著者
松岡 秀雄 COLLINS Patric 長友 信人 COLLINS Patr
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

現地調査は、平成8年10月のエクアドルと同9年3月のモルジブで行われた。両国では、中央政府や関係する地方政府の関係者や関心のある研究者と会合がもたれ、それぞれの国がSPS2000計画に参加するについての議論が深められた。全てが参加することに積極的であり、レクテナの設置候補地が選定された。両国において必要となる事柄について調査された。エクアドルでは、レクテナ設置候補地については、熱帯雨林、アンデス高地及び沿岸低地となるので、高高度レクテナの研究に向いている。ガラパゴス諸島は、環境負荷がほとんどないことからして、レクテナの設置には好適である。エクアドルのSPS2000用レクテナは、他の組織と協力することになるにせよ、恐らくは独立企業体として運用されることになろう。この方式は、他の国々や未来におけるSPSの民営化へ向けた重要な一歩になろう。キトー(エクアドル)にあるサンフランシス大学の人達は、今後の協力体制へのセンターとして機能することになろう。モルジブでは、土地固有のエネルギー源はない。SPS2000のレクテナ設置にはかなりの関心を示した。モルジブには、ほとんど陸地はなく、リーフ上に広大な浅瀬が展開しているため、この国の最南端にあるアドゥ環礁では、海上にレクテナが設置されることになろう。環礁管理庁や計画・人的資源・環境省の人々が今後の協力体制へのセンターとして機能することになろう。
著者
和田 倶典 FULGIONE Wal SAAVEDRA Osc GALEOTTI Pie 斎藤 勝彦 山下 敬彦 高橋 信介 中川 益生 山本 勲 井上 直也 岬 暁夫 WALTER Fulgi OSCAR Saaved PIERO Galeot
出版者
岡山大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

本研究は[LVD(Large Volume Detector)]実験と,[LMD(Large area Massive particlesDetector)]実験から成る。これらの実験の目的は大統一理論から予想される新しい粒子や物理学,また宇宙からのみ飛来することが期待される新粒子,天体物理学などである。これらの実現には人工加速器は無力であり,そのため非加速器物理が押し進められている。[1]LVD実験:特に,ニュートリノ反応や,新粒子の出現頻度はきわめて稀なため,大規模で極端に低いバックグウランド状態の実験所が必要となり,それらの条件を満たす実験所がイタリア,グランサッソ-に建設されイタリア国を中心にロシア,米国,日本,中国,ブラジル等の参加でLVD計画が始まり,日本は我々のグループが参加して,平成2年,3年,4年とLVD建設に協力してきた。LVDの第一期計画のタワー1が完成し,世界最大容積の液体シンチレータデータが取れるようになり,平成4年6月から測定に入った。これにより、LVD実験の目的である(a)星の重力崩壊からのニュートリノバーストの研究,(b)太陽ニュートリノの研究,(c)陽子崩壊の研究,(d)隠れたニュートリノ天体源の研究,(e)ニュートリノ振動の研究,などの成果が期待される。さらに,LVDとしてはタワー2,3の建設が始まっているところである。LVD実験は休みなく運転を続けており,現地グランサッソ-地下実験所にて装置の運転及び実験目的の解析を行うことが本研究の目的である。それらの目的を達成するため,平成6年以降,日本から現地(イタリア,グランサッソ-地下実験所)におもむき,装置の運転及び共同作業やデータ解析などを行ってきた。それらの成果は平成7年ローマで開催された第24回宇宙線国際会議で10編の報告を行った(10.研究発表の項目参照)。また,LVD装置の運転(シフト)業務は各国で分担しているが日本グループとしては年間,最低4週間(2シフト)従事することになっているので,この業務を最優先し,平成7年度は3シフト行った。また,日本グループ独自の解析を行うためのデータ転送,調整などの調査を行い,見とうしをつけた。[2]LMD実験:本実験の研究目的は(f)超低速・超重粒子の探索,(g)超高エネルギーミューオン物理学の研究である。LMD実験も平成6年9月に40平方メートルの改良型TLシートスタック[TLS]をイタリア,モンブラン地下実験所に設置したので,(f)超低速・超重粒子探索の可能性の検討が十分成しえるよう,(ア)現地モンブラン地下実験所及びトリノ大学にてTLSの回収と解析を行うことと,(イ)TLシートが超低速粒子に感度を持つか実験を行うことが本年度の計画であった。TLSはTLシートとX線フィルムを多数枚重ねたものからなるが,今回は改良型TLSで真空パックをした。(ア)は平成8年2月に回収を行い,40平方メートルX8枚のX線フィルムをすべて現象し,解析を行った結果,3例の超低速・超重粒子候補イヴェントを見い出した。ただちに,対応するTLシートの15箇所をTL読み取りシステムで読み取り,ビデオカセットに収録し,日本でも解析できるようすべてのテープをコピーした。現在,そのビデオテープから解析中である。(イ)の実験は低速アルゴン・イオンビームで行った結果光速度の一万分の一程度でもTLシートが感度を持つことが判明し,超低速・超重粒子がTLシートに入射した時の発光量も計算することが可能になった。計算から予想される粒子による発光がバックグラウンドによる発光よりも多くなれば検出がむつかしくなる。TL発光がそれほど多量ではないことが判ったので,モンブラン・トンネル内のバックグラウンドが大きく影響することになる。モンブラン・トンネルに比較してバックグラウンドが少ないと予想される(50%から10%)グランサッソ-地下実験所にTLSを設置すべく,準備を平成7年8月に始めた。バックグラウンド計測用TLシートをグランサッソ-・トンネル内のLVDタンク上に三箇所設置した。平成8年2月にTLシートの一部分を回収し,読み取りを行った。これらもテープをすべてコピーしたので,半年間でのグランサッソ-トンネル内のバックグラウンド量が計測でき,モンブラン・トンネルと比較できる。一年後のバックグラウンド計測と併せて、新しいTLSの設置場所を検討する予定である。
著者
末広 潔 末廣 潔 (1994) COFFIN Milla SHIPLEY Thom MANN Paul 篠原 雅尚 平 朝彦 COFFIN Milar
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

ソロモン海域ではオントンジャワ海台が北ソロモン海溝に衝突しており対応する島孤の逆(南)側ではサンクリストバル海溝からインドオーストラリアプレートが沈み込み始めているように見える。またインドオーストラリアプレート上でも西方でウッドラーク海盆で海洋底拡大が進行しつつ海溝に衝突しており,この地域は100kmスケールで見ても複雑な様相を呈している。このような場に見られる過程は現在の地球では特異に見えるが地球史の中では繰り返されてきたことが地質学的にわかっている。海台の沈み込みならびに沈み込み開始線(海溝)のジャンプ・逆転の起きているソロモン島孤海溝系において,地殻深部・最上部マントルの地震・地質構造を精密に調査することは,このように複雑な過程の普遍性を明らかにし,プレートの沈み込みがいかに始まるか,沈み込みにくい海台が海溝で衝突してどうなるか理解するために重要である。本研究は,日本の海底地震計技術と米国の反射法探査技術を有機的に結びつけてその目的達成をはかるものである。平成5-6年度の2カ年計画として実験を計画したが,米国側NSFに採択された調査船利用の反射法実験の実施が米国側の調査船のスケジュールが平成7年度にずれこんだため,当初の計画を変更して,6年度に日本側の海底地震計による自然地震観測を行い,反射法・屈折法による日米共同実験は平成7年度に実施することになった。したがって最終的な構造探査結果をあわせたとりまとめはその結果を待つことになる。5年度にはデジタル海底地震計の信頼性を向上させ,また,過去にすでに現地調査を行っている米国側共同研究者と研究対象域のテクトニクスの調査も行った。その結果,南側で開始されているという沈み込みに伴う自然地震活動の実態を把握することが重要との認識を得た。実際,定常的な地震活動はISC(国際地震学センター)による震源分布に頼るしかないが,これは100kmくらいの震源決定位置の誤差があることが今回わかった。6年度にソロモン諸島国地質調査所の協力も得て,海底地震計(OBS)をソロモン諸島に運び,現地傭船により5台用いて,海底微小地震観測を行った。位置および時刻はGPSによっている。期間は8/28日から9/7日までであった。観測ターゲット海域は強い季節風を避けざるを得なかったが,サンクリストバル海溝が浅くなるガダルカナル島西方とした。データは全台から良好に得られ,36ヶの近地地震を決定した。これは,他の観測網では検知されていないイベントである。また,ISCでは今回の観測域で年間平均10ヶの震源決定がなされている。今回の観測は200倍以上の検知能力を持ったことになる。その結果,あたらしく沈み込みを開始したインドオーストラリアプレート沈み込みは少なくとも50kmの深さまで進行しているが意外なことにその沈み込み角度が50度と他では見られない大きな値を示すことがわかった。また,背孤側に小海盆が見られるが,ここには地震が発生していないことが確認された。一方北側からの太平洋プレートの沈み込みの「痕跡?」として深さ60-90kmにも震源が求められた。はたして沈み込みが停止したかどうかこの結果だけからは結論づけられない。ガダルカナル島直下には地震が検知されなかった。これらは,グローバルな観測網の数10年のデータ蓄積をもってしても窺いしれない結果である。今後は陸上にも観測点を増やしてより長期のデータ収集を続ければ,さらに詳しい結果が得られるはずである。ソロモン諸島国と協力して実施したい。沈み込み角度が大きいことは,さらに観測を重ねてデータを増やして確認する必要がある。しかし,事実だとすると,一般に沈み込み初めの角度は10度未満程度であるので,北側からのオントンジャワ海台の衝突が大きな抵抗となっている可能性がある。小海盆部に地震のないことは他の島孤のリフトゾーンに地震の少ないことと合致する。平成7年度に予定している島孤全体を横断する人工地震実験測線から地殻の全貌を明らかにできればテクトニクス,地震活動との因果関係がさらに解明されるだろう。
著者
末廣 潔 末広 潔 COFFIN Milla SHIPLEY Thom MANN Paul 篠原 雅尚 平 朝彦
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

西太平洋に位置するソロモン海域ではオントンジャワ海台が北ソロモン海溝に衝突しており対応する島弧の逆(南)側ではサンクリストバル海溝から複雑な地形を持ったインドオーストラリアプレートが沈み込んでいる。このような過程は現在の地球では特異に見えるが地球史の中では繰り返されてきたことが地質学的にわかっている。海台の沈み込みならびに海溝のジャンプ・逆転の起きているソロモン島弧海溝系において,地殻深部・最上部マントルの地震・地質構造を精密に調査することは,このように複雑な過程の普遍性を明らかにし,とくに沈み込みにくい海台は海溝でどのような振る舞いをするのか理解するために重要である。本研究は,日本のデジタル海底地震計技術と米国の反射法探査技術を有機的に結びつけてその目的達成をはかったものである。平成7年度に日米共同実験として地震学的反射法・屈折法による地殻構造調査を主に,重力・地磁気観測も行い,当該海域ではじめてコンプリ-トな地殻構造実験が実施できた。7年度の7月には共同実験者とテキサス大学地球物理研究所において綿密な実験打ち合わせを行い,本実験は米国地球物理研究船モ-リス・ユ-イング号にて,10月17日-11月19日に実施した。この間,ソロモン諸島全域の約130チャネルの多重反射法音波探査データ(4050km)を取得し,かつグアダルカナル島西方においてオントンジャワ海台からインドオーストラリアプレート側まで464kmの長大測線に18台の海底地震計を配置した屈折・反射複合探査も行った。人工地震の震源はエアガンアレーで約140リットル,150気圧のエネルギーを約50m間隔でシューティングした。この結果,海底地震観測において地殻深部の情報がかつてない空間的密度で得られる。これまでの反射法の記録の解釈では,オントンジャワ海台は基本的には現在でも沈み込みを続けているという意外な結果である。これまで沈み込みせずに陸側に衝突しせりあがっているという解釈があったが,それは局所的現象のようである。ソロモン島弧のうちマレイタ島,サンタイサベル島の一部はオントンジャワ海台と地質・岩石的に区別が付かないので,せりあがりが起きていることは確かであるが,プレートの大部分は沈み込んでいる。陸側プレートがくさび状に海台を乗せたプレートを割っているか,それともたとえば南海トラフのように付加体を形成しながら沈み込んでいるかのふたつのモデルが考えられていたが後者の可能性が高い。より深部の構造を明らかにして決着をつけるべきであるが,今回得たデータは,まさにそれを可能にする。海底地震計はデジタル型であるのでダイナミックレンジが広くかつ時刻精度も高く,アナログ型では不可能な高品質データを得た。エアガンの信号を見ると,記録は300km以上届いているので,島弧系の全貌が明らかにされるはずである。これまでソロモン島弧はその地殻の厚さも不明であり,上部地殻の一部がしかも一次元的に明らかにされているだけであり,今回2次元的にトランセクトが得られる意義は大きい。これまで海洋性島弧でそのような構造が求められているのは北部伊豆・小笠原島弧だけであり,そこでは海洋性島弧に大陸性カコウ岩質岩石の生成現場としての位置づけがされている。同様な構造がここでも見られれば,海洋性島弧の存在は地球進化においてすなわち大陸地殻の成長に重要な役割を持つことになる。一方,大陸性地殻形成のもうひとつの重要な候補が海台である。海洋リソスフェア中にホットスポットあるいはマントルプルーム活動によって短期的に形成されるとする海台が,沈み込まず大陸に付加すると言う説である。今回の実験はこの両方を同時に検証することになる。プレートの沈み込み角度についてもこの実験により,グローバルな普遍性を検証するものとして位置づけられる。北側と南側とではその沈み込みパラメータは,年代,地殻,移動速度などどれをとってもかなり異なる。にもかかわらず,沈み込み始めは両側とも類似したごく浅い角度であると推定される。その原因はまだ検討中だが,いまのところほかの沈み込み帯の結果も同様であり,地質学的過去よりも単純なダイナミクスで説明できるる可能性が高い。
著者
井口 洋夫 直江 俊一 田中 桂一 城田 靖彦 中原 弘雄 三谷 忠興 丸山 有成 高塚 和夫 加藤 重樹 大峰 巌 中村 宏樹 諸熊 至治
出版者
岡崎国立共同研究機構
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1990

1. 分子計算化学に関する討論会に参加ならびに調査、共同研究計画打ち合せ(諸熊、中村、大峰、加藤、高塚)今回の日程は、9月19ー21日は第23回英国量子理論会議に出席して若手の理論化学研究者と交流を深めた後、週末をはさんで、日本側5人、英国側12人出席の小さな合同シンポジウムで、質の高い情報交換と交流打ち合せを2日間行うというもので、いずれも会場、宿舎ともオックスフォ-ド大の古いカレッジの1つであるJesus Collegeが使われた。日英シンポジウムでは、シミュレ-ション、電子状態、動力学の各分野とも現役のトップクラスと新進気鋭をそろえ、英国側の並々ならぬ意気込みがうかがわれた。また、交流を一層巾広くするため、英国側の講演者には比較的なじみのすくなかった若手が起用され、フレッシュなプレゼンテ-ションと高いレベルの討論が行われた。この分野におけるこの数年間の研究協力の成果をふるまえ、今回のシンポジウムは終始きわめてなごやかな雰囲気で行われた。特に、日英とも新しい世代のコンタクトが広がったことは今後の協力の発展の上に意味が大きいと思われる。2. 物質化学に関する日英討論会に参加、並びに大学・研究所訪問の調査、共同研究計画打ち合せ(丸山、三谷、中原、城田)「特異な物性をもつ有機分子性固体及び金属配位化合物」という主題に関する日英討論会が、1991年3月17ー20日の間英国バ-スにおいて開催された。日本側5名、英国側10名の招待者及びオブザ-バ-が参加し、5つにわけられたそれぞれのセッションで日本人1名、英国人2名の講演があり、活発な質疑応答が行われた。“高分子"のセッションでは光機能性ポリマ-の光電変換素子特性、高分子液晶などが報告され、“LB膜"では、膜構造の新しい評価法や機能性について議論がなされた。“分子性結晶"では導電性金属錯体及びその超伝導特性と電子構造との関連が考察された。午後のポスタ-セッションでは、多数の報告がなされ盛会であった。最終日の“フタロシアニン及び薄膜"では薄膜の構造と機能に関する最近の研究が紹介され、さらに新しいフタロシアニンの合成例も報告された。“混合原子価錯体"では、一次元遷移金属錯体のソリトン、ポ-ラロン状態及びそれに関連した光誘起構造相転移の可能性など最新の話題が紹介された。全体的な印象として、英国の現状はそれ程新奇な展開は認められないが独得な執拗さをもって新しい問題にとり組んでいる姿勢が印象に残った。3. 不安定分子の高分解分光法による研究(田中)1)速度変調法による分子イオンの赤外ダイオ-ドレ-ザ-分光本法は高電圧交流電場を用い放電によりイオンを生成すると同時に荷電子の併進速度に変調を加え選択的にイオン種を検出する方法である。赤外ダイオ-ドレ-ザ-分光法に速度変調を組合せ、H_2O^+,PO^+,CS_2^+イオンの検出を行い充分な経験と成果が得られた。2)金属カルボニル分子の超音速分子噴流中における赤外吸収分光法Ni(CO)_4,Cr(Co)_6,やV(Co)_6などの金属カルボニル化合物は比較的高い蒸気圧を持ち、レ-ザ-光照射による光分解反応との関連により興味が持たれている。これらの金属カル化合物をArガス中に気化させ超音速自由噴流として真空中に噴射し、赤外ダイオ-ドレ-ザ-分光法により主にCO伸縮領域の振動回転遷移を観測した。4. 軟X線分光に関する研究・調査(直江)800〜4000eVのsoft XーRay領域でのビ-ムポ-トの状況、特に調整技術及び測定法について、UVSORの二結晶分光器との比較を含め調査し、さらに半導体試料について測定を行った。上記エネルギ-領域でも特に800〜1500eVの領域は、照射損傷のため分光結晶としてベリルという天然の鉱物を使用する方法が唯一のものとなってきている。第一結晶の水冷や各種薄膜フィルタ-の複合使用によって約1年程度の結晶寿命を実現している。また90%透過の薄膜を10モニタ-として使用し、放射光ビ-ムの変動に対応している点は注目される。試料槽はタ-ボポンプのみの排気により10^<-7>〜10^<-8>torrの真空度とし、測定の迅速化に努めている。しかし、今回の一連の単結晶試料の測定によって試料槽内での表面処理が重要であり、測定の迅速化だけが視点ではないことが判明した。
著者
内藤 靖彦 ELVEBAKK Arv WIELGOLASKI フランスエミル 和田 直也 綿貫 豊 小泉 博 中坪 孝之 佐々木 洋 柏谷 博之 WASSMANN Pau BROCHMANN Ch 沖津 進 谷村 篤 伊野 良夫 小島 覚 吉田 勝一 増沢 武弘 工藤 栄 大山 佳邦 神田 啓史 福地 光男 WHARTON Robe MITCHELL Bra BROCHMANN Chirstian ARVE Elvebak WIELGOLASKI フランス.エミル 伊村 智
出版者
国立極地研究所
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

北極の氷河末端域における生態系の変動は温暖化に強く関連するといわれているがあまり研究はなされていない。とくに今後、北極は4〜5℃の上昇が予測されているので調査の緊急性も高い。本研究では3年間にわたり(1)植生及び環境条件の解明、(2)繁殖過程の解明、(3)土壌呼吸と温度特性の解明、(4)土壌節足動物の分布の解明、(5)人工環境下での成長変化の解明を目的として調査、観測が実施された。とくに気候変動がツンドラの生態系に及ぼす影響を、遷移初期段階である氷河モレーン上に出現する動物、植物の分布、定着、生産、繁殖、移動について研究を行った。調査、観測は海洋性気候を持つスバールバル、ニーオルスンの氷河後退跡地で実施した。初年度は植生及び環境条件の解明を目的として6名の研究者を派遣した。氷河末端域のモレーン帯の植物の遷移過程の研究では、氷河末端域から約50メートル離れたモレーンに数種の蘚類が認められ、これらはパイオニア植物として考えられた。種子植物は100メートル過ぎると出現し、地衣類の出現はむしろ遅いことが明らかになった。また、遷移段階の古いチョウノスケソウ群落は立地、土壌中の窒素量の化学的特性の違いによって7個の小群落に区分された。2年度は植生と環境条件の解明を引き続き実施すると共に、遷移初期段階における植物の繁殖、土壌呼吸と温度特性、土壌節足動物の生態の解明を目的として実施された。現地に6名の研究者が派遣された。観測の成果としては昨年、予備的に実施したスゲ属の生活形と種子繁殖の観察を踏まえて、本年度はムカゴトラノオの無性繁殖過程が調査された。予測性の低い環境変動下での繁殖特性や繁殖戦略について、ムカゴの色、大きさ、冬芽の状態が環境の変化を予測できるという実装的なアプローチが試みられた。パイオニア植物といわれているムラサキユキノシタは生活型と繁殖様式について調査され、環境への適応が繁殖様式に関係しているなど新たな知見が加わった。また、氷河末端域の土壌呼吸速度は温帯域の10%、同時に測定した土壌微生物のバイオマスはアラスカの10%、日本の5%程度であることが始めて明らかにされた。土壌節足動物の分布の解明においては、一見肉眼的には裸地と見なされるモレーン帯にもダニ等の節足動物が出現し、しかも個体数においては北海道の森林よりもむしろ多いなど興味深い結果が得られた。最終年度は2年度の観測を継続する形で、6名の研究者を現地に派遣した。実施項目は氷河後退域における植生と環境調査、土壌と根茎の呼吸調査、および繁殖生態調査が実施された。観測の成果としては植生と環境調査および土壌と根茎の呼吸速度の観測では興味深い結果が得られ、すなわち、観測定点周辺のポリコンの調査では植物および土壌節足動物の多様性が大きいことと、凍上および地温に関する興味深いデータが取得された。また、土壌および根茎の呼吸速度の観測では、実験室内での制御された条件での測定を行い、温度上昇に伴って呼吸速度は指数関数的に上昇するが、5度以上の温度依存性が急に高くなり、これは温帯域のものより高かった。これらを更に検証するためにより長期的な実験が必要であるが、今後、計画を展開する上で重要なポイントとなるものと考えられる。さらに、チュウノスケソウの雪解け傾度に伴う開花フェノロジー、花の性表現、とくに高緯度地域での日光屈性、種子生産の制限要因についての調査では、生育期間の短い寒冷地での繁殖戦略の特性が明らかにされた。初年度および最終年度には、衛星による植物分布の解析し環境変動、北極植物の種多様性と種分化について、ノルウェー側の共同研究者と現地で研究打ち合わせを持った他に、日本に研究者を招聘して、情報交換を行った。最後に3年間の調査、観測の報告、成果の総とりまとめを目的として、平成9年2月27、28日に北極陸域環境についての研究小集会、北極における氷河末端域の生態系に関するワークショップが開催された。研究成果の報告、とりまとめに熱心な議論がなされた。
著者
山路 勝彦 棚橋 訓 柄木田 康之 成田 弘成 伊藤 真
出版者
関西学院大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

本研究は、平成7年度に引き続き、野外調査の方法によって、オーストロネシア諸族の産育慣行と生命観、そし性差の比較を目的とした研究である。人が産まれ・育つ過程を研究するにあたっては、それぞれの社会が認知する社会的・文化的意味を理解しなければならない。そして、その過程に男女がともに深く関わる以上、性差の文化的意味付けを考える必要がある。平成7、8年度と、二回にわたる野外調査は、ポリネシア(タヒチ、トンガ、ラロトンガ、西サモア)、メラネシア(パプアニューギニアのナカナイ族、およびマヌス島民)、ミクロネシア(ヤップ島民、パラオ島民)、インドネシア(スラベシのブギス族)で実施された。このような広域にわたるオセアニア地域での比較研究は、広い知見を与えてくれた。例えば、インドネシアおよびポリネシアの双方にわたって類似した性差慣行、つまり「第三の性」、もしくは「トランス・ジェンダー」の存在が指摘される。身体的には男でありながら、家事仕事など女の役割を受け持ち、女としての自認を持つ、この「第三の性」の比較研究は、性差の多様な現象形態を浮き彫りにするのに、よく貢献する。男・女という分類は身体的形質だけに基づいているのではなく、社会的・文化的に規定された分類でもある。とすれば、性差の現れ方は多様である。社会構造、文化的背景を考慮しながらの、両地域での比較研究は有益である。他方、この「第三の性」は男らしさ、女らしさのイメージについて、ポリネシア的な特徴を教えてくれる。この「らしさ」は、幼少年期の育児方法と深く関係していて、子ども達のしつけ、遊びなどの参与観察を通してその調査は実施された。例えばトンガでは、男は農耕、女は家事というように、はっきりとした性差の役割分担が見られる一方で、この二極分化に反するように、異性の役割を受け持つ存在があり、これが「第三の性」を生み出していると結論できる。そして、その異性の仕事を受け持つ男の子は、幼少年期から母親との愛着関係が濃密であった。ミクロネシアでも、性と生殖、産育慣行の調査は続行されるとともに、これらの慣行を支える社会・文化的環境を視野にいれ、その変化を探求できた。例えば、結婚儀礼についての詳述な資料を得たほかに、第一子出産に伴う儀礼的交換の実態を把握でき、そして日本時代から現代に至る変化の様相も浮き彫りにされた。パラオ島では、大首長の即位式で、首長は男と女の双方の装束を身にまとい、両性具有の姿態で登場する場面がある。この儀礼的文脈での性差の研究も、大きな収穫であった。この両性具有の研究もまた、今後の性差研究に新しい展望を切り開くであろう。メラネシアでは、昨年度に引き続きマヌス島民の調査を行い、出産をめぐる諸儀礼、禁忌などの宗教的観念を広い観点から調査した。とりわけ神話・歌謡・詩の資料収集に努め、性と生殖に関する豊富な資料(イディオム)を採集したことは大きな収穫であった。本研究の意義は、オセアニア地域での性差観念の比較研究と並んで、出産をめぐる諸儀礼、禁忌などの宗教的観念を広い観点から調査したことにある。その一例として、月経や出産時の血の穢れなどの禁忌の事例を探求した。とりわけメラネシアで得られたこの種の知見は、今後の日本の事例をも含めて、比較研究の題材となりうる。オセアニア地域ではまた、植物の成長過程が様々な社会関係と比喩的に語られる場合が多い。例えば、人間の成長過程や親族(親子)関係などは、播種(挿し木)から成長し、やがて実を結ぶまでの植物の成長過程と対比して語られる場合が多い。本研究は、こうした象徴的分析法を通して本題に取り組んだことでも独創的であった。
著者
石川 雅章 小野 博志 王 歓 でん 輝 DENG Hui WANG Huan 石川 雅章 でんぐ 輝
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

日本人と中国人は、文化を背景とする民族は異なるものの人種的にはモンゴロイドに属し、極めて近縁とされる。顎・顔面頭蓋の成長発育には、遺伝的要因に加え環境的要因が少なからず関与し、部位によってその程度が異なる。本研究は北京医科大学口腔医学院小児歯科と協同して、中国人双生児の歯列咬合や顎・顔面頭蓋の遺伝的成長発育様式を調査し、日本人小児と比較することにより、モンゴロイドの顎・顔面頭蓋の形態変異について考察を深めようとするものである。平成6年度は北京市内で双生児を収集し予備調査を行ったところ、女児が男児よりも多く応募し、費用の観点から、調査対象を中国人女児双生児に限定することとした。また平成6年度と8年度では、顎・顔面頭蓋の成長発育にとっての環境的要因につながる中国人小児の生活習慣や食習慣を各地で調査した。都市化の進んだ地域とそうでない地域の間で、さらに、都市化した地域でも両親の職域によってこれらの習慣に比較的差異がみられた。あらかじめ、DNAフィンガープリント法により中国人女児双生児の卵性診断を済ませておき、平成7年から9月と12月に、計約90組の双生児資料採得を2年間にわたり行った。その内容は問診表記入、身長体重測定、口腔内診査、側貌および正貌頭部X線規格写真撮影、パノラマX線写真撮影、印象採得などである。平成9年2月現在、歯列模型と側貌頭部X線規格写真の分析を中心に研究が進行中である。歯列模型では口蓋の三次元形状分析を、顕著な不正咬合がなく側方歯群が安定し、かつ歯の欠損のない17組について行った。口蓋の計測には、格子パターン投影法による非接触高速三次元曲面形状計測システム(テクノアーツ、GRASP)を使用した。1卵性双生児群と2卵性双生児群での分散比から(双生児法)、歯頚部最下点間距離では左右第1大臼歯間においてのみ遺伝的に安定する傾向がみられ(p<0.05)、乳犬歯間、第1乳臼歯間、第2乳臼歯間では両群間に有意差は認められなかった。また、それぞれの口蓋の深さについても両群間で有意差は認められなかった。一方、口蓋の容積については、全体および左右乳犬歯より後方の容積が遺伝的に安定する傾向にあったが(p<0.01)、左右乳犬歯より前方の容積は、両群間に有意差が認められなかった。すなわち、混合歯列期の口蓋は遺伝的に制限された一定の容積のもとに、その構成成分である幅や深さは変異しやすいことが示唆された。側貌頭部X線規格写真上には、日本小児歯科学会による「日本人小児の頭部X線規格写真基準値に関する研究」と同様の計測点計測項目を設定し、当教室の頭部X線規格写真自動解析システムにて入力分析した。各双生児組の一人を用いた半縦断的な角度的および量的計測結果を、上記基準値と年齢幅が近似するよう三つのステージに分類し、日本人小児の成長発育様式と比較検討した。さらに双生児法により、各計測項目とその年間変化量などについて遺伝力を算出した。角度的分析から、混合歯列期中国人双生児の顎顔面頭蓋概形は日本人小児とおおむね近似していたが、前脳頭蓋底に対する上下顎歯槽骨前方限界は中国人小児が僅かに近心位にあり、上下顎中切歯歯軸傾斜はやや小さかった。また混合歯列前期のみであったが、前脳頭蓋底に対する下顎枝後縁角は中国人小児が有意に大きく、下顎角は有意に小さかった。一方、量的計測項目は全体的に中国人双生児の方が小さめであったが、日本人小児との身長差を反映していることも考えられる。量的計測項目の遺伝力は混合歯列中、後期と増加する傾向にあり、前脳頭蓋底で70%弱、鼻上顎複号体と下顎骨は70〜80%台であった。これら遺伝力は、男児や男女児双方を扱った他の双生児研究よりもやや大きく、本研究が、男児よりもネオテニ-的である女児のみを対象としたことと関連しているかもしれない。下顎骨のなかでは、下顎骨長が下顎骨の前後の高さよりも、遺伝的要因の占める割合が高くなると推定された。下顎骨構成成分間での遺伝力の差は、下顎骨が遺伝的に制限された一定の長さのもとに形態形成しやすいことを示唆していると考えられた。今後は、当教室に保管されている日本人双生児や北米白人双生児資料との比較研究を鋭意進めていく予定である。
著者
背山 洋右 SALEN GERALD SHEFER SARAH BJOERKHEM IN 笠間 健嗣 久保田 俊一郎 穂下 剛彦 米本 恭三 BIOERKHEM Ingemar KASAMA Takeshi EGGERTSEN Go BJORKHEM Ing TINT Stephen SHEFER Sarah SALEN Gerald 永田 和哉 清水 孝雄 BUCHMAN Mari
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1990

脳腱黄色腫(CTX)は先天性脂質代謝異常症で,コレステロールから胆汁酸に至る経路の酵素が障害されて,小脳やアキレス腱における黄色腫,小脳症状,白内障などの症状があらわれる。1937年にvan Bogaert等により報告されたのに始まるが,我が国では1969年の柴崎の報告が第1例である。この疾患の成因と遺伝子における異常を明らかにすることを目的として,1)患者から得られた線維芽細胞について欠損酵素である27位水酵化酵素をコードする遺伝子の解析と,2)疾患モデル動物の作製実験を行った。1.CTXにおける遺伝子異常の解析:スウエーデンのカロリンスカ研究所のBjoerkhemとの共同研究で,日本側からは米本恭三(慈恵医大),穂下剛彦(広島大・医)と久田俊一郎(東大・医)が関わった。CTX患者の線維芽細胞を培養して,RNAを精製し,ステロール27位水酸化酵素の活性に関与するアドレノドキシン結合部位とヘム補酵素結合領域を対象に,RT-PCR法により増幅した。得られた産物をシークエンスして,Russellにより報告されたcDNAの塩基配列と比較した。鹿児島大学で見つかった5人の患者について塩基配列の解析を行ったところ,何れもヘム補酵素結合領域である441番目のアルギニンをコードするコドンに異常があることが明らかになった。1人の患者では更に445番目のアミノ酸をコードする部位に1塩基の欠失が認められた。このうち,アルギニンがグリタミンに置換されている患者では制限酵素Stu Iによる切断部位が新たに生ずるので,RT-PCR産物について切断パターンから診断が可能になった。また,アルギニンがトリプトファンに置換された患者ではHpa IIによる切断部位が無くなるので,遺伝子診断が可能であることがわかった。家系によって遺伝子異常が異なっていたことは,それぞれの家系について予備実験が必要なことを意味しており,今後のスクリーニングの実施に当たってはこの点の配慮が必要となった。2.CTX疾患モデル動物の作製:アメリカのニュージャージ医科歯科大学教授のSalenおよびSheferとの共同研究であり,日本側では笠間健嗣(東京医科歯科大・医)が携わってきた。CTX患者では血清中のコレスタノール(ジヒドロコレステロール)濃度が上昇する高コレスタノール血症が見られる。マウスに高コレスタノール食を投与すると,CTX患者に準じた高コレスタノール血症がもたらされ,それに伴って角膜変性症などが引き起こされることを既に観察してきた。今年度は胆石形成が見られる現象に着目し,生化学的検討を行った。1%コレスタノール食をBalb/cマウスに14か月にわたって投与したところ,20%の頻度で胆石形成が見られ,同時に胆嚢の壁の肥厚,血管拡張などの炎症症状を呈していた。この胆石を分析したところ,コレスタノールが55%,コレスタノールが45%であり,この組成は胆嚢胆汁中の両者の組成と一致していた。一方,コレスタノール食を投与したマウスの胆汁から結晶が析出し,この結晶を走査電顕を用いて観察したところ,その形はコレステロールの結晶とは異なる正方形の滑らかな表面をもっていることがわかった。肝臓のHMG-CoAレダクターゼおよび7α-ヒドロキシラーゼを測定したところ,前者は51%上昇した反面,後者は59%低下していた。また,1%コレスタノール食を13か月間与えた後,1か月間標準食に戻したところ,上昇した血清と肝臓のコレスタノール値は低下し,この両酵素活性は正常値に戻った。これらの結果は,コレスタノールの増加によりHMG-CoAレダクターゼが誘導され,7α-ヒドロキシラーゼが抑制されたことを示唆している。この両酵素はコレステロール生合成と胆汁酸生合成系の律速度酵素であるが,コレスタノールの両酵素に及ぼす影響が相まって胆石形成を引き起こしたものと考えられる。今回のモデル動物の作製はコレスタノールと胆石の関係を明らかにするうえで意義のあるものであり,本疾患の病態解明に役立つものと期待される。日本,スウエーデン,アメリカの3国間で実施した,本研究はそれぞれの研究チームの特色を生かして,CTXという疾患の病態解明を行い遺伝子レベルにおける診断の可能性を示した点で大きく貢献したといえよう。
著者
家島 彦一 PETROV Petar GUVENC Bozku 鈴木 均 寺島 憲治 佐原 徹哉 飯塚 正人 新免 康 黒木 英充 西尾 哲夫 林 徹 羽田 亨一 永田 雄三 中野 暁雄 上岡 弘二 CUVENC Bozku
出版者
東京外国語大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

本プロジェクトは、広域的観点から、西は東欧・トルコから東は中国沿岸部までを調査対象とし、様々な特徴をもつ諸集団が移動・共存するイスラム圏の多元的社会において、共生システムがどのように機能しているかを、とくに聖者廟に焦点を当てて調査研究した。平成6年度はブルガリア・トルコの東地中海・黒海地域を重点地域とし、共生システムの実態について調査した。平成7年度は、ペルシア湾岸地域(イラン・パキスタン)を重点地域とし、主にヒズル廟に関する現地調査を実施した。平成8年度は、さらに東方に対象地域を広げ、中国沿岸部と中央アジア(新疆・ウズベキスタン)を中心に聖者廟などの調査を実施し、あわせてトルコとイランでヒズル信仰に関する補充調査を行なった。共生システムの様相の解明を目指す本研究で中心的に調査したのは、伝統的共生システムとして位置づけられる聖者廟信仰・巡礼の実態である。とくにヒズル廟に着目し、地域社会の共生システムとしていかに機能しているか、どのように変化しつつあるかについて情報を収集した。その結果、ヒズル信仰がきわめて広域的な現象であり、多様な諸集団の共存に重要な役割を果たしていることが明らかになった。まず、トルコでの調査では、ヒズル信仰が広範に見られること、それが様々な土着的ヴァリエイションをもっていることが判明した。ペルシア湾岸地域では、ヒズル廟の分布と海民たちのヒズル廟をめぐる儀礼の実態調査を行った結果、ペルシア湾岸やインダス河流域の各地にヒズル廟が広範に分布し、信仰対象として重要な役割を担っていることが明らかになった。ヒズル廟の分布および廟の建築上の構造・内部状況を相互比較し、ヒズル廟相互のネットワークについてもデータを収集した。興味深いのは、元来海民の信仰であったヒズル廟が現在ではむしろ安産・子育てなどの信仰となり、広域地域間の人の移動を支える機能を示している点である。さらに中国では、広州・泉州などでの海上信仰の検討を通じて、イスラムのヒズル信仰が南宋時代に中国に伝わり、媽祖信仰に影響を与えたという推論を得た。また、中央アジアの中国・新疆にも広範にイスラム聖者廟が分布しているが、墓守や巡礼者に対する聞き取り調査を行った結果、ヒズル廟などと同様、聖者廟巡礼が多民族居住地域における広域的な社会統合の上で占める重要性が明らかになった。聖者廟の調査と並行して、多角的な視点から共生システムの様相を調査研究した。一つは、定期市の調査である。イラン北部のウルミエ湖周辺における調査では、いくつかの定期市サークルが形作られていることが判明した。また、パキスタンではイスラマバ-ド周辺の定期市、新疆ではカシュガルの都市および農村のバザ-ルで聞き取り調査を実施し、地域的なネットワークの実態を把握した。他方、ブルガリアでは、聞き取り調査により伝統的な共生システムがいかに機能しているかについて情報収集を行い、宗教的ネットワークを中心として伝統的システムとともに、現在の共生システムがどのような状況にあるかについて興味深い知見を得た。キプロス・レバノン・シリアでは現在、宗教・民族対立をヨーロッパによる植民地支配の遺産ととらえ、かっての共生システムの回復を試みている様子を調査した。いま一つは、言語学的観点から共生システムをとらえるための調査で、多様な民族・宗教集団が共存するイスラエル・オマーン・ウズベキスタンで実施した。イスラエルでは、ユダヤ・イスラム・キリスト3教徒の共存に関する言語学的・民俗学的データを収集した。また、ウズベキスタンでは多言語使用状況の調査を行い、共和国独立後、ウズベク語公用語化・ラテン文字表記への転換といった政策にもかかわらず、上からの「脱ロシア化」が定着とはほど遠い実態が明らかになった。以上のように、イスラム圏の異民族多重社会においては、多様な諸集団の共存を存立させる様々なレベルにおける共生システムが広域的な規模で機能している。とくに、代表的なものとして、聖者廟信仰・巡礼の実態が体系的かつ具体的に明らかになった。
著者
鈴木 利治 楊 治 胡 乃武 周 才裕 かく 燕書 児玉 光弘 上山 邦雄 三浦 東 HAU Yanshu 二瓶 敏
出版者
名古屋経済大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

1 調査研究の目的と方法1970年後半以降中国では、社会主義市場経済の構築という方向での経済運営が劇的に展開されてきている。それは、現実的には、企業改革と開放政策という、2つの政策を軸に進められてきた。企業改革については、国有制度を残しつつ、企業経営において、競争原理を積極的に導入し、計画経済的な集中計画/管理の持つ経済阻害要因の排除を試みてきた。そして、計画経済への回帰が不可能なところにまで進展してきている。このような経済運営を進めるに当たり、競争力の基礎を形成する機械設備と技術水準の面で、老朽化・数量不足と水準の低さが足枷となっている。また急激な経済成長を支えるためには、原材料と設備が必要であるが、それを確保するための資本蓄積が無いという状況で、外資導入と技術移転のためにはが開放政策は不可欠であった。しかし、中国経済は、潜在的経済発展の大きな可能性を秘めているにもかかわらず、現実の経済運営において、必ずしも、それを顕在化する能力を発揮しているとはいえない。産業の発展は、経済発展の原動力となるものであるので、産業の自律的発展なしには、経済成長も立ち枯れ状態となる危険がある。中国における産業の現状とその自律的発展の条件を整理し、その課題を乗り越えるための施策を検討することは不可欠といえよう。かかる視点に立ち、基礎的な産業構造の解明を通して、生産力拡大・国際競争力強化の可能性と条件を考察することに本研究の目的がある。本研究は、(1)日中の研究者で共同研究をする、(2)テレビ、自動車、工作機械、鉄鋼、電力の5産業を「鍵の産業」として中心に据える、(3)企業、工場それに施設でのヒヤリングと見学による実態調査を主要な研究手段とするという方法を重視して進めた。2 中国リーディング産業の現状2.1 テレビ組立産業90年代に入り、急激な市場経済化が進み、テレビ産業における企業間競争が激化し、企業の分化・合併・淘汰が進んだ。1996年春からは、「価格競争」が始まり、テレビ産業の再編成と両極化がいっそう進むこととなった。(1)長虹電子集団公司のような内部蓄積型企業拡大、(2)熊猫電子集団公司のような政治救済型吸収合併になる企業拡大(3)牡丹電子集団公司のような地域統合型吸収合併による企業拡大(4)康佳電子集団股分有限公司のような多省籍企業型吸収合併による企業拡大(5)「熊猫」-フィリ
著者
大原 興太郎 秋津 元輝 ビラス サロケ 田中 耕司 堀尾 尚志 タムロン プレンプリディ 法貴 誠 PREMPRIDI Thamrong SALOKHE Vilas M. ピラス サロケ
出版者
三重大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1992

本年度の研究はシンドシナ半島の国々の本来自足的・生態系保持的な在来農法がどのような形で存在しているか、また技術移転など外からのインパクトがどのような技術的、経済的、社会文化的影響と問題をもたらしたかを、適性技術、土地・水利用、在来農法(焼畑農業を含む)の生態学的特徴、農法展開のための普及組織の実態と問題点、近代化の進展による農作業の変化、伝統的農民の行動様式等の側面から明らかにしようとした。本年度の現地調査はヴェトナム社会主義共和国のメコンデルタ農業について、カント-大学の全面的な協力を得て包括的な概況調査を行うとともに、ラオスにおいてはメンバー各人の問題意識にしたがって個々に再調査を行った。以下、明らかになった事柄を摘記する。1)ベトナムの経済は1986年のドイモイ政策以来対外解放政策と市場経済を導入し、さまざまな規制を緩めてきた。その結果1986〜91年のGDPの平均成長率が5.2%、サービス部門の成長率は9.9%にも上った。農業部門では新土地政策、世帯別独立経済、農民の長期土地使用と土地の相続権及び取引権の授与(1988)、生産活動と売買の請負制は農業に劇的な変化と高成長をもたらした。2)農業基盤については道路などの整備がまだ不十分であるが、フランス植民地時代からの水路開発の結果、水運が発達している。そのため道路がないところでも、船による脱穀や籾摺の請負が発達しており、トラクターの移動も船で行っている地域がある。3)ベトナムの米生産1991年1940万トンの53%を占めるメコンデルタはメコン川の豊富な水量に恵まれ、近年二期作の面積が約70%(*)に拡大した。この稲作の発展には1988年に設立されたカント-大学のメコンデルタ農法研究開発センターが大きな役割を果たしている。4)メコンデルタの農法は地域の自然条件等によってバラエティにとんでおり、一般的なDONG XUN(冬春稲)+HETHU(夏秋稲)の二期作、DONG XUN(冬春稲)+HETHU(夏秋稲)+THU DONG(秋冬稲)の三期作、HETHU+LUA MOA、LUA NOI(浮稲)の一期作、LUA MOA(浮稲)+淡水エビ、HETHU+エビ、HETHU+サトウキビ、DONG XUN+HETHU+野菜等々の多くの組み合わせがみられる。5)また、播種なしい移植についても、乾田直播、湛水直播、催芽種直播、不耕起直播、混播、田植等が土地条件や営農条件によって使い分けられている。6)旧南ベトムでは比較的うまく存続しているのが珍しいDONG CAT国営農場では、肥料の購入、水利、耕耘などは国が管理し、あとの農作業は農民に任せている。興味深いのは国営農場内に森林が植林されており、酸性土壌に強いメラロイカが植えられ、とくに火災の管理などに工夫がされていることである。7)メコンデルタ農業発展の障害は農業基盤の整備の不十分性、資本の欠乏、農産物および生産資材の価格の不安定があげられる。8)ラオスにおいては1975年以前にアメリカにならった普及組織があったが、革命とともに無くなり、ようやく1991年になって農業普及庁が設立され、普及組織が再び整えられつつある。9)2代目長官ブリアップ氏は次のような普及目標を上げている。技術移転、農民への技術援助、他の省庁との調整、農民のニーズの把握、作物の病虫害防除、作付改良への理解、農業機械の管理、家政への参加等である。10)現在の普及上の問題点はまず第一に普及員の質の向上であり、第二に普及組織の確立、第三に予算の不足、第四に情報とりわけ市場情報の確保があげられる。とくに普及関係の予算は少なく、現在国際機関との共同事業もないが、農民が肥料や種子、さらには機械や農業雇用のための金を借りるための農業振興銀行(Agricultural Promotion Bank)が1993年に設立された。これには普及員の承認がいることになっている。借入金の利子は8〜12%であり、一般銀行のよりは数%低くなっている。11)ラオス北部の米作はなお焼畑が主体をなしているが、政府の森林伐採の禁止により、農民は新たな土地を確保できず、焼畑のロ-テーションが以前の10年前後から3〜4年と短くなって来ている。
著者
上野 和之 神山 新一 MASSART R. BACRI J.ーC. 小池 和雄 中塚 勝人 神山 新一 上野 和之
出版者
東北大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1997

平成9年4月から平成11年3月までの2年の研究期間中に2回の日仏共同研究セミナーを開催し、研究成果の発表と討議を通して共同研究の進展が図られた。2年間の共同研究の成果をまとめれば、以下のようになる。1. 高機能磁性流体の開発とその物性超微粒子の表面改質や各種ベース液への安定分散の成功により、磁性流体の高機能化が進み、知能流体としての特性の解明が進められた。特に、超微粒子の磁化特性や超微粒子を含む磁性流体の光学特性(Soret effect)の解明が、測定法の開発も含めて進められた。また、液体金属を母液とする磁性流体の開発も進められた。2. 管内流動特性の解明高機能磁性流体を用いて、管内振動流や気液二相流の流動特性に及ぼす磁場の影響が詳細に解明された。特に、非一様磁場下での磁性流体の加熱沸騰を伴う気液二相流の熱・流動特性の解明が進められた。3. 応用研究磁性流体の応用研究としては、ダンパ、アクチュエータ、ヒートパイプ、エネルギー変換システムの開発に関する基礎研究が進められた。
著者
眞継 隆 ヨーゼフ ブリンク ヘルマン フランケ ジークフリート ハウザー アロイスオーバー ハウザー 吉田 猛 岸田 民樹 根本 二郎 荒山 裕行 奥村 隆平 千田 純一 HAUSER Siegfried BRINK Hans-Joseph OBERHAUSER Alois FRANCKE Hermann ジーク・フリート ハウザ ラルフ・ボード シュミッ アイロス・オーバー ハウ テオドール ダムス 小川 英次 木下 宗七 藤瀬 浩司 ハウザー ジークフリート シュミット ラルフ・ボー オーバーハウザー アイロ ダムス テオドール
出版者
名古屋大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1990

欧州共同体(EC)は.1992年末までに市場統合を目指しており.世界経済に対するその影響はきわめて大きい。国際化を進めつつある日本にとっても.EC市場が統合後にどの程度開放されるかは重要関心事であり.本研究において.貿易.金融.農業.企業立地などを中心に.統合市場の下で展開される域内政策と対外政策の日本経済に及ぼすインパクトを多面的に分析し.日本の対外政策のあり方について総合的に考察した。また.新しい問題として東西ドイツの統一がもたらす諸問題や.しだいに広域化していく環境問題についても検討を加えた。共同研究者が執筆した論文は,まず1991年3月に開催された共同研究会で報告が行われ,その成果が研究報告書『EC市場統合とドイツ総一』しとて,名古屋大学経済学部から1992年3月に出版された。日本側からは,真継隆「1992年EC市場統合と日本の製造業」及び千田純一「EC金融統合と日本の銀行・証券会社」の2論文が収録されているが,前者は日本からECに進出している機械メーカーと自動車メーカーを取り上げ,ECにおける貿易摩擦と日本企業の対応を論じている。また後者は,ECの92年市場統合への取り組みのうち,金融システムの統合に焦点を合わせ,わが国の銀行・証券会社がそれをどのように受け止め,どのように対応しようとしているかを考察した。ドイツ側から提出された研究論文は,B.キュルプ「欧州共同体における政策協調の必要性と経済安定効果」,H-H.フランケ「ヨーロッパ中央銀行制度の成立過程-フランスとドイツの対応-」,Th,ダムス「ドイツ統一と経済システムの比較-欧州統合及び東欧諸国の問題点を背景として-」,A.オーバーハウザー「東欧諸国の財政と市場経済への転換」,H-J,ブリンク「東ドイツ新企業の経営問題と解決第一計画経済から市場経済への移行の中で-」,F.ショーバー「国際的企業戦略のための情報・計画策定システム」等であり,ECとドイツ経済の現状と課題が詳細に分析された。ついで,第2回の共同研究会が1993年3月に開催され,その後の研究成果について報告と討論が行われた。日本側の論文は,真継隆「日本の環境問題に関する最近の研究-展望論文」,岸田民樹「環境管理の組識論的研究」,奥村隆平「地球温暖化の動学的合析」,荒山裕行「炭素税と排出権の一般均衝分析」,吉田猛「環境技術の移転のあり方-日本の非営利団体を事例として」の5篇であり,日本の当面している環境問題を多面的に取り上げ,それらの経済学と経営学の視点から分析した。ドイツ側の論文は,Th.ダムス「国際環境問題における日独両国の立場」,S.ハウザー「環境経済学への一般システム論的接近」,H-H,フランケ「ECにおける環境基準の批判的検討」,G.ブリュームレ「国際競争力の視点からみた環境政策の意義」,G.ミュラー「情報技術と交通問題-新しい視点からの検討」,H-J.ブリンク「ドイツ企業における環境対策の新しいアプローチ」,F.ショーバー「廃棄物処理のための情報システム-フライブルク大学の事例」の7篇であり,ECとドイツの最新の情報が提供された。これらの論文は日独両国でそれぞれ和文,英文の研究報告書として公刊される予定であり,関心のある研究者にも広く利用可能となる。本研究は,日本側が日本についての研究を行い,ドイツ側がドイツとECについて研究を行っており,自国の情報を相互に相手国に提供している。そのために,外国へ行って情報収集,情報(文献)分析を行う場合に比して,相手国の研究をより探く行うことが可能となっており,国際共同研究として有意義な成果が挙がっており,また日独両国における研究報告書の刊行を通じて,その研究成果が十分に活用されている。
著者
平 啓介 根本 敬久 (1989) MULLIN M. EPPLEY R. SPIESS F. 中田 英昭 藤本 博巳 大和田 紘一 小池 勲夫 杉本 隆成 川口 弘一 沖山 宗雄 瀬川 爾郎 SPIES F. 清水 潮
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1989

大気中の二酸化炭素の増大やオゾン層の破壊などグロ-バルな地球環境の変動の可能性が広く注目を集めるようになり、大気中に放出された二酸化炭素の50%を吸収することに示される海洋の役割とその変動を解明するために、東京大学海洋研究所は太平洋の対岸に位置する米国スクリップス海洋研究所と平成1ー3年度にわたって共同研究を行った。これに先だって1968年5月に東京大学(海洋研究所)とリフォルニア大学サンディゴ分校(スクリップス海洋研究所)は学術研究協力協定を締結して、太平洋における地球圏変動(グロ-バルチェンジ)にともなう海洋の生産力、生物資源および海底の動態に関する協力研究に着手することに合意していた。平成1年、本研究の発足に当たって、根本敬久(当時、研究代表者)と小池勲夫がスクリップス海洋研究所を訪問して、全体の研究計画ならびに海洋上層における炭素・窒素の生物的循環を対象として研究する方法について討議した。同年11月に新造された白鳳丸がスクリップス海洋研究所に寄港して、海洋物理学、海洋化学、海底物理学、海洋生物学そして水産学の全分野について研究計画の打ち合わせを行った。また、スクリップス海洋研究所のヘイワ-ド博士を東京大学海洋研究所に招き、杉本隆成が渡米して地球規模の生物環境問題、特にイワシ類の資源変動の機構解明の方策が話し合われた。瀬川爾朗がスピ-ス教授を訪問して、東太平洋海膨の海底活動荷ついて電磁気学的特性について討論し、それぞれの海域で観測研究を実施することを打ち合わせた。平成2、3年度は上記の方針に沿って、カタクチイワシ、マイワシ類の稚仔魚の変動については、平成2年、3年の冬季に薩南海域で実施したマイワシの資源調査の結果ならびに既存資料とスクリップス海洋研究所がカルフォルニア沖で40年以上継続している調査結果と比べて大規模な地球的変動であるエルニ-ニョに対する応答を明かにした。物理的(温度、塩分、雲量、光量、海流)、化学的(栄養塩量、溶存酸素)パラメ-タ-によって資源変動を予測するための海洋環境変動モデルをそれぞれの海域について構築することができた。これらの資源環境学的研究は英文モノグラフとして刊行することになった。海洋における栄養塩の量的変動と微生物食物連鎖の研究も実施された。海洋物理学では、CTD観測に基づく海洋構造の観測と中立フロ-トの追跡によって太平洋の深層循環の研究を実施した。スクリップス海洋研究所は1987年2北緯24度と47度の太平洋横断観測を実施し、東太平洋の南北測線の観測を1990ー91年に実施した。後者についてはスクリップス海洋研究所のデ-ビス教授が南極環海と熱帯海域においてアリスフロ-トの追跡実験を、東京大学海洋研究所では平啓介が中心になって四国海盆ならびに黒潮続流域でソ-ファ-フロ-ト追跡実験を実施しており、デ-タ交換を深層流の統計学的特性を明らかにした。海底磁力計と電位差計による海底観測は東京大学海洋研究所では瀬川爾朗が中心に、スクリップス海洋研究所ではスピ-ス教授のグル-プが実施しており、相互のデ-タ交換を行い、海底ステ-ションによる長期観測法を確立した。海洋の炭素循環について、国際共同研究の一環として白鳳丸による北西太平洋における観測を平成3年5月に実施した。また、太平洋熱帯域ではスクリップス海洋研究所が8月に観測を実施した。これらのデ-タ解析により、溶存炭素の循環に関する研究をとりまとめた。
著者
田中 義人 TRIVEDI N. VERSHININ E. HIDAYAT B. YEBOAHーAMANK ディ LYNN K. FRASER B.J. 野崎 憲朗 立原 裕司 坂 翁介 高橋 忠利 北村 保夫 瀬戸 正弘 塩川 和夫 湯元 清文 HYDAYAT B YEBOAH-AMONKWAH D ANISIMOV S. YEBOAHーAMANK ディー. 宗像 一起 桜井 亨 藤井 善次郎
出版者
山口大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

太陽風によつて運ばれる太陽プラズマのエネルギーは、地球の磁気圏の境界領域から極域に侵入しオーロラや地磁気擾乱をおこし、さらに磁気圏内部から赤道域まで流入し様々な現象を引きおこしている。磁力線で結ばれた日・豪の共役点を含む磁気軽度210度に沿った、高緯度から赤道域にわたる広域地上多点で、電磁場変動,極低周波のプラズマ波動やオーロラの光学同時観測を行い、関与する電磁波エネルギーや粒子エネルギーのグローバルな輸送・流入機構を調査した。また、流入した太陽風エネルギーが集積し、且つ、電離層高度にジエット電流が流れている赤道域の南太平洋域で電磁環境変動の総合観測を行った。さらに、赤道域の経度の離れた南アメリカのペル-とブラジルの多点観測網において電磁気変動の同時観測を行い、磁気圏全体の太陽風エネルギーの流入ルートやエネルギー変換過程を明らかする手がかりを得た。1、太陽風変動に呼応したグローバルな地球磁気圏の応答を明らかにするために、特に、空間変化と時間変動が分離できる210度磁気子午線沿いの広域多点観測を、アメリカ、インドネシア、オーストラリア、台湾、日本、パプア・ニューギニア、フィリピン、ロシア等の28研究機関との共同研究として実施した。210度地磁気データ、LF磁気圏伝搬波データ、光学観測のデータの解析研究を行つた。(1)、惑星間空間衝撃波や太陽風中の不連続変動によって引き起こされ、地上の低緯度で観測されるSc/Si地磁気変動の振幅が季節変化しており、特に、夏半球で冬半球のおよそ2倍になっていることが見いだされた。このことは、極冠域に侵入した変動電場により誘起されたグローバルなDP型の電離層電流の低緯度への侵入の寄与を示唆している。(2)、SC/Siにより励起されたほとんどのPc3-4地磁気脈動は磁力線共鳴振動であるが、SC/Siの振幅が極端に大きいときには、プラズマ圏のグローバルな空洞振動モードも励起されている。(3) SCにより励起されたPc3-4の振幅の減少率はL<1、5の低緯度の領域で急激に増加する。また、赤道側に行くほど卓越周期が長くなっていることが観測的に明らかにされた。この結果は、低緯度電離層における理論的な薄い電離層モデルの限界とマス・ロ-デング効果を表している。(4) L=1,6の母子里観測所で光学・地磁気観測から、Dstが-100nT程度の磁気嵐の主相の時に、時々、目には見難い低緯度オーロラが地磁気H,D成分の湾型変化と大振幅Pi脈動の発生と同時に出現することが明らかになった。(5)美瑛LFデッカ局(85、725kHz)の磁気共役点のオーストラリア・バーズビルでのLFで磁気圏伝搬波の観測データ、NOAA-6衛星での高エネルギー電子のデータ、低緯度の地上観測VLF/ELF電磁放射のデータの解析から、磁気擾乱の伴う磁気圏深部への高エネルギー粒子の流入の様子が明らかにされた。2、磁気赤道帯は赤道エレクトロジェットで知られる様に、電離層電気伝導度がまわりの緯度より高く、地磁気脈動や電離層電流の赤道異常が現れる等の興味ある地域である。しかし、地磁気に関する研究は低感度の記録データもとにするしかなかったため、現象の理解はあまり進んでいない。そのため、磁気赤道帯で高時間精度、高感度フラックスゲート磁力計による磁場観測を試みた。(1)、ブラジル内陸部の6点の密な観測網で比較的長期(半年)にデータを取得した。また、ペル-の磁気赤道をまたぐ4点に観測点を設置し赤道ジェット電流の観測を開始した。さらに新しい試みとして、南部太平洋ヤップ島で、地磁気と電離層FMCWレーダーとの同時観測を実施し成功した。(2)、高時間精度、高感度磁場観測により、赤道域での地磁気脈動の振幅がおよそ0、1-1、0nTの範囲にあることが分かってきた。(3)、高感度のデータから、日出に伴う電離層電子密度上昇による地磁気脈動の振幅変調や、電気伝導度の赤道異常が引き起こす地磁気脈動の位相遅れなどの新しい結果が得られた。高時間精度のデータからはSSCやPi2脈動のグローバルな構造、衛星データとの比較からPi2脈動の開始と関係した磁気圏粒子環境の変化(オーロラブレークアップ、サブストームオンセット)などの興味ある研究が始められた。(4)、赤道域での多点観測や電離層レーダーとの共同観測から、赤道ジェット電流の空間構造や赤道反電流と電離層電場との関係など興味ある研究が始められた。
著者
上田 豊 中尾 正義 ADHIKARY S.P 大畑 哲夫 藤井 理行 飯田 肇 章 新平 山田 知充 BAJRACHARYA オー アール 姚 檀棟 蒲 建辰 知北 和久 POKHREL A.P. 樋口 敬二 上野 健一 青木 輝夫 窪田 順平 幸島 司郎 末田 達彦 瀬古 勝基 増澤 敏行 中尾 正義 ZHANG Xinping BAJRACHARYA オー.アール SHANKAR K. BAJRACHARYA オー 伏見 碩二 岩田 修二
出版者
名古屋大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

1.自動観測装置の設置と維持予備調査の結果に基づき、平成6年度にヒマラヤ南面と北面に各々2カ所設置したが、各地域におけるプロセス研究が終了し、最終的には南面のクンブ地域と北面のタングラ地域で長期モニタリング態勢を維持している装置はおおむね良好に稼働し、近年の地球温暖化の影響が観測点の乏しいヒマラヤ高所にいかに現れるかの貴重なデータが得られている。2.氷河変動の実態観測1970年代に観測した氷河を測量し、ヒマラヤ南面では顕著な氷河縮小が観測された。その西部のヒドン・バレーのリカサンバ氷河では過去20年に約200mの氷河末端後退、東部のショロン地域のAX010氷河では、ここ17年で約20mの氷厚減少、またクンブ氷河下流部の氷厚減少も顕著であった。地球温暖化による氷河融解の促進は氷河湖の拡大を招き、その決壊による洪水災害の危険度を増やしている。3.氷河変動過程とその機構に関する観測氷河質量収支と熱収支・アルビードとの関係、氷河表面の厚い岩屑堆積物や池が氷河融解に与える効果などを、地上での雪氷・気象・水文観測、航空機によるリモート・センシング、衛星データ解析などから研究した。氷河表面の微生物がアルビードを低下させて氷河融解を促進する効果、従来確立されていなかった岩屑被覆下の氷河融解量の算定手法の開発、氷河湖・氷河池の氷河変動への影響など、ヒマラヤ雪氷圏特有の現象について、新たに貴重な知見が得られた。4.降水など水・物質循環試料の採取・分析・解析ヒマラヤ南北面で、水蒸気や化学物質の循環に関する試料を採取し、現在分析・解析中であるが、南からのモンスーンの影響の地域特性が水の安定同位体の分析結果から検出されている。5.衛星データ解析アルゴリズムの開発衛星データの地上検証観測に基づき、可視光とマイクロ波の組み合わせによる氷河融解に関わる微物理過程に関するアルゴリズムの開発、SPOT衛星データからのマッピングによる雪氷圏の縮小把握、LANDSAT衛星TM画像による氷河融解への堆積物効果の算定手法の確立などの成果を得た。6.最近の気候変化解析ヒマラヤ南面のヒドン・バレーとランタン地域で氷河積雪試料、ランタン周辺で年輪試料を採取し、過去数十年の地球温暖化に関わる気候変化を解析中である。7.最近数十年間の氷河変動解析最近の航空写真・地形図をもとに過去の資料と対比して氷河をマッピングし、広域的な氷河変動の分布を解析中である。8.地球温暖化の影響の広域解析北半球規模の気候変化にインド・モンスーンが重要な役割を果たしており、モンスーンの消長に関与するヒマラヤ雪氷圏の効果の基礎資料が得られた。
著者
山本 雅 渡邊 俊樹 吉田 光昭 平井 久丸 本間 好 中地 敬 永渕 昭良 土屋 永寿 田中 信之 立松 正衛 高田 賢蔵 澁谷 均 斉藤 泉 内山 卓 今井 浩三 井上 純一郎 伊藤 彬 正井 久雄 村上 洋太 西村 善文 畠山 昌則 永田 宏次 中畑 龍俊 千田 和広 永井 義之 森本 幾夫 達家 雅明 仙波 憲太郎 菅村 和夫 渋谷 正史 佐々木 卓也 川畑 正博 垣塚 彰 石崎 寛治 秋山 徹 矢守 隆夫 吉田 純 浜田 洋文 成宮 周 中村 祐輔 月田 承一郎 谷口 維紹 竹縄 忠臣 曽根 三郎 伊藤 嘉明 浅野 茂隆
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

近年、がん遺伝子、がん抑制遺伝子の研究が進み、がんを遺伝子ならびにその産物の機能に基づいて理解することが可能になった。それと共に、細胞増殖のためのシグナル伝達機構、細胞周期制御の機構、そして細胞死の分子機構の解明が進んだ。また細胞間相互作用の細胞社会学的研究や細胞表面蛋白質の分子生物学的研究に基づく、がん転移の機構についての知見が集積してきた。一方で、がん関連遺伝子の探索を包含するゲノムプロジェクトの急展開が見られている。また、ウイルス発がんに関してもEBウイルスとヒトがん発症の関連で新しい進展が見られた。このようながんの基礎研究が進んでいる中、遺伝子治療のためのベクター開発や、細胞増殖制御機構に関する知見に基づいた、がんの新しい診断法や治療法の開発が急速に推し進められている。さらには、論理的ながんの予防法を確立するための分子疫学的研究が注目されている。このような、基礎研究の急激な進展、基礎から臨床研究に向けた情報の発信とそれを受けた臨床応用への試みが期待されている状況で、本国際学術研究では、これらの課題についての研究が先進的に進んでいる米国を中心とした北米大陸に、我が国の第一線の研究者を派遣し、研究室訪問や学会発表による、情報交換、情報収集、共同研究を促進させた。一つには、がん遺伝子産物の機能解析とシグナル伝達・転写調節、がん抑制遺伝子産物と細胞周期調節、細胞死、化学発がんの分子機構、ウイルス発がん、細胞接着とがん転移、genetic instability等の基礎研究分野のうち、急速な展開を見せている研究領域で交流をはかった。また一方で、治療診断のためには、遺伝子治療やがん遺伝子・がん抑制遺伝子産物の分子構造に基づく抗がん剤の設計を重点課題としながら、抗がん剤のスクリーニングや放射線治療、免疫療法に関しても研究者を派遣した。さらにがん予防に向けた分子疫学の領域でも交流を図った。そのために、平成6年度は米国・カナダに17名、平成7年度は米国に19名、平成8年度は米国に15名を派遣し、有効に情報交換を行った。その中からは、共同研究へと進んだ交流もあり、成果をあげつつある。本学術研究では、文部省科学研究費がん重点研究の総括班からの助言を得ながら、がん研究の基盤を形成する上述のような広範ながん研究を網羅しつつも、いくつかの重点課題を設定した。その一つは、いわゆるがん生物の領域に相当する基礎生物学に近いもので、がん細胞の増殖や細胞間相互作用等の分子機構の急激な展開を見せる研究課題である。二つ目の課題は、物理化学の分野との共同して進められる課題で、シグナル伝達分子や細胞周期制御因子の作用機構・高次構造に基づいて、論理的に新規抗がん剤を設計する試みである。この課題では、がん治療薬開発を目的とした蛋白質のNMR解析、X線結晶構造解析を推進する構造生物学者が分担者に加わった。三つ目は、極めて注目度の高い遺伝子治療法開発に関する研究課題である。レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクターの開発に関わる基礎側研究者、臨床医師、免疫学者が参画した。我が国のがん研究のレベルは近年飛躍的に向上し、世界をリ-ドする立場になってきていると言えよう。しかしながら、上記研究課題を効率良く遂行するためには、今後もがん研究を旺盛に進めている米国等の研究者と交流を深める必要がある。また、ゲノムプロジェクトや発生工学的手法による、がん関連遺伝子研究の進展によって生じる新しい課題をも的確に把握し研究を進める必要があり、そのためにも本国際学術研究が重要な役割を果たしていくと考えられる。
著者
中澤 高清 森本 真司 塩原 匡貴 和田 誠 青木 周司 山内 恭 菅原 敏
出版者
東北大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1997

1998年7月、1998年12月〜1999年3月にスバールバル諸島ニーオルスンにおいて、大気中の温室効果気体やエアロゾルなどの実態の把握を目指し、集中観測を行った。これらの観測から、北極域におけるCO_2、CH_4、O_3の変動が詳細に捉えられると同時に、CO_2データは海水表層でのCO_2交換の評価のための基礎データとなった。エアロゾルについては今回の集中観測で多くの基礎データの蓄積がなされ、冬から春にかけての極域におけるエアロゾルの特徴をとらえることができた。北極域における大気微量成分の広域3次元分布、特に極渦の形成・崩壊期に着目した輸送・循環・変質の過程を調べるため、1998年3月6日〜14日の期間、航空機にオゾンおよびCO_2の連続測定装置、大気サンプリング装置、エアロゾル計測装置、エアロゾルサンプリング装置等を搭載し、観測を実施した。観測は北極点を通過し北極海を横断する長距離高高度飛行(巡航高度12km)を基本とし、その他、スピッツベルゲン島近海上空およびアラスカ州バーロー沖合上空では海面付近から高度12kmまでの鉛直プロファイルの観測を行った。機器は概ね順調に動作し、良好なサンプルやデータを取得することができた。その結果、(1)CO_2やO_3濃度は圏界面高度で不連続に変化し、圏界面を挟んで鉛直混合が大きく妨げられる様子が確認された、(2)CH_4とN_2O濃度に見られた正の相関は前年度にスウェーデンで実施された大気球による北極成層圏大気の観測結果と良い一致を示した、(3)硫化カルボニル(COS)の高度分布測定から、COSが成層圏エアロゾルの硫黄供給源であることを示唆する結果が得られた、(4)北極ヘイズ層は多層構造をなし対流圏上部まで到達することがあった、(5)エアロゾルの直接サンプリングにより、成層圏・自由対流圏では主に硫酸粒子、下部混合層では海塩粒子の存在が確認された。