著者
狩野 繁之 河津 信一郎 畑生 俊光
出版者
国立国際医療センター(研究所)
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

1.リアルタイムPCR法を用いたマラリア原虫ゲノム解析システムの構築(1)熱帯熱マラリア原虫(Pf)のクロロキン(CQ)耐性関連遺伝子pfcrt上の単塩基置換の定量的検出を試みた結果、サンプル中に混在する感受性型(FCR-3株)と耐性型(K1株)遺伝子の混合比に一致した定量値を、リアルタイムPCRの測定値から推定することができた。しかし、FCR-3株:K1株を8:2の比率で混合した場合では、in vitroではCQ感受性を示し、fcrt遺伝子のDirect SequenceではK1型が検出された。(2)FCR-3株とK1株を混合して低CQ濃度(〜80nM)下で培養すると、混合時のK1株の比率が低くても、やがてK1株が優勢になった。本成果は、定量リアルタイムPCR法の有用性を示し、薬剤耐性原虫の選択のメカニズムをin vitroの系で再現したといえる。2.海外調査研究で得られた分子疫学的知見(1)フィリピン・パラワン島のPf13検体の内6検体で、pfcrt耐性型と感受性型の両型の遺伝子が検出された。感受性型:耐性型の遺伝子量の比率(%)は8.7:91.3から44.5:55.5であった。患者血液中には、複数の原虫クローンが混合寄生していることが証明できた。また、タイ・ミャンマー国境での39分離株は、すべてK76Tの耐性型変異を有す一方、ベトナム南部の株では、CQ感受性型(K76)の頻度が69%と多く、CQ耐性型(K76T)の頻度が26%と少ない点が特徴的であった。(2)ベトナム株のPfCRTの72-76番目のアミノ酸配列を調べると、CVMNK(感受性型)が最も多かった。一方CQ耐性型では、CVIET、CVIDT、CVMDTの3種類が観察された。CVIETはタイK1株と同じであった。(3)ところが、pfcrt遺伝子近傍のマイクロサテライト(MS)DNAマーカー-3座位の解析を行ったところ、CVIETを示すベトナム株のMS DNAパターンは、タイK1株のそれとは異なっていた。本研究結果は、アジアの耐性株の起源はタイをその発祥として拡散していったという定説を一部覆すもので、原虫genotypeの疫学研究成果として新しい知見である。今後その証拠を固める新たな研究が必要である。
著者
三谷 幸之介 大林 富美 岸本 充弘
出版者
埼玉医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、ウイルスベクターを利用した相同組換えにより染色体遺伝子を修復する究極の遺伝子治療法の開発を目的とする。1、アデノウイルスベクターヘルパー依存型アデノウイルスベクター(HDAdV)によるヒト細胞での相同組換え効率を検討するため、正常ヒト繊維芽細胞においてHPRT遺伝子座を標的とし、細胞あたり10^<-5>から10^<-6>の頻度で遺伝子ノックアウトを達成した。また、相同組換えによってファンコニ貧血A群(FANCA)遺伝子変異を修復する頻度を測定するために、正常FANCA遺伝子座の一部をコードするHDAdVを作製し、患者由来B細胞株(BCL)に感染させた。しかし、相同組換えによるFANCA遺伝子の修復も、染色体上のランダムな位置へのベクターの組み込みも、いずれも検出できなかった。2、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターHDAdVと同様に、HPRTノックアウトベクターとFANCA修復ベクターを構築した。宿主域の異なる各種AAVベクターを調製し、正常BCLを感染させたところ、1 x 10^<-5> - 6 x 10^<-6>の頻度で染色体に組み込まれた。そのうち、AAV2とAAV8由来のベクターで、細胞当たり1 - 2 x 10^<-6>の頻度でHPRTノックアウトを達成したFANCA患者由来細胞BCLに対しても、3 x 10^<-5>の頻度でHPRTノックアウトを得た。ヒト造血細胞における遺伝子ノックアウトは初めての例である。さらに、FANCA修復ベクターを用いて遺伝子修復を試みたが、修復細胞は検出されなかった。3、相同組換えの促進と非相同組換えの抑制の試みマウスHprt相同領域をコードするプラスミドDNAをマウスES細胞へエレクトロポレーションし、UV damage endonuqleaseの強制発現またはPARP1阻害剤での細胞処理による相同組換えの促進と、DNA-PKcs阻害剤の細胞処埋による非相同組換えの抑制を検討したが、いずれの場合も顕著な効果は認められなかった。4、今後の展望HDAdVに関しては、long PCRで相同配列をクローニングした際にエラー(変異)が入って相同組換えを阻害した可能性があるので、BACから直接クローニングする方法でベクターを再構築し、実験を行う予定である。また、FANCA陽性細胞の検出法の精度を改善して、AAVを用いて再実験を行う。
著者
古川 鋼一 浦野 健 古川 圭子 田島 織絵
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

1.GM2/GD2合成酵素とGD3合成酵素のダブルKOマウスの検討の結果、神経変性、皮膚損傷、抗不安と記憶・学習脳の低下、知覚機能低下、アセチルコリンのムスカリン型受容体の反応性低下と、セロトニン受容体5-HT2の反応亢進を認め、酸性糖脂質が神経組織の維持に必須であることが示唆された。2.DKOマウスでの遺伝子発現プロフィールを検討し、DKOにおいて発現低下する遺伝子5種、亢進する遺伝子15種を同定した。特に補体・補体受容体遺伝子の発現亢進が認められ、補体制御分子のラフトでの機能不全、組織障害が補体系の活性化を招き変性増強に働くことが示唆された。3.舌下神経再生実験の結果、GM2/GD2合成酵素KOマウスでは、再性能が著明に低下した。舌下神経核において発現低下する遺伝子をLCMとRT-PCRにより解析し、BDNF、GDNFなどの発現低下が示された。asialo-系糖脂質の欠損にはGD3の代償機能が不十分なことが示された。4.lac-cer合成酵素であるβ4GalT-VI遺伝子KOを樹立したが、糖脂質に明らかな変化が見られず、lac-cer合成の多くはβ4-GalT-Vが担うことが示唆された。5.GM3合成酵素の欠損マウスは問題なく出生、成長し、asialo-系列糖脂質の代償作用が示唆された。6.Gb3/CD77合成酵素(α1,4-GalT)のKOマウスを用い、ベロ毒素に対する感受性が本酵素の発現に依っていることが確認された。以上、KOマウスに残存する糖脂質の代償的機能のカバー可能な範囲と、固有の機能が見えてきた。今後のテーマとして、1、単一遺伝子KOとダブルKOマウスの異常表現型の比較による特定糖脂質構造の意義の解明、2、糖脂質糖鎖の特異的ligandの同定と意義の解明、3、糖脂質がクラスター形成する膜ミクロドメインのin vivoにおける解明が重要である。
著者
岩田 祐輔
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

今年度は神経培養の安定化とイブプロフェンを代表とする非ステロイド系抗炎症剤(アセトアミノフェン,サリチル酸誘導体等)の脳神経培養による虚血性壊死障害モデル(NMDA刺激,Kainic acid刺激)に対するメカニズムの解明と投与量の適正化を判定,また無血清化誘導アポトーシスに対する効果判定.準備実験によりイブプロフェンに関してはNMDA刺激,Kainic acid刺激による虚血障害に対して直接脳神経細胞保護効果はないがグリア細胞を介して強力に脳保護作用があることを再度確認し,効果がある非ステロイド系抗炎症剤を選定する予定であった.グリア細胞培養生後1-3日のmouseの頭から清潔に脳を取り出し,髄膜を剥離しDulbecco's Modified Eagle's Medium : DMEM(SIGMA)内で,大脳皮質を分離する.poly-D-lisineにてcoatingしたplateでDMEM,10%FBS(GIBCO),10%HS(GIBCO)のmediumを使用して培養は順調であるが,脳神経細胞混合培養妊娠13-15日のswiss-webstar mouse胎児の頭より脳を取り出し,DMEM,5%FBS,5%HSのmediumを使用して用意したconfluentのグリア細胞培養に散布し培養するもの,ニューロン培養ニューロン培養はグリア細胞の含有量が5%未満である.poly-D-lisine, Laminin(Invitrogen)でcoatingしたplateに,同様のmediumを使用してニューロンのみを培養し,グルタミン酸刺激過剰試験等に使用する予定であったが,培養が不安定で実験に即した正確なデータが得られるレベルに到達できずにおり.引き続き細胞培養の安定化に努めている原因としてはFBS,HSが考えられ変更し,改善しつつある.
著者
早川 和男 山崎 寿一
出版者
神戸大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

本研究では、激甚災害の被害を受けた中山間地域の被災集落を対象に、被災後の高齢者の居住継続と転居、被災者の転出と帰還に焦点をあて、「居住福祉」実現のための条件について、石川県輪島市門前地区におけるフィールド調査を行った。また国際居住福祉会議においてこれまでの成果を論文にまとめ、研究発表を行った。具体的に、(1)居住福祉資源調査、集落コミュニティ・環境調査(被災前後の比較)、(2)震災復興における住宅や神社、農地、山林、公民館、集会所、公共施設の果たす役割、(3)被災後の居住動向、家族構造の把握、(4)高齢者居住調査(居住継続と転居の実態)、(5)被災者居住調査(転出と帰還状況の把握)の5項目について検討し、以下の諸点を明らかにした。1)高齢者の居住とコミュニティの持続を支えている居住福祉資源の存在と役割、2)災害を契機とする人口流出が起きなかった原因と被災者が帰還または地域に止まれた要因3)震災を契機に地域外に転出した人々の居住地選定理由、4)母村の住宅・土地財産の管理・活用の実態、母村コミュニティとの関係さらにこれまでの研究成果を再分析し、『日本の居住貧困』(藤原書店)を出版した。
著者
山本 博之
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

本研究課題は、災害被災地に関する新聞記事、写真、聞き取り調査などの多様な情報を地理情報を用いて1枚の地図上で迅速かつ簡便に表現する「災害地域情報プラットフォーム」を構築するための基本的な制度設計を行うものである。2009年9月の西スマトラ地震では日本の緊急救助チームなどが被災地入りしたが、現場では被害と救援活動の全体像が見えずに効果的な救援活動が行えなかったとの声が聞かれた。被災の現場に入ると情報収集しにくいことに加え、英語による情報収集では得られる情報量に限りがあることなどの背景がある。本研究課題が構築している災害地域情報プラットフォームは、現地語のオンライン情報を収集して地図上で示すことで、被害と救援の状況を把握しやすくするものである。本研究課題が構築するプロトタイプをもとに、情報の収集および翻訳の自動化を行うことで、より簡便かつ迅速に災害地域情報の収集が可能になる。今年度は、昨年度公開した2009年西スマトラ地震の災害地域情報を用いたプロトタイプをもとに、(1)西スマトラ州の県・市、郡、村の地理情報の一覧を作成し、(2)インドネシア語の日刊紙『コンパス』から「地震」「津波」「災害」の3つのキーワードで記事を自動収集する巡回検索システムを作成し、(3)記事中の地名をもとにその記事を地図上で表現するシステムを追加した。これにより、西スマトラ州に関しては、上記の3つのキーワードに関連する記事を自動収集し、地図上で表現することが可能になった。この災害地域情報プラットフォームは、さらに、(1)対象範囲を西スマトラ州から他の地域にも拡大する、(2)対象紙を『コンパス』以外にも拡大する、(3)検索キーワードを増やす、(4)記事内容の自動翻訳機能を加えるなどの処理により実用性がさらに高まるものとなる。
著者
笠原 忠 横田 恵理子 園田 よし子
出版者
共立薬科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

アボートシスに至るシグナル伝達機構の解析は細胞生物学の重要な課題であり,我々はこれまで単球と内皮細胞や腫瘍細胞と接着によるアボートシス誘導を見い出し,その関与分子を明らかにしてきた.また,酸化ストレスならびに抗がん剤によるアボートシスの誘導の際,接着斑キナーゼp125FAKがチロシンリン酸化され,この分子が抗アポートシス作用に重要な役割を持つことを示してきた.平成12年度は,(1)FAKの抗アポトシース経路には,Akt/PKB→NF-kB活性化→アポトーシス誘導阻止因子(IAP)ファミリー誘導の経路が関与することをヒト白血病細胞株HL-60,ならびにグリオーマ細胞株T98Gにおいて見い出した.さらに,(2)FAKの抗アボートシスにおける役割を明らかにするために,HL-60でFAK関漣遺伝子の過剰発現系を樹立を試みた.また,T98GではFAK遺伝子の安定導入株を得ると共に,アデノウイルスベクターを構築して,T98G細胞での高発現系を作成した.さらに,平成13年度は,(3)前年度の系を発展させ,FAK高発現系では酸化ストレスや抗がん剤によるアボートシスに高度耐性を示すことがわかり,そのアポトーシス耐性の機序を検討した.一方,Y397F変異FAK遺伝子を導入することにより,逆にアポトーシスを誘導することを見い出し,その機序の解析を行った.(4)酸化ストレスや抗がん剤,放射線によるアボートシス誘導時のカスパーゼファミリー(とくにカスパーゼ-1,3,6,8,9)の関与の解析を行った.このようなアポトーシス耐性機序の解析は,がん化学療法で問題となる薬剤耐性機構を明らかにする上でも極めて重要であると考える.なお,研究の成果の一部は,すでにJBC2000,BBRC2001,ARS2002などに発表または印刷中である.
著者
猪子 英俊 間野 修平
出版者
東海大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

生活習慣病をはじめとする多因子疾患の感受性遺伝子を同定する方法として30,000個のマイクロサテライトを用いたゲノムワイドな相関解析法と事後同祖性による集団を用いた連鎖解析法を開発し、30以上感受性遺伝子を同定した。これらの感受性遺伝子の創薬に向けての機能解析として、in silicoネットワーク解析と新酵母ツーハイブリッド法の開発を行った。
著者
森下 和広 谷脇 雅史 中畑 新吾 西片 一朗 中尾 和貴 山川 哲生
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

成人T細胞白血病(ATL)のゲノム解析を行い、多数のゲノム異常領域を同定し、白血病関連遺伝子として、TCF8(ZEB1)、NDRG2、TSLC1、BCL11B、EPC1/AXSL2融合遺伝子を同定した。それぞれの機能解析から、TGFbeta抵抗性、細胞接着性の亢進に伴う臓器浸潤、細胞増殖促進等、多彩な性状を同定できた。またTCF8(ZEB1)、NDRG2、TSLC1についてはそれぞれの遺伝子改変マウスがTリンパ腫を中心とした腫瘍発症がみられ、癌遺伝子、癌抑制遺伝子候補として証明できた。HTLV-1感染以降、これらのゲノム異常に依存した多段階発白血病発症機構の端緒が開かれ、新規診断法や治療法の開発につなげることが可能となった。
著者
角松 生史
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、「情報処理システムとしての行政」という観点からの都市法の現代的展開に関する分析を目指し、都市空間についての意味/情報の産出/処理過程の行政法的位置づけに重点を置いた。(1)「生成途上の規範意識」:論文「景観保護と司法判断」(矢作弘/小泉秀樹編『成長主義を超えて』所収)において、(i)「審美的判断の主観性」(ii)地域空間の意味の「物語性」などについて論じた。(2)「開かれた社会における財産権」:論文「建築紛争と土地利用規制の制度設計」では、地域空間形成に関する調整・分配ルール」を「権利配分」の動態的具体化過程と捉え、段階モデルによる考察を試みた。論文「まちづくり・環境訴訟における空間の位置づけ」では、「土地所有権=財貨秩序」と「人格秩序」の協働を捉える視点を強調した。財産権のイノベーション的役割を指摘するカール・ハインツ・ラデーア論文を翻訳公表した。(3)「都市空間管理の制度設計」:論文「景観保護と司法判断」および論文「建築紛争と土地利用規制の制度設計」において、利害関係者の情報構造の観点から現行土地利用規制制度を分析した。コース論文の読み直しの上に立って、「事前確定型規制」の過度の重視を批判し、「まちづくりアセスメント」「協議型まちづくり」の重要性を主張した。論文「条例制定の法的課題と政策法務」では、「規範抵触論」的思考枠組を前提として法律と条例の関係を再検討し、自治体の認知的・試行的先導性を活かした創造的まちづくりのための制度設計にも触れた。論文「まちづくり・環境訴訟における空間の位置づけ」「都市計画の司法統制」判例評釈「騒音問題と都市計画事業の適法性-小田急訴訟上告審本案判決」において、都市空間に関わる行政争訟の制度設計を検討した。(4)「都市空間における『公共性』」:このサブ・テーマを直接に論じた公表業績はなかったが、現在住民参加に関する論文を執筆中であり、研究を継続する(論文"Recent Development of Decentralization, Deregulation and Citizens' Participation in Japanese City Planning Law"において既に簡単に触れた)。
著者
吉田 克己 田村 善之 長谷川 晃 稗貫 俊文 村上 裕章 曽野 裕夫 松岡 久和 池田 清治 和田 俊憲 山下 龍一 亘理 格 瀬川 信久 秋山 靖浩 潮見 佳男 伊東 研祐
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

公正な競争秩序や良好な自然環境、都市環境を確保するためには、行政機関や市町村だけでなく、市民が能動的な役割を果たすことが重要である。要するに、公私協働が求められるのである。しかし、公私峻別論に立脚する現行の実定法パラダイムは、この要請に充分に応えていない。本研究においては、行政法や民法を始めとする実定法において、どのようにして従来の考え方を克服して新しいパラダイムを構築すべきかの道筋を示した。
著者
等々力 英美 鄭 奎城 大屋 祐輔 佐々木 敏 ウィルコックス クレイグ 鄭 奎城 大屋 祐輔 佐々木 敏 ウィルコックス クレイグ
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

沖縄野菜を主体とした沖縄型食事介入による無作為割付比較試験を行った。対象者は沖縄在住20-60歳代の女性、夫婦、米国人男女、横浜東京在住40-60歳代夫婦、合計700名であった。1)沖縄野菜を豊富に取り入れた伝統的沖縄型食事は、血圧予防に有効である可能性と、2)欧米型DASH食と異なる沖縄の伝統的食事が、同様の効果を示した。3)生活習慣病の予防や治療において、食事パターンへの介入が有効な戦略となりうる。
著者
平島 崇男 北村 雅夫 下林 典正 中村 大輔 大沢 信二 三宅 亮 小畑 正明 山本 順二
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

地下深部流体活動の実態解明を目指し、顕微ラマン分光分析器を導入し、流体包有物の同定システムを構築した。この機器を用いて、日本や海外の地下深部岩石中の流体包有物の研究を展開した。その結果、三波川変成岩中の石英脈から地下25km付近で岩石中にトラップされた地下深部初生流体を初めて見出すことに成功した(Nishimura et al., 2008)。また、Pseudosection法とモード測定から、塩基性変成岩において、ローソン石の出現・消滅に伴う含水量変化(Matsumoto & Hirajima, 2007)や、硅質変成岩中の含水量を明らかにした(Ubukawa et al., 2007)。
著者
大山 信義 林 美枝子 森 雅人 玉山 和夫 飯田 俊郎 西脇 裕之
出版者
札幌国際大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

1.〈持続可能な環境〉及び〈コミュニティの創発性〉の条件を探るため平成11年度に引き続き北海道釧路湿原(標茶町・鶴居村・浜中町)、山形県朝日町、宮崎県椎葉村の3地域の調査を実施し、環境保全における地域住民の活動、NPO活動、住民の自然信仰が重要な条件となっていることが明らかになった。2.アイヌ民族の居住地であった釧路湿原では、カムイ伝説や開拓農民のアニミズム信仰が自然環境を保全するうえで重要な意義をもつ。また、自然感性に基づくNPO組織と農民の自主的な活動による保護運動が湿原の生態系を保護する役割を果たしている。3.朝日町ではエコミュージアム建設運動によって地域の歴史的・文化的資源、自然資源の保護するまちづくりを行っている。この運動はナチュラリストの活動と並んでコミュニティが自己組織力を高めながらコミュニティの創発性効果を生み出している。4.椎葉村では過疎化による連帯基盤の弱体化が進んでいるが、山村社会における神木信仰、生活者の土地・環境に対する強いコミットメント(かかわり)が自然環境を守る上で重要な要素となっている。5.地域の環境負荷効果については主観的評価法が有効であり、釧路湿原塘路地区での事例では環境に対する高い価値評価をしている。地元の生活者と観光客とも自然に対する強い共感が価値評価につながっていることが分かった。6.地方のコミュニティは持続的環境を生み出すため生態系保護の要請に応えようとしており、その行動は社会学でいう〈創発的反省〉の精神に立脚しているといえる。
著者
松本 弘子
出版者
武蔵野大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

申請者はこれまで民生委員に対して、在宅精神障害者とどのようなかかわりをもっているのかについてインタビューを行ってきた。これらの結果から、地域で精神障害者に関わったことのある民生委員のうち、対応の困難を抱えていることがわかった。また多くの民生委員が対応に困ったときには役所の担当もしくは、保健師に支援してほしいと考えていることが明らかになった。そこで今年度は、民生委員から精神障害者の対応に関する相談を受けたことがある保健師4名に合計5回のインタビューを行い、民生委員と保健師のかかわりについて情報収集を行った。4名のうち、3名は民生委員とともに精神障害者に関する訪問等の支援を行ったことがあり、1名は民生委員から精神障害者に関する相談を受けたことはあるが、実際に訪問等の支援を行ったことはなかった。保健師がこれまでに民生委員から受けた相談内容としては、「いつもと様子が違うので訪問してほしい」「薬を飲んでいないと本人が言っていたけれど、どうすればよいか」「最近道で会ったときに太っていて心配なので、栄誉指導をしてほしい」等予防的な視点でかかわりを求めるものと、医療的なことに関する疑問等が多くみられた。保健師は自分たちを民生委員がうまく利用してくれるといいと願い、そのためには日ごろからのコミュニケーションや連携の必要があると感じていた。また1度かかわりをもった民生委員とは、見かけたときに声をかけたり、ケース以外のことでも積極的にかかわりをもつことによって、普段から連絡がしやすいような環境を整える努力をしていた。
著者
古郡 規雄
出版者
弘前大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

P糖タンパクは腸管、肝臓、腎臓および血液脳関門に存在し、汲みだしポンプとして作用する薬物輸送トランスポーターである。P糖タンパクをコードするMDR1遺伝子にはいくつかの多型が存在する。この多型が血液脳関門に発現するP糖タンパク機能を規定し、中枢神経薬の脳内濃度の個人差を導き出す可能性がある。そこで申請者は、定型抗精神病薬ブロムペリドールの臨床効果に及ぼす血液脳関門遺伝子MDR1多型の役割について検討した。本研究に対し文書での同意が得られた31例の急性期の未治療あるいは治療中断中の統合失調症患者であった。ブロムペリドール(6-18mg/day)による治療を3週間行い、毎週BPRSとUKU副作用スケールによる臨床評価および血漿薬物濃度測定用の採血を行った。MDR1遺伝子多型であるC3435TとG2677T/AをPCR-RFLP法で同定した。これらの両遺伝子多型、年齢、体重、性別および血漿薬物濃度を独立変数にそれぞれの臨床反応を従属変数に多変量解析を行ったところ、認知障害の改善スコア(β=0.673,p<0.01)においても改善率(β=0.464,p<0.05)においてもC3435T遺伝子型と有意な相関を認めた。副作用はいずれの変数とも差がなかった。今回の結果より、血液脳関門遺伝子MDR1の多型は抗精神病薬の薬効に関与する可能性が示された。今後、脳内薬物濃度を規定する因子を考慮に入れた検討をすることで薬効予測が容易になることが示され、将来の研究に大いに役立つ所見であると考えられた。