著者
渡辺 公綱 横川 隆志 河合 剛太 上田 卓也 西川 一八 SPREMULLI Li SPREMULLI Linda lucy LINDA Lucy S SPREMULL Lin
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

本国際学術共同研究は、動物ミトコンドリアにおける暗号変化(UGA;普遍暗号では終止暗号がトリプトファンに、AUA;イソロイシンがメチオニンの暗号に、AGA/AGG;アルギニンが殆どの無脊椎動物ではセリン、原索動物ではグリシン、脊椎動物では終止暗号に変化、など)の分子機構をin vitro翻訳系を構築して、解明する目的で始められた。このような研究は、ミトコンドリア(mt)からその細胞内量から見ても、生化学的な研究に十分な試料を調製することが大変困難なこと、翻訳に関わるタンパク性諸因子がかなり不安定で単離が困難なことなどが主な障害となって世界的にも殆ど手がつけられていなかった。我々は特異構造を持つmt・tRNA(殆どのmt・tRNAではL型立体構造形成に関わっているDループとTループ間の塩基対を欠いていたり、DループやTループが欠落したものも見つかっている)と変則暗号解読の因果関係を探る目的で、mt・tRNAの大量調製法を確立し、その構造と性質を調べていたが、翻訳系の構築に必要な活性のある因子の調製ができなかった。国外共同研究者であるSpremulliのグループは、活性あるmtリボソームと翻訳系諸因子の調製に成功していたが、mt・tRNAの単離ができなかった。このような状況においてお互いのグループで開発したシステムと技術を合体させることにより、mtのinvitro翻訳系を構築し、暗号変化の分子機構を解明するという目的で平成3年度から本研究がスタートした。研究はかなり順調に進んできたが、本格的な展開はこれからであり、やっとその基礎が固まったという現状である。以下に年度を追ってその成果を述べる。[平成3年度]1)tRNAの特定配列に相補的な合成DNAプローブを用いたハイブリダイゼーション法を開発し、mt・tRNAの0.2-0.5mgオーダーの調製が可能になった。2)UCN(N=A,U,G,C)のコドンに対応するウシmt・セリンtRNAを単離、精製し、それが従来の遺伝子から推定されていた配列から、実際の構造がずれていること、アンチコドン・ステムは一塩基対長く、アミノ酸ステムとDステムの間が一塩基しかない、異常な2次構造をとること、この構造は哺乳動物mtに共通であることを明らかにした。3)ウシ肝臓から活性のあるリボソーム、開始因子(IF-2)、伸長因子(EF-Tu/Ts、EF-G)、アミノアシル-tRNA合成酵素(ARS)の調製方法を確立し、それらの性質を検討した。[平成4年度]1)AGY(Y=U,C)のコドンに対応する、Dアームを欠くセリンtRNAのセリルtRNA合成酵素(SerRS)による認識部位を決定する目的で、このtRNA遺伝子からT7RNAポリメラーゼによる転写物を調製し、種々の塩基置換を導入したtRNA変異体のSerRSによるセリン受容能を測定した結果、アンチコドンは認識に無関係だが、Tループが重要であり、中でもよく保存されたループ中央のA44の置換が決定的であることが分かった。2)ウシ・mtでポリ(U)依存ポリ(フェニルアラニン)合成系を初めて構築し、大腸菌の系との構成成分の互換性を検討したところ、mtのPhe-tRNA^<Phe>は大腸菌のEF-TuとGTPとで3者複合体を形成するが、そこからリボソームA部位への転移過程が働かないことを明らかにした。3)ウシ・mtのメチオニンtRNAの塩基配列を再検討し、アンチコドンの一字目に、5-ホルミルシチジンという新規修飾塩基が存在することを明らかにした。4)ウシ・mtフェニルアラニンtRNAの修飾塩基を含む塩基配列を決定し、RNaseや化学試薬への感受性からその立体構造を推定したところ、Dループ、Tループ相互作用はないが、Dアームとバリアブルループ間の3次元的な塩基対形成によってL型に近い構造をとっていることを見出した。[平成5年度]1)ポリ(U)依存ポリ(Phe)合成系の効率化の条件を検討し、1mMスペルミン存在下で大腸菌の系の約1/2のレベルまで合成効率を上昇させることに成功した。2)AUAがメチオニンの暗号であることを証明するために、AUAを含む人工mRNAを用いて、AUAに依存したメチオニル-tRNAのリボソームへの結合、ポリペプチドへのメチオニンの取り込みを調べたが、現在までのところまだ肯定的な結果は得られていない。3)ウシmtからホルミルトランスフェラーゼを精製し、fMet-tRNAを作成し、EF-TuとIF-2の結合をMet-tRNAと比較したところ、fMet-tRNAはIF-2と、Met-tRNAはEF-Tuとそれぞれより高い親和性を示した。これは単一tRNAがホルミル化によって開始と伸長の両反応に使い分けられる可能性を支持するものである。
著者
甲元 啓介 伊藤 靖夫 秋光 和也 柘植 尚志 児玉 基一朗 尾谷 浩 DUNKLE L.D. GILCHRIST D. SIEDOW J.N. WOLPERT T.J. JOHAL G. TURGEON B.G. MACKO V. 田平 弘基 YODER O.C. BRIGGS S.P. WALTON J.D. 宮川 恒 朴 杓允 荒瀬 栄 BRONSON C.R. 小林 裕和 中島 広光
出版者
鳥取大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

1) リンゴ斑点落葉病菌の宿主特異的AM毒素の生合成に関与する遺伝子: 環状ペプチド合成酵素(CPS)遺伝子のユニバーサルPCRプライマーを利用して得たPCR産物は他のCPS遺伝子と相同性が認められ、サザン解析の結果、AM毒素生産菌に特異的に存在する配列であることが判明した。本遺伝子断片を用いた相同的組込みによる遺伝子破壊により、毒素非生産形質転換体が得られ、さらに野生株ゲノムライブラリーをスクリーニングして、完全長のAM毒素生合成遺伝子(AMT)のクローニングに成功した。AMTは13KbのORFをもち、イントロンはなく、毒素構成アミノ酸に対応するアミノ酸活性化ドメインが認められた。2) ナシ黒斑病菌のAK毒素生合成遺伝子: REMIによる遺伝子タギング法を用いて毒素生産菌に特異的に存在する染色体断片から、AKT1(脂肪酸合成)、AKT2,AKT3(脂肪酸改変),AKTR(発現調節因子)、AKTS1(AK毒素生合成特異的)の5つの遺伝子を単離した。また、AK毒素と類似の化学構造を有するAF及びACT毒素の生産菌も、本遺伝子ホモログを保有することが明らかとなった。3) トウモロコシ北方斑点病菌の環状ペプチドHC毒素の生合成遺伝子TOX2の解析が進み、特異的CPS遺伝子HTS1のほかに、TOXA(毒素排出ポンプ)、TOXC(脂肪酸合成酵素b*)、TOXE(発現調節因子)、TOXF(分枝アミノ酸アミノ基転移酵素)、TOXG(アラニンラセミ化酵素)などが明らかとなった。4) トウモロコシごま葉枯病菌のポリケチドT毒素の生合成遺伝子TOX1は、伝統的遺伝学手法では単一のローカスと考えられていたが、今回の分子分析でTOX1AとTOX1Bの2つのローカスからなり、それぞれ異なった染色体上に存在することが明確となった。5) ACR毒素に対する特異的感受性因子を支配している遺伝子(ACRS)を、ラフレモンmtDNAからクローニングした。この遺伝子は大腸菌で発現した。6) リンゴ斑点落葉病感受性(AM毒素のレセプター)遺伝子を求めて、プロテオーム解析によりAM毒素感受性リンゴに特異的に発現しているタンパク質(SA60)を検出した。7) 宿主特異的毒素の生合成遺伝子は水平移動で特定の菌糸に導入されたと推論できた。
著者
谷口 功 FARRELL Nich CHELEBOWSKI ジャン エフ HAWKRIDGE Fr 木田 建二 西山 勝彦 FARRELL Nicholas P WYSOCKI Vick JAN F.Chelbo VICKI H.Wyso FRED M.Hawkr
出版者
熊本大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

本研究では、金属タンパク質の構造変化による機能制御の本質を解明、応用するための基礎を確立するため、日米二つの研究グループの得意な領域を有機的に結合して、金属タンパク質の電極上での直接電子移動を自在に制御し、金属タンパク質の電気化学的性質を明らかにすると共に、界面電子移動反応に関する基礎的知見の増大と新しい概念の創出を目指して研究を進めた。本研究の過去3年間の研究成果は以下の通りである。1.金属タンパク質の界面電子移動制御とその生物電気化学的応用について(1)種々の機能電極の開発によって、ミオグロビン、ヘモグロビン、チトクロムc、フェレドキシンなどの電極上での直接電子移動制御が可能となった。(2)ミオグロビンについては、酸化インジューム電極を用いて、不均一電子移動速度定数と電極表面の親水性の関係を定量的に評価し、金属タンパク質の電子移動制御のための界面機能を一般化した概念を提唱した。また、種々の起源のミオグロビンの電子移動と配位子置換による電子移動反応の影響を明らかにした。さらに、マンガン再構成ミオグロビンやモノアザ及びジアザヘミン置換ミオグロビンを作製してヘム鉄の軸配位子の酸化還元電位および不均一電子移動速度定数への影響を明らかにした。(3)チトクロムcのための機能修飾電極について、フレームアニールクエンチ法で作製した金単結晶電極上にチオール系機能化分子を修飾した電極を作製して、その界面機能を電気化学法、分光学、走査プローブ顕微鏡などを用いて詳細に明らかにした。また、機能化分子の微細な構造の相違が金属タンパク質の電子移動促進効果に大きく反映することを明確にした。(4)フェレドキシンのアミノ酸改変体を作製し、そのレドックス電位や酵素反応速度への影響の定量的な解析から、フェレドキシンの機能をアミノ酸残基レベルで酸化還元電位の制御部位と酵素分子との結合部位などに明確に区別されていることを明らかにした。2.金属タンパク質の構造変化のダイナミクス測定について(1)円二色性(CD)分光電気化学法について、電子移動過程の速度論的な情報を得るストップトフローCD測定のための装置の開発・高度化によって、高機能測定装置を組み立てた。(2)本装置を用いて電子移動過程で金属タンパク質構造のin situ時間分解測定を行い、チトクロムc、フェレドキシンいずれも電子移動に伴う構造変化が多段階的に生じることを明らかにした。(3)電気化学法及び新しいCD分光電気化学法などを用いて電子移動過程に伴うチトクロムc、ミオグロビン及びフェレドキシンの電子移動速度及び電子移動に伴う全体的かつ局部的な構造変化のダイナミクスに関する新しい知見を得た。(4)フェレドキシンの電気化学挙動の温度依存性から、ボルタモグラムのディジタルシミュレーション法による解析を用いてその反応機構に微細な構造変化が存在することを明らかにした。3.フェレドキシンの電子移動制御と光合成モデル生体機能化学反応への応用について(1)フェレドキシンの電極反応を、フェレドキシン-NADP^+-リダクターゼ(FNR)系と共役させ、さらにNADPHを補酵素とする酵素と共役させて、立体選択的精密化学合成へと展開した。具体例として、ピルビン酸からLーリンゴ酸が、さらに、オキソグルタル酸からL-グルタミン酸が得られることを示した。(2)電気化学測定から酵素反応の速度論的解析と反応機構の解明のためのディジタルシミュレーション手法を開発した。4.半人工改変金属タンパク質のユニークな機能発現の分子構造的解明(1)ミオグロビンを用いて、その活性中心を人工分子で置換した半人工再構成分子を作製し、その特性を電気化学的に明らかにした。特に、ヘム鉄の配位子であるヘミンの構造やヘム鉄周りの分子内環境が酸化還元電位やミオグロビンの機能の発現に重要であることが示された。(2)フェレドキシンのアミノ酸変異分子の酸化還元電位の大きな変化は、主に、特定のアミノ酸残基への置換によって生じる鉄-イオウクラスターの歪みによって生じる可能性が、コンピューター分子構造モデル計算による立体構造表示から示唆された。
著者
川合 知二 金井 真樹 田畑 仁 松本 卓也 SZABO Gabor LIBER Charle LIEBER Charl
出版者
大阪大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

レーザーアブレーション法は、誘電体、超伝導体など様々な種類の無機積層薄膜が形成でき、有力な機能性無機材料作成法である。レーザーアブレーション法をさらに発展させ、原子分子層制御無機機能性人工格子などの設計、合成に応用していくには、アブレーションのメカニズムを明らかにすることと同時に、レーザーアブレーション特有の特徴を薄膜形成に生かして新しい人工物質を実際に創成していくことが重要である。この様な背景のもとに、無機物質化学、表面界面化学で世界的に活躍しているハーバード大学Prof.Lieberグループと短パルスレーザーの科学で活躍しているハンガリー・ジェイト大学Prof.Szaboグループと川合グループが共同で「レーザーアブレーション薄膜形成のメカニズム解明と人工格子への応用の調査研究」を行った。平成6年度は、主に金属酸化物、特に強誘電体(BaTiO_3,SrTiO_3)と超電導体(Bi_2Sr_2CaCu_2O_8系)を中心にしてレーザーアブレーションのメカニズムと薄膜形成の決定要因の解明について調査研究を行った。既存のエキシマレーザーを用いて、上記物質群のアブレーションメカニズムを調べた。放出粒子の光強度依存性、及び、アブレートされた部分の微視的モルフォロジーなどからアブレーションが、主に光化学的プロセスであり、しかも内殻最高準位電子の多光子励起によって起こることが明らかになった。このメカニズムは、2つのレーザーパルスを遅延させてアブレーションさせる実験によって確認できた。アブレーションによって生成した粒子のエネルギーと薄膜表面と構造との相関を解析し、より良質の薄膜の形成要因を明らかにした。平成7年度は、レーザーアブレーションによる人工格子形成に調査研究の中心をおいた。BaTiO_3,SrTiO_3,Bi_2Sr_2CaCu_2O_8など異なったターゲットを用いて、格子定数の異なる層を積層し、強誘電体及び超伝導体の歪格子を形成した。強誘電性人工格子系では、最も誘電率の大きなBaTiO_3を基本層とし、これより格子定数の小さなSrTiO_3,CaTiO_3の層で挟んだ人工格子を作り、C軸を引き延ばすことにより、さらに大きな誘電率をもつ新物質(歪み誘電体人工格子)を形成した。又、PbTiO_3を基本層とする系でも、同様な歪みを加えることにより、分極の大きな新物質を系統的に形成して、物質の構造と特性との相関を明らかにできた。超伝導人工格子系では、Ba系超伝導体の異種元素の導入とCuO_2層数の調節を主に行った。CuO_2層数をレーザーアブレーションの原子分子層積み上げでコントロールし、その層数と超伝導転移温度との関係を調べた。その結果、金を導入した人工格子を作成できたこと、及び、その系でCuO_22層の系が安定であることを見出した。これらの無機機能性薄膜材料の設計、合成について、前年度に調査したアブレーション放出粒子のサイズ、エネルギーと各原子層分子層形成の温度、表面の平坦性の関連を調べ、高機能酸化物人工格子の形成条件を明らかにすることができた。当初計画した研究目的と研究計画については、大方計画通りに進むことができた。レーザーアブレーションのメカニズムが内殻電子の多光子過程を経ることなど重要な結果を得た。本研究の成果は、論文にまとめて公表する他、米国、及び、日本の物理学会、応用物理学会で発表した。特に、1995年度は、国内だけでなく、米国の物理学会に行き共同研究の成果を発表した。
著者
岩坂 泰信 飯田 孝夫 NELLBER R. 藤原 玄夫 SHOW G. 李 敏熈 金 潤信 よん 知本 石 広玉 長田 和雄 林 政彦 松永 捷司 柴田 隆 GONG Shiben 李 敏煕 こん 知本
出版者
名古屋大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

粒子状の硫黄酸化物あるいは窒素酸化物のグローバルな循環は地球環境の変動過程とさまざまなつながりをもっている。火山性の硫酸エアロゾルの極地域への拡散が極成層圏のオゾン消失にあたえる影響などはその代表的なものでる。中緯度地域に発生の起源を持つ物質が北極圏へ輸送される過程、およびそれが全球規模の物質循環にしめる役割を明らかにすることを主たる目的とし、本年度は以下のような観測研究を行なった。中国、韓国、日本、およびアラスカ(アメリカ)で、黄砂(対流圏)や火山灰(成層圏)、あるいは硫黄酸化物や窒素酸化物からなるエアロゾルの高度分布やその時間変化を図ること目的として;アラスカでは成層圏エアロゾルの濃度変動を知るためのライダー観測をフェアバンクス郊外で平成6年から7年にかけての冬期および7年から平成8年にかけての冬期に行なった。これらの研究からは、アラスカ地域においてある期間は北極圏の典型的な様相を示すがある期間は名古屋地方とほとんど同様なエアロゾル分布をしめすなど、きわめて変化の幅が大きいことがわかった。また自由対流圏においては頻繁に中緯度地帯からエアロゾルをはじめとする大気物流が運ばれていることを示している。また一方では、極成層圏の物質が圏界面下から中緯度へ流失したことによると考えられる現象も見いだされている。同時に、この地域において多点試料採集を計画するための予備調査も実施した。生成7年度に行なった観測結果を、ノルウェーで実施されている成層圏観測の結果と比較した結果極渦周辺で極起源の成層圏物質の分布が著しく極渦の動きに左右されていることがわかった。この問題についてはすでに成果報告がなされつつある。中国では、平成6年度の夏期間に北京市郊外において大型気球による対流圏成層圏の観測をおこなった。これらの観測は、この地域において土壌起源物質の活発な自由対流圏への供給が示唆される結果が得られており、東アジアから西太平洋域における大きな大気化学物質の供給源であることを示唆している。またこのような大気の運動に連動して生じていると考えられる成層圏起源のエアロゾル粒子、オゾンなどが成層圏から自由対流圏に流入している現象も見いだされている。これの結果の詳細は現時点では取り纒め途中であり、成果報告されているものはそく法的なものにすぎないが、今後機会をみて合同の国際シンポジュウムをもち成果を世に問う計画である。中国の研究者とのあいだでは、今回使用した放球場所とは異なる場所での気球実験が検討中である。韓国では、多点観測のための予備調査を実施し、関係機関を訪問すると同時に共同の試料採集計画を検討した。韓国での多点観測ネットワークと日本における観測ネットワークを結んだ、大気成分の長距離輸送観測計画を実施することになった。観測結果は、年度末に互いに交換し相互比較することとしている。また、今後の観測の発展には韓半島でのライダー観測が必要との認識を共通にもつことができた。このことに備えて、観測に適する場所の予備調査を行ない漢陽大学キャンパス内に設置場所を第1の候補地とした。中国大陸から偏西風によって運ばれ、韓半島上空を通過して日本へ飛来する大気と直接日本上空へ達する空気塊を比較すると、韓半島を通過したものには韓半島上空で地上起源の汚染大気と混合し変質したと考えられるものが観測された。
著者
徳永 正二郎 FRIEDEN Jeff 池間 誠 ANDERSON Kym NOORDIN Sopi EATON Jonath WONG John 大野 健一 中本 悟 PAULEY Louis 中尾 茂夫 DEKLE Robert 高坂 章 UNGER Daniel 花崎 正晴 FRANKEL Jeff ARIFF Mohame PAULY Louis LINCOLN Edwa KIM Chang So 楊 秀吉 桜井 真
出版者
九州大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

本研究では、(1)日本、アジアNIEs、ASEAN、中国へと連鎖したアジア経済のダイナミックな発展とそれに平行して現実性を持ちはじめた太平洋両岸の地域経済圈形成(「北米自由貿易協定」を軸としたアメリカ大陸自由貿易圈形成並びに「東アジア経済協議体(East Asia Economic Caucus)」にみられるアジア経済圏形成)の動きがみられるが、それら両者はどのような相関性および相互作用を持っているか、(2)アジア地域経済において日本・アジアNIEs、ASEAN、中国を中心に相互依存の関係が深化拡大しているが、そのプロセスでアジア諸国、日本、米国において経済・通商政策に変化がみられるかどうか、また発展の程度や立場を異にする諸国経済の経済・通商・投資・金融政策相互の間にいかなる軋轢や収歛(convergence)がみられるか、(3)アジア及び北米における地域主義の台頭が日米の政治・経済関係にどのような影響を及ぼし、日米関係がいかなる方向に変容しつつあるか、という設問の上で、調査研究を進めてきた。この作業は、アジア経済の成長と日米関係の変容という二つの(複眼的)分析視角のもとで、ポスト冷戦期の世界経済秩序を展望することを意図している。初年度(1993年度)には、アジアと北米の地域主義に焦点を当て、その問題を軸に(1)地域経済の発展とアジア太平洋地域経済秩序、(2)アジア太平洋経済における日本と米国、(3)アジア太平洋地域経済の発展-課題と展望という3つのセッションに分かれて調査研究した(九州大学にてワークショップを開催し、Asian Economic Dynamism and New Asia-Pacific Economic Orderとして刊行)。次年度(1994年度)には、東南アジアにおける実態調査を行い、ポスト冷戦期という政治的経済的世界システムの再編過程で発生している通商・金融・援助等多岐にわたる日米間の経済的摩擦がアジアの成長とどのように関係しているか、またアジアにおける地域主義の実態について分析した(タイ王国チュラロンコン大学経済学部及び国際経済研究所の協力で、本プロジェクトの共同研究者とチュラロンコン大学、タマサート大学その他研究機関の研究者とが一堂に会してワークショップを開催した)。本年度(1995年度)の研究テーマは、初年度と次年度の研究成果を踏まえて、「アジアにおける経済成長、社会経済的変容及び地域主義」を日米双方の立場から調査研究した。この調査には、アジア金融市場及びアジア域内資金フローの研究に業績をあげている奥田英信(一橋大学講師)、ベトナムやラオスなどインドシナ半島の社会経済問題のエキスパートであるモンテス(Manuel F.Montes;ハワイ東西センター研究員)、日本研究のエキスパートであるモリソン(Charles Morrison;ハワイ東西センター)、韓国の対外経済研究の第一人者であるリ-(Lee H.Chun;ハワイ大学韓国研究所所長)及び米国における日本研究の先導者モチヅキ(Michael M.Mochizuki;ブルッキングズ研究所主任研究員)を研究協力者として招き、ハワイ東西センターでワークショップを開催した。これは、角度を変えてみれば、アジア地域の社会経済的発展を日米関係を通して調査研究することであり、アジア太平洋の新しい経済秩序を構成する二つのファクター(すなわち、「アジアの成長・社会経済の変容・地域主義」という古いシステムを破壊するファクターと「日米基軸」という伝統的ファクター)の相関性と相互作用について認識を深めることにつながった。1994年度及び1995年度の研究成果は、初年度同様公刊の予定である。
著者
肥田 登 新見 治 HIRAOKA Mari MAIA Jose Gu 西田 眞 JOSE GUILHERME Maia
出版者
秋田大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

平成8年度の研究成果の概要については,リオ・ネグロ川の水位の年変化特性を中心に述べる。第1に,マナウス地点におけるリオ・ネグロ川の水位は,6〜7月頃に最高となり,10〜11月頃に最低となる。水位は11月頃から上昇に転じ,約8か月間を要してゆっくりと最高値に近づき,7月頃から約4か月間という短い期間の内で再び最低値にもどる。このように各年の水位は,主要因としては流域の雨季と乾季の降水量に反映されて,滑らかなサインカーブのように見える規則的な年変化をくり返す。この規則性は,20年平均のカーブで示すことによってより明瞭に見てとれる。第2に,年間を通しての最高水位の出現日は,1975年から1995年までの21年間の平均を算定した結果,6月22日となった。この間,最高水位の出現日の頻度は,10日間の間隔ごとに見ると次のようにほぼ正規分布を示す形で現れる。5月中:1回,6/01-6/10:3回,6/11-6/20:4回,6/21-6/30:8回,7/01-7/10:4回,7/11-7/20:1回。最高水位の出現日の最も早かったのは,5月20(1992年)であり,最も遅かったのは,7月16日(1986年)である。この間の開きは,約2か月である。なお,最高水位に達する日数は,多くの年の場合,2〜4日間程度は続くので,その間の第1日目を最高水位の出現日として採用した。第3に,年間を通しての最低水位の出現は,1975年から1995年までの21年間の平均を算定した結果,11月7日となった。この間,最低水位の出現日の頻度は,10日間の間隔ごとに見ると次のように現れる。10/01-10/10:1回,10/11-10/20:3回,10/21-10/31:5回,11/01-11/10:4回,11/11-11/20:2回,11/21-11/30:4回,12/01-12/10:1回,それ以降1回。最低水位の出現日の最も早かったのは,10月08日(1980年)であり,最も遅かったのは,暦年を越えた01月16日(1989年)であった。この間には,3か月余りの幅がある。最低水位の出現する期間の幅は,最高水位の出現する期間の幅よりも約1か月延びく。しかも,最低水位の出現日の頻度は,最高水位の出現日の頻度に比べてバラツイており正規分布を示す形ではない。上に示したとおり,最低水位が比較的多く現れる時期は,10月
著者
冨田 正彦 広田 純一 隅田 裕明 佐藤 嘉倫 結城 史隆 八木 宏典
出版者
宇都宮大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1989

低水準ながら高度な生態学的平衡が長期に亙って維持されていた地域生態系が、開発行為によって急変革を余儀なくされている典型例として南アジアの天水田地域の最近の潅漑開発地の村落を選び、その(1)域生態系の構造、特にその自然構造、生産構造および生活構造の相互関係構造(2)潅漑開発に伴う地域生態系構造の変化と、随伴する系要素間の不整合の発現状況(3)前項の不整合の解消過程などを、導入潅漑開発の仕様・機能と併せて調査し、地域生態系に発現した不整合の潅漑開発機能との関係づけを目的として昭和62年に第1次調査を実施した研究の第2次調査である。第1次調査は主として試・資料収集、ヒアリング等により(1)、(2)を実施したが、(3)不整合の解消過程については現象のトレ-スに依る他ないので、観察集落を設定し、現地研究者の協力のもとに経過記録を続けて本年の第2回調査に至ったものである。調査は現地での学際討論を重視して全員が行動を共にし、平成元年8月1日〜9月20日に実施された。調査地域はインドのタミルナドゥ州アランタンギ地区(エガプルマル-村)とネパ-ルのテライ地方チトワン地区(モハナ村)である。タミルナドゥ州調査は昭和62年が本調査で今年は補足調査のため実調査日程は10日間で、Grand Anicut Canal(GAC)の第11支線水路系を選んで行政的なGAC管理と地域農民の水管理との補完関係とその結果としての用水供給実態を把握するとともに、その受益農村のサンプルとして同支線20番スル-ス受益地のエガプエウマル-集落(Egaperumalur Eri)を選んでGAC受益区域に入る以前の50年前にさかのぼって現在までの集落の経済、社会構造の変化を調べた。用水管理実態調査の方法はおもに各関係行政部局からの資料、記録デ-タの収集と、システム各部位の操作・管理責任者からの現地でのヒヤリングによった。エガプルマル-集落調査は集落に保管されている記録類の収集・解続が主で、集落の古老と現在の役員農民の協力のもとの実施した。なお、これらの全てにはコインバト-ル農科大学(Sivanappann教授他)の調査協力を受けた。テライ平野調査は昭和62年度は予備調査的段階に留まっていて、今回が実質的な本調査であったため30日間の実調査日をかけて約600haの受益水田面積を対象として5年前に完成しているPancha
著者
秋山 進午 田 広金 高浜 秀 山本 忠尚 宮本 一夫 大貫 静夫 TIAN Guangjin 郭 治中 郭 素新 谷 豊信 岡村 秀典
出版者
大手前女子大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

〔研究成果概要〕我々は中国内蒙古文物考古研究所(代表:田広金)と共同して、内蒙古涼城県にある湖"岱海"において"遊牧騎馬民族文化の生成と発展過程の考古学的研究"を行った。"岱海"は内蒙古の南東部に位置し,万里の長城の北,僅か10Kmにある。いわゆる"内蒙古長城地帯"のただ中である。湖の南岸の丘陵上には仰韶文化遺跡,北岸には龍山文化とオルドス青銅器文化遺跡が並び,農耕文化と牧畜文化が入り交じる"農牧交錯地帯"である。我々はこの,研究テーマに対する絶好の地点を選び,中国で最初の"地域研究"を行った。[平成7年度]初年度には先ず仰韶文化後期の「王墓山上遺跡」の発掘調査を行い,住居址15基ほかの遺構と土器,石器,骨角器など多数の遺跡を発見した。調査によって,この原始聚落が層位的に2時期に分かれ,また,遺物の研究によって,第2期をさらに前・後に細分することが出来た。[平成8年度]二年目には石虎山I・II遺跡の発掘調査を行った。石虎山遺跡は仰韶文化前期の遺跡で,黄河流域の仰韶文化が北方へ拡大して,この地に初めて農耕をもたらした重要遺跡である。発掘調査によってII遺跡から14基の住居址や多数のピット,墓等を発掘し,後岡一期文化期の聚落の状況を初めて明確にした。II遺跡では聚落を巡る環濠とその中から多数の獣骨を発見し,当時の生活環境研究に貴重な資料を得た。[平成9年度]三年目には飲牛溝遺跡においてオルドス青銅器文化期の墓地を発掘し26基の土坑墓を発掘し,副葬品や犠牲畜骨を発見した。併せて龍山文化期の板城遺跡の考古測量調査と住居址2基を発掘した。以上のように,3か年の調査期間において,この地域における農耕の始まりから,その展開過程,続いて牧畜を主たる生業とするオルドス青銅器文化の牧畜民への交代の様相を追求することが出来た。発掘調査と平行して,東は遼寧省から西は寧夏回族自治区,甘粛省に到る万里の長城に沿って関係遺跡と遺物の調査を行い,研究資料の蓄積に務めた。
著者
和田 正広 米津 三郎 曹 瑞林 金 鳳徳 李 世成 鄒 煥壬 山下 睦男 市川 信愛 ZUO Han Ran LI Shi Chang CAO Rui Lin JIN Rang De 王 勇 夏 春玉 李 成起 清水 憲一 喜田 昭治郎 和田 正広
出版者
九州国際大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

本研究の目的は、近・現代及び近代以前の海域経済文化圏の交流史を解明すること、並びに北九州市と大連市の今後の発展への基礎的資料と展望を得ようとするものである。日・中両国の大学研究者は、平等・互恵の原則に立ち、ミクロ・マクロな分析方法によって、国際的・学際的(経済学・社会学・歴史学)に共同研究を行なった。両大学の研究協議会は、1991年度は3回(北九州2回、大連1回)、1992年度は3回(北九州1回、大連1回、北京1回)、1993年度は1回(北九州市)、それぞれ行なわれた。又、資料輯集は、初年度と中間年に日中双方で行なわれた。それに関連する成果としては、『日本未現存大連側輯集経済文化断片資料集』及び『東北地方文献聯合目録』(近・現代)の複刻、『門司新報(1883-1945)』の複刻〈継続中〉、『泰益号関門書簡の内容摘録ノート』の作成、蘇崇民『満鉄史』の翻訳(出版中、葦書房)、があげられる。両大学の研究会は、日本側は訪中の際、大連・北京において開催すると同時に、大連側の訪日の際や、国際シンポジウム実行委員会(1993年度、計12回)のなかで、研究スタッフ以外の講師も加えて行なわれた。研究会の一環として開催した国際シンポジウムは、11月25日(木)の専門家会議(北九州国際交流村)と、翌26日(金)の公開国際シンポジウム(北九州国際会議場:学・官・業界より計800余名参加)として行なわれた。前者の報告レジュメは、『東アジア海域と華商ネットワーク』(九州国際大学・国際商学部)として、後者の報告書は、現在編集中である。本年度の個別研究成果は、日本側では大学・研究所の紀要等に発表された。鄒煥壬の報告「歴史上の東アジア海域経済文化圏における中国の日本・朝鮮との経済貿易関係」は、漢・魏から明・清に至る中国朝貢体制下の日本・朝鮮との経済・貿易関係を概観したものである。李世成の報告「東アジア文化圏『四元構造』の形成と展開」は、中国唐時代を中心にみた東アジア文化圏を、儒家・漢字・仏教・芸術の各文化圏の四元構造として把え直したものである。和田正広の報告「福建税監高〓の海外私貿易」は、大航海時代のオランダによる台湾占領直前期における明末の中国沿海密貿易について検証したものである。市川信愛(戴一峰論文の校閲)の報告「近代中日海上貿易史研究および旧税関保存書類の利用について」は、中日海上貿易史研究に価値をもつ旧厦門税関に保存された税関文書の内容と利用方法についての紹介である。曹瑞林の報告「大連を東北アジア地域の商業・貿易・金融・観光・情報等の中心としてその背景、予測及び若干の留意点について」は、東北アジア地域の商業・貿易・金融・観光・情報等のセンター化が進む大連経済の現状と将来予測を概観したものである。山下睦男の報告「中国型求償取引による物資協力について」は、物資と物資の物々交換や、物資と資金・技術・人材などの生産要素間の協力を意味するところの、条件付き取引きであると同時に、見返りの取引きでもある特殊な中国的取引きである「物資協力」の歴史や現状を分析したものである。金鳳徳の報告「東アジアの新時代」は、冷戦体制崩壊後の東北アジア地域(中国・香港・台湾・蒙古・日本・韓国・北朝鮮・ロシア)における経済圏の現状について、それを新「雁行型」の形成過程として把えたものである。市川信愛の報告である「近代中国海域交易圏の変容構造と在日華商」は、当該テーマについての共同研究による個別成果の概括と、残された課題に言及したものである。
著者
和田 正平 吉田 憲司 小川 了 端 信行 A.B. イタンダーラ 阿久津 昌三 栗田 和明 江口 一久 小馬 徹 S B Pius A B Itandala
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1992

平成6年度は以下のような実績をあげることができた。1.カメルーン北西部州では、端が州都バメンダから離れたいくつかの村で調査を行ない、都市化、貨幣経済化の浸透のなかでの性による役割分担の変化を示した。男性のグループは、稲作農民組合を形成して水田耕作を拡大している。一方、伝統的な自給的農業の担い手であった女性もグループで土地を購入し、換金性の高い作物を栽培して貨幣経済に積極的にかかわっていく動きを見せている。男女それぞれが新しい社会経済的なニッチェを生み出している傾向が明らかになった。またカメルーン国北部で、フルベ族の女性の調査を行なった、フルベ社会ではイスラム教の影響で女性の社会的な立場は低いのとされ、仕事も禁じられている。しかし、実際には自活している女性も少なくなく、昔話の中にも女性の力を讚えているものもある。女性の生活を多面的に示し、実際の両性の関係を精密に記述する試みをした。2.セネガル国ダガ-ルで、小川は都市に住む人々の経済活動を調査した。インフォーマル・セクターでの女性の活躍が昨年度から指摘されていたが、全体像の記載の必要から男性も含めたインフォーマル経済従事者たちの活動状況を広く調査した。これらの経済活動と都市民の互助組織がセネガル国全体の経済、発展と密接な関連があることを示した。3.ザンビア国でチェワ社会とンゴニ社会での儀礼における性差に注目して、吉田が調査を行った。その結果、父系社会であるンゴニ社会から母系社会であるチェワ社会へ精霊信仰が導入され、その時点で信仰の主たる担い手が男性から女性へと変化したことがわかった。また、その信仰がチェワ社会の伝統的な儀礼組織の欠如を埋め、それを補完する形で浸透してきていることを示した。4.コートジボワール国ダブ郡で、茨木はアジュクル社会の女性の活動に注目した。最近の都市部での人口急増によってキャッサバを加工した食品、アチュケの需要が高まっている。アジュクルの女性はこの食品を加工生産する作業にふかく関わるようになり、その結果、農作業や日常の生活上の性別の分業に変化がみられるようになった。平成4年度から6年度にかけての本研究によって以下のような成果をあげることができた。1.本研究全体の主題は、女性、伝統と変化、に関わるものであったが、これは研究対象となったそれぞれの民族社会の理解をすすめる上で大きな意味をもつ問題であり、それぞれ有効な記述の観点を引き出すことができた。したがって、女性と変化を主題に研究する視点は、多くの社会にあてはまる普遍性をもち、これからの文化人類学研究の分野として重要であることが示唆される。2.特に変化を踏まえての記述は、多くの場面で有効であった。フェミニズム人類学やマルキズム文化論の影響下の人類学では十分に示すことができなかった、「現在起っている社会の変化に柔軟に対応して変化していく両性の役割」という研究視点を提供することができた。3.本研究にって提供された、女性の文化人類学に向けての研究視点として、具体的には以下のようなものを挙げることができる。それは、都市の中での女性の経済活動、都市と農村との関係で農村女性が果たす役割、農村女性の生活改善運動、他民族やキリスト教との接触による女性の役割の変化、両性の役割のノルムと実際、などである。とくに現在では国際的な経済活動、開発と援助の影響の下で大きな変化と対応を示している女性の諸活動に注目する研究視点が重要であると示唆された。
著者
安部 琢哉 KIRTIBUTR N SLAYTOR M KAMBHAMPATI S THORNE B BIGNELL D.E HOLT J 杉本 敦子 武田 博清 山村 則男 東 正彦 松本 忠夫 SLAYTOR Michael THOME Barbara L HOLT John A SLAYTOR M. KIRTIBUTR N. KAMBHAMPATI エス THORNE B. BIGNELL D.E. HOLT J. GRIMARDI D.
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

本研究は、熱帯陸上生態系で植物遺体の分解に大きな役割を果たしてシロアリが、地球規模で適応放散による多様化を遂げた道筋と機構を明らかにすることを目的とする。シロアリにおける(1)微生物との共生による植物遺体の利用、(2)社会性の発達、(3)食物貯蔵・加工の3過程に注目し、これらに系統進化(DNA解析による分子系統や形態や共生微生物に基づく系統進化)および生物地理に重ね、それに理論的な検討を加えた。特にシロアリの多様化の鍵を握る(1)下等シロアリから高等シロアリへの進化、(2)キノコを栽培するシロアリの起源、(3)社会性の進化と多様性について仮説を提出すると共に、(1)空中窒素固定とセルロース・ヘミセルロース分解、(2)土を食べるシロアリの適応放散、(3)シロアリが地球上でのメタン生成に果たす役割について質の高いデータの提出を目指した。(1)下等シロアリから高等シロアリへの進化中生代白亜紀の遺存森林であるオーストラリアのクイーンスランドの熱帯林とそれに隣接する、第三紀に発達したサバンナにおいてシロアリ種組成を比較した。その結果、前者では下等シロアリが、後者では高等シロアリが卓越していた。このことから、高等シロアリが森林でなくサバンナで進化して熱帯林とサバンナで適応放散を遂げたとの新しい仮説の提出しつつある。(2)キノコを栽培するシロアリの起源シロアリ主要グループの分子系統樹を作成して、キノコシロアリが高等シロアリの中で最も古い時代に分化し、下等シロアリのミゾガシラシロアリ科と近縁であることを明らかにすると共に、キノコシロアリ巣内のキノコ培養基とミゾガシラシロアリ科のイエシロアリの巣内構造物の化学組成を特にリグニン含量を比較することにより、シロアリにおける糞食とキノコ栽培の起源に迫りつつある。(3)シロアリにおける社会性の進化と多様性シロアリ地球規模での多様化を微生物との共生と社会性の進化に注目して検討し,これをT.Abe,S.A.Levin & M.Higashi編(1997):Biodiversity(Springer)中で展開した。(4)空中窒素固定、セルロース・ヘミセルロース分解材を食べるコウシュンシロアリでは体を構成する窒素の50%が空中窒素起源であること、しかし土を食べるシロアリでは空中窒素固定能が低いこと、また下等シロアリでも共生原生動物だけでなくシロアリ自身もセルロースやヘミセルロースを分解する酵素を作ることなど、これまでの常識をくつがえすデータを次々を提出した。(5)土を食べるシロアリの適応放散過程カメルーンの熱帯林で土壌食シロアリの安定同位体分析と腸内容物分析を行い、土食いへの指標として安定同位体比が有効であることを明らかにした。次いでオーストラリアでシロアリ亜科のシロアリの土食いへの進化過程を安定同位体分析、セルロースが分解酵素の活性分析、ミトコンドリアDNAを用いた系統解析から解明し、Termesグループで土食いへの進化が一回起こったことを示した。またTermesグループがアメーバと共生関係を持つことを明らかにした。(6)生態系におけるシロアリの役割シロアリの代表的なグループにおけるメタン生成のデータを実験室で集めると共に、タイの森林で野外調査を行った。シロアリが地球上でのメタン生成に果たす役割についての精度の高い答えを出しつつある。(7)「シロアリの多様化プロセス」ワークショップ世界中の関連分野の研究者を招き、シロアリ研究の現在までの成果をまとめた教科書を編集する目的で国際ワークショップを1997年3月に開催した。
著者
松本 紘 BOUGERET Jea ANDERSON Rog 小嶋 浩嗣 GURNETT Dona 村田 健史 笠原 禎也 八木谷 聡 臼井 英之 大村 善治 岡田 敏美 筒井 稔 橋本 弘蔵 長野 勇 木村 磐根 BOUGRET Jean-Louis ANDERSON Roger r. GURNETT D.A. BOUGERET J.L ANDERSON R.R
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

平成7年度には、GEOTAIL衛星は、地球から30Re付近の近地球軌道にあり、WIND衛星も主に、昼間側の太陽風の定常観測状態にあった。一方、同年度8月には、ロシアの衛星INTERBALLが、3月には、米国の衛星POLARが打ち上げられ、ISTP衛星による磁気圏の総合観測体制がほぼ整ったといえる。これらの衛星のうち、INTERBALL、POLAR衛星は、打ち上げ後、まもないということで、具体的な共同観測については、来年度に行われる予定であり、本年度は、主に、WIND衛星との共同観測を昨年度までのAKEBONO、Freja,ULYSSES衛星との共同観測に加えて重点的に行った。以下に、交付申請書の調査研究実施計画の項目に従って研究成果を列挙する。1.まず、惑星間衝撃波の観測でGEOTAILとWIND衛星で同時に観測を行った例において、WIND衛星で観測された磁場やプラズマの変化とそのGEOTAILでのある時間遅れでの観測、そしてそれに対応するプラズマ波動の強度の変化について解析を行った。その中には、衝撃波の到来とともにGEOTAILがバウショックを何度もよぎる現象がみられるものがあり、惑星間衝撃波の影響によりバウショックの位置が変化している様子を観測することができた。2.磁気圏昼間側のショック領域全面で発生しているといわれている2fpエミッションの観測をWIND、GEOTAIL両衛星を用いて行い、その発生時間や周波数変化の時間差から、その発生領域がやはりショック全面にあることが確認された。現在その位置的な偏りについても、より多くのデータを集めて解析を行っている。3.GEOTAILによって磁気圏内部で観測された「振幅変調をうけた電子プラズマ波」と同様な波形がWIND衛星によって太陽風中でも観測されていることがわかった。GEOTAILでの観測では、その波動の伝搬方向は外部磁場に対して平行、垂直の両者があることがわかっていたが、現在までのところWINDの方では平行伝搬のみがみつかっている。4.POLAR衛星の打ち上げに伴う共同観測体制を整えるための情報交換をアイオワ大学と行っている。5.POLAR衛星の打ち上げが遅れて本年度の3月になったため、具体的な共同観測は来年に執り行われることになる。6.本研究課題に関連して投稿された論文リストは、本報告書の研究発表欄に列挙する。以上が、交付申請書に書かれていた計画に対応する報告であるが、上述の他に、以下の項目についても共同研究を行った。1.極域で観測されるイオンサイクロトロン波とイオンコニックス分布との相関をAKEBONO衛星とFreja衛星の共同観測で明らかにした。2.極域で観測されるAKRの観測をGEOTAIL、WIND衛星で共同して行い、その観測が衛星の位置によってどのように変化してみられるかの評価をを行い、AKRの伝搬特性についての解析をおこなっている。3.太陽バースト伝搬をGEOTAIL、WIND衛星で同時に観測し、その強度を比較することにより、両者の受信機の較正を行った。
著者
若林 攻 河野 均 佐藤 幸治 BRASS Sussan NICOLAUS Bea BOGER Peter SUSSANE Bras BEATE Nicola PETER Boger BEATE Nicoau 小川 人士 BOGER Pecter
出版者
玉川大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

当該研究グループの既往研究によって得られている,“Peroxidizing除草剤の作用機構:クロロフィル生合成過程のProtoporphyrinogen-IX oxidase(Protox)阻害,Protoporphyrin-IXの蓄積,エタン発生を伴うチラコイド膜の破壊,光合成色素の減少"と言う,所謂Peroxidizing植物毒性作用を説明するために,当該研究グループ提案中であった“活性酸素が関与するラジカル反応によりチラコイド膜が破壊される"とする機構の構築と確認する検討を行いこれに成功した。次に,前記の帰結の発展応用研究に当たる「ポルフィリン代謝の制御」に関する検討を行い,植物の生長調節,藻類を利用した水素生産,活性酸素の制御による疾病治療等に応用が期待される基礎的データを得た。研究成果は以下((1)〜(5))に纏められる。(1) HPLC-lsoluminol化学発光を原理とする全自動脂質分析システムを用い,protox阻害剤処理後に生ずる過酸化脂質を測定し,活性酸素が関与するチラコイド膜破壊の機構を明らかにした。(2) 緑色植物細胞系を用いて,Protox阻害剤によるチラコイド膜破壊作用を緩和させる薬剤を見出す検討を行い,光合成電子伝達系阻害剤がチラコイド膜破壊作用を緩和させることを見出した。(3) クロロフィル生合成能を有する植物培養細胞(馴化Nicotiana glutinosa,Marchantia polymorphaその他)を用いた生理活性試験を行い,上記の[1],[2]を含むPeroxidizing植物毒性作用が緑色植物の葉緑体中で普遍的に起こることを確認し,Peroxidizing除草剤の作用機構を明らかにした。(4) 得られた生理活性データに関して定量的構造-活性相関解析を行い,光存在下で活性酸素を発生させチラコイド膜破壊を誘導する新しい強力なprotox阻害剤の分子設計と合成に成功した。(5) Peroxidizerと光合成電子伝達阻害剤が藻類の光合成明反応に及ぼす効果を確認し,その結果を藻類の水素生産制御に応用する可能性を見いだした。
著者
山崎 守一 NORMAN K.R. 宮尾 正大 逢坂 雄美 NORMAN K.R
出版者
仙台電波工業高等専門学校
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

本研究は、オックスフォードの「パーリ文献協会」(Pali Text Society=PTS)から刊行されている全パーリ文献の正順・逆順語彙索引の作成及びそのソフトウェアを開発することを目的としている。この研究目的を達成するため、韻文作品の代表として『ダンマパダ』(Dhammapada 423 詩節)を、また、散文作品として膨大な分量を持つ『ヴィナヤ』(Vinaya 全5巻・総ページ数1,588)を選び、パーソナルコンピュータを用いて、これらの完璧な正順と逆順の語彙索引を作成・完成させることを目指して遂行した。初年度は、ノーマン教授とヒニューバー教授により校訂・出版された『ダンマパダ』(PTS 1994)の語彙索引を作成した。ノーマン教授から、教授自身の作成によるパーリ語フォント(ノ-ミンフォント)を使用して入力された『ダンマパダ』を受け取り、われわれが作成したパーリ語フォントに書き換え、語彙(Word)の「正順索引」と「逆順索引」を作成した。さらに、これまでに開発したプラークリット語の詩脚索引作成プログラムを一部改良することによって、詩脚(Pada)の「正順索引」と「逆順索引」をも作成した。このことによって、韻文作品の語彙と詩脚の索引印作成するプログラムの妥当性が確認された。これら4種類の索引、すなわち語彙の「正順索引」と「逆順索引」、それに詩脚の「正順索引」と「逆順索引」は、いずれも写真製版出版が可能な索引であり、これらの索引を、「パーリ文献協会」に投稿した。そして、それらは同協会の評議委員会による査読を受け、1995年にIndexes to the Dhammapadaと題され、単行本として出版された。この書物は、世界中のパーリ文献学者及び仏教学者の研究に稗益することであろう。次に、オルデンベルクによって編纂された『ヴィナヤ』の研究にとりかかった。『ダンマパダ』と同様、語彙索引作成のためのノ-ミンフォントで打ち込まれたフロッピ-を、われわれのフォントに書き変えて解析処理をしたのであるが、このテキストには大量の省略文字があり、さらに明らかなミスプリントも多数存在しており、これらの問題点を解消することが先決事項となった。このため、逢坂の作成したプログラムを走らせることによって、まずプレリミナルな語彙索引を作成した。この出力結果をノーマン教授に送り、ノーマン教授がチェックしたものを、こちらのチェック結果と比較照合する。お互いにミスを見い出すことができなくなるまで何度もこのようなやり取りを繰り返し、コンピュータ上に正確なテキストを形成することを目指した。しかし、この作業が進むにつれて、PTS版『ヴィナヤ』の読みの訂正をどのようにするかの問題も起こり、ケンブリッジで直接討議することによってこの種の問題解決の基本方針を確認した。さらに、教授の来日中に、得られた結果を時間をかけて慎重に吟味し、パーリ語の語順(Word Order)プログラムの確認、同一語彙の異表記の取り扱い、研究者が最も使用しやすい形態にするためのレイアウト等についての共同討議を行った。また、これまでの一連の研究によって開発された、韻文用プログラムと散文用プログラムを使用して、膨大な量の全パーリ・テキストの完全な語彙索引と詩脚索引作成の実現に向けて、解決すべき問題点を建設的に討議した。このようにして、『ヴィナヤ』のテキスト・データベース構築上に横たわる種々の問題を解決し、省略文字の全文字化を行い、コンピュータ上に『ヴィナヤ』の完全なテキストを作成した。そして、このテキスト・データベースに基づいた語彙索引を作成し、独自に開発された語彙プログラムが3.5メガバイトもの大量な散文テキストでも処理できるプログラムであることを確認した。この語彙索引は、『ダンマパダ』と同様の手続きを踏み、「パーリ文献協会」からIndex to the Vinaya-Pitakaと題して出版され、コーン博士の辞書(New Pali-English Dictionary)編纂にも使用されており、その有用性が実証されている。現在、『ディーガ・ニカーヤ』(Digha-nikaya)の語彙索引作成に向けて、このテキストのテキスト・データベースを構築する作業に取りかかっている。
著者
山内 昌之 ERGENC Ozer KHALIKOV A.K GRAHAM Willi ERCAN Yavuz DUMONT Paul QUELQUEJAY C ALTSTADT Aud PAKSOY Hasan 福田 安志 内藤 正典 新井 政美 小松 久男 栗生沢 猛夫 坂本 勉 WILLIAM Grah PAUL Dumont CHANTAL Quel AUDREY Altst HASAN Paksoy
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1989

この共同研究が目指したものは、中東とソ連における都市とエスニシティの在り方を比較検討しながら、近現代の急速な都市化にともなう環境、人間と社会との関係、個人と集団の社会意識の変容を総合的、多角的に解明しようとするところにあった。当該地域におけるエスニシティの多様性と連続性を考慮するとき、これは、集団間の反目、矛盾が先鋭で具体的な形をとって現われてくる都市という生活の場においてエスニシティの問題を検討することであり、またエスニシティ、民族、宗教問題を媒介変数としてトランスナショナルな視角から都市の在り方と変容を検討することでもあった。本共同研究の参加者は以上の問題意識を踏まえ、まず第1に、タシケント、モスクワ等のソ連の都市と、イスタンブ-ル、テヘラン、カイロ、エルサレム等の中東の都市において現地調査を行なった。これらの諸都市での調査においては現地人研究者の協力を得た上で、都市問題の現状とエスニシティを異にする住民相互間の衝突、反目の具体的事例をつぶさに観察した。また現地調査と平行して、現地人研究者との間で意見の交換を行ない、当該地域での研究状況の把握、現地人研究者との交流に努め、さらに必要な資料の収集にも当たった。第2に、ソ連、中東世界での都市化にともなうエスニシティ、民族、宗教問題を分析した。モスクワ国家による都市カザンへの支配の実態を検証し、また経済開発によるソ連中央アジアでの居住条件の変化と、エスニシティ・グル-プの変容についての相関関係を検討した。さらにイスラエルにおいては、ソ連からのユダヤ人移民にともなうユダヤ都市の拡大・拡散による、アラブ人とユダヤ人の文化接触の問題を取り上げた。次いで都市を基盤とした民族主義イデオロギ-の形成・展開の側面についても検討を加えた。トルコにおけるトルコ民族主義の展開過程とその周辺トルコ系地域への影響を、歴史的事実を踏まえつつ分析した。同時にソ連中央アジアにおける非ロシア系民族の間での民族意識の形成過程を検証し、イスラ-ムや、アルメニア正教、ギリシャ正教の復興が民族的アイデンティティに及ぼす影響を検討した。またアゼルバイジャンでの文学活動が民族意識の形成に与えた影響を分析した。これらの事例研究によって、中東とソ連における都市問題とエスニシティをめぐる問題の相関関係を明らかにし、また都市化にともなう社会意識の変容を解明することに努めた。第3に、経済と都市間ネットワ-クの側面から都市のエスニシティの問題を検討した。アレッポの都市経済におけるアルメニア人、クルド人の役割を検討した。またドイツへのトルコ人労働移民の問題を取り上げ、出稼ぎ者、帰還者双方が引き起こす都市問題が、二地域の関係の中で明らかにされた。さらにイラン諸都市とイスタンブ-ルの間の絨毯交易に従事していたアゼルバイジャン人に注目しながら、当該地域におけるエスニシティと都市経済、都市間の関係を把握した。アラビア半島諸都市における通商活動も取り上げ、アラブ世界の都市間通商ネットワ-クにおけるインド人、ペルシャ人の役割を分析した。次いでイランや中央アジアからのメッカ巡礼を分析することを通し、宗教的側面からも都市間ネットワ-クの検討を行なった。これらの研究により、当該地域における経済と宗教を軸とする都市間ネットワ-クとエスニシティの連続性を明らかにすることに努めた。第4に、総合的、多角的研究の必要性から都市とエスニシティ問題の持つ普遍的な性格に着目し、研究交流の空間的幅を広げ、中東、ソ連の現地研究者はもちろんのこと欧米諸国の研究者との間でも共同研究や比較研究を行なった。さらにストラスブ-ルにおいて日本とフランスの研究者を中心に、ソ連と中東の民族問題に関する国際シンポジウムを開催するなど、これまでの研究成果に基づいた研究者相互間の交流を推進した。この共同研究は、湾岸危機やソ連邦の解体など当該地域をめるぐる急激な変動の渦中に実施されたにもかかわらず、比較の手法を用い都市という場におけるエスニシティの問題を解明し、都市の在り方と変容を明らかにする上で大きな成果をあげることができたと確信している。
著者
高谷 好一 マツラダ Mattulada 深沢 秀夫 田中 耕司 古川 久雄 前田 成文
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1989

本研究計画は、これまで実施した科学研究費による海外学術調査、「熱帯島嶼域における人の移動に関わる環境形成過程の研究」(昭和55ー59年度)および「マレ-型農耕文化の系譜ー内発的展開と外文明からの変容」(昭和61ー63年度)、の研究成果を統合・総括するために計画されたものである。上記の調査によって、東南アジア島嶼部、スリランカ、南インド、マダガスカルなどのインド洋をとりまく諸地域が古くからの東西交流・民族移動によって共通の農耕文化要素をもつことが明らかになってきた。本計画は、上記二つの調査をとりまとめ、東南アジア、インド、マダガスカルにわたる、いわば「環インド洋農耕文化」ともよべる、この地域に共通の農耕文化の性格を明らかにし、海域世界の人の移動と農耕文化展開との関係を総合的に解明しようとして計画された。研究計画は、若干の補足調査を必要とするスリランカ、南インドへの分担者1名の派遣と、これまでの国外の共同研究者を招へいしての研究集会の開催、および調査成果の刊行の準備作業からなる。まず、補足調査については、分担者田中が10月21日から11月12日の派遣期間のうち前半はスリランカ、後半は南インドに滞在して調査を行い、スリランカでは分担者のジャヤワルデナが調査に参加した。スリランカでは、南西部ウェットゾ-ンの水田稲作における水稲耕作法について精査し、とくにマレ-稲作と共通する水牛踏耕や湿田散播法の分布と作業の由来などについて聴取調査を行った。また、稲品種の類縁関係からマレ-稲作との関連をさぐるための資料として、在来稲の採集・収集を行った。南インドの調査は、タミ-ルナドゥ、ケララの2州を中心にスリランカと同様の調査を実施するとともに、インジ洋交易の中継点となったカリカット、ゴアなどの港市都市を観察した。国外の分担者マツラダおよびジャヤワルデナをそれぞれ約1週間招へいし、分担者との共同研究とりまとめの打ち合せを行うとともに、平成2年1月19日と20日の2日間にわたり研究集会を開催した。研究集会では、各分担者が以下の研究報告を行い、各報告の検討と共同研究成果のとりまとめについて協議された。高谷:環インド洋をめぐる自然環境と人の移動史前田:マダガスカルとマレ-の農耕儀礼古川:環インド洋におけるアフリカ農耕とマレ-農耕田中:環インド洋に共通する稲作技術とその分布深沢:マダガスカル、ツィミヘティ族の村落、農業と牧畜マツダラ:東南アジア島嶼部の漂海民バジョウとその生業ジャヤワルデナ:スリランカ・マレ-の移住、その歴史と現在調査成果の刊行については、上記の研究報告を各分担者の責任において関連の学術雑誌に報告することが研究集会で確認された。また、研究成果を単行本として出版することが計画され、その第一段階として分担者古川が東南アジア島嶼部の低湿地に関するモノグラフをとりまとめた。これは平成2年秋に出版の予定である。
著者
杉坂 政典 藤村 貞夫 中村 政俊 原 正佳 李 桂張 LEE Ju-jang
出版者
大分大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

本研究を実施するには、まず移動ビ-クルのハードウェアがすでに開発されていることが必要不可欠である。幸いにして、株式会社九電工との共同研究により500万円の研究費の提供を受け、移動ビ-クルのハードウェアの設計・試作を行った。その移動ビ-クルは、車体長150cm、車体幅60cm、車輪外側間長80cm、前輪中心から後輪中心間長110cmであり、車輪外径は26.1cmである。その移動ビ-クルは前輪がステッピングモータで駆動され、後輪がDCモータで駆動されるようになっている。また、前輪前方車体に底面から高さ40cmの高さにCCDビデオカメラが搭載されており、そのカメラの可動範囲は左右120度、上下60度であり、ステッピングモータ2個で駆動されている。車体には後輪駆動DCモータ、12V電池2個、DC/ACコンバータ、PC9821、DCモータドライバー、ステッピングモータドライバ3個が置かれている。前輪の可動角度は左右30度であり、後輪の駆動モータが一回転すると2.7cm移動する。CCDビデオカメラはカメラコントローラと共に画像取込ボードSuperCVIを経由してパソコンに接続されている。同様に、CCDビデオカメラの上下左右ステッピングモータと前輪、後輪駆動モータはそれぞれのモータドライバと共にI/OボードPIO-32/32(98K)を経由してパソコンに接続されている。パソコンへの電力は、バッテリ-から供給される直流をDC/ACインバータSI-500Aを介して交流に変換して供給されている。以上がハードウェアの概要である。本移動ビ-クルを屋内外で走行させるためには、種々の走行ソフトウェアの開発が必要である。CCDビデオカメラが一つのカラー画像を取り込む時間は1/60秒であり、車体前方の画像が取り込まれる。この画像データを処理することにより種々の自立走行が可能になる。屋内外での自立走行に必要なデータを得るためには以下のような技術を開発しなければならない。(1)走行フロアあるいは道路上の白線や黄線あるいはガードフェンスなどを抽出するソフトウェア(2)人工神経回路技術により、移動ビ-クル前面の対象物体を認識することができるソフトウェア(3)前輪のステアリング角度と後輪のスピードの両方を同時に制御するソフトウェア(4)移動ビ-クルが停止中、対象物体を追尾することができるソフトウェア(5)その他、種々の機能を持たせるためのソフトウェア本研究では黄線を抽出し、その黄線に沿って角度とスピードの両方をファジイ制御器を用いて制御し、ある一定時刻毎に車体前方に赤色の対象物を探し、もしその対象物があれば停止し、なければ黄線がなくなるところまで走行するプログラムを開発した。そのプログラムでは0.9秒のサンプリング間隔で制御を行っている。走行速度は0.5m/秒から1.8m/秒の間の速度で走行する。ファジイ制御器の入力としてカメラ中心から対象物体の重心のx方向、y方向の距離をとり、出力として前輪のステアリング角度及び後輪のスピードを考えた。全部で28個のファジイ制御則を考えた。CCDカメラは前方約1.2mの画像を取り込む。移動ビ-クルは20秒間走行してから赤色の対象物体を探し、もしあれば停止し、なければ走行する。本プログラムを用いて屋内及び屋外で走行停止実験を行った。その実験では良好な結果が得られた。現在この走行を滑らかに行うことができるようプログラムを修正している。一方、対象物体の認識に関しては、対象物体の形状のモーメント不変量を7個計算し、それを人工神経回路の入力として対象物体の種類を出力して人工神経回路で学習し、その人工神経回路を用いて対象物体が何であるかを判別するプログラムを開発している。このプログラムは加工食料品の等級判別に開発されたものであり、ハードウェアが移動ビ-クルのハードウェアと異なるため、このプログラムを無修正で用いることができない。したがって、移動ビ-クルのCCDカメラに適用できるように、すでに開発した対象物体識別プログラムを書き直す作業を、今後行う予定である。
著者
佐伯 聰夫 仲澤 眞 矢島 ますみ 鈴木 守 間宮 聰夫
出版者
筑波大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

競技スポーツ大会の開催には、地域経済への波及効果を含め、地域住民のアイデンティティやロイヤリティ醸成等の地域活性化に対する効果が期待されている。しかし、一次的な競技大会の開催では、その効果も一過的なものに過ぎない。そこで本研究は、継続的・定期的な開催によって地域社会における社会制度にまで発展した競技スポーツ大会が、当該地域のコミュニティ形成にどのような意味を持ち、どのような機能を果たしているかを競技大会と地域社会の関連分析から調査した。具体的には、それぞれの競技大会開催地域に赴き、大会運営機構、関連組織、地域行政、地域住民組織、一般市民、学識経験者等にインタビユー調査を、また、合わせて関連資料の収集と分析を行うことによって明らかにしようとした。平成8年度調査は、単一種目の競技大会では至高の権威を有するウインブルドン・ローンテニスチャンピオンシップスとオーガスタ・マスターズトーナメントを事例に調査した。平成9年度調査では、伝統や歴史を担う民族文化的性格を持つ競技大会として、中世サッカーを再興させているフィレンツェ・カルチョストリコとバスク・ルーラルスポーツを事例として調査した。平成10年度調査は、グローナリゼーションの中にある地域形成の問題を焦点にして、英国スカイ島のハイランドゲームズとドイツ・バイヤー04レーバークーゼンのブンデスリーガ・ホームゲームを事例に調査した。こうした調査で得られたデータ分析の結果、競技大会が地域社会における社会制度として発展し、豊かなコミュニティ形成の機能を発揮するためには、競技大会が当該地域住民のコミュニティ・アイデンティティやローカル・ロイヤリティのシンボルとなることが重要であり、そのシンボル化作用は、長い開催の歴史に支えられた競技大会の権威、伝統文化やエスニシティと関わる文化的固有性、そして住民の生活と密着しながら社会変化に対応する柔軟な運営システムが必要なことが分析された。
著者
武田 正倫 斉藤 寛 窪寺 恒己 松浦 啓一 町田 昌昭 A.AZIZ W.W.KASTORO M.KASIM Moosa 松隈 明彦
出版者
国立科学博物館
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1992

平成4年度においては、平成4年11〜12月および平成5年1〜2月にアンボン島において、現地研究者の協力を得て、魚類・棘皮動物、軟体動物、魚類寄生虫、甲殻類の調査を行った。各動物群とも、多数の標本を採集して国立科学博物館へ持ち帰った。平成5年度においてはロンボク島各地を主調査地とし、補助的にスラウェシ島メナドにおいても調査を行った。調査方法は前年度と同様で、磯採集やキューバダイビングによって採集を行った。したがって、調査は主として潮間帯から水深20〜30mに達する珊瑚礁域で行われたが、その他、砂あるいは砂泥地においても各種動物を調査、採集した。魚類はおよそ2000点の標本を得、また、棘皮動物の標本はヒトデとクモヒトデ類を主として千数百点に上るが、すでに同定が行われたアンボン島産のクモヒトデ類は9科25種であった。軟体動物はロンボク島において多板類14種、大型腹足類約170種、二枚貝類約60種が採集された。このうち多板類は12種が日本南西部に分布する種と同種か、極めて近縁な種であり、その中の2種は新種と考えられる。また、頭足類は3科5種に同定された。甲殻類の標本数はおよそ1000点に達するが、造礁サンゴと共生する種の多くは琉球列島にも分布するものである。分類と分布だけでなく、生態に関しても特に興味深いのは、ウミシダ類やナマコ類と共生するカニ類で、数種の新種が確認された。魚類寄生虫に関しては、市場で新鮮な魚類を購入し、鰓や消化管に寄生する単生虫・二生虫・条虫・線虫、鉤頭虫・甲殻類を取出し、圧平標本や液浸標本として固定保存した。多くのものは沖縄と共通すると思われるが、ボラやボウズコンニャクの食道や腸から得た旋尾線虫や二生虫類に新種が発見された。すでに論文として、あるいは口頭で発表したものもあるが、分類学的研究が終了したものから順次国立科学博物館研究報告、動物分類学会誌あるいはそれぞれの動物群を対象とした専門誌に報告する予定である。