること、また複数系列の存在を証明することで当時の王権構造に迫ることをめざすものである。
著者
岸本 隆生
出版者
関西学院大学
雑誌
日本文藝研究 (ISSN:02869136)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.60-70, 1984-06
著者
岸本 大輝 杉浦 巧 山田 悠司 栗原 聡
雑誌
研究報告知能システム(ICS) (ISSN:2188885X)
巻号頁・発行日
vol.2023-ICS-210, no.11, pp.1-7, 2023-03-03

コミュニケーションがオンライン中心となるリモートワーク環境では,意思疎通を通じたストレスの把握が行いにくい.そのため,業務を継続しながら実施できるリモートワーカーのストレス検知が重要となる.今回,この問題へのアプローチとして PC 操作ログ分析と表情分析に着目した.本研究では,リモートワークにおける PC 操作特徴量・表情分析による感情推定値とストレスの関係を明らかにすることを目的としている.まず,心拍センサ・PC 操作ログ取得プログラム・Web カメラからデータを取得して加工・統合の処理を行う環境を構築した.PC 操作ログに関しては,キーボード,マウス,ウインドウの操作ログを取得する.PC 上で行うタスクを設定した上で,疑似的にオフィスワーク及びリモートワークを実施し,データの取得を行った.実験で得られたデータの分析結果として,左クリックの回数や嫌気,悲しみの感情推定値がストレスの変化に関係していることが示唆されたが,どれも弱い相関であった.しかし,業務に慣れるまではリモートワークではなくオフィスワークを実施することでストレスが軽減するという,リモートワークを実施する上で重要となりうる知見が示唆された.
著者
赤木 盛久 田中 信治 吉原 正治 山中 秀彦 田利 晶 春間 賢 隅井 浩治 岸本 眞也 梶山 梧朗 竹末 芳生 横山 隆
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.46, no.6, pp.787-792, 1993 (Released:2009-06-05)
参考文献数
25
被引用文献数
2 2

比較的高齢で発症した親子の潰瘍性大腸炎を経験したので文献的考察を加え報告する.息子は39歳で発症,全大腸炎型の重症で薬物療法が無効のため全結腸切除を施行した.父は69歳で発症,左側結腸炎型の中等症で薬物療法により軽快した.HLA抗原の検索では本邦の潰瘍性大腸炎患者と相関の認められるhaplotype A24,B52,DR2,DQ6(1)をともに有しており,本症の発症に免疫遺伝的因子が関与していることが示唆された.またこれまでの家族内発症の平均年齢は30歳前後とされていることより,本例は稀な症例と考えられた.
著者
岸本 美紀 武藤 久枝 岡崎女子大学 中部大学
雑誌
岡崎女子大学・岡崎女子短期大学 研究紀要 (ISSN:21882770)
巻号頁・発行日
no.52, pp.39-46, 2019-03-15

本研究は、保育者が保護者支援で抱える困難感の内容と構造について、保護者支援の難しさや大変さに関する先行研究の記述を抽出し、分析を行った。記述をカテゴリー化した結果、最終的に「保護者自身に起因する困難感」、「保育者自身に起因する困難感」そして保育者と保護者の「関係性に起因する困難感」の3 つのカテゴリーに分類された。また、困難感の内容については、「保護者自身に起因する困難感」に関するものが最も多く、保護者の養育態度や特徴から困難感が生じると捉えている保育者が多いことがうかがえた。今後の課題として、保護者の言動や特徴を捉えた支援の仕方について検討し、保育者に示していく必要性が考えられる。
著者
岸本 映子
出版者
小学校英語教育学会
雑誌
小学校英語教育学会誌 (ISSN:13489275)
巻号頁・発行日
vol.15, no.01, pp.125-140, 2015-03-20 (Released:2018-08-02)
参考文献数
12

本研究は、英語の冠詞と「文法的な数」(以後<数>と表記する)の指導の枠組みを認知言語学の視点から体系的に提示し、さらにその動画教材の作成を目的とする。その有効性は小学校の実践授業で検証する。 冠詞や<数>は日本語話者の学習者にとっては、学習の困難点の一つとして指摘されている。理論的には認知心理学や脳科学や第2言語習得理論など学際的な先行研究の知見を活用して枠組みを構築する。学習者が中学生以上の場合、可算性は対象物の構成要素と境界を軸とした7段階のイメージ・スキーマを設けて(岸本2014)指導するが、学習者が小学生の場合、それを4段階に限定した動画教材を作成する。冠詞は不定冠詞とゼロ冠詞に焦点化し、定冠詞は本研究では扱わない。学習者が日本語話者の場合、対象物のカテゴリー分類の練習を、冠詞と可算性を軸とした4種類の指導順序で提示した。小学校で使われている教材のHi, friends!より語彙(名詞)を分析し、動画にする語彙を選定した。それぞれの名詞ごとに20~30秒程度の動画 を作成した。Hi, friends!(1)でも可算名詞の不可算化のような意味の拡張が出現していることを指摘し、意味拡張の指導の必要性を示した。また日本語との比較を通して、英語とのずれに気づかせ、日本語に対しても客観的に振り返る要素を指導に取り込んだ。動画を通して、人間が対象を捉える概念(対象を認識するイメージ)を可視化し、体系的にわかるように工夫した。小学校の実践授業を通して一定の成果が得られた。
著者
岸本 健 浜野 雅夫 石田 隆
出版者
国士舘大学理工学部
雑誌
国士舘大学理工学部紀要 = TRANSACTIONS OF THE KOKUSHIKAN UNIVERSITY SCHOOL OF SCIENCE AND ENGINEERING (ISSN:18824013)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.3-10, 2017-11-30

This paper reports about the cooling of paraffin in horizontal cylindrical container. In this cooling process, the temperature change of paraffin in liquid and solid had made an interesting behaviors. We have analyzed this phenomenon using super-cooling and freezing point depression and explained reasonably and simulated successfully.
著者
岸本 俊祐
出版者
National Institute of Technology, Tsuyama College
雑誌
津山工業高等専門学校紀要 = Bulletin of Tsuyama National College of Technology (ISSN:02877066)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.43-48, 1992-10-30

パソコン通信等で、自由に手に入れることのできる“フリーソフトウェア”という形態のソフトウェアを用いて、パソコン実習の導入部分を教育するためのソフトウェアシステムを構築した。タイピングの練習、日本語を 含むテキスト処理の実習、簡単なファイルやディレクトリ操作の実習等が行える。このシステムを用いて、本校の情報工学科と電気工学科の1年生に導入実習を実施した。まだ、実習途中の中間段階ながらかなりの成果が見られ、ほとんど無償のフリーソフトウェアを中心にまとめたシステムでも、教材として有効であり十分実用になることがわかった。
著者
岸本 俊祐
出版者
National Institute of Technology, Tsuyama College
雑誌
津山工業高等専門学校紀要 = Bulletin of Tsuyama National College of Technology (ISSN:02877066)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.59-64, 1993-10-30

A software system to study C-programming was assembled for beginners. It consists of several Free-Softwares that are a screen text editor, a full set of C-compiler, an object file linker and some utility programs. The compiler system conforms to the new standard, known as ANCI C. The dos-shell is modified functionally for the users to operate this system easily. To help the users operation in the training, this system provides many online manuals and an online help file which can be read directly on the CRT display. This system is also useful for developing applications in the C programming language.
著者
岸本 暢将 駒形 嘉紀 要 伸也
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.110, no.10, pp.2173-2180, 2021-10-10 (Released:2022-10-10)
参考文献数
5

近年,分子標的治療薬を含む薬物療法の進歩により,乾癬性関節炎(psoriatic arthritis:PsA)や体軸性脊椎関節炎[代表疾患:強直性脊椎炎(ankylosing spondylitis:AS)]に代表される脊椎関節炎患者の予後は大きく改善している.それに伴い,早期診断を目的に分類基準が整備された.また,2020年以降,本邦においてもIL(interleukin)-17阻害薬のX線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎(non-radiographic axial spondyloarthritis:nr-axSpA)への適応追加,新規IL-23阻害薬や経口分子標的治療薬であるJAK(Janus kinase)阻害薬もPsAの治療薬として登場し,関節リウマチより多くの分子標的治療薬が承認されている.本邦や欧米の治療推奨やガイドラインを熟知し日常診療の治療選択の一助としていただきたい.
著者
和田 健志郎 岩元 悠輔 中山 龍一 柿崎 隆一郎 文屋 尚史 片山 洋一 岸本 万寿実 成松 英智
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, pp.580-584, 2022-11-01 (Released:2022-11-01)
参考文献数
10

症例は58歳,男性。新型コロナウイルス感染症とARDSに対して人工呼吸,veno venous extracorporeal membrane oxygenation(VV-ECMO)管理となった。酸素化の改善が得られたものの,低コンプライアンスが改善せず,カテーテル関連血流感染の治療に難渋したため,来院第98病日に通常のVV-ECMOから透析用カテーテルと遠心ポンプを用いたextracorporeal CO2 removal(ECCO2R)に移行した。分時換気量の低下,食道内圧の変動の低下から,ECCO2Rによる二酸化炭素除去は呼吸努力を軽減し,肺保護換気戦略を可能にしたと考えられた。ECCO2Rは二酸化炭素の除去のみを目的とした体外循環であるが,本邦には専用のデバイスが存在しない。本症例では透析用カテーテルと遠心ポンプを併用した方法で安全に施行できた。また,ECCO2Rの適応は定まっていないが,長期ECMO後の離脱困難症例に対して有効な可能性がある。
著者
岸本 直文
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.185, pp.369-403, 2014-02-28

1990年代の三角縁神獣鏡研究の飛躍により,箸墓古墳の年代が3世紀中頃に特定され,〈魏志倭人伝〉に見られる倭国と,倭王権とが直結し,連続的発展として理解できるようになった。卑弥呼が倭国王であった3世紀前半には,瀬戸内で結ばれる地域で前方後円形の墳墓の共有と画文帯神獣鏡の分配が始まっており,これが〈魏志倭人伝〉の倭国とみなしうるからである。3世紀初頭と推定される倭国王の共立による倭王権の樹立こそが,弥生時代の地域圏を越える倭国の出発点であり時代の転換点である。古墳時代を「倭における国家形成の時代」として定義し,3世紀前半を早期として古墳時代に編入する。今日の課題は,倭国の主導勢力となる弥生後期のヤマト国の実態,倭国乱を経てヤマト国が倭国の盟主となる理由の解明にある。一方で,弥生後期の畿内における鉄器の寡少さと大型墳墓の未発達から,倭王権は畿内ヤマト国の延長にはなく,東部瀬戸内勢力により樹立されたとの見方もあり,倭国の形成主体に関する見解の隔たりが大きい。こうした弥生時代から古墳時代への転換についても,¹⁴C年代データは新たな枠組みを提示しつつある。箸墓古墳が3世紀中頃であることは¹⁴C年代により追認されるが,それ以前の庄内式の年代が2世紀にさかのぼることが重要である。これにより,纒向遺跡の形成は倭国形成以前にさかのぼり,ヤマト国の自律的な本拠建設とみなしうる。本稿では,上記のように古墳時代を定義するとともに,そこに至る弥生時代後期のヤマト国の形成過程,纒向遺跡の新たな理解,楯築墓と纒向石塚古墳の比較を含む前方後円墳の成立問題など,新たな年代観をもとづき,現時点における倭国成立に至る一定の見取り図を描く。