著者
Esben Petersen 田渕 宗孝 長谷川 紀子
出版者
北ヨーロッパ学会
雑誌
北ヨーロッパ研究 (ISSN:18802834)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.81-90, 2020 (Released:2021-07-01)

欧州福祉国家研究の近年の文献では、教会とプロテスタンティズムは、近代的福祉国家の歴史的発展における二つの中心的変数とされている。つまり、近代的福祉国家の思想とキリスト教徒の間には関連性がある、とされるのである。本稿では、福祉国家モデルの発展における教会の重要性を議論の対象とし、そうした主張のアプローチをより詳細に考察する。本稿では、先行研究のアプローチを概観し、福祉国家の起源と発展、およびそれらが説明変数として宗教をいかに利用してきたかを分析する。これにより、多様な福祉国家レジームの発展を理解するうえで宗教に大きな役割を認めようとする近年の試みにつき、対象化の道を開く。また本稿は、諸アプローチに対する批判的議論に焦点を絞る。つまり、福祉国家、教会、宗教の間に関連があるとする主張に対し、それを支持する実証的な根拠はあるのだろうか、という議論である。
著者
長谷川 史明
出版者
関西法政治学研究会
雑誌
憲法論叢 (ISSN:24330795)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.1-24, 2011-12-19 (Released:2018-01-10)

Almost all the texts on Japanese constitutional law explain constitutionalism as "the modern constitutionalism" from an age of bourgeois revolution that created politics according to a written constitution, including the protection of human rights and civil liberties. This is the popular view about constitutionalism in Japanese constitutional studies. But, in the history of political thought, constitutionalism has a broader meaning i.e. "limited government" or one of the methods of "controlling the state", traced back to ancient Greece. Therefore, constitutionalism has little to do with the existence of a written constitution. So, In this essay, I will point out several problems that occur when taking about this popular view of constitutionalism within Japanese constitutional studies.
著者
長谷川 政美
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.269-278, 2020

<p>近年のDNA塩基配列解析は,真獣類の系統関係についてさまざまなことを明らかにしてきた.そのなかでの大きな発見の1つが,真獣類は系統的にはアフリカ獣類,異節類,北方獣類という3大グループに分類できるということである.このことは,真獣類の初期進化に大陸移動による超大陸の分断が関わっていることを示唆する.しかし,超大陸の分断だけで,3大グループの間の分岐を単純に説明することはできない.これには,DNA塩基配列解析の第2の大きな成果である分岐年代推定の問題が関わっている.進化の過程でDNAの塩基置換が蓄積する速度は,さまざまな要因によって変動するので,文字通りの分子時計は成り立たない.しかし,分子進化速度の変動を考慮に入れて分岐年代を推定する方法が整備されてきた.そのような方法により,真獣類の3大グループの間の分岐は,超大陸の分断よりも新しいという証拠が集まりつつある.このことは,超大陸が分裂した後も,地質学的な時間スケールでは,大陸間で海を越えた漂着などによって生物相の交流が続いたことを示唆する.こうして真獣類の進化は,大陸移動に伴う超大陸の分断と,幸運に恵まれてはじめて成功する海を越えた漂着という2つの要因が絡み合って進んできたことが明らかになってきたのである.DNA塩基配列解析の第3の大きな成果は,現生生物のゲノム情報から祖先の生活史形質や形態形質などを推定できることであろう.本稿では,2017年に吴らが開発したゲノム情報から祖先形質を推定するための統計手法を解説し,それを真獣類の生活史形質の進化の問題に適用して得られた結果もあわせて紹介する.</p>
著者
田和 康太 細浦 大志 露木 颯 長谷川 雅美 佐久間 元成 遠藤 立 安東 正行 松本 充弘 黒沼 尚史 中村 圭吾 佐川 志朗
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
pp.21-00033, (Released:2022-07-21)
参考文献数
60
被引用文献数
1

コウノトリの採餌環境として着目されている田中調節池において,魚類を対象とした生息状況調査を 2018 年および 2019 年に実施した.また,台風 19 号通過に伴う洪水前後での魚類の分布状況を比較することで,平水時の田中調節池における魚類の生息地としての問題点および今後の配慮方針について検討した.平水時の農閑期(2018 年 12 月)では,支線排水路における魚類の分類群数および個体数は少なく,魚類の全く採集されない調査区も存在した.また,同時期に幹線排水路で確認された魚類が末端排水路ではほとんど記録されなかった.洪水後の農閑期(2019 年 11 月~12 月)には,支線排水路において魚類の分類群数,個体数ともに洪水前に比べて顕著に増加し,洪水前にはみられなかったタモロコやメダカ属等が採集された.また,洪水前には乾燥していた支線排水路も洪水後には湛水され,ドジョウ等の魚類が採集された.洪水後の各支線排水路におけるドジョウの個体数や魚類全体の個体数および分類群数には泥深が正の効果を示し,底泥の柔らかい水路環境が魚類の越冬環境として好適と考えられた.2019 年の農繁期における水田調査では,カラドジョウの繁殖のみが田面で確認された.以上より,洪水によって利根川本川から幹線排水路,支線排水路まで水域が連続し,魚類の分布域が拡大することが示唆された.その一方で,平水時の支線排水路までの連続性は低く,農繁期に多種の魚類が田面まで遡上できないこと,農閑期には支線排水路で魚類が十分に越冬できないことが明らかになった.平水時の田中調節池における魚類の繁殖場所・越冬場所としての機能を高めるためには,特に幹線排水路と支線排水路,そして支線排水路と田面との落差を解消させること,さらに底泥の柔らかい水路区間を積極的に保全し,河道内のワンド等とも連続させることで魚類の越冬場所を確保することが重要と考えられた.その一方で,こうした取り組みによって外来種の分布域を拡大させる可能性があることにも留意し,健全な水域の連続性の確保を目指す必要があるだろう.
著者
柴田 翔平 長谷川 健
出版者
特定非営利活動法人 日本火山学会
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.149-169, 2022-06-30 (Released:2022-07-28)
参考文献数
48

We studied the 40 ka Kp I eruption deposits of Kutcharo volcano to unravel its eruption sequence and generation mechanisms. Previous studies have suggested that Kp I is the youngest caldera-forming eruption in this volcano and is characterized by large-scale phreatomagmatic activity. We divided Kp I eruption deposits into 7 units (Units 1~7, in ascending order). Units 1~6 consist of alternating thin pumice and thick fine ash layers. Units 1, 3, and 5 are pumice falls (totaling 1.6 km3), while Units 2, 4, and 6 are ash falls (totaling 52.2 km3) with abundant accretionary lapilli. Stratigraphically higher ash fall units are larger in volume, finer in grain size, and more widely distributed (e.g., Units 2, 4, and 6 are 0.2 km3, 13 km3, 39 km3 respectively). Unit 7 is a climactic ignimbrite (76 km3) that subdivides into lower (Unit 7-L), and upper (Unit 7-U) parts based on the pumice size and the existence of a lithic concentration zone (LCZ).Considering its wide dispersion, high fragmentation, and existence of abundant accretionary lapilli, Unit 6 can be considered to have been deposited by a “phreatoplinian style” eruption. Even though the ejected magma volume increased during the eruption of Unit 1 to 6, interaction between ascending magma and ground water caused maximum explosivity during the eruption that deposited Unit 6. Highly fragmentated magmas might have promoted vaporization and mixing with surface (lake) water to form the buoyant eruption column of Unit 6 eruption phase. Unit 7 is the most voluminous and the richest in lithic fragments at the LCZ, suggesting caldera collapse that generated a climactic pyroclastic flow.In addition to glass shards of bubble wall and pumiceous types, Kp I eruption deposits also commonly contain flake-, and blocky-shaped glass shards produced by phreatomagmatic (quenching) fragmentation. For both types of glass shards to have been generated, part of the ascending magma would have interacted with ground water before and/or during the magmatic fragmentation (vesiculation) that generally occurs below a depth of approximately 1,000 m in felsic H2O-saturated magma systems. In conclusion, a large and deep (~1,000 m) aquifer in the former caldera basin was sustainably supplied with ground water through the conduit system. Generation of the phreatoplinian eruption seems to have been controlled by a plumbing where conduits penetrated the huge aquifer of a pre-existing caldera structure that preserved/hosted a large amount of external water.
著者
関口 瞳 長谷川 幸子 君崎 文代
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第59回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.176, 2010 (Released:2010-12-01)

はじめに 災害はいつどこで起こってもおかしくない。災害時、入院中の子供達の避難は勤務している看護師、医師に委ねられている。2010年2月から災害時の備えとして既成の小児一般病棟用の災害時避難シュミレーションを実施している。しかし、一般病棟に対してのシュミレーションが主であり小児集中治療室(以下PICU )を併設する当病棟において、PICUの避難が的確にできるか不安を感じた。また他のスタッフはPICUでの対応を理解しているのか、理解していなければ対応策を考えたいと思い、今回重症患児の避難方法について看護師に聞き取り調査を行った。 研究目的 PICUにおける災害時の避難方法について今後の課題を見出す。 研究期間:2010年2月~5月 対象:小児科病棟のPICUに勤務する看護師10名 データ収集法:聞き取り調査 災害時のPICUにおける避難に対する気持ち,優先順位,必要物品は何かを聞き取る。 倫理的配慮 聞き取り調査を実施の際、プライバシーの保護をし研究以外で使用しないことを保証した。 結果 以下の3項目の質問をした。_丸1_PICUでの避難に対する気持ちは4名が『人手が足りないことが困る』と、全員が『避難させる自信がない』と答えた。_丸2_優先順位は6名が『わからない』、4名が『人工呼吸器装着児は最後に』と答えた。しかし人工呼吸器装着児が複数いたら誰から避難させるかわからないと答えていた。_丸3_必要物品は全員が『アンビューバック』と答えた。複数回答で酸素ボンベや吸引器,救命セットなどあがってきた。 考察 スタッフもPICUの避難方法について自信がないことがわかった。また,スタッフの意見にもばらつきがあった。今後,話し合う機会を設け避難方法を統一していく必要がある。必要物品も明確にし,スタッフ間で確認しあう機会が必要である。
著者
小野 眞紀子 大野 奈穂子 長谷川 一弘 田中 茂男 小宮 正道 松本 裕子 藤井 彰 秋元 芳明
出版者
JAPANESE SOCIETY OF ORAL THERAPEUTICS AND PHARMACOLOGY
雑誌
歯科薬物療法 (ISSN:02881012)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.79-85, 2008-08-01 (Released:2010-06-08)
参考文献数
34
被引用文献数
4

15種類のカルシウム拮抗薬による歯肉増殖症発生頻度を検討した.歯肉増殖症はamlodipine, diltiazem, manidipine, nicardipine, nifedipineおよびnisoldipine服用者に認められたが, azelnipine, barnidipine, benidipine, efonidipine, felodipine, flunarizine, nilvadipine, nitrendipineおよびverapamil服用者にはみられなった.最も高い発生頻度はnifedipine (7.6%) であり, diltiazem (4.1%) , manidipine (1.8%) , amlodipine (1.1%) , nisoldipine (1.1%) , nicardipine (0.5%) の順であった.Nifedipineによる歯肉増殖症発生頻度は, amlodipine, manidipine, nicardipine, nisoldipineの発生頻度と比較して有意に高かった.
著者
長谷川 友紀
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.101, no.12, pp.3448-3454, 2012 (Released:2013-12-10)
参考文献数
9

医療の質向上の方策としては,構造,過程,結果に着目した方法,第三者評価・認定が代表的である.各国では,さらに情報公開,診療報酬などを併用しながら質向上を進めることが通例である.医療では,(1)データが断片化されており相互利用が困難,(2)患者の個別性,重症度の調整が困難,(3)評価手法の開発は個々の施設の評価に留まっていること,などにより,これまでは適切に評価を行い,改善に結び付けることが困難であった.今後は,データの標準化,医療機関が改善につなげやすい還元方法の開発,医療機関への支援策の検討が優先して行われる必要がある.
著者
堀井 満恵 石田 真由美 小橋 由希子 長谷川 ともみ
出版者
富山大学
雑誌
富山医科薬科大学看護学会誌 (ISSN:13441434)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.51-60, 2000

近年, 女性の就業承が高まり, 結婚・出産後も継続して働く,人,が増えている.そのような中で女性が仕事と家庭をうまく両立させていくためには, 夫の協力が不可欠である.最近, 父親研究が脚光を浴びはじめたものの, 母親研究ほど十分には行なわれていない.本研究は, 富山県内3ヶ所の保育施設に子どもを預けている135組の夫婦の日常から両者の育児・家事への関わりと分担の実像を探り, それに対する両者間の認識について調査し, 分析したものである.その結果, 現在子育て中の30代の女性は, 『ジェンダー』(伝統的性別認識による夫中心, 男性上位, 男は仕事・女は家庭)に対する考え方について, 「全然思わない」と答えた人が31.9%, 「いくらかそう思う」人が59.3%, 「かなりそうだと思う」人が7.4%, 「全くそうだと思う」1.5%であった.母親の就業形態は, パート勤務が26.2%, 自営業が11.1%, フルタイム勤務の人が62.2%あり, この人たちは, 保育所終了後は夫の母や実家の母に子どもを見てもらっており, 少数だが延長保育を利用している人もあった.夫の育児・家事に関わる行動では, 子どもの遊びの相手や話し相手, 抱っこ, 保育園の送り迎えと買い物に比較的多く関わりが見られたものの, 妻の期待するレベルまでにはどの項目も到達していない状況にあることが分かった.
著者
長谷川 理
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.238-255, 2012 (Released:2012-11-07)
参考文献数
152

種間交雑や遺伝子浸透という事象は,進化研究においてこれまであまり重視されてこなかった.新しい系統群が生じるのは,祖先集団が二つに分岐する過程が主であり,一旦分化を始めた二集団が再び融合するような現象は例外的に扱われてきたためである.しかし近年の分子生物学的手法の発展,とりわけミトコンドリアDNAに限らず様々な核DNAの遺伝子領域が分析対象となってきたことにより,生物集団間に生じる交雑や遺伝子浸透の重要性が再評価されている.本稿は,鳥類を対象にした最近の研究事例について,集団間に種間交雑や遺伝子浸透が生じた際に,(1)二系統の分化の程度が拡大する場合,(2)二系統が一つに融合する場合,(3)交雑により新たな系統が形成される場合,(4)系統が維持されつつ遺伝子浸透が生じる場合に分けて紹介し,鳥類の進化や保全における種間交雑や遺伝子浸透の重要性を概説する.
著者
谷出 康士 沖 貞明 田坂 厚志 甲田 宗嗣 長谷川 正哉 島谷 康司 金井 秀作 小野 武也 田中 聡 大塚 彰
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.C3P1368, 2009

【目的】イメージトレーニングによる運動学習や運動習熟に関する研究は数多く報告されている.しかし,イメージトレーニングの筋力増強効果についての研究は少ない.そこで本研究では大腿四頭筋を対象とし,イメージトレーニングによる筋力増強効果を検討した.また,イメージ能力の高い被験者群とイメージ能力の低い被験者群との2群を設け,イメージ能力の差が筋力増強効果にどのような影響を与えるかを調べることとした.<BR><BR>【方法】研究の実施にあたって対象者には十分説明を行い,同意を得た.対象は健常学生24人とし,筋収縮を伴う筋力増強運動群(以下,MS群),イメージ能力の低いイメージトレーニング群(以下,Ns群),イメージ能力の高いイメージトレーニング群(以下,PT群)に分類した.Biodexを用いて,膝関節屈曲60°での膝関節伸展筋力を計測した.MS群には大腿四頭筋の等尺性最大収縮をトレーニングとして行わせた.一方Ns群とPT群にはトレーニング前に運動を想起させる原稿を読ませ,上記のトレーニングをイメージさせた.4週間のトレーニング実施前後に等尺性収縮を5秒間持続し,最大値を記録した.また,全被験者に自己効力感についてのアンケート調査を実施した.統計は各群内の筋力差にt検定を,3群間の筋力上昇率の差に一元配置分散分析を行い,有意差を5%未満とした.<BR><BR>【結果】1)筋力測定の結果:初期評価と最終評価における筋力平均値の変化は,MS群(p<0.01),Ns群(p<0.05),PT群(p<0.01)で有意に増加したが,各群間での筋力上昇率に有意差は認められなかった.2)アンケート:「トレーニングにより筋力は向上したと思うか」という問いと筋力上昇率との間に,MS群は正の相関が認められたのに対し,Ns群およびPT群では負の相関が認められた.<BR><BR>【考察】筋力測定の結果,3群全てにおいて筋力が向上した.イメージトレーニングのみ行ったNs群とPT群においても筋力増強が認められた理由として,運動イメージを繰り返すことにより筋収縮を起こすためのプログラムが改善されたためと考える.次に,Ns群・PT群間の筋力上昇率に有意差は認められない理由として,イメージの誘導に用いた原稿が影響したと考えられる.この原稿によってイメージ能力が低いと想定したNs群でも,一定の水準でイメージを持続できていたと考えられる.原稿によるイメージのし易さは,PT群に比べてNs群で高く,Ns群は原稿の誘導を頼りにイメージを想起し,PT群とのイメージ能力の差を補った可能性が示唆された.最後に,MS群では筋力上昇率と自己効力感との間に正の相関があったが,Ns群・PT群では負の相関が認められた.イメージトレーニングのみ行ったNs群・PT群では,フィードバックが無いことで,「この練習で筋力は向上するのか」という懐疑心が強くなったと考えられる.
著者
長谷川 昭 中島 淳一 北 佐枝子 辻 優介 新居 恭平 岡田 知己 松澤 暢 趙 大鵬
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.117, no.1, pp.59-75, 2008-02-25 (Released:2010-02-10)
参考文献数
50
被引用文献数
5 8

Transportation of H2O from the slab to the arc crust by way of the mantle wedge is discussed based on seismic observations in the northeastern Japan subduction zone. A belt of intraslab seismicity, perhaps caused by dehydration of eclogite-forming phase transformations, has been found in the Pacific slab crust at depths of 70-90 km parallel to iso-depth contours of the plate interface, showing the major locations of slab dehydration. H2O thus released from the slab may be hosted by serpentine and chlorite just above the slab and is dragged downward. DD seismic tomography detected this layer of serpentine and chlorite as a thin S-wave low-velocity layer. Serpentine and chlorite thus brought down to a depth of 150-200 km should decompose there. H2O released by this dehydration decomposition is then transported upward and encounters the upwelling flow directly above, which perhaps causes partial melting of materials within the upwelling flow. Seismic tomography studies have clearly imaged this upwelling flow as an inclined sheet-like seismic low-velocity zone at depths of 30-150 km in the mantle wedge subparallel to the subducted slab. This upwelling flow finally meets the Moho below the volcanic front, and melts thus transported perhaps stagnate directly below the Moho. Some of them further migrate into the crust, and are also imaged by seismic tomography as low velocity areas. Their upward migration and repeated discharge to the surface form the volcanic front. Seismic tomography study of the mantle wedge further revealed along-arc variations of the inclined low-velocity zone: very low velocity areas appear periodically every ∼80 km along the strike of the arc in the backarc region of northeastern Japan above which clustering of Quaternary volcanoes and topography highs are located, suggesting that melts could segregate from these very low velocity areas in the upwelling flow and rise vertically to form volcanoes at the surface in the backarc region.
著者
吉井 隼 野地 剛史 勝野 渉 田村 茉央 長谷川 美帆 遠藤 匠 森末 明子 青木 敏行 横内 到 杉 薫 渡邉 紳一 西村 宗修
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.54, no.9, pp.449-455, 2021 (Released:2021-09-28)
参考文献数
17
被引用文献数
1

維持血液透析(HD)患者における足趾上腕血圧比(TBI)の予後予測因子としての有用性は不明である.本研究では足関節上腕血圧比(ABI),TBI,皮膚灌流圧(SPP)を検査した157名のHD患者の5年後の生存の有無と因子を用いて予後因子解析を行った.Cox proportional hazards modelを用いた検定の結果,TBIは独立予後因子であった(p<0.001).また死亡予測のROC曲線では,TBIのcut off値が0.56,曲線下面積はTBI 0.91で予測能が最も高かった.算出されたTBIのcut off値を用いてTBI≧0.7群,0.7>TBI≧0.56群,TBI<0.56群およびZero TBI sign群に分類した結果,0.7>TBI≧0.56群の生命曲線はTBI≧0.7群と差がなかった.また,TBI<0.56群が0.7>TBI≧0.56群よりも有意に低く(p<0.001),Zero TBI sign群はTBI<0.56群よりも有意に低かった(p=0.020).TBI≧0.56群の死因には心血管疾患を認めなかったが,TBI<0.56群,Zero TBI sign群でその死因が4割を占めていた.HD患者においてTBIはABIおよびSPPより予後予測因子として有用であった.
著者
長谷川 寿一 齋藤 慈子
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

本研究は、イヌやネコといった伴侶動物の行動特性と、その家畜化の影響を明らかにすることを目指した。行動特性の遺伝的基盤に関して、ネコでは、イヌと同様に、アンドロゲン受容体遺伝子の多型と社交性の関連が示された。認知特性に関して、イヌではヒトの音声を左半球優位で処理している可能性、ヒトに対する視線接触の犬種差が示された。ネコでは、飼い主と他人の声の弁別、ヒト音声の感情情報の弁別、自分の名前と他の単語の弁別、飼い主の注意状態の弁別ができる可能性が示された。系統発生的変化を明らかにすべく、イヌとネコの近縁種を対象にした研究もおこなった。オオカミでは、同種内のあくびの伝染が確認された。ライオンでは、親和的行動が友好的な関係を維持する機能があること、仲直りによる葛藤解決はみられないことが明らかとなった。さらにイヌネコ同様に家畜化されたウマの近縁野生種であるシマウマでは、おとな個体が子ども個体よりも多く集団移動を率いることがわかった。
著者
長谷川 功 前川 光司
出版者
公益社団法人日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.432-434, 2008-05-15
被引用文献数
2 5

北海道千歳川支流の紋別川には,本流と支流にそれぞれ堰堤があり,その下流側では,在来種アメマスから外来種ブラウントラウトへの置換が報告されている。一方,堰堤上流側では,ブラウントラウトは確認されていなかった。しかし2004年秋から2005年春の間に本流の堰堤が決壊し,堰堤上流側へのブラウントラウトの侵入が確認された。今後,堰堤上流側のアメマス個体群へのブラウントラウトの影響が懸念される。
著者
永田 高志 長谷川 学 石井 正三 橋爪 誠
出版者
一般社団法人 日本外傷学会
雑誌
日本外傷学会雑誌
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.47-51, 2017

<p> アトランタオリンピックは,1996年7月19日から8月4日までアメリカのアトランタで行われた第26回夏季オリンピックであり,近代オリンピック開催100周年記念大会であった.爆弾テロ事件の概要は,大会7日目の7月27日午前1時20分頃にセンテニアル公園の屋外コンサート会場でパイプ爆弾による爆破事件が発生し,死者2名,負傷者111名の多数傷病者事案となった.死者2名のうち1名は爆発物の釘による頭部外傷によるものであり,もう1名は心不全であった.111名の傷病者のうち96名は事件発生後30分以内に爆発地点から半径5km以内の4つの病院に搬送された.外傷センターに搬送された35名中10名に対して緊急手術が行われ,市中病院に搬送された61名のうち4名に対して手術が実施され,すべて救命することができた.2020年東京オリンピックを控える日本にとってアトランタオリンピック爆弾テロから3つの教訓,事前の医療公衆衛生体制の構築,多数傷病者対応のための医療機関の準備,緊急時における情報伝達・コミュニケーションの難しさ,があげられる.2020年東京オリンピックでは爆弾テロを含めた様々な事案が起こるという最悪の想定のもとで,限られた時間と予算,資源の中で準備を進める必要がある.</p>