著者
蔡 義民 藤田 泰仁 村井 勝 小川 増弘 吉田 宣夫 北村 亨 三浦 俊治
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.477-485, 2003-12-15
被引用文献数
29

飼料イネサイレージ調製用乳酸菌をスクリーニングするため, ホモ発酵型で耐酸性が強く, 発酵過程において旺盛に増殖できる乳酸菌「畜草1号」菌株を選抜した。 16S rRNA遺伝子の解析やDNA-DNA相同性試験に基づいて畜草1号菌株はLactobacillusplantarumと同定した。畜草1号菌株を添加したはまさりとクサホナミの飼料イネロールベールサイレージでは無添加サイレージに比べ, サイレージのpH値, 酪酸およびアンモニア態窒素含量が低下し, 乳酸含量が高まった。また, 1年間の長期貯蔵を行っても, 糸状菌の増殖がなく, その品質が良質に保持された。
著者
津志田 藤二郎 村井 敏信 大森 正司 岡本 順子
出版者
Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.61, no.7, pp.817-822, 1987
被引用文献数
33 45

(1) 茶葉を窒素ガスや炭酸ガスのなかに入れ,嫌気的条件に置いたところ, γ-アミノ酪酸とアラニンが増加しグルタミン酸とアスパラギン酸が減少した.一方,テアニンやカフェイン,タンニン含量は変動しなかった.<br> (2) γ-アミノ酪酸は血圧降下作用を示す成分であるといわれることから,窒素ガス処理を行った茶葉で緑茶を製造した.その結果,一番茶,二番茶,三番茶ともにγ-アミノ酪酸含量が150mg/100g以上になった.<br> (3) ウーロン茶,紅茶のγ-アミノ酪酸含量は,茶葉を萎凋する前に窒素ガス処理するより,萎凋後に窒素ガス処理するほうが高くなった.<br> (4) 窒素ガス処理した茶葉から製造した茶は独特な香りを持っていたので, GC-MSで香気成分を分析,同定したところ,窒素ガス処理しないで製造した茶に比べて,脂肪酸のメチルやエチルエステルが増加していた.しかし,これらの成分の臭いは窒素ガス処理した茶が持つ香りとは,異なっていた.
著者
丸茂 健 長妻 克己 村井 勝
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.90, no.12, pp.911-919, 1999-12-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
24
被引用文献数
1 3

(目的) 性機能に影響を与える危険因子についての検討が, これまで様々な方法でなされている. 著者らは質問紙法を用いて, 加齢と疾病が男性性機能に与える影響を検討した.(方法) 通常の日常生活を送る男性1,020例を対象として, 国際勃起機能スコア (International Index of Erectile Function, 以下IIEF) 質問紙を用いて男性性機能を評価し, 各疾病の有無と加齢が勃起機能, 極致感, 性欲, 性交の満足度, 性生活全般の満足度の尺度となるスコアに与える影響を検討した.(結果) 有効回答は967例 (94.8%) であった. 回答をもとに分散分析法を用いて解析を行ったところ, 高血圧症, 心臓病などの循環器系疾患, 糖尿病, 高脂血症が50歳代の男性において勃起機能に有意な影響を与えることが示された (p<0.05). これらの危険因子を有する対象を除外し, 健常と考えられた男性において, 加齢が勃起機能, 極致感, 性欲, 性交の満足度に有意に影響することが示されたが (p<0.001), 性生活全般の満足度に影響するものではなかった (p=0.146).(結論) 従来より勃起障害の危険因子考えられていた疾病と加齢が男性性機能に影響を与えることを質問紙法の結果から示した. IIEFは勃起障害を治療する際の治療効果の評価のみならず, 各種疾病または生活習慣などが勃起機能に与える影響を検討するための, 疫学的検討にも有用であると考えられた.
著者
村井 重樹
出版者
社会学研究会
雑誌
ソシオロジ (ISSN:05841380)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.35-51,236, 2008-02-29 (Released:2015-06-06)
参考文献数
34

This paper aims to reconsider the concept of practice (pratique) in a present that is filled with uncertainty. To accomplish this, it will be useful to examine Bourdieu’s theory of practice (la théorie de la pratique) and his concept of habitus. According to Bourdieu, practice is produced by an embodied habitus, which includes practical hypotheses (hypotheses pratiques) accompanied by the past and the future, and which is engendered by social structures. Hence, habitus is the key to an understanding of practice, not only for Bourdieu, but for us as well. However, it seems that his definition of the relation between habitus and practice excessively restricts the range of practical action (practice). In fact, Bourdieu’s habitus finds its reality in an embodied past, and for this reason he is unable to sufficiently consider the significance of an uncertain present in practice. In contrast, Mead claims that “reality exists in a present” and recognizes that the uncertain present is important to our understanding of practice. According to Mead, past and future are oriented in the present, and novelty is found in it. That is, the present is also a site for the reformulation of meaning. In particular, this will be true for problematic situations which cannot be adequately illustrated using Bourdieu’s habitus. Through this examination of practice from the perspective of an uncertain present, I will try to demonstrate that habitus must be connected with the novelty of the present, and that practical hypotheses are questioned and reconstructed through the novelty that is in the present.
著者
鮫島 和行 瀧本 彩加 澤 幸祐 永澤 美保 村井 千寿子
出版者
玉川大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-07-10

人と動物間の社会的シグナルの動態を、自然な状況で計測する技術を確立し、人と動物との相互行為とその学習を、心理実験やモデル化を通じてあきらかにする事を目的とする。これまでの研究実績をうけて、本年度の実績は具体的には、1)人=馬インタラクション研究において、調馬策実験課題おける音声指示と動作との間の関係を記述し、人の音声に応じて馬の行動変化までの時間の変化が、馬をどれだけ指示通り動かすことができたか、という「人馬一体間」の主観評定と比較し、人馬一体感に2つの種類が存在することを明らかにした。人=馬インタラクションの実験結果からの知見を応用した車両制御に関するアイデアを特許として共同で出願した。2)人どうしのコミュニケーションにおいて、自然な他者認知の指標としてもちいられている「あくびの伝染」が人=馬間で存在するかどうかの実験を行い、あくびの伝染が人=馬間でも存在する事を示した。3)人=サルインタラクション研究において、人がサルの行動を学習させる訓練において、訓練されるサルの行動だけでなく、人の行動も変化している事を示し、相互学習が人=サル間で起きていることを示唆した。4)人=サルインタラクション研究において、social reward としてのsocial-touchが指刺しかだいにおいての問題行動を減らすことを示した。5)人=イヌインターラクション研究において、保護犬と人との同期動作や視線、および人の指刺し行動の情報が、馴化前後で異なることをプレリミナリーな結果として示すことに成功した。
著者
清水 孝重 村井 浩 藤井 正美
出版者
Osaka Urban Living and Health Association
雑誌
生活衛生 (ISSN:05824176)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.109-114, 1994-05-30 (Released:2010-03-11)
参考文献数
21

The authors reviewed the trnasition of coloring matter regulations in Japan.In the latter half of the 19th century synthetic coloring matters began to be used for coloring food both Western countries and Japan. Coloring matter regulations started to be enforced in these countries at around the same time.In 1900 the Regulations for the Control of Harmful Coloring Matters were enacted in Japan. They listed harmful coloring not to be used for coloring food.The official seal system for synthetic coloring commenced in 1941. Containers of synthetic coloring products which had passed the inspections conducted at the National Hygiene Laboratory were sealed with the official certificate seals.Since the above-mentioned regulations prohibited the use of the harmful coloring matters listed, the government did not have a legal basis to forbid the use of other harmful coloring maters until the enactment of the Food Sanitation Law in 1947.
著者
宇野 裕之 立木 靖之 村井 拓成 吉田 光男
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.93-101, 2019 (Released:2019-08-23)
参考文献数
23

動物福祉(アニマルウェルフェア)に配慮したニホンジカ(Cervus nippon)の効率的な生体捕獲を行うためには,機動性が高く,安全に捕獲することが可能なワナの開発が求められている.二つのタイプの小型(1.8 m×4.4 m)の囲いワナ,アナログ式体重計を用いたタイプ(アナログ型)及びデジタル台秤を用いたタイプ(デジタル型)を開発し,2015年1月~3月及び2016年1月~2月にかけて,北海道浜中町の針広混交林内で野生個体を対象にした捕獲試験を行った.10回のワナの作動で,合計17頭(メス成獣6頭,メス幼獣8頭,オス幼獣3頭)のニホンジカを捕獲し,10回の内7回の捕獲で複数頭の同時捕獲に成功した.捕獲効率(ワナ1台×稼働日数当りの捕獲数)は,アナログ型では0.136~0.167頭/基日,デジタル型では0.444頭/基日であった.研究期間中の捕獲個体の死亡率は0%であった.ワナ設置に係る労力として,アナログ型では2~3人の作業で7時間,デジタル型では2人で10時間を要した.電源として用いた12 Vバッテリーは,厳冬期の気温が氷点下になる条件下で,6日間以上機能が持続することが明らかとなった.開発した小型囲いワナは,設置及び運搬が容易,安全性が高く,複数頭の同時捕獲が可能であり,消費電力も比較的小さいことが明らかとなった.
著者
ますとみ けい 村井 源
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第31回全国大会(2017)
巻号頁・発行日
pp.1D3OS29b3, 2017 (Released:2018-07-30)

物語の基本構造を抽象化するため、星新一のショートショート200作品のオチを分類し、逆転的事象の種類と要因を記述したデータ構造を作成した。オチの分類タグとして[状況設定判明][正体判明][利益喪失]など20前後、逆転のタグとして[人物の立場:被害者>加害者]など10前後を用意し、ケーススタディ分析を行った。今後タグの内容を精査し物語自動生成プログラムの基礎データとする。
著者
村井 雄司 青木 裕美 田中 睦 首藤 かい 近藤 有紀 倉重 圭史 疋田 一洋 安彦 善裕 齊藤 正人
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.509-517, 2014-11-25 (Released:2015-11-25)
参考文献数
63

生体を覆う上皮は,重層や角化および上皮間の緊密な結合により病原体が生体に侵入することを防ぐ物理的防御機構と,抗菌ペプチドを発現することにより病原体の付着を抑制する化学的防御機構を有している。活性型ビタミンD3 の生理活性は,カルシウム代謝調節による骨リモデリングのみならず,上皮細胞の分化誘導や,免疫調節に関わっていることが明らかになっている。本研究では活性型ビタミンD3 をヒト角化上皮細胞株(HaCaT 細胞)に添加することによる,抗菌ペプチドの発現変化を明らかにすることを目的とした。HaCaT 細胞は,活性型ビタミンD3 添加により抗菌ペプチドであるhBD-1, hBD-2 およびLL-37 mRNA と,それぞれのペプチドの有意な発現上昇を認めた。しかしhBD-3 は変化を認めなかった。本結果から活性型ビタミンD3 は角化上皮の化学的防御機構に寄与し,これを増強すると考えられた。また発現上昇を認めた抗菌ペプチドは,齲蝕原因菌や歯周病菌に対しても抗菌作用を有するため,良好な口腔環境維持するうえで活性型ビタミンD3 の存在が重要である可能性が示唆された。
著者
内海 愛子 村井 吉敬 鎌田 真弓 加藤 めぐみ 飯笹 佐代子 田村 恵子 永田 由利子
出版者
大阪経済法科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

アラフラ海を中心とする海域に着目し、1)真珠やナマコ等の海洋資源をめぐって織りなされてきた人の移動の諸相を、戦争の影響や国際関係、特に日本、オーストラリア、インドネシア間の相互の関係を踏まえながら明らかにし、2)それを通じて、明治以降から現代にいたる、国家の枠組みからではとらえきれないこの地域の位置づけと意味を探るとともに、3)海域(交流史)研究の新たな展開に向けた論点と可能性を提示した。
著者
小西 行郎 秦 利之 日下 隆 諸隈 誠一 松石 豊次郎 船曳 康子 三池 輝久 小西 郁生 村井 俊哉 最上 晴太 山下 裕史朗 小西 行彦 金西 賢治 花岡 有為子 田島 世貴 松田 佳尚 高野 裕治 中井 昭夫 豊浦 麻記子
出版者
同志社大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2012-06-28

発達障害とりわけ自閉症スペクトラム障害(以下ASDと略す)について、運動、睡眠、心拍、内分泌機能、体温などの生体機能リズムの異常を胎児期から学童期まで測定し、ASDにはこうした生体機能リズムの異常が症状発生の前、胎児期からでも見られることを発見した。それによって社会性の障害というASDの概念を打ち破り、生体機能リズムの異常としてのASDという新しい概念を得ることができた。この研究を通して、いくつかのバイオマーカを選択することが可能になり、科学的で包括的な診断方法を構築すると共に、障害発症前に予防する先制医療へ向けて展望が開けてきた。
著者
小長谷 好江 村井 京子 笠井 倫世 岸山 眞理 高羽 ゆかり 豊永 真穂 吉井 理恵子 諸星 浩美 玉内 登志雄
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.114-120, 2016
被引用文献数
1

当院看護職の離職率は全国平均と比べ高い。看護師確保・離職率の低下を目指し,2012年度日本看護協会主催WLB(ワークライフバランス)推進の取り組みに参加した。当院ではスタディを加えWLSB(ワークライフスタディバランス)として取り組んだ2年間の活動を評価した。WLSB推進委員は①業務改善チーム,②PNS(パートナーシップ看護体制)チーム,③労務管理チームで活動に取り組み,各チームの進捗管理,インデックス調査・満足度調査を実施して不満層の変化を調査した。またリーダー格スタッフを対象に,「WLSB研修コース」を企画運営した。 2か月周期のPDCAサイクルをまわした結果,業務改善目標を達成でき,「ノー残業デイ」の実施率は0%から70~80%へ大幅に改善した。またバースデイ休暇・長期休暇の計画的取得,半日有給の導入で有給休暇取得率も向上した。「WLSB研修コース」の研修生からは,研修を通してやりがいや変革に取り組む面白さを実感できたとの意見もあった。PNSも導入できた。これらの成果は成功体験としてスタッフに認知され,変革に積極的に取り組む風土ができた事を示唆している。WLSB推進活動は,不満要因の減少と満足度の向上により,看護職にとって働きやすい職場環境の構築につながり,ひいては看護職定着の促進に寄与する可能性があると思われる。
著者
村井 隆之 Takayuki Murai
出版者
四條畷学園短期大学
雑誌
四條畷学園短期大学紀要 = Annual reports of Shijonawate Gakuen Junior College (ISSN:18811043)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.1-18, 2007

千島列島と北方四島がソ連軍に不法に占領され、日本人島民一万七千余人の身に危険が迫った。根室町長安藤石典は連合国軍最高司令官に「陳情書」を出しソ連軍に代わってアメリカ軍の島への進駐を要請するが、陳情は功を奏さなかった。だが、彼が「陳情書」で展開した理論は、後に「四島一括返還論」という形を整え、鳩山内閣が妥協的に選択した二島返還論と交差しながら返還運動をリードしていく。ソ連邦崩壊後、社会主義経済から市場経済への移行につまずいた一時期、ロシア人の日本を見る目が少し変わり、四島返還が実現するかに思える瞬間があったが、日本はこの絶好の好機を逸した。プーチン大統領も最初の頃は四島返還論に一定程度理解を示したが、現在はこの問題にすっかり冷淡になっている。原油急騰で経済に余裕が出たことが彼をそうさせている。拙稿では戦後60年間の領土問題をめぐる動きを多角的に分析し、併せて将来を展望する。
著者
白幡 洋三郎 村井 康彦 井上 章一 小野 芳彦 山地 征典 園田 英弘 村井 康彦 飯田 経夫 山折 哲雄 イクトット スラジャヤ 長田 俊樹 白幡 洋三郎 セルチュク エセンベル
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

平成6年度は、イスラム文化圏における日本の生活文化の受容調査であり、対象国としてトルコを選び、イズミール、アンカラ、イスタンブールを中心に調査を行った。トルコはイスラム文化圏とはいえ、近代化に一定の成功をおさめた国であり、生活用品の分野においては先進国と同様の工業製品がみられるものの、日本製品はきわめて少なかった。また親日国であるといわれているにもかかわらず、教養・実用・趣味・娯楽等の分野においても日本にかかわりのあるものは意外なほどに見つからなかった。むしろ西洋、とくにドイツとの関係が著しいことが確認できた。このことにより、トルコをイスラム文化圏と見るとともに、西洋文化圏もしくは西洋文化に強く左右されている文化圏と見て、日本文化とのかかわりを考察すべきであろう。平成7年度の対象地域は南アジア・東南アジアであった。ベトナムにおいては、ベトナム戦争終結後、社会主義政権が新たな経済政策をとり、その安定的発展によって民衆の生活に新しい展開が生まれている。その新しい展開の中に日本の伝統的な文化に属す茶道・華道なども、一定の受容が見られる。しかしとりわけ日本の生活文化としては、現代の大衆文化と見てよい電化製品の普及やカラオケ・コンピュータゲームなど娯楽分野での受け容れがきわめて顕著に見られた。また、もともとは中国経由で入ってきた盆栽が、日本語のBONSAIとして広まっている。すなわち中国経由の既存文化が、外からの刺激(日本の文化)によって新しい展開を見せている点で注目される。文化の盛衰を構造的に分析する材料として重要だと考えられる。またインドにおいては、日本の生活文化の進出はきわめて低調であり、大衆文化としてほとんど受け入れられていないことがわかった。華道や俳句では、知識人を核にした富裕層にのみ愛好会や同好会の形で存在している程度である。これは国民の所得水準によって規定されているものと考えられ、日本の生活文化の普及を大衆レベルでの異文化受容と考えた場合、経済的な要因が大きな困難となる実例であろう。タイにおいては、広い分野での日本の生活文化の受容が見られる。とくに日本の食品や生活用品はすでに広く生活の中に定着している。日本食やインスタントめんなどは、日本の手を放れ自前で独自の加工を施したものも豊富に出回っている。マンガは日本のものが翻訳されて各種出版されており、タイ人の手によるタイ語ならびに中国語の漫画が出回るほどになっている。娯楽や実用・趣味の分野でも日本の生活文化は広く受容されていることがあきらかとなった。平成8年度の調査地域である旧社会主義圏では、生活必需品のレベルでの日本の生活文化受容が見られたものの、それ以外での、「教養」「精神」「趣味」「娯楽」など、経済的な余裕に左右される分野での受容は乏しいことが明らかとなった。この地域では、社会主義政権の崩壊後、生活は不安定になったが、一方で西側諸国からの物資・情報が、以前より広範に流入している。従って、旧社会主義政権下にくらべて「異文化」の受容は進んではいるものの、その範囲は狭い。テレビ、冷蔵庫、オ-ディオ機器などの電化製品では、高価な日本製はあこがれの的だが、日本製を装ったものが市場に流通しており、特異な日本の生活文化受容が見られる。社会主義政権の崩壊に急激な暴力革命が伴ったル-マニアでは、経済復興が遅れており、国民生活に余裕がなく、日本製品に限らず西側の製品全般が贅沢品とみなされ、これらの需要は低迷している。華道・茶道・盆栽・俳句などの教養分野は、わずかに一握りのインテリ層に受容され、禅や宗教など精神文化の領域は表面にはまったく現れていない。日本の生活文化を大衆レベルでの海外への進出からとらえると、受容する側の生活水準に規定されることが明らかになった。したがって、文化の通文化性に関しても、その文化項目固有の「通文化性」は、受け入れる側の経済的、文化的状況に大きく左右されるといえるであろう。