著者
村井 宏栄
出版者
名古屋学院大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011

本研究では、中世日本語辞書を対象とし、字体認識及び注記構造の解明を目指した。結果、『色葉字類抄』では、多くの部首分類体字書や音義書とは異なり、「作」注記が字体注記と見なしがたい例がまま見られ、「又作」と「亦作」によって用法の相違が認められること、また「亦作」の所在の偏りから編纂過程を考慮に入れる必要性を指摘した。『下学集』では「作」注記の主目的が異表記表示に移行しており、異体字注記形式は「作」から「同字」へと移行してゆき、逆に「作」注記は異表記表示に特化していくという仮説を提示した。
著者
村井 祐一 田坂 裕司 北川 石英 石川 正明 武田 靖 武田 靖
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

マイクロバブル混合液体の層流域から乱流域までのレオロジー特性を実験的に研究したものである.層流域では,非定常なせん断応力場において気泡形状と応力の関係に非平衡性が表れる場合,平衡を仮定した実効粘度よりも10倍以上大きな運動量伝達特性をもつことがわかった.遷移域では周波数の変調による乱流への初期遷移が抑制されることがわかった.また乱流域では乱流渦干渉による乱流エネルギー低下,気泡クラスタリングによる新しい境界層構造の出現や伝熱促進が観測された.
著者
大川 恵子 伊集院 百合 村井 純
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.40, no.10, pp.3801-3810, 1999-10-15
参考文献数
11
被引用文献数
23

既存の大学の教育環境を可能な限り利用する手法を用いてインターネット上での教育システム(SOI School of Internet)を設計し構築した.システムは,講義そのものを取り扱う講義システム,課題の提出とコメントの関係を実現する課題提出システム,授業全体の評価を開放的に調査する授業調査システムの3つの要素に抽象化を行うことにより構築した.これらの機能を,学生,教員,管理・事務という実際の大学の3つの主体と関連付けることにより設計と実装を行った.それぞれのシステムは,映像と音声の情報とテキスト情報として授業情報を取り扱い,主体間のコミュニケーション全体をこれらを取り扱うデジタル情報処理として実現した.また,実験全体は「インターネット学科」という架空の学科を,実存する大学の講義,チュートリアルなどを利用して構築するという概念でとりまとめた.実際の大学教育を直接抽象化した本システムの構築手法により,システムごとの独立した開発と改善が可能となり,電子化以前の授業に対する課題を直接的に解決することができ,かつ,実際の大学の授業に本システムを取り入れることで継続的に大規模な実証実験が可能となった.1年間で11授業,44特別講義,300時間,約2000人の登録受講者という実験結果は,従来の遠隔教育システムに比べて,特殊な設備を前提とせず,かつ,現状の大学教育の電子化への段階的な移行に対して有用性が証明された.本システムは,インターネット上のインターネット教育を授業内容とし,1997年10月から1年間行われた実証実験に基づいて評価を行った.We established an educational system on the Internet by using the existing university educational environment.The education system consists of the three major parts.First part is a lecture on demand system using video,audio and text information from the real classroom.Second part is the assignment system with a mechanism to encourage open communication among students and faculties through writing a feedback to submitted assignments each other.Third part is the course evaluation system with an open policy to keep the quality of the lecture on the Internet.Students,faculties and administrations are three subject on the educational system on the Internet and we define the education as a sequence of the communication of among those subjects.As an experimental of this idea,we established a virtual school course "School of Internet"by degitizing the educational activities in the existing university courses,tutorials and special lectures and putting them on the Internet to share.Abstracting the actual university education and putting them on the Internet environment enables to improve or resolve the problems in the current university educational system.By utilizing this method in the real university courses,a continuous and large scale experimentation can be carried out.As a result of one and half years of experiment,11 university courses and 44 special lectures are archived in 320 hours of video, audio and other media materials. About 2000 registered students are continuously accessing to those lectures.This result proves the usability of this system,and possibility of the transition to the university education on the digital communication infrastructure.The "School of Internet"startd from October 1997 on the Internet.This paper evaluates the system through the result of one and half years of experimentation.
著者
徃住 彰文 村井 源 井口 時男 モートン リース 高岸 輝
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

人類が蓄積してきた膨大な知識資源を効果的に利用する方策のひとつとして,人間の知的活動や感性的活動にできるだけ近似した知識表現形を機械可読な形で提供したい.文学,芸術,政治,宗教といった,人間の能力の最高の活動場面で流通している言語テキストを対象としてオントロジーの構築を試み,多分野,多言語における検討をおこなった.
著者
村井 忠之 祖父江 義明
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.35, no.11, pp.886-895, 1980-11-05

銀河系の回りを大・小マジェラン雲という双子の小銀河が公転している. 公転しながら二つのマジェラン雲は中性水素ガスの長い尾(マジェラニック・ストリーム)を引きずっている. 銀河系の強い重力摂動に耐えて, この双子銀河がはなればなれにならず生きのてきたのはなぜだろうか. 観測される両雲の運動データをもとに, 銀河系と大・小マジェラン雲の三体問題とダイナミックスを考慮し, さらにマジェラニック・ストリームを再現するような数値シミュレーションを通して, 過去100億年にわたるマジェラン雲の軌道を推定する. このダイナミックスは, 銀河系をとりまく巨大質量ハロー(光学的に見える銀河のまわりを球状にとりまく暗黒の物質で, 普通に考えられている銀河の質量より一桁大きい)の存否, 宇宙のミッシング・マス(missing mass; 観測にどうしてもかからないが, 確かにある筈の謎の質量)の問題に鍵を与えてくれるかも知れない.
著者
村井 忠政
出版者
名古屋市立大学
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.49-69, 2006-12-24

1965年のアメリカ合衆国の移民法改正は、それ以前の人種差別的移民制限法の下で保たれてきていたエスニック集団間の均衡を突き崩すという結果をもたらした。65年移民法体制の下、1970年代の合衆国は合法移民、「不法」移民、そして難民を合わせて恐らくは毎年100万を越えると推定される新しい移民の波に見舞われ、ラテンアメリカからのヒスパニックや従来ほとんど認められていなかったアジア系移民の激増を見ることとなったからである。1970年代以降、20世紀初頭の第一の移民の大波に次ぐ第二の大量移民時代にアメリカ合衆国が突入したことを受けて、アメリカの移民研究は現在新しい段階に入っている。本稿では、現代アメリカ合衆国のラテンアメリカとアジアからの「新移民」の同化をめぐる社会学的実証研究に精力的に取り組み、目覚しい成果を挙げているキューバ系アメリカ人社会学者アレハンドロ・ポルテスに着目し、彼の移民の同化をめぐる議論に焦点を当てることにする。本稿のねらいは、(1)アメリカ合衆国における20世紀初頭の新移民と現代の「新移民」の比較考察をすることで、現代の「新移民」の同化が持つ多様性、独自性を明らかにすること、(2)さらに、これら「新移民」の第二世代に当たる子どもたちが、現代アメリカ社会に適応し、社会経済的地位を向上させていくためには、いかなる条件が必要とされるかを明らかにすることにある。
著者
遠山 義浩 杉山 拓 伊東 雅基 村井 宏 馬渕 正二
出版者
一般社団法人 日本脳卒中の外科学会
雑誌
脳卒中の外科 (ISSN:09145508)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.174-180, 2007 (Released:2008-08-26)
参考文献数
21

We investigated the effect of sustained administration of intrathecal nicardipine, calcium antagonist, in 16 cases to prevent post-subarachnoid hemorrhage (SAH) vasospasm. Patients with SAH of Fisher CT Group 3 (15 cases) or Group 4 (1 case) underwent direct clipping surgery and the placement of the cisternal catheter. From 1-4 days after SAH onset, the nicardipine solution (0.09 mg/ml) was continuously injected through the cisternal catheter at the rate of 2 ml/h for 4-16 days. The vasospasm was evaluated from postoperative angiography performed 1 week after SAH onset. The ratios of diameter at internal carotid arteries (ICA) C1 portion, middle cerebral arteries (MCA) M1 portion and anterior cerebral arteries A1 portion were obtained from preoperative and post-operative angiograms. Mild localized vasospasm was observed in 5 cases. The ratios of diameter at C1, M1 and A1 were 1.15±0.19, 1.13±0.23 and 1.17±0.26, respectively. No symptomatic vasospasm was observed in any of the cases. These findings demonstrated that the vaso-dilative effect of nicardipine prevented the post SAH vasospasm of intracranial arteries at C1, M1 and A1. The mild angiographical vasospasm in the 5 cases was probably due to the insufficient delivery of nicardipine solution. Following the operative manipulation of the exposure of ICA and MCA with radical clot removal, administration of nicardipine solution through the catheter in the contralateral carotid cistern and draining from the catheter in ipsilateral sylvian cistern brought the widespread nicardipine delivery to peripheral arteries. Though further improvement of this method is required, sustained intrathecal administration of nicardipine effectively prevents vasospasm following SAH.
著者
河瀬 彰宏 村井 源 徃住 彰文
出版者
情報知識学会
雑誌
情報知識学会誌 (ISSN:09171436)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.138-143, 2009-05-16 (Released:2009-06-27)

音楽の様式は刻一刻と連続的な変化を遂げていくため,これらに対して,音楽美学や音楽史学において議論されるような区分,例えば,古典主義音楽,ロマン主義音楽といった確定的な定義を与えることは難しい問題である.しかしながら,時代によって特徴や差異が確認されることは否めない.本研究では,音楽概念を構造的に抽出・体系化することで,音楽概念がどのような差異・変遷をもつものか検討する.具体的には,音楽評論雑誌「ポリフォーン 音楽評論の開かれた場」全13冊から,言及対象が20世紀以前の西洋音楽に該当する記事と,20世紀以後の西洋音楽に該当する記事とに試験的に分類し,ネットワーク分析を用いて語彙間の共起関係からそれぞれの音楽評論の思考の中心概念を構造的に抽出する.結果,前者は「世紀」「時間」,後者は「音」「主義」を音楽概念の中心性に強く据えていることが確認された.
著者
村井 研太 石光 俊介
出版者
日本感性工学会
雑誌
日本感性工学会論文誌 (ISSN:18845258)
巻号頁・発行日
pp.TJSKE-D-21-00067, (Released:2022-08-02)
参考文献数
11

Currently, sound quality control using Active Noise Control (ANC) and Passive Noise Control (PNC) has been used as noise reduction methods. ANC has an effect on the low-frequency noise, and PNC affects the high-frequency noise. However, in the case of sound control, our previous study revealed that individual preference affects the sound impression strongly to each. In recent years, as the quality of automobiles is developing day by day, the driving sound of automobiles has become an essential factor affecting an auditory impression. In other words, the engine sound control has been shifting from noise control to sound design. In this study, we investigated how the impression of engine sound changes by sound absorbers. The engine sound in the automobile with or without sound absorbers was investigated. Furthermore, these sounds were analyzed by the SD method and factor analysis to find a subjective impression. As a result, the subjective indicator (adjective pair) that affected the auditory impression was clarified. Moreover, the possibility of adding specific sound impressions by changing sound absorbers was also conducted. The MUSHRA method was adopted as the evaluation method. The relationship between the frequency band that adds a specific impression and the auditory impression was clarified by the MUSHRA method.
著者
大田 翔貴 村井 源
出版者
情報知識学会
雑誌
情報知識学会誌 (ISSN:09171436)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.301-306, 2022-05-28 (Released:2022-07-01)
参考文献数
5

物語研究は従来,幅広く行われており,物語の一ジャンルである怪談に関する研究も,書籍を対象として実施されてきている.近年,怪談は書籍作品だけではなく,インターネット上に投稿されるWeb作品としても流布されている.そこで本研究では,インターネット上に投稿されている怪談に着目して,物語構造分析を行った.また,先行研究で分析が行われた書籍怪談の物語構造と比較を行うことで,媒体の違いにおける怪談の物語構造の差異を明らかにした.
著者
村井 政史 堀 雄 森 康明 古明地 克英 八重樫 稔 今井 純生 大塚 吉則 本間 行彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.29-34, 2019 (Released:2019-08-26)
参考文献数
13

症例1は72歳男性で,重たいものを持ち上げるなどの重労働を約半年間行い,全身に痛みを自覚するようになった。肩の凝りと痛みが著明なことから葛根湯を,瘀血が存在すると考え桂枝茯苓丸料を合方して治療を開始した。 尿の出が悪化し麻黄の副作用と考え減量し,治療効果を高める目的で蒼朮と附子を加味したところ,体の痛みはほぼ消失した。症例2は53歳男性で,頚椎捻挫受傷や外科的手術歴があり,全身に痛みを自覚するようになった。左右の胸脇苦満が著明なことから大柴胡湯を,瘀血が存在すると考え桂枝茯苓丸料を合方して治療を開始した。便が出過ぎて日常生活に支障を来すため大黄を減量し,肩凝りが著明なことから葛根を加味したところ,体の痛みは消失した。線維筋痛症は治療に難渋することが多いが,煎じ薬ならではのさじ加減により,副作用を軽減し治療効果を発揮させることができた。
著者
吉川 恒夫 井村 順一 村井 雅彦
出版者
一般社団法人 システム制御情報学会
雑誌
システム制御情報学会論文誌 (ISSN:13425668)
巻号頁・発行日
vol.3, no.7, pp.218-225, 1990-07-15 (Released:2011-10-13)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

In this paper, we propose a robust control scheme which achieves trajectory tracking with prescribed accuracy for robot manipulators with bounded unknown parameters. This scheme is based on Lyapunov stability theorem, and the Lyapunov function is constructed using the intertia matrix. Therefore, the control law takes a very simple form which does not include the inverse of the intertia matrix. Moreover, based on the assumption that the dynamic equation can be expressed as a sum of products of unobservable matrices which contain unknown parameters and observable state vectors, this scheme makes the best use of observable states. Due to this we can expect smaller control gains. Finally, the effectiveness of the proposed control sheme is shown by numerical simulations and experimental results using a 2-degree-of-freedom manipulator.
著者
村井 政史 伊林 由美子 八重樫 稔 今井 純生 大塚 吉則 本間 行彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.41-44, 2013 (Released:2013-07-20)
参考文献数
22

ホットフラッシュに陰証の方剤が奏効した1例を報告する。症例は56歳の女性で,閉経後に顔面のほてりと発汗を認めるようになった。加味逍遙散と苓桂朮甘湯で治療を開始したところ,ホットフラッシュはやや改善したが,疲れた時に増悪した。そこで証を再考し,陰証で虚証と考え小腹不仁が著明であったため,八味丸に転方したところホットフラッシュはほとんど出現しなくなった。しかし疲れやすく,疲れた時にホットフラッシュが増悪したため,心下痞鞕を目標に人参湯を併用したところ,疲れにくくなりホットフラッシュは出現しなくなった。ホットフラッシュには陽証の方剤が有効な場合が多いが,病態に応じて陰証の方剤も考慮すべきと思われた。
著者
森本 大翔 村井 源
出版者
一般社団法人 日本デジタルゲーム学会
雑誌
日本デジタルゲーム学会 年次大会 予稿集 第13回 年次大会 (ISSN:27586480)
巻号頁・発行日
pp.123-128, 2023 (Released:2023-03-30)
参考文献数
33

従来のゲームの種々の要素に関する自動生成技術は,研究段階にとどまらず商品化などにも応用されてきている.しかし,既存の物語の続編を自動生成する試みはゲームにおいても他のメディアにおいてもほとんど行われていない.本研究では,人気のある続編の共通性や,ユーザーが前作の続き として続編を受け入れる条件などを明らかにした.具体的には,続編に評価軸を設け,選定した作品に対し評価軸が前作とどの程度合致するかを問うアンケートを行い,その結果によって続編の基準を設定し,続編と認められた作品に関して分析を行った.また,ロールプレイングゲームとシューティングゲームの続編のそれぞれの特徴を分析し,その違いを明らかにした.
著者
太子堂 正称 井上 義朗 間宮 陽介 桑田 学 原谷 直樹 野原 慎司 高橋 泰城 板井 広明 江頭 進 小沢 佳史 佐藤 方宣 笠井 高人 高橋 聡 村井 明彦
出版者
東洋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、現代の経済理論が前提としている人間像について、その思想的系譜を解明することを目指して行われた。スコットランド啓蒙における「経済学の成立」から現代の行動経済学・神経経済学へと至るまでの野党な経済学者、理論の分析を通じて、効用や利潤の最大化を図る利己的人間観が登場してきた過程だけではなく、それぞれの経済思想家の主張の背後には、利他性や社会性を含む多様な人間像が含まれていたことが明らかとなった。
著者
植野 仙経 上田 敬太 村井 俊哉
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3+4, pp.172-181, 2018 (Released:2019-02-01)
参考文献数
42

【要旨】1900年ごろ、Kraepelinはその『精神医学教科書』において人物に対する見当識の障害を含むさまざまな見当識障害を記述した。また見当識障害について、健忘やアパシー、認知機能の低下が関与するものと妄想性のものとを区別した。その後、精神医学において妄想性人物誤認の現象は既知性や親近感・疎遠感といった気分ないし感情の側面から考察されるようになった。また1930年前後にフランスの精神医学者が記述したカプグラ症候群とその類縁症状は、1980年前後に妄想性同定錯誤症候群としてまとめられ、神経心理学的なアプローチが盛んに行われるようになった。1990年、Ellisらは同定錯誤に関する鏡像仮説を提唱した。それによれば、相貌の認知には顕在的認知の経路(相貌の意識的な同定)と潜在的認知の経路(相貌に対する情動的応答)とがあり、前者が損なわれれば相貌失認、後者が損なわれればカプグラ症状が生じるという鏡像的な関係がこれらの症状にはある。この仮説は妄想性人物誤認において感情や情動に関わる異常が果たす役割を重視しているという点で、伝統的な精神医学と同様の観点に立っている。一方でKraepelinの見解が示唆するように、妄想的ではない人物誤認(人物に対する見当識障害)にはアパシーや健忘を背景として生じる場合が多い。
著者
村井 綾
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.125, no.6, pp.949-952, 2022-06-20 (Released:2022-07-02)
参考文献数
10

嗅細胞はターンオーバーする特異な細胞であり, 損傷があっても回復可能な細胞である. よって嗅覚障害を生じても, 自然軽快する症例や嗅覚障害の原因治療により軽快する症例がある. 鼻腔から入る嗅素は嗅上皮にある嗅細胞の嗅覚受容体に結合する. 同じ嗅覚受容体を発現する嗅細胞の軸索は束になり, 一次中枢である嗅球に嗅覚情報を伝える. 嗅球で2次ニューロンに乗り換えて, 嗅皮質や海馬, 眼窩前頭皮質などの嗅覚中枢に伝達される. 感覚神経の情報伝達には神経細胞の存在だけでなく, 正しい神経回路の形成が必要である. 胎生期には嗅球上に軸索ガイダンス因子が発現し, 嗅球マップと呼ばれる神経回路が形成され, 生涯維持される. しかし, 一度に多量の嗅細胞が障害されると, 再生した嗅細胞は嗅球上の正しい神経回路が形成できなくなることがある. 嗅細胞の減少や神経回路の形成異常により嗅覚情報が正しく伝達されず嗅覚障害が難治化, もしくは質的変化を来すと考えられる. 現在, 嗅覚障害の治療には嗅細胞再生を促進する当帰芍薬散やステロイドなどの抗炎症薬投与などが行われているが, 満足いく嗅覚レベルに達しない症例も存在する. ドイツで始まった嗅覚刺激療法は嗅上皮で NGF や BDNF などの神経栄養因子や成長因子が増えるという報告があり, 臨床だけでなく基礎的研究も盛んに行われている. 嗅覚障害モデルマウスを用いて嗅細胞の重度の障害によって破綻した嗅球マップの回復に寄与する因子を検討している. 軸索切断後の軸索損傷が遅れる遺伝子変異マウスを用いた実験や臨床的に効果的な嗅覚刺激療法の嗅細胞への効果を検討する実験を行った. Wallerian 変性の遅れは軸索切断後の嗅覚地図の保存に寄与しなかった. 嗅覚刺激療法は嗅細胞の回復を促進した. 嗅覚再生の研究は嗅覚障害に対してだけでなく, 感覚神経細胞そのものの再生過程や複雑な神経回路の形成の解明につながる重要性を持つといえる.