著者
平井 邦彦 中林 一樹 池田 浩敬 市古 太郎 澤田 雅浩
出版者
長岡造形大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では新潟県中越地震によって被害を受けた中山間地域の変容過程を継続的に記録、分析するとともに被害からの復興のあり方の検討を行った。具体的には、代表的な孤立集落に関する集落への帰村状況や生業としての農業の再開状況、住宅の修理再建状況に関して、小国町法末地区や山古志村虫亀地区における全戸調査を継続的に実施している。また、孤立状況が継続する中、地域外への避難が可能となるまでの期間の避難状況に関して、山古志村全域を対象としたヒアリング調査並びに実態把握を詳細に行っている。地域外に建設された仮設住宅での生活を余儀なくされた孤立集落の中でも、避難指示が発令され集落に立ち入ることが許されなかった山古志村の各集落では、すべての復旧・復興過程が他の集落に比べて遅れていることが明らかとなり、これは今後の震災において同様の孤立集落が発生した際に留意すべき知見として見出された。その一方、避難勧告下でも道路の仮復旧等によって地域へのアクセスが確保されている集落では、住民それぞれのペースでの再建が細々とではあるが継続的に行われ、それが本格的な復興時に重要な役割を担うことも明らかとなった。また、各地で大規模な地滑りが起きたにもかかわらず、死者数を最小限に食い止めることができた要因として、集落の形成過程や、自然地形を熟知した上で計画されている宅地や峰道の存在が大きいことも明らかとなった。これらは今後発生が想定される国内の巨大地震災害時にも中山間地域の防災対策を考える上で重要な知見となる。
著者
小浦方 格
出版者
新潟大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

新潟県中越地震後の小千谷市内製造業を調査することにより、特定の製造業が集積する地方都市において、地域コミュニティと企業コミュニティの重複関係から、自然災害等によって事業継続上の障害を受けた後の復旧、復興には、平時から形成されたコミュニティ内での強固な自助と共助の仕組みが極めて効果的に機能することが明らかとなった。被害が甚大な組織にとっては、それ以上に他地域・同業他社との連携(緊急時OEM等)や公的金融支援が、組織の存続の鍵であることが示された。コミュニティ内の共助システムとしては、相互融通可能な経営資源情報の共有を、地域内だけでなく、他(多)地域との間で進めることが、地域としての事業継続計画の中核となると言える。また緊急時には、外部から寄せられる支援を効率良く配分するためのヘッドクオーター的機能を設置する重要性が示された。「BCPは金がかかる」としばしば耳にするが、これらの取り組みに多額の費用は要しない。さらに、特に大規模自然災害を考慮した場合、比較的遠隔で、かつ類似した産業構造を持つ他地域と連携して各種の策を講じることは有効である。そこで、GISの解析機能を用いて小千谷市中心部かちの時間距離を計測し、あわせて、新潟県を含む北陸、東北南部、北関東、中部10県の市区町村に対し、国勢調査と事業所・企業統計調査データを用いた主成分分析により。同市と遠隔地域間の相互連携可能性を検討した。その結果、近隣では長岡市、柏崎市、3~4時間圏では上田市、安曇野市、富岡市、滑川市、射水市等が小千谷市との相関が高く計測され、連携可能性の高さを示した。これらは、個別組織間の受発注情報を全く考慮していないものの、各地域における産業構造と相互アクセシビリティについて、定性的にはよく一致していると思われる。今後は地域別の詳細研究により、具体的な政策として提案可能と考えられる。
著者
藤井 千枝子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

遺伝医療においては、遺伝子診断が可能となっても、治療法が確立されていない疾患がある。遺伝子診断によって患者は、疾病に罹患する予測が立ち、それによる就職や、保険加入時による不利益が起こることが危惧されている。新しい医療技術の発展に伴い、医療現場でも、新たに様々な問題が生じるであろう。入院患者と多くの時間を共有する看護師が、遺伝に関する理解を高め、患者をどのように擁護するかは、今後の遺伝医療の発展の中で重要な鍵となる。患者の療養に関する援助を行うためには、遺伝に関する知識が不可欠なものとなる。現在、癌など、臨床現場の病名告知は、告知前に患者家族と相談して本人へ伝えることが多い。しかしながら遺伝子疾患に関連する告知は、本人だけでなく、その家族の病名診断となりうる。また、家族は、法的な家族であっても、生物学的な家族とは限らない。家族関係の告知ともなりうる。このような医療の進歩の中で、看護は、ケアの倫理を基盤とした患者支援が益々重要となる。本研究は、看護教育において、遺伝医学をどのように導入するかを明らかにすることを目的とした。特に、遺伝医療の発展と疾患に伴う社会的問題、看護の役割について文献レビューおよび国内外の調査により、検討した。その結果、今後の看護基礎教育においては、遺伝に対する理解と、偶発的危機状況にある人々を支援するための看護を構築していくことが必要であることが明らかになった。これらの背景から、看護の遺伝学の基盤となる教育としては、(1)分子生物学の基礎、(2)遺伝と疾患;ゲノムプロジェクトからポストゲノムの時代へ、(3)人々の多様性の意義(生物として、社会として)、(4)集団遺伝学、(5)環境と遺伝、(6)危機理論・危機介入、(7)患者・家族の支援、(8)遺伝と倫理、(9)遺伝看護学の可能性と課題に関する内容が必要と示唆された。
著者
高桑 守
出版者
大東文化大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は平成17年度から平成19年度の3カ年にわたり日本の漁民社会3地域(大分県佐伯市米水津、山口県下関市吉母浦、宮城県牡鹿郡女川町江ノ島)において民俗形成や民俗変容に果たしてきた漁民家族の実態や役割を、ライフヒストリーや家族誌の作成などの分析を通して微視的に検討しようとする試みで、民俗の持続や変革にかかわる伝承主体として漁民家族の把握をめざすものである。そのため、上記3地域において継続的に現地調査を実施し、それぞれの地域で2〜3家族をサンプリングした上で、漁業の変遷や漁業の選択、あるいは漁家経済、社会的参加、信仰事象など地域の民俗に対して、それぞれの漁民家族がどのように対応し、選択するかを検討した。とりわけ漁民家族の夫-妻関係を主軸にそのライフヒストリーや家族誌的分析を試みてきた。その結果、それぞれの家族において、種々の相異は認められるものの、総じて、漁民家族にあっては、夫-妻関係において妻(女性)の発言や行動が大きな作用性をもち、夫の漁業戦略や漁家経済(消費行動も含む)、さらには漁民社会における夫不在の間の女性の積極的社会参加に女性の役割の大きさを確認することができた。地域変化や民俗形成に漁民家族の単位でとりわけ女性の果たす役割の重要性を、この微視的考察によって明らかにすることができた。
著者
小川 晃子
出版者
岩手県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

過疎化・高齢化の進展する地域におけるICT(情報通信技術)を活用した高齢者見守りシステムの効果を、地域連携によるアクションリサーチを行いながら実証的に検証した。電話機で高齢者が能動的に発信するいわゆる「おげんき発信は、センサーなどの受動型安否確認システムや緊急通報システムに比較し、高齢者の遠慮感に配慮し、安否確認の確実性が高いことが明らかになった
著者
平野 順子
出版者
長岡大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

中越地震被災者に対するアンケート調査・ヒアリング調査によって、被災者の生活復興過程、そしてその世代差について検討した。
著者
植村 興
出版者
大阪府立大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

1.ウエルシュ菌エンテロトキシンに対するモノクローナル抗体の調整 精製エンテロトキシンの免疫で4種類のハイブリドーマを得, マウス腹腔に戻し, 得られた腹水からDEAE-Affi-Gel-Blue(Bio-Rad)クロマトグラフィーでモノクローナル抗体を調整した.2.ウエルシュ菌エンテロトキシンの化学修飾剤による切断と毒素フラグメントの分取及び得たフラグメントの1, 2の物理化学的性状分析精製エンテロトキシンを0.2MDTT, 0.5M2-ニトロー54オシアノ安息香酸(NTCB)及び4Mグアニジンを含む0.05M Tris-HCl緩衝液(pH8.0)中で15分間室温に放置し, SH基をシアノ化した. pHを9.0に修正後, さらに6時間37°Cで反応させた. 切断反応は0.02M Tris-HCl緩衝液(pH8.0)に透析することにより停止させた. 切断毒素フラグメントの精製は, 0.02M Tris-HCl緩衝液(pH8.0)で平衡化させたDEAE-Sephacel(Pharmdcia)カラムに吸着させ, 0.05M塩化ナトリウム濃度勾配で溶出して得た. 精製フラグメントはSDS-PAGEで解析の結果分子量15,000(エトテロトキシン全分子は35,000)で, ショ糖密度勾配等電点電気泳動で分析の結果, 等電点5.58(同4.3)であった.3.フラグメントのエンテロトキシン作用における役割りの解析:^<125>I標識フラグメントを用いた分析の結果, フラグメントはエンテロトキシン作用の第一段階である細胞への結合性を保持していることが確認された. しかし第二段階である毒性は, Vero細胞から^<51>Cr及び^<86>Rb放出活性で調べた結果, フラグメントには, エンテロトキシンと異って, 認められなかった. 第二段階の毒性を有する分子は単離されておらず, 今後の課題として残されている.
著者
土井 一生
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

地震発生メカニズムを調べるため、本研究では、震源域下における不均質構造がどのように地震発生に影響を与えるのか、についての考察を与えることを目的として、内陸地震の地震発生域下に見られる不均質構造の共通因子を抽出し、それらの不均質構造が地震発生に果たした役割について考察する。まず、中国地方において、山陰地方で発生したマグニチュード6以上の地震が、深さ15-25kmの反射波の強度が高い領域の境界で発生していることが共通する特徴として抽出された。用いる波の周波数を変えた解析でも同じように検出され、不均質構造の特徴的なサイズは一意ではないことが伺えた。解の分解能から断定はできないが、断層が異なる物質の境界に位置し下部地殻までほぼ鉛直な断層の下部延長が存在する可能性を示唆するものと考えられる。続いてこうした特徴が他の似たテクトニックセッティングを持つ1948年にM7.1の福井地震が発生した北陸地方で見られるか検証した。本地域において同様の地殻内近地地震の波形記録を使用し、中国地方と同様の反射法解析を行うことにより、深さ0-100kmの不均質構造の抽出を行った。その結果、フィリピン海プレート、Moho面からの反射を検出することができ、同地域での深さがそれぞれ50-60km、40km程度と推定された。深さ20-25km程度にも明瞭な反射波層が検出された。深さ15-25kmで断層(の深部延長を含む領域)を横切る方向に反射波の強度が断層のはさんで大きく変化していることがわかった。以上により、山陰地方と北陸地方の両方で横ずれ断層を持つ震源が反射波の強度の高低の境界に位置することがわかった。2000年鳥取県西部地震ではこの境界面が断層面とほぼ一致したため、断層の深部延長として機能し、地震発生に結びついたという可能性が示唆される。
著者
前川 宏一 東畑 郁生 石田 哲也 内村 太郎 牧 剛史 半井 健一郎 龍岡 文夫
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2003

(1)土粒子間の連結空隙構造をセメント系複合材料の微細空隙構造モデルに導入し,物質平衡-移動-反応-変形解析に関する数値プラットフォームを開発し,拡張熱力学連成解析を土粒子間隙水の圧力と変形にまで連結させて,地震時の構造-地盤液状化解析と,構造中のコンクリートの過渡的な変性を追跡する多階層連結解析コードを完成させた。(2)コンクリートおよび地盤材料の水分保持能力の温度履歴依存性を実証し,過渡応答時の水分平衡モデルの精度を向上させた。大径空隙でブロックされる水分が高温時に急速に開放される状況が解明され,従来の定説を大きく変える契機を得た。セメント硬化体からのカルシウム溶出と自然地盤における吸着平衡モデルを,水和反応の過渡的状態に対して拡張した。(3)水和生成ゲルおよびキャピラリー細孔内の水分状態からセメント硬化体の巨視的な時間依存変形を予測するモデルを完成させ,分子動力学を適用し温度依存性に関するモデル化の高度化を図った。(4)鋼材腐食生成ゲルと周辺コンクリートのひび割れ進展,さらにゲルのひび割れへの浸入を考慮することにより,様々な条件下でのかぶり部コンクリートの寿命推定を可能にした。(5)飽和及び不飽和地盤中にRC群杭を設置した動的実験を実施し,初期振動状態から一気に液状化する厳しい非線形領域での杭と地盤の応答を詳細に分析した。土粒子構成則と多方向固定ひび割れモデルの結合で,地中埋設構造応答をほぼ正確に解析できることを示した。(7)非線形時間依存変形の進行モデルを弾塑性破壊型構成則の一般化で達成し,時間成分を取り除いた繰返し作用の影響度を、数値解析連動型実験から抽出することに成功した。ひび割れ面での応力伝達機構の疲労特性を気中・水中で実施し,高サイクル疲労に対応可能な一般化モデルを構築し,直接積分型高サイクル疲労破壊解析を実現した。
著者
稲垣 宏
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

胃MALTリンパ腫の免疫グロブリン重鎖遺伝子解析から慢性炎症を基盤に発生するMALTリンパ腫群と慢性炎症の関与が明らかではない群は互いに独立していることを明らかにした。またアジア、欧州、米国間で共同研究を行い、皮膚辺縁帯B細胞リンパ腫は慢性炎症の関与が明らかではない群であること、DAPKおよびp16遺伝子メチル化が高率に認められること、またアジア症例には好酸球の浸潤が特徴的であること、を明らかにした。MALTリンパ腫全体像を最新成果とともに総説に著した。
著者
白川 功 稲田 紘 有馬 昌宏 西村 治彦 中野 雅至 東 ますみ 川向 肇 水野 由子
出版者
兵庫県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

感染症の爆発的流行を含む災害時の要援護者支援や迅速かつ正確な住民の安否確認ならびに避難所での避難者の医療・看護・介護などを含む生活支援には、機微情報を含む個人情報の事前登録と状況に応じた個人情報の更新が不可欠となる。本研究では、QRコードと地理情報システムと無線通信技術を活用して、避難経路の安全確保も含め、個人情報保護に配慮した避難支援システムを構築し、避難者のストレス軽減を考慮に入れつつ、医療・健康管理データを記録するシステムのプロトタイプも構築して、防災訓練などでの実証実験で有効性を確認した。
著者
鈴木 勇
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

兵庫県内の公立高校および災害NPOが実施する防災教育,および,四川大地震,台湾集集地震,新潟県中越地震被災地の復興への取り組みからわかったことは,防災活動において,我々の暮らす地域を知り,多様な価値を持つ地域住民と知り合うことの重要性である.また,防災活動を通じて外部の人々とつながり,その文脈の中で自分自身を問い直すことの重要性である.つまり,防災教育とは防災についての教育ではなく,防災を通じて社会の一員として,他者を理解することを学ぶことである.
著者
蜷川 順子
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、初期ネーデルラント絵画の領域で、完成後一定期間をおいて加筆された肖像のある絵画作品を収集し、それを様々な美術史的観点から考察した。この領域は、中世以来初めての本格的な再現的自然主義を発達させたことで知られる。画面をもう一つの世界の一部として実現し、現実にはない理想や願望を投影するための仮想的な場が求められたものと思われる。加筆肖像は、そのような画面と観者との相互交流の痕跡として理解できる。
著者
戸田 健吾
出版者
千葉工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

より高い完成度で本研究目的を達成するために、18年度中にはメインCPUをVR5500-ATOMとする申請時の制御システムから新システムへの移行を決断した。ここ数年性能向上の目覚しいFireWire/USB接続のカメラおよび高性能小型CPUモジュール((株)ピノー製)を導入し、CAN-Busによる高速かつ信頼性の高い体内LAN環境を実現。さらにビジョンプロセッサボード開発時の資産を生かすことで新たにヒューマノイド搭載型通信規格変換ボードを開発しCAN, i2c, Rs232/485,JTAG, SPI等の種々の通信プロトコルの高速相互変換を可能にした。これにより提案手法の基本制御性能を向上させるとともに、異なるヒューマノイドで制御システム構築する際のハードウエア制限を緩和し、本制御法の性能比較実験を容易にした。研究成果を以下にまとめる。1.従来システムよりも高性能な運動制御を実現しつつ複数のハードウエアに対応可能な新制御システムを開発2.環境認識画像処理アルゴリズム(黒田05,大曽根05)により、ヒューマノイド静止/運動時に関わらず環境を認識3.上記2と同時に自己運動状態を統合的に判断することで運動パターン生成法の切り替えタイミングを検出するセンシングシステム(石井05,井上06)を構築4.上記3により得られる切り替えタイミングにあわせて、各種動作生成手法(朝子05,川田05)をシームレスに切り換える動作遷移(渡邊05)を実現5.また、運動時のモーションスタビライザー(渡辺05)をmorph2へ実機実装するとともに、付随的な安定化制御として受身動作生成法を提案以上により、環境認識と情報センシングに基づく適応運動遷移制御を達成した。この研究成果は今夏にも発刊を待つInternational Jornal of Advanced Robotic Systems, Humanoid Robotsに掲載される。
著者
豊田 晃久
出版者
大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

前年度に実施したプロトタイプOTR検出器のビーム試験において、OTR光を無事観測することはできたものの、二点の問題の存在が明らかになった。一つはレンズおよびカメラの耐放射線性であり、もう一つは点状に分布するバックグラウンドの存在である。これを受けて、我々が今回考案したのが、放射線耐性に限界があるカメラ系をビームラインから遠ざける方法である。カメラ系における放射線場をできる限り下げることで上記の問題を同時に解決することができると期待される。また遠ざける方法として、イメージファイバーを用いてOTR光を伝送する方法を考案した。続いてイメージファイバーの選定を行った。要求されるプロファイル観測範囲は100mmx100mmと大きく、典型的なイメージファイバーの直径(1mm以下)にフォーカスすることは容易ではない。もちろん対物レンズを遠ざければ倍率は稼げるものの、低ガンマ値のビームからのOTR光は大きく広がっていくため、収量的に厳しくなる。イメージファイバーの種類、収束光学パラメータ、スクリーンからの距離の3つの要素のバランスを取ることで、最低照度を確保しつつイメージ範囲も確保できるようなシステムを設計することに成功した。以上に基づいてプロトタイプのイメージファイバー光学を持つOTR検出器を製作し、KEK12GeV陽子加速器においてビーム試験を行った。ビーム強度、垂直および水平ビーム位置、垂直および水平ビーム幅を変えつつ既存のモニターと比較し、収量は若干少ないものの無事OTR光を観測することに成功した。また、ビームからカメラまでの距離およびビームから対物レンズまでの距離を変えつつバックグラウンド量を測定し、チェレンコフ光が主な原因であることを結論付けた。以上の結果を国内外の学会にて発表した。
著者
櫛橋 康博
出版者
東京農工大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

(1) 跳躍運動の計測: ヒトの跳躍動作における地面反力,筋電振幅,ならびに,ビデオ画像による跳躍姿勢を同時計測可能なシステムを構築した.本システムを適用し,腕の影響を考慮した上で跳躍実験を行った結果,地面反力は双峰的な振る舞いを示すこと,さらに画像解析と筋電振幅の結果とより,初めのピークが膝の伸展に,2番目のピークが足首の伸展に起因することが確認された.このことは,膝関節伸展動作中の終期において,重心移動速度の垂直方向成分が小さくなり始める頃に,足首関節がトルクを発生し始めることを意味する.(2) シミュレーションプログラムへの実装: 現段階では,ロボット本体の制御は,位置制御を基本として,目標位置を時系列的に与えることによって行っている.(1)で得られた知見をもとに,足首の駆動開始タイミングを遅延させて計算を試みた.その結果,前半は最大時の2〜4割程度の電流値以下に抑えておき,膝関節が最終角度までの中点を通過する近傍で、最終角度を目標角度として足首関節の駆動を開始することによって,双峰性の地面反力波形が得られたとともに,重心の上昇速度が約1割程度増加することが確認された.(3) 実機の改良: 腰,膝,足首角1自由度からなる3関節脚ロボット実機に足首ロール軸を付加して合計4自由度とした.(4) 定格外駆動PWMユニットの開発: 本研究においては,モータの駆動電圧を定格の1.5倍から2倍程度とする.ラッシュ電流が瞬時電機子最大電流を越えないためのリミッタ部とそれらの稼動状態をコンピュータによって非同期に取り込める回路を基本とする専用のPWMドライブユニットを開発し,その有効性を確認するとともに,今後の実機実験の安全性を向上させ,さらに,アクチュエータの長期疲労と短期疲労など昨年度に提案した概念を実験的に検証してゆくことが可能となった.
著者
井上 直彦 平山 宗宏 埴原 和郎 井上 昌一 伊藤 学而 足立 己幸
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1985

昭和60年度より3年間にわたる研究を通じて, 人類の食生活と咀嚼器官の退化に関する, 現代人および古人骨についての膨大な資料を蓄積した. これらについての一次データと基礎統計については7冊の資料集としてまとめた. ここでは3年間にわたる研究結果の概要を示すが, 収集した資料の量が多いため, 今後さらに解析作業を継続し, より高次の, 詳細な結論に到達したい. 現在までに得られた主な結論は次の通りである.1.咀嚼杆能量は節電位の積分値として表現することが可能であり, 一般集団の調査のための実用的な方法として活用することができる.2.一般集団におけるスクリーニングに際しては, チューインガム法による咀嚼能力の測定が可能であり, そのための実用的な手法を開発した.3.沖縄県宮古地方で7地区の食料品の流通調査を行ったところ, この地方では現在食生活の都市化がきわめて急速に進行しつつあり, すでに全島にわたる均一化が進んでいることが知られた.4.個人群の解析により, 繊維性食品の摂取や咀嚼杆能量が咀嚼器官の退化と発達の低下に重大な影響を与えていることが確認された.5.地区世代別の群についての解析では, 骨格型要因, 咀嚼杆能量, 偏食, 繊維性食品, 流し込み食事などが咀嚼器官の発達の低下に強く関連していることが知られた.6.古人骨の調査では, 北海道, サハリンなどに抜歯風習があったことが知られた. このことと関連して, 古人骨調査が咀嚼器官の退化や歯科疾患の研究のみではなく, 文化と形質との相互関係を知るためにも有効であることが知られた.7.今後の方向として時代的, 民族学的研究, 臨床的, 保健学的研究, 文化と形質の相互関係などが示唆された.
著者
長谷川 公一 吉原 直樹
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

平成9・10年度は、おもに地球温暖化問題、エネルギー問題への取り組み、とくにCOP3以降の、環境NGOおよび地方自治体の役割を中心に、主要政令指定都市で調査を行った。ただしゴミ問題やリサイクル問題などと比較して、自治体とNGOのコラボレーション(対等な協働関係)の本格的な展開は今後の課題である。生協のような消費者団体、とくに生活クラブ北海道が中心となって1999年度から電気料金の5%相当分をグリーン料金として拠出しあい、その資金を風力発電事業に投資しようとする「グリーン電力料金」の運動は、消費者として電力会社および自治体に対して「意思表示」を行い、電力多消費的な自分たち自身のライフスタイルを見直し、節電の経済的動機づけをはかろうという新しいスタイルの運動として注目される。平成11年度は、主に東北・北海道の町村レベルでの風力発電、バイオマスなど再生可能エネルギー開発を中山間地域での地域おこしと結びつけようとする先進的な取り組みについて関係者への聴取調査、資料収集を行った。原子力開発のメッカだった東海村では、99年9月のJCO臨界事故を契機に、行政・住民の原子力に関する不安感、国や県の原子力行政に関する不信感が高まっており、人口1万人規模の東北の中山間地域の内発的な地域おこしをモデルとした地域づくりへの転換が模索されている。以上をもとに環境問題における市民的公共性の新しい担い手として、環境NGOを位置づけなおし、その新しい存在意義を考察し、論文にまとめた
著者
大村 道明
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究では当初、2005年度までに開発した地域資源マッチング支援ソフトウエアを農業地域向けに再構築し、これに経済評価・環境評価の機能を盛り込んで実在の地域でのテスト運用を目指した。再構築は完了したが、経済・環境評価機能を付加することが難しいことがわかった。この点は残された課題となったが、異業種間連携、都市・農村の情報流通支援ツールとしての「Webエコミュゼ」の基礎部分が開発できた。
著者
塚谷 恒雄 テイラー J.A. ニックス H.A. アルマベコビッチ U.R スルタンガジン U.S. 江崎 光男 今井 賢一 福嶌 義宏 石田 紀郎 溝端 佐登史 TAYLOR J.a. ALMABEKOVICH U.r. スルタンガジン U.M.
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

1中緯度乾燥地域の地球規模汚染モデルの作成は,共同研究者であるカザフスタン共和国科学アカデミー宇宙研究所のスタッフによってまとめられた.これは旧ソ連で開発された組込原則による拮抗モデルを非平衡環境システムに応用したもので,アルマ-ティにおいてまずロシア語版で出版された.またバルハシ湖周辺を対照とした水文気象観測データを用いGISの構築にも基礎的結果を得た.バルハシ湖とアラル海の水質分析結果の公開はおそらく世界で初めてであろう.これは国際砂漠学会で発表され,以降各国学界から注目されている.またバルハシ湖については本分析結果を1960年代初頭のデータと比較し,乾燥地閉鎖湖の除塩機構に関し地球化学的変化の一端を示すことができた.2環境汚染による健康被害の疫学的調査は,カザフスタン側共同研究者の尽力によって,アラル海とシルダリア川沿岸の乾燥地域,アルマ-ティの工業地域およびセミパラチンスクの各実験地域について,おそらく世界最初に詳細な健康影響データが公表された.国際的な共感を呼んでいるアラルの悲劇はこの地方全体の文明,社会経済指標および住民の健康状態に重大な影響を与え,免疫ホメオスターシスの脱抑制,免疫病理反応を進行させている.B型ウイルス性肝炎の住民感染率は32.7%,HBs抗原の慢性キャリア率は19.1%にも達している.冷戦の遺産セミパラチンスク核実験場の周辺住民は,40年の長きにわたって合計50ラドから200ラドの放射線被爆を蒙った.放射線に起因する免疫変化は,腫瘍疾患,血液疾患,先天性異常,心・血管系疾患,感染症,その他の病理を含む一般罹患率の上昇を導いた.疾患分布と被爆線量との間には有意な相関関係が見いだされ,腫瘍疾患の増加には罹患率と死亡率上昇の位相性が認められた.この結果は日本文でKIERディスカッションペ-パ-にまとめられた.3セミパラチンスク核実験場の放射能評価は,カザフスタン側共同研究者の尽力によって国立核センターの協力のもとで進められた.まず昨年度採取したシャガン川人工ダム(1965年1月15日の半地下核実験による)周辺土壌の分析から^<237>Np/^<239,240>Pu比を割り出し,この実験が水素爆発ではなく通常のプルトニウム原爆によることを推測した.この結果を実験担当者等に確認したところ,当該核実験の詳細データの提供を受けた.加えて1949年8月29日から1962年12月1日の間にセミパラチンスク核実験場で行った地上実験(30回)空中実験(88回)の基礎情報の提供を受けた.これは前年度の実験影像の提供と同様,世界で初めて公表されたものであり,日本に対するカザフスタンの信頼が高いことを示している.この結果は英文でKIERディスカッションペ-パ-にまとめられ,国際原子力機関(IAEA)にも送られた.また再生計画に資するため,実験場内部と周辺居住地で土壌,植物,血液の資料採取を行った.ただし膨大な分析時間がかかるため,残念ながら本国際学術研究の期間内に完結することはできなかった.各担当者は早急に成果を取りまとめる努力をしている.4再生アセスメントの設計に関し,率直に言って,新独立国家群の経済再建は困難の極みにある.国民や組織,機関の願望や期待,あるいは欲求を達成できる社会経済システムが未熟であるためである.研究分担者らは学会発表や学術討論など機会あるごとに資源節約型の経済システム構築が中央アジア諸国の命運を決定し,それが環境保全につながることを強調してきた.これを一層推進するためには,科学的情報の受信発信の体制を整備することが急務であると共同研究者間で意見が一致し,本年度は科学アカデミーで蓄積された環境経済関連の成果の整備に取りかかり,合計3,000点の文献目録データベースを完成させた.この結果は英文でKIERディスカッションペ-パ-にまとめられた.この作業で,アラル海とバルハシ湖に関する旧ソ連科学アカデミー湖沼学研究所が地球化学,古生物学,鉱物学などの学際研究を蓄積していることが判明し,その結果は日本文でKIERディスカッションペ-パ-にまとめられた.