著者
岸本 千佳司 Chikashi Kishimoto
雑誌
AGI Working Paper Series
巻号頁・発行日
vol.2014-05, pp.1-62, 2014-03

本研究の目的は,半導体産業における分業化・専業化およびオープン化・標準化へというビジネストレンドの中で,台湾企業が如何に台頭したかを,日本企業の凋落と対比させながら解明することである。結論を簡単に言えば,「設計と製造の分業」および設計における「モジュール型手法」の普及のトレンドに,台湾企業は,後発組であり(当初は)技術力が限られていたために,かえってスムーズに適応できたと考えられる。無論単なる僥倖ではなく,こうしたトレンドの兆しを見極め,ファブレス(設計専門企業)とファウンドリ(ウェハプロセス受託製造企業)の垂直分業という新たなビジネスモデルの推進役を戦略的に担ったのであり,1つのイノベーションである。自身の弱みを自覚し,オープンネットワーク活用と関連アクターとの連携でそれを補い,これが産業の技術的潮流とマッチして,徐々に先発組の先進国企業に追いつき追い越していったのである。他方,日本企業は,分業化とオープン化という大きな趨勢の中で,かつての成功体験に執着したためか,垂直統合と総花主義,自前主義とカスタム化体質から抜け出せなかった。またコストを含めた全体最適化を軽視し,ひたすら高性能・高品質を追い求める盲目的な「匠の呪縛」に捕われ,ズルズルと衰退していったと言える。このことを示すために,本研究では,先ず,世界の半導体産業の発展経緯,および基本的な技術潮流とビジネスモデルの変容について解説する。それを踏まえ,台湾半導体産業の垂直分業体制(とりわけファブレス-ファウンドリ分業モデル)の実際の構造と運営について詳述する。即ち,分業モデルの一方の主役であるファウンダリ(うち代表的企業であるTSMC)に注目し,プラットフォーム・ビジネス(顧客IC設計企業等へ設計支援を含めた包括的サービスを提供するプラットフォームを構築し,分業であるにもかかわらず緊密なパートナーシップと効率的な調整を実現する仕組み)とそれを支える技術的・組織的背景について検討する。次に,分業のもう一方の主役であるIC設計企業(ファブレス)の競争戦略についても注目する。台湾企業がモジュール型設計手法に順応し,標準品志向,ソリューション・ビジネス,選択と集中,海外・中国拠点の活用といった特徴を有していることを明らかにする。さらに,随所に日本半導体企業との比較を織り込み,上述のような技術潮流と産業構造の変化に,何故台湾は順応でき,何故先発組であった日本企業がかえって不適応であったのか,具体的に探っていく。
著者
鶴卷 俊江 丸山 剛 前島 のり子 岸本 圭司 清水 朋枝 石川 公久 江口 清 落合 直之 井原 哲 鮎澤 聡
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.E4P3208-E4P3208, 2010

【目的】近年重度痙縮に対し、中枢性筋弛緩薬であるバクロフェンを脊髄腔内に持続投与する髄腔内バクロフェン投与(ITB)療法が行われている。当院においても脊髄障害や脳卒中患者、脳性麻痺に対し行われている。今回、重度身体障害者に対し介護負担軽減を目的にセラピストが医師と連携し、ITB療法導入を検討する機会を得た。ここに、ITB療法が介護負担に及ぼす影響について若干の考察を得たので報告する。<BR>【方法】ITB療法開始前後で、以下の3項目について評価、検討した。1.四肢筋緊張の程度をAshworth Scaleを用いた。 2.カナダ作業遂行測定(COPM)の10段階評価を利用し、日常生活動作の中で介護者にとって重要度が高い10項目について遂行度と満足度を聴取した。3.介護負担度の尺度としてZarit介護負担度尺度日本語版(J-ZBI)を用いた。対象は、当部で理学療法を受けている2名の患者である。症例1は四つ子の第四子として在胎26週720gで出生した22歳男性。身長152.0cm、体重50.0kg。成長と共に側彎の進行および四肢筋緊張亢進したが、18歳時に顕著な増悪を認めた。ADLはほぼ全介助の状態だが、コミュニケーション能力は良好。主介護者は両親、副介護者は兄である。平成21年7月8日バクロフェン髄腔内持続注入用ポンプ植込み術実施。症例2は生後7ヶ月につかまり立ち時に転倒。急性硬膜下血腫、脳挫傷受傷。術後に低酸素脳症および難治性てんかん合併。その後転居に伴い当院でフォローされている13歳男児。身長131.0cm、体重25.7kg。平成18年頃より側彎の進行および四肢筋緊張亢進の急激な変化あり、平成21年2月経口摂取も困難となり胃廔造設。主介護者は母親、副介護者は父親である。平成21年9月25日バクロフェン髄腔内持続注入用ポンプ植込み術実施。<BR>【説明と同意】趣旨、権利保障、匿名性、プライバシー保護について口頭で説明し同意の得られた症例である。<BR>【結果】症例1は、Ashworth Scaleは平均点で術前下肢3.38、上肢4.25。術後下肢1、上肢2.5の減点。ADLは平均点で術前が遂行度6.9、満足度6.8。術後が遂行度8.1、満足度8.1と変化あり。J-ZBIは母親は術前5点、術後4点。父親は術前12点、術後8点と変化が見られた。症例2は、Ashworth Scaleは平均点で術前下肢3.25、上肢2.25。術後は下肢1.75、上肢1.25の減点。ADLは平均点で術前が遂行度7.4、満足度7.4。術後が遂行度7.7、満足度7.4。J-ZBIは術前23点、術後13点と減点あり。「全体を通してみると、介護をするということはどれくらい自分に負担になっていると思いますか」との問いでは、術前「世間並」が、術後「多少」と介護負担が軽減した結果が得られた。また問診から、「自力で食事をするペースが早くなった」「シャワーが楽になった」とあり、問題意識を持たなかった点でも変化が見られた。<BR>【考察】介護負担度の評価尺度として用いたJ-ZBIは、「介護負担感とは親族を介護した結果、介護者が情緒的、身体的健康、社会的生活および経済状態に関して被った被害の程度」と定義されている。2例ともに術前後で得点の減少はみられたが、もともとか「低負担感」の点数でありこの分類に術前後で相違はなかった。このことは、介護者が親である場合は、生下時より障害と共に成長してきた子の介護を負担と感じるには至らない点や症例1のようにマンパワーが満たされているケース、症例2のようにまだ母親一人で介助が出来る子の体格であるケース等、J-ZBIの介護負担感の概念に必ずしも合致しないためと推察する。しかし、このような場合も介護が長期化することで、介護負担感が高くなることは容易に想像できる。ITB療法の有用性は筋緊張を低下させることで、1.活動性(運動性)の改善が図れる、2.変形の予防・改善をねらえると考えられる。我々は新たに「介護者の負担を減らせる」効果があると提案したい。そこで、セラピストの役割として、医学的側面からケア・サポートが必要である症例を見落とさず、治療方法の選択を介護者および医師と共に検討していくことが重要であると思われる。今回各種評価方法を用い介護負担について検討した結果、介護者の主観的満足度は大きく介護負担軽減を目的としたITB療法は有用であると考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】重度身体障害者に対してはITB療法の有用性を評価するためには介護者側の評価が必要であることからも、評価方法については今後さらに検討していく必要があると考える。
著者
岸本 千佳司
出版者
特定非営利活動法人 グローバルビジネスリサーチセンター
雑誌
赤門マネジメント・レビュー (ISSN:13485504)
巻号頁・発行日
vol.14, no.4, pp.189-236, 2015-04-25 (Released:2016-04-25)
参考文献数
49

台湾は国際的に見てもベンチャーキャピタル (VC) 業の活発な国とみなされている。実際、1990年代後半、台湾VC 業界は、成長期にあった半導体・IT等ハイテク産業へ遊休資金を集中投下してそれを助け、そのことでVC 業自身も急成長を遂げた。しかし、2000年代以降は、成長が以前のような右肩上がりではなくなり、近年は、投資金額・案件数の激減、資金調達の困難さ、海外資金の流入の少なさ、初期ステージ企業への投資比率の低さといった諸問題が表面化している。これを踏まえ、本研究は、台湾における①VC業発展の歴史的経緯、および1980年代以降のハイテク産業勃興に対するVC業の貢献、②VC業の問題点と2000年代以降 (特に近年) のVC活動停滞の背景、③最近の動向 (エンジェルとシードアクセラレーターの発展) とVC業の役割変化について詳細に分析する。これを通して、VC業の発展・盛衰を左右する要因、および政策的介入によりVC業を創出・推進する試みの成否について検討する。その結果、台湾のVC業推進策が比較的成功したと評されるのには、民間・地域リソースの広範な活用、長期的で適正なコミットと関係者への情報提供等の「教訓」が守られていたという背景があったことが判明した。また、こうした政策的介入に加え、VC業の発展・盛衰は投資先となる産業の発展と密接にリンクしており、投資先産業の性質によって資金供給と経営支援の方法も変化していくことが指摘された。例えば、近年のVC業の停滞も、成長性の高い新産業が十分勃興していないことの他、最近人気の文化創意産業やインターネット関連ビジネス等は比較的小規模・短期的な投資で賄える業種で、従来型VCよりも敏速で小回りの利くエンジェルやシードアクセラレーターが必要とされていることが背景にある。
著者
鈴木 幹三 岸本 明比古 山本 俊幸 足立 暁 山本 和英 白井 智之
出版者
The Japanese Respiratory Society
雑誌
日本胸部疾患学会雑誌 (ISSN:03011542)
巻号頁・発行日
vol.24, no.10, pp.1078-1082, 1986-10-25 (Released:2010-02-23)
参考文献数
18

剖検で確認した高齢者肺炎102例を臨床病理学的に検討した. 60歳以上の剖検180例中102例 (57%) に肺炎が認められ, このうち53例 (52%) は肺炎が直接死因となった. 基礎疾患は脳血管障害後遺症, 心疾患が大半を占めた. 病理学的な肺炎病巣の拡がりは肺炎死因率と正の相関を示した. 肺炎は両下葉および右上葉に好発し, 病理学的に炎症病変は巣状分布を示す例が最も多く, これらのなかに沈降性肺炎, 嚥下性肺炎の関与する例がみられた. 大葉性肺炎, 嚥下性肺炎, 肺化膿症は直接死因となる頻度が高く, 肺うっ血水腫は49%にみられた. 病変発現部位では, 肺胞性肺炎が70%を占め, 混合型肺炎は10%であった.
著者
坂本 亘 川島 秀紀 西島 高明 千住 将明 成山 陸洋 岸本 武利 前川 正信
出版者
泌尿器科紀要刊行会
雑誌
泌尿器科紀要 (ISSN:00181994)
巻号頁・発行日
vol.33, no.12, pp.2095-2102, 1987-12

This is a case report of a 5-year-old girl with congenital adrenal hyperplasia (CAH) who had clitoral hypertrophy and vagina opening at verumontanum between the bladder neck and external urethral sphincter. Female pseudohermaphroditism with CAH is the most common type of intersex problem seen in children. In females with this disorder, the internal genital organs are usually normal, but variable degrees of virilization can be observed externally. We discussed the indication of the surgical correction of ambiguous external genitalia in this syndrome in view of sexual function and cosmetic problems.
著者
岸本 肇
出版者
東京未来大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、中国の山東半島・青島(チンタオ)における敗戦の結果、第一次世界大戦中に日本に抑留されていたドイツ兵捕虜のスポーツ・レクリエーション活動の全体構造を明らかにしようとした。インターネット時代に相応した迅速かつ確実な史料収集と、それではできない現地調査の両面から研究を推進した。主たる新たな知見は、以下の4点である。(1)ドイツ兵捕虜のスポーツ活動の素地は、青島(チンタオ)時代にすでにあった。(2)ドイツ兵捕虜の日本到着直後、スポーツ施設が不十分だった時期においては、スポーツに代わる体力づくりや「格闘遊戯」が、運動不足解消のために工夫されていた。(2)ドイツ兵捕虜の学校(主として中学校、師範学校)・地域とのスポーツ交流には、俘虜収容所見学やスポーツ行事の際だけでなく、実際に、学校で体操を示範したり、地域のチームとサッカーの試合をしたりもあった。(3)戦争の長期化が確定的になってからの各俘虜収容所における「スポーツ管理の軟化」から見ると、板東俘虜収容所だけが際立った優遇であったかどうかは疑問である。
著者
市村 一雄 川端 善彦 岸本 真幸 後藤 理恵 山田 邦夫
出版者
農業技術研究機構花き研究所
雑誌
花き研究所研究報告 (ISSN:13472917)
巻号頁・発行日
no.2, pp.9-20, 2002-09

バラ切り花の開花と花持ちの品種間差を25品種を用いて調べた。開花速度には品種間差が認められ,完全に開花しない品種も存在した。花持ちにも著しい品種間差が認められ,最も長い品種はカリブラの14.5日であり,最も短い品種はブライダルピンクの3.8日だった。国内で生産されている主要10品種(カリブラ,コンフィティ,ジェルファルレイ、ソニア,ティネケ,デリーラ,ノブレス,パレオ90,ブライダルピンク,ローテローゼ)を用いて,花持ちに関与する要因について解析した。花持ち日数と花弁の厚さあるいは蒸散速度との間に有意な相関関係は認められなかった。糖の不足と導管閉塞が花持ちが短い原因になってるか調べるために,切り花を20g・liter-1スクロース,200mg・liter-1,8-ヒドロキシキノリン硫酸塩(HQS)および両者を組み合わせた連続処理を行った。スクロース単独,HQS単独および両者を組み合わせた処理はそれぞれ,2,2 および4品種の花持ちを有意に延長した。一方,花持ち日数が8日以上の品種とローテローゼでは,花持ちを延長することができなかった。これらの結果は,いくつかの品種において,花持ちの短い原因が導管閉塞または糖の不足,あるいはその両者に因っていることを示唆している。
著者
濱崎 伸一郎 岸本 真弓 坂田 宏志
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 = Mammalian Science (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.65-71, 2007-06-30
被引用文献数
8

ニホンジカの管理に必要な密度指標として, 区画法と糞塊密度法, および目撃効率の整合性を調べ, モニタリング指標としての妥当性を検証した. これらの調査は, 福井県, 滋賀県, 京都府, 兵庫県, 徳島県などのニホンジカ特定鳥獣管理計画策定前調査および策定後のモニタリングで採用されている. 区画法による面積あたりのカウント数と糞塊密度, および糞塊密度と目撃効率には有意な正の相関があった. これまでのところ, 十分な調査努力をしている地域では, 両指標の年推移も非常によく一致しており, いずれも密度変化の動向を適切に反映していると考えられた. 目撃効率の活用においては, 狩猟者から寄せられる報告数 (出猟人日数) の確保や, 積雪が目撃数におよぼす影響などを明らかにすることが課題である. また, 糞塊密度調査では, 平均気温の差による糞塊消失率の変化などが結果を左右することが懸念される. 精度の高い確実な調査法がない現状では, 複数の指標から密度変化の動向を評価することが重要である. <br>
著者
白石 太一郎 酒井 龍一 植野 浩三 千田 嘉博 碓井 照子 岸本 直文 福永 伸哉
出版者
奈良大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

大阪府南部には、日本列島内で最大規模の大仙陵古墳(現仁徳天皇陵)を含む堺市の百舌鳥古墳群、それに次ぐ規模をもつ誉田御廟山古墳(現応神天皇陵)を含む羽曳野市・藤井寺市の古市古墳群など、5世紀前後の倭国王墓と想定される巨大前方後円墳からなる大型古墳群が展開している。本研究は、これらの古墳群周辺が都市化される以前め航空写真に基づいて、開発以前の大縮尺の旧地形図を作成し、古墳詳研究の基礎資料を整備し、学界の共有財産として多くの研究者の利用に供するとともに、あわせてこれら近畿の大型古墳群の形成過程やそれら相互の関係、さらにその歴史的意味を追求したものである。3年計画の最終年度にあたる本年度は、(1)前年度までに中心部の図化を終えている古市、百舌鳥両古墳群の周辺部の図化作業を完成した。また(2)古市古墳群に続いて6世紀後半から7世紀代の倭国王墓と想定されるいくつかの古墳を含む太子町磯長谷古墳群周辺について、大阪府が1961年に作成した地形図をもとに、古市、百舌烏古墳群と同縮尺・同仕様で2,500分の1の開発以前の地形図を作成した。さらに(3)この地域で、古墳や同時代の遣跡の調査・研究を進めている地域の研究者や宮内庁書陵部の研究者の参加協力をえて、古市、百舌鳥古墳群り既往の発掘調査のデータ集成を行い、GISを利用してそのデータベース化を進めるとともに、(4)出土埴輪の実測図等の資料集成を行うとともにその編年作業を進め、(5)作成した旧地形図をも利用してこれら古墳群の形成過程の復元的研究を行った。(5)また本年度が最終年度にあたるため、研究報告書を作成した。

2 0 0 0 OA 書評

著者
岸本 哲也
出版者
日本経済学会
雑誌
季刊 理論経済学 (ISSN:0557109X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.263-264, 1985-12-26 (Released:2007-10-18)
著者
宇仁 義和 櫻木 晋一 岸本 充弘 田島 佳也 谷本 晃久 石川 創
出版者
東京農業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

日本の近代捕鯨の沿岸時代について、東洋捕鯨の社内文書や株主総会資料、同時代の写真などから明らかにした。国内の事業場と捕鯨船の8割を得た東洋捕鯨は、黄海と千島に事業場を新設し事業を拡大し、事業場の一体運用や役割分担が見られ、人員と捕鯨船を通年で効率的に運用したことが史料的に裏付けられた。捕鯨船によっては年度内に台湾から北海道の網走、黄海へと回航していた。ノルウェー人砲手の着業は1930年代初めに終わり、その割合は朝鮮では高く、本州や北海道では低くかった。シロナガスクジラとナガスクジラの呼称は、東洋捕鯨の社内名称が定着したものである。
著者
岸本 岳文
出版者
日本図書館研究会
雑誌
図書館界 (ISSN:00409669)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.334-342, 2000-01-01

1998年に出された生涯学習審議会専門委員会の報告は,図書館法第17条の解釈をめぐって論議をよぶものとなった。これまでの公立図書館の無料原則の適用範囲と有料制の枠組みに関する論議を振り返ることで,無料原則が図書館の本質的機能との関わりにおいてどのように捉えられてきたのかを確認する。そして,今回の報告で具体的に提示された経費負担についての問題点を図書館資料についてと地方分権という側面から検討することで,公立図書館の現場に投げかけられた課題がどこにあるのかを考える。
著者
海老 原充 海老 原敏 岸本 誠司 斉川 雅久 林 隆一 鬼塚 哲郎 朝蔭 孝宏 吉積 隆
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.101, no.12, pp.1406-1411, 1998-12-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
13
被引用文献数
2 2

分化型甲状腺癌は比較的悪性度の低い癌として知られているが,中には周囲臓器への浸潤を来すものもある.特に浸潤頻度の高い臓器は気管である。そこで当院での気管浸潤例における手術手技,気管再建法における工夫,及び成績に関して報告をした.対象症例は国立がんセンター中央病院(1978年1月~1990年2月)およびセンター東病院(1992年7月~1996年12月)にて気管合併切除を施行した分化型甲状腺癌30例で,同期間中に手術を施行した分化型甲状腺癌全486例の約6.2%にあたった.病理組織学的には全例乳頭癌であった.性別は男性10例,女性20例であり,平均年齢は58.8歳(22~75歳)であった.切除後,21例に関しては二期的にhinge flapにて気管孔閉鎖が可能であった.気管部分切除•局所皮弁による再建は,気管環状切除•端々吻合に比較して術後の気道管理も容易であり手術侵襲も少なく,甲状腺分化癌のように悪性度の低い癌ではこの術式にて十分対応可能と考えられた.残りの5例に関しては欠損範囲が大きく,そのままでは二期的閉鎖が不可能であったため,3例に関しては気管壁欠損の上下方向を縫縮し残った欠損部に気管孔を作製し,局所皮弁にて閉鎖を行った.さらに,他の2例ではハイドロキシアパタイトを使用し気管壁の支持を試みた.ハイドロキシアパタイトは組織親和性に優れ,わん曲,長さ等の選択が可能で気管再建に有用と思われた.なお閉鎖のできなかった4例に関しては他因死が1例,肝癌併発にて気管孔縮小に止まったものが1例,経過観察中のものが2例であった.
著者
吉田 真理子 内田 広夫 川嶋 寛 五藤 周 佐藤 かおり 菊地 陽 岸本 宏志 北野 良博
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.759-764, 2010

症例は4か月男児.腹部腫瘤を主訴に紹介され,エコー上肝内に径5.7cm大の多房性嚢胞性腫瘤を認め,当初は間葉系過誤腫が疑われた.1週間後の腹部造影CTでは充実性成分を伴う多発性肝腫瘤と肝門部・後腹膜リンパ節腫大を認め,悪性腫瘍が強く疑われた.早期診断および治療のために緊急入院し,経皮針生検を行った.ラブドイド腫瘍と診断され,ICE療法を開始したが,治療に全く反応せず,腫瘍は急速に増大した.入院直後より全身状態も急速に悪化し,人工呼吸管理,持続血液透析濾過を含む集中治療を行ったが改善を得られず,初診から約1か月後に死亡した.肝ラブドイド腫瘍は非常に稀で,著しく予後不良な悪性腫瘍である.現在までの報告例は検索しえた範囲で33例のみであり,文献的考察を加えて報告する.