著者
花岡 利幸 楊 進春 趙 文謙 西井 和夫 北村 眞一 ZHAO Wen-qian YANG Jin-chun 中村 文雄 今岡 正美 竹内 邦良 荻原 能男 張 道成
出版者
山梨大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

1、自然災害への対策:甲府盆地及び四川盆地を流れる河川は氾濫河川であり、両地域とも治水技術に長い歴史と特徴を持っている。2、市街地拡大・人口集中への対策:甲府盆地では城下町、周辺の農村集落の成立を通じて緩やかな発展(時速4km/hrの世界)を遂げてきたが、1965年以降の自動車化(時速40km/hr)によって市街地の拡大が始まった。自動車保有の増大に合わせる需要追随型道路計画が進められてきた。1980年代の高速交通時代(時速120km/hr)の始まりは、計画先行型計画を取り込む気運を育み、新環状道路建設計画(1994)に繋がった。成都市は約40年間に人口の都市集中が起こり、人口960.4万人、市区人口304.5万人の中国内陸部の大都市に成長した。その結果、中心部の収容力に対し人口負荷が上回り、交通渋滞、エネルギー資源不足、通学難などの問題が顕著になった。自転車中心から自動車時代を目前に控え、交通問題は深刻さを増している。対策として環状道路建設、地下鉄建設、衛星都市・中小都市の育成による大都市への人口集中の抑制が急務となっている。3、都市中心部の総合整備事業:成都市では中心部外縁を全長29kmの府河南河が流下し、「二江抱城」の独特な景観を呈している。歴代の府南河は水が清く深く、潅漑、供水、運航、洪水防御などの機能を持ち、主要交通路でもあった。しかし、工業の発展、人口の増加に伴い、府南河はスラム地と化し、昔の栄光を失いつつある。府南河整備事業は、生態的都市の建設を目指し、持続的経済成長および社会的進歩を推進する目的の総合整備事業である。その内容は(1)洪水防御、(2)環境保全、(3)緑地整備、(4)道路とライフラインの整備、(5)住宅建設などである。沿河住民10万人移住を伴うこの事業は1985年から計画検討の後、1992年に正式に着工し、5年の歳月を経て1997年に概成した。その社会経済的および環境の効果が顕著に現れている。
著者
堀井 俊宏 ARMAH George KRUNGKRAI Je BZIK David INSELBURG Jo 田井 久美子 三田村 俊秀 森松 克実 GEORGE Armah JERAPAN Krungkrai DAVID Bzik JOSEPH Inselburg 杉山 智彦 JERAPAN Krun BZIK David J ARMAH Geroge INSELBURG J
出版者
大阪大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

ハマダラカによって媒介されるマラリアは年間2億7000万人が感染し200万人が死亡するという最も大きな被害を人類に及ぼしている原虫感染症である。クロロキン、DDTなどの特効薬や殺虫剤により一時は撲滅が可能かに見えたマラリアは、薬剤耐性マラリア原虫株や殺虫剤に耐性の媒介蚊の出現によりその治療と制圧は現在困難な状況に陥っている。一方、マラリア原虫の細胞より十分な量の蛋白質を精製する事が極めて難しいため、マラリア原虫に関する生化学的な解析にも乏しい。さらに、マラリア原虫のcDNAは大腸菌において一般にうまく発現せず、レコンビナント蛋白質として調製することも容易ではないことも解析を遅らせている。マラリアワクチンの開発は人類の夢の一つであるが、マラリア感染に対する宿主(ヒト)の免疫応答が理解されていないことに加えて、マラリア原虫はその主要抗原のアミノ酸配列を高頻度で変換するための機構を複数有していると考えられる。マラリアワクチンの開発をめざす本研究課題においては、まず、ワクチン候補抗原蛋白質を安定して供給できるシステムの構築を行なった。抗原遺伝子は以下で述べるSERAであるが、本抗原遺伝子はマラリヤ原虫株のなかでもよく保存されていると考えられているが、このSERA遺伝子の抗原変異の頻度について解析をすすめた。(1)熱帯熱マラリア原虫の培養細胞に対して増殖阻害的に働くマウスのモノクローナル抗体を用いて単離したSERA(Serine Repeat Antigen,113kD)は、赤血球期マラリアのトロフォゾイト、シャイゾント期に大量に発現される蛋白質であり、感染赤血球が壊裂する直前に、47kD、50kD、18kDの三つの断片となる。このSERA抗原はマラリアワクチンの候補抗原として重要と考えられているが、一方、SERA遺伝子のcDNAを大腸菌の発現ベクターに組み込んでも、レコンビナント蛋白質の発現は容易ではなかった。我々は、極端にAT含量の高いマラリア遺伝子とGC含量が高い大腸菌の間におけるコドン使用頻度の違いがレコンビナント蛋白質の発現量を低下させていると考え、熱帯熱マラリアのコドン使用頻度を大腸菌型に変えた、これら三つの断片をコードする人工合成遺伝子を構築し、大腸菌において3種類のSERA蛋白質を大量に発現させた。精製した後、マウス及びラットを免疫し、得られた抗血清を用いてマ
著者
馬居 政幸 夫 伯 李 昌洙 ちょう 永達 POE Baek CHO Youngdal LEE Chang-soo
出版者
静岡大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

韓国では今なお過去の歴史に起因する反日意識は根強い。加えて、青少年の間に広がりつつある日本の漫画・アニメ等の大衆文化に対して、日本の新たな文化侵略であり、その内容が青少年教育にとって有害であるとの批判が青少年教育関係者から提起されている。他方、日本の大衆文化の良質のものを受容すべきである、との意見もある。本調査の目的は、(1)このような韓国青少年への日本の大衆文化浸透状況とそのことへの評価の実態を明らかにするための資料やデータを収集し、(2)その分析を通じて日韓両国の青少年における相互理解促進のための課題と方法を明らかにするとともに、(3)韓国だけでなく、アジア全体に広く浸透しつつある日本の大衆文化の影響や問題を解明するための調査研究の方法を検討するための基礎データを得ることである。そのため、日本の大衆文化浸透状況把握を目的に、(1)小・中・高校生とその父母、(2)大学生、(3)企業で働く青年に対して、また、評価の実態把握のため、(4)小・中・高等学校の教師、(5)青少年教育関係者、(6)教育研究者、(5)マスコミ関係者、(6)日本の大衆文化の翻訳、出版、販売事業の従事者・関係者に対して聞き取り調査を実施。その結果をふまえ、小・中・高校生300名への質問紙調査を実施。収集した資料やデータを「公的-私的」、「日常的-非日常的」の二の軸で分類・分析した結果、韓国青少年が小・中・高と成長する過程で次の(1)〜(6)のような社会過程が総合され、戦後(解放後)50年を経てもなお“反日意識"がより強く育成され続けていることが確認された。(1)日常的に学校教育を通じて教えられる公的な事実としての歴史認識 (2)日常的なテレビ・新聞等の情報環境における公的な反日情報と歴史認識の再確認 (3)日常の身近な人間関係や生活習慣に刻まれた私的な植民地時代の被害事実 (4)慶祝日や名所・旧跡の碑文などによる非日常的で聖的な価値に基づく公的な歴史認識の正当化 (5)家族や一族の忌日(命日)などで確認される非日常的で聖的な価値に基づく私的な反日意識の正当化 (6)このような韓国の現状を無視するとしか韓国の人達にとらえられない日本の側の対応とその事実を増幅する報道。このように韓国では今なお過去の歴史に基づく反日意識が根強く、公式には日本の現代文化は輸入禁止だが、小・中・高校生への調査結果から日本文化の浸透度について次のことが明らかになった。まず、ハングル訳の日本の漫画単行本を全体で61%、特に高校男子が90%、高校女子も79%が読んでいる。ハングル訳の日本のアニメを見た者はより多く全体の82%、特に小学男子は92%、小学女子も77%。ハングル訳でない日本のアニメを見ている高校男子も59%いる。日本のテレビゲーム経験者は全体の74%、高校男子は92%。日本の歌謡を高校女子の51%、高校男子の39%が聞き、日本の歌手を高校男子の39%、高校女子の30%が衛星放送で見ている。この実態から日本の大衆文化は韓国青少年の私的な日常生活に極めて広く浸透し、しかも、小・中・高と成長するにしたがい接触頻度や関心・意欲が高まることが聞き取り調査から確認できた。さらに本年度の調査結果から、日韓両国青少年の相互理解推進の課題を解明するためには、次の理由により新たな調査研究が必要との結論に至った。第一に、韓国独立50周年を契機に、改めて日本大衆文化容認を巡る賛否が激しく議論されたが、世論調査では容認派増の傾向がみられ、日本文化への評価はここ数年で大きく変化することが予測され、この変化過程の継続調査が必要である。第二に、韓国ではソウル市都市圏とそれ以外の地域との文化の差が極めて大きく、韓国全体の傾向ならびに今後の変化を分析する上で、ソウル市と韓国中・南部地域との比較調査が必要である。第三に、日本文化を受容する韓国青少年の意識と行動の構造を解明する上で、近年の急激な民主化と経済成長に伴う学校教育ならびに家庭や地域社会での生活様式の変化の多面的な調査が必要である。他方、このような急激な民主化と経済成長による青少年の生活様式の変化や都市部と非都市部の比較調査は、同様の社会変化の中にあるアジア各国における日本文化浸透の影響や問題を解明するための課題と方法を検討する上で貴重なデータとなりうることも確認できた。
著者
加来 和子 WENZ Sharon GREGORY Barb KENDALL Robb 松下 清子 豊嶋 秋彦 KENDALL-MELTON Robbie 安藤 房治 DONALD F. De ROBBIE M. Ke
出版者
弘前大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

(1)早期療育とトランジション制度(進路選択の保障制度)を中心とした日米の比較研究-テネシー大学マーチン校(UTM)の早期療育センター長であるSharon L.Wenzは,日本の早期療育制度について次のような勧告をした。全国的な早期療育システムの確立に既存の公衆衛生制度を充実させて教育と医学の連携をはかること,障害の判定基準を明確にして対象者の選定を妥当なものとすること,子どもの障害発見のための広報活動を活発化し,照会手続きをわかりやすいものにすること,家庭が専門家の助言を受けられるセンターの設置等である。Dr.Barbara A.Gregoryは,UTMでは学習障害のある学生に対する総合的支援プログラム(P.A.C.E.)を作成し,学生,両親、高校及び大学のトランジション専門職員等が協力して実施していること,また自分の障害の理解や学習への影響の理解能力,必要な設備の認識,法律上の市民権の知識,職場や学習の場で自分に必要なものを伝える技能,等の4つの適切な基礎的トランジションの技能は,特に学習障害の学生には重要であることを紹介した。また,これら4つの基礎技能が14歳以前の早い段階で指導されることが高校卒業後の成功にも結び付くと述べた。(2)統合教育と体育指導-松下は障害児の障害の種類や程度の影響をなるべく少なくした一種の「スポーツテスト」として静的動作20種目を選択編成し,弘前市内2つの養護学校の協力を得て,児童生徒に実施した。アメリカでの障害児調査は,様々な理由から困難だったため,UTMと弘前大学の学生を対象にほとんど同じ種目による自己評価方式で静的動作調査を行い,日米比較を行った。(3)統合教育に関する日米の教員の意識・態度調査.及び知識・技能の自己評価調査の結果の検討と提案-平成5年度に日米の大学,及び附属学校の教官を対象に行った統合教育に対する意識及び自己効力調査の結果が次のとおりである。Dr.Kendallの意識調査の比較では,米国の教師の方が日本の教師より,統合教育に好意的であり,事務量や仕事が増えるが,障害児の地域社会や普通の子ども達との交流を援助し,公立学校では通常学級で障害児を教育すべきだと考えている。自己評価調査の結果,日本の多くの教師は障害児に関する知識や技能を身につけたいと考えており,行政職も含めた現職教育の必要性を示している。また自己効力の
著者
桑野 信彦 和田 守正 小野 眞弓 河野 公俊 FOJO Antonio LONGO Dan SCHLESSINGER デーヴィト DANLONGO ロンゴ DAVID Schles SCHLESSINGER デーヴイド
出版者
九州大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

制癌剤耐性に関与する遺伝子群はがん化学療法に対する感受性を左右するだけでなく分化・発生とも密接に関連して重要な機能を有することが示され多大な注目を集めている。本研究は、このうち多剤耐性MDR1遺伝子及びエトポシド耐性関連遺伝子に焦点をしぼり、以下の事項を明かにすることを目的とする。1.遺伝子発現制御領域の単離およびゲノム構造の解析。2.MDR1遺伝子近傍の遺伝子群の同定と共通制御の有無。3.ヒト組織。腫瘍における発現様式。4.ヒト腫瘍における耐性獲得の診断プローブとしての可能性の検索。本研究で得た成果を以下に列挙する。1.ヒトMDR1遺伝子プロモーター領域の解析。ヒトMDR1遺伝子は2つのプロモーターによりその発現が制御されていることが報告されているが相互の役割等、詳細は不明であった。我々は下流制御領域をファージ・ゲノムライブラリーより単離し、制御ドメイン構造を明かにした。これには、制癌剤、紫外線、血清除去などに反応する制御ドメインが含まれ、MDR1遺伝子をストレス応答遺伝子群の1つとして位置づけることができた。上流プロモーターに関しては、遺伝子増幅をともなう多剤耐性細胞でのみ機能していることが示唆された。2.ヒトMDR遺伝子群のゲノムマップの作成。MDR遺伝子領域の構造と機能の全体的な関連を把握し、近傍の未知遺伝子の同定、共通制御の有無を明かにするための第一歩として、この領域のマッピングを試みた。上記制御領域からPCRプライマーを合成し、ワシントン大学のヒト全ゲノムおよび7番染色体特異的酵母人工染色体(YAC)ライブラリーより、YACクローンを20個単離した。エンド・クローンの単離、ヒト-ハムスター雑種パネルによる検定により約半数はキメラでなく7番染色体にマップされた。STS contentマッピング法により現在1メガベースのコンティングが構築され、またMDR1およびMDR3遺伝子を含む600kbについては、rare cutter enzymeによる物理地図を完成した。3.YAC-ヒトゲノムライブラリーの改善。ワシントン大学のライブラリーを含め、現在のYACライブラリーはキメラクローンが30〜50%、また不安定クローンが1%存在することが問題となっている。我々は、In gel partial fill-in法によりキメラの成因であるコライゲーションを抑え、平均500kbのライブラリーを作製する方法を開発した。さらに不安定YACクローンとして知られているヒト色盲領域を安定化させ得る変異株を単離樹立した。今後、これらの方法により、対象領域の高品質YACライブラリーを構築し、さらにコンティグ、物理地図の作成および未知遺伝子の探索を行ない、診断プローブとしての可能性を検討していく。4.ヒトMDR遺伝子の増幅単位とその機序。MDR1遺伝子の増幅と発現に関与するゲノム領域と構造を決定するため、MDR1と3遺伝子を含む酵母人工染色体をマウス細胞に導入し、抗癌剤ビンクリスチンに対する耐性獲得にともなう遺伝子増幅と発現の機序を検討した。MDR1遺伝子を含む580kbの酵母人工染色体をマウスL細胞に導入した。この導入株をビンクリスチン処理することにより、MDR1遺伝子の遺伝子増幅および発現促進が認められた。しかし、マウスの内在性mdr1aの発現は見られなかった。以上、我々は酵母人工染色体を用い、MDR遺伝子領域の機能的な導入とヒトMDR1遺伝子の選択的増幅、発現をさせることに成功した。5.エトポシド耐性関連遺伝子DNAトポイソメラーゼIIの遺伝子構造と発現。エトポシド耐性関連遺伝子のうち、トポイソメラーゼIIやIを標的とした抗癌剤は近年その有効性から臨床応用へ多くの期待がよせられている。トポイソメラーゼの量的低下が耐性獲得の1つの原因となること、さらに高温処理により、トポイソメラーゼIIの発現が上昇することの2点を明かにした。現在、トポイソメラーゼII発現制御様式について解析を行なうためトポイソメラーゼIIプロモーター領域をファージゲノムライブラリーより単離した。現在、制御領域の一連の欠失変異体を構築し、制御ドメイン構造を明かにしつつある。
著者
小林 甫 ボロフスコーイ ゲンナデ ストレペートフ ヴィクト ベルナルディ ロレンツォ メルレル アルベルト デイアマンティ イルヴォ サルトーリ ディアナ グリサッティ パオロ ネレシーニ フェデリコ カヴァリエーヴァ ガリー カンコーフ アレクサンド 上原 慎一 横山 悦生 田中 夏子 土田 俊幸 新原 道信 浅川 和幸 小内 透 所 伸一 杉村 宏 木村 保茂 クム ソフィア コルスーノフ ヴィクトル KORSUNOV Victor KONKOV Alexander BOROVSKOI Gennadi STREPETOV Victor DIAMANTI Ilvo BERNARDI Lorenzo リム ソフィア カヴァリョーヴァ ガリー ディアマンティ イルヴォ グリサッテイ パオロ 山口 喬
出版者
北海道大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

昨年度までの研究によって、非重工業化地域の内発的な産業・社会の発展を将来的に担う、青年層における青年期自立の内実は、職業的自立と社会的自立との相互連関を追求することで考察しうることを確認した。本年度はそのことを、3カ国の青年層に対する「共通調査票」を作成して、定量的に分析することに主眼を置いた。イタリアでは、ヴェネト州内の国立技術高校、職業高校(ヴィチェンツァ市)、私立の職業訓練機関(ヴェロ-ナ市)の生徒を対象とした。サハリンでは、ユジノサハリンスク市、コルサコフ市の職業技術学校、普通科高等学校/リチェ-イの生徒、失業地帯マカロフ市の職業技術学校生と失業青年を取り上げた。日本は、北海道・長野県・岐阜県の工業高校生、東京の工業高等専門学校生、そして北海道と岐阜県の職業能力開発短期大学校生を選んだ。教育階梯差と地域差を考慮してである。この国際共通調査の結果を含め、2年数か月の研究成果を持ち寄り、国際研究報告会を札幌で行った(平成6年10月6日-11日。イタリアの報告4、ロシア3、日本6)。イタリア人の報告によれば、工業や手工業を学んでいる青年層は、現在校を自ら選んで入学し(学科への興味、技術・技能の習得など)、卒業後は家業を継ぐか、自らによる起業を望んでいる。ロシアにおいては、不本意入学的な職業技術学校生と、“意欲"を示す高校生/リチェ-イ生に二分されるが、卒業後の進路としては、いずれも第一次・第二次産業を志向せず、第三次産業の何かの部門を熱望している(銀行、商業、貿易など)。小売業、旅行業、漁業の中小企業を希望する者も25-30%いる。日本では、教育階梯差に関わりなく、一定の不本意入学生を含みつつ、おおむねは「就職に有利だ」という理由で入学し、(イタリア、ロシアと同じく)厚い友人関係を保持している。しかし、卒業後の進路には地域差が見られる。中小企業の選択は各々3分の1程度だが、他の地域への転出希望において北海道(工業高校生、ポリテクカレッジ生)、城南の中小企業地帯出身者が多い東京の高専生に高かった。対極に、岐阜(工業高校、ポリテクカレッジ)と長野とが来る。岐阜県では名古屋など愛知県内への通勤希望も多い。-だが、生活価値志向においては、日本(4地域)とイタリアには大きな違いは存しない。いずこにおいても、自由時間、家族、友情、愛情に高い価値を置き、やや下がって仕事が位置づく。シンナーや麻薬、理由のない暴力、汚職を否定し、結婚前の同棲を許容する。しかし、ロシアでは、高い価値の所在はほぼ同じだが、許し難いことの上位に、親や友人を援助しないことが入り、戦争時の殺人が許容される。ここには、ロシア(サハリン)的な生活上の紐帯と、反面での国家意識とが発現している。ところで、こうした共通の生活価値の存在は、一方では、若い世代が「市民社会」的なネットワーキングを形成しつつあることを示唆する。しかし、他方、職業的な価値志向としては“分散"することもまた事実である。私たちは現在、両者の相互関係の規定要因を見いだすべく分析を重ねているが、重要な要素として注目すべきは、「SOCIAL ACTORS」である。それは、イタリアでは「職業訓練-公的雇用斡旋(学校は不関与)-家族文化-労働組合-他のアソシエーション(社会的サービス分野でのボランティア)-地方自治政府」の連鎖として理解されているものである。青年層は、その生活価値・職業価値を、このような連鎖のなかにおいて、各自がそれぞれ意味づけてゆく。かつほぼ30歳位までは、多くの職業・職場を移動し、自らの“天職"を見いだすのだと言う。またロシアにおいても、1991年以前においては、90%以上の青年が第10学年まで進学して職業訓練を受けるとともに、アクタヴリストーピオニール-コムソモ-ルなどで社会生活のトレーニングを積み、同じく30歳位が各人“成熟"の指標であった。-こうしたイタリア、旧ロシアに対し、日本社会での青年期自立(職業的かつ社会的自立)の「SOCIAL ACTORS」は、企業内の教育・訓練が担ってきたとされる。だが、高等教育機関への進学率の上昇のなかの青年層は、アルバイトなどの学外生活を含む学校生活をそれに代用させているとも言い得る。この点の追究が、次回以降の研究テーマを構成する。
著者
高橋 延匡 SHAPIRO Stua RALSTON Anth KERSHNER Hel SELMAN Alan 中森 眞理雄 大岩 元 都倉 信樹 牛島 和夫 野口 正一
出版者
東京農工大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1992

わが国の大学の情報処理教育のカリキュラムは米国に比べると著しく遅れているというのが通説であった。本研究代表者および分担者は情報処理学会の「大学等における情報処理教育の改善のための調査研究」で中心的な役割を果たし,コンピュータサイエンスのモデルカリキュラムJ90の作成に貢献した。しかし,J90を各大学で具体化して実現するには,授業時間配分や担当教員の割り振りなど多くの問題を解決しなければならないことが明らかになった。そこで,本年度は,米国で,過去にコンピュータサイエンスのモデルカリキュラムを各大学で具体化して実現する際にどのようにしたかを調査することにした。まず,予備調査として,ACM(米国計算機学会)が1988年に発表したコンピュータサイエンスの見取図である9行3列のマトリクス(以下では「デニング図」と呼)をカリキュラムの評価に使うことが可能かどうかを検討した。デニング図の各行は1アルゴリズムとデータ構造,2計算機アーキテクチャ,3人工知能とロボティックス,4データベースと情報検索,5人間と計算機のコミュニケーション,6数値的計算と記号的計算,7オペレーティングシステム,8プログラミング言語,9ソフトウェアの方法論とソフトウェア工学に対応する。デニング図の各列は(1)理論,(2)抽象化,(3)設計に対応する。個々の大学のコンピュータサイエンスのカリキュラムについて,その各授業科目をデニング図の27(=9×3)の枠にあてはめてみることにより,そのカリキュラムの特徴が明らかとなる。さらに,もう一つの予備調査として,ACMが1991年に発表したコンピュータサイエンスの頻出概念について,カリキュラム評価の手法として使うことが可能かどうかを検討した。ACMの頻出概念は(A)バインディング,(B)大規模問題の複雑,(C)概念的および形式的モデル,(D)一貫性と完全性,(E)効率,(F)進化とその影響,(G)抽象化の諸レベル,(H)空間における順序,(I)時間における順序,(J)再利用,(K)安全性,(L)トレードオフとその結果,の12から成る。検討した結果,ACMの頻出概念はきわめて重要なものを含んでいるが,(a)これら12個の概念は互いに独立であるか,(b)これら12個の概念はコンピューサイエンスを完全に覆っているか,についてさらに詳しく検討する必要があることがわかった。以上の予備調査を行った上で,米国ニューヨーク州立大学バッファロー大学計算機科学科を訪問し,共同研究を行った。研究の方法は,デニング図を含むカリキュラム評価方法やコンピュータサイエンスの頻出概念について,日米双方の研究代表者・分担者が見解を述べ,互いに賛否の意見を出し合う,という形で行った。この過程で,バッファロー大学ではデニング図を用いて自己点検・評価を行っていることが示された。ACMの1991年報告書では「広がり優先方式」(以下,「BF方式」と呼ぶ)によるカリキュラム編成方式が紹介され,それを実現するために多数の「知識ユニット」が提案されている(もちろん,それらの知識ユニットを組み合わせて,学問体系に沿って教える伝統的なカリキュラムを編成することも可能である)。このBF方式カリキュラムについても議論した。米国分担者達はBF方式カリキュラムを試みたが,現在は伝統的なカリキュラムに復帰しつつあるという見解であった。ACMのSIGCSE研究会の研究発表の内容を調べた結果,非BF方式カリキュラムに対する支持が強いことが確かめられた。もっとも,教育は必然的にBF的面を有するものであり,BF方式カリキュラムが妥当であるか否かという問題は,知識ユニットをどの程度の大きさにするのが適切であるかという問題に帰着され,今後の検討課題となった。本研究の期間中に,ACMのSIGCHI研究会から人間と計算機のコミュニケーションを主題とするカリキュラム案が発表された。このカリキュラム案に伴って紹介されている演習課題についても検討した。この分野は日本が大きな貢献をすることが可能な分野であり,今後の研究課題とすることにした。
著者
本多 朔郎 長尾 敬介 山元 正継 北 逸郎 高島 勲 秋林 智
出版者
秋田大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1989

タイの地熱は、ヒマラヤ造山帯の後背地の安定地塊上に発達するもので、火山活動を伴っていない。しかし、高い地殻熱流量で特徴づけられ、沸騰泉を含む多数の温泉が認められる。そのような非火山性の地熱活動の熱源・湧出機構等を解明し、火山性地熱で発達した探査法の有効性を検証するため、以下のような項目の調査・研究を行い次のような成果を得た。(1)温泉・土壌ガスの分析ーー第1次の調査では、主要地熱地域について研究を行い、地熱貯留層に関連するとみられる断裂付近では、CO_2ガス中の^<13>C同位体の異常およびラドンガスの濃集が認められ、地下の高温を示すH_2ガスも一部の地域の温泉に伴ってみられるのみで、全体としては少なく、火山性地熱とは異なった傾向を示した。第2次の調査では、広域的なガス特性を求めるため、北部地域全体の約40ケ所の温泉付随ガスを採取し、He同位体比(^4He/^3He)を主体に検討した。分析は現在進行中であり、詳細な議論はできないが、深部断裂が発達する花崗岩体の周辺部でHe同位体比が高いことが確認され、同時にマントル物質の寄与の可能性が指摘された。(2)ガンマ-線による探査ーータイの地熱貯溜層を構成する花崗岩は放射性元素の含有量が高く、地熱流体の上昇通路となる断層の位置検出には最適である。また、典型的な岩相については、地下の地質を推定することもできた。(3)新期火山岩の解析ーー第四紀後期の玄武岩溶岩について、アルカリ元素等の分析を行い、マグマの形態、深さ等の情報の推定を行った。その結果、マグマは基本的に深部の独立したマガマ溜まりからもたらされており、熱源としての寄与はそれほど大きくないと推定された。しかし、層序的な解析から、年代値は既存の70万年(KーAr年代)より若く、年代的に熱の寄与を無視することはできないと思われる。(4)岩石中の放射性元素の分析ーー花崗岩を中心に約100個の試料を採取し、放射性元素(U,Th,K)の分析を行った。その結果、日本の花崗岩の5ー10倍という非常に高い含有量が記録され、その値から計算された発熱量として8ー18HGUが得られた。この値は、地下3ー5kmで300℃という高温を可能にするものである。(5)変質岩の年代測定ーー変質岩は石英脈、方解石脈を主体に年代測定を行い、現在の地熱徴侯地以外では数10ー100万年を超える古い年代が得られ、非火山性地熱が長期間継続することが確かめられた。(6)流体包有物の測定ーー年代測定を行ったのと同じ石英脈、方解石脈試料について測定を行い、ボ-リング・コアでは現在の地下温度とほぼ同じ値が得られた。(7)貯留層モデルの作成ーー最も開発の進んでいる地域について、坑井位置、水位、温度、圧力などのデ-タをもとに貯留層のコンピュ-タモデリングを行い、510,3510,8610年後の貯留層の状態を推定した。また、より広域的なモデル計算のため、可能な地下温度分布、岩石物性の変化等のデ-タを収集した。以上の結果および昭和63年度に実施した現地調査のデ-タを総括すれば、タイの地熱は主として放射性元素の崩壊熱による高温部を通過した水が熱の供給を受け、高温になったものと思われるが、He同位体や、若い玄武岩の存在から火成起源の熱の寄与もあるものと思われる。探査法については、非火山性地熱でも火山性地熱とほぼ同じ手法が利用できることが明らかとなったが、放射能探査が特に注目された。残された問題として、異常に高いHe同位体比の原因、流体包有物から予想される地下温度が地化学温度計で求められた温度より低いことなどがあるが、今回の調査が本研究の最後であり、今後の室内実験結果により最も適切な成因を提示したい。
著者
西田 正規 マブラ オグックス スプレイグ デービッド MABULA Audax マブラ オダックス 伊藤 太一 マゴリ C.C. 安仁屋 政武
出版者
筑波大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

今日のアフリカ狩猟採集社会は原初的人類社会の理解に不可欠の情報源である。だがこれらの社会は農耕・牧畜社会と接触し変容してきた歴史があり、原初的社会のモデルにすることに疑いがある。本研究は農耕・牧畜以前のサバンナ狩猟採集社会を復元することでこの問題に解答する。またこの目的を果たすため、タンザニアのセレンゲティ国立公園の地表面に散乱している後期石器時代の石器の分布状況を把握することから約1万年前の狩猟採集社会の空間と資源利用パターンを復元する方法を開発する.3年間の調査でおよそ10000平方キロの範囲を踏査し、50メートル四方の方形区を126ヶ所、それ以外のポイントを約200ヶ所設定し、位置をGPS測量し、地表の石器を採集し、地形、植生、土壌特性を記録した。採集した石器約1万点を筑波大学に持ち帰り分析中である。諸データをGISデータベースに入力中である.すでに把握した点は以下のとおり。1)公園の地表面には前期石器時代から金属器時代までの数十万年にわたる文化遺物が散乱しており、中期および後期石器時代石器の密度が高い。2)前期および中期石器時代石器には公園内に産出するクオ-ツァイトが、後期石器時代石器には黒曜石とクオ-ツが主に使われている。黒曜石の原石は公園内になく、大地溝帯の火山帯から運ばれたと推定できる。3)後期石器時代の石器の分布密度は平方kmあたりおよそ1万点である。4)石器密度は調査方形区により0点から500点以上まで大きく変化する。5)特に高密度に分布する場所を4カ所発見した。いずれも大きな岩に囲まれた場所であり頻繁に人の訪れるキャンプサイトと予想できる。6)河川や池に近い場所の石器密度は比較的高い。7、地表水から遠く離れた場所にも比較的低い密度の分布がある。以上の点を手がかりにGIS上でさらに解析を進め初期の目的を達成する。
著者
木村 克美 小倉 尚志 阿知波 洋次 佐藤 直樹 長嶋 雲兵 春日 俊夫 長倉 三郎 中村 宏樹 谷本 能文 北川 禎三 大野 公一 吉原 經太郎 OGURA Haruo
出版者
岡崎国立共同研究機構
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1988

わが国とスウェ-デンとが共通に関心をもち,かつ共に高いレベルを保持している分子科学の諸分野において相互に研究者を派遣し,国際共同研究の態勢をつくり,研究の発展に貢献しようとする目的で本研究課題がとりあげられた.昭和63年3月分子研長倉所長とウプサラ大学シ-グバ-ン教授の間で共同研究の合意書が取り交わされ,これが今回の三年間の共同研究のベ-スになっている.とくに光電子分光及び光化学磁場効果の分野をはじめ,時間分割分光,シンクロトロン放射光科学,理論化学の分野も含められた。ウプサラ大学はESCAのメッカであり,K.シ-グバ-ン教授(昭和56年ノ-ベル物理学賞受賞)の開拓的な仕事が今も受けつがれている.同教授は現在レ-ザ-ESCA計画を遂進中で,新しい装置の開発に取り組んでいる.とくにレ-ザ-技術を導入するESCAとトロイダル回折格子を用いる高分解能光電子分光において,分子科学研究所の協力を求めている.分子研木村らはすでにレ-ザ-光電子分光で進んだ技術をもっており,シ-グバ-ン教授に協力することができた.木村の協力研究者であった阿知波洋次都立大助教授をウプサラに派遣し,レ-ザ-光電子装置の立上げに協力し,ウプサラで最初の光電子スペクトル(レ-ザ-による)が得られた.一方,共鳴線(NeI,HeII)用のトロイダル回折格子は日立の原田達男博士の協力を得て,実現し,高分解能実験の成果を期待している。ウプサラ大物理学研究所C.ノ-ドリング教授はESCAの初期に活躍した人であるが,現在はX線分光の研究を行っているが,ルント大学のシンクロトロン放射光施設でも新しい装置を製作しており,本研究課題の二年目に分子研に招へいすることができ,今後のシンクロトロン放射光研究における共同研究についても意見交換を行い有益であった。光化学反応の磁場効果の研究では長倉三郎総合研究大学院大学学長が開拓的な業績をあげているが,今回のスウェ-デンとの共同研究では,第一年次にウプサラ大学を訪問し,アルムグレン教授と光化学磁場効果について討議をかわした.谷本助教授(広島大)も光化学反応の磁場効果の研究でウプサラ大を訪れ,アルムグレン教授とミセル溶液に代表される微視的不均一溶液系の物理化学過程のダイナミックについて討議した.それぞれ今後の協力関係の基礎がきづかれた。時間分解分光では,カロリンスカ研究所のリグラ-教授は生体系のピコ秒時間分解蛍光分光法およびピコ秒光応答反応について,シンクロトロン放射光による研究と合せて,わが国との協力を希望しており,今後の協力関係が期待できる分野であることがわかった.生体分子構造の分野では分子研北川教授と小倉助手がイェテボリ大学及びシャルマ-ス大学のマルムストロ-ム教授を訪れ,チトクロ-ム酸化酵素に関して密接な協力研究を行った.今後の共同研究の基礎づくりができた。とくに小倉助手はニケ月の滞在で,マルムストロ-ム教授の研究室で,チトクロ-ム酸化酵素の時間分解吸収分光の研究とプロトン輪送の分子機構の理論的研究を行った。東大佐藤助教授はリンシェ-ピン大学の表面物理化学研究室のサラネック教授を訪れ,二ヵ月滞在し,この間に電子分光法による導電性高分子(とくに共役系高分子)とその表面の電子構造の研究で大きな成果をあげ,今回の日本-スウェ-デン共同研究の一つのハイライトでもあった。分子研長嶋助手はストックホルム大学シ-グバ-ン教授を訪れ,ニヵ月滞在して遷移金属錯体の電子構造の理論的計算を行うための計算機プログラムの開発について協力研究を行った。さらに分子研春日助教授は一年目にルント大学マツクス研究所(放射光実験施設)を訪れ,ストレッジリングの加速電子の不安性に関する種々のテスト実験を共同で行い,両者の放射光施設の発展のために有益な実験デ-タが得られた。三年目にはウプサラ大学で,分子科学第一シンポジュ-ムを開催することができ,日本から6名がスウェ-デンから12名の講演者がでて,全部で50名ほどのシンポジュ-ムであったが,極めて有意義なものであった.スウェ-デンとの交流のパイプは少しづつ太くなっており,今後の協力関係が期待できる.
著者
岬 暁夫 ブガーエフ エドガー パルフェーノフ ユーリ 菊池 柳三郎 宮地 孝 小西 栄一 YURI Parfenov EDGAR Bugaev エドガー ブガーエフ ユーリ パルフェーノフ PANFILOV A. BUGAEV E. SINEGOVSKI S BEZRUKOV L. BUDNEV N. POLITYKO S. 長谷部 信行 PARFENOV I. LAGOUTINE A. DEDENKO L. 三井 清美 藤井 正美 御法川 幸雄 高橋 信介 河野 毅 石渡 光正 井上 直也
出版者
政策研究大学院大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

本研究は、「超高エネルギニュートリノ天文学」という現在、存在していない研究分野を創出するための様々な基礎的な研究を試みるものである。「超高エネルギーニュートリノ天文学」の最大の特徴は、「光では原理的見ることの出来ない宇宙」を「ニュートリノで観測する」というところにある。それを可能するような必要な様々な基礎研究を行うのが本研究の目的である。まず、「超高エネルギーニュートリノ」を検出するには、「低エネルギーニュートリノ」の研究であるスーパーカミオカンデで用いられている通常の光電子増倍管では不可能である。これに代わる高性能半導体光検出器の開発が不可欠である。このため、現在、「ローカルフィードバック型素子」と「超格子型素子」の開発研究を行っている(論文番号14)。超高エネルギーニュートリノ反応は、超高エネルギーエレクトロン、超高エネルギーミューオンからのチェレンコフ光の測定を行うことによって検出される。そのためには、超高エネルギーエレクトロンの様々な状況における振る舞いが問題となる。このような観点から、プラズマ状態での挙動(論文番号1)、強磁場での挙動(論文番号3)、LPM効果の検討(論文番号8、9)の研究を行った。超高エネルギーミューオンに関しては、重原子核の制動輻射に対する影響(論文番号4)、LPM効果の影響(論文番号13)、ミューオンの輸送過程の研究(論文番号11)、を行った。雑音としての大気ミューオンの研究(論文番号13)、また、これらのニュートリノの検出には、チェレンコフ輻射の時間-空間分布の知識(論文番号10)、の研究が必要である。一方、「超高エネルギー・ニュートリノ」に対する理解のためには、それよりエネルギーの低い「高エネルギーニュートリノ」に対する実験的理解が必須であり、これに対する研究がバイカル湖で行われた(論文番号5、6、7)。以上で、「基礎研究」の第一段階が終了したと考える。
著者
川那部 浩哉 MKUWAYA Gash KULUKI Kwent 谷田 一三 幸田 正典 桑村 哲生 堀 道雄 柳沢 康信 MKUWAYA Gashagaza Masta KULUKI Kwentenda Menga
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1988

タンガニイカ湖の沿岸魚類群集は競争的であると同時に協調的な側面を持つ,極めて複雑な種間関係のもとに成立していることが,これまでの調査で明らかになっている。世界の他の淡水域で類をみないまでの魚類群集の多様さは,この湖の地質学的な古さとともに群集の主流を占めるカワスズメ科魚類の可塑的な資質に負っている。固有種によって構成されているこの魚類の系統関係は,以前から継続しーいるアロザイム分析によって求めた。同湖に生息する56属170余種のうち,これまで46属70種について分析を終え,この魚類が少なくとも7つの系統群から構成され,それらが互いに300万年以上も前に分化したものであるという結果を得た。また,同湖の系統群が東アリカ全体のカワスズメ科魚類の「進化的なたまり場(evolutionary reservoir)」になっていることも指摘した。南北に600km近くも延びるタンガニイカ湖では,各魚種の諸形質が湖内で地理的に変異するのみならず,群集の種類組成も地理的に大きく異なる。これまで北部(ザイ-ル国ウビラ周辺)と中部(タンザニア国マハレ周辺)で群集の比較を行ってきたが,昭和63年度および平成元年度に,ザンビア水産庁タンガニイカ湖実験所と共同で,始めて南部(ムプルング周辺)での調査を実施した。岩礁域3ケ所に観察ステ-ションを設け,主にスキュ-バ潜水によって魚類の個体数調査と繁殖・摂食等の行動観察を行った。典型的な岩場の魚類相は,種数で25%,個体数で50%以上が南部固有であり,種数は北部・中部の同じ生息場所に比べて10種以上多く,密度は35%〜50%も少なかった。北部・中部に生息しながら南部にいない数種のニッチは同一の食性ギルドの別種によって占められていた。南部のひとつの特徴は,貝殻を繁殖の巣として利用する特異な1系統群が生息していることである。野外実験の結果,この魚たちは巣の利用に関し寄主一寄生関係にあることが明らかになったが,これは繁殖に関する種間関係の従来の見方について再検討を迫るものである。われわれはこれまでの調査から,摂餌に関する協同的,相互依存的あるいは偏利的な種間関係が重要な群集の構成原理になっていることを強調してきた。今回の調査によってこの仮説を捕完し発展させる2・3の成果を得ることができた。そのうち最も重要なのは,摂餌に関与した形質の個体群内の多型が相当数の種に生じていることの発見である。魚食魚Lepidiolamprologus profundicolaでは,個体群内に6つの固定的あるいは可変的な体色パタ-ンが認められ個々の個体は体色に対応した1・2の限られた狩猟方法を長期間持続して用いた。また,鱗食魚Perissoaus miuolepis plecodus straeleriにおいても,4つまたは2つの色彩多型が存在し,やはり各個体は体色に応じた攻撃方法を用いた。さらに鱗食魚では色彩多型と同時に顎の非対称性も見い出された。この非対称性は,他の魚を襲う時の攻撃方向を決定している。すなわち,右利きの顎をもつ個体は常に他の魚の左体側を,左利きは常に右体側を襲う。これら多型の存在は,被食者側の逃避行動を攪乱する効果をもち,各型が相互に密度依存的な協同的関係にあると推定された。このことは,協同関係が種間のみならず,種内レベルに下がっても重要な原理であることを示唆している。群集内での資源分割が調整的であるのか否かについても,2・3の新らしい知見を得ることができた。共存する藻類食魚数種を実験的に除去しその後の回復過程を観察すると,かつてある種が占めていた場所を同じ種が再び占める傾向が強かった。また,岩場の基質を産卵・保育場所とするLamprolagin族12種の繁殖個体の1年以上にわたる連続除去実験においても,同一場所は同一の種によって繰り返し用いられ,繁殖場所の使用に関する種特異性が極めて高いことが判明した。微小生息場所利用に関する限り,各種が適応している幅は小さく,種間での重なりはほとんどなく非調整的である。大部分が湖内で分化した種によつて構成されているタンガニイカ湖の魚類群集は,既存種の寄せ集めでできた群集とは大幅に異なる原理で編制されている可能性が高い。現地調査で得た資料の解析を現在進めているが,近日中にある程度まとまった説を提示できると考えている。
著者
喜田 宏 YAMNIKOVA Sv 河岡 義裕 高田 礼人 岡崎 克則 SVETRANA Yam デメネフ V. ヤムニコバ S. ルボフ D.K. 伊藤 壽啓
出版者
北海道大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

平成7〜9年夏、カムチャッカ半島南端付近、ハバロフスク郊外のアムール河流域ならびにサハ自治共和国内のレナ河流域において水禽の糞便および湖沼水3,000検体を採取した。8年にはレナ河流域北緯63度30分のコベイスキー地区で採取した約900検体の水禽糞便からインフルエンザウイルスH4N6亜型19株、H4N9亜型1株、H11N1亜型1株、H11N6亜型2株、H11N9亜型8株を分離した。9年にはコベイスキー地区で採取した水禽糞便120検体およびヤク-ツク(北緯62度)で採取した鴨の糞便72検体からは各々H4N6亜型1株およびH3N8亜型5株が分離された。一方、レナ河流域北緯65度00分〜64度36分の四十諸鳥地域で採取した水禽糞便約1,400検体と湖沼水20検体からはウイルスが分離されなかった。カムチャッカ半島ならびにアムール河流域で採取した水禽糞便からインフルエンザウイルスは分離されなかった。以上の成績は、鴨の営巣湖沼がレナ河流域北緯63度付近に存在することを示唆する。平成8年と9年の10月に北海道宗谷地方において採取した480検体の水禽糞便材料からインフルエンザウイルスH1N1亜型、H5N3亜型、H5N4亜型、H6N1亜型、H6N7亜型、H8N1亜型、H8N3亜型、H9N2亜型ならびにH11N9亜型各1株を分離した。平成8年度および9年度にレナ河流域および北海道の水禽糞便から分離したインフルエンザウイルスのNP遺伝子の系統進化解析を実施した。その結果、調べた分離株すべてが新型インフルエンザウイルスの発生地である中国南部を含むアジア大陸に分布するウイルスの系統に属することが判明した。以上の成績は、新型インフルエンザウイルスの抗原亜型を予測するために、シベリアの水禽営巣地におけるインフルエンザウイルスの分布をさらに解明する必要があることを示している。
著者
安田 喜憲 BOTTEMA S. VAN Zeist W. 大村 幸弘 ZEIST W. Van
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1988

1988年から1990年の3カ年のオランダ・グロ-ニンゲン大学との共同研究の結果は、以下のような特筆すべきいくつかの研究成果をえることがてきた。1)巨大な氷河時代の多雨湖の発見:トルコ最大の塩湖トゥ-ズ湖の湖岸から1989年に採取したボ-リングコアのCー14年代測定値は、地表下460ー500cmが23440±270年前、940ー970cmが32300+600ー550年前、1570ー1600cmが35850+1150ー1000年前であった。花粉と珪藻分析の結果,20000年前以前のトゥ-ズ湖周辺はアカザ科やヨモギ属の広大な草原であり、当時の湖は淡水でかつ水位も現在より数メト-ル高位にあったことがわかった。これまで湖岸段丘の分布から氷河時代にはアナトリア高原に巨大な多雨湖が存在したという地形学者らの推定を立証した。2)5000年前の都市文明を誕生させた気候変動の発見:ギリシアのホトウサ湿原、コロネ湿原、カトウナ湿原のCー14年代測定、花粉分析の結果から、、都市文明誕生期の5000年前が気候変動期に相当していることを解明した。5000年前以降の気候の寒冷化にともない、ギリシアやアナトリア高原は湿潤化した。これに反して、メソポタミア低地やナイル川低地は乾燥化した。この乾燥化が人々を大河沿いに集中させ、都市文明誕生の契機を作った。またアナトリア高原の湿潤化はユ-フラテス川下流域に大洪水をもたらした可能性が指摘できた。3)アレキサンダ-大王の侵略を容易にした気候変動の発見:カマンカレホユック遺跡の北西井戸より採取した泥土のCー14年代測定結果と花粉分析の結果はCー14年代2160±50年前の層準を境として、周辺の環境が著しく乾燥化することを明かにした。ミダス王墓がつくられたフリギア時代のアナトリア高原は現在よりも湿った湿潤な気候が支配していた。ところが約2200年前のヘレニズム時代以降、アナトリアは乾燥化した。同じ傾向はシリアやエジプトでもみられた。アレキサンダ-大王がなぜかくも短期間にかつ広大な面積を征服できたかは、人類史の一つの謎であるが、この気候の乾燥化がトルコや小アジアの人々の生活を困窮させアレキサンダ-大王が侵略する以前にすでに小アジアからインダス地域の人々は疲弊していた可能性がたかい。それゆえに征服も容易であったのではないかと言う点が指摘できた。4)消えた森林の発見:アナトリア高原やギリシアには、かってナラ類やマツ類を中心とする立派な森が存在したことが、ギリシア・トルコの花粉分析の結果明白となった。またシリアのエルル-ジュ湿原の花粉分析結果はレバノンスギの森が3000年前まで存在したことを解明した。これらの森は全て人間の森林破壊の結果消滅した。5)研究成果の報告会:1991年2月22ー24日、中近東文化センタ-カマンカレホユック遺跡の調査成果報告会を実施した。公開報告会には200名を超える一般参加者があり、大村はカマンカレホユック遺跡の考古学的発掘成果について、安田はアナトリア高原の古環境復元の試みについて発表した。1991年2月27日には国際日本文化研究センタ-での「Environment and Civilizations in the Middle East」と題した公開シンポジウムを実施した。シンポジウムには北海道から九州まで52名の研究者の参加があり、ZEISTは“Origin and development of plant cultivation in the Near East",BOTTEMAは“Vegetation and environmentin the prehistoricーearly historic period in the Eastern Mediterranean"の発表をおこない安田が総括した。6)単行本の刊行:研究成果をいくつかの論文に発表するとともに、研究成果を広く一般に普及するため単行本を刊行した。安田は5冊、大村,ZEIST,BOTTEMAはそれぞれ各一冊刊行した。なを公開シンポジウムの報告はJapan Reviewに特集として英文で報告の予定である。
著者
浜口 博之 西村 太志 林 信太郎 KAVOTHA K.S. MIFUNDU Wafu NDONTONI Zan 森田 裕一 笠原 稔 田中 和夫 WAFULA Mifundu ZANA Ndontoni WAFULA Mifun ZANA Ndonton KAVOTA K.S.
出版者
東北大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1990

この研究は,(1)ホットスポット火山の多いアフリカ大陸の深部構造の解明,並びに(2)ニアムラギラ火山のマグマ活動調査の2項目に大きく分けられる.1990年度の現地調査は予定通り実施され,当初の目的は達成された.1991年度は,現地調査の最中の9月23日にザイ-ルの首都キンシャサを中心に政情不安に端を発した暴動が起こり,日本大使館の退避観告に基づき調査を途中で中断し,隣国に緊急避難しそのまま帰国する結果となった.このため,この年度の調査事項の実施については,不完全なものにならざるを得なかった.以下,2年間の研究実績を項目別に分けて簡潔に示す.1.広帯域地震観測.0.05秒〜370秒に渡って一様な感度を持つCMGー3型とパソコンを用いた地震波収録装置を,1990年度はザイ-ル東部のルイロ地震観測所(LWI)に設置した.1991年度は,キンシャサ効外のビンザ気象局の地下地震計室(BNZ)に設置したが,最後の調整の直前に暴動が起こり,一部未完な状態のまま今日まで観測は続けられている.従って,地震計の再調整を含む良好なデ-タの取得は今後の課題として残された.この観測と並行して実施してきたアフリカ大陸下の深部構造については,(イ)アフリカ直下でコア・マントル境界(CMB)が盛り上がっていること,(ロ)マントル最下部のD"領域ではS波速度が3〜5%遅いこと,逆に,アフリカ大陸の外では数%速いこと,並びに,(ハ)コア表面の温度は,アフリカ大陸を含むA半球がその反対側の太平洋を含むP半球より数10mケルビン高温であること,などが明かとなった.これらの結果はアフリカ大陸に於いてホットスポット火山の密度が高い理由の解釈に重要な手がかりとなる.2.火山性地震・微動観測.1990年度は,CRSN(ザイ-ル自然科学研究所)の定常観測点(4点)の他に,8月13日〜11月29日まで火山地域内で8点の臨時地震観測を実施した.11月20日にこの地域では過去最大のM4の地震がニイラゴンゴ火山南方10kmに起きた.観測結果はこの地震により火山性地震やマグマ活動は励起されず,逆に地溝帯中軸の地震が活発化した事が明らかにされた.また,ニアムラギラの側噴火(キタツングルワ)のストロンポリ式噴火に伴う地震は火口直下0.2〜0.5kmの深さに集中し,その発震機構はマグマの噴出時に働くほぼ鉛直下方のSingle Fo
著者
鈴木 範男 DAVID L. Gar GARBERS david L. GARBERS Davi
出版者
金沢大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1990

精子活性化ペプチド(SAP)は構造と活性の特異性から次ぎの5種類に分けられる。SAP-I Gly-Phe-Asp-Leu-Asn-Gly-Gly-Gly-Val-GlySAP-IIA Cys-Val-Thr-Gly-Ala-Pro-Gly-Cys-Val-Gly-Gly-Gly-Arg-Leu-NH_2SAP-IIB Lys-Leu-Cys-Pro-Gly-Gly-Asn-Cys-ValSAP-III Asp-Ser-Asp-Ser-Ala-Gln-Asn-Leu-Ile-GlySAP-IV Gly-Cys-Pro-Trp-Gly-Gly-Ala-Val-CysSAP-V Gly-Cys-Glu-Gly-Leu-Phe-His-Gly-Met-Gly-Asn-CysSAP-Iの場合SAP-Iとその誘導体はより大きな前駆体タンパク質として卵巣内の栄養細胞で合成され,processingを受け成熟卵母細胞の周囲のゼリー層付加されるものと考えられる。SAPが精子細胞膜上の特異的受容体に結合すると,細胞膜上のリン酸化型グアニル酸シクラーゼが付活化され,直ちに脱リン酸化され,不活性化される。この脱リン酸化に伴って膜結合性グアニル酸シクラーゼのSDS電気泳動上の見かけの分子量が低下する。バフンウニ精子の膜結合性グアニル酸シクラーゼは構成アミノ酸1125残基のタンパク質として合成されるものと考えられる。この酸素の成熟タンパク質のリン酸化型は131kDaで脱リン酸化型は128kDaである。リン酸化型グアニル酸シクラーゼは約24molのリン酸を含み,脱リン酸化型は約4molのリン酸を含む。これらのリン酸はホスフォセリンとして存在するものと考えられる。バフンウニ精巣からクローニングされたグアニル酸シクラーゼcDNAの塩基配列から予測されるタンパク質の一次構造の解析及び他の膜結合性グアニル酸シクラーゼの一次構造との類似性から,バフンウニ精子の膜結合性グアニル酸シクラーゼは単一の膜貫通領域で分子がほぼ等分の細胞外,細胞内領域に分けられ,細胞内領域にはキナーゼ様領域と触媒領域が存在するものと推定される。キナーゼ様領域には9残基のセリンが,触媒領域には15残基のセリンが存在する。グアニル酸シクラーゼの脱リン酸化,不活性化及びSDS電気泳動上の見かけの低分子化が連動した現象であることを着目し,プロテインホスファターゼの阻害剤存在下で精子ホモジェネートにSAP-Iを加え低分子化を指標として脱リン酸化(不活性化)に関与するプロテインホスファターゼの性質を検討した結果12μMのカリキュリンAが低分子化を約30%抑制し,かつグアニル酸シクラーゼ活性を高いレベルに維持する作用があることを見いだした。オカダ酸,ミクロシスチン-LRはSAP-Iによって誘起されるグアニル酸シクラーゼの低分子化及びそれに伴う不活性化には顕著な効果を示さなかった。酸素活性の測定及びSAP-I架橋実験の結果からグアニル酸シクラーゼ及びSAP-I結合タンパク質は精子尾部に局在していることが明かにされたが,精子尾部に存在するCa^<2+>非依存性プロテインホスファターゼは分子量の違いから3種類(250kDa,43kDa,30kDa),オカダ酸に対する感受性の違いから2種類存在することが本研究で明かにされたが,これだけでは上記のホモジェネートを用いた実験結果を説明することができないことから,グアニル酸シクラーゼの脱リン酸化を特異的に起こすプロテインホスファターゼの検索をするために基質となるグアニル酸シクラーゼ(部分精製の脱リン酸化型酵素)をcAMP依存性プロテインキナーゼの触媒サブユニットと[r-^<32>P]ATPによる再リン酸化を試みたが成功しなかった。膜結合性グアニル酸シクラーゼを特異的にリン酸化する精子細胞内の内在性キナーゼを検索する過程で,バフンウニ精子の1%CHAPS可溶化画分中にセリン残基が特異的にリン酸化される48kDaタンパク質を見いだした。[r-^<32>P]ATPでリン酸化される精子ホモジェネート中の48kDaタンパク質は反応液中に生理的濃度のcAMP,cGMPを加えることによって特異的に脱リン酸化された。精製の結果この48kDaタンパク室は等量の39kDaタンパク質と会合しており,native状態では400kDaの大きさのタンパク質として存在していることが明らかになった。48kDaタンパク質に対する抗体を作成し,これを用いて,λgt11-バフンウニ精巣cDNAライブラリーよりイムノスクリーニングした結果3.3kbのcDNAクローンが得られた。このcDANの塩基配列はマウス脳皮質に局在するDN38mRNAと60%のホモロジーがあった。
著者
中尾 欣四郎 MENGA Kiluki NDONTONI Zan 田上 龍一 冨永 裕之 知北 和久 ZANA Ndontoni KWETUENDA Menga Kuluki MENGA kuluki
出版者
北海道大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

東アフリカのリフト湖であるキブ湖とタンガニーカ湖はいずれも世界有数の深湖である。両湖の深水層の安定状態の差異は湖史の違いに左右されている。キブ湖は南緯2度,東経29度に位置し,多雨な赤道気候帯に属している。湖の流域は北方のニヤムラギラ,ニーラゴンゴ,ミケーノ,カリシンビ火山群の活動により,エドワード・キブ地溝の地穀構造単位が分断されている。現在,湖は南端からルジジ川によって流出し,約150km下流のタンガニーカ湖に注いでいる。キブ湖の形成は50〜100万年B.P.で,タンガニーカ湖の2,000万年B.P.に比べて,新しい地穀構造運動に寄因している。湖面積は2,376km^2,湖を含む流域面積7,300km^2で,最大水深485m,平均水深240mと落ち込みの激しい湖盆形状はリフト湖の特徴の一つである。然し,キブ湖は最終氷期が終わる約1万年前までは,湖水位は現在より300m低い水準にあったことが,湖底堆積物から明らかである。また,湖底から発生し,堆積物起源のCH_4ガスの^<14>C年代は約1万年前であり,湖の拡大期と一致している。湖は水温構造から見て熱帯湖であり,表水層の深度は60〜90mで,この下面で,22.8℃〜22.9℃まで低下した水温はこれ以深では,湖底までゆるやかに上昇し,450m水深で,26.0℃を示している。なお,表水層下の深水層水温は経年的変動は認められず,極めて安定したメロミクテック傾向を示している。湖の水質はC1^<-1>が30〜68ppmで、SO_4^<-2>は2〜10ppmと低濃度であるが,Alkalinity(CaCO_3)やHardness(K+Na)が深水層で著しく高濃度となる。例えば,Alkalinityは,表層水630ppmから,底層水で3,200ppmと著しく増加する。流入河川では,北方の溶岩帯から流入する河川水の593ppmを除いて,すべて53ppm以下の低濃度であることからみて,湖底より火山活動に伴って供給された塩類である。さらに,同湖底から二酸化炭素(CO_2)とメタン(CH_4)ガスが供給されている。ただ,両ガスともに,深水層の水圧下では不飽和状態にあり,溶解度は30%を越えない。なお,常圧下では2.19リットルの試水から4.05リットルの混合ガスが発泡した。混合ガスの存在比は,CO_2が74%,CH_4が18%を占める。
著者
田中 恭子 ヤフダ マイケル 趙 新民 (文 〓) イー タン・リォク・ キオン ン・チン・ 田村 慶子 リーファー マイケル リオクイー タン チンキオン ジ スリャディナータ レオ
出版者
南山大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1997

「改革開放」の20年間に、中国と華人世界(主として東南アジア)は、急速に結びつきを強めているが、この両者の関係の実態を明らかにすることが、本研究の目的である。最終年度である本年度は、昨年度の調査研究に基づき、(1) 東南アジア華人のアイデンティティの現状について研究を続行すると同時に、成果の一部を発表し、(2) 中国福建省・広東省の僑郷における聞き取り等の調査を続行した。本革度はとくに、「アジア経済危機」のインパクトに注意を払った。(1)については、田中(研究代表者)、荒井(研究協力者)を中国・香港に派遣し、福建省で開催された国際シンポジウムにおける研究報告、北京・上海の僑務関係者のインタビュー調査および香港の研究者との交流を行った。また、共同研究者ホァン・ジェンリー(シンガポール国立大学)助教授を招聘し、シンガポールを中心に東南アジア諸国の華人について研究報告、討論、および打合せを行った。(2)については、田中・荒井を中国福建省・広東省に派遣し、文献およびインタビュー調査を行うとともに、厦門大学南洋研究院の庄国土教授・趙文留教授らと共同で行っている僑郷社会経済調査を続行した。同時に、昨年度來の調査データの整理を行った。また、この調査に携わってきた2人の共同研究者、趙文留教授・李一平講師を招聘し、研究報告、討論、打合せを行った。なお、田中を英国・オランダに派遣し、共同研究者と本研究全体の総括を行い、評価を聞くとともに、今後の研究の展開などについて、情報・意見の交換を行った。
著者
若月 芳雄 HO Bow FOCK KWong M 千葉 勉 FOCK Kwong M BLASER Marti STROBER Warr
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1997

H.pylori感染患者は全世界で約20億人、日本では約7000万人にのぼり、単一感染症としてはその感染患者数は史上最大であり、上部消化管の様々な良悪性疾患の原因となり関連疾患に要する医療費は莫大である。感染患者の病型を決定する因子については、欧米と日本の報告に解離がありその大略は未だに不明である。 国立シンガポール大学のHo Bow,Chang Gi病院のFock Kwong Ming等との共同研究によりシンガポールでは、中国系・インド系の人種グループには80〜90%の高いH.pylori感染者が存在するのに対して、マレー系のグループには40%の低い感染率であることが判明した。一方H.pylori感染症によりおこる慢性萎縮性胃炎と胃癌との関係は確立しているが、中国系、マレー系にはH.pyloriの感染罹患度に応じた胃癌累積発生を観るのに対して、インド系ではその高度な感染率に比較して胃癌発生頻度が極めて低いことが判明した。そこで今年度はマレーシアのKebangsaan Malaysia大学医学部細菌・免疫学教室のRamelha Mohamed助教授と協力して、同国の中国系・インド系・マレー系マレーシア人の感染患者より、H.pyloriの臨床分離株を収集しその遺伝子型と、臨床病型の解析に着手した。一方日本人患者からの臨床分離株のゲノム遺伝子ライブラリーより患者血清と家兎抗体を用いて、幾つかの抗原遺伝子をクローニングしそのうち、約19Kdの二量体型の膜蛋白(HP-MP1)はH.pyloriに特異的な新規抗原遺伝子であること、その組み替え体は単球を活性化するものであることを発見した。これらの所見は、この感染症の病態解明のみならず宿主の免疫応答を利用した新しい治療法の開発につながるものと考えられる。
著者
中村 義一 饗場 弘二 HERSHEY John BOCK August COURT Donald ISAKSSON Lei SPRINGER Mat
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1992

遺伝子発現の転写後調節をつかさどるRNAシグナルの構造・機能・制御タンパク質との相互作用を明かにする目的で行なった研究成果を以下に整理する。1.ペプチド鎖解離因子の研究:大腸菌では、終止コドンUGAにおける翻訳終結はペプチド鎖解離因子RF2を必要とする。我々はin vivoでRF2と相互作用している因子に関する知見を得ることを目的として高温感受性RF2変異株から6種類の復帰変異株を分離した。その内、4株が遺伝子外サプレッサー変異であった。それらは、90分(srbB)と99分(srbA)の2つのグループに分けられた。この解析に並行して、新たにトランスポゾン挿入(遺伝子破壊)によりUGAサプレッサーとなるような突然変異を分離し、tosと命名した。遺伝学的分析とDNAクローニング解析の結果、tos変異はsrbA変異と同一の遺伝子上に起きた突然変異であることが明かとなった。この結果から、tos(srbA)遺伝子は、その存在が1969年に予言されていながら何の確証も得られず放置されていたRF3蛋白質の構造遺伝子である可能性が示唆された。そこでTos蛋白質を過剰生産、精製し、in vitroペプチド鎖解離反応系で活性測定を行なった結果、RF3蛋白質の活性を完全に保持することが明かとなった。この解析により、四半世紀の謎に包まれていたRF3因子の存在、機能、構造を遺伝学的、生化学的に実証することが出来た。この成果は今後、終止コドン認識の解明にとって飛躍的な原動力となるものと自負する。2.リジルtRNA合成酵素遺伝子の研究:大腸菌は例外的に、2種類のリジルtRNA合成酵素を持ち、構成型(lysS)と誘導型(lysU)の遺伝子から合成される。その生理的な意味は依然不明であるが、我々は本研究によってlysU遺伝子の発現誘導に関してその分子機構を明かにすることができた。その結果、lysU遺伝子の発現はLrp蛋白質(Leucine-Responsive Regulatory Protein)によって転写レベルで抑制されており、ロイシンを含めた各種の誘導物質によるLrp蛋白質の不活化を介して転写誘導されることを明かにした(Mol.Microbiol.6巻[1992]表紙に採用)。さらに、lacZとの遺伝子融合法により翻訳レベルの発現制御を解析した結果、翻訳開始コドン直下に“downstream