- 著者
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後藤 拓也
- 出版者
- The Association of Japanese Geographers
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- pp.34, 2005 (Released:2005-11-30)
近年,「食」をめぐるグローバル化の進展は著しいものがあり,それに対する地理学の分析枠組みも再検討を迫られている。そのような状況下で,農業・食料部門のグローバル化を捉える分析枠組みとして欧米の地理学者に注目されているのが,「フードレジーム論(Food Regime Theory)」である。実際,1990年代以降における欧米の地理学では,このフードレジーム論に依拠した実証分析が相次いで蓄積されている。しかしながら,日本の地理学においては,これまで農業・食料部門のグローバル化を捉える理論的な枠組みとして,このフードレジーム論が十分に導入・活用されているとは言い難く,その有効性と限界について議論する必要があろう。そこで本報告では,欧米やわが国におけるフードレジーム論の展開を整理し,それが「食」の地理学へどのように適用が可能なのかについて検討を行うことを目的とする。 フードレジーム論とは,アメリカの農村社会学者であるFriedmannやMcMichael(1989)が提唱した概念である。この概念は,国際的な農業・食料システムの変化を歴史的観点から説明しようとする枠組みであり,現在までに3つのレジームが確認されている。具体的には,イギリスが基軸となる農産物貿易を特徴とする第1次レジーム,アメリカに基軸が移行する第2次レジーム,日本や欧米など先進諸国の多国籍企業が農産物貿易に主導的役割を果たす第3次レジームから成り,現在は第3次レジームへの移行期であるとされる。このフードレジーム論を実証する上での重要なキー概念となるのが,「NACs」と呼ばれる新興農業国の出現である。「NACs」とは,成長著しいアジアや南アメリカの農産物輸出国を総称した概念であり,中国・タイ・ブラジル・アルゼンチン等が該当するとされる。この「NACs」の出現において重要な役割を果たしているとされるのが,日本や欧米など先進諸国のアグリビジネスであり,その企業活動の空間的展開,農産物の調達戦略、現地での農産物調達拠点の形成行動が,フードレジーム論を「食」の地理学へ導入する重要な論点になり得るものと考えられる。 これまで日本の地理学において,フードレジーム論の枠組みに基づいて国際的な農産物貿易に言及した論考は,管見の限りでは高柳(2005)が先駆的な論考といえる。しかしながら,第3次のフードレジームで重要な役割を果たしているとされる日本のアグリビジネスが,どのように中国や東南アジアの「NACs」化を進めてきたのかは未解明であり,日本のアグリビジネスによる海外進出状況を包括的に整理した論考さえも未だに得られていないのが現状である。本報告では,日本の食品企業による1980年代以降の海外進出状況を整理し,日本の農業・食料部門においてフードレジーム論や「NACs」概念がどの程度当てはまるのかを検証したい。