著者
水谷 仁一 伊藤 岳史 岩堀 裕介 竹中 裕人 鈴木 達也 大家 紫 清水 俊介 矢澤 浩成 太田 和義 花村 浩克 筒井 求
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.27, pp.87, 2011

【緒言】投球フォームと投球障害との関連についての報告は散見され,投球障害の治療として投球フォームの修正は再発予防の観点から重要である.しかし不良な投球フォームの修正は簡単ではなく,中には難渋する症例を経験する.このような症例は機能的な問題が不良な投球フォームの原因となっているだけではなく,投球フォームのイメージ自体やその想起,再現に問題がある可能性も考えられる.一般に脳内には運動プログラムが内部モデルとして存在し,運動を行う際にはその運動プログラムをもとに運動が実行されている.つまり,投球フォームを修正するには機能的な面からのみアプローチするだけではなく,投球フォームの内部モデルを投球イメージとして評価し修正する必要もあると思われる.しかし投球フォームのイメージについての報告は少ない.【目的】本研究の目的は,中学生野球選手における投球フォームのイメージを調査することである.【方法】対象は中学生軟式野球チームに所属し,身体に愁訴がなく,本研究の趣旨に賛同し同意の得られた10名で,平均年齢13.6±0.52歳,平均野球歴66±10.2ヶ月であった.ポジションの内訳は,投手1名,捕手2名,野手が7名で,全例右投げ右打ちである.<BR>方法は,十分なウォーミングアップのあと18m先の相手に対し全力投球を3球行わせBushnell社製スピードガンを用いて撮影と同時に球速を測定した.投球フォームの撮影はCASIO社製デジタルカメラEX-FH25を用い,側方,後方,前方の3方向からハイスピードモードで同時に行った.frame rateは240fpsとし,最も球速の速かった1球を分析対象とした.投球フォームはJobe分類を用いて5相に分類し,そのうち(1)Wind-Up phase (WP)の体幹傾斜,(2)Early-Cocking phase (EC)の投球側肘関節位置,(3)Late-Cocking phase (LC)の投球側肘関節位置を静止画にして評価した.それぞれの指標は(1)が地面からの垂線を基準線とし体幹の傾斜を確認,(2)(3)は両肩峰と投球側肘頭を結んだ線を基準線とした.<BR>運動イメージは,自分が運動を行っているような一人称的イメージと他者が運動を行っているのを見ているような三人称的イメージに大きく分類される事から,本研究では2種類の投球イメージの調査を行った.(実験1)言語教示により被検者の持つ投球イメージをWP,EC,LCの各位相で再現,静止させ,静止画で側方,後方,前方より同時に撮影した.分析は,上記の投球フォーム評価項目が実際の投球フォームと投球イメージで明らかに違いがあるものを違いありとして各位相でそれぞれ比較した.(実験2)実験1で分析対象とした位相にAcceleration phase(Ball Release)を加えた実際の投球フォームの静止画をAdobe photoshop CS4でシルエット化し,印刷した側方,後方,前方の各位相の画像を被検者の人数分提示し,自分の投球フォームがどれかを回答させ正答率を算出した.【結果】実際の投球フォームはWPでの体幹後方傾斜が7名(70%),ECでの投球側肘下がりが3名(30%),LCでの投球側肘下がりが6名(60%)であった.<BR> 実験1では明らかな違いがあったものが,WPの体幹傾斜で7名(70%),ECの肘関節位置で5名(50%),LCの肘関節位置では5名(50%)であった.投球イメージが実際の投球フォームより良好であったのはECで1名のみで,他はすべて実際の投球フォームより不良なフォームとなっていた.<BR>実験2では,シルエット化した投球フォームの正答率が側方20%,後方20%,前方20%であった.全方向で正しく選択できたものは0人で,2方向で正しく選択できたものが1名という結果であった. 【考察】本研究の結果から,実験1では投球イメージと実際の投球フォームに明らかな違いがみられ,さらに投球イメージのほうが実際の投球フォームよりも不良な投球フォームとなっている被検者が多くみられた.実験2においても全体的に正答率が低かった.これらのことから,本研究の被検者はいわゆる良好な投球イメージを元々有していないか,投球イメージを想起,再現する能力が十分でない可能性が考えられる.しかし個別で確認すると,実際の投球フォームに問題の見られなかった被検者は,実験1で2つの投球フォームに違いが少なく,実験2においても自分の投球フォームを2方向で正しく選択していた.このことから投球フォームが良好なものと不良なものとの投球イメージに違いがある可能性があり,調査,比較する必要があると思われた.その他に本研究に影響を与える因子として年齢や野球歴などが考えられるため,被検者数を増やすことや年代の幅を広げ調査する必要があると思われる.さらに投球フォームの分類はあくまで検者側に立ったものであり,選手自身が持っている投球イメージと異なっている可能性も考えられることから,投球フォームの位相を細かくするなどの工夫も必要だと考えられた.
著者
大坪 英則 鈴木 大輔 神谷 智昭 鈴木 智之 山下 敏彦 史野 根生
出版者
金原出版
巻号頁・発行日
pp.1481-1488, 2018-11-01

要旨:近年,膝前十字靱帯(ACL)再建術では,形態的にも機能的にも正常靱帯に近い靱帯を再建するために,正常靱帯付着部に骨孔を作成し自家腱を移植固定する解剖学的再建術が行われている。われわれは,新鮮屍体膝を用いた解剖学的研究を行い,ヒト正常ACLは,前内側線維束(AM束)と後外側線維束(PL束)の2線維束に分けられ,さらにAM束は内側部分(AM-M束)と外側部分(AM-L束)に分けられ,3線維束を構成することを明らかにした。さらに,線維束の配列と断面積計測,付着部位置および面積計測,MRIによる生体内画像解析,透過型電子顕微鏡(TEM)によるコラーゲン線維の微細構造についての詳細な検討を行い,ACL 3線維束の解剖学的な特徴を明らかにした。これの結果は,各線維束が力学的に異なる役割を担っていることを示しており,靱帯再建術式の決定や移植腱の選択においては,これらの線維束構造の機能解剖学的特徴を十分に考慮すべきである。
著者
荒谷 康昭 三浦 典子 大野 尚仁 鈴木 和男
出版者
日本医真菌学会
雑誌
Medical Mycology Journal (ISSN:21856486)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.123-128, 2012 (Released:2012-06-25)
参考文献数
9
被引用文献数
8 11

感染によって活性化された好中球は,活性酸素を放出して殺菌に寄与する. ミエロペルオキシダーゼ(MPO)は好中球のみに存在し,過酸化水素と塩化物イオンから次亜塩素酸が産生される反応を触媒する. MPOのノックアウト(MPO-KO)マウスが,Candida albicans, Aspergillus fumigatus, Cryptococcus neoformans の肺感染に対して極度の易感染性示す筆者らの以前の報告からも,生体防御における好中球由来の活性酸素の重要性が理解できる. 一方,興味深いことに,炎症誘発剤として頻繁に使われているザイモザンをMPO-KOマウスに経鼻投与しても,生菌感染時と類似した重篤な好中球性の肺炎を発症することを筆者らは見いだした. その発症機構を解析した結果,MPO-KO好中球は野生型好中球よりも,MIP-2を過剰分泌することが判明し,このことが,MPO-KOマウスの肺炎が野生型マウスよりも重篤化する一因であることが示された. 以上のことより,MPOの欠損は,単に感染防御能の低下を導くだけでなく,組織の炎症を助長する可能性もあることが強く示唆された.
著者
鈴木幹也著
出版者
創文社
巻号頁・発行日
1985
著者
小西 未来 鈴木 雅雄 竹田 太郎 福田 文彦 石崎 直人 堂上 友紀 北小路 博司 山村 義治
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.84-90, 2010 (Released:2010-06-07)
参考文献数
18

【はじめに】肺炎は強い咳嗽が出現し、 咳嗽はQOLは著しく低下させる。 今回、 肺炎に伴い強い咳嗽と身体疼痛を訴えた患者に対し、 鍼治療を行い良好な結果が得られたので報告する。 【症例】47歳女性。 主訴:咳嗽とそれに伴う身体疼痛。 現病歴:X年8月2日近医にて肺炎と診断され、 抗生剤を処方されたが症状の改善を認めず、 本学附属病院内科を紹介受診し同日より入院加療となった。 繰り返す咳嗽とそれに伴う身体疼痛が強いため主治医に指示によりX年8月7日鍼治療併用を開始した。 所見:血液検査にて炎症所見を認め、 胸部聴診、 胸部CTにて肺炎所見を認めた。 【評価】咳嗽時の身体疼痛をVisual Analogue Scaleにより評価した。 【治療・経過】鍼治療は鎮咳と身体疼痛軽減を目的に弁証論治に基づいて配穴し、 置鍼術は10分とした。 7日間に10回の鍼治療を行い、 症状の軽減が認められた。 【考察・結語】本症例において咳嗽とそれに伴う身体疼痛に対し、 鍼治療を併用することが有効である可能性が示唆された。
著者
山本 昌樹 林 省吾 鈴木 雅人 木全 健太郎 浅本 憲 中野 隆
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100444, 2013

【はじめに】上腕筋は,上腕骨前面下半部に単一の筋頭を有するとされるが,Gray&rsquo;s Anatomy(2005)においては「2 〜3 部からなる変異が見られる」と記載されている.一方,Leonello et al.(2007)は,「上腕筋は,全例において浅頭と深頭の2 頭を有する」と報告している.我々は,第16 回臨床解剖研究会(2012)において,上腕筋が3 頭から構成されることを明らかにするとともに,肘関節屈曲拘縮との関連について報告した.今回,これら3 頭の形態的特徴と機能について考察する.【対象および方法】愛知医科大学医学部において,研究用に供された解剖実習体15 体24 肢を対象とした.上肢を剥皮後,上腕二頭筋,腕橈骨筋,長・短橈側手根伸筋を展開した.上腕筋を起始部より分離して筋頭を同定し,筋頭の走行や配列を詳細に観察した.【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,死体解剖保存法に基づいて実施し,生前に本人の同意により篤志献体団体に入会し研究・教育に供された解剖実習体を使用した.観察は,愛知医科大学医学部解剖学講座教授の指導の下に行った.【結果】全肢において,上腕筋は,三角筋後部線維から連続する筋頭(以下,外側頭),三角筋の前方の集合腱から連続する筋頭(以下,中間頭),上腕骨前面から起始する筋頭(以下,内側頭)に区分することができた.外側頭は,上腕骨の近位外側から遠位中央に向かって斜めに,かつ,浅層を走行して腱になり,尺骨粗面の遠位部に停止していた.中間頭は,最も薄く細い筋束であり,内側頭の浅層を外側頭と平行して走行し,遠位部は内側頭に合流していた.内側頭は,最も深層を走行し,停止部付近においても幅広く厚い筋腹から成り,短い腱を介して尺骨粗面の近位内側部に停止していた.これら3 頭は,上腕中央部においては,外側から内側へ順に配列していた.しかし肘関節部においては,外側頭と中間頭は浅層に,内側頭は深層に配列していた.また,内側頭の縦断面を観察すると,一部の線維が肘関節包前面に付着する例が存在した.これらの例において肘関節を他動的に屈曲させると,内側頭とともに関節包の前面が浮き上がる様子が観察された.【考察】上腕筋を構成する3 頭は,内側から外側へ配列しているだけではなく,各頭が特徴的な走行や形態を呈するため,それぞれ異なる機能を有することが推測される.上腕筋外側頭は上腕骨の近位外側から遠位中央へ,一方の上腕二頭筋は近位内側から遠位中央へ斜走する.そのため肘関節屈曲時,上腕筋外側頭は前腕近位部を外上方へ,一方の上腕二頭筋は内上方へ牽引すると考えられる.すなわち肘関節屈曲時,外側頭と上腕二頭筋は共同で,前腕軸の調整を行うと考えられる.また外側頭は,3 頭の中で最も遠位に停止し,肘関節屈曲における最大のレバーアームを有するため,肘関節屈曲における最大の力源になることが示唆される.さらに,外側頭は三角筋後部線維から連続するため,三角筋の収縮によって,作用効率が変化する可能性がある.換言すれば,外側頭の作用効率を高めるためには,三角筋後部線維を収縮させた上で肘関節屈曲を行うことが有効であると思われる.内側頭は,肘関節部において深層を走行し,幅広く厚い筋腹を有する.したがって,肘関節屈曲時に収縮して筋の厚みが増すことによって,外側頭のレバーアームを維持または延長し,その作用効率を高める機能を有すると考えられる.また,肩関節の腱板が上腕骨頭を肩甲骨へ引き寄せる作用と同様に,内側頭は,尺骨滑車切痕を上腕骨滑車に引き寄せ,肘関節の安定性向上に寄与すると考えられる.さらに,内側頭が関節包前面に付着する例があることから,肘関節運動に伴う関節包の緊張度を調節する機能が示唆される.換言すれば,内側頭の機能不全によって,関節包前面のインピンジメントや肘関節屈曲拘縮が惹起される可能性が推測される.中間頭は,最も薄く細いため,その機能的意義は小さいと思われる.しかし,上腕中央部においては外側頭と並走し,遠位部においては内側頭に合流することから,外側頭と内側頭の機能を連携する,文字通り'中間的な&rsquo;役割を担うと考えられる.上腕筋は,3頭を有することによって,肘関節屈曲における前腕軸の調整,作用効率の向上,肘関節包の緊張度の調節など複合的な機能を担うと考えられる.また,肘関節屈曲に関しては,主として外側頭が機能することが示唆される.【理学療法学研究としての意義】根拠に基づく理学療法を行うためには,とくに筋骨格系に関する機能解剖学的かつ病態生理学的な研究が不可欠である.本研究は,上腕筋の筋頭構成を詳細に観察し,肘関節運動に対する関与について考察を加えたものであり,肘関節拘縮の病態理解や治療の発展にも寄与すると考える.
著者
鈴木 哲 平田 淳也 栗木 鮎美 富山 農 稙田 一輝 小田 佳奈枝 高橋 正弘 渡邉 進
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.103-107, 2009-02-20
参考文献数
14
被引用文献数
2 4

〔目的〕本研究の目的は,片脚立位時の体幹筋活動の特徴を明らかにした上で,片脚立位時の体幹筋活動と重心動揺の関係を検討することである。〔方法〕健常者10名(25.1±4.4歳)を対象に,両脚立位,片脚立位時の体幹筋活動と重心動揺を測定した。〔結果〕片脚立位では,両脚立位と比べて,挙上側胸腰部脊柱起立と外腹斜筋活動増加率が有意に高かった。立脚側腰部多裂筋と内腹斜筋の筋活動増加率が高い傾向にあった。また挙上側体幹筋活動と重心動揺との間に有意な相関がみられた。〔結語〕片脚立位バランスには体幹筋活動が関与する可能性が示唆された。<br>
著者
開 一夫 鈴木 宏昭
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.2_69-2_79, 1998-06-01 (Released:2008-10-03)
参考文献数
23

Research on insight has accumulated empirical evidence on its cognitive processes. However, there is little agreement on what problem-solvers learn from their initial failures and at what point an insight actually takes place. To explore these issues, we first propose a general framework that involves three constraints, object-level, relational, and goal. The object-level and relational constraints represent people's natural preferences of how objects and relations in a given problem are represented. The goal constraint evaluates a degree of match of the current state to the goal, and leads problem-solvers to select specific combinations of the representations of objects and relations. In the processes of insight, these constraints operate simultaneously and are gradually relaxed by repeated impasses. Using a geometric puzzle problem, we empirically tested hypotheses derived from the framework. Experimental results revealed that the initial persistence in a wrong approach could be explained by the object-level and goal constraints, and that subjects could reach an insight by relaxing the object-level constraints as well as allowing easy operation of goal constraints.
著者
鈴木 克夫 スズキ カツオ Katsuo Suzuki
雑誌
メディア教育研究
巻号頁・発行日
vol.3, pp.1-12, 1999

「遠隔教育(distance education)」とよばれるものには二つの種類がある。一つは、従来の通信教育(correspondence education)から漸進的に発展した遠隔教育であり、もう一つは、通信教育を出自とせず、メディアを利用してフェイス・トゥー・フェイスの環境をできるだけ忠実に再現しようとする遠隔教育である。この二つの遠隔教育の根本的な違いは、前者が、教育には対面教育と遠隔教育の二つの種類があって遠隔教育は対面教育とは異なる独自の教育形態であると考えるのに対して、後者は、教育は一つであって、遠隔教育はそれがたまたま離れて行われるだけで、独自の教育形態ではないと主張している点にある。前者を「自立学習型遠隔教育」、後者を「仮想教室型遠隔教育」と名づけることができる。マルチメディア技術の発達によって、対面教育(通学制の教育)と遠隔教育(通信制の教育)とのボーダレス化か論じられる中で、二つの遠隔教育の存在を認識し、その違いを十分に吟味することが、遠隔教育のみならず、今後の教育全体の在り方を考える上で重要である。
著者
鈴木 英明 三田 肇 藤田 光 小泉 直也 岡田 珠美 水野 恭子 有川 量崇 池見 宅司
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.296-303, 2010-06-30 (Released:2018-03-29)
参考文献数
40

齲蝕は口腔内の細菌が産生する酸によって引き起こされる疾患であり,連鎖球菌の1種であるStreptococcus mutansを代表とする齲蝕原因菌による内因性疾患であることが明らかにされている.現在,実用化されている齲蝕予防法には,宿主対策としての歯質強化を目的としたフッ化物の応用があるが,それ以外は効果的な齲蝕予防対策が得られていないのが現状である.近年,齲蝕罹患率の減少や予防のためにさまざまな研究が行われており,齲蝕予防効果を付与した種々の口腔用剤や飲食物が考案されてきている.アントシアニンは,フラボノイドの1種で植物性食品素材の色素成分として検出され,抗酸化作用,抗肝障害作用,視神経機能改善作用,抗炎症作用,動脈硬化改善作用などを有する.今回,われわれはアントシアニン系のなかからナスの皮に含まれるポリフェノールの1種であるナスニンに着目した.本研究の目的は,デルフィニジン型アントシアニンに属するナスニンに齲蝕予防の可能性があるかどうかを,その抗菌作用についてin vitro実験において調べることである.検討の結果,以下の知見が得られた.1.S.mutansに対する最小発育阻止濃度は500μg/mlであった.2.Streptoccus sobrinusに対する最小発育阻止濃度は250μg/mlであった.3.Actinomyces viscosusに対する最小発育阻止濃度は500μg/mlであった.4.ナスニンの抗菌作用は,S.mutans,S.sobrinusおよびA.viscosusのresting cellに対して殺菌的であった.5.ナスニンは,S.mutans PS-14株ならびにS.sobrinus 6715株産生粗glucosyltransferaseのsucrose依存性非水溶性グルカン合成活性を顕著に阻害した.以上のことより,ナスニンは齲蝕原因菌に対して顕著な殺菌作用が認められ,抗齲蝕作用を有することが示唆された.
著者
鈴木 穂高
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.31-33, 2020-02-25 (Released:2020-04-24)
参考文献数
10

フグ毒のマウス試験では,ddY系統のマウスを用いることが定められている.ddY系統のマウスは,国立予防衛生研究所を起源とし,3社より供給されていたが,3社のddY系統コロニーは分離してから30年以上が経過している.本研究では,3社のddY系統マウスを用いて,テトロドトキシンに対する感受性の違いについて調べた.実験は参考法に従い,テトロドトキシン試験溶液をマウスの腹腔内に投与し,致死時間を測定した.その結果,ブリーダー間でマウスのテトロドトキシン感受性に有意な差は見られなかった.しかし,平均値に対するデータのばらつきを示すCV値にはブリーダー間で差異が見られ,試験結果の安定性に対するブリーダーの影響が示唆された.
著者
山下 梓 篠原 雄治 坂井 浩晃 宮本 靖久 鈴木 康司 永富 康司
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.41-46, 2020-02-25 (Released:2020-04-24)
参考文献数
9

レトルト殺菌を受けた人毛DNAは,湯せんや電子レンジ加熱と比較して著しく断片化することから,この断片化をPCRで検出することでレトルト殺菌履歴の判別,すなわち人毛が工程内で混入したか否かを判断できると考えた.ヒトDNA特異的検出プライマーとして,レトルト殺菌判別には増幅産物長約500 bp,DNA抽出確認用に増幅産物長約200 bpとなるプライマーセットをそれぞれ設計し,微小な人毛でも評価できるようにした.増幅産物はアガロースゲル電気泳動後,蛍光染色で可視化した.混入モデル試験として,人毛をレトルト殺菌し,その抽出DNAを鋳型にレトルト殺菌判別用プライマーセットでPCRを行った結果,DNA増幅は認められず,非加熱,湯せん,電子レンジ加熱では増幅が認められた.また,DNA抽出確認用プライマーセットではいずれの加熱条件においてもDNA増幅が認められた.一方,人毛以外の混入も想定して,脊椎動物共通プライマーも同様に設計し,9種のペットや家畜由来DNAを検出できることを確認した.本手法はレトルト殺菌を受けた人毛DNAの熱分解を特異的に検出でき,レトルト食品中に発見された毛様異物の混入時期推定に有用な分析手法であると考えられた.