著者
丸井 英二 JOHNSTON Wil 李 誠國 SOMーARCH Won YAP Sue Pin 田口 喜雄 田畑 佳則 関 道子 遠藤 誉 米山 道男 大東 祥孝 WILLIAM Johnston SUNGKUK Lee SOMARCH Wongkhonton 山中 玲子
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

本研究は留学生にかかわる問題のなかで、長期的な波及効果としての留学生の帰国後に焦点をあてて行われた。その背景として、「留学生10万人政策」に由来する近年の留学生数の著しい増加がある。もちろん、現在わが国に滞在する留学生についての各種支援が必要とされていることは言うまでもない。しかし、こうした現状の延長上にある今後の問題点を考慮すると、帰国後の留学生の生活について研究を行っておくことが必要な時期となっている。その場合、帰国してからの国内的、国際的役割を継続的に把握していくことが必要である。留学生の帰国後に描くことのできる明るい展望がなければ、国内における留学生指導も実効性をもつことがなく、留学生も日本への期待をもつことができなくなり、将来的にわが国への留学そのものを希望しなくなるであろう。今後の健全な留学生政策のためにも帰国後の留学生についての研究が必要とされてきている。本研究では国立大学の留学生センターの留学生指導担当教官が中心となり、留学生の帰国後の社会的活動の動向の量的、質的に把握するための調査を行った。わが国への留学の意義を現地の視点でとらえなおし、さらに今後のわが国との関係をいかに維持していくかについて現時点で研究した。対象国はタイ、マレーシア、インドネシア、韓国であったが、初年度のみ台湾を加えた。研究の実施過程は1)現地での調査研究、2)国内での修了留学生の名簿作成のためのデータベース構築、3)研究ワークショップの開催とに分けることができる。初年度は主として現地での調査研究に焦点を絞った。研究分担者6名が共同研究者のいる対象国における実状を把握するために、アジア地域を中心に担当国を複数ずつ訪問し予備的調査を行った。現地では研究協力者との個別会議を開催し、必要に応じて帰国留学生との面接を行い、現状把握を行った。こうした一連のプロセスにより日本側研究者の現地事情に関する認識を極めて高いものとなった。また、現在では過去に多くの留学生が卒業あるいは修了しているにもかかわらず、なお多くの卒業生の現状が大学で把握できていないことが判明してきた。そのために第2年度には、国内での作業として卒業・修了留学生のデータベース構築のための研究会を開催した。個々の大学の事情に応じて若干の差はあるものの、共通のデータ形式を統一し、入力作業を開始した。すでにいくつかの国では帰国留学生会が設立されているが、そのメンバーは帰国したのちに自らの日本留学を是認し評価している人々が中心となって形成されている。こうした組織に日本留学に批判的な人々が加わっている可能性は小さい。したがって、本来的な母集団としての日本の卒業・修了留学生から出発して追跡することが評価のためのもっとも公平な方法である。現在のところ、データベースの構築は留学生センターの設置されている国立大学の一部から開始されているに過ぎないが、今後はその範囲を拡大していくことにより、留学生が大学から離れた後の動向を把握することが可能となる。今回の3年間の研究では主として帰国後の留学生を対象としたが、われわれのこうしたデータベースを利用することによって、母国に帰国しない人々についても追跡していくことができるという大きな意義が生まれることになる。さらに、第3年度である平成7年9月には、タイのマヒドン大学においてタイ、マレーシア、韓国からかつての日本留学生で現在は本国で活躍している人々を招待し、日本側研究者と合同でのセミナーを開催した。ここでは過去の留学生が日本でどのような経験をしたか、現在何をしているか、現在の日本との関係、さらに現地から日本をどのように見ているかなどについて一日半にわたって討議を続けることができた。3年間の研究期間に参加した留学生センターの日本側研究者ならびに現地の分担研究者にとっては相互理解の基盤を確立し、その上で帰国留学生に関する研究を行うことができたという点で充実した期間であった。また、タイ、マレーシア、インドネシア、韓国で研究協力者として多くの帰国留学生が参加することができた点も高く評価したい。本研究は単に限定された学術的研究にとどまらず、留学生を媒介とした共同研究の萌芽を各研究者レベルで作り出してきた。今後、この留学生問題に関する分野での多くの研究者によるさらなる研究に期待したい。
著者
菊池 勝弘 早坂 忠裕 梶川 正弘 桜井 兼市 遊馬 芳雄 上田 博 バジルド C.E. ベロツェルコフスキイ A スチュアート R.E. ムーア G.W.K. 佐藤 昇 バジルド C.
出版者
北海道大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

北極圏の水循環・エアロゾル等の物質循環,低温下での雪結晶の形成メカニズムの解明のために,スカンジナビア北極圏のスウェーデン・キルナのスウェーデン国立宇宙物理学研究所において,Xバンド鉛直ドップラーレーダー,レーザー・シ-ロメーター,マイクロ波放射計,全天日射・長波放射計,メソネット気象観測,エアロゾルサンプリング,それに,雪結晶の地上観測を1997年12月14日から1998年1月20日まで行った.観測期間を通して暖冬であったが,さまざまなタイプの降水現象を観測することができた.12月中は快晴時が多く,あまり降雪現象は観測されなかったが,1月に入ると休むことなく降雪が続き,強度は弱いが10分程度の強弱を持っ山岳性の降雪現象や,ノルウェー海を進行する低気圧に伴う背の高い降水エコーを持つ降雪現象を観測することができ,観測時間は600時間を超えた.これらのデータは現在解析中である.一方,マイクロ波放射計による水蒸気量および雲水量の観測から,以下のことが明らかになった.1)水蒸気量の鉛直積分値は,快晴時の0.4cmから降雪時の0.7cm,濃密雲粒付雪結晶や霰の降る時には,1.0cmに達し,幅広い変動を示した.2)雲水量(鉛直積分値)は,雲粒付雪結晶の時は0.01cm以上となり,霰の時には0.04cm程度まで増加した.また,降雪をもたらす擾乱のタイプにより大きく変動することが分かった.雪結晶の観測では偏光顕微鏡により35m/mフィルム95本,レプリカは500枚作成することができた.各種の低温型雪結晶の他,針状結晶から霰まで,ほとんどの結晶形を記録することができた.

1 0 0 0 壁画の道

著者
絹谷 幸二 絹谷 宏美 大高 保二郎
出版者
東京芸術大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1989

第1回「壁画の道」学術調査の報告、実績および展望以後数年間が予定される「壁画の道」学術調査の第1回は、旧石器時代オ-リニャック期〜マドレ-ヌ期の洞窟壁画を対象に、人類史における“絵画の誕生"を調査した。また純粋の壁画ではないが、極北美術の原始的造形の代表としてノルウェ-の岩面画を選び、旧石器→中石器への地理的・時代的移動を考察した。今回の調査の主なテ-マは、洞窟壁画の分布状況と地勢、生活と壁画、その保存状況、そして20世紀美術への寄与、等である。1.調査地点(1)西南フランス ペリグ-→ヴェ-ゼル河畔の洞窟グル-プ:レ・ゼジ-町周辺(フォンードーゴ-ム、馬の浮彫があるカプ・ブラン)、ルフィニャック、ラスコ-、さらに南東へカオ-ル:ペク-メルル等の洞窟壁画。ボルド-ではアキテ-ヌ博物館。(2)北スペイン カンタブリア海沿岸の洞窟に残る壁画群:アルタミラ、プエンテ・ビエスゴ村の近郊(エル・カスティ-リョ、ラス・モネ-ダス)、さらに西のアストゥリアス県ティト・ブスティ-リョの洞窟へ。首都マドリ-ドでは国立考古学博物館で調査。(3)ノルウェ- 首都オスロ近郊の岩面画:オ-スコ-レン、スク-グルヴェイエン、エッケベルク等。2.現在発見されている先史美術、殊に旧石器時代後期の洞窟壁画はその多くがフランス南西部から仏西国境沿いのピレネ-北面、さらにカンタブリア海沿岸のスペインへと拡がっている。それらの地勢は今回の調査の限りでは、なだらかで緑の豊かな高原地帯で、近くに美しい川が流れる丘陵地の高い所に位置していた。また、ところどころで石灰岩が白い肌をのぞかせるという共通の景観が強く印象に残った。3.壁画の場所、表現の地域差:絵が描かれた場所は生活空間である浅い場所よりもはるかに奥まった洞窟であり、いたずら描きとか鑑賞用というよりは、何か呪術的・祭祀的な目的のあったことをうかがわせる。ラスコ-ではかなり高い天井や凹面のカ-ヴに、またアルタミラでは大人が立っては歩けないほどに低い天井に描かれており、これら壁画の存在意義を考えるうえで重要である。空間構成では、ラスコ-は大小(大きいのは数メ-トル)様々な牛、馬を組み合わせ、ダイナミックな生命力と動感があり、色数も多い。一方、アルタミラの場合、凹凸のある岩面を巧みに活用してビソンテ、鹿を配列する構成で、色数は少ない。人間はこの時期のものではほとんど登場せず、わずかに動物を補獲する罠、手、それに謎めいた記号を留めるにすぎない。ノルウェ-の岩面画では人間が登場する。4.保存の状態:完壁なのはラスコ-のやり方で、一般公開は原則として認めず、その代わり、完全なレプリカを近年完成し、“ラスコ-II"と命名。これは従来の複製の概念を打ち破る精巧なもので、原作の感動を十分に伝えるものである。我が国でも、例えば高松塚のような日本人共通の遺産はこのようなレプリカを作って一般に公開すべきであろう。他方、アルタミラでは予約制で少人数に公開し、かつての新鮮な画面を目にすることができる。石灰分を含んだ水分が画面上でプラスティック状の透明層をなして顔料を保護している。5.20世紀への貢献:洞窟壁画の発見とその研究は近代も19世紀の後半になってからである。(アルタミラ1868年、ラスコ-1940年)。我々人類の先祖が生んだこれらの絵画は、19世紀後半に始まる近代芸術の閉塞的状況を打開する大きな力の一つとなった。6.次調査への展望:今回の調査は、人類最初の、最古の絵画であった。その造形は、思ったよりも自然主義的で、量体や写実性への意欲をうかがわせる。それが中石器から新石器時代へ、図式化・図案化の道をたどる。「壁画の道」という大きな流れの第一段階としてこのテ-マをまとめたい。
著者
富山 秀男 金子 賢治 石村 速雄 長谷部 満彦 市川 政憲 岩崎 吉一 岡島 尚志 大場 正敏 藤井 久栄 品田 雄吉 草壁 久四郎 登川 直樹
出版者
東京国立近代美術館
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1990

アメリカやカナダを中心とする北米地域に限定しての本研究では、映画,写真,デザインの3分野でそれぞれ下記の諸施設を実地調査し、大きな成果を挙げることができた。それらはいずれヨ-ロッパと合体した形式により、海外における本課題全般を扱う詳しい調査報告書としてまとめる予定である。(1)映画 カナダではモントリオ-ル国立フィルム局、オタワの国立フィルム・ア-カイヴ、トロントのオンタリオ・シネマテ-ク、ヴァンク-ヴァ-の太平洋シネマテ-ク。アメリカではスタンフォ-ド大学フィルム・ヴィデオ図書館など。カナダの国立フィルム・ア-カイヴの活動は国費によってフィルムの収集、保存、修複、上映などの諸事業を積極的に行っており、それに対応する施設面でも同じ建物内に広い保存庫を持っていて参考になった。またその他の機関も州や民間組織と連携して活発な保存、上映活動が行われているのには感心させられた。(2)写真 カナダ国立美術館、カナダ現代写真美術館(オタワ)、アメリカではシカゴ美術館、ジョ-ジ・イ-ストマン・ハウス国際写真美術館、ニュ-ヨ-ク近代美装館、ニュ-ヨ-ク国際写真センタ-、ニュ-ヨ-ク歴史協会、ニュ-オ-リンズ美術館、サン・アントニオ美術館、サンタフェ美術館、アモン・カ-タ-美術館(フォ-トワ-ス)、ポ-ル・ゲッティ美術館(マリブ)、サンフランシスコ市立美術館の各写真部。このうち写真を展示する場合の照明について、イ-ストマン・ハウスやニュ-ヨ-ク近代美術館を代表とする多くの施設で、歴史的なものと現代作家のものでは大幅に照度を変えていること、及びその科学的根拠などについて大いに学ぶところがあった。収蔵庫については、白黒写真とカラ-写真とで保存に適する温湿度条件が異なるための措置として、どの施設でも別々の保存庫を備えていること、及びそのデ-タを得てきた。またそうした低温保存のカラ-写真を展示場に出す場合の取扱い方法として、守らなければならない配慮とそのための設備も各所で実見し、シカゴ美術館が最もコンパクトで合理的であるとの感想を得た。なお、展示品以外の研究者用閲覧にどう応じるかの制度や方法についても、各館多少の差違を持ちながら一様に門戸を開いており、それを可能ならしめるためのスタディ・ル-ムのあり方を数えられた。収集作品については各館まちまちだが、いずれも性格をもつことが意図されており、国際的な集め方から地域や時代を限定したものまでさまざまであった。最後に収蔵作品の分類や整理に関しては、どの施設もコンピュ-タ-を導入して鋭意その作業を進めている最中であり、時代、テ-マその他いろいろな検索が瞬時にして可能なのには目を見張った。これは写真部だけには限らないが、最も基本的な体制のあり方として、当方の遅れが痛感された事柄である。(3)デザイン オタワに新設されたカナダ文明史博物館、カナダ漫画美術館 ミネアポリスのウォ-カ-・ア-ト・センタ-、シカゴの現代美術館、ニュ-ヨ-クのク-パ-・ヒュイット美術館、アメリカン・クラフト美術館など。新設の文明史博物館は考古から現代美術までを幅広く手がけるなかで、工芸やデザインについての関心が強く、「日本の包装」などの企画展を開催した施設、外国の民族的文化もさかんに紹介している。ウォ-カ-・ア-ト・センタ-は美術のみならず前衛舞踊、音楽、演劇をも重視する新しい芸術活動の推進の場として機能しており、デザインや写真についても市民(成人や子供)向けの教育プログラムに組み入れて実演、制作を行っているのが印象的だった。またク-パ-・ヒュイット美術館はデザイン部門の作品収集で最大施設の一つ。スミソニアン・インスティテュ-ションの運営だが、研究者向けの特別観覧の制度に学ぶベきものが多かった。アメリカン・クラフト美術館の取り上げる各種デザインの幅広さ、それらを包括する視点の独自さが注目された。なお、最後にこれら北米諸機関を実地調査するに当り、映画、写真、デザインのそれぞれに関して我が国では入手困難な多くの資料、カタログ類及び多数の図書を購入することができ、今後の研究に道すじがついたことを感謝の念をもって報告したい。
著者
清水 祥一 木方 洋二 塚越 規弘 杉山 達夫 横山 昭 赤沢 堯 S.C Huber 片岡 順 西村 正暘
出版者
名古屋大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1987

別紙(様式5)に記している様に、3年間にわたる共同研究実施期間中、名古屋大学農学部(NU)からはノースカロライナ州立大学(NCSU)に計11名の研究者がおもいた。一方NCSUからNUに12名が来訪した。これらはいづれも比較的短期間の滞在による研究交流ではあったが、主題にかかげたバイオテクノロジー領域における両大学研究者間の科学的知見の交換に益すること大きく、将来にわたる共同研究実施計画に関して有用かつ重要な成果をもたらした。就中NCSUの研究者、Drs.Parks,Thompson,Huber,Petters,Theilの来学の意義は大きい。これがもとになって、NUの若手研究者、及び大学院学生が渡米することとなった。また、NCSUの関連研究者訪問の道も開かれた。たとえば、NUからは三木清史(大学院学生)がDr.Petters研究室に赴いて6ケ月研究した。近く木全洋子(大学院学生)はTheil教授のもとでPh.Dを取得するため渡米する計画である。また、佐々木卓治はNCSUの招へいプログラムによって10ケ月間Food Technology学科においてSwaisgood教授と共同研究を行った。Biochemistry学科のHead,Dr.Paul AgrisがNUにおいて行ったDNA,RNAの生物物理学に関するセミナーもはなはだ高度のものであった。これ等すべてが両大学の研究者に益するところはまことに大きいものであった。直接本研究計画に名を連ねたものに加えてNCSUのJapan Center長、Mr.John Sylvesterは第2年次NUの非常勤講師として来学し、大学院学生に対して特別講義を行った。それは日米の学術交流プログラム、特にNCSU-NUの学術提携の現状並びに将来を展望するものであり示唆に富むものであった。本共同研究が実施される契機になったのは、NCSUのS.Huber教授が外国人客員教授としてNUに6ケ月滞在し、赤沢、杉山等とともに行った共同研究と、また大学院学生に対する指導である。それ等の具体的成果として、別紙に示す様な論文が発表されている。
著者
田島 裕 フェンティマン R.G. ミラー C.J. ダイヤモンド A.L. ライダー B.A.K. バークス ペータ 長谷部 由起子 長谷部 恭男 平出 慶道 FENTIMAN R.G MILLER C.J DIAMOND A.L RIDER B.A.K BIRKS Peter ミラー J.C. アダムソン ハーミッシュ デンティス T.C. ゴフ ロード スクリブナ アンソニー
出版者
筑波大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

平成6年4月から3年間にわたる日英間の共同比較法研究の全体を総括し、今後の継続的な研究協力の在り方を検討した。研究者ネットワーク作りに重点を置いて研究活動を行ったが、その目的のために、本年度も田島(研究代表者)がバ-ミンガム大学で研究会(24回)を開催した。バ-ミンガム大学では、英国大学における日本法研究の在り方を問題とし、憲法、民商法、企業法、独占禁止法、訴訟手続法、刑法など12の主要テーマについて、具体的な検討をした。これは昨年度に続く二度目の経験であり、非常に大きな反響を呼んだ。研究会の基礎となるプレゼンテーションをレクチャー.レジュメの形でまとめ、最終報告書に添付した。この研究成果は、田島(研究代表者)の責任で、Western and Asian Legal Traditionsと題する著書(添付書類参照)として近く公刊される。予定どおり平成8年9月にケンブリッジ大学において学会を開催し、本格的な比較法研究を行った。その結果は、Anglo-Japanese Journal of Comparative Lawと題する著書として近く刊行されることになっている。また、予定どおり、平成8年4月に、高等法院裁判官フィリップス卿およびウッド教授(ロンドン大学)を招聘し、企業法学シンポジウム(法的紛争の処理)を開催した。約200名の法律家(学者、裁判官、実務家)が参加し、とくに国際企業取引をめぐる法的紛争の処理に当たりイギリス法を準拠法とすることの問題点を論じた。フィリップス裁判官は、筑波大学などでも陪審制と黙秘権の問題について特別講義を行った。また、マスティル卿(貴族院裁判官)も予定どおり8月に来日され、安田記念講義およびブリティッシュ・カウンシル特別講義を開いた。民事司法改革をテーマとしたが、この講義には約300名の法律家が参加した。平成8年8月に公表されたばかりのウルフ報告書に基づくもので、別途開いた専門家セミナー(国際商事仲裁協会)において、三ケ月章東京大学名誉教授を中心として日本の民事訴訟改正とパラレルに検討する機会をもった。この講義は安田火災記念財団から単行本『英国における紛争処理の動向』(平成8年8月)として既に公刊された。平成8年11月、長谷部(東京大学)、長谷部(成蹊大学)はロンドン大学およびバ-ミンガム大学を訪問し、憲法および訴訟法の領域における共同研究を行った。そして、9月のケンブリッジ大学の学会には、平出(中央大学)と田島(筑波大学)が出席した。その学会で特に焦点を当てたのは会社法および金融法・銀行法の領域である。正式の学会とは別に、この共同研究が今後も継続されるようにするため、研究参加者の間で具体的な検討を数日に渡って熱心に行った。その結果、平成9年10月に東京で学会を開催し、その折りに新たな共同研究の基礎づくりをすることになった。その主要研究テーマは、会社法と金融法・銀行法の他、司法制度と国際法・国内法の融合の問題とする。来日が既に確定しているのは、ライダー教授(ケンブリッジ大学)、ア-デン裁判官(高等法院;現在は、法律委員会の委員長と兼任)夫妻、およびヘイトン教授(ロンドン大学)である。なお、オックスフォード大学のバ-クス教授(オールソールズ・カレッジ)は、まだ来日していないが、平成10年に来日を約束している。その機会に日英学会の創設を本格的に検討することになると思われる。なお、研究協力者以外にも数多くの学者、実務家の協力を得たことも付記しておきたい。上記の三ケ月教授のセミナーはその一例である。平成9年4月にはジョン・ボールドウイン教授(バ-ミンガム大学)が来日されるが、これもわれわれの研究活動につながるものである。3年に渡る共同研究を通じて、日本法に関心のある非常に若いイギリス人研究者を数多く(約100名)育てることができたことも協調しておきたい。現在、そのうち2人のイギリス人大学生が日本を訪問し、研究を続けている。最後に、当該研究は、将来も継続されるべきものであり、今回の3年の研究を通じて問題を別に添付した『研究報告書』の中で説明した。それも読んでいただきたい。
著者
長澤 和俊 長沢 和俊 (1993) 樊 自立 夏 訓誠 張 玉忠 王 炳華 荒川 正晴 大橋 一章 櫻井 清彦 XI Ao Li BING Hua Wang ZI Li Fan XUN Cheng Xia 李 肖 劉 文鎖 王 炳ほあ
出版者
早稲田大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

この共同研究は平成3年から5年にわたって、新疆各地のシルクロードの路線と主要遺跡を全面的に踏査することを目的として実施されたが、さいわい中国側研究者の友好的協力により、ほぼ予定通り各地の遺跡を踏査することができた。中国では1990年2月、国家文物局令が発布され、各地の遺跡・文化財の調査研究については、すべて国家文物局長の許可の下に行われることとなった。そのため平成3〜5年の3年間にわたる調査は、すべて国家文物局長の許可の下に、新疆文化庁が主催し、新疆文物考古研究所と沙漠研究所との協力の下に実施されることになった。以下、年度毎の研究業績の概要を略述する。まず平成3年度は、同年7月16日から8月25日まで41日間実施された。この年は新疆の南疆を全面的に踏査することとなり、各遺跡の歴史的地理的位置関係を確認した。とくに文化庁の手配により、従来未開放であった雅尓湖千仏洞・トユク千仏洞・勝金口千仏洞・柳中古城・焉耆古城・シクチン仏寺・和静古墓・温宿古城・且末古城等を見学できたことは、大きな収獲であった。ついで平成4年度は、7月26日から8月24日まで30日間滞在し、ジュンガリアおよび天山山脈東部の南北麓地域の東西交通路と主要遺跡の踏査を行なった。新疆ジュンガリアおよび天山東部の調査は順調に進み、本年度は伊寧の海努克古城・阿力麻里古城・摩河旧城・吐魯番〓子旧城・塔城の岩面・呼図壁岩画・哈密白楊溝仏寺・拉布橋克古城・巴里坤・北庭都護府故城・西大寺・吉木薩尓千仏洞等、多くの未開放の遺跡を実地踏査することができた。なお平成4年度には、1992年12月2日から21日にかけて、共同研究者の新疆文物考古研究所長・王炳華氏を招聘し、早稲田大学その他において学術講演を行ない、内外の研究者と交流し、かつ来年度の研究計画を討議し、多くの成果をあげた。また先年度に引続き、ウルムチの新疆文物考古研究所において、調査後、古代シルクロードの路線と史跡について、考古研究所研究員を調査員全員によるシルクロード討論会が実施された。さらに平成4年度から平成5年度の初めにかけて、共同研究者の新疆沙漠研究所所長・夏訓誠氏を招聘し、早稲田大学理工学部の草炭研究会のメンバーとともに学術討論会を実施し、かつ平成5年度の調査に際し、研究計画を充実すべく討議を重ねた。平成5年度は平成3〜4年度の調査で踏査できなかったタリム盆地内の未踏査地域を全面的に調査することとし、平成5年7月21日から9月2日にかけて新疆文物考古研究所長・王炳華氏の全面的な協力のもとに、調査を実施した。すなわちまずカラシャール・コルラ・クチャ・アクス・温宿・鳥什・カシュガルの所謂北道では、アクス文物処長・曽安軍氏の案内で各地の古代史跡を踏査した。とくにクチャでは亀茲石窟研究所長・陳世良氏の協力により、クムトラ・シムシム・クズルガハ・キジルの各石窟を踏査することができた。アクスからはウチトゥルファンを経て、玄奘三蔵の足跡を辿ってベダル峠の直下まで行くことができた。カシュガルからはパミール高原に赴き、タシュクルガン古城を調査し、さらに大谷探検隊のとったルートを辿って、ミンタカ峠の直下まで赴くことができた。またカシュガルからはホ-タンに至り、途中皮山で〓賓烏弋山離道の跡を尋ね、ホ-タンではアクスピル・ラワク仏塔・牛角山等を調査した。この3年間の踏査において、われわれはSony製のG.P.S(Global Positioning System)により、新疆における遺跡約100ケ所の経度・緯度を測定することができた。われわれはいまその測定によって新疆における遺跡地図を作製中であるが、その遺跡を結ぶことによって、古代シルクロードが、現在の自動車路と大分異なったルートによって結ばれていたことが明らかになりつつある。またこの測定によって、従来もっとも信頼されてきたSir Aurel Steinの実測地図の多くの経緯度を訂正することができた。また毎年ウルムチにおいて中国側研究者とシルクロードの共同研究会を開き、とくに平成4年9月には蘭州での国際シルクロード学術討論会に出席し、中国側研究者とさまざまな分野で意見を交換し、今後日中共同で継続的にシルクロードの調査を推進することで合意した。今回の調査を基礎に、今後はトゥルファン・クチャ地区のより詳細な調査を行うことを、日中共同研究者全員で再確認した。
著者
谷村 眞治 三村 耕司 劉 凱欣
出版者
大阪府立大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1997

1995年1月17日未明に発生した阪神大震災では,数多くの土木・建築構造物に壊滅的打撃を与えた.それらの中の特異な破壊・損傷例で特に注目すべきものは,鉄筋コンクリート構造物に発生した水平ひび割れや圧縮破壊による損傷・破壊現象である.本研究は上記のような直下型大地震による特異なコンクリート構造物の衝撃破壊の発生メカニズムを解明し,そのような衝撃破壊の防止法に対する有効な資料を提供する目的で,コンクリートに対する衝撃実験と数値計算の両面より直下地震動による典型的コンクリート構造物の動的挙動及び破壊について詳しく調べた.実験は,主に今までほとんど研究されていない低衝撃速度荷重下で鋼板によって補強されているコンクリート柱と内部に脆性材料を詰めた鋼管の座屈現象及び,縦偏心衝撃を受ける矩形断面体の動的挙動を調べた.数値解析は,縦特性曲線法,有限要素法及び個別要素法によって異方性体の応力波伝ぱ現象など基礎的な面から直下地震動による速度負荷を受ける種々のコンクリート構造物の動的挙動および破壊など実際の応用の面まで広い範囲にわたって行われた.縦特性曲線法により,異方性体の三次元応力波伝ぱ問題を解析するための特性分析と数値積分式を導出する上で,その計算ソフトを完成した.これは,今まで他に発表されていない成果である.また,大型汎用型衝撃応答解析コードにより,直下型地震特有の揺れ初期の激しい1波又は2波がコンクリート構造物の動的挙動に及ぼす影響を調べた.その結果,その構造物に生じる応力値,特に初期の過渡応答時の応力値は揺れ速度の初期の波形の大きさのみならず,その形状(周期,立上がり時間,立下がり時間),構造物の長さ,その上に載る上部構造物の形状(境界条件)によって変わる様子を定量的に出した.
著者
高橋 玲 AARONSON Stu BENEDICT Wil 佐谷 秀行 松井 利充 BENEDICT William f. AARONSON Stuart a.
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

本研究は、米国で数年間行われてきた癌抑制遺伝子の機能解析についての研究を継続し、日米の協力研究として発展させることを目的とする。基本的には我々のグループが樹立した癌抑制遺伝子の生物学的活性を直接的に細胞レベルで解析できる実験系を用い、その遺伝子異常を正常のものと比較する。また癌細胞における癌抑制遺伝子の発現を種々の方法で人為的に調節することで癌細胞の表現型の変化を誘導し、癌治療に向けての可能性を検討する。研究代表者高橋は、分担研究者全員の協力を得てRB遺伝子とp53遺伝子のトランスフェクションを進めた。膀胱癌,肺小細胞癌にRB遺伝子導入、口腔扁平上皮癌と大腸癌にp53遺伝子を導入し、それぞれの安定発現株を得て解析を進めた。時にp53遺伝子導入大腸癌細胞においては、アポトーシスを誘導できる系が確立されることが明らかとなり、制癌剤開発に適したモデルとして期待される。ヒト大腸癌培養細胞株WiDrはp53遺伝子上2つ3番目のコドンに相当する部位の点変異を有する。サイトメガロウイルスのプロモーターに制御される正常p53発現プラスミドベクターを安定性にトランスフェクションし、プラスミドのもつネオマイシン抵抗性を利用して正常p53の発現を獲得したクローンを得た。培養中の増殖態度は軟寒天中のコロニー形成率の著しい低下以外には、ほとんど変化がみられなかった。抗Fas抗体(IgM)で処理すると親株にはほとんど変化がみられなかったが、48時間後をピークとしてp53導入細胞に著明な細胞死(アポトーシス)が誘導された。アポトーシス処理後24時間後の細胞からのRNA解析によれば、内在性の変異型p53遺伝子の発現レベルには変化がなく、導入された正常p53の発現及びそれに関連してcdK2のインヒビターであるp21(WAFI)遺伝子の発現の亢進がアポトーシス誘導に伴って生じることが明らかとなった。このことは正常p53遺伝子の発現に担っているサイトメガロウイルスのプロモーターに特異的なシグナルがFAS依存性反応経路に存在していることを示唆しており、現在、同プロモーターに働くNFkBについて解析を進めている。現在までFasからのシグナルとp53依存性アポトーシスとの間に関連はないといわれているが、今回の人為的反応経路の連結により、Fasにより誘導可能なp53依存性アポトーシスのモデルとして、DNA損傷により誘導される場合とは異なりユニークなモデルといえる。トランスフェクションに用いた大腸癌細胞はγインターフェロン処理によってもp53遺伝子再構築なしに抗Fas抗体に感受性を示すようになることが知られており、遺伝子再構築と制癌剤との協同作用として興味深い。肺小細胞癌は神経内分泌特性によって他の肺癌と区別されているが、我々は今回NF1遺伝子mRNAのスプライシング様式の変化がその分化指標となりうることを発見した。NF1のスプライシング様式の変化は以前、分担研究者の佐谷らによって見出されたもので、多くの神経系細胞や腫瘍において、分化度と高い相関を示すことが明らかにされていた。我々は肺小細胞癌培養株で得られた所見をもとに臨床材料で形態学的あるいはNSEなどのマーカーとの関連において解析を続けている。口腔扁平上皮癌においてもp53変異に対して正常p53遺伝子導入株で角化傾向が誘導されることも確認されている。今回の協力研究により困難で長時間を要するヒト癌細胞への安定性癌抑制遺伝子導入にいくつかの細胞で成功し、解析が可能となった。特に定常状態での変化よりも、分化誘導や細胞死誘導などの刺激下では癌抑制遺伝子の細胞レベルでの機能が顕著になることが明らかとなった。今後さらに種々の組合わせで癌細胞における癌抑制遺伝子機能がさらに詳細に解析されることが期待される。今回は兵庫県南部地震のため、渡米計画が一部中止されるなどの変更が生じたが、おおむね、当初の研究交流の成果を待つことができたと考えられる。
著者
大場 秀章 SUBEDI Mahen 宮本 太 寺島 一郎 黒崎 史平 増沢 武弘 若林 三千男 菊池 多賀夫 SUBEDI Mahendra N.
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

世界最大のヒマラヤ山脈では、植生の明瞭な垂直分布構造がみられる。高山帯最上部の亜氷雪帯は海抜4000mから5000mにあり、そこでは高等植物はまばらにしか生えていない。いわば、植物にとっては極限環境ともいえるこの亜氷雪帯に生える植物には特殊な形態をした種が多々ある。なかでも特異なものは温室植物とセ-タ-植物で、これらはヒマラヤとその周辺地域にしかみられない。本研究ではこれら温室植物・セ-タ-植物を中心に亜氷雪帯にのみ生育する特殊形態をした植物の形態学・生理学的特性、ならびにこれらの植物が生育する地域の植物相と植生を解析することを目的に計画された。1)調査地域としてネパ-ル東部のジャルジャル・ヒマ-ルを選定した。対象とする植物を豊富に存在すること、交通の便などを考慮した結果この地域を選んだ。2)ジャルジャル・ヒマ-ルの海抜4300mの無名地を主たる観測場所とし、ここで実験を行なった。3)光合成、蒸発散、温度、湿度、日照量などの経時変化を、種々の実験機器を用い測定・記録した。これらの機器は電気で作動するものであったが、発電機を携行した。これらは、ヒマラヤ高山の現地で得た、世界ではじめてのデ-タである。4)目下デ-タは解析の途上にあるが、代表的温室植物のRheum nobileでは、晴れると気孔を閉じて光合成が停止するといった特性が発見され、温室植物・セ-タ-植物がヒマラヤ東部の湿潤環境と関連していることを示唆された。5)温室植物・セ-タ-植物は亜氷雪帯を中心に分布するが、高山帯中部でのテ-ラスやモレ-ンの砕礫地に、生育している。様々な実験を行なった観測基地の周辺で、Rheum nobileが生育する場所の立地条件、群落密度、微地形に対応したミクロスケ-ルでの植生、繁殖法を調査した。6)温室・セ-タ-植物の細胞遺伝学的特性を明らかにするため、様々な種々根端、茎頂、未熟胚、花粉母細胞を固定し持ち帰った。現在、染色体数、核型などの解析を進めている。7)代表的温室植物である、Rheum nobileにおける胚発生を観察するための材料を採集し、持つ帰った。8)上記の種の成長過程を解剖学的に解析するための材料を採集した。9)ジャルジャル・ヒマ-ルには温室・セ-タ-植物を多産するこことが判明したので、同地高山帯の全植物相を調査し、その特性を明らかにした。10)温室・セ-タ-植物の地理的分布を明らかにするため、環境上乾燥ヒマラヤに傾斜したネパ-ル西部ジュムラ奥地と、ジャリジャル・ヒマ-ルより一層湿潤なインド・ダ-ジリン地区シンガリラ山地において調査し、これらの植物の分布調査を行なった。11)上記の諸調査・解析で得た成果はすでに14篇の論文その他として専門学術誌などに発表あるいは投稿中である。その他専門学術誌に発表予定の論文を数篇準備中である。12)上記成果の一部として、「ジャルジャル・ヒマ-ルの植生と植物相」(英文)を刊行する。これは、ヒマラヤ地域における初の地域植物誌である。これらの研究を通じてヒマラヤ山脈に固有な温室植物・セ-タ-植物の存在が湿潤ヒマラヤの環境と深く関係している可能性が示唆された。ひと口にヒマラヤといっても、植物学的にみれば実に多様であり、ヒマラヤ内部での地域性の存在を示すものである。今後、ヒマラヤの植物学的特性の一般化に向けて、特性を有する地域間での比較研究の必要性が改めてクロ-ズアップされたともいえる。
著者
園田 俊郎 VERONESI Ric GOMEZ Luis H HARRINGTON W ZANINOVIC Vl HANCHARD Bar 屋敷 伸治 藤吉 利信 嶽崎 俊郎 三浦 智行 速水 正憲
出版者
鹿児島大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

ジャマイカ、コロンビアおよび近隣諸国にはHTLV-IとHTLV-IIのフォーカスが局在し、ATLとHAM/TSPを多発させている。平成6年度調査研究では、キングストン(ジャマイカ)、カリ、ブエナベンツラ(コロンビア)、ラパス(ボリビア)をたずね、HTLV-I/II関連疾患の患者およびウイルスキャリアの有無の調査した。総計8名の患者があらたに発掘され、ATL患者2名、HAM/TSP患者5名、感染性皮膚炎(In fective dermatitis,ID)患者1名が今回の分析対象となった。これらの検体からリンパ球と血清を分離し、リンパ球は生細胞のまま凍結保存され用時解凍してHLA検査に供せられた。血清はHTLV-I/II抗体の保有状況検査に供せられた。HLAの民族特性を比較する対照として、既知HLAの日本人ATL患者、HAM/TSP患者ならびにアンデス高地先住民のHTLV-IキャリアのHLAハプロタイプが用いられた。ジャマイカでは黒人の感染性皮膚炎(ID)患者の検体が収集された。コロンビアでは黒人のATL、HAM/TSP患者の検体が収集された。ボリビアではアンデス先住民と白人の混血メスチソのHAM/TSP患者の検体が収集された。平成2年度に収集保存中のアンデス高地先住民インガ族のHTLV-Iキャリアの検体も対象とした。HLAハプロタイプは患者とその家族のHLAタイプから割り出された。ここでは、常法による血清型と近年開発のDNA型で分析した。このHLAハプロタイプによって、黒人、アンデスインデイオ、メスチソの患者と日本人患者の民族背景の異同を比較した。ここでは、HLAクラスIIのDNA型が有用であった。ジャマイカとコロンビアの黒人患者(ID、ATL、HAM/TSP)のHLAハプロタイプには、日本人のATL、HAM/TSPと共通なDRB1*DQB1*1302-0604,1101-0301,1502-0601,0403-0302,0802-0402と黒人患者に特異なDRB1*DQB1*07-0201,0407-0302が検出された。ボリビアの混血患者のHLAハプロタイプには日本人ATL/HTLV-IキャリアにみられるDRB1*DQB1*0901-0303と白人由来とおもわれるDRB1*DQB1*0301-0201が検出された。以上の結果からHTLV-I関連疾患の遺伝背景にpan-ethnicなものと黒人/モンゴロイドに特異な遺伝背景があり、それぞれの疾患単位をつくっていると思われる。一方、HTLV-IIキャリアの検体はコロンビア・オリノコ川流域の先住民グアヒボ族から採取された。そのHLAハプロタイプはDRB1*DQB1*1402-0302,1602-0301,0404-0302であり、上記のHTLV-Iキャリアと患者のHLAとは全くことなる遺伝背景をしめした。すなわち、HTLV-IとHTLV-IIお感染には民族の相互排他性がみとめられ、ウスルスと宿主の自然選択がおこっているが明らかになった。他方、ATLとHAM/TSPは同一種のHTLV-Iでおこるとされてきたが、両者の遺伝背景は異なりる。今回の研究でも、黒人ATLとHAM/TSPとモンゴロイドのそれらとはHLAハブロタイプに差異が認められた。すなわち、黒人の遺伝系統とモンゴロイド(日本人をふくむ)の遺伝系統があり、それぞれの疾病要因となっていることが明らかにされた。したがって、民族に特異的なHLAと共通なHLAの遺伝的多型を追求すれば、ATLとHAM/TSPの発症にかかわる宿主遺伝子の実体が明らかなるとおもわれる。
著者
魚崎 浩平 SHEN Y.R. OCKO Benjami DAVIS Jason DOBSON P. HILL H.A.O. 佐藤 縁 水谷 文雄 叶 深 近藤 敏啓 中林 誠一郎 YE Shen DAVIS Jason.
出版者
北海道大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

まず研究開始時に2年間の研究を効率的に実施するために、国内側のメンバーの間で研究方針を十分検討し確認した。ついで、研究代表者がオックスフォード大学を訪問し、研究方針の確認を行った。以後、これらの打ち合わせで決定した内容に基づき、以下の通り研究を実施した。なお、2年目には新規メンバー(オックスフォード大Jason J.Davis、ブルックヘブン国立研究所Benjamin Ocko、カリフォルニア大Y.R.Shen)を加え研究をより効率的に実施した。初年度1.オックスフォード大における生物電気化学研究のレベルを十分に理解するために、北大において、オックスフォード大研究者による情報交換セミナーを実施した。2.本研究では自己組織化法のセンサーへの応用を念頭に置いており、そのために最適な構造をもったマイクロ電極の設計とその形成法の検討を行った(オックスフォード大)。さらに、このようにして形成したマイクロ電極の電子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy:AFM)による評価を行った。さらに、より高度な評価をめざして、新しい走査プローブ顕微鏡を考案、設計、製作を行い、性能確認を行った(北大)。3.また、本研究では生体機能を念頭においており、チトクロームcと電極との間の電子移動を促進するための界面構造の設計を目標に、種々の混合自己組織化膜表面での電気化学特性を調べた(生命研)。4.界面機能の動的評価を目的に、自己組織化分子層の電気化学反応に伴う構造変化をその場追跡可能な反射赤外分光システムを構築し、生体機能との関連でも重要なキノン/ヒドロキノン部位を持つ自己組織化単分子層に適用した。酸化還元に伴う構造変化を明確に検出できた(北大)。2年度1.新しい界面敏感な手法である和周波発生分光法(Sum Frequency Generation:SFG)および表面X線回折法(Surface X-Ray Diffraction:SXRD)の本研究への導入の可能性を各々Shen教授、Ocko教授の研究室への訪問と討論を通して検討し、その有用正を確認した(カリフォルニア大、ブルックヘブン研究所)。2.水晶振動子マイクロバランス法(Quarts Crystal Microbalance:QCM)および走査型トンネル顕微鏡(Scanning Tunneling Microscopy:STM)によるアルカンチオールの自己組織化過程の追跡を行った(北大)。3.STMによるプロモータ分子の自己組織化過程の追跡をオックスフォード大Jason J.Davis氏が北大の装置を用いて行い、世界で初めて当該分子層の分子配列をとらえた(北大、オックスフォード大)。4.昨年度に引き続き、生体機能を念頭において、チトクロームcと電極との間の電子移動を促進するための界面構造の設計を目標に、種々の混合自己組織化膜表面での電気化学特性を調べた。また、この時の界面構造を詳細に調べるために、アルカリ溶液中での還元脱離およびSTMによる表面構造観察を行った(北大、生命研)。5.以上の成果を国際学術誌をはじめ、国内外の学会で発表した。
著者
高田 時雄 BATTAGLINI M VITA Silvio 森賀 一恵 井波 陵一 MARINA Batta SILVIO Vita
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

十六世紀末葉から、イエズス会をはじめとするカトリック各会派は精力的に中国布教を開始した。ローマ及びイタリア各都市には彼ら宣教師によって中国からもたらされた、明清代の漢籍が数多く保存されている。しかしこれらはほとんど手つかずのまま放置されているのが実状である。これらの書物は、それ自身が東西文化交流史の貴重な財産であるばかりか、中には学術的価値の高い資料も含まれ、その調査は、中国学の各方面に新たな材料を提供するものであることは確実である。今回の国際学術研究のプロジェクトにおいては、主としてイタリアの公共図書館に所蔵される中国書を調査し、それを目録化するための基礎研究を行うことであった。ローマの国立中央図書館をはじめとして、全国に散在する中国書を徹底して調査するため、アンケート調査を行いつつ、カード採取を実施した。その結果、公共図書館の所蔵漢籍については、ほぼすべての調査を完了し、現在コンピュータ入力中である。その作業の終了を待って、冊子目録の刊行の運びとなる。調査によって明らかになった要点は以下のごとくである。(1)16世紀末あるいは17世紀初頭にヨーロッパにもたらされたと思われる明版本が少数ながら存在する。これらのほとんどが未報告の書物で、研究に資するところが大きい。(2)ローマ国立中央図書館には、義和団事件の時にイタリア軍によって持ち帰られた殿版が相当数存在することで、これも今まで知られなかった事柄である。(3)同じくローマの図書館には広東の曲本の古い刊本が大量に存在し、俗文学研究の上に貴重な資料を提供する。(4)古く伝来した書物の中には、宣教師による書き込みが見られ、ヨーロッパにおける中国学の発展史を知る上での参考となる。
著者
前田 耕作 中村 忠男 松枝 到
出版者
和光大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

北部を含むジャラーワーン地区では州都クエッタ、カラート周辺域、フズダール周辺域が主たる調査域である。この地域にはイスラーム教以前、ゾロアスター教、仏教、ヒンドゥー教が存在していたと考えられてきた。ゾロアスター教の祠堂があるのはクエッタであるが、イランにおけるように古来からの残存を裏づけるものはなにもない。カラチにある祠堂とともに英領インド時代、商人のパルシー教徒の移住とのつながりで考えられるべきものと思われる。ジャラーワーン地区へのヒンドゥー教の流伝はイスラーム教をともなったアラブの侵入より早いが、それを裏づけるものは、その根強い信仰の存続とイスラーム教聖者伝説と交錯するヒンドゥー教の伝説のほかにはない。しかし、ジャラーワーン地域とラス・ベーラ地域の古道沿いには、ヒンドゥー寺院が点在し、それらは互いに繋がりをもっており孤立していない。クエッタ、カラート、フズダール、ベーラ、カラチと残存するヒンドゥー教の細い糸をたぐっていったとき、それらを繋ぐ一つの結び目にヒンゴール河畔に存在するヒンドゥー教の巡礼聖地ヒングラージに行きあたり、この聖地の具体的な調査をおこなうことができたことが、二年にわたる調査の最大の成果であった。ヒングラージの聖域の実測および女神の聖像等の詳細は、平成11年度に予定される補足調査の後、本報告で公表される。ラス・ベーラ地域の西端、マクラーン地域の東端に位置するヒングラージ聖跡の踏査によって調査域をマクラーン地域にまで広げる必要が生じ、平成9年度の調査では、トゥルバットおよびグワーダルを訪れ、ついにヒンドゥー教流伝の西限を突きとめることができた。
著者
富永 英義 MUSMANN H. JUDICE C. KUNT M. CHIARIGLIONE エル 小舘 亮之 児玉 明 安田 浩 小松 尚久 相沢 清晴 田崎 三郎 酒井 善則 安田 靖彦 JOZAWA Hirohisa YABUSAKI Masami MIKI Toshio SAKURAI Yasuhisa FUKUDA Toshio ALGAZI V. SHAFER R. KOMIYA Kazumi ALGAZI V PROF.H. Musm SHAFER R. 羽鳥 光俊 原島 博 辻井 重男 花村 剛
出版者
早稲田大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

前年度の活動の成果として得られた、シンタックス、ツール、アルゴリズム、プロファイルという4つの異なる要素から構成するフレームワークを基本構造とし、今年度は,主に,具体的要素技術の比較および評価,確認実験モデルの作成,動画像ドキュメントアーキテクチャの概念に基づく符号化方式の具体化作業を行なった。まず、具体的要素技術の比較評価テストについて。Functionality、テスト画像クラス、ビットレートによって評価対象を分類し、比較評価テストを行なった。ただし、テストの際、基準となる比較対象(アンカー)として、CIFフォーマットを用いたMPEG1およびCIFあるいはQCIFを用いたH.263を使用した。比較評価の結果、10kbpsを中心とした低ビットレート範囲ではビットレートが高くなるほどアンカーおよびブロックベース手法の結果が良好であること、低ビットレートにおいてはフレームレートの設定がその画質評価結果を大きく左右する要因であること、Content based functionaliesを有する方式はアルゴリズムの種類が増大し要素としての評価が難しい傾向を示すこと、が主に明らかとなった。良好な性能を示す要素技術の候補としては、long term memory, short term memoryを併用する手法、イントラフレームにウェーブレットを適用する手法、グローバル動き補償とローカルアフィン動き補償の組合わせ、ブロック分割手法、matching pursuits手法等が挙げられた。次に、確認実験モデルの作成について。長期に渡る議論の結果、確認実験モデルとしてはビテオオブジェクト平面という概念で表される複数のビテオコンテントを入力情報源として適用可能なモデルが選択された。この確認モデルは、H.263の拡張動きベクトルおよびアドバンスト予測方式を採用すること、2値形状は4分木符号化、多値形状は4分木符号化+VQを使用すること、コンテント境界はpaddingを行って符号化することを主な条件として作成されることとなった。最後に、動画像ドキュメントアーキテクチャの概念に基づく符号化方式の具体化について。メディアの統合的扱いが可能なフォーマットおよび既存データの再利用機能が将来のマルチメディア情報環境において特に重要であるという観点から、文書の編集加工処理を構造的に行なうデータアーキテクチャであるODAの概念をビデオ・ドキュメントアーキテクチャ(VDA)として動画像符号化への適用を試みた。まず、ビデオコンテントをカメラの光軸に垂直な単一の静止平面(背景のみ)と仮定しこれを入力としてカメラパラメータを分離符号化する方式を検討した。続いて、αマップと原画像情報を入力として、VDAの概念に基づいたプロセッサブル符号化方式を検討した(H.263を基本とし、任意形状に対応した直交変換、αマップ符号化、コンテント・時間単位データ多重化を主に加えた構成)。実験の結果、前者の方式は正確なカメラパラメータが計測できる場合約50[dB]の平均SNRで複号化できる能力をもち、検出するパラメータ誤差が蓄積するに従ってこの値が急激に減少する傾向を子示すことが分かった。また、攻守の方式については、カメラ操作およびビデオコンテントの移動・消去・表示優先度・追加等の編集シミュレーションを行ない、意図した動画像の編集加工機能・データ再利用機能がVDAモデルにより効果的に実現されていることを確認した。また、簡単な加工用データ操作記述言語を試作することにより、編集処理の迅速性、内容の可読性が大きく向上されることを示した。今後は、画像合成を行なう際のMapping処理の高速化、ビテオコンテントのデータのバッファリング処理、透明度を考慮したαマップ符号化、ランダムアクセス機能の実現手法・ドキュメントアーキテクチャの概念で扱えるメディア範囲の拡張などが課題として挙げられた。
著者
宮下 純夫 木村 学 MELINIKOV M. ROZHDESTVENS SERGEYEV K.F 榊原 正幸 石塚 英男 岡村 真 木村 学
出版者
新潟大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

サハリン島は地質学的に日本列島の延長であり,環太平洋造山帯の一部を担っている.本研究では,サハリン南部の詳細な調査をおこない,サハリンにおける沈み込み・付加テクトニクスについて解明するとともに,日本での結果とあわせ,環太平洋造山帯のテクトニクスに迫ることを目的としている.これまでの成果は以下のように要約される.1.アニバ岩体:アニバ湾の北部及び東海岸には白亜紀付加体ーアニバ岩体が露出している.本岩体は緑色岩類が卓越する点で,白亜紀付加体の典型である四万十帯とは異なる.北部海岸の岩体は構造的・岩相的に二つのユニットに区分される.上部ユニットでは玄武岩から陸源砕屑物に至る一連の層序が観察され,下部ユニット上に衝上している.下部ユニットは主に玄武岩とメランジェからなり,石灰岩ブロックもしばしば含まれる.構造は,沈み込み帯における初生的な構造を表していると考えられる.スラストシ-トが繰り返す東フェルゲンツ構造を示す.アニバ湾東海岸ではメランジェが卓越しており,石灰岩のブロックを多数含むという点でやや異なる.構造的には,北部海岸と同様の覆瓦構造を示す.石灰岩とチャ-トの互層の出現は,本地域の付加体が海洋島などから由来していることを示唆している.2.ススナイ帯:本帯は神居古潭帯の延長に位置する高圧変成帯で,サハリン東海岸の50Kmにおよぶ調査により,南へ向かって各々が多数のスラストシ-トからなる5つのドメインが識別された.ドメイン1は緑色片岩ーチャ-トー泥質片岩と緑色片岩の互層から,ドメイン2は玄武岩質岩ーメタチャ-ト,泥質片岩と緑岩片岩ないしメタチャ-トの互層,泥質片岩からなっている.ドメイン3の最下部はメランジェから,上部は砂質岩を伴う泥質片岩からなる.ドメイン4は玄武岩が大量に出現することで特徴づけられ,上位は石灰岩ないしチャ-トを含む玄武岩質堆積岩,黒色頁岩によって覆われている.ドメイン5は黒色頁岩と珪質片岩の互層からなっている.緑色岩やメランジェが出現しない点で異なっている.変形作用は3時相が識別された.D1時相は東ないし北東方向のL1線構造とS1片理面の形成,D2時相は全域に発達する,北東走向の非対称褶曲,シ-ス褶曲,北西方向の線構造などによって示される.センスは南方を示す.D3時相は直立した褶曲軸面をもつ開いた褶曲で,褶曲軸は北東走向で水平に近い.D1ーD2時相はダクタイルな変形であるが,D3時相はブリットルな変形を示している.変成作用は塩基性岩の鉱物組み合わせに基づいて,パンペリ-石ーアクチノ閃石帯(ドメイン3,4,5)とパンペリ-石ーエピド-トーアクチノ閃石帯(ドメイン1,2)の二つに分類される.前者に出沼する青色片岩はNa角閃石ーNa輝石ー緑泥石ーヘマタイト,後者の青色片岩はエピド-トーNa角閃石ーNa輝石ー緑泥石の組み合わせを示す.Na角閃石はマグネシオリ-ベカイトでありNa輝石はジェ-ダイト成分に乏しいエジリン輝石ないしエジリン普通輝石である.最高変成条件は200ー300℃,4ー5Kbarと見積られる.また,変成作用の時期はD2時相と考えられる.3.玄武岩類の岩石学的特徴:主要成分・微量成分分析に基づいて,アニバ岩体とススナイ岩体に大量に出現する玄武岩類には,NーMORB,TーMORB,EーMORB,OIT,アルカリ玄武岩にわたる様々な岩石が存在していることが明かとなった.大局的な傾向としては,アニバ岩体はアルカリ玄武岩とOITが,ススナイ岩体ではTーMORBが卓越しているという特徴がある.これらのことから,アニバ岩体の多くは海山ないし海洋島に,ススナイ岩体は海台に由来する可能性が強い.4.化石年代:アニバ岩体のチャ-トや灰緑色頁岩からチトニアンとコニアシアンを示す放散虫が確認されている.5.今後の展望:現在,化石年代や岩石の放射年代,鉱物分析などが進行しつつある.これらのデ-タが得られて全体的な検討が進むと,海洋地殻物質の付加・上昇過程が解き明かされ,サハリン南部は付加体の形成を解明する世界的な典型となることが期待される.また,そのためにはさらに広域的な調査が求められる.
著者
武村 重和 バビリオ・ウマンカ゛イ マ 池田 秀雄 小原 友行 小篠 敏明 中山 修一 溝上 泰 MANZANO Virgilio U.
出版者
広島大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1990

本研究では、オ-ストラリア、ニュ-ジーランドの文部省の担当官の要請と協力で、両国の11ー15歳の児童・生徒を対象に、日本の児童・生徒向きに作成された日本の文化・社会、科学技術、日本人の生活様式などの視聴覚メディアを、解説しながら視聴させ、学校レベルでの国際理解の推進を図ることをねらいとした。さらに、日本に関する教育用教材として何が求められているかを調査し、ニ-ズアナリシスを行うこににより、これからの海外向けの教育用視聴覚ソフト開発の基本方針を究明することを目的にした。小篠敏明は、「異文化コミュニケ-ションに関する教育情報とソフト教材」について、オ-ストラリアのカンベラのテポベア・パ-リ中学校、ブリスベンのケドロン中学校の生徒たちに視聴したい日本文化の内容を調査した。5月5日、3月3日の子供の日、忍術使い、柔道、剣道などの武道、相撲、茶道、華道、歌舞伎、盆栽、四季、桜、武士道、伝統音楽、日本食、着物、日本建築、生活様式、宗教、祭り、庭、舞踊、文化行事などをあげている。日本の現代については、交通、通信、電子・電気機械、コンピュ-タ-産業、自動車・カメラ産業、建築、スポ-ツ、学校、家庭生活、若者の日常生活、食べ物、余暇の利用、婦人の社会進出、両親と子供の関係、日本の近代化の過程、教育、田園生活、環境問題、文化の保存、東京、旅行、ビジネス生活、新旧生活スタイルなどをあげている。教育委員会の職員や教師たちは、日本の急速な、社会、文化、経済、科学技術の変化に注目し、日本人の現代の生活様式の変化に関する視聴覚教材に関心をもっていることがわかった。画面については、カラフルで、美しく、自然と人間の調和があり、言葉少なく、適切な英語で興味・関心を持続するものがよい、という意見が多かった。武村重和は、オ-ストラリアのカンベラとメルボルンで教育関係者や一般人にインタビュ-を行い、国際理解の教育で視聴覚教材の編集の視点を導き出すことに努めた。その結果、(1)自然、歴史、社会、文化、生活、言語、宗教、価値観などの自国と他国の違いの理解と尊重、(2)国家間の対立・環境汚染、人口増加、富の遍在、などの国際問題の把握と解決への協力参加、(3)国際化によるコミュニケ-ションと交流の活性化、(4)貿易等による相互依存関係と共存の認識、(5)平和、自由、平等、人権、正義、人類愛などの世界共通の思想や地球共同社会という世界意識の育成に関する教材こそが、国際理解に通じるという視点を得た。溝上泰らの社会班は、ニュ-ジ-ランドの10〜17歳の児童・生徒及び小・中学校の教師を対象に、日本で作成された市民生活、歴史や伝統文化、生活様式などを中心に日本の都市・広島市の社会生活を紹介するビデオ教材を視聴させ、日本学習に関する経験の有無とその内容、ビデオ教材に関する興味・関心の程度とその内容、異文化理解に関する実態、日本学習に求める内容と方法などを調べる調査を行い、解答を得た。調査の集計結果に基づいて、児童・生徒及び教師はどのような日本学習を求めているのか、日本学習に関する教育用教材として何が求められているのか、ニュ-ジ-ランドにおけるニ-ズアナリシスを行った。その結果、日本の歴史、伝統文化、人間生活、日本と海外の国々との関係などの教材化の要請が強く、気候、自然、宗教、観光、産業などの日本の実情については小中学生・教師の間で関心が低いことがわかった。さらに、事実認識やデ-タ・情報の提供だけを意図したものではなく、現状や問題点の背景にある条件や原因を究明するような、また、問題解決のための判断を行うような問いを発見することができる教材の開発を要求した。さらに、貿易や文化やスポ-ツなどの相違点や共通点の両面を取り入れた教材の要請があった。また、日本人の立場から日本の社会や文化を理解させたいという教材が現地に少ないことがわかった。池田秀雄は、海外向けの環境教育用視聴覚教材ソフトを開発する目的で、英語版のビデオ環境教材を持参して、多面的な調査を11〜15歳の生徒に行った。その結果、特定地域の環境汚染に目を向けることだけではなく、グリ-ンハウス効果、オゾン層の破壊など全地球レベルで理解、ロ-カルな環境問題に各国相互の共通理解の必要、環境破壊や保全の社会的、歴史的背景の理解が重要である。
著者
竹谷 和之 アンドレス オルティス・ 武内 旬子 東谷 頴人 ORTIZ-OSES Anders オセス アンドレス・オル アンドレス オルティス.
出版者
神戸市外国語大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

本研究ではバスク民族スポーツの分布地域を都市部(平成8年度)、山間部(平成9年度)および海岸部(平成10年度)に区分し調査・研究を実施した。都市部(主にビルバオ市やビトリア市)ではバスク経済の発展とともに、新しい価値意識が浸透しており、バスク人の民族スポーツに対する深い思い入れは希薄になりつつある。しかしスペクタクル性の高いバスクスポーツ(ペロタ)には多くの人が観戦に赴き、勝敗に賭けることにより昔ながらの「スポーツ」を維持している。形態は近代化してはいるもののバスク人のアイデンティティを確認する装置として機能している。守護聖人祭では、プログラムの中にバスクスポーツのエキシビションが組み込まれているが、これは観光としてのスペクタクルである。山間部(スペイン・ナバラ県北部、フランスバスク東部)では都市部のような急激な変化は見られないものの、経済中心社会の影響は徐々にではあるがバスクスポーツにも及んでいる。余暇や娯楽が少ない地域ではバスクスポーツに多くの人々が集まる。これは民族スポーツが伝承されてきた自然環境の中で行われることに意味があると思われる。つまりバスクスポーツの原初形態である労働が残存している地域ではまだその価値は失せていない。労働がよく理解できるからこそより人々の関心が集中するのである。海岸部(スペイン・ギプスコア県やフランス・ラブール地方)では動物を使用した儀礼的なスポーツが多く見られることである。とくに「ガチョウ」「アヒル」といった名称で知られているスポーツは、水、船、落下及び耐久力などが構成要素であり、参加者の勇気と「残酷性」をあわせもった内容となっている。この残酷性を除去する方法として、都市近郊の村落ではこれらの動物の代わりにボールが使用される。ここでは動物使用の本来の意味は消失し、単なるスポーツへと変容しているのである。伝統を重んじるとされるバスク人の価値基準が変化していることもここで確認することができる。これらのスポーツに共通するのは、民族スポーツに固有の精神的側面が見られないことである。キリスト教の普及により、バスクスポーツはキリスト教文化に組み込まれているのである。
著者
松沢 佑次 PARK Y.B. KOSTNER G.M FUJIMOTO W.Y 山下 静也 KYUNG Y.B.Park KOSTNER G.M.
出版者
大阪大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

最近、動脈硬化の最も大きな基盤である脂質代謝異常に人種的・地域的な特徴が存在することが明らかになった。本研究では、コレステロールエステル転送蛋白(CETP)の遺伝子異常と、LDL受容体の遺伝子異常の各タイプ別頻度を国内外で調査し、動脈硬化の国別の遺伝子基盤の相違を明らかにするために以下の検討をした。1.CETP欠損症CETP欠損症の変異は従来6種発見されているが、この中で比較的頻度が高いことが推察されるイントロン14の異常(IN14)及びエクソン14変異(EX15)を中心とする4変異について検討した。CETP欠損症の遺伝子異常としては、6種類発見されているが、IN14とEX15が大部分を占め、G181X変異も頻度は少ないながら、共通変異であった。IN14のホモ接合体は、全例がHDL-C100mg/dl以上を呈し、EX15のホモ接合体ではこれより低値を示す例が多かった。また、CETP遺伝子変異を有しても、HDL-C値が正常のものもあった。これに対して、国外ではCETP欠損症の頻度は極めて少なかった。日系米人の調査では、HDL-Cが90mg/dl以上のものが計27人あり、その中で、EX15のヘテロ接合体が4人、EX15とIN14の複合ヘテロ接合体が1人発見された。また、韓国においても日本人の共通変異が2種見出された。日系米人でも変異は日本人と共通していた。また、ドイツ人の高HDL血症例で新たな変異が見出され、これは日本人には存在しない変異であった。一方、米国及び欧州ではCETP活性の正常な高HDL血症例が存在し、そのリポ蛋白像はCETP欠損症と異なり、CETP欠損症以外の成因による高HDL血症の存在が示唆された。2.LDL受容体異常(家族性高コレステロール血症、FH)LDL受容体異常に関しては、我が国での遺伝子異常として見つかっているものには、約26種類の変異があったが、この中5つは共通変異で、日本人のFHの約1/3がこれらの変異で説明できた。これらの共通は日本全国で分布し、特定の地域への集積は認められていない。一方、欧米のFHではわが国で見出された変異は見つかっておらず、日本人の起源を推定する上で、アジア地区にも対象を広げて解析する必要がある。
著者
澄川 喜一 長澤 市郎 小野寺 久幸 岡 興造 寺内 洪 小町谷 朝生 田淵 俊雄 坂本 一道 佐藤 一郎 大西 長利 増村 紀一郎 稲葉 政満 前野 尭 BEACH Milo C FEINBERG Rob 杉下 龍一郎 新山 榮 馬淵 久夫 中里 寿克 ROSENFIELD J 原 正樹 小松 大秀 中野 正樹 手塚 登久夫 浅井 和春 水野 敬三郎 海老根 聰郎 辻 茂 山川 武 福井 爽人 清水 義明 平山 郁夫
出版者
東京芸術大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

本研究プロジェクトは、広く海外所在の日本・東洋美術品の保存修復に係る調査研究の一環として、在米日本・東洋美術品の日米保存修復研究者による共同研究である。我が国の美術品は、固有の材料・技法をもって制作されるが、異なる風土的環境下でどのような特質的被害を生ずるかは従来研究されていなかった。たまたま米国フリーア美術館所有品に修理すべき必要が生じ、本学を含む我が国の工房で修復処置を行った。その機会に保存修復に関する調査研究が実施された。本プロジェクトの目的は、とくに絵画、彫刻、工芸についての保存修復の実情を調査することにあった。具体的には、本学側においては米国の美術館等の保存修復の方法、哲学、施設的・人員的規模等を調査し、フリーア美術館側は我が国の最高レベルの修復技術(装こう)とその工房の実態、すなわち施設、用具、手法、人員等を調査し、相互の研究結果を共同討議した。3年度間の研究成果概要を以下箇条書きで示す。1)フリーア美術館付属保存修復施設をはじめ6美術館(ナショナルギャラリー、メトロポリタン美術館、ボストン美術館、ゲティー美術館、ロード・アイランド・スクール・オブデザイン付属美術館)の保存修復施設、及び3大学の保存修復教育課程(ニューヨーク大学保存修復センター、デェラウェア大学保存修復プログラム、ニューヨーク州立大学バッファロ-校)を調査した。2)美術館及び収蔵庫並びに付属の研究室、工房は、一定範囲の温湿度(フリーア美術館の場合は温度68〜70゜F、湿度50〜55%、ただし日本の美術品に対しては湿度65%で管理する等、その数値は美術館により若干変化の幅がある)にコントロールされる。我が国の修復は自然な環境下で行われるから、そのような点に経験度の関与が必要となる一つの理由が見いだされる。しかし、完全な人工管理環境下での修復が特質的な材料・技法を満足させるものであるか否かの解明は、今後の研究課題である。3)CAL(保存修復分析研究所)やGCI(ゲティー保存修復研究所)のような高度精密分析専門機関は我が国にも必要である。4)米国の美術館は保存修復施設並びに専門研究者を必備のものと考え、展示部門ときわめて密接な関係をもって管理運営し、コンサバタ-の権威が確立されている。その点での我が国の現状は、当事者の間での関心は高いが、配備としては皆無に近い。5)大学院の教育課程は科学な計測・分析修得を主としながら、同時に物に対する経験を重視する姿勢を基本としており、その点で本学の実技教育に共通するところがある。米国の保存修復高等教育機関のシステムを知り得たことは、本学で予定している保存修復分野の拡充計画立案に大変参考になった。6)保存修復に対する考え方は米国内においても研究者による異同があり、修復対象作品に良いと判断される方向で多少の現状変更を認める(従来の我が国の修理の考え方)立場と、現状維持を絶対視する立場とがある。現状維持は、将来さらに良い修復方法が発見された場合に備える、修復箇所の除去可能を前提とする考え方である。保存修復の理想的なあるべき姿の探求は、今後の重要な国際的な研究課題である。7)それは漆工芸等においてはとくに慎重に検討されるべき課題であり、彼らには漆工芸の基礎的知識不足が目立つ。そのような我が国固有の材料、技法面についての情報提供、技法指導などの面での積極的交流が今後とくに必要であろう。逆に建築分野は彼らが先進している。8)米国研究者は我が国の工房修復を実地に体験し、深く感銘した。それは装こう技術が脳手術のようだという称賛の言葉となって表れた。9)ミーティングにおける主要話題は、保存修復は現地で行われるべきであり、それを可能とする人材養成が必要である。保存修復教育には時間がかかることはやむを得ない、期間として6年位が目安となろう。科学教育は大学で行われるべきだが、日本画に限れば工房教育がよい、などであった。