著者
田中 宏和 小林 廉毅
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.6, pp.433-443, 2021-06-15 (Released:2021-06-25)
参考文献数
28

目的 わが国で職業ごとの喫煙習慣にどのくらいの差があるか明らかでない。本研究は日本標準職業分類に基づく職業別喫煙率の推移を分析することで,喫煙対策のための基礎資料とすることを目的とした。方法 国民生活基礎調査の個票データを2001年から2016年までの3年ごとに分析した。喫煙に関する質問項目の「あなたはたばこを吸いますか」に対して「毎日吸っている」または「時々吸う日がある」と回答した人を現在喫煙者と定義し,25歳から64歳までの年齢調整喫煙率を算出した。職業は日本標準職業分類をもとに「管理的職業従事者」,「専門的・技術的職業従事者」,「事務従事者」,「販売従事者」,「サービス職業従事者」,「保安職業従事者」,「農林漁業従事者」,「輸送・機械運転従事者」,「生産工程従事者/建設・採掘従事者/運搬・清掃・包装等従事者」,「無職/不詳」の10区分に分類した。結果 全人口(25-64歳)の喫煙率はこの15年間に男性で56.0%から38.4%に,女性で17.0%から13.0%に低下していた。2016年において最も喫煙率が高かった職業は男女とも「輸送・機械運転従事者」で男性48.3%(95%信頼区間:46.8-49.7%),女性38.5%(95%信頼区間:32.6-44.5%)だった。最も喫煙率が低かった職業は男女とも「事務従事者」で男性27.9%(95%信頼区間:27.0-28.8%),女性9.4%(95%信頼区間:9.0-9.7%)だった。男性では2001年から2016年にかけてすべての職業で喫煙率は低下し,最も喫煙率が低下したのは「事務従事者」で21.0ポイント低下だった。女性では「輸送・機械運転従事者」と「保安職業従事者」を除くすべての職業で喫煙率は低下し,最も喫煙率が低下したのは「販売従事者」で7.2ポイント低下だった。どの年齢層においても「事務従事者」の喫煙率が最も低い傾向は男女とも一貫していた。男性では30-34歳において職業別喫煙率の差が最も大きかった。結論 わが国では2001年から2016年にかけて男女とも「事務従事者」の喫煙率が最も低く,「輸送・機械運転従事者」で最も高かった。喫煙率は低下しているものの職業別喫煙率の差は大きく,とくに若い世代で差が大きかった。職業や働き方は多様化しており,社会的背景や労働環境の変化を考慮した喫煙習慣の対策が必要である。
著者
田中 宏典 古森 哲 富田 一誠 瀧川 宗一郎 稲垣 克記
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.509-513, 2012 (Released:2013-03-14)
参考文献数
7

症例は5日前からの左下肢痛を主訴に当科を初診した67歳の男性である.合併疾患として直腸癌があり,2回の手術を受け,その後の抗癌剤治療が進行中であった.初診時所見で左第4腰椎神経根領域に疼痛を認め,腰部脊柱管狭窄症など念頭に精査,治療を開始した.初診から5日経過後に疼痛の増悪と共に左第4,5腰椎神経根領域に水疱を伴う皮疹を認めた.下肢帯状疱疹と診断し抗ウィルス薬の点滴と軟膏による治療を開始した.治療開始から1か月後に下肢痛も軽快し水泡も痂皮化した.本症例では,当初腰椎疾患を疑ったが,下肢痛の出現から10日後に皮疹が出現して初めて診断が可能となった例である.腰椎疾患が多い高齢者では下肢痛の病因としての帯状疱疹は初診時の診断が難しい.免疫能低下が考えられる高齢者の下肢痛では,帯状疱疹も念頭に置いて注意深く診察する必要があると思われた.
著者
田中 宏明 辻 利則 川瀬 隆千 竹野 茂
出版者
宮崎公立大学
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 (ISSN:13403613)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.193-221, 2006

なぜ国際関係論を教育するかという問いに対してカントのコスモポリタニズムから回答できる。なぜならば、カントのみが戦争と平和、コスモポリタン秩序、そして世界市民教育ということを国際関係論において教育する理由をトータルに考える糸口を提供するからである。最初に、国際関係論におけるカント的伝統を否定的に規定している英国学派と、カントの平和論を肯定的に捉えそれに依拠するリベラリズムの代表的研究としてデモクラティック・ピース論を取り上げる。次に、カントのコスモポリタニズムについての理解を深めるために、国際関係論の議論の枠組みを越えて寺田俊郎らの哲学者の議論を踏まえ、カントのコスモポリタニズムについて考察する。ユルゲン・ハーバーマスによると、カントの平和連合の構想にいかなる問題があるか、そして現代のグローバルな情勢を踏まえて、カントのコスモポリタン秩序はいかに改めるべきかが明らかになる。さらに、カントのコスモポリタニズムの観点から、英国学派とデモクラティック・ピース論におけるカントのコスモポリタニズムの捉え方を批判する。最後に、世界市民教育とはどのようなものなのかをマーサ・ヌスバウムに依拠して考え、世界市民教育の立場から、国際理解教育とグローバル教育を批判的に検討する。
著者
田中 宏季 柏岡 秀紀 キャンベル ニック
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. SP, 音声 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.111, no.225, pp.49-54, 2011-09-29

我々は相手のパラ言語や笑いなど声によって変わる情報から,Engagementという次元で対話相手の興味レベルをセンシングし,自閉症児に視覚情報を含み伝達するシステムの開発を最終目標とする.コンピュータを用いたEngagement Sensingの初期段階として,人間の気持ちや意図が表出されやすいと考えられる笑い声に注目する.本稿では,笑いが4種類に分類されることを示し,その「笑い分類」を自閉症児がどの程度識別できるのか,また実際に自閉症児を指導している先生の笑いアノテーション結果を分析し,その音響特徴量について議論する.最後にSVMによるcloseでの自動識別を行い,58%の正解率を得た.
著者
海老根 直之 北條 達也 中江 悟司 田中 宏暁 檜垣 靖樹 田中 歌 荒井 翔子 濱田 安重 石川 昂志 森川 綾子 鈴木 睦子 渡口 槙子
出版者
同志社大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では,共に摂取した飲料と食物が互いの水分の吸収速度に与える影響と,体位の変換が水分の吸収速度に与える影響を検討することを目的とした.その結果,水分を速やかに補給するためには,飲料を固形食と同時に摂取するよりも10分先行して摂る方が有効であること,飲料の量と温度は飲料水分だけでなく共に摂取した固形食の水分の吸収にも影響しうること,加えて,体位を工夫することで水分の吸収を促進できる可能性が示された.これらの知見は,効果的な水分の補給法の確立には,従来行われてきた飲料単体に焦点を当てた検討だけでなく,食事や体位といった実用時に生じる要因も含めた検討の必要性を示唆するものである.
著者
齊藤 愼一 海老根 直之 島田 美恵子 吉武 裕 田中 宏暁
出版者
The Japanese Society of Nutrition and Dietetics
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.317-332, 1999-12-01 (Released:2010-02-09)
参考文献数
54
被引用文献数
2 2

エネルギー所要量は栄養所要量の基礎とされている。幼児期から高齢期まで生涯にわたり健康で活力のある生活を送るには, どれだけ食べればよいかを考えることに加えて適切な運動を生活に取り入れることが重要である。一方, 激しいトレーニングを行うスポーツ選手では, 不適切なエネルギー摂取は競技成績の低下につながりやすい。このような点から, 我が国に限らず世界各国で1日のエネルギー消費量の適正な測定法に関心が集まっている。二重標識水 (Doubly Labeled Water; DLW) 法は, エネルギー消費量測定法の比較的新しい方法であり, 実験室内でも実験室外でも幅広く使用できる。日常生活状態のエネルギー消費量を測定できるゴールドスタンダードであり, 得られた値はより実際に近い状況でのエネルギー消費量の基準となると考えられている。しかし, 使用する安定同位体の酸素-18 (18O) の価格及び分析機器が高額なので, 多数の被験者を用いる実験や疫学的調査あるいは教育プログラムへの応用には制限がある。ここでは, この原理と実際の測定について解説し, 加えて健康づくりの運動やスポーツへの応用についても述べた。
著者
田中 宏和 宮澤 英樹 林 清永 峯村 俊一 倉科 憲治 栗田 浩
出版者
公益社団法人 日本口腔外科学会
雑誌
日本口腔外科学会雑誌 (ISSN:00215163)
巻号頁・発行日
vol.60, no.10, pp.581-586, 2014-10-20 (Released:2015-07-17)
参考文献数
22
被引用文献数
1 2

The number of patients attacked by bears has been rising recently because the opportunity to encounter wild bears has increased. Bear attacks usually focus on the head and neck areas, and the attack sometimes causes fatal injuries.We report two cases of multiple facial lacerations and mandibular bone comminuted fractures caused by a bear attack.A 70-year-old man and a 60-year-old man were attacked by a black bear while mushroom picking. They sustained mandibular bone comminuted fractures with deep lacerations of the face. They were brought to our emergency room. Their lives were saved by immediate surgery. In addition, it was necessary to provide preventative measures against infection.
著者
斉藤 太一 福 典之 三上 恵里 川原 貴 田中 宏暁 樋口 満 田中 雅嗣
出版者
一般社団法人日本体力医学会
雑誌
体力科学 (ISSN:0039906X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.443-451, 2011 (Released:2011-08-30)
参考文献数
25
被引用文献数
2 4

Background: Although previous reports have shown a lower proportion of the ACTN3 XX genotype (R577X nonsense polymorphism) in sprint/power athletes compared with controls, possibly attributed to the importance of skeletal muscle function associated with alpha-actinin-3 deficiency, the findings on association between endurance athlete status and R577X genotype are equivocal. Purpose: The present study was undertaken to examine association of ACTN3 R577X genotype with elite Japanese endurance athlete status. Subjects and Methods: Subjects comprised 79 elite Japanese endurance runners (E) who participated in competition at national level and 96 Japanese controls (C). We divided endurance runners into two groups, i.e., 42 national level runners (E-N) and 37 international level runners (E-I) who had represented Japan in international competition. R577X genotype (rs1815739) was analyzed by direct sequencing. Frequency differences of polymorphisms between athletes and controls were examined by Chi-square tests. Result: The R allele frequency tended to be higher in E group than in C group (P=0.066). When we divided E into two groups, the R allele frequency in E-I group was significantly higher than that in C group (P=0.046); whereas there were no significant differences between E-N and C groups (p=0.316). Then, the three genetic models were tested. In the additive genetic model (RR>RX>XX), there were significantly differences between E-I and C (P=0.038), but not the dominant (RR vs. RX+XX) and the recessive (RR+RX vs. XX) genetic models. Conclusion: R allele of the R577X genotype in the ACTN3 gene was associated with elite Japanese endurance athlete status.
著者
進藤 宗洋 西間 三馨 田中 守 田中 宏暁
出版者
福岡大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

運動誘発性喘息(EIB)は、喘息児の身体活動を制限する大きな障害である。このため、喘息児のEIBを軽減してやることは、発育発達途上にある児の身体的・社会的な成熟を促すと思われる。この一連の研究では、喘息児を対象にし、いくつかの有酸素性運動の強度に対する生理的反応に基づいてEIBの重症度に関係する、危険因子と運動条件とを明確にし運動療法の至適運動強度を決定した。そして、持久的トレーニングがEIBに及ぼす影響を検討した。初年度には、EIBに及ぼす運動強度の影響について観察し、喘息児の運動療法における至適運動強度の検討を行った。その結果EIBの程度は運動強度に依存して増加することが確認され、乳酸闘値の125%に相当する強度は、有酸素性作業能の向上が期待でき、尚かつ、重症なEIBを起こすことなく安全に行える運動強度として上限であると考えられた。そこで次年度には、自転車エルゴメーターを用い、125%LT強度で1回30分、週6回、4週間のトレーニングを施行したところ、有酸素性作業能の向上、トレーニング前と同一強度でのEIBの改善が認められ、EIBの改善は有酸素性作業能の向上によるものであることが示唆された。また、トレーニング期間を延長し、2ケ月間行ったところ、同一強度だけでなく、相対強度においてもEIBが改善され、何らかの病理的変化が起こったと思われた。最終年度には、3週間の脱トレーニングが、有酸素性作業能とEIBや気道過敏性などの6週間のトレーニング効果に及ぼす影響を検討した。その結果、脱トレーニングによるトレーニング効果の消失は、EIBや気道過敏性における力が有酸素性作業能におけるより遅く、トレーニングは、EIBに及ぼす何等かの病理的改善にも関与することが示唆された。以上の結果から、持久的トレーニングは、喘息児の体力を向上させるだけでなく、EIB、気道過敏性を改善させ、臨床症状の改善にも十分期待できる治療法の一つであると考えられた。
著者
高木 亮 田中 宏二
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.165-174, 2003-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
23
被引用文献数
16 8

本研究は公立小・中学校教師の職業ストレッサーにはどのようなものがあり, どのようにストレス反応を規定するのかを検討することを目的とする。欧米の先行研究における職業ストレッサーの体系的な分類を参考に我が国の教師に見合った職業ストレッサーに関する質問項目群を設定した。これにストレス反応としてバーンアウト尺度を加えた調査を小中学校教師710名を対象に実施し検討を行った。その結果, 「職務自体のストレッサー」が直接バーンアウトを規定していることと, 「職場環境のストレッサー」は「職務自体のストレッサー」を通して間接的にバーンアウトを規定していることが明らかにされた。また, 「個人的ストレッサー」については相関分析で検討を行った。
著者
田中 宏幸
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.65, no.7, pp.305-317, 2016-07-15 (Released:2016-07-15)
参考文献数
28

宇宙線に起因する高エネルギーのミュオンは透過力が非常に強いため,地球内部の観測に応用することができる。これまでに,火山や断層,洞窟などを対象に,地球浅部構造の観測が行われてきた。中でも火山を対象にした観測では,マグマの形状や位置を視覚化することにより,噴火推移の予測に使える可能性があることがわかってきた。本報文では,ミュオンによる地球内部観測の原理と手法,そして最近の成果についてレビューする。
著者
田中 宏幸
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1_2, pp.93-102, 2012 (Released:2016-04-15)
参考文献数
13
被引用文献数
1

宇宙から地球に飛来する一次宇宙線と大気の相互作用で作られる大気ミュオンを用いて巨大物体の内部構造を調べようとする実験は今から50年以上前に考案された。その後,ピラミッドや資源探査などをモチベーションとして数多くの科学者がミュオンを用いたイメージング技術 (ミュオグラフィー) の開発を試みてきた。しかし,既知の物質の発見など原理検証実験に留まる実験が多かった。2006年ミュオグラフィーを火山内部のイメージングに適用して始めて視覚的に確認できない部分の構造を描き出すことに成功した。その結果, これまで見ることができなかった,巨大産業プラント内部の可視化への応用も進んだ。本論文ではミュオグラフィーの歴史を振り返りながら, 当時の問題点を明らかにしつつ,その打開策を技術論的観点から論ずる。また,技術論文や解説記事として既に数多く出版されている2006-2008年のミュオグラフィー観測結果には触れずに出来るだけ最新の技術や観測結果を盛り込むことで, 現状と未来に焦点を当てた形とする。
著者
内藤 悠基 矢矧 宗一郎 須賀 良介 橋本 修 松沢 晋一郎 塚田 浩司 田中 宏哉 服部 佳晋
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. EMCJ, 環境電磁工学 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.113, no.423, pp.69-73, 2014-01-23

近年,自動車のHV,EV化に伴い,自動車の電子機器から発生するノイズが自車のAMラジオの受信妨害になることが懸念されている.電子機器からのAMラジオ帯の漏洩磁界の抑制には,電子機器の筐体を模擬した3次元構造の磁界シールド特性の評価方法が不可欠である.本研究では,金属筐体に開口を設けた場合のAMラジオ周波数帯における漏洩磁界の解析モデルを提案する.まず,筐体を構成するアルミ板とコイルのモデル化を検討した.次に,これらのモデルを電磁界解析シミュレーションに取り入れ,磁界シールド特性を評価した.その結果,シールド効果の周波数依存性は,測定結果と定性的に一致することを確認し,本モデルによりシールド特性を評価可能なことを明らかにした.
著者
田中 宏和
出版者
日本情報経営学会
雑誌
日本情報経営学会誌 (ISSN:18822614)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.63-73, 2015-12-18

In the management information field, the language education of a computer is important. In the conventional language education, it is a curriculum centering on grammar. However we are able to learn the essence of a management information system trough developing an operation system. In this paper, we propose the methodology in which beginners can also develop an operation system easily. First, students deepen knowledge of an operation system by experiencing a business game. Next, students develop system. By developing system, students use structured programming and object-oriented approach. Our methodology is also method by active learning.
著者
田中 宏幸
出版者
[出版者不明]
巻号頁・発行日
2006 (Released:2016-11-23)

制度:新 ; 文部省報告番号:乙2104号 ; 学位の種類:博士(教育学) ; 授与年月日:2007/6/26 ; 早大学位記番号:新4563
著者
田中 宏明
出版者
宮崎公立大学
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 (ISSN:13403613)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.101-126, 2009

マーサ・ヌスバウムは、社会正義の三つの未解決の問題のひとつとして、正義をすべての世界市民に拡大するという問題を取り上げている。ヌスバウムは、この問題に対してケイパビリティが国際的な重なり合うコンセンサスの対象となりうる構想を提唱する。この構想がヌスバウムのグローバル正議論である。ケイパビリティ・アプローチには人間の尊厳に基づいた人の権原という構想が中核にあり、グローバル正議論はケイパビリティ・アプローチをグローバル化するアプローチである。ケイパビリティ・アプローチをグローバル化する際に制度が重視され、グローバル構造のための十原理が提起される。この十原理は、不平等な世界において人間のケイパビリティがいかに促進されうるかについて少なくとも考える手助けとなるものである。ヌスバウムのグローバル正議論はコスモポリタン正議論と見なしうる。ヌスバウムは、ロールズの政治的リベラリズムを受け継ぐにもかかわらず、ロールズの正議論と国際正議論には批判的である。ロールズの正議論において正義の主体が人間であるのに対して、ロールズの国際正議論においては民衆が主体となり、ロールズの正議論と国際正議論ともに、社会契約論にヒュームの正義の環境を結びつける理論に基づいて、契約の形成者と正義の主要な主体を合成するために、相互利益が得られるおおよそ平等ではない当事者を正義の主要な主体とは数えないという問題がある。ヌスバウムのグローバル正議論に対する社会科学者からの批判を検討する。最後に、コスモポリタン正議論としてのベイツ、ポッゲ、そしてヌスバウムの理論を検討し問題点を指摘する。