著者
佐々木 成人 岡 美恵子
出版者
(財)東京都医学研究機構
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1999

ネコをパネルに向かって立たせ、パネル中央に投射した光点を注視させた状態から、光点を視野周辺に向かってスッテプ状、ramp-hold状に移動させ追跡させた。移動刺激に対して、ネコはまず頭を60ー150msの潜時でゆっくり動かし、この時眼球はVORで逆方向に動き、視線は空間内で固定される。次にサッケドとそれに続く速い頭の運動が起り、視線はターゲットを捕らえる。移動刺激からスッテプ刺激に変えると指向運動の潜時の著明な延長と頭の運動速度の低下が起ることから、ステップと移動刺激により誘発される指向運動は異なることが分かり、前者を位置誘導型志向運動、後者を速度誘導型指向運動と呼ぶことにした。更に速度誘導型指向運動は光点の移動速度からその到達位置を予測して、光点が移動中に動き始め、視線と光点がほぼ同時にターゲットに到達する予測指向運動と、光点の速度と位置情報の両者を手がかりにして光点がターゲットに到達してから指向する速度・位置誘導型指向運動に別れた。両者は以下の点でも異なった。頭の速度の刺激速度依存性は予測指向運動では見られたが、速度・位置誘導型ではほとんどなかった。光点を移動中に短時間消すと、後者ではではターゲットに正確に到達できたが、前者はできなくなった。ステップ刺激では予測志向運動を行っていたネコは短潜時または長潜時の位置誘発型に移行したが、速度・位置誘導型指向運動からは長潜時の位置誘導型指向運動に移行した。脳幹網様体には、頸の指向運動と関係して2種類のニューロン、phasic sustained neuron(PSN)とphasic neuron(PN)、がある。PNは指向運動のサブタイプとはあまり関係せず発火したが、PSNは速度誘導型指向運動と良く一致した。この結果は上位中枢がPSNを選択的に制御することにより異なるサブタイプの指向運動を発現していることを示唆した。
著者
横山 敦郎 安田 元昭
出版者
北海道大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

本研究においては,歯根膜幹細胞の種々の細胞への分化に関する成長因子の同定および分化した細胞の遺伝子発現様式の差異を明らかにすることを目的に,以下の研究を行った.WKAウィスター系5週齢雄性ラットから,下顎切歯を抜去し,15%FBSおよび抗生剤を含むα-MEM中に静置し,2週後まで初代培養し,アウトグロースした細胞を歯根膜細胞として回収した.回収した細胞を,デキサメサゾン(Dex),アスコルビン酸(Asc),βグリセロフォスフェイト(βGP)を含む培地とこれらを含まないコントロールの培地の2種の培地で2週間培養し,骨関連タンパクであるオステオカルシンと歯根膜特有のタンパクであるXII型コラーゲンについてRT-PCRを行いmRNAの発現を検索した.XII型コラーゲンの発現は,コントロールとDexを含む培地の両者に同様に認められたが,オステオカルシンはDexを含む培地で著しく強く発現していた.この結果から,Dexで骨芽細胞に誘導される幹細胞が,採取された歯根膜細胞には含まれることが明らかとなった.この結果をもとに,Dexを含む培地,b-FGFを含む培地およびこれらを含まないコントロール培地の3種の培地で歯根膜細胞を3日培養した後,RNAを回収し,DNAマイクロチップで網羅的にmRNAの発現を解析した.その結果,mRNAの発現は,b-FGFを含む培地とコントロールの培地では,ほとんど差異が認められなかったが,Dexを含む培地とでは差異が認められた.この結果から,b-FGFは歯根膜幹細胞を分化させることなく増殖させ,またDexは,歯根膜幹細胞を骨芽細胞へ分化させることが示唆された.
著者
村上 弦 秦 史壯 佐藤 利夫 田口 圭介
出版者
札幌医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

1 腹腔神経叢周辺のリンパ管(平成12〜13年度)通常ホルマリン固定人体標本を用いて,1)腹腔神経叢と腸リンパ本幹の位置関係,および2)膵頭後部リンパ節(No.13)及び総肝動脈リンパ節(No.8)から大動脈リンパ節(No.16)へ注ぐリンパ管の経路,について検討を行った。また,新鮮胎児の胸腹部内臓の準連続切片を作成し,腹腔神経叢周囲のリンパ管及びリンパ節の局在を検討した。これらの結果から,膵頭十二指腸を外科的に左腹側へ授動する手技(コッヘル授動術)の視野において,腹腔神経叢より浅いこの領域の所属リンパ系の大部分を郭清できる可能性が示唆された。しかし,主流ではないものの腹腔神経叢と横隔膜脚の間を通るリンパ経路は存在しており,その経路の中継点であるNo.16a2の術中生検には大きな意義があると考えられた。2 子宮基靱帯内部を通る自律神経(平成14年度)15体の女性人体骨盤標本(65〜86歳)を用いて,子宮基靱帯内部を通る自律神経の走行を検討した。その結果,1)基靱帯は骨盤内臓神経を含んでいないこと,2)基靱帯の底部及び背側縁には明瞭な靱帯構造が存在すること,3)骨盤神経叢は基靱帯の血管成分からは分離していること,が明らかになった。この結果から,自律神経温存広汎子宮全摘出術において子宮傍組織の拡大切除を施行しうる可能性が示唆された。
著者
足立 大樹
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

Al-Zn-Mg合金にMnを過飽和に添加し、急冷凝固法を用いてアトマイズ粉末を作製し、773Kで脱ガス処理をすることによりサブミクロンオーダーのMn金属間化合物を高密度に分散させることが出来る。これを773Kで熱間押出することでMn金属間化合物の周囲に転位が高密度に導入される。通常の合金であれば不連続動的再結晶の一種である粒子促進核生成再結晶(PSN)が生じるが、今回はMn金属間化合物間の距離が非常に近いことからPSNは抑制され、連続動的再結晶が生じ、微細な等軸の動的再結晶粒が一部で生じた。動的再結晶率は30%強であり、未動的再結晶部分は押出方向に伸張していた。得られた押出しままの組織は押出方向、ED//<111>or<100>に強度に配向した押出し集合組織であったが、これを423Kという非常に低い温度で熱処理することにより未動的再結晶部分からも静的再結晶が生じ、全面に微細な結晶粒が得られた。非常に低温における変化であったため、静的連続再結晶の可能性が考えられたが、集合組織の変化を調べたところ、押出集合組織が緩和され、よりランダムに近い組織が得られていたため、低温熱処理中の静的再結晶は連続再結晶であることが分かった。ランダムな組織は押出効果が得られる押出集合組織よりも押出し方向の強度には劣るが、その他の方向に優れた当方的な組織である。以上のことから、動的再結晶組織に低温熱処理の条件を加えることにより、強度に一方向に配向した組織から、ランダムな組織まで、目的に応じて容易に制御することが可能であることが分かった。
著者
板倉 敦夫 水谷 栄彦
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

死産児、新生児死亡の病理解剖組織標本を神経病理学的、あるいは組織免疫学的に調べ、その児の臨床経過と対比させて、虚血-再還流による脳細胞障害の部位と程度について検討した。フリーラジカルによって産生される代表的な脂質過酸化物である4-hydroxy-2-noneal-protein(HNE)は、細胞内蛋白と結合し蛋白機能を障害することが明らかにされている。そこで死産児、新生児死亡の抗HNE-proteinおよびによる免疫組織染色を行い、発現を検討したところ、小脳、橋、海馬の神経細胞に発現が認められ、さらに脳虚血時に認められるpontosubicular neuron necrosisに陥っている細胞にその発現が強く認められた。またこの作用を生化学的に検討するために、胎児の血管内皮細胞を低酸素培養し、低酸素性脳障害の原因となりうる物質の変化を検討したところ、Angiotensin conuerting enzymeが、低酸素培養によって、血管内皮での産生が亢進していることが判明した。今後低酸素状態における血流調節におけるレニン-アンギオテンシン系の関与を検討する予定である。
著者
金折 賢二
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

核酸アプタマーとは、特異な高次構造をもつRNAやDNAオリゴマーのことであり、様々な機能を持つことが知られている。この核酸アプタマーの代表的な構造モチーフにテロメアDNAオリゴマーが形成する四重鎖構造がある。そのテロメアDNAオリゴマーが形成する四重鎖は、グアノシン(G)またはシチジン(C)残基に富んでおり、それぞれ、Gカルテット、i-motifと呼ばれる。本研究の目的は、このGカルテットやi-motifの構造と安定性を評価し、四重鎖を構造モチーフとする核酸アプタマーの分子設計指針を確立することであった。当該研究期間に得られた知見は以下の通りである。まず、核酸アプタマーへホスホロチオエート基を導入する研究をおこなった。HIVウィルスの増殖を抑制することが知られているCの連続した配列が形成するi-motif構造へホスホロチオエート基を導入し、その構造と安定性を円二色性分光法によって評価し、ホスホロチオエート基の立体異性によってi-motifの融解温度は変化することを見いだした。核磁気共鳴法で構造解析した結果、i-motifを形成するC残基の糖のコンフォメーションがall-Sp体の糖のコンフォメーションがC3'-endoから変化していることを見出し、Cアプタマーの構造と安定性の相関が得られた。また、テロメアーゼの標的配列であり、核酸アプタマーのリード配列であるd(TTTTGGGG)nを合成・精製し、相補鎖を含めたGカルテットの構造と安定性について核磁気共鳴分光法を用いて研究を進めた。その精密な構造について多次元NMR法を用いて解析した結果、従来のトポロジーとは異なるGカルテット構造が形成することを見出し、テロメアの構造と機能に関する重要な知見が得られた。
著者
岩坪 威 富田 泰輔
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究において、我々はプレセニリン(PS)を触媒サブユニットとするγセクレターゼ複合体の構成成分と形成機構の分子細胞生物学的研究を総合的に行った。γセクレターゼ複合体の必須構成因子としては、研究開始直前に蛋白化学的解析によりnicastrin(NCT)が見出され、2年度の平成14年、線虫を用いた遺伝学的スクリーニングによりAPH-1,PEN-2が同定された。しかしこれら3つのコファクター蛋白質の個々の機能は明らかでなかった。申請者らは主としてショウジョウバエ細胞を用い、RNAi法を駆使して、APH-1ならびにNCTがγセクレターゼ複合体の安定化、PEN-2が最終的な活性化を担うこと、ならびにPS, NCT, APH-1,PEN-2の4者がγセクレターゼの必須成分であることを示し(Takasugi et al. Nature 422:438-441,2003)、γセクレターゼの形成・作用機構解明の研究領域をリードする成果を挙げることができた。また有機合成化学者(福山透教授ら)との共同研究によりDAPTをプロトタイプとした低分子のγセクレターゼ阻害薬リード化合物の創製をも手がけた。特筆すべきこととして、非ステロイド系抗炎症薬sulindac sulfideがγ42切断を優位に阻害するγセクレターゼ阻害剤であることを実証した。これらの研究から、Aβ、特に凝集・蓄積性の高いAβ42分子種の生成機構が明らかになり、その産生を特異的に阻害することによりADの最初期過程を阻止・遅延させる予防・治療薬の開発が実現されるものと期待される。また発生・分化に重要なNotch,癌転移に関与するCD44などのI型膜蛋白に共通に生じる"膜内蛋白切断"の分子機構の解明につながる成果も得られた。
著者
高杉 展正
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

家族性アルツハイマー病(FAD)病因遺伝子presenilin(PS)の変異によりADが発症する機序として、アミロイドとして蓄積性の高いAβ42ペプチドの産生亢進が報告され、ADの根本的治療法の創薬ターゲットとして注目されている。PSの正常機能については不明な点が多いが、PSはβアミロイド前駆体蛋白(βAPP)や細胞分化に重要な役割を果たすNotch受容体の膜内配列切断を行う新規アスパルチルプロテアーゼγ-secretaseの活性サブユニットである可能性が示唆されている。これまでに我々は、断片化したPSは安定化され、高分子量複合体を形成すること、この複合体が活性型γ-secretaseの本態であることを明らかにしてきた。私はγ-secretaseの分子的実態を明らかにすることを目的として、分子遺伝学的解析法の確立されているショウジョウバエを実験系として用い、ショウジョウバエプレセニリン(Psn)の解析を行った。ショウジョウバエ由来シュナイダー(S2)細胞において内因性Psnは断片化、安定化を受け高分子量複合体を形成しており、S2細胞にβAPPのC末端断片(C100)を発現させるとAβが産生され、Psnがγ-secretaseとしての活性を持つことを明らかにした。一方マウス由来N2a細胞にPsnを発現させた場合にも、哺乳類PSと同様に安定化、高分子量複合体を形成し、γ-secretase活性を示した。これらの結果はPSの安定化、高分子量複合体形成機構が遺伝的に保存されており、S2細胞及びショウジョウバエPsnを用いた系がγ-secretase活性を評価するモデルとして有用であることを示している。現在このS2細胞を利用した実験系により、γ-セクレターゼの新たな構成因子候補として同定されたNicastrin、Aph-1、Pen-2について解析している。
著者
上江洲 由晃
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

(1)PSN・PT超格子多層膜の構造と誘電特性PLD法により世界で始めてPSNIPT超格子薄膜を作成することに成功した。構造はシングルステップのSrTiO3(STO)(001)基板の上に電極相として厚さ40nmのSrRuTiO3(SRO)を載せ、その上にPSN/PT超格子薄膜、さらにトップ電極としてAuを蒸着した。PSN/PT超格子は2種類を作成した。PSNx格子とPTy格子からなるN層の超格子膜を(PSNxPTy)Nと書くと、(PSN51PT39)10および(PSN20PT15)10である。これらの超格子膜の構造をX線回折法により詳細に調べたところX線超格子反射が明確に観測され、確かに超格子薄膜が作成されていることを確証した。これから超格子周期、相関距離を決定した。さらに室温で誘電測定を周波数10^2〜10^6Hzの範囲で行い、300〜350の実部誘電率を得た。(2)ペロブスカイト酸化物薄膜の電気パルス誘起抵抗スイッチング効果電気パルス誘起抵抗スイッチ効果が種々の遷移金属酸化物薄膜で普遍的に発現することを示しおり、個々の物質の電子構造には依存せず、結晶欠陥のような一般的な性質に起因することを突き止めた。
著者
足立 明 山本 太郎 内山田 康 加藤 剛 井上 昭洋 清水 和裕
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究の目的は、非西欧世界における「清潔さ」「衛生」「健康」「身体」概念の変容を、保健医療に関わる開発現象を中心に検討することであった。そのため、これまでの公衆衛生の社会史、文化史の成果を整理し、また各研究者の蓄積してきた諸社会の民族誌的・歴史的経験をもとにして、保健医療の導入と「清潔さ」「衛生」「健康」「身体」概念の変容に関する分析枠組みの検討・整理を行おうとしたのである。平成11年度は、西欧世界を中心とした保健医療の導入とその社会文化的影響に関する既存の文献を収集し、それらを分担して検討した。その主な内容は、上下水道の導入に関する社会文化的影響、保健医療の制度化と宗教の世俗化、保健医療の導入と疾病傾向の変容、キリスト教宣教師と「清潔」「衛生」概念であった。これにたいして、平成12年度は、各自の蓄積してきた諸社会の資料を整理した。その結果分かってきたことの一つは、20世紀初頭の植民地下で西欧の健康概念と西欧的核家族概念が結びつき、社会変容に寄与する可能性である。また、このようなテーマで研究する上で、新しい研究視角の議論も行い、人、モノ、言葉のネットワークをいかに把握するかという方法論的検討も行った。もっとも、現地調査を前提としていないこの研究では、資料的に限界があり、その意味で、本研究は今後の海外学術調査の予備的な作業という性格が強いものとなった。今後は、さらなる研究に向けた体制の立て直しを計る予定である。
著者
桜井 万里子 橋場 弦 師尾 晶子 長谷川 岳男 佐藤 昇 逸身 喜一郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

古代ギリシア世界、とりわけポリス市民共同体において、前古典期までに成立、発展してきた社会規範と公共性概念に関して、その歴史的発展の様相を明らかにするとともに、古典期におけるそれらのあり方、とりわけ公的領域と私的領域の関係性を、法や宗教など諸側面から浮かび上がらせた。
著者
宮川 成雄 須網 隆夫 浦川 道太郎 近江 幸治 高林 龍 高野 隆 椛嶋 裕之 宮下 次廣 宮澤 節生
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

法科大学院の臨床教育科目について全国調査を行い、リーガル・クリニックおよび模擬裁判科目について、その調査結果を公表した。欧米の臨床法学教育に関する研究大会に研究員を派遣し、また、日本に、アメリカ、イギリス、中国、および韓国の研究者を招聘してシンポジウムを開催し、各国の臨床教育の状況を把握するとともに、その概要を公表した。臨床方法論を用いる医学教育との比較研究をするために、医学教育者と法学教育者によるシンポジウムを開催し、医学と法学に共通する教育方法論の課題を検討した。継続的法曹教育への臨床教育の活用のあり方として、司法修習生に対する選択型実務修習プログラムを開発し、その実施の方法を検討した。
著者
足立 明 花田 昌宣 子島 進 平松 幸三 佐藤 寛 山本 太郎
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は、開発過程を総合的に記録・記述する民族誌的プロセス・ドキュメンテーションの可能性を検討するところにある。いうまでもなく、開発は、開発援助機関、プロジェクトマネージャー、受益者といった直接のアクターのみならず、それを取り巻く多様なアクターとの関わりで、紆余曲折しながら進行していく。それは「複雑系」といってよい過程である。本研究は、参加型開発での現地調査をとおして、開発過程を記録し記述する手法を学際的に検討し、開発研究者や開発実務者のみならず、開発の受益者にも利用可能となるような汎用的記録法の可能性をさぐることを目的としていた。平成14年度は方法論的としてのアクター・ネットワーク論を議論した。平成15年度、16年度は、すでに検討した方法論をふまえて、開発プロジェクトの参与観察を行った。なお、現段階で収集した資料の整理がすべて終わったわけではないが、これまでに判明した点は以下である。1.調査を始めて見た結果、この研究はきわめて「時間のかかる」仕事であるということを実感した。たとえ実験的なプロセス・ドキュメンテーションの調査であっても、数週間から1ヶ月程度の期間でできることはきわめて不十分で、博士課程の院生が全力で取り組むような規模の研究課題である。2.方法論的な検討の結果、アクター・ネットワーク論は有効であることが分かった。例えば、「参加型」というフレームの成立、安定化、揺らぎを、アクターを追うことで、参加型開発の「公的台本」と「隠された台本」を見いだしうる。3.しかし、アクター・ネットワーク論的方法論を、事後的に使ってプロセス・ドキュメンテーションを描くことは、異種混交なアクター間の微妙な相互作用を見落としがちであり、事後的な分析ではなく、「アクターを追う」ことで、このような調査を継続し、方法論的な検討を深める必要がある。
著者
李 廷秀 浅見 泰司 高木 廣文 下光 輝一 梅崎 昌裕 山内 太郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、国内で初めて客観的な物理的環境指標による居住地域環境が人々の身体活動行動に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。研究初年度の文献研究の結果、複数地域の複数集団を対象とすること、居住地域環境因子としては客観的、主観的な種々の因子についての検討が必要であること、身体活動については各種構成要素(移動・余暇・総身体活動)を包括的に網羅した検討が必要であることが明らかになった。身体活動に影響を及ぼす可能性のある居住地域環境の評価法としては、物理的環境をGIS(Geographic Information System)を用いた客観的な方法による実測で評価する方法と、住民の主観的認知指標調査法によって評価する方法を提案することができた。作成したGISデータベースによって、地域環境指標(世帯数、道路総延長、土地利用状況など)を対象者ごとに数値化することが可能であった。住民側の環境認知を評価する質問紙としてはAbbreviated Neighborhood Environment Walkability Scale(ANEWS)日本語版を作成し、国際比較も可能とした。住民の日常身体活動量は加速度計、歩数計等を用いた客観的な測定と、身体活動量調査票(International Physical Activity Questionnaire)による方法を用いて、その妥当性を検討した。文化的・社会的背景の異なる国内地域として、都心部1ヶ所、地方都市2ヶ所において、身体活動を推進する物理的環境要因について検討した。居住地域環境と身体活動との関連は、地域や性別による違いがみられた。住民の身体活動を推進する都市基盤整備には、地域の特性を活かした進め方が必要と考えられた。さらに、個人の行動パターンを時間、位置、身体活動レベルの3つの側面から関連づけて分析するために、小型GPS(汎地球測位システム)と加速度計を同時に装着し、GISとともに3つのデータを統合する方法を提案した。今後はこのシステムを利用することで都市の土地利用分類ごとの身体活動パターンの特徴を明らかにし、健康増進につながる都市空間創造の基礎データを蓄積することが可能になる。
著者
吉田 伊津美 杉原 隆 森 司朗
出版者
東京学芸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は、幼稚園における幼児の運動経験の内容およびその実態を明らかにし、運動指導の内容を運動能力との関連で検討することであった。43園を対象とした質問紙調査からは以下のことが明らかとなった。1.多くの幼稚園で子どもの健康・体力に対する意識を高くもっていた。2.約6割の園に体育専門の指導者がおり、保育者は運動を特別なものとして捉えその活動を専門の指導者にまかせる傾向がみられた。3.運動指導の内容は、体操やサッカーなどのスポーツなど特定の活動が中心であり、これらの活動は好きな遊びの時間などでは活発に行われておらず、指導時間限定の活動であることが示唆された。4.運動会は、半数の園は普段の遊びの延長として行なわれ、残りの半数の園では特別な出し物を披露する行事として行われており、保育時間にそのための練習が行われていた。一方、4園を対象に行なった保育場面の観察により以下のことが明らかとなった。1.一斉保育を中心としている園では、全体的に子どもの活動に対する選択の自由度が低く、動きのバリエーションも少ないという保育形態の違いによる子どもの運動経験の違いが示唆された。このことが運動能力の低いことと関連しているものと思われる。2.一斉活動における保育者の運動指導はどの子にも画一的に一様の指導が行われていた。3.運動能力の高低によらず幼児の活動の中には高い運動強度のものはほとんどみられなかった。このことから幼児期には高い運動強度の活動は必要なく、からだを多様に動かすことが運動発達に影響していることが示唆された。保育者は遊びの重要性を意識し、遊びを通しての教育を実践していく必要がある。また、活動を中心とするのではなく、子どもの経験を重視した保育内容を計画していくことが大切である。
著者
野上 智行 小川 正賢 稲垣 成哲 川上 昭吾 中山 迅 小川 義和 竹中 真希子
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

本研究では,『科学技術コミュニケーター』としての能力を備えた理科教師の育成を目指すために,大学・大学院と科学系博物館の連携を前提とした教師教育プログラムの開発と評価に取り組んできた。総括グループでは,科学系博物館との連携をベースとした『科学技術コミュニケーター』としての教師教育プログラムを開発するための基本的な諸要件,すなわち,プログラムの根幹となる目的・目標論,学習論,方法論,内容論,評価論について検討が行われた。5つの地域グループでは,各地域の科学系博物館等と連携して,教師教育プログラムの具体的な開発がなされた。主要な研究成果としては,愛知グループでは,愛知県内の博物館と連携したワークショップの企画・実施,博物館のハンズオン展示の調査,博物館を利用した国語教育と理科教育を結ぶための教師支援の実践的研究等が行われた。宮崎グループでは,宮崎県総合博物館との共同によって,火山灰に関する授業をべースとした中学理科教師のサイエンス・コミュニケータとしての力量を育成するための実践的研究が行われた。広島グループでは,広島市子ども文化科学館や広島市森林公園昆虫館における子ども向けの科学普及教室の分析や小学校と連携した授業開発をベースとした教師教育プログラムの試案が作成された。兵庫グループでは,携帯電話からアクセス可能なバーチャル博物館が構築されるとともに,その有効性が実験的に評価された。高知グループでは,高知県立牧野植物園などを対象にして教師教育プログラム開発のための可能性が検討された。特筆すべきこととして,本研究における一部の業績に対して,日本科学教育学会(JSSE)の論文賞(2007年8月),日本科学教育学会(JSSE)の年会発表賞(2006年8月)の2件が授与されていることを指摘できる。
著者
藤田 陸博 番匠 勲 橘 治国 長谷川 和義
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

本研究で対象としたゴルフ場は、1992年調査、1993〜1994年造成期、1995年完成となっている。したがって、本研究の期間内では必ずしも十分な現地測定が出来ない。本研究の内容を、次に示すように分類できる。(1)現地での測定ゴルフ場の造成がどのように水文環境に影響を及ぼすかを直接知るためには、現地での測定が極めて重要である。本研究では、水位計2台、雨量計2台、濁度計1台を5〜11月の期間にわたって現地に設置し、測定を続けてきた。また、月に1度の頻度で現地河川水を採水して水質の調査をしてきた。上述したようにゴルフ場はまだ造成中なので各種の測定値に基づいて明確な結論を出す段階ではないが、河川流出量が若干変化しているようである。(2)理論解析ゴルフ場の造成にともなう流出機構の変化を求めるのに、貯留量〜流出量の関係を検討した。測定値は必ず誤差を伴うので、変化の程度が誤差範囲内のものであるか否かを判断する必要がある。誤差範囲といっても明確な基準があるわけではなく、これまで個人の経験に基づいて判断されてきた。本研究では、流出モデルとして貯留関数法を採用して流出量の確率応答を求めることによって、推定された流出量の信頼限界を得ようとした。流出量の確率密度関数が必要となるが、流出量の1〜4次モーメントを求める理論式を新しく誘導した。また、実測降雨量を解析より、時間単位の小さな降雨量は指数分布で表されることが分かった。降雨量を独立な指数分布に従う不規則関数として、流出量の1〜4次モーメントを得た。得られ主な結果を以下に示す。1.流出量の2〜4次モーメントには、流出モデルのパラメータ、降雨量の2〜4次モーメントの他に降雨量の平均値が関係している。したがって、降雨量の規模ごとに資料を整理する必要がある。定常・非定常の降雨系列について検討した結果、流出量はガンマ分布で近似できることを理論的に明らかにした。
著者
ホーンズ シーラ 丹治 愛 丹治 陽子 アルヴィ 宮本なほ子 矢口 祐人 土田 映子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

2001年度-04年度までの科学研究費(基盤B「19世紀末英米文学における都市の表象に関する新歴史主義的研究」)の成果をもとに、英米におけるユートピアニズムに関するテクストと実践を研究することを目的とした.海外の研究者らと共同して、文化地理学、空間理論、マテリアル・カルチャーなどの知見を援用しながら、ユートピアニズムの表象を政治批評的に研究することで、この英米の思想史における重要な概念を、きわめて国際的・学際的な視座で考察することができた.