著者
岩嵜 博論
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.76-84, 2024-01-10 (Released:2024-01-10)
参考文献数
15

サステナビリティへの取組みの中で,資源を使用した後も循環させ再び資源として活用する循環型経済であるサーキュラーエコノミー(CE)に注目が集まっている。本論では,いち早くCEを前提としたビジネスとマーケティングを確立したパタゴニアのケーススタディを行う。本論では,サービスデザインの領域で発展し,近年ではマーケティング研究の中でも参照されているカスタマージャーニーを用いて,カスタマージャーニーの中でも特に購入後ステージにおけるメンテナンス・修理,リユース,リファービッシュ,リサイクルに注目して分析を行う。パタゴニアは,顧客とのダイレクト接点を活用したマーケティング変革を行うと同時に,購入後ステージにおける使用後の製品に関わる顧客体験をCEに適応する形でデザインしたことがわかった。
著者
小野 雅琴
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.68-75, 2024-01-10 (Released:2024-01-10)
参考文献数
45

広告音楽は,広告の非言語的手掛かりとして,消費者の反応に影響を与える重要な広告構成要素である。広告研究の分野では,1980年代から,広告音楽に関する研究が盛んに行われてきた。本論は,これらの膨大で多様な広告音楽研究を整序するに際して,依拠している理論基盤に着目し,広告音楽研究を,3つのカテゴリー,すなわち,(1)古典的条件付け理論を援用した研究,(2)精緻化見込みモデルを援用した研究,および,(3)処理流暢性を援用した研究に分けてレビューする。そして,レビューの結果として浮上する今後の研究の方向性として,(A)インターネット広告の音楽の効果に関する研究や,(B)消費者個人の要因やマーケティング情報の要因など,様々な要因の適合による処理流暢性の向上,すなわち,無意識的な情報処理に焦点を合わせた研究が,求められるということを指摘する。
著者
小川 亮 小口 裕 千田 彩花
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.55-67, 2024-01-10 (Released:2024-01-10)
参考文献数
33

本稿では,生成AIが人の創造性にどのように貢献するかについて研究を行った。マーケティング,心理学,認知科学における創造性研究レビューを行い,創造プロセスを考察した上で,生成AIの仕組みとの類似性から仮説を構築した。生成AIの活用が創造性のプロセスに寄与する,生成AIが作成した情報を段階的に提示することが創造性に寄与する,専門知識が高い創造主体の方が生成AIを活用して創造性を発揮しやすいという3つの仮説を立て実験を行った。実験ではAIを活用して制作したデザインとAIを活用せずに制作したデザインをそれぞれ6案用意し,3名のパッケージデザイナーのエキスパートインタビュー,85名のパッケージデザイナーへの定量調査,200名のユーザー調査を行った。検証の結果,ユーザー調査からは生成AIによる創造性寄与が見られた。一方,85名のパッケージデザイナーへの調査からは段階的な情報提示による創造性への寄与は見られなかった。また同調査から,生成AIが経験年数の短いデザイナーの創造性を向上させること,また経験年数の長いデザイナーに対しては目的から距離のあるAI生成画像であっても創造性に寄与する点が確認できた。
著者
廣田 章光
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.44-54, 2024-01-10 (Released:2024-01-10)
参考文献数
26

人間と人工知能が連携しイノベーションを促進する枠組みが「ハイブリッド・インテリジェンス」(Dellermann et al., 2019; Piller et al., 2022)である。その実現にむけての要件を,対話の視点によって明らかにすることが本研究の目的である。ハイブリッド・インテリジェンスは枠組みの提示がなされているものの,共働の内部については十分な議論が進んでいない。ある領域で豊富な開発知識,経験を有する開発者をここでは「スペシャリスト」と呼ぶ。本研究はAIとスペシャリストが共働し製品を開発するプロセスを調査し,対話の枠組みによって考察をする。AI生成情報と開発者だけで思いついた情報が,一致する場合もあれば,思いつかなかったがAIによる生成情報によって新たな製品の開発につながる場合がある。一方で,開発者がAI生成情報を理解できないためその情報が開発に結びつかない場合も存在する。本研究ではAI生成情報の中でもスペシャリストが「意外な関係」と認識する情報が新らたな「関連づけ」を創造する「きっかけ」と「手がかり」を提供することを示す。
著者
深見 嘉明 福田 大年 中村 暁子 寺本 直城
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.6-18, 2024-01-10 (Released:2024-01-10)
参考文献数
10

本論文の目的は,コーヒー豆の焙煎の分野におけるDX(Digital Transformation)の一つの形であるスマートロースターがどのようにスペシャルティコーヒービジネスにおける製品の開発としてのコーポレートブランド構築に関与しているか,コーヒー焙煎プロファイルデータと焙煎士の相互作用に着目しながら,そのプロセスを解明することである。近年,スペシャルティコーヒーの市場が日本でも拡大するなかで,スマートロースターを導入する焙煎店や喫茶店も増えている。本稿では,日本のスペシャルティコーヒービジネスを支えるもう一つの大きな要素として,コーヒーの焙煎のDXの一つの形であるスマートロースターに着目し,それが製品のブランディング構築に関与するプロセスを解明する。そのために,日本国内におけるスペシャルティコーヒーの産業内での位置づけ(ポジショニング)について明らかにする。そのなかで事例研究からスマートロースターがスペシャルティコーヒーのブランディングにいかに関与し,焙煎士がどのような役割を担うのかについて考察する。
著者
牛山 佳幸
出版者
公益財団法人 史学会
雑誌
史学雑誌 (ISSN:00182478)
巻号頁・発行日
vol.91, no.1, pp.1-42,146-145, 1982-01-20 (Released:2017-11-29)

This is a study on Sogo System in mediaeval Japan, mainly focused on its functional change, of which little investigation has been done so far. Persuing this, I collected the documents issued by Sogo from the Enryaku period to the end of the Kamakura period, and carefully analysed their signatures. There were issued two types of documents by Sogo-Cho (牒) type and the other. Both of which were generally signed by the most of Sogo members in early days. As, however, they stopped to come to Sogo-sho (僧綱所) after arround the 9th century, the two Homu (法務) members were appointed to take the responsibility for the Buddhist administration. Since then, Sogo-sho became consisted of two Homu members and old Igishi (威儀師) and Jugishi (従儀師) Accordingly former Sogo members practically lost their importance in Sogo-sho. As several documents signed by two Homu members show, this system seems to have continued till the middle of the 12th century. During this period, however, Homu members were not always at Sogo-sho, so Igishi and Jugishi became called as Zaicho (在庁), and the superior of Igishi members was appointed as Sozaicho (惣在庁) to administer Sogo-sho as "Rusudokoro" (留守所). Under the control of Homu members, Sozaicho were involved in not only its traditional duties (such as presiding Buddhist services, and representing Sogo-sho) but also the general Buddhist administration, together with Kumon (公文), the head of Jugishi members. This is attested from documents issued by Sogo with signatures of both Sozaicho and Kumon together with Homu members after the middle of the 11th century. In the 12th century, Toji-Ichino-Choja (東寺一長者), one of Homu members, attained the real power of Homu, and all members of Sogo-sho were controled directly by Toji-Ichino-Choja. In this way the basic organization of the Buddist administration in mediaeval Japan seems to have been established.
著者
鎌田 敏郎 西田 孝弘 今本 啓一 宮里 心一 長田 光司 河合 慶有 網野 貴彦 大即 信明
出版者
公益社団法人 日本コンクリート工学会
雑誌
コンクリート工学 (ISSN:03871061)
巻号頁・発行日
vol.60, no.11, pp.987-992, 2022 (Released:2023-11-01)
参考文献数
2

(公社)日本コンクリート工学会では,「コンクリートのひび割れ調査,補修・補強指針-2013-」を,同指針2009の小改訂として刊行している。2009年の大改訂から13年が経過し,この間の新たな知見を加え,この度,「コンクリートのひび割れ調査,補修・補強指針 2022」を刊行した。この指針は,ひび割れに関心のあるすべての方が,ひび割れ発見から,調査,原因推定,評価,判定,補修・補強を体系化して行える指針である。本稿では同指針の内容を解説する。
著者
ホーンスティン ノバート 折田 奈甫 藤井 友比呂 小野 創 岡野原 大輔 瀧川 一学
出版者
岩波書店
雑誌
科学
巻号頁・発行日
vol.93, no.12, pp.1004-1014, 2023-12

[連載]人間の言語能力とは何か ― 生成文法からの問い 2
著者
畑 瑛之郎 金井 聖弥 本村 浩之
出版者
一般社団法人 日本魚類学会
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
pp.23-026, (Released:2024-01-10)
参考文献数
29

A single specimen (636.0 mm disc width) of the Pink Whipray Pateobatis fai (Jordan and Seale, 1906) (Dasyatidae) was collected off the south coast of the Satsuma Peninsula, Kagoshima Prefecture, Kyushu, Japan. Although the tail had been removed after capture, the specimen was subsequently identified based on disc morphology and molecular analysis. In Japanese waters, the species has previously been recorded only from Chichi Island (Ogasawara Islands), Okinawa Island (Okinawa Islands), and Iriomote Island (Yaeyama Islands), The present specimen, described here in detail, therefore representing the first record of P. fai from the Japanese mainland, and the northernmost record for the species.
著者
石田 雅美 薬袋 奈美子
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画報告集 (ISSN:24364460)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.133-138, 2021-06-08 (Released:2022-06-08)
参考文献数
43

近年、様々な災害が発生しており、災害発生時には都市公園は避難地、防災拠点等となることによって都市の安全性を向上させる効果を有している。今後の災害においても公園が担う役割は多く、災害後に公園を活用するための整備を行うことが重要である。そこで本論文では、災害後の一時的避難生活時に公園を活用するためにどのような具体的な計画が立てられているのか、東京都特別区の地域防災計画・都市計画マスタープラン、緑の基本計画を対象に整理を行った。その結果、水関連施設は多くの区で公園に整備している一方で、非常用便所やエネルギー・照明関連施設、備蓄倉庫は機能に合わせて公園だけでなく他の防災関連施設と分担していることが明らかとなった。
著者
阿部 光司 廣瀬 翔子 本田 隆文 安川 久美 武藤 順子 髙梨 潤一
出版者
東京女子医科大学学会
雑誌
東京女子医科大学雑誌 (ISSN:00409022)
巻号頁・発行日
vol.92, no.3, pp.110-115, 2022-06-25 (Released:2022-06-25)
参考文献数
12

An 18-month-old boy developed toxic shock syndrome (TSS) after a minor burn. He sustained a second-degree burn (superficial partial thickness) over 4-5% of the total body surface area on the right upper arm and lateral chest. Four days later, he developed a fever and was brought to the emergency room of our hospital. At presentation, he had tachycardia and peripheral coldness despite the fever. There were no signs of infection at the burn site, but diffuse erythema was observed on the left upper arm and lateral chest. He was admitted to the pediatric intensive care unit for suspected TSS and compensated shock. Gradually, his condition stabilized and he was transferred to the general ward on day 4 of hospitalization. On day 7, desquamation away from the wound was observed. Staphylococcus aureus positive for the TSS toxin-1 gene was detected in the wound culture on admission, and we diagnosed probable TSS. Based on the course and physical examination findings, the patient was treated for TSS and had a good outcome without developing hypotension or multiple organ failure. TSS progresses rapidly and can be fatal, so it is important to be aware of TSS when treating febrile children with burns.
著者
中島 淳 島谷 幸宏 厳島 怜 鬼倉 徳雄
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
河川技術論文集 (ISSN:24366714)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.449-454, 2010 (Released:2023-04-14)
参考文献数
18
被引用文献数
1

The restoration of river ecosystems is of worldwide interest. Although various techniques have been designed, an effective method for environmental evaluation is necessary. We report a new method for the evaluation of the riverine environment on the basis of simple fish ecological data. The 16 indexes studied were (1) native species, (2) alien species, (3) red list species, (4) genuine freshwater fish species, (5) amphidromous or brackish water fish species, (6) swimming species, (7) benthonic species, (8) flowing water species, (9) still water species, (10) permanent water species, (11) temporary water (flood plain) species, (12) spawning in vegetation area species, (13) spawning in muddy bottom species, (14) spawning in sandy-gravely bottom species, (15) spawning under rocks species, and (16) spawning in mussel species. The reference data is the maximum number of potential species . First, the fish fauna data of the evaluated point was obtained. Next, a radar chart was prepared with regard to the 16 indexes. Although this assessment method can be applied in the same ecoregion, it provided a good evaluation.
著者
今田 正俊
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.48, no.6, pp.437-446, 1993-06-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
61
被引用文献数
1

「量子モンテカルロ法」とは何だろうか?多体量子系に対する数値計算の手法はいろいろあるが,そのうち「量子モンテカルロ法」は経路積分に基礎を置くものの総称である.経路積分が典型的な非摂動論的手法であることは知られている.ところで,物性物理学の研究の動向に目を向けてみると,強く相関する電子系の諸問題が困難な,しかし根本的な課題として広く認識されている.やや誇張していえば,強相関電子系の長い研究の歴史にもかかわらず,はっきりしたことは何も解明されていないというわけである.世に言う「高温超伝導」(すなわち銅酸化物超伝導体)の問題がその典型である.強相関電子系にアタックするのに適した非摂動論的手法として,「量子モンテカルロ法」の開発と応用が最近進んできた.まず開発途上のこの手法の現状に目を向けるのがこの解説の目的の一つである.強相関電子系の示す典型的な現象にモット転移(金属-絶縁体転移)がある.金属が絶縁体に転移するとき,電子の有効質量が発散するのか,それともキャリアの数がゼロになるのかという異なる二つの考え方がある.この対立概念を源として,金属-絶縁体転移に関する量子モンテカルロ計算の結果はより広範で基本的な問題提起へとつながってゆく.この問題を「量子モンテカルロ法」の応用例として考えてみるのが本稿のもう一つの目的である.
著者
髙橋 公太
出版者
一般社団法人 日本臓器保存生物医学会
雑誌
Organ Biology (ISSN:13405152)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.90-106, 2022 (Released:2022-08-08)
参考文献数
36

In this 21st century, when science has advanced and democracy has permeated, there are untrustful natural and man-made disasters for us human beings. One of them is the pandemic of COVID-19, and the other is the invasion of Ukraine by force that does not have justice of Russia. What is common as a solution to these two events is that the International Organizations that control them have become ruins and their functions cannot be fully demonstrated.The period background is similar to the period before the outbreak of World War I and II. If the worst happens, it will be World War III, and if it becomes a nuclear war, humanity will be ruined. It is the wisdom of humanity that can solve these problems.This time, I would like to consider COVID-19, which affects about 500 million people worldwide as of April 2022, of which about 6 million people die.About two years have passed since the COVID-19 pandemic began. Exposed to the ideological conflict between democracy and tyranny, the globalization of large corporations beyond national frameworks, economic disparities, the structural complex problems of society and the wave of commercialization, COVID-19 pandemics that began with natural disasters are replacing man-made disasters.During this time, there has been little progress other than the development of vaccines. And its basic policy is no different from the extension of Albert Camus’s “La Peste” lockdown policy in 1947. Under such a passive policy, Japan’s economy will stall and be removed from the framework of the seven developed countries. In order to solve this problem, it is necessary to quickly switch to a simple active policy.
著者
梅田 康夫
出版者
Japan Legal History Association
雑誌
法制史研究 (ISSN:04412508)
巻号頁・発行日
vol.66, pp.1-37,en3, 2017-03-30 (Released:2023-01-13)

平安期において弘仁年間より保元の乱に至るまで、三百年以上にわたり正式な形で死刑が行なわれなかった。このことは古くから知られ、これまで各種の文献で取り上げられてきた。本稿ではまず前提となる問題として、死刑の廃止ではなく停止であること、そして停止の時期やその実態について確認した上で、そのような現象がもたらされた背景、原因について論じ、死刑停止の歴史的意義を究明せんとした。 これまで死刑停止の背景、原因については、様々なことが指摘されてきた。それらはいずれもその要因の一つであると考えられる。なかでもとりわけ怨霊の問題が最も重要視され、筆者自身もかつてそのように考えてきた。しかしながら、非業の死とは結びつかない犯行の明白な一般庶民による凶悪な犯罪についても死刑執行が宥恕される事例が存在することは、怨霊恐怖の点からだけでは十分に説明できない。また死刑が復活したことについてその理由等は従来あまり論じられず、それ以降も公家社会では死刑は基本的に忌避されていたとする見解さえ存在する。本稿では、死刑復活後は公家社会でも死刑が行なわれたということを前提として、死刑が復活した際における後白河天皇宣命案に関する分析等から穢の問題を最も重視し、この問題を穢を媒介として天皇と朝廷のあり方、王権の変容との関連から考察した。 保元の乱後に出された後白河天皇宣命案は、従来からも取り上げられてきた史料である。本稿では、乱の経緯とその後の処置について神前に報告するのが、死穢すなわち死の穢によって延滞したとある部分に特に注目した。死刑の執行によって、穢が重要な問題となっていたことがわかる。穢は九世紀半ば以降に制度化され、それは天皇が祭祀王として純化されていく過程と並行していた。天皇による死刑の裁可は死穢の忌避という点から次第に行なわれなくなり、また死刑の執行は觸穢による宮中・内裏への波及を防ぐ意味で回避されるようになった。 このようにして全く行なわれなくなった死刑が復活したのは、保元の乱という内乱の後であった。そこには単なる武家の台頭ということのみならず、朝廷と天皇をめぐる公家社会における大きな変化があった。祭祀王としての天皇の純化が完成した段階で院政という新たな政治形態が確立し、世俗王としての院=上皇が治天の君としての権力を行使することになった。そして、穢の観念が世俗化、希薄化し拡散していく中で、死刑への忌避感情もまたかつてのように厳格なものではなくなっていった。その結果、天皇の清浄性を保持しつつ、院=上皇による刑政への関与、死刑の裁可という途が開けていった。 死刑の停止は「薬子の変」、その復活は保元の乱という、いずれも上皇と天皇の対立、王権の分裂を契機に進行した。それは王権の変容過程の中で生起した、特殊な現象であったといえる。
著者
寺谷内 泰 五十嵐 豊 生天目 かおる 平野 瞳子 溝渕 大騎 中江 竜太 横堀 將司
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.202-206, 2022-12-28 (Released:2022-12-28)
参考文献数
7

抗melanoma differentiation-associated gene (MDA) 5抗体陽性皮膚筋炎は, 予後不良な急速進行性の間質性肺炎を高頻度に合併する。今回, 当施設で経験した2例を報告する。症例1 : 44歳, 男性。呼吸苦を自覚し救急要請した。検査の結果, 重症肺炎と診断し, 人工呼吸器および体外循環管理を開始した。その後, 抗体陽性の判定を受けステロイド, シクロホスファミドによる加療を行ったが, 救命には至らなかった。症例2 : 68歳, 女性。倦怠感を自覚して近医を受診し, 肺炎像があったため入院した。その後, 呼吸不全が増悪し人工呼吸器管理を開始した。抗体陽性の判定を受け, ステロイド, シクロホスファミド, タクロリムスによる加療を行ったが救命には至らなかった。重症呼吸不全で新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) を疑うような画像所見を呈する症例では本疾患も鑑別疾患としてあげられる。