著者
吉野 悦雄 弦間 正彦
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究は,東欧10か国が2004年5月1日にEU(当時15か国)に加盟した時点から3年間の間に,市民(労働者)・消費者・農民の経済行動カルチャーにどのような変化が生じたかを研究することを目的としている。研究対象国は,上記10か国中で最大の経済規模を持つポーランドと,一人当たりGDPが最低水準であったリトアニアの2か国に限定した。研究領域は3分野から構成された。第一は,農民の意思決定メカニズムの変化である。土地所有面積の両極分解,作付け作物の選定に際しての利益追求志向への転換を調査した。第二は,消費者金融に対する消費者の意識転換である。マクロ的家計統計の観点と同時に,住宅ローンに限定したミクロ的行動の変化を調査した。第三は,西側への国外出稼ぎ労働である。私たちは,この三分野で,2004年以降,市民(労働者)・消費者・農民の経済行動カルチャーに大きな変化が生じると予想して,研究を開始したが,研究の結果は,この研究成果報告書が明らかにするように,予想をはるかに上回る劇的な変化が生じていたのである。農民は,EU経済での利益商品の生産に特化した。作物の種類と生産高は毎年,3倍増にも5割減にも激しく変化した。消費者は住宅ローンに走り,住宅建設バブルがポーランドでもリトアニアでも生じた。住宅ローン融資は,ほとんど毎年,倍々ゲームのように拡大した。労働者は失業者でなくとも西側に出稼ぎに行くようになった。とりわけ医師など高学歴者の国外出稼ぎが急増し,ポーランド国内では医師不足・熟練技術者不足という現象が深刻になった。以上の三つの研究領域は,我が国ではまったくの未開拓領域であり,多くの研究者に多少なりとも有意義な情報を提供することができたと考えている。
著者
佐々 恭二 山岸 宏光 福岡 浩 千木良 雅弘 丸井 英明
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

21世紀において地すべり危険度の軽減と人類の文化・自然遺産及びその他の脆弱な宝の保護の問題は重要性を増しており,そのための研究、調査の拡大・強化に向けた世界的な協力が緊要である.1999年12月,ユネスコ事務総長と京都大学防災研究所長の間で合意覚え書き「21世紀の最初の四半世紀における環境と持続できる開発のための鍵としての地すべり危険度軽減と文化・自然遺産保護のための研究の推進に関する協力」が交わされた.この合意を推進するため,以下の研究を実施した.1.岡山県高梁市の国史跡・備中松山城の変形し始めている基礎岩盤に差動トランス型伸縮計とクラック変位計を開発・設置し,岩盤変位の精密計測を開始した.2.ユネスコ世界遺産の中で最も著名で,大規模な岩盤崩壊の地形の真上に位置し,クラックや小崩壊などの危険な兆候を示しているペルーのマチュピチュ遺跡の調査と斜面変動の高精度計測のため簡易伸縮計を開発し,11月に現地に持ち込み設置した.3.日本学術会議において2001年1月15日〜19日にかけて,UNESCO/IGCP Symposium on Landslide Risk Mitigation and Protection of Cultural and Natural Heritageを開催し,19カ国,57名が参加し,研究発表・研究推進の打合わせを行った.国際的な地すべり研究の枠組み設立のための「2001年東京宣言:Geoscientists tame landslides」を採択した.佐々が報告したマチュピチュ遺跡の地すべり調査結果と伸縮計観測結果は英国BBC,米国CNN,ロイター通信社,読売新聞等で世界的に報じられ,地すべりの危機に晒される文化遺産に対する国際的な関心を高めることに寄与した.なお,同シンポで発表された論文の中で優れたものを編集しSpringer Verlagより単行本として出版予定である.
著者
手塚 太郎
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

昨年度に引き続き、ウェブからの包括的な地域情報抽出の枠組みの開発を進めている。ウェブ文書から抽出されたランドマーク情報をカーナビゲーションシステムの地図表示に利用する研究を進めた。認知的に顕著なランドマークの情報の抽出し、地理情報システム(GIS)の情報と結合させることによって、既存のGISが持たなかった新しい情報を付け加えている。さらに、近年、利用が拡大しているウェブ上のローカル情報検索インタフェースにおける地図表示にランドマーク情報を統合し、より見やすい地図の表示を実現した。本年度はウェブからのランドマーク情報の抽出手法を発展させた他、取得されたデータに基づく実用的なアプリケーションの実装を行った。また、これらの成果を国際会議ならびに国内外のワークショップにて発表した。さらに、海外において関連する研究を進めている研究者グループと積極的な情報交換を行い、国際シンポジウムの開催に着手した。本研究の成果として、地域情報の受動的閲覧インタフェース「車窓」の開発を進めた。これは、従来、ユーザ側からの積極的な情報入力を必要としてきた既存のウェブ地域情報閲覧システムを発展させたものとして、最小限の操作で地域情報を閲覧できるようにしているシステムであり、幼少者やコンピュータ操作に不慣れなユーザ、あるいは娯楽として地域情報の閲覧を行いたいユーザの使用を想定している。このシステムを京都市内の小学校において、「総合的学習の時間」の授業に導入し、修学旅行のプラニングに使用した。
著者
作道 信介 羽渕 一代
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

ホールド仮説とは、戦後青森県において出稼ぎが「地域を形成し人を留め置く力」として働いたという仮説である。本研究はホールドの実態を下北半島の漁村での生活史調査によって検討した。出稼ぎ者は高賃金を求め、縁故就労によっておもに土木作業に長期継続で稼働した。出稼ぎ維持の背景には経済的動機だけではなく、漁業への愛着、職場での重用、仕事の魅力、出稼ぎを組み込んだ人生設計といった心理的要因があることがわかった。
著者
坂元 眞由美 松本 大輔 川又 敏男 山崎 郁子 中村 美優 安藤 啓司 傳 秋光 川又 敏男 安藤 啓司 山崎 郁子 傳 秋光 中村 美優
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は重度認知症高齢者の自律神経に音楽がどのような影響をもたらすのかを明らかにすることにある。方法はCDRにて分類した重度認知症高齢者に対し、好きな音楽を用いた介入を個別に週1回、能動的参加群と受動的参加群、コントロール群に分けて行なった。評価方法は加速度脈派測定システム・フェーススケールを使用した。その結果、好きな音楽の受動的聴取または能動的歌唱の両者共に精神安定効果があることを確認した。
著者
井上 純子 平工 雄介 川西 正祐
出版者
鈴鹿医療科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は、吸入された黄砂の肺細胞への影響とその作用機構の解明であった。炎症を介した酸化的損傷機構の関与を予測した。黄砂などのマウスへの投与は生理食塩水に懸濁させ点鼻で行った。週1回4回投与後取り出した肺組織に黄砂投与群で炎症が認められ、ニトログアニン、8-oxodGの生成が示唆された。8-oxodGをHPLCで定量し、黄砂投与群での有意な増加が認められた。これらの結果から、黄砂吸入による肺の炎症と酸化的損傷の関与が示唆された。
著者
森川 友義
出版者
早稲田大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

政治脳の進化過程を「囚人のジレンマ」において研究する第一段階(平成15年度)から、「ゼロサムゲーム」や「Hawk-Doveゲーム」を含めた複数のゲームに拡大する作業を行った(平成16年度)。一年目の成果は米国政治学会誌においてリード論文として掲載されたことで結実し、世界の政治学者から高い評価を受けることになった。この論文では、「政治脳」と「人間の協力性」との関係を明確にした。2人の人間関係において嘘をつく能力、見抜く洞察力、及び他者に対してある程度懐疑的になることの3つが人間の協力性を最も高める要因である、という一見してパラドクシカルな仮説を提出して、コンピュータ・シミュレーションによって検証を行った。更に経済学等でしばしば用いられる「合理性」という言葉について政治進化論の立場から新たな定義づけも行い、「合理性」とは社会科学で使われるものの他に、その時代環境に適合できるかどうかの「合理性」(そしてそれは必ずしも利己的ではない)も長い時間のスパンでは重要であり、伝統的な「合理性」の定義は普遍的なものでないことを主張した。第二段階では前年度のパラダイムを更に前進させたが、特に中心となったのは個人と個人の利害関係が直接的に対立するような非協力ゲームにおいて、得られる利得が小さかった場合、争いに参加するかどうかの意思決定について分析を行った。「意思決定の重層」(Orders of Intentionality)という全く新しい分野がそれであるが、相手の出方及び自分の出方を幾重にも推理しながら、最大の利得を獲得させようとする戦略であり、食料や異性の獲得といった人間の存在に根源的に関わるような場面で、リスク高く利得が必ずしも高くない場合に、人間は政治脳を最も駆使することが分かった。
著者
細谷 実 加藤 千香子 小玉 亮子 熊田 一雄
出版者
関東学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究が4年間に予定していた計画と、それぞれにおいて得られた成果は以下の通りである。(1)近現代日本の言説空間においてどのような男性性がたちあらわれ、どのような社会的事象を生みだしたのか、またそれぞれの男性性がどのような布置の中で競合・協働してきたのか、という全体像のマッピング:新聞雑誌等の文献大量調査については、1930年代『東京朝日新聞』『東京日日新聞』等にあらわれた「モダン・ボーイ」と「三勇士」言説の分析、明治期『愛国婦人』における兵士言説分析、中学校同人誌r初雁』における「青年」言説分析などをおこなった。一方で教科書や育児書などの分析は完全に終了せず、今後の課題となった。したがって、競合・協働の全体像のマッピングの完成までにはまだ必要な作業が残されているが、研究協力者等よりアメリカやドイツの男性史の知見について専門的知識の提供を得たことで、全体像についての仮説提示までにはいたることができた。(2)男性性の歴史的構築におけるキーパーソン達についての人物研究を行い、個別の思想についてのより具体的で詳細な考察を深め、かっそれを(1)で明らかにした近現代日本における男性性問の競合・協働の全体像の中に位置付ける:大町桂月、出口王仁三郎、山田わか、石川啄木、福沢諭吉、新渡戸稲造、中山みきなど、さまざまな人物研究を行なった。その結果、国民軍形成過程における「武士形象」と「男」であることとの複雑な関係性など、新たな知見を1獲得した。(3)(1)(2)の成果を公刊し、また成果に関するシンポジウムを開催する:2003年度に年次報告書『モダン・マスキュリニティーズ2003年』を刊行・頒布したことで、男性史への関心をひろく喚起することができた。シンポジウムについては、ジェンダー史学会のシンポジウム参加などを行なったものの、本研究プロジェクト単独での開催には至らず、今後の課題となった。
著者
中島 正愛 MCCORMICK Jason Paul
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

性能の明示を謳う性能耐震設計では、代表性能指標としてもっぱら最大層間変形角を使っているが、扉の開閉傷害に起因する避難経路の遮断、構造躯体の修復性、内装材、外装材等非構造部材の補修性等、地震終了時に建物が被る残留変形(角)も無視しえない性能評価指標となる。本課題では、鋼構造建物は、(A)大地震下でどれぐらいの残留変形を被るのか、(B)どこまでの残留変形が許容できるか、(C)残留変形をどのように制御できるかを、明らかにすることを目的とし、特に、(A)残留変形の実態調査、(B)非構造部材の損傷同定、(C)残留変形制御機構の開発、に取り組む。本研究の二年度である今年度では、上記(A)〜(C)のうち下記を実施した。(A、B)残留変形の実態調査と許容残留変形:建築後約40年を経た5階建て建物の残留変形を、床の傾斜と柱の傾斜という指標から調べ、その平均値はいずれの傾斜も1/500以下にとどまっていることを明らかにした。また当該建物への居住者へのヒアリングから、1/500程度の傾斜は生活や仕事に影響がないことも判明した。さらに心理学分野への文献調査とヒアリング結果等も踏まえ、1/200が、心理面、機能面、安全面いずれにおいても許容しうる残留変形(傾斜)であることを突き止めた。(C)残留変形の制御:残留変形最小化システムとして、柱脚部に原点復帰性を持たせる機構を考案し、それによって得られる残留変形低減効果を数値解析から明らかにした。また柱脚部原点復帰性を実現する具体的方法として、形状記憶合金をテンドンとして利用する方法と、鋼とコンクリートの間の摩擦係数が大きいことを利用した無緊結柱脚を用いる方法を提案し、後者についてはその妥当性を一連の振動台実験から検証した。
著者
JASON Roussos
出版者
上智大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1993

最終年度を迎えた「ラマ4世マハ・モングット王の治世下における思想史」の研究は、研究開始当初から国内外からの関係文献・資料の収集に多くの時間を要した。しかし、本年度は収集した文献・資料の比較分析、特に比較文化的な観点からの再検討を加え、それらがラマ4世の治世下における神話と現実を明確に区別し得る史料的価値の高いものである結論に至った。また、今年度、Constantine Gerigrakisの生誕の地、ケファリニア島およびRoyal Academy London, Burlington Houseで行った研究発表では、ラマ4世治世下の思想形成とその傾向を、文学、芸術、哲学の分野からの考察を試みるにあたり、多くの示唆的な意見や助言を得られたことは幸運であった。残念ながら現時点では本研究はまだ進化の過程にあり、最終的に纏まったものは完成できていない。
著者
長江 拓也
出版者
独立行政法人防災科学技術研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

現行の設計指針類での露出柱脚の終局せん断特性の評価では,露出柱脚ベースプレートと基礎モルタルの摩擦による最大耐力とアンカーボルトのせん断耐力のうち大きい方を柱脚せん断耐力としている。柱脚負担せん断力が最大摩擦耐力に達し,すべりが生じたのちも一定の摩擦抵抗力が保持されるならば,適切なモデル化を通して強度の加算も可能と考えられるが,実験的裏づけが不足しているため,現状の評価では一旦すべりが生じたのちの摩擦抵抗は考えていない。摩擦係数にして0.5を超えるせん断耐力が安定的に発揮されるとすれば,アンカーボルトのない柱脚,つまり基礎に緊結しない柱脚の可能性や,鋼とモルタルをダンパー材料として用いる損傷制御型柱脚の現実味がおびてくる。本研究はでは,露出柱脚と基礎モルタル間の摩擦実験システムを振動台上に構築し,鋼とモルタル間に動的な多数回繰返しすべりを生じさせることで,すべり進行時における動摩擦抵抗を検証した。得られた知見は以下に示すとおりである。(1)静止摩擦係数:多数回の繰返しすべりに対して静止摩擦係数は常に安定していた。入力波の振幅と振動数に依存せず,静止摩擦係数はほぼ一定であり,実験値の平均値は0.78であった。(2)動摩擦係数:本加振条件下における,すべり時の動摩擦係数は静止摩擦係数と等しく,すべり進行時における摩擦抵抗力は一定となった。つまり,水平外力は静止摩擦を経て,すべり出した後も同等の摩擦抵抗を発揮する。これは,露出柱脚のせん断耐力をアンカーボルトのせん断耐力と摩擦抵抗力の足し合わせによって評価することの可能性を示唆するものである。(3)数値解析による摩擦挙動の再現:すべり時の動摩擦係数を一定と仮定した剛塑性モデルを用いる数値解析では,ほぼ実験で得られた摩擦係数において実験結果のすべり応答を再現でき,すべり応答を通して解析から与えられる動摩擦係数が鋼構造接合部設計指針等で用いられる摩擦係数0.5を上まわることを確認した。
著者
魚崎 浩平 SHEN Y.R. OCKO Benjami DAVIS Jason DOBSON P. HILL H.A.O. 佐藤 縁 水谷 文雄 叶 深 近藤 敏啓 中林 誠一郎 YE Shen DAVIS Jason.
出版者
北海道大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

まず研究開始時に2年間の研究を効率的に実施するために、国内側のメンバーの間で研究方針を十分検討し確認した。ついで、研究代表者がオックスフォード大学を訪問し、研究方針の確認を行った。以後、これらの打ち合わせで決定した内容に基づき、以下の通り研究を実施した。なお、2年目には新規メンバー(オックスフォード大Jason J.Davis、ブルックヘブン国立研究所Benjamin Ocko、カリフォルニア大Y.R.Shen)を加え研究をより効率的に実施した。初年度1.オックスフォード大における生物電気化学研究のレベルを十分に理解するために、北大において、オックスフォード大研究者による情報交換セミナーを実施した。2.本研究では自己組織化法のセンサーへの応用を念頭に置いており、そのために最適な構造をもったマイクロ電極の設計とその形成法の検討を行った(オックスフォード大)。さらに、このようにして形成したマイクロ電極の電子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy:AFM)による評価を行った。さらに、より高度な評価をめざして、新しい走査プローブ顕微鏡を考案、設計、製作を行い、性能確認を行った(北大)。3.また、本研究では生体機能を念頭においており、チトクロームcと電極との間の電子移動を促進するための界面構造の設計を目標に、種々の混合自己組織化膜表面での電気化学特性を調べた(生命研)。4.界面機能の動的評価を目的に、自己組織化分子層の電気化学反応に伴う構造変化をその場追跡可能な反射赤外分光システムを構築し、生体機能との関連でも重要なキノン/ヒドロキノン部位を持つ自己組織化単分子層に適用した。酸化還元に伴う構造変化を明確に検出できた(北大)。2年度1.新しい界面敏感な手法である和周波発生分光法(Sum Frequency Generation:SFG)および表面X線回折法(Surface X-Ray Diffraction:SXRD)の本研究への導入の可能性を各々Shen教授、Ocko教授の研究室への訪問と討論を通して検討し、その有用正を確認した(カリフォルニア大、ブルックヘブン研究所)。2.水晶振動子マイクロバランス法(Quarts Crystal Microbalance:QCM)および走査型トンネル顕微鏡(Scanning Tunneling Microscopy:STM)によるアルカンチオールの自己組織化過程の追跡を行った(北大)。3.STMによるプロモータ分子の自己組織化過程の追跡をオックスフォード大Jason J.Davis氏が北大の装置を用いて行い、世界で初めて当該分子層の分子配列をとらえた(北大、オックスフォード大)。4.昨年度に引き続き、生体機能を念頭において、チトクロームcと電極との間の電子移動を促進するための界面構造の設計を目標に、種々の混合自己組織化膜表面での電気化学特性を調べた。また、この時の界面構造を詳細に調べるために、アルカリ溶液中での還元脱離およびSTMによる表面構造観察を行った(北大、生命研)。5.以上の成果を国際学術誌をはじめ、国内外の学会で発表した。
著者
池永 昌容
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

研究では,研究計画として3項目を設しそれぞれを並行して施している.3つの枠組みとは「セルフセンタリング柱脚(以下SC柱脚)の特性評価と設計法」,「新たなSC柱脚の開発」,「許容残留変形の定量化」であり,20年度は,19年度の研究経過を受けて前2項目に関して研究を実施した.研究状況は以下の通りである.1.SC柱脚の開発申請者が過去に実施したSC柱脚の開発,そして前年度に実施したSC柱脚の特性評価と設計法における研究成果をもとに,既存のSC柱脚の保有性能の増強と,多軸方向載荷への対応が可能となるように改良を加えたSC柱脚を開発した.そして2/3スケールの試験体を作成し,2軸同時載荷が可能な静的載荷装置を用いてその性能を確認した.その結果,保有性能の増強には成功し,また誤差20%未満で評価が可能な評価法を提案することができた.しかしながら,多軸方向載荷に対しては想定とは異なる挙動が見られるとともに改良点も明らかになり,今後の課題となった.2.SC柱脚の特性評価と設計法前年度の研究で明らかにした鋼とモルタル面の摩擦特性を利用した,「置くだけの柱脚」を利用した鋼構造骨組の特性を時刻歴応答解析で評価した.2層と3層の鋼構造骨組の側柱をSC柱脚,軸力変動がない中柱を「置くだけの柱脚」として,最大層間変形と残留層間変形を評価した.比較対象として,SC柱脚をすべての柱脚に用いた場合の,鋼構造骨組を考える.検討の結果,3層骨組では柱脚を併用することで,併用しない場合と比べて両応答ともに増大した.一方で2層骨組では,柱脚を併用しても,SC柱脚のみを使用した場合と同程度,もしくは最大層間変形は同程度であり残留層間変形は若干減少する傾向が見られた.この結果は,2層程度の鋼構造骨組では柱を基礎上に置くだけでも耐震上問題がないことを不しており,従来の柱脚工法と比べて施工性が格段にあがる新工法の可能性を示唆している.
著者
澁田 靖 エリオット ジェームズ
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究ではカーボンナノチューブ生成・成長過程の理解を目的とし,第一原理計算から構築したポテンシャル関数を用いた古典分子動力学法により,孤立炭素原子が1nm程度の触媒金属微粒子を介して初期核(キャップ)構造を生成する過程及び,モンテカルロ法により初期核生成後の円筒構造の成長過程を検討し,触媒種の違い,炭素原子濃度等の条件により単層及び多層ナノチューブに成長する機構の違いを定性的に明らかにした.
著者
横山 三紀 横山 茂之
出版者
日本大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1999

1.NAD分解酵素であるリンパ球表面抗原CD38を用いて、ガングリオシドとの相互作用を明らかにするために結晶構造解析をこころみた。マルトース結合蛋白質とCD38の細胞外ドメインとの融合蛋白質(MBP-CD38)を大腸菌で発現させた。発現させたMBP-CD38の大部分は正しいSS結合のかかっていない不活性型であったため、チオレドキシンとの共発現系を用いて安定に活性の高いMBP-CD38を調製する方法を確立した。MBP-CD38とガングリオシドGT1bとの結晶化のハンギングドロップ法での条件検討をおこない、PEG10,000を沈殿剤として結晶を得た。この結晶から分解能2.4オングストロームの反射を得ることに成功した。2.CD38を発現している細胞にガングリオシドを取り込ませると、CD38のNAD分解活性が抑制される。ガングリオシドの効果が同一細胞表面上のCD38とのシスの相互作用であつのか、又はCD38とガングリオシドとがトランスで相互作用する結果なのかを明らかにするために、THP-1細胞のCD38-トランスフェクタントを用いた実験を行った。CD38-トランスフェクタントにGT1bを取り込ませた場合にはNAD分解活性の阻害が起こったが、導入をおこなっていないコントロールの細胞にGT1bを取り込ませたものをCD-38トランスフェクタントと共存させた場合には阻害が起こらなかった。このことから阻害はCD38とGT1bとが同一細胞の表面にあるシスの場合に起こることが強く示唆された。
著者
菅原 陽心 溝口 由己 河村 哲二 清水 敦 苑 志佳 王 東明 WANG Dongming 植村 高久 横内 正雄 竹野内 真樹
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究は,中国における市場経済化の進展過程を市場経済の多様性という視角から分析し,中国型市場経済を類型として明らかにすることを目的として、企業システム,経済政策,金融改革の三つの側面から実証分析を行った。企業システム分析では,国有企業,郷鎮企業,外資系企業の実証分析を行い,中国の企業システムあっては,欧米型のそれとは異なって,中国社会に基底的なネットワーク関係が軸に据えられたものであることが明確になった。経済政策の分析ではWTO加盟等この間の環境変化の中で、経済政策がどのように変化したのかをヒアリングを中心に調査し,政府・党の役割は非常に大きいものの,その役割を間接的なものにしていくという方向で改革政策が進められていることが明確になった。金融改革の分析は,ネットワークを軸にした中国型市場経済の中で,金融制度改革が,欧米流の個人の自由な取引に基づいた金融市場の構築という方向で進展しているということを踏まえ,中国型ネットワークと欧米型「市場」のせめぎ合い,相互適応・融合という視角から分析を行ったが、国有企業改革がはらむ問題等から、証券市場の整備が順調ではないこと、また、国家資産の管理などにも種々の問題が生じていることが明確になった。本研究は実証的な成果を前提にして、社会主義市場経済の類型化を図ることを最終的な目標としてきた。しかし、実証分析の深化を図るとともに、現在の状況が大きな変化の途上にあるということ、また、市場経済化の進展は地域によって様々異なった様相を呈していることが明確になった。そこで、全体的な類型化としては、政府・党によるマクロ・ミクロ両面から支えられた市場経済という極めて抽象度の高いものに留まらざるをえず、より具体的なモデル化は、調査地域の違いに応じた類型化、ならびに、今後の状況の変化を織り込むことによって可能であることが明確になった。
著者
生城 浩子
出版者
大阪医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

セリンパルミトイル転移酵素(SPT)はスフィンゴ脂質生合成の初発かつ律速段階の反応を触媒する.SPT活性の変動が細胞内スフィンゴ脂質の種類と総量に直接影響するため,本酵素の活性制御機構の解明は重要である.(1)スフィンゴ脂質含有細菌のSPT遺伝子をクローニングし,大腸菌ないでの大量発現系を構築し,組換え酵素の精製方法を確立した.(2)非反応性の基質誘導体S-2-オキソヘプタデシル-CoA(以下誘導体と略)を合成し,組み換えSPT精製標品を用いて,SPT・L-セリン・アシル-CoA誘導体の三者の反応を詳細に解析した.SPTにL-セリンを加えるとミカエリス複合体を経由して外アルジミン中間体を生じた.SPT-L-セリンニ者複合体に誘導体を添加しても最終生成物である3-ケトジヒドロスフィンゴシンへは変換されなかったが,吸収スペクトルにおいてキノノノイド中間体の新たなピークが観測された.この三者複合体の時間分解スペクトルの速度論的解析の結果,誘導体の結合によってキノノイド中間体の生成・蓄積が誘起され,キノノイド中間体と外アルジミン中間体の平衡状態で反応が停止していることが示された.(3)SPTによるL-セリンCα位の脱プロトン反応の速度(キノノイド中間体生成の反応速度に対応する)をNMRによって解析した.NMR解析はSPT二者複合体におけるL-セリンのCα位の水素-重水素交換は非常に遅いが,誘導体の添加によって100倍加速することを示し,SPTにおけるsubstrate synergismを示した.(4)SPT・L-セリン外アルジミン複合体の立体構造を2.3〓の分解能で決定した.このデータに基づき,SPTの触媒作用における保存されたアミノ酸残基の役割についての議論が可能になった.
著者
河村 雄行 廣瀬 敬 圦本 尚義 丸山 茂徳 神崎 正美 加藤 工
出版者
東京工業大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

本研究では世界最古の岩体であるカナダのアカスタかこう岩体の地質調査を行い、ジルコンを用いた年代測定と地質構造上の関係から、岩体の形成史をあきらかにした。またオーストラリアのピルバラ地塊の調査により、太古代中期30-35億年前の中央海嶺や沈み込み帯における火成活動や熱水活動をあきらかにした。その結果当時の海水中には多量の二酸化炭素が含まれており、熱水活動により炭酸塩が多量に地殻に生成され、さらに沈み込みにより地球深部へ多くの炭素が運ばれていたことを明らかにした。また太古代に特徴的なコマチアイトマグマ中のメルト包有物の測定を行った結果、太古代のプルームマントル中には多くの水が含まれていたことがわかった。またマルチアンビルプレスを用いた高圧高温実験により、下部マントル上位におけるマントルかんらん岩と玄武岩の融解実験を行い、融解相関係や微量元素分配を決定した。さらにこの結果から現在進行中のコア・マントル境界における融解現象において、微量元素分配はCaSiO3ペロブスカイトに支配されることを示した。実験結果から期待される特徴的な微量元素の濃度パターンは現在のプルームマントル中の捕獲岩に残されていることから、ハワイや南太平洋のプルームはコア・マントル境界由来である可能性を指摘した。本研究ではダイヤモンドセルを用いたマントル最下部までの条件の超高圧高温実験をも行った。その結果、SiO2相は下部マントル中で2回の相転移を起こし、マントル最下部ではα-PbO2相が安定であることなどがあきらかになった。
著者
多田羅 浩三 高鳥毛 敏雄 中西 範幸 新庄 文明 黒田 研二 西 信雄
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

1.目的:本調査は、国民健康保険の実績をもとに大阪府下の基本医療圏別の入院、および入院外医療の実態について分析を行い、今後の医療計画の策定に資する知見を明らかにすることを目的に実施したものである。2.対象・方法:調査対象は大阪府下の44全市町村であり、平成7年5月診療分の国民健康保健の入院診療(74,486件)、および入院外診療(1,860,062件)の実績について診療報酬明細書に記載された内容をもとに分析を行った。調査項目は、医療機関所在地、医療機関経営主体、診療実日数、診療点数、在院日数などである。3.結果:(1)件数の割合:入院件数の割合をみると、基本保健医療圏別には豊能、三島では65歳以上の者がそれぞれ63.2%、62.4%で高率であった。(2)受診率(被保険者百人当たり):入院受診率は大阪市西部が3.2で最も高く、ついで泉州の3.1、堺市の2.9などの順であった。75歳以上の者では、最も高い泉州(12.0)と最も低い豊能(9.1)の差は百人当たり3人であった。(3)長期入院受診率(被保険者千人当たり):6ケ月以上の長期入院受診率は泉州が11.6で最も高く、最も低い北河内(7.0)と泉州との差は4.6であった。75歳以上の者では最も高い泉州(54.5)と最も低い豊能(29.4)の差は25.1であった。(4)診療実日数の割合:入院診療実日数に占める割合をみると豊能、大阪市南部では65歳以上の者が全入院総数のそれぞれ66.1%、66.0%を占め、最も高率であった。(5)診療点数の割合:高齢者が入院診療点数に占める割合は、三島、豊能、南河内では65歳以上の者が全入院総数の65%を占め、高率であった。
著者
田中 義郎
出版者
玉川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

K_12の教育改革はアメリカが如何に子どもを教育するのかを反映している。しかし、こうした改革の努力が、既存の大学入試や入試政策とのギャップをむしろ広げ、高校での大学進学準備を不適切なものにしていると指摘され、問題点が三つ挙げられている。(1)高校での大学進学準備に関して、生徒のアセスメントのための客観的な評価尺度が欠けている、(2)高校生が行う大学教育の準備と大学入試や入試政策の基準に不整合がある。(3)高校教育改革の中で、大学教育への準備は重用視されていない。こうした状況が、大学への進学を希望する高校生や高校に、混交した情報と方向づけを与え、K_12における数多くの教育改革の努力の最終的な効果を疑問視させるに至ったとされる。整合性に加えて、大学教育は大学卒業率の低下とフレッシュマン(大学1年生)のリメディアル率の上昇を憂慮している。高校で良く準備されて大学に入学してくる学生たちは、こうした問題を抱えずにすんでおり、良好な大学生活を送っている。我が国の場合、高校教育の再検討というよりも、高校での十分な学習ができていないままに大学に入学してくる学生のリメディアル教育の仕組みをどう作るかといった議論が中心であり、大学教育と高校教育との接続において、大学進学を準備するために高校教育を如何に見直すかといった議論が不足していることが再確認された。ユニバーサル時代とは、誰もが大学教育にアクセスできる時代であり、大学はそうした時代に対応すると同時に、その時代を担うという大学の使命を全うするために、内容そのもののユニバーサル化ではなく、そこへのアクセスのユニバーサル化を可能にする努力が大学と高校の間に作られてきていることが確認された。本研究を通じて、社会に出る準備をする期間が大学にまで延長されたという現実とそれを支えるシステムの構築(入学試験と前後の教育の有り様)を如何に準備するかがより鮮明となった。