著者
池本 賢一 村山 浩一郎
出版者
福岡県立大学人間社会学部
雑誌
福岡県立大学人間社会学部紀要 (ISSN:13490230)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.45-58, 2019-02-28

今日のわが国における社会福祉制度の動向を鑑みると、各福祉分野で地域支援が重要視されていると考えられる。しかしながら、これまで地域支援の方法論とされてきたコミュニティワークは、概念や展開プロセス、用いる技術等が必ずしも明確化されていないという課題がある。 本稿は、これまでのコミュニティワークに関する研究から、特に定義及び範囲に着目して整理を行い、それらを踏まえた上で、理論の再構築に向けた試論を提示するものである。先行研究の検討から、「ニーズ・資源調整」、「インター・グループ・ワーク」、「統合」、「組織化」、「計画・政策」、「ソーシャル・アクション」、「アドミニストレーション」、「個別課題を踏まえた地域支援」、「主体形成とプログラム開発とその循環」がコミュニティワーク理論のキー概念として明らかになり、これらを基にコミュニティワークの体系図の提示を行った。
著者
根本 裕太 倉岡 正高 野中 久美子 田中 元基 村山 幸子 松永 博子 安永 正史 小林 江里香 村山 洋史 渡辺 修一郎 稲葉 陽二 藤原 佳典
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.12, pp.719-729, 2018-12-15 (Released:2018-12-27)
参考文献数
35

目的 本研究では,若年層(25-49歳)と高年層(65-84歳)における世代内/世代間交流ならびにそれらの組み合わせと精神的健康との関連について検討することを目的とした。方法 2016年に地域住民を対象とした質問紙調査を実施した。有効回答を得た若年層3,334人(回収率24.6%)および高年層3,116人(回収率46.0%)を本研究の解析対象者とした。精神的健康については,WHO-5を用いて,合計点数が13点未満もしくはいずれかの設問に対し1点以下の回答をした者を「不良な健康状態」と判定した。世代内/世代間交流については,親族や仕事関係の人を除いた者との交流頻度を調査した。若年層においては「20-40代」,高年層においては「70代以上」との交流を「世代内交流」,若年層における「70代以上」,高年層における「20-40代」との交流を「世代間交流」とした。また,これらの組み合わせとして両世代との交流がある者は「両世代交流あり」,両世代とも交流がない者を「交流なし」とした。統計解析においては,精神的健康を目的変数,世代内/世代間交流を説明変数,性別,年齢,最終学歴,婚姻状態,同居者,主観的経済状況,地域活動への参加,就労,健康度自己評価,手段的日常生活動作能力を調整変数としたロジスティック回帰分析を行った。結果 若年層3,334人のうち,精神的健康が良好な者が61.5%,「世代内交流あり」は51.3%,「世代間交流あり」は21.9%,「両世代交流あり」が16.5%,「交流なし」が42.7%であった。一方,高年層3,116人のうち,精神的健康が良好な者は65.8%,「世代内交流あり」は67.9%,「世代間交流あり」は34.3%,「両世代交流あり」は29.9%,「交流なし」は21.1%であった。ロジスティック回帰分析の結果,いずれの世代においても「世代内交流あり」,「世代間交流あり」は交流していない者と比較して精神的健康状態が良好であった。世代内/世代間交流の組み合わせと精神的健康との関連では,両世代において,「世代内交流のみ」と比較して「交流なし」は精神的健康が有意に劣り,「両世代交流あり」は良好であることが示された。結論 若年層と高年層において世代内交流ならびに世代間交流が良好な精神的健康と関連し,両世代と交流している者はさらに精神的健康が良好であることが示唆された。
著者
井上 寿茂 土居 悟 高松 勇 村山 史秀 亀田 誠 岡田 正幸 林田 道昭 豊島 協一郎
出版者
THE JAPANESE SOCIETY OF PEDIATRIC ALLERGY AND CLINICAL IMMUNOLOGY
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.82-86, 1992-09-25 (Released:2010-04-30)
参考文献数
14

小児気管支喘息の重症化, 難治化要因のひとつとして家庭背景の問題が挙げられる. 小・中学生の外来初診喘息児379例, 並びに施設入院療法を行った喘息児103例を対象とした単親家庭の頻度は外来児で10.0% (重症児では25.7%), 入院児で18.4%であった. また入院児では両親の離婚や別居, 家族の精神神経疾患など家庭に問題を持つ喘息児の頻度は39.8%に及んだ. 不登校や怠薬, 喘息以外の心身症の合併など心理的問題を有する率は家庭に問題をもつ喘息児で53.6%で, 家庭に問題のなかった喘息児での24.2%に比べ有意に高率であった. このような心理的問題を有する児では入院期間が長期化し, 積極的に個別的心理治療が試みられていたにもかかわらず再入院の頻度が高く, 医療機関のみでの対応には限界があり, 社会的視野に立った対応策の開発の必要性を痛感した.
著者
星 秋夫 稲葉 裕 村山 貢司
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.3-11, 2007 (Released:2007-07-02)
参考文献数
22
被引用文献数
5

東京都と千葉市における 2000~2004 年の熱中症発生について解析した.熱中症発生率は東京都(人口 10 万対:4.4 人)よりも千葉市(9.4 人)で高かった.年齢階級別熱中症の発生は両都市共,5~19 歳と 65 歳以上とに,発生のピークを示す二峰性を示した.5~19 歳における熱中症発生は東京都,千葉市共に平日よりも日曜日,祭日で多かった.千葉市において,スポーツ時の発生は大部分が 5~19 歳であった.高齢者(65 歳以上)では大部分が生活活動時に発生した.熱中症の発生した日の日最高気温分布は東京都よりも千葉市で低温域にあった.日最高気温と日平均発生率との間に東京都と千葉市にそれぞれ異なる有意な相関関係を認め,千葉市で急勾配であった.日最高気温時 WBGT 分布は東京都と千葉市で同様であり,東京都と千葉市における日最高気温時 WBGT と日平均発生率との間に有意な相関関係を認めた.多重ロジスティックモデルの結果,日最高気温時 WBGT,日平均海面気圧,日照時間,降水量の因子について有意性を認めた.
著者
村山 陽
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.1-10, 2009

This study aimed to investigate the effect of exchanges with aged persons on children. In all, 381 upper graders at an elementary school completed the questionnaires. The nature of an exchange with aged persons was measured by the interaction frequency and the diversity of interaction with the aged persons. The results indicated that the effect of the exchange with the aged person was determined by physical proximity, the attribution of the aged person, and the gender of the child. At the same time, these exchanges influenced the development of emotional responses, interpersonal perceptions, and behaviors. For example, the lengths of exchange and the diversity of conversations with aged persons affected the empathy of children, which in turn influenced their helpfulness toward the aged persons. It highlighted the efficacy of intergenerational exchange for children of the present generation who have no contact with aged persons in daily life.
著者
谷口 優 清野 諭 藤原 佳典 野藤 悠 西 真理子 村山 洋史 天野 秀紀 松尾 恵理 新開 省二
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.269-277, 2015-07-25 (Released:2015-08-13)
参考文献数
25
被引用文献数
1 3

目的:本研究では,1.身体機能,骨格筋量,及び身体機能と骨格筋量に基づくサルコペニアと認知機能との横断的な関連 2.身体機能,骨格筋量,及びサルコペニアと認知機能低下との縦断的な関連をそれぞれ明らかにすることを目的とした.方法:群馬県草津町在住の65歳以上を対象とした介護予防健診データをもとに,ベースライン調査(2008年から2011年)が完了した805名を横断的解析対象者とし,その後2012年までに再度認知機能検査が完了した649名を縦断的解析対象者とした.身体機能は,握力及び通常歩行速度から身体機能得点を算出した.認知機能はMini-Mental State Examination(MMSE)により評価し,追跡期間中の年平均変化量0.5点以上の低下を認知機能低下(CD)有りと定義した.結果:身体機能,骨格筋量及びサルコペニアと認知機能との間にそれぞれ有意な横断的な関連性がみられた.縦断的解析では,平均追跡期間3.0±1.1年に201名(31.0%)のCDがみられた.重要な交絡要因を調整したロジスティック回帰分析を行った結果,CD有りに対する身体機能[OR=0.75(95%信頼区間0.65~0.87)]に有意な関連性がみられたが,骨格筋量には有意な関連性はみられなかった.AWGS(Asia Working Group for Sarcopenia)基準による身体機能と骨格筋量の組み合わせにより分類した低身体機能かつ骨格筋量正常群は,身体機能と骨格筋量いずれも正常群に比べてCD発生リスクが有意に高かった[OR=2.10(1.18~3.38)].一方,低身体機能かつ低骨格筋量群(サルコペニア)ではCD発生に対する差の傾向がみられた[OR=1.57(0.93~2.63)].結論:地域在宅高齢者の身体機能,骨格筋量及びサルコペニアは,それぞれ認知機能の関連要因であった.高齢期の身体機能は,CDに対して社会医学的要因とは独立した予測因子であり,骨格筋量が正常であっても低身体機能の高齢者は将来認知機能が低下するリスクが高いことが示唆された.
著者
揚戸 薫 高杉 潤 沼田 憲治 大賀 優 村山 尊司
出版者
脳機能とリハビリテーション研究会
雑誌
脳科学とリハビリテーション (ISSN:13490044)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.27-30, 2007 (Released:2018-11-13)
被引用文献数
2

今回, 著明な情動障害を呈した脳底動脈瘤術後脳梗塞例について, 脳画像と臨床徴候の経時的変化を追って分析した. 症例は31歳, 女性. 発症後2ヶ月のMRI所見は, 右側脳室の拡大, 右海馬・扁桃体の萎縮, 右視床前部および内側領域に梗塞巣と左視床前部および内側部に動脈瘤による圧迫を認めた. 情動障害については, 幼児化傾向, 易興奮性, 多幸を特徴とした. 発症後1年3ヶ月後では, 多幸傾向は軽度残存したが, 幼児化傾向, 易興奮性は消失した. MRIでは, 右視床と右辺縁系には依然病変を認めたが, 左視床では所見は認められなかった. 視床病変に基づく情動障害例は, 一側性病変では稀で両側性に多く見られ, 本症例もこれら障害像と酷似していた. 以上から本症例の一連の情動障害の原因病変は, 右側の視床および辺縁系に加え, 左視床の関与によって, より顕著で特異的な, かつ遷延した障害を呈したと考えられた.
著者
村山 幸子 倉岡 正高 野中 久美子 田中 元基 根本 裕太 安永 正史 小林 江里香 村山 洋史 藤原 佳典
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.7, pp.452-460, 2020-07-15 (Released:2020-07-31)
参考文献数
30

目的 地域住民間のコミュニケーションの活性化や,子どもの公共心および社会性の醸成等を目的として,多くの自治体や小中学校で「あいさつ運動」が実践されている。しかし,こうした取り組みの意義を裏付ける実証データは乏しい。本研究では,1)周囲の人々からあいさつをされることが子どもたちの自発的なあいさつ行動と関連するのか,また,2)子どもたちにとって日常生活場面におけるあいさつの多寡が,地域愛着と援助行動と関連するのかを検証する。方法 東京都A区および神奈川県川崎市B区在住の小学4-6年生の児童1,346人と中学1-2年生の生徒1,357人を対象に自記式の質問紙調査を実施し,2,692人から有効回答が得られた。本研究では,小学生と中学生のデータを層別に分析し,それぞれについて以下の統計解析を行った;1)性別と学年を制御変数とし,周囲の人々からあいさつをされる頻度と児童・生徒が自らあいさつをする頻度の関連を検証する偏相関分析と,2)児童・生徒のあいさつ頻度と,居住地域への愛着および援助行動の関係を検証するパス解析を実施した。結果 偏相関分析の結果,調査対象者の性別と学年を問わず,周囲の人々からあいさつをされる頻度と,児童・生徒が自らあいさつをする頻度との間に正の相関関係が認められた。さらに,パス解析の結果,あいさつをされる頻度が地域愛着と関連し,あいさつをする頻度が地域愛着および援助行動と関連するというモデルが得られた。当該モデルは,小学生と中学生の双方で高い適合度が認められた。結論 子どもたちにとって,日常生活場面で周囲の人々とあいさつを交わすことは,居住地域への愛着を強めることが明らかとなった。とりわけ,彼らが自発的にあいさつをすることは,他者への援助という具体的な行動にも結びつくことが明らかとなり,家庭・学校・地域であいさつを推奨することの意義が実証された。あいさつされる頻度とあいさつする頻度に関連が認められたことから,周囲の大人による働きかけが,子どもたちに自発的なあいさつ行動を定着させる上で重要になると考えられる。
著者
村山 明彦 ムラヤマ アキヒコ Akihiko MURAYAMA
雑誌
最新社会福祉学研究 = Progress in social welfare research
巻号頁・発行日
no.12, pp.25-32, 2017-03-31

DSM−5では,認知機能をこれまでの5領域から6領域とし,新たに社会的認知が加わった.また,認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)の策定に伴い,これまで以上に社会的認知が注目されるようになった.このような背景から,認知症高齢者の社会的認知を,科学的に検討する研究が増加しつつある.一方,高齢者ケア専門職の社会的認知を検討した研究は少ない.本研究では.認知症高齢者と高齢者ケア専門職,双方の社会的認知に着目し,認知症ケアの方法論として有益な知見を提示することを目的とした.本研究の目的を遂行するために,文献研究の手法を用いて,先行研究を踏まえ,本研究における社会的認知を定義するための理路を提示した・認知症ケアの方法論の現状と課題についても言及し,エビデンスとナラティヴに関する先行研究からの知見を援用した.以上の結果を統合し,実践への提言として,社会的認知をSOAP形式にて,評価・記録することの可能性をまとめた.The previous edition which included five domains of cognitive function has been updated to the newly revised edition of the Statistical Manual of Mental Disorders (DSM-5) which defines six domains of cognitive function including social cognition. Along with formulation of the Comprehensive Strategy to Accelerate Dementia Measures by the Japanese government (also called "New Orange Plan"), social cognition has drawn more attention. Based on such background, an increasing number of studies on social cognition in elderly people with dementia have been conducted, but only a few studies on social cognition in elderly care professionals have been performed. The present study, based on a literature review, focuses on social cognition in both the elderly with dementia and elderly care professionals, and is aimed at offering findings that are useful for providing dementia care. In order to achieve the objective of this study, a discussion is presented in the following order: a method of defining social cognition based on previous studies is shown; evidence and narrative are cited from previous studies; and recommendations for dementia care practice are provided from these integrated results.
著者
黒田 藍 村山 洋史 黒谷 佳代 福田 吉治 桑原 恵介
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.284-296, 2022-04-15 (Released:2022-04-26)
参考文献数
35

目的 孤立や孤独を防ぎ,かつ食事を確保する方策として食支援活動が行われてきたが,その実践に関する学術的知見は乏しい。本稿では,住民がボランティアで食支援活動を行う地域食堂のコロナ下での活動プロセスを記述し,地域食堂の活動継続が利用者や住民ボランティアにもたらした効果について予備的に検証することを目的とした。方法 本研究は東京都内の独居高齢者が多く居住する大規模団地にて,飲食店と同水準の食品衛生管理体制のもと運営されている地域食堂「たてキッチン“さくら”」で筆頭著者が実施するアクションリサーチの一部である。2020年2月から同年5月までの地域食堂の活動を報告対象とした。活動プロセスは運営の活動記録,運営メンバーと住民との対話記録,活動時の画像記録を用いて記述した。地域食堂の利用住民10人と住民ボランティア6人との対話記録をKJ法に基づき分類し,彼らが認識する地域食堂の活動継続がもたらした効果を評価した。活動内容 対象期間中に地域食堂の役員や住民ボランティアは定期的に会議等を行い,市民向け新型コロナウイルス感染症対策ガイドや保健医療専門職の助言,利用者の意見等を参考にしながら,運営形態の検討と修正を続けた。結果として,地域食堂は高齢住民ボランティアが中心となって住民の食と健康を守るために週5日の営業を継続した。店頭の販売個数は形態変更に伴い5月に半減した一方(2020年2月4,670個,同5月2,149個),各戸への配食数は需要の増加に伴い3月以降増加した(2020年2月301個,同5月492個)。事後評価の結果,地域食堂の新型コロナウイルス感染症対策は外食業の事業継続のためのガイドラインを遵守していた。活動継続の効果として,地域食堂利用者では〈食の確保〉,〈人とのつながり〉,〈健康維持増進〉の3つのカテゴリー,住民ボランティアでは〈社会とのつながり〉,〈健康維持増進〉の2つのカテゴリーが抽出された。結論 住民ボランティアが,住民の食と健康を守るとの活動理念を確認しながら,新型コロナウイルス感染症の対策情報等を参照し,ステークホルダーを巻き込み,一般に求められる水準の感染症対策を取り入れて食支援活動を継続していた。この取組継続は,住民の食確保や健康支援に加え,住民同士のつながり維持に役立ったことが示唆された。
著者
中尾 聡志 西上 智彦 岡田 知也 明崎 禎輝 村山 大樹 中平 智 岩崎 洋子 松田 芳郎
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Fe0103, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに】 関節可動域(ROM)運動時の強い痛みに対して,傷害部位へのアイシングが中心に行われてきたが,十分な除痛が認められないことも多い.我々は膝関節炎による強い痛みによりROM運動が実施困難であった症例に対して,患部ではなく手部にアイシングを行うことで痛みが著明に改善し,ROM運動が円滑に行なうことが可能となった症例を経験し,第39回四国理学療法士学会にて報告した.このような現象の報告はこれまでになく,複数例にて効果が認められるかについて未だ明らかではない.そこで,本研究では,まず,人工膝関節全置換術(TKA)後症例に対して,患部へのアイシングと手部へのアイシングの痛みの抑制効果について検討した.さらに,どのような症例に対して,手部へのアイシングがより効果的かについて,手部のアイシング変化率と個体要因(器質的側面・心理的側面)の相関関係を求めて検討した.【方法】 対象はTKA症例(平均年齢76.5±5.6歳・術後平均日数13.1±6.5日)16名16膝とした.連続した2日間にて患部へのアイシング及び術側と同側の手部へのアイシングをそれぞれ,1日ずつ10分間実施し,アイシング前の膝関節最大屈曲(膝屈曲)時の膝関節における疼痛をVisual analogue scale(VAS)にて測定した.アイシング前後の膝屈曲において,アイシング前の屈曲角度を参考にアイシング後も同一角度を再現した後にVASの測定を実施し,アイシング後のVASから前のVASの数値を引いたものをアイシング変化率として求めた.他の評価項目として,術後最大CRP値・現状の経過に対する不安度・アイシング時の自覚的快楽の有無・膝屈曲角度を求め,不安度は痛みと同様にVASにて数値化した.なお,アイシングの実施順は各症例のID番号末尾の数字を参考に,偶数である者を手部アイシングより,奇数である者を患部アイシングより開始した.統計処理として,アイシング前後のVASの値を患部・手部それぞれにおいてt検定にて比較し,アイシング効果の有無を検討した.また,患部・手部へのアイシングの変化率と各評価項目に対する関連性をSpearmanの順位相関係数にて求めた.なお,有意水準は5%未満とした.【説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき,事前に本研究目的と内容を十分に説明し,同意の得られた症例のみを対象とした.【結果】 各評価項目における平均値は,患部アイシング前VAS52.2±16.4mm・患部アイシング後VAS47.6±19.6mm・手部アイシング前VAS66.2・手部アイシング後VAS42.8±28.3・患部アイシング変化率-4.6±15.4mm・手部アイシング変化率-23.4±27.5mm・術後最大CRP値6.7±4.5mg/dl・現状の経過に対する不安度30.0±29.7mm・膝屈曲角度100.3±20.1°であった.また,16名中14名が手部のアイシング中に「気持ち良い」と答えた. アイシングの効果について,患部アイシング前後のVAS(前:52.2±16.4 mm,後:47.6±19.6 mm)においては有意な差を認めなかったが,手部アイシング前後のVAS(前:66.2±10.9 mm,後42.8±28.3 mm)では有意な差を認めた(p<0.01).アイシング後のVAS変化率において,患部へのアイシング変化率に相関性を認める評価項目は認められなかったが,手部へのアイシング変化率は不安度(r=-0.51,p<0.05),膝屈曲角度(r=-0.51,p<0.05)と負の相関関係をそれぞれ認めた.【考察】 本研究はTKA後症例に対して患部よりも遠隔部位へのアイシングが効果的であることを示したはじめての報告である.Nielsen(Pain,2008)らは健常者の膝関節部位への圧痛閾値は手への寒冷刺激によって上昇し,その要因として下行性疼痛抑制系の賦活を挙げている.本研究において,患部周辺は持続した炎症によって,末梢からの刺激伝達系に異常が生じており,同部位にアイシングを行っても下行性疼痛抑制系が賦活する正常な神経反応が生じなかったのかもしれない.また,手部へのアイシング後にVASがより軽減していた症例では,現状の経過に対する不安度が高い傾向にあった.不安は痛みをより増強させることが報告されており,その増強された痛みが下行性疼痛系の賦活によって減少されたため,不安が強い人ほどより痛み抑制効果が高かった可能性がある.膝屈曲角度が低下している症例ほど手部へのアイシングによる痛み変化率は低かった.これは膝屈曲角度が低い症例では,軟部組織の伸張性などの器質的問題が痛みにより関与するため,手部へのアイシングの効果が低かったと考えられる.【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果より,術後不安が強いTKA後症例に対する疼痛の管理方法として手部のアイシングが有効であることが明らかとなり,新しい物理療法手法としての可能性が示唆された.
著者
中村 正彦 Anders Øverby 高橋 哲史 松井 英則 高橋 信一 村山 琮明
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.278-284, 2016-04-01

はじめに ヘリコバクター・ピロリ(以下,ピロリ菌)の発見と前後して,人間の胃に別の種類のらせん菌が存在することが,ドイツのHeilmannら1)により報告された.この菌は,“ハイルマニイ菌”と総称され,ピロリ菌に比べて大型で,粘液層に加え,胃腺腔深部に存在することが報告された(図1).ピロリ菌は霊長類以上にしか通常は感染しないのに対し,ハイルマニイ菌の大きな特徴は,いわゆる人獣共通感染症の一つであり,犬,猫,豚などがホストだということである.わが国においては,1994年に弘前大学のTanakaら2)により初めて報告されているが,その後の報告は,畜産関係以外は,あまり多くなかった. 2014年2月に,わが国ではピロリ菌陽性慢性胃炎に対する除菌が保険適用となり,ピロリ菌の国民総除菌時代に突入した.その結果,ピロリ菌の除菌が進み,上部消化管疾患の変容が始まりつつある.その一つである,菌交代現象として,ハイルマニイ菌感染が増加することが危惧されており,研究代表者らはハイルマニイ菌陽性症例を報告している.また,ピロリ菌陰性の胃MALTリンパ腫,慢性胃炎,鳥肌胃炎などで陽性症例を認めているが,MALTリンパ腫以外については,いままで報告は断片的なものだった. 診断に関しては,ハイルマニイ菌では,ウレアーゼ(urease)活性は陰性あるいは弱陽性程度のため,リアルタイムPCR(real time-polymerase chain reaction:RT-PCR)法がゴールドスタンダードとなっている.そのために,簡便で迅速な診断法の開発が急務と考えられる. 筆者らは,2005年より動物および人由来のハイルマニイ菌をマウスへ感染させることで,高頻度に胃MALTリンパ腫を誘発することに成功し,そのモデルを用いて,基礎,臨床両面からの検討を行ってきた. 本稿では,現時点でのハイルマニイ菌の全体像,最近の話題および検査とのかかわりについて述べたい.
著者
村山 美穂
出版者
日本動物心理学会
雑誌
動物心理学研究 (ISSN:09168419)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.91-99, 2012 (Released:2012-07-27)
参考文献数
43
被引用文献数
1

Various studies have shown the associations between individual differences in human behavioral traits and genetic polymorphism of neurotransmitter-related proteins such as receptor, transporter and monoamine oxidase. To insight the genetic background of animal behavior, corresponding regions in animals have been analyzed. Especially the study has been promoted in dogs as the socially closest animal to humans. In dogs allele distributions of several genes were different among breeds showing different behavioral traits, and genes associating individual difference in aggressiveness and aptitude of working dogs were surveyed. The survey of behavior-related genes is also carried out in other mammals such as primates, horses and cetaceans and also in birds. The marker genes for behavior will provide useful information for better relationship with companion dogs and effective selection of working dogs.