著者
宮村 達男 吉田 弘 清水 博之 PHAN Van Tu 米山 徹夫 萩原 昭夫 松浦 善治 武田 直和 RADU Crainic DELPEYROUX F CRAINIC Radu
出版者
国立感染症研究所
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

ポリオウイルスは代表的なエンテロウイルスであり、経口感染によりヒトからヒトへと伝播する。そしてヒトのみが唯一の感受性自然宿主である。糞口感染が日常的におこらないような衛生状態が恒常的に保たれれば、ポリオの伝播は次第に絶ち切られ、ポリオという疾患は消滅するはずである。一気にポリオを根絶する為には、更に強力な免疫計画とサーベイランスが必要であり、この目的をもって世界レベルの根絶計画がWHOの強力な指導のもとにスタートした。我が国の属する西太平洋地域では野生株ポリオウイルスは激減しているが、本研究は最後までウイルスが残っているベトナムをその対象領域として、野生株ポリオウイルスが弱毒性ワクチン株に置き換えられてゆく最後の過程を検証することにある。1997年、ベトナムでは1例、隣国のカンボジアでは8例の野生株が分離された。これらは現地で急性弛緩性マヒ(Acute Flaccid Paralysis:AFP)を生じた小児の糞便検体が当研究室に送付され、ウイルス分離、同定、型内鑑別が行われたものである。そしてこれらの分離株のVP-1領域の塩基配列を決定し、これまで周囲で分離されていた野生株と比較した。その結果、インドシナ半島で複数存在していた株のうちの一つのみが残っていることがわかった。北ベトナムでAFP例から分離されたウイルスは、ここ2年間、すべてワクチン由来株であったが、この1年はワクチン株の分離も減少している。一方、南ベトナムの国家ラボで得られた成績と日本のラボでの成績には、一部不一致がみられた。その問題点を解決する手段として、野本らにより樹立されたポリオウイルスのレセプターを発現しているマウス細胞株(Lα細胞)を用いた、ポリオウイルス選択的なウイルス分離が提唱され、実行されつつある。かくして、1997年3月19日のカンボジアの1例を最後として、野生株は分離されておらず、これが最後の例となるか、更なる強力な監視が必要である。
著者
宮村 達男 宮村 逹男 (1990) 原田 志津子 竹内 健司 田中 幸江 湯浅 田鶴子 斎藤 泉 KUO George HOUGHTON Mike RUTTER William J.
出版者
国立予防衛生研究所
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1988

非A非B型肝炎の起因因子はそれまでの種々の状況証拠からウイルスであることが想定されていたが、通常のウイルス分離方法や、抗原抗体検出系に基づく方法でその因子を同定することができなかった。共同研究が開始された1982年から、感染したチンパンジ-の肝組織または、血漿からRNAを抽出し、そのcDNAをライブラリ-化して、非A非B型肝炎ウイルス遺伝子の断片を得ることを試みた。1988年に、カイロンのグル-プが、λ gtllを用いたイムノスクリ-ニングによりその発現産物が非A非B型肝炎患者の血清と特異的に反応するcDNA断片を得ることに成功した(Choo et al.Science 244,359ー362;文献1)。日本で全く独立にそれまでに収集、解析されていた輸血後非A非B肝炎の患者の血清中に病型に対応してこの抗体の産生が認められた。更にこの患者に実際に輸血された血液の供血者にもこの抗体が検出された(文献2及び4)。この抗体は日本の非B型の肝がん患者の実に60〜70%にも検出される(文献3)。カイロングル-プはgene walkingによりこのcDNAが長さ約9.5キロベ-スの一本鎖RNAをそのゲノムとしてもつ全く新しいRNAウイルスであることをつきとめ、これをC型肝炎ウイルス(HCV)と名付けた(Choo et al.1989,Science 244,359ー362;Choo et al.1991,Proc.Natl.Acad.Sci.in press)。一方予研側は、このカイロンとの共同研究から塩基配列の情報を得て、日本人の供血者からHCVのcDNA断片を直接PCR法によって増幅、クロ-ン化した(文献6、7、9、12)。つまり日本とアメリカとで、各々ヒトと実験的に感染させたチンパンジ-の血液からHCVcDNAを得ることができた。この2つのHCVのcDNAの塩基配列とアミノ酸の配列を比較、更に類似していることが以前から提唱されているフラビウイルスのそれと比較した。フラビウイルスとの類似性もさることながら、ウシ下痢症ウイルスなどペスティウイルスとの一部の相同性もみつかり、これら3種のウイルスが互いに類似しながら全く別のウイルスであることが明らかとなった。この間、カイロングル-プは、HCVの非構造遺伝子NS4の領域を酵母で発現させ、その発現産物を利用した特異抗体検出ELISAを作出した。この検査法の有用性を世界で最初に示したのがこの協同研究による日本での患者及び、供血者での血液検査であった。その結果1989年の11月、日本が世界に先駆けて、このHCV抗体アッセイを輸血のスクリ-ニングに用いることとなった。このHCV抗体アッセイ系はその後世界中で輸血用血液のスクリ-ニングに用いられるようになっているが、C型肝炎の診断には必ずしも適さない点があった。我々の初期の検討により抗体が陽転するまでに数カ月を要することが示されていたからである。日本でのクロ-ン化されたHCVの遺伝子構造を詳細に調べた。まず、ウイルスの構造蛋白をコ-ドする構造遺伝子をサルCOS細胞でSRαプロモ-タ-の統御下で組換え、更にバキュロウイルスを用いて昆虫細胞でヌクレオキャプシド(コア)蛋白を発現させることに成功した(文献14、15、16)。これらの蛋白に対する抗体が患者血清中に特異的に検出されることにより同定することができた。これにより遺伝子の機能を同定されたのみならず、この蛋白を用いたELISAが、C型肝炎の早期診断やより感度の高い輸血血液のスクリ-ニングにも応用可能であることが示された。現在世界各国の協同研究者とその有用性を検討している。このコア蛋白にひきつづきエンベロ-プ蛋白の発現実験にも成功した(論文準備中、Matsuura et al)。分子量約35キロダルトンの糖蛋白である。この蛋白及びその下流にあるNS1の領域の発現産物を用いて今後、ワクチンやγーグロブリン製剤の実用化を検討してゆきたい。
著者
安元 健 KASPAR H.F. 佐竹 真幸 大島 康克
出版者
東北大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

本研究ではニュージーランドで発生した(1)神経性貝毒(2)カキの新奇毒成分(3)麻痺性貝毒の3種の貝毒を対象として情報の交換、試料の収集、原因毒の解明についての共同研究を実施した。研究実績の概要は下記の通りである。1。神経性貝毒1992年12月から1993年の1月にかけて発生した食中毒について、疫学調査、発生プランクトンの種類、及び毒の薬理作用についての予備試験結果から神経性貝毒であろうと推定し、原因毒の単離・構造決定を実施した。共同研究者の協力により約270kgのイガイ中腸腺を入手した。原因プランクトンとしてはGymnodinium breveまたはその近似種が示唆されていた。本種はブレベトキシン類を生産することが知られているが、イガイからは既知のブレベトキシン類は検出されなかった。代わってブレベトキシンの新奇類縁体3成分が単離された。成分1はC_<53>H_<79>NO_<17>S(MW:1033)の分子式を有し、ジアステレオマ-4成分の混合物と推定された。成分2では42位炭素がカルボキシル基に酸化され、さらにD環が開環しており、新たに生じた10位の水酸基に脂肪酸がエステル結合していると推定された。成分3はブレベトキシンBの基本骨格を保持し、側鎖に修飾を受けた新奇物質と推定された。現在立体配置を含めた構造の確認を進めている。成分1と3ではマウス致死毒性およびNaチャンネル活性化作用が確認された。2。カキの新奇毒成分1993年に南島南端のFoveaux海峡周辺でカキが毒化した。原因プランクトンはGymnodinium cf.mikimotoiと推定された。毒化したカキの試料約60kgを入手し、その30kgをアセトンで抽出して原因毒の単離・精製を行った。その結果、原因毒は分子式C_<32>H_<45>NO_4(MW:507)を有する新奇イミンであることを確認したのでジムノジミン(gymnodimin)と命名した。ジムノジミンは分子内に16員の大きな炭素環、6員環イミン、ブテノリド環を含む特異な構造を有する。既に平面構造を確定し、現在は絶対構造の確認を目指して誘導体の調製を行っている。ジムノジミンのマウス腹腔内投与による最少致死量は450μg/kgを示した。小型淡水魚のアカヒレを用いた魚毒性試験で求めた最少致死濃度は0.10ppm(20nM)であり、魚類に対して強力な毒性を示すことが明らかになった。細胞毒性や溶血性は認められず、培養細胞を用いたNaチャンネル活性試験でも顕著な活性は検出されなかった。共同研究者から提供を受けたG.cf.mikimotoiを培養し、その抽出物をLC/MSで分析したところジムノジミンが検出され、本種が毒の起源であることが確認された。3。麻痺性貝毒麻痺性貝毒を生産する渦鞭毛藻としてはAlexandrium属、Gymnodinium属、及びPyrodinium属が知られているが、ニュージーランドではA.minutum及びA.ostenferdiiの出現が確認されている。同国内で採集されたA.minutumの1株及び異なる地域で採集されたA.ostenferdiiの5株について、培養を行い毒生産能の確認及び毒組成の分析を行った。その結果、A.ostenferdiiの1株は無毒であり、この無毒株も含めて5タイプに区別され、多様な毒組成を示した。同国内のA.minutumはほぼ同じ組成を示したが、著量のサキシトキシンとネオサキシトキシンを生産する点に特徴が見られた。
著者
渡辺 毅 浜田 穣 渡辺 邦夫 WATANABE Tsuyoshi
出版者
椙山女学園大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1990

スラウェシマカクに関する調査研究は,日本の調査隊によって,1981年以来継続されてきた。当初の問題点は,いくつの種が分布しているのかにあり,形態学的・行動学的・生化学的・遺伝学的研究の総合の結果,7種であるとの結論に達っした。ところが,オ-ストラリアのGroves(1984)と本研究分担者渡辺(1990)によって,雑種の存在が観察・記載され,新たな問題点が発生するに至った。自然条件下での雑種形成に関する研究が必要となり,本研究が計画されたのである。今回の研究は,以下の3点にわたっておこなわれた。1)スラウェシ島中央部に生息するMacaca tonkeanaと南東部のM.ochreataの分布境界域を確定するため,現地を踏破した。自動車を借用して現地を移動しながら,生息するサルたちの直接観察と,現地住民にペットとして飼育されているサルたちの観察調査により,捕獲地点を特定し,また雑種の有無,その程度を記載することで,分布境界線と雑種のゾ-ンを決定していった。今回の調査により,境界線の南西域にあたる100km相当が確認され,雑種と思われる個体の観察もなされた。調査期間の最後に,分担者の渡辺と浜田の2名は,最南西部のM.ochreataとM.brunescensの分布境界域で同様の調査をおこなったが,日数の関係上,将来への予察的調査となった。2)スラウェシ島南部のカレンタ自然保護区に生息するM.maurus(ム-アモンキ-)の1群が餌づけられていて,長期継続観察が可能となっている。この群れは,分担者渡辺によって個体識別が進められ,今回現地参加の松村が長期観察にとりかかった。研究の目的は,社会構造の解明,行動特性の解明にあるが,長期観察により,繁殖の季節性,個体の成長パタ-ン,個体の移出入などが明らかになりつつある。スラウェシマカク7種のうちで,もっとも特殊化の進んだ種は,M.nigra(クロザル)とされているが,この両種の詳細な行動比較は,スラウェシマカクの種分化を解明する上での,キ-ポイントの一つとなっている。3)スラウェシ島の最北端に生息するクロザルは,激しい人為的環境破壊により,分布が寸断され,存続が危ぶまれている。ハルマヘラ群島の一つであるバチャン島にクロザルが生息しているとの情報があり,その生息状況を調べるために,分担者の浜田がバチャン島へおもむいた。アプロ-チに日数のかかる離島であるが,調査の結果,数千頭のクロザルが生息しており,島民のサルへの態度も敵対的ではないため,クロザルの種の保存や今後の研究にとって良好のフィ-ルドであることが判明した。今回の調査により,スラウェシ島において自然条件下で雑種が形成されていることは,ほぼ間違いなく確認された。しかも雑種が1代限りでないこと,つまり妊性のある雑種が形成されていることも確実だ。これは,いわゆる生物学的種(biological species)の定義に反する。それならば,雑種形成をとげている両種は,別種ではなく同種と分類しなければならないのだろうか?スラウェシ島以外の地域において,自然条件下での雑種が存在しているのだろうか?アフリカのヒヒ類とグエノン類,南米のオマキザルなどで雑種の存在が報告されている。これらすべてをそれぞれ同種に変更すれば,生物学的種と矛盾はしなくなる。しかし,われわれは,形態も行動も社会も異なる2種の霊長類を同種と認めるわけにいかない。ここで生起する大問題は,「種とはなにか?」である。これまでの研究成果をふまえてのわたしの見解は,ヒトという動物が一般の動物とややおもむきを異にしているのと同様に,霊長類というヒトも含む分類群もまた,他の動物とやや異なった存在ではないか,とするものだ。このような見解は,当然のことながら,激しい反論を呼ばずにはいられない。近々,発表する予定のこの見解が議論を惹起し,霊長類学,生物学の発展の一助になれば,と期待している。
著者
長瀬 文昭 田中 靖郎 石田 学 高橋 忠幸 満田 和久 井上 一 宇野 伸一郎 HOLT S. 伊藤 真之 SERLEMITSOS P. 松岡 勝 北本 俊二 WHITE N.E. 林田 清 MADJSKI G. 田原 譲 CANIZARES C. 大橋 隆哉 MUSHOTZKY R. 紀伊 恒男 PETER R. 国枝 秀世 山内 茂雄 堂谷 忠靖 村上 敏夫 常深 博 牧島 一夫 小山 勝二 山下 広順 三原 建弘 小川原 嘉明 吉田 篤正 槙野 文命 HUGHES J. 宮田 恵美 鶴 剛 粟木 久光 石崎 欣尚 藤本 龍一 上田 佳宏 根来 均 田代 信 河合 誠之 RICKER G. HELFAND D. MCCAMMON D.
出版者
宇宙科学研究所
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

「あすか」は、日米共同で製作されたX線天文衛星であり、1993年2月に打ち上げられた。そして、その後の観測運用も両国の緊密な協力によって遂行されている。これまで衛星は順調に運用され、装置は正常に稼し、所期の性能を発揮しており、試験観測・公募観測とも順調に行われてきた。本研究の目的はこの衛星の観測・運営を日米協力の下で行い、中性子星やブラックホールを含むX線連星や、超新星残骸、活動的銀河核、銀河団等からのX線放射、宇宙X線背景放射等の研究を行うことであった。この目的に沿って研究を進め次の各項目に述べる成果を挙げた。(1) 専門科学者グループの会合を定期的に開催し、観測計画の評価・ターゲットの選択、衛星の運用、適切な検出器較正等の衛星観測運営上の基本方針について討議をおこなった。(2) X線望遠鏡および各測定装置の精密な較正を行うとともに、各検出器の諸特性・応答関数の時間変化を明らかにし、すべての観測に対し正確な解析を可能とした。(3) データ解析ソフトウエアーの改良・拡充、科学データの編集、管理を両国研究者が協力し且つ継続的におこなった。(4) 観測から得られたデータを共同で解析、討議を行って、その科学的成果をまとめた。さらにこれらの得られた成果を各種国際学会・研究集会において発表し、また学術専門誌に公表した。(5) 観測者の占有期間を過ぎたデータを統一的に編集・管理し、またその観測記録を整備して、これらの観測記録、アーカイブデータを広く公開し、世界中の研究者の使用の便に供した。特に、「あすか」によるX線観測では、その高感度、高帯域、高分光撮像特性により、宇宙論研究に重大な寄与をするX線背景放射の解明、遠方のクエーサーや原始銀河からのX線放射の発見、銀河団の進化および暗黒物質の解明、活動銀河核、ブラックホール天体、ジェット天体、強磁場中性子星等の特異天体の解明、激変星、高温白色わい星、超新星残骸等における高温プラズマ状態の研究等において重要な成果を得ることが出来た。これら「あすか」の成果は国際的にも高く評価されている。以上、本研究課題に対する科学研究費補助金により、国際協力の下での「あすか」衛星の観測・運営が円滑に行われ、また十分な科学的成果を挙げることが出来た。
著者
谷 武幸 ALI Arnaut HORVATH Pete HOPPER Trevo SCAPENS Robe 加登 豊 TREVOR Hopper PETER Horvath ROBERT Scapens ARNAUT Ali HORYATH Pete HOPPER Trero SCAPONS Robe WANGENHEIM S
出版者
神戸大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

平成10年度には、過去2年間の研究を踏まえて、研究成果の総括を行った。研究の成果は、次の3点にまとめることができる.(1) 原価企画の日独比較。3年間のフィールド調査に基づいて、またすでに実施済みの日本企業対象の「原価企画の実態調査」をドイツ企業対象に実施した.これらの比較調査の分析観察結果については、8月に神戸大学でワークショップを開催し、日米の研究者・実務家が参加してディスカッションを行った。このワークショップでのディスカッションをフィードバックして、研究成果をとりまとめ、公刊することにしている。(2) サプライヤーマネジメントの日独比較。これについては、平成9年度に行った日独比較のサーベイ調査をとりまとめ、論文を公刊した。ドイツ企業において、試作から量産までのリードタイムが長くなっている要因をサプライヤーマネジメントの観点から析出できた。(3) グローバル組織の管理会計に関する日英比較。次の諸点が明らかになった。1 日本の多国籍企業は、本社主導でマネジメントコントロールを行う傾向があること2 日本における場合と同様に、業績評価を行うが、それとインセンティブとの関連が希薄なこと3 指揮や指示がハイコンテキストな方式で行われる結果、現地人管理者には不平や不満が少なくないこと4 現地からすれば、不要だと思われるような頻繁で大量の情報を本社が要求すること、そして、それらの情報に基づいた本社からの指示がほとんと行われていないこと5 上記の点を含めて、「マネジメント・コントロール」という用語が世界共通で用いられるにもかかわらず、その意味の理解については、国ごとに相違があり、このことが、多国籍企業のマネジメント・コントロールの実施にあたって,多種多様な問題を生じさせていることなどが明らかになった。
著者
近藤 公夫 王 敏 日色 真帆 三上 晴久 廣川 美子 川村 政美
出版者
神戸芸術工科大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

日本の文化史に1000年前の金色堂に見られる黄金よりも、500年前の銀閣に銀をもって蔽った漆のたたずまいを好ましいかに思う今日の心象、その心象が形成された風景の源流を三内丸山以来の伝統に考えるのは是か非か。あえて日本の赤をめぐる景観の源流として三内丸山の風景をとりあげ、そこに出土した赤漆の色に「日本の赤と中国の赤」に関する調査研究の拡大と深化に係わる発展的な端緒を求めたいと考える。おそらく今日の科学をもってすれば什器に見られる彩文の赤漆について、あるいは同様に出土している黒漆などに関しても、その原色を解明して三内丸山の文化に迫る可能性は考えられよう。そこから四季の自然に恵まれ秋季の紅葉があざやかな東北日本にあって、今も日本民族の心象に伝わる縄文文化に投影された赤の風景を、その植生に見られる景観の変化から考え得るとも思われる。さらには重ねて司馬遼太郎氏がこの地を北のまほろばと記した秋色を思えば、日本の赤についての源流を縄文時代の赤漆と山野の紅葉から妄想した次第について、ひとつの心象的な風景へと思いを致さざる得ない。4000年前以上もの太古に三内丸山社会が見せた情景、遠近の人々を集めた祭祀のにわに赤が演じた風景とは何であったのか。それは後世の神前に舞う乙女達の白衣紅裳とは果たして連なるものか、あるいは東アジア文化に如何なる位置を占め、それは如何なる変遷を経て今日の伝統文化と結ばれ得るのか。それは自然科学から考古学そして歴史学から文化人類学、それぞれの検討を総合した上に新しい展開を今後に期待させる課題に連なるであろう。
著者
佐藤 政良 NIYAMAPA Tan BAHALAYODHIN バンショー 佐久間 泰一 真板 秀二 小池 正之 BANSHAW Bahalayodhin TANYA Niyamapa NIVAMAPA Ton VUDHIVANICH バラウト PONGSATORN S TANYA Niyama VARAWOOT Vud JESDA Kaewku BANSHAW Baha 杉山 博信
出版者
筑波大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

戦後に建設されたタイ中央平原における近代的灌漑システムの現状を末端農村レベルまで調査し、独立的といわれるタイ農民の協同的水管理行動について検討した。チャオブラヤ川流域における乾期の絶対的水不足環境の下で、政府の努力に関わらず、Water Users′Group(WUG)が十分に機能せず、とくに乾期の水配分が政府の意図通り計画的に実施できていないことを明らかにした。末端レベルでは、圃場条件に応じた水管理が行われ、用水配分は一般に上流有利になっていて、水条件のよい農民だけが3期作を実現できる。用水確保のため、必要な限りではあるが協同で水路維持事業を実施している。圃場整備実施に対しても、村としての事業参加が見られ、大半の農民が参加している。しかし道水路密度,換地方法,不賛同者地区除外の仕方などに日本との違いがあることが指摘された。補助金等の政策技術によって、WUG活動へのインセンティブを高めることが必要である。中央平原稲作地帯における大型トラクタ走行の阻害要因であるBangkok clayey soilに対する動力学的試験を行い、繰り返しねじりせん断試験における繰返し回数の増加につれて、ねじりせん断ひずみと間隙水圧が増加することを見いだした。乾燥密度と載加周波数がねじりせん断応力に及ぼす影響も明確になった。流域保全に関しては,メクロン川流域における土壌侵食および浮遊土砂流出と流域特性を解明するため、(1)流域および降雨特性、(2)タイの他諸河川との比較によるメクロン川の浮遊土砂流出特性、(3)浮遊土砂流出量推定式、(4)支流のクワイ・ヤイ川、クワイ・ノイ川およびランパチ川の浮遊土砂流出特性,の検討を行い、流域上流部に対して下流部の方が浮遊土砂のより大きな供給源になっていることを明らかにした。流域の長期的・持続的利用にとって、開発農地における土壌流亡対策の実施が重要であることを指摘した。
著者
高野 久輝 井街 宏 YOON Shin Le CHEOL Sang K HAN Ik Jo KYUNG Phil S IN Seon Shin SEON Yang Pa BYOUNGーGOO M 妙中 義之 松田 武久 加藤 久雄 MIN Byoung-Goo
出版者
国立循環器病センター
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

完全体内埋み込み型人工心臓の駆動システム、さらには、生体医用材料の血液適合成に関し、日・韓両国のメンバ-が韓国が会し、討論を行った。以下に、討論された問題点にそって両国の現状をまとめる。1.駆動システム国立循環器病センタ-では、摩擦ポンプ(アクチュエ-タ)を正・逆転させる事で、シリコン油を左右交互に動かし血液ポンプを駆動させるエレクトロハイドロリック方式が採用されている。本システムの利点は、アクチュエ-タを血液ポンプと離れた位置に埋め込み可能で、従来開発をおこなってきた空気駆動型人工心臓がそのまま利用でき、またその胸腔内へのフィッティングを損なうことが無い。しかし、モ-タ-を正・逆転させる事による効率の低下が大きい点が、現在の欠点である。生理的状態に設定された循環回路を用いたテストでは、最大60回の心拍と5L/minの心拍出量が得られている。また、成山羊を用いた急性実験でもほぼ同等の結果が得られている。今後、アクチュエ-タのデザイン及びモ-タの改良を行い、効率を向上させる事が大きな課題である。東京大学では、ユニ-クなアイデアの埋め込み型人工心臓が開発されている。これは、一つの遠心ポンプに2つの3方弁を付け、更に、それぞれの3方弁に血液の輸入出ポ-トを取り付けたもので、3方弁を切り替える事で一つのポンプが両心室の機能を果たす。現モデルを用いたin vitroテストでは、5L/min程度の流量が証明されているが、一つのポンプを用いる事による動静脈血シャントやシステムの抗血柱性等が今後の課題である。ソウル大学では、2つの血液サックの間でアクチュエ-タを左右に動かし血液を駆動する、ペンデュラムタイプの埋め込み型人工心臓が開発されている。5頭の動物実験がすでに行われ、100時間の生存記録を得ている。本システムでは、アクチュエ-タと2つのサックがひとつのハウジングの中に収められており、ポンプのデサインの自由度が低い。このため、人体内での解剖的適合性に問題がある。2.材料表面での抗血柱性の獲得国立循環器病センタ-では、医用材料表面に血液が接した場合の内因性血液凝固系やカリクレイン・キニン系の活性化に関する研究が行われている。ビタ-ガ-ドの種子から、これらの系の活性化を阻害するインヒビタが見つけられており、人工臓器や体外循環に応用できる可能性がある。また、血液面だけでなく材料面からのアプロ-チも行われている。すなわち、光照射で開裂するフェニルアジド基を吸着させたい蛋白等に化学反応させ、本物質を目的とするポリマ-上で光照射により吸着させる技術の開発が行われている。様々なポリマ-、蛋白質に応用可能であり、人工臓器やバイオセンサへの応用が期待できる。ソウル大学では、より高い抗血柱性を獲得する為に、ポリウレタン表面を内皮細胞や蛋白分解酵素であるルンブロカイネ-スで被覆する研究が行われている。また、ペンデュラムタイプ人工心臓の血液室内での、流れと血柱形成の関係に関する研究も行われている。3.その他自然心では、左右心拍出量が数%異なるが、埋め込み型人工心臓においてこの左右差をいかに実現するかは、大きな問題である。国立循環器病センタ-では、心房内シャントを利用する事を考えている。東京大学のタイプの人工心臓では、3方弁の開閉の時間を変える事で比較的容易に実現できる。ソウル大学では、血液サックを2重にして外側のサックをペンデュラムに固着し、ペンデュラムの動きを非対称にする事と、さらにペンデュラム周囲のシリコン油と空気の量を調節する事で、左右差を実現しようとしている。人工心臓には機械弁を用いるのが現在の主流であるが、ソウル大学では、人工心臓と同じ材料のポリウレタンを用いた人工弁の開発と評価が行われている。製作コストが低い事が利点であるが、耐久性や石灰化の問題が今後の課題である。
著者
川井 啓市 劉 輝雄 施 壽全 楊 國郷 翁 昭紋 林 肇堂 王 正一 王 徳宏 渡辺 能行 山口 俊晴 土橋 康成 高橋 俊雄 CHUAN Shin-Shou YANG Kuo-Ching MIN Weng-Chao LIN Jaw-Town WANG Cheng-Yi WANG Teh-Hong LIU Hui-Hsiung 青池 晟
出版者
京都府立医科大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

十二指腸潰瘍が胃潰瘍よりも多く,かつ胃瘍が少ない沖繩県に隣接する台湾でも十二指潰腸瘍が胃潰瘍より多いといわれており,台湾における胃癌や大腸癌の実態を明かにし,その発生要因を検討するのが本研究の目的である。記述疫学的に死亡統計をみてみると,台湾では,男で胃癌の漸減傾向,直腸癌と結腸癌の増加傾向が,女で胃癌の減少傾向,結腸癌の漸減傾向,直腸癌の漸増傾向がみられたのに対して,日本では男で台湾と同様の推移が,女で胃癌が減少傾向,直腸癌が漸減傾向,結腸癌が増加傾向を示していた。また,日本では結腸癌の増加傾向が著しいが,台湾では過去15年間に一貫して結腸癌の方が直腸癌よりも高率であり,いわゆる欧米的なパターンを呈していたことが強調される。臨床統計として台湾大学医学院内科において1992年1年間に診断したすべての胃癌患者は男52例,女30例,合計82例であった。同様に大腸癌は男22例,女18例,合計40例であった。大腸癌の部位は結腸癌23例(男11例,女12例),直腸癌17例(男11例,女6例)と,男では結腸癌と直腸癌は同数であったが,女と合計では結腸癌の方が多かった。1990年1年間の京都府立医大・第一外学教室で新たに診療したすべての胃癌患者は男73例,女38例,合計111例であった。同様に大腸癌は男20例,女13例,合計33例であった。その部位は結腸癌15例(男8例,女7例),直腸癌18例(男12例,女6例)で,直腸癌の方が多かった。台湾におけるこれらの胃癌の組織型をみてみると,well differentiated adenocarcinoma10%,moderate differentiated adenocarcinoma15%,poorly differentiated adenocarcinoma45%,signet ring cell carcioma11%,その他9%不明11%であった。同様に台湾の大腸癌の組織型は,well differentiated adenocarcinoma 5%,moderate differentiated adenocarcinoma48%,poorly differentiated adenocarcinoma3%,詳細不明のadenocarcinoma38%,その他8%であった。このような組織型はわが国における実験と大差なかった。1991年12月より台湾大学医学院内科他3施設において内視鏡検査受診者に対するライフスタイルなどの調査を開始した。1993年1月末現在で上部消化管内視鏡検査受診者7856人と大腸内視鏡検査受診者589人分の資料を収集した。最終的に胃癌患者は約100例,大腸癌患者は約50例になる予定である。このうち,既に整理の終わった胃癌患者30例と大腸癌患者24例の資料を用いて分析疫学の症例・対照研究の手法で台湾における胃癌と大腸癌のリスク・ファクターの検討を行った。解析に用いた胃癌症例は男18例,女12例,合計30例である。対照は上部消化管内視鏡検査で著変なかった男47例,女156例,合計203例である。これらの対象の既往歴,癌の家族歴,飲酒,喫煙及び食餌習慣について性・年齢階級の絞絡を補正するためにMantel-Haenzel法によって各要因単独の暴露ありのオッズ比を求めた。その結果,統計学的に10%以上の有意水準で有意であった要因について,相互の絞絡を補正するために多変量解析のunconditional logistic regression analysisを用いて解析した。高血圧の既往があることとのオッズ比は0.02であり,香辛料を週に2-3回以上摂取することのオッズ比は0.07でともに有意に胃癌のリスを下げていた。同様に大腸癌症例男13例,女11例,合計24例と大腸内視鏡検査で著変なかった対照の男47例,女60例,合計107例について単独の要因について解析した。牛肉を週を1-2回以上摂取することは有意に大腸癌のリスクを0.30に下げ,塩からい食品を毎日摂取することは有意に大腸癌のリスク3.52倍高めていた。なお,大腸癌については少数例であり多変量解析は行えなかった。この結果の評価については,最終的に収集できた全胃癌症例と大腸癌症例を用いて行う予定である。また,背景の遺伝子の解析としてPGC RFLPパターンは台湾の胃潰瘍では前庭部と他部位で異なっていた。
著者
大塚 和夫 小杉 泰 坂井 信三 堀内 正樹 奥野 克己 鷹木 恵子 赤堀 雅幸
出版者
東京都立大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

3年間にわたる調査・研究の結果、北アフリカのムスリム社会が、近年のグローバル化の大きな波に洗われ、伝統的生活のあり方の一部を維持しながら、さまざまな側面での変容を経験していることが明らかになった。それは食や衣といった物質文化の側面から、女性労働のあり方、歌謡曲などの大衆文化そしてイスラームに関わるさまざまな活動の領域にまで及ぶ。それらを明らかにする過程で、ジェンダーのあり方、イスラーム復興、情報社会化、観光化などのきわめて今日的な人類学的テーマに関しても今後の研究の調査・研究の見通しを得ることができた。その一方において、これまで我が国ではほとんど知られていなかった「伝統的」なイスラーム活動のいくつかの側面に関する基礎データも収集できた。それは、モロッコのスーフィー教団、同じく伝統教育のあり方、そしてエジプトなどにおけるムスリム学者の大衆に対する法的助言(ファトワー)の実態などである。これらは今後のイスラーム研究においてもきわめて貴重な資料である。今回の調査・研究を全体的に見渡すと、やはり広い意味でのグローバル化の影響が、北アフリカのムスリムの日常生活のいろいろな面にまで浸透していることが明らかになった。その結果,今後の人類学=民族誌学的研究においても,フィールドを取り巻くさまざまな環境、とりわけ国家やグローバルなレベルからの政治・経済・文化的なさまざまな影響を、これまで以上に真剣に考慮する必要性が痛感されるようになった。そのような所見に基づき、北アフリカに限定せずにアラブ世界全般を視野に入れグローバル化の過程に着目した人類学的研究のプロジェクトを企画し、その一つを科研費補助(基礎研究C)をえて実施してるところである。
著者
山田 三郎 大石 敦志 板垣 啓四郎 POAPONGSAKOR ニポン 下渡 敏治 比嘉 輝幸 NIPON Poapon 上原 秀樹
出版者
日本大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

本研究の目的は、近年ダイナミックな経済成長を続けるアジア諸国における「食料システム」の変化を、現地調査に基づいて実証的に比較検討するとともに、アジア全体としての食料需給に関する国際リンケージの進展を明らかにすることにある。「食料システム」とは、人々の食生活を巡る経済諸活動、即ち、(1)多様化し拡大する食料の供給を担う「川上」の農業・水産業、(2)食材をより需要に適する食品に加工しより円滑な流通を図る「川中」の食品加工産業・食品流通業、そして(3)所得向上によって多様化・高度化する「川下」の消費者の食品需要と彼らが望むサービスを提供する外食産業・食品小売業、更に、(4)それらの国内諸活動のそれぞれの段階でますます関わりを高めている海外直接投資・貿易をも包括した全体としての相互関係の全体系を意味する。本年度は、前年度の調査対象国の内のタイ・中国・台湾に、新たにインドネシア・ベトナム・韓国を加え、それぞれの国に於いて食料システムを構成する食料消費動向、食品加工業、食品流通業、外食産業、農業などに関する現地調査を実施した。その結果、2年間にわたる海外現地実態調査によって、アジア諸国の食料システムの実態を全体として把握することが出来た。本研究によってえられた成果の概要は以下の通りである。1.現地調査の結果明らかにされた対象地域での経済発展の進展と食料システムの変化のスピードは、われわれの予想をはるかに上回るもので、外資系ファースト・フードや大型スーパーマーケットの普及の中で、加工食品・外食の消費支出が増大するなど、何れの国の食生活も大きな変化が生じていた。2.しかし、こうした食料消費の変化には各国とも地域的なラグがあり、食料消費の変化は、特に、首都圏や経済活性化中心部(上海・ホ-チミン市等)で著しい。農村部では基本的には自給自足的な食生活ながら、それなりに新飲料の普及など結構加工食品の需要も増え、また、外食化の進行も認められた。3.他方、大都市でも在来的なバザ-ルは依然賑わっており、所得階層間格差を伴いながら、庶民の食生活は旧来のもと新食品の二重構造消費となっている。4.食料需要の増大は、特定の食品についてはアジア諸国での海外からの食料輸入をも増加させており、食料の調達がアジアでもグローバル化している。5.こうした食料需要変化に対して、農業生産、食品加工、食品流通・食料サービス産業などもそれに対応して多元化・多様化するなど大きなインパクトを受けており、特に、都市での加工食品や外食の普及は、食品産業に大きなビジネス・チャンスを与えるなど、食料システムにドラスチックな変化を与えた。6.急速な経済発展の誘引により、アジア諸国に進出する日本その他の国からのアグリビジネスが増加し、それがまた、現地でのさまざまな生産活動への関与を通じて、アジア諸国の食料システムの変革を促しいる面も明かとなった。7.こうしたアジア国内食料需要の変化の外に、日本など海外市場からの加工食品や生鮮野菜輸入需要が強まり、海外向けの食品加工が海外直接投資によって進められている。日本向け食品の場合、手巻海苔あられ・冷凍たこ焼きなど労働集約的な食品の加工生産輸出が各国で著しかった。8.しかし、急激な経済成長と国内外の需要拡大にともない、各国で、少なくとも地域的・時期的に人手不足と良質の原材料不足が深刻化し、雇用のサブコントラクトや食材輸入を促進させている。9.このような食料システムを構成する経済諸活動の変化によって、従来の一国での自己完結的な食料システムから、複数国とのリンケージを強めた国際的食料システムへと大きく変化しつつある。なお、2年間にわたる研究の成果は、「アジアの経済発展と食料システムのダイナムズム」(仮題)として刊行を予定しており、1997年2月にタイの研究分担者ニポン博士も参加して東京開催したワークショップでは、研究分担者達の個別報告をベースにして刊行の内容についても論議され、直ちに全分担者による中間報告論文の推敲と新論文の執筆準備がスタートした。
著者
吉野 一 KOWALSKI Rob BRANTING Kar RUESSMANN He HERBERGER Ma ASHLEY Kevin BERMAN Donal HAFNER Carol 桜井 成一朗 北原 宗律 原口 誠 加賀山 茂 松村 良之 HELMUT Ruess ROBERT Kowal MAXIMILIAN H KEVIN D Ashe DONALD H Ber CAROLE D Haf RUESSMAN Hel
出版者
明治学院大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

本研究は、国際統一売買法を対象領域として、成文法国である日本および西ドイツと判例法国であるアメリカ合衆国の研究者が、それぞれの法体系の特徴である「ルールに基づいた推論」と「事例に基づいた推論」の論理分析を行ない、それぞれの推論のシステム化の研究成果を交換するとともに、共同でルールの解釈と類推適用のメカニズムを解明し、それに基づいて、ルール型の推論システムと事例型推論システムとを融合させることを目的とした。平成5年度において次の点が達成された。(1)本国際共同研究によって、大陸法系の「ルールに基づいた推論」と英米法系の「事例に基づいた推論」の論理構造がそれぞれおおよそ明らにされた。(2)「ルールに基づいた推論」と「事例に基づいた推論」の相互関係、両者を融合させる道が明らかとなった。すなわち、法ルールの解釈において事例に基づく推論を利用する方法が明らにされた。(3)法的知識の表現方法として、論理流れ図の方法と複合的述語論理式(CPF)による方法とが確立された。(4)CISG(国連売買条約)の第2部契約成立の部分の論理構造が解明された。そしてそれが、開発された知識表現方法である(日本語と英語版の)論理流れ図およびCPFによって、コンピュータ上に表現された。この表現形式を共通の表現形式として用いることに日米の研究者の合意が形成された。(5)CISGの論理流れ図表現を対象に日・米の研究者が議論したが、これは異なる言語、異なる法文化を持つ日米の両国の法律家の間によいコミュニケーションを実現する方法であることが判明した。(6)CISGの法解釈学的諸論点が明らかとなった。また解釈の違いと背景となる法文化の関係が明らかになった。(7)ドイツ側の研究者は、英語、ドイツ語およびフランス語のマルチ言語のCISGのハイパーカードシステムを完成した。またCISGのドイツ語テキスト文からそれに対応する述語論理式を半自動生成する知識獲得支援実験システムを作成した。次の点で成果はあげつつも、当初計画をそのままの形で実現することはできなかった。(1)ルール型推論システムおよびルールからの類推実験システムを作成した。しかし、ルール型推論システムをアッシュレ-などの事例型推論システムと結合させるまでには至らなかった。従ってまた、ルールに基づいた推論と事例に基づいた推論を融合するシステムの実装も実現できなかった。(2)述語論理式から日本語文および英語文を生成する試験システムを作成したが、日本語と英語の法律知識ベースを融合するためのインターフェースを作成するまでには至らなかった。(3)研究のまとめ方と研究成果の執筆分担の取り決めがなされたが、年度内に本国際学術共同研究の成果報告書を作成することができなかった。これらは研究を進めるに従って問題の深さが明らかになり、安易にシステムの実装を急ぐより、研究の基礎を固めることにより努力した結果でもある。とはいえ、本国際学術共同研究によって、複数の言語で表現され、しかし条約として合意されたことによって一つの内容を持つCISG(国連売買条約)を対象にし、また大陸法系の成文法主義(ルール主義)の法的推論と英米法系の事例主義の法的推論を比較検討し、それを両者を融合させる方向で人工知能システムとして実現しようと努力したことによって、一方において、同法の諸論点が明らかになったとともに、異なる言語および法文化に属する法律家間のコミュニケーションの方法が提供された。本研究は比較法の新たなメソッドを提供した。他方において、人工知能研究にとっても、事例にもとづく推論で法ルールの解釈を支援するシステムの実現方法が確立された点で、有意義な成果を挙げたといえる。
著者
松村 多美子 DORIBAL T. SIMMONS D. ZHAODONG L. RAHMAN M.D. KANAKAMANI T OPENA M. HUNG T.B. BUDIHARDJO U NETTAVONGS K MILNE L. DINH D.N. TORRIJOS D.E 竹内 比呂也 谷口 祥一 永田 治樹 常磐 繁 内藤 衛亮 原田 勝 小野 欽司 猪瀬 博 LAHIRI A. YEE J. NEES J.M. DORJBAL T NETTAVORGS K NEES T.M. DORJBAL T. KANAKAMARI T 根本 彰 緑川 信之 山田 尚勇 CHEVAPRAPANA O ISMAIL M.S. SHRESTHA K. WIJASURIYA D
出版者
図書館情報大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

本研究はアジア・太平洋地域諸国が参加し,ユネスコ総合情報計画/ASTINFOの枠組みにおいて実施する国際共同研究である。これらの諸国は情報インフラストラクチャはもとより経済的発展段階,分化・歴史・社会制度などきわめて多様性にとんでいることから,本研究を効果的に進めて行くために研究分担者が集まり全体的な実施計画並びに方法について討議を行う必要があった。そこで平成6年10月11-14日に図書館情報大学において第1回国際ワークショップを開催した。これには海外から,インドネシア,タイ,フィリピン,ベトナム,オーストラリア,ユネスコ地域アドバイザーが参加し,調査研究の全体計画と方法論を討議し,さらに平成6年度の具体的実施計画を策定した。この結果研究方法としては,1)質問紙による調査を各国の研究分担者を中心とするナショナルチームが実施する。2)質問紙調査データ集計処理は日本チームが行う。3)現地調査は日本からの派遣研究者と当該国の研究分担者及びナショナルチームが共同で実施する。4)このため各国に研究分担者を中心とし,関連情報機関を網羅する組織(ナショナルチーム)を設置する。この研究方法はその後の実施を通じてきわめて有効であることが立証され、成果報告の場においても高く評価された。また,質問紙調査の調査項目についても討議を行い本研究を通じて使用する質問紙(英語)を作成した。平成6年度にはベトナム,インドネシア、フィリピン,タイにおいてそれぞれ研究分担者と共同で主要な情報センター,国立図書館,大学・研究所図書館など中心的な役割をもつ情報機関を対象に訪問調査を実施した。また,情報政策に関連する政府機関で関係者と意見交換を行うことができた。ベトナムでは研究分担者を中心にベトナム研究班を設置し,Information Infrastructure and Servies in Vietnam:Stuational Reportを作成し,わが国の派遣研究者を加えてハノイ市で全国セミナーを開催し,国立情報センター,国立図書館,文書館,通信関係者など情報関係者が集まり活発な討議を行った。平成7年度には8月21-25日に図書館情報大学において,第2回国際ワークショップを開催した。これには海外からバングラデシュ,ニュジーランド,フィジ-,フィリピン,ベトナムが参加した。ここでは1年間の研究実績をレビューし,平成7年度の研究計画について最終討論を行った。また,既にを完了したフィリピンからナショナル シチューション リポートの報告があり,フィジ-,バングラデシュ、ニュージランドからはカントリーレポートの発表が行われた。現地調査はバングラデシュ,フィジ-,ニュージーランド,モンゴルについて実施した。バングラデシュではベトナムと同様にナショナル シチュエ-ショナルレポートがほぼ完成しており,全国セミナーを開催して討議を行った。また,アジア・太平洋地域で情報基盤整備が進んでいるシンガポールについて特にInformation2000の情報政策を中心に調査を行った。平成8年度には,10月8-11日に第3回国際ワークショップを開催し,これまでの各国における調査結果の分析に基づく,クロスカントリー アセスメントリポートの発表と討議を行った。また,3年間の研究実績の評価を行い,本研究の成果を広くアジア・太平洋地域に伝えるために平成9年度に国際シンポジウムを開催することが決議された。本研究の成果の主な点は,-新しい調査研究方法の確立-情報インフラストラクチャの実態と今後の対応をまとめたナショナル リポートの刊行(ベトナク,バングラデシュ,フィリピン,フィジ-などユネスコから出版)-各国の調査結果の分析に基づき地域レベルで考察を加えたクロスカントリー アセスメントリポートの刊行-各国における調査研究能力の開発に貢献-主な出版物・Proceedings of International workshop,11-14 Octoer 1994.ULIS,1994 (SISNAP Report 1)・学術情報ネットワークの基盤構造に関する調査研究-アジア・太平洋地域における- 平成6年度 研究報告 ULIS,1995 (SISNAP Report 2)・Proceedings of the 2rd International workshop,21-25 August 1995.ULIS,1995 (SISNAP Report 3)・Proceedings of the 3rd International workshop,8-11 Octoer 1996.ULIS,1996 (SISNAP Report 4)
著者
林 農 HIGUCHI H. KLICK Heiko LAMPARD D. LICHTAROWICZ エー CLAYTON B.R. CHOI KwingーS 田辺 征一 若 良二 河村 哲也 望月 信介 大坂 英雄 LAMPARD Desmond HIGUCHI Hiroshi
出版者
鳥取大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

本国際共同研究は、イギリス、ドイツ、及びアメリカの研究グルプと、本年13周年を迎えた西日本乱流研究会の研究者達が協力して、それぞれが既に研究成果を挙げ十分なデータを蓄積している運動量、熱及び質量輸送に関する実験結果を相互に交換して、これらに共通する基本原理を明らかにすることを目的としたものである。本共同研究の開始に先立つ4年前、研究代表者の林は文部省在外派遣研究員として、1991年8月から4ヶ月間ドイツ・ルール大学ボフム校に滞在し、K.Gersten教授及びHeiko Klick氏と遷移境界層中に発達する温度境界層に関して共同研究を行った。引き続き、1991年12月から4ヶ月間イギリス・ノッチンガム大学に滞在して、Kwing-So Choi博士とリブレット平面上に発達する境界層内の伝熱促進に関して共同研究を行った。その際、ノッチンガム大学のB.R.Clayton教授及びルール大学のK.Gersten教授の勧めもあって、3国間での資料交換についての国際共同研究を申請することに合意し、国内外研究者の組織化を進めた。その結果、幸いにも、平成7年度文部省科学研究費補助金国際学術研究に採択いただき、国際共同研究を実施する運びとなった。国際学術研究・共同研究では、国内の研究者グループと国外の研究者グループの対等の立場での研究者交流が重要な柱となっているので、本共同研究においても、研究経費は各研究機関の負担によることとし、研究者の交流による討論及び外国研究機関での研究に主眼をおいて学術交流を推進した。本共同研究の目的である討論をより深めるためには、各々の研究者が国内外の各地に点在する大学や研究所を訪問し互いの実験結果を比較し検討するよりは、経費と時間を有効に使うためにワークショップなりセミナーの形式を採用して多くの研究者が一堂に会して、課題の本質について討議することの方が能率良く且つ実り多い結果が得られると感じられたので、共同研究の実施期間である平成7年度中に、2度の 「質量,熱,運動量輸送の乱流制御」 に関する国際会議を開催した。一つは、1995年10月6日に鳥取大学において開催した国際交流セミナー 「質量,熱,運動量輸送に関する乱流制御」 であり、B.R.CLAYTON教授、Kwing-So CHOI助教授及びHeiko KLICK博士の3名に加えて、国際的学者である東京大学・笠木伸英教授及び名古屋大学・中村育雄教授、国内の研究グループである西日本乱流研究会の多くの研究者達が討論に加われるように配慮して、検討を十分掘り下げることができた。他の一つは、1995年8月22日にイギリス・ノッチンガム大学において開催したOne-day Colloquium 「Techniques in Turbulence Management of Mass,Heat and Momentum Transfer」 であり、西日本乱流研究会からも特別講師として、研究代表者の林農教授、研究分担者の大坂英雄教授、河村哲也教授、田辺征一教授が招かれて、ノッチンガム大学のスタッフのみならず、イギリス各地の大学、研究所、企業から集まった乱流制御問題に関心のある研究者達及び別途日本から参加の岐阜大学・福島千尋助手及び日本原子力研究所の秋野詔夫主任研究員らを交えて活発な意見交換が成され,十分な成果をあげることができた。また、河村哲也教授は、短期間であるが共同研究の相手先であるノッチンガム大学工学部機械工学科に滞在して、リブレット付き平板上に発達する境界層の数値シミュレーションに関する研究を行った。研究分担者の鳥取大学・若 良二教授もノッチンガム大学短期滞在中に乱流計測技術の調査研究についての成果を得た。今回の共同研究の結果として、本研究に加わったイギリス・ノッチンガム大学及びアメリカ・シラキュース大学と鳥取大学との大学間交流協定を締結する準備が進展している。したがって、ノッチンガム大学とはリブレット付き平板上の境界層の発達と熱伝達促進に関する共同研究を、シラキュース大学とは円柱後流の干渉とウェーブレット解析に関する共同研究を、大学間協力研究として、近い将来の文部省科学研究費補助金国際学術研究に申請するよう計画しているところである。
著者
近森 正 棚橋 訓 塚本 晃久 吉田 俊爾 森脇 広 岡嶋 格 KAURAKA Kau TONY Utanga KAURAKA Kaur
出版者
慶応義塾大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

1.自治権獲得以来30年、クック諸島では民族的自覚の確立が模索されてきた。近年、政府内に文化開発省が設けられ、伝統文化の保存・継承の試みが組織的に開始された。本研究は「文化遺産の保存計画」に基づくクック諸島政府の要請によって立案された。その目的はすでに積み上げられたわれわれの調査実績の上にたって、先史遺跡、歴史的遺構を中心とする文化遺産の効果的な保存・継承に関する考古学的、民族学的、言語学的な基礎研究を行うことにある。2.平成7年から9年度にわたる3年間の調査は北部クック諸島プカプカ島と南部ラロトンガ島において集中的に行われた。調査対象となった遺跡は総計17遺跡(プカプカ島5遺跡、ラロトンガ島12遺跡)である。主要出土遺物200点以上、埋葬人骨10体を発見し、両島の地域史を明らかにする上で必要な考古学的情報を充分に蓄積することができた。これにより、祭祀建造物の形式が西ポリネシアと東ポリネシアの双方から文化的影響を受けつつ各島で地域的な発展を遂げたことが判明した。プカプカ島のそれは農耕の祭祀活動と密接な関係を示している。またラロトンガ島の内陸、尾根筋に発見された祭祀建造物とサンゴ礁島の祭祀建造物の発掘調査によって祭祀空間の地域内での多様性が判明した。3.考古学的に明らかにされた祭祀空間の特性が文化遺産の継承形態を規定していることが確証された。この成果は土地法廷史料及び民族学的調査成果との連接を経て、文化遺産の継承形態に関する時系列的な基礎情報群として集成された。これに基づき、当該地域の文化遺産継承を核とする文化政策の策定に貢献することができた。4.プカプカ語はポリネシア語の形成過程の重要な位置をしめる。言語学的に正確な記載と口頭伝承の記録によって、クック諸島の歴史的解明が可能になるとともに、消滅しつつある無形文化遺産の保存に大きな貢献をすることができた。
著者
佐々木 昭夫 CHEN X. ROUVIMOV S. LーWEBER Z. WEBER E.R. 若原 昭浩 LILIENTAL-WEBER Zuzanna CHEN Xiaoshung CHEN X ROUVIMOV S WEBER Z.L WEBER E.R CHEN Xiaoshu ROWVIMOV Ser LILIENTALーWE ゼット WEBER Eicke 鍋谷 暢一
出版者
大阪電気通信大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

超高真空対応走査型トンネル顕微鏡による、不規則構造半導体の断面観察には、現用装置の改造が必要であった。製作企業との数度に亘る討議により、現用の表面観察に支障無く、改造し得る方法を案出した。今後、改造装置により本来の研究を続行し得る。InAs/GaAs量子ドットの規則、不規則配列の形成条件を知るために、スペ-サ層に相当するGaAs層の厚さを順次変えた試料を作製した。高分解能電子顕微鏡による試料断面を観察することにより、(1)GaAs層の厚さが、InAs量子ドットの高さの寸法と同じ厚さと、2倍の厚さの間であると、量子ドットが結合し合って規則的に配列し得ること、(2)薄いと量子ドットが潰れること、(3)厚いと結合が弱まり、量子ドットが互いに関連無く不規則に形成されること、などが分かった。J.Electronic Materials学術雑誌に掲載。InAs/GaAsの積層により、量子ドット数が増し、励起光あるいは注入電流を増すことにより、光量子効果による発光が強められる。InGaN結晶薄膜の成長において、位相分離が生ずることを実験的に見出した。これはGaN中にInNの量子ドットを形成する新しい方法と成り得る。しかしInNの形状を小さくする必要がある。AlN層に関しては、プラズマ励起成長法が如何に光量子物性に寄与するか検討中である。Stranski-Krastanov成長姿態が量子ドット形成に利用されている。層状と量子ドット状の形成において、歪エネルギーと表面エネルギーの和が小さくなる方が安定に形成されると云う考えにより、解析式を導いた。この式による理論値が、InAs/GaAsの遷移厚の実験値と良い一致を示し、今後ドット積層の場合に非常に有効な式となる。Electronic Materials Symp.(July,1998)に発表。研究代表者らは、これまで数多くの不規則超格子を作製してきた。これらの試料で未だ評価しきれていない物性値がある。本共同研究により、今後、上海技術物理研究所と共同で光検出に必要な物性値を含め、それらを解明して行く計画が立てられた。
著者
五十嵐 章 WARACHIT Pai CHANYASANHA チャンチュ SUCHARIT Sup 長谷部 太 江下 優樹 CHANYASANHA Charnchudhi SAGWANWONGSE スラン
出版者
長崎大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

デング出血熱の発病機構と伝播に関する現地調査研究を、デング流行地の1つであるタイ国東北部ナコンパノム市において実施した結果、下記の知見が得られた。(1)デング患者のウイルス学的検査には、ELlSA記録計と抗原、酵素標識抗体などの測定用試薬が入手できればIgM‐ELlSAが適正技術である。それに対して、RT‐PCRは実験条件が整備されていない地方で日常検査に使用するには問題点が多い。但し、ウイルス分離は分離株の詳細な解析を行うために不可欠である。(2)6月に採取した患者血液検体からはデングウイルス1型、2型、3型が分離され、ナコンパノム市は依然としてデングウイルスの超汚染地域の1つであることが確認された。(3)患者プラスマ中のサイトカインに関して、不明熱患者に比べてデング患者ではIFN‐γが上昇しており、臨床的にデング出血熱と診断された患者の半数以上に見られた。(4)乾期に臨床的にデングと診断された患者は、デング以外の感染症の可能性が高い。(5)今回の調査において、乾期・雨期共に多数のネッタイシマカ成虫が採集され、その殆どはabdominal dorsal tergal pattern 1の黒い蚊であった。残念なことにネッタイシマカ雌成虫からデングウイルス遺伝子の検出は陰性であった。従って、当初予定していたabdominal dorsal tergal patternとウイルス感染率との関係、及びウイルス保有蚊の潜伏場所に関する知見は得られなかった。これらの課題は今後検討すべき価値があろう。(6)1〜2月の調査によって推定されたネッタイシマカの屋内潜伏場所にオリセットネツトを選択的に使用した結果、ネッタイシマカに対する防除効果が見られたことは、今後限られた経費と資源を有効に利用してデング媒介蚊防除を実施する上で重要な知見である。
著者
高須 俊明 高島 郁夫 上村 清 橋本 信夫 高橋 三雄 土井 陸雄 五十嵐 章 ANWAR Wagar 石井 慶蔵 磯村 思〓 吉川 泰弘 山内 一也 近藤 喜代太郎 YASMEEN Akba MUBINA Agbor AKRAM D.S. SHAISTA Rauf AKHTAR Ahmed AKBANI Yasmeen AGBOATWALLA Mubina AHMED Akhtar RAUF Shaista WAQAR Anwar
出版者
日本大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1988

研究代表者らは、昭和57年度以後の調査研究で、カラチでは亜急性硬化性全脳炎(SSPE)の発生頻度が日本や欧米の大多数国に比べ数十倍以上高く、また血清学的にみて日本脳炎(JE)が疑われる患者が発生していることを知った。この事実に立脚して、今回SSPE多発の要因解析とJE様脳炎の病原研究に取り組んだ。成果の概況としては亜急性硬化性全脳炎(SSPE)については著しい進展があり、特にSSPEおよび麻疹の疫学やウイルス学での成果が目立っている。しかし、日本脳炎(JE)様脳炎については目立った進展は得られなかった。1.パキスタンにおけるSSPE多発の要因解析SSPEは麻疹ウイルスが個体に持続感染している間に生じた変異株が遅発性に脳を侵して起こる疾患である。今回の研究で、パキスタンにおけるその多発の要因は、以下の点でかなり明らかになった。(1)疫学的成果:SSPE患者の麻疹罹患年齢がパキスタンでは日本や欧米の大多数国と異なりearly measles(EM;2歳未満罹患麻疹)0.353、late measles(LM;2歳以上罹患麻疹)のうち5歳未満罹患麻疹(LM5>)0.340、5歳以上罹患麻疹(LM5≦)0.307(いずれも全measlesに対する比率)とLMが大多数を占めているという事実が判明した。これに基づき麻疹罹患年齢層別に計算されたパキスタンにおける麻疹罹患者からのSSPEの発生率は、EMからは308.1×10^<-6>、LM5>からは197.4×10^<-6>、LM5≦からは585.2×10^<-6>、麻疹罹患者全体からは280.2×10^<-6>と推定され、いずれも日本におけるそれぞれの数値に比べ高く、特にLM5>は46倍、LM5≦は296倍と著しく高いことがわかった。一般人口からの麻疹発生率のパキスタン対日本比は麻疹罹患年齢で層別しても高々2倍に留まる。したがって、パキスタンにおけるSSPE多発の最大の理由は、麻疹罹患者からのSSPEの多発、特にlate measlesからの多発にあると考えられた。[高須]第2に、SSPEのcase control studyの結果、患児は対照に比べて生下時体重が低く、出生後頭部外傷やけいれんに罹患している頻度が高い傾向がみられたことから、麻疹罹患前および後の環境因子がSSPEの発生に何らかの役割を果たしている可能性が示唆された
著者
鈴木 庄亮 ROBERTS R.E. LEE Eun Sul. ORLANDAR Phi 町山 幸輝 BLACK Thomas 小林 功 山中 英寿 BUJA Maximil SHERWOOD Gue 倉茂 達徳 土屋 純 BURKS T.F. 伊藤 漸 BUTLER Patri 中島 孝 石川 春律 SHERWOOD Gwendolyn BURKS F.thomas THOMAS Burks 森下 靖雄 ROBERTS R. E 鈴木 守 LEE Eun Sul 古屋 健 JUDITH Crave RONALD C. Me GUENDOLYN Sh 大野 絢子 GEORGE Stanc 城所 良明 近藤 洋一 PAUL Darling 三浦 光彦 村田 和彦
出版者
群馬大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

平成5年度に、医学教育全般、基礎医学、看護教育、大学院教育及び病院管理を中心に相互の調査研究を実施した。これをうけて平成6年度は臨床医学教育、臨床病理・検査医学、教育技法を中心に相互訪問し、資料作成提供、説明とヒアリング、見学と討論及びセミナー開催を行なった。(1)日本側大学: 群馬大学及びその医学部、生体調節研究所(前内分泌研究所)、及び医療短期大学部。研究分担者は各部局の長および医学部教務担当教授、内科、外科、臨床病理の教授。(2)相手校: 州立サキサス大学健康科学センターヒューストン校(H校と略す)およびその医学部、公衆衛生学部、看護学部、医療技術学部、及び生物医学大学院。研究分担者は教務担当副医学部長を代表として各部局の教務関係教官。(3)渡米した教官: 中島孝(医学部教務担当、病理学)、小林功(内科学、臨床検査医学、団長)、山中英寿(外科学)、及び倉茂達徳(医短、臨床病理学)の4教授。(4)訪日した教官: 教務担当副医学部長PMバトラ-女史(医、小児精神医学、団長)、Mブヤ(医、病理学主任教授兼医療技術学部教授教授)、PMオルランダー(内科学)、及びCTブラック(外科学)の4教官。(5)研究分担者会議を日米7回開催し、研究の概要説明、研究計画実施手順、資料収集、研究討論、などを行った。(6)前年度のサキサス大学訪日団の報告書の修正、入力、整理、翻訳を行い学内関係者に回覧し、意見を求めた。(7)渡米・訪日期日: それぞれ、6月6-13日と10月22-29日。(8)渡米団の活動: 前年度訪日したH校副学長、医学部長から歓迎の意を表された。目的とする卒前卒後の臨床医学教育訓練を中心テーマとして、予定されたプログラムにそって、資料提供、説明、見学、討論が行われた。すなわち、ヒューストン校の概要、医学部カリキュラム、医学部卒後教育、臨床病理学教育及び施設、学習資源センター、医学総合図書館、教育関連病院、学生相談システム、学生評価、教官採用評価昇進等について見学と討論が行われた。(9)訪日団の活動: 日本の医学教育及び群馬大学医学部における卒前卒後の医学教育訓練について、内科外科臨床教育を中心に各研究分担者が用意した資料にもとづいて説明し、討論した。附属病院内科外科外来病室及び臨床病理中央検査部で詳細な現地見学聴取討論をし、卒後臨床教育の観点から学外の大学関連病院および開業医2ヵ所を見学した。医学教育セミナーを開催し、H校の4教官がそれぞれの立場から具体的な医学教育の方法、内科診断学教育、一般外科の実習、臨床病理学の教育、問題解決型学習および標準患者による臨床実習の方法について説明と話題提供をした。(10)報告会と報告書: 渡米した4教授による調査研究の公開報告会を7月12日に開催し、報告書の提出を得た。今年度訪日した4教官の報告書入手中。(11)本事業の意義について: 双方の教官は、相互訪問し各自の医学教育システムを最大限わかってもらえるよう努めた。相互訪問で視察と討論を行うことにより相互の文化的背景にまで及ぶほど理解が深まった。とくに西欧社会はこれまでわざわざアジアを理解しようとすることは少なかったので、テキサス大学教官にとっては国際理解のいい機会になった。米教官の一人はこのような試みに研究費を出す日本政府は米政府より将来優位に立つかもしれないと述べた。(12)日本にない米医学教育システムの特色: 入学者選抜は約15倍の学士である志願者に対して1.5時間におよぶ面接口頭試問を含む、PhD教官による基礎科学と医師による臨床医学の接続がうまくいかない、カリでは行動科学・プライマリケアが重視されている、問題解決型学習が定着している、カリにゆとりがあり積極的な自己学習を期待している、標準患者による具体的で実際的な診断学教育が行われている、学生当たりの教官の数が5割程度多い、卒後医学教育が「医局」でなく一定のプログラムの下に行われ専門医等の資格に至るようになっている、臨床検査技師教育はより専門分化している、等である。