著者
東 弘子
出版者
愛知県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本年度は,言語をあるがままに分析しようとする言語学の視点と,一つのスタンダードを指向する大衆的視点またはそれを操作しようとする権力との関係について考察するという方向性で,研究発表,学会参加,論文発表をした。口頭発表としては「マスメディアにおける社会的上位者への敬語の使用状況と受容者への心的効果」(加藤淳,宮地朝子と共同)を第6回「社会言語学」刊行会研究報告会(2006/4,於:ウィルあいち)にておこない,そこでの議論をふまえ,社会学的な視点,批判的言説分析の手法を敬語研究に導入し,研究論文「批判的言説分析としての敬語分析-マスメディアにおける敬語・敬称の使用/非使用から-」『社会言語学』VI, pp.61-75(2006/9)を執筆した。また,言語政策,言語権,多言語化,規範意識等,社会における言語の価値付けのシステムと言語学のリンケージの方法論をさぐるべく,日本方言研究会,日本言語学会,JP/KRA Linguistics Conf.,多言語社会研究会,社会言語科学会等に参加し情報収集をした。前年度より継続している,TVニュース,ワードショー等におけるキャスターの発言のデータベース化も継続しておこなった。人間関係の距離とその表示となる言語形式についての整理にむけて,表の作成を継続中である。
著者
坂東 尚周 奥田 喜一 北沢 宏一 鯉沼 秀臣 井口 家成 庄野 安彦
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

本研究は、工業的に応用可能な優れた超伝導材料あるいは超伝導デバイスを創製するため、(1)異方性の化学的制御と新物質探索、(2)異方性とボルテックス状態の解明、(3)原子層制御と電子機能設計を目的として組織されたものである。成果は以下の通りである。(1)異方性の化学的制御と新物質探索高圧合成によりRe添加水銀超伝導体HR_<1-x>Re_xCa_<n-1>Cu_nO_yの単相化に成功し、ポストアニールによりピニング特性が改善された。中性子回折によりReとHgが規則配列し、異方性が低減することによると考えられる。高濃度Pb置換Bi2212単結晶で不可逆磁場の大幅な上昇が見出され、有効なピニングセンターの存在を示した。高分解能電子顕微鏡により、高濃度鉛相と低濃度鉛相が交互に帯状に析出し、この界面が磁束に対する有効なピンとして働いているとしている。この他低次元スピンギャップ系の梯子格子をもつ化合物やY247の構造に関し、新しい知見が得られた。(2)異方性とボルテックス状態の解明La系、Y系、Bi系の単結晶を用いて唯一の一次相転移とみられる磁束格子融解転移がSQUID、局所磁化測定、超音波測定、複素帯磁率、磁気トルク測定によって研究された。また、磁束融解転移が理論的に検討された。一方、27テスラまでの高磁場中での無双晶YBCOの磁束融解転移が明らかにされ、その他STMによる磁束に直線観察の試みがなされた。(3)原子層制御と電子機能設計STM、同軸イオン散乱分光法、RHEEDなど表面解析技術を駆使して表面原子層の制御や成長メカニズムの解明が行われ、薄膜作製における原子層制御技術は着実に進歩した。積層型SIS接合として、a軸配向した高T_cのY123酸化物薄膜の間にSrTiO_3を挟んだデバイスの作製に成功した。この他局在準位制御による接合の特性、Y123薄膜の準粒子注入効果、La系単結晶の固有ジョセフソン効果を用いたスイッチ素子の検討、Y123/強誘電体による電界効果などの研究が行われた。
著者
石川 裕彦 堀口 光章
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

1.データ取得:風雲2C号からのデータ受信を継続したが、2007年7月ころより日中のデータにノイズが見られるようになった。これは衛星の軌道が南北に振動する為であることがわかった。2008年3月日中のデータが取得できるようにアンテナの調整を行った。2.梅雨前線活動や熱帯降水域の広域解析等:ベンガル湾から日本にいたる梅雨前線の活動度の変動を、広域雲画像から得られる対流活動を指標に解析した。対流活発域が前線上を東進する様子を時空間解析で示すことができた。また、赤道収束対上を東進するMJOにともなう雲域お移動を、同じく時空間解析で示した。また、2005年以降蓄積されてきたデータを用いて、チベット高原の地表面温度の算出とその年々変動の解析を行った。合わせて雲活動の季節変化の解析も行った。3.東南アジアモンスーン期の集中豪雨の監視:モンスーン期の東南アジアを対象に、顕著な被害をもたらした被害事例に関して、衛星観測データに基づく現象の記述を行った。また、2007年11月にバングラディッシュを襲ったサイクロンSidrの雲画像解析を行った。4.防災プロダクツのweb公開:情報発信のために、webサーバーを立ち上げ、このサーバー上で赤外窓領域と水蒸気チャネルのフルディスク画像、インド領域、インドネシア領域、日本域の切り出し画像のweb公開を行った。また防災プロダクツとして、発達した積乱雲の指標となる水蒸気チャネルと窓領域との輝度温度差のデータを作成し、その出現頻度などの解析を試みた。5.成果の公表:自然災害学会、日本地球惑星科学連合大会、及び国際WSで本研究の成果の公表を行った。またミャンマを襲ったサイクロンNargisの画像は、NHK(クローズアップ現代)、TBS(報道特集)、京都新聞等のマスメディアを通じて、紹介された。
著者
高橋 龍一
出版者
弘前大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010

以下の2つの成果が得られた。それぞれについて以下で記述する。1.重力レンズを受けた宇宙背景輻射の疑似マップ(温度&偏光ゆらぎ)の作成まず、重力レンズを受けていない宇宙背景輻射の2次元マップを用意する。面積は4πの正方形(全天と同じ)、温度と偏光揺らぎの2次元マップである。宇宙背景輻射の揺らぎのパワースペクトルからガウス揺らぎを仮定し作成した。次に、N体シミュレーションを用いて、宇宙の大規模構造を作成した。最終散乱面から我々に届くまでの光の経路を、非一様宇宙を伝播する光の重力レンズシミュレーションを使って計算した。そこから10度×10度の領域を取ってきて、重力レンズを受けた宇宙背景輻射のマップ(温度&偏光ゆらぎ)を作成した。揺らぎのパワースペクトルを計算し、理論モデルと比較し、完全に一致していることを確かめた。現在、2次元マップから手前の構造形成の情報を引き出す計算も始めている。2.宇宙背景輻射の温度揺らぎに対する重力レンズの影響の再計算ダークマター(暗黒物質)による宇宙の大規模構造の揺らぎのパワースペクトルを最新のN体シミュレーションを用いて計算した。その結果、計算の分解能が上がった影響で、これまで考えられていたよりも小スケールで揺らぎが大きくなることを見出した。この結果を用いて温度揺らぎのパワースペクトルを計算すると、小スケール(約1分角以下)で10%程度これまでの計算よりパワーが上がることが示された。
著者
土屋 昌弘
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

将来の高速・高密度光記録用の光源として500nm以下の波長領域で十分な強度を発することのできる素子の模索が行われている。この方法には主として二つの流れがある。一方は禁制帯幅の大きな半導体材料を半導体レーザ構造に用いる方法で、他方は比較的短波長・高出力の半導体レーザと非線形光学結晶とを組み合わせた2次高調波発生(SHG)による方法である。前者はコンパクトで実装等には従来技術との整合性が良いが、半導体材料そのものによって到達可能な波長領域が制限される。後者は系がやや複雑になるものの、半導体よりは困難さの少ない非線形結晶さえあれば、前者の方法で到達した波長の少なくとも2分の1の波長領域まで到達できる。このような観点から、半導体レーザと非線形光学結晶の組み合わせは究極の短波長光源と成り得る。この考え方に対して、従来は非線形結晶の高性能化に重きが置かれた研究が主流であったが、筆者等は半導体レーザの駆動方法に改善の余地があることを見い出しその改善により「半導体レーザ+非線形結晶」からなる複合系の最適化を検討した。本年度は、SHG効率が基本波のパワーに比例することに着目し、励起光源である半導体レーザをパルス駆動させ、光パワーの2乗の平均値が最大となる動作モードを模索した。実験的には、(1)市販の690nmInAlGaP系半導体レーザを利得スイッチ法により駆動し約50psのパルス発生が500MHz繰り返し周波数で可能であることを見い出し、(2)それによって生ずるスペクトル広がりがSHG効率の劣化を招くことを指摘し、(3)その問題点に対して、レーザからの出力光の一部を回折格子により波長を選択しそれをレーザ自体に戻すことにより次のパルスの種としてスペクトルの狭窄化を図るセルフシ-ディング法を適用することによって、スペクトル半値幅を0.12nm以下とすることに成功した。このスペクトル幅は高効率のSHG素子または材料の波長幅と比較しても十分に狭く、簡単な理論的な予測によれば従来のCW光源に対して20培の効率向上が期待できる。
著者
森山 達哉
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

花粉症に関連するクラス2食物アレルゲンとして、Betv1ホモログ、プロフィリン、ソーマチンライクプロテインをクローニングし、発現タンパク質から汎用性の高い抗体を作成した。これらを用いて、大豆や野菜、果物などの主要な農作物における品種間、栽培方法、加工法、調理法などの違いによるアレルゲン性の変化・変動を解析した。これらの条件によってアレルゲンレベルは大きく変動することが明らかとなった。また、農作物による食物アレルギーの原因抗原の探索も行った。
著者
稲邑 朋也
出版者
東京工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本年度は形状記憶合金における内部摩擦の具体的な結晶学的機構を明らかとして力学的エネルギーの損失を制御するための指針を得るべく,マルテンサイト相が理論上無双晶となるTi-24mol%Nb-3mol%Al合金に,極めて強い再結晶集合組織を発達させて単結晶的試料を作製し,動的熱機械測定(DMA)によって123K〜423Kの温度範囲で減衰挙動を測定した.その結果,2つの内部摩擦(tanδ)ピークが現れることがわかった.一つはよく知られたマルテンサイト変態時の内部摩擦であり,応力振幅・周波数および負荷方位に大きく依存した.このピークに対して応力振幅σ_oとマルテンサイト変態歪み(理論値)ε_Mの積U(力学的相互作用エネルギーの指標)とtanδは比例関係にあることを新たに見いだした.もう一方のtanδピークはマルテンサイト状態である約150K付近で出現し,顕著な応力振幅・周波数・負荷方位依存性を示した. tanδピーク温度の周波数依存性から見積もった活性化エネルギーは約0.5eVであり,水素などの不純物元素の拡散とは別の内部摩擦が生じていることがわかった.さらにtanδピーク高さはUに比例すること,ピークが現れる閥応力が存在することが新たに明らかとなった.閾応力は引張試験から得られたマルテンサイトドメインの再配列応力と良く一致し,双晶変形のシュミット因子によって整理された.これらのことからマルテンサイト状態でのtanδピークはマルテンサイトドメインの双晶変形による再配列に起因し,集合組織を有した材料を作製して非弾性歪み(変態・双晶歪み)と外力の相互作用エネルギーの観点から負荷方位を適切に選べば,2つの内部摩擦ピークの値を制御可能なことがわかった.この様に,βチタン形状記憶合金の内部摩擦ピークの発生機構およびその制御指針を明らかとしたことが本年度における成果である.
著者
高橋 吾郎
出版者
浜松医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

レセプト(診療報酬明細書)データベースを利用し、春季アレルギー性鼻炎患者と定義された患者について、その受療動向と処方された薬剤パターンについて検討を行った。レセプト母集団のうち、小児の約15%、成人の約7%が医療機関を受診していた。患者の約50%が耳鼻科を受診していた。患者の2/3は、1シーズンに1. 2回しか受診しない。また、薬物の中では、第2世代抗ヒスタミン薬の処方がもっとも多かった。
著者
相良 多喜子 中村 裕之 三辺 義雄 人見 嘉哲 神林 康弘 日比野 由利
出版者
金沢学院
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

自閉症傾向児の早期発見のための指標を構築する目的で1407名の3-5歳児を対象とした聞き取り調査を行った。自閉症傾向に対して喘鳴と鼻アレルギー、性別(男児)、出生順位(第1子)、喫煙と間に有意な関連が見られた。また「独特の興味・こだわり行動」の項目と鼻アレルギーとの有意な関連が見られた。食育およびアレルギーの評価を含めた新しい指標によってASDをスクリーニングすることが可能であると考えられた。
著者
加藤 政彦 山田 佳之 林 泰秀
出版者
群馬県衛生環境研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

かぜをひくことにより、なぜ喘息が悪化するのかを明らかにするため、RSウイルス(RSV)感染させた喘息のモデルマウスを用い、人工呼吸器管理下に気道抵抗、肺胞洗浄液(BALF)及び血液中の炎症性細胞比率と多種類のサイトカイン/ケモカインを網羅的に測定した。対照群に比べて卵白アルブミン(OVA)投与群及びOVA/RSV投与群では、気道抵抗の有意な上昇とBALF中と気道への好酸球浸潤を認めた。BALFでは、OVA/RSV投与群において、他群に比べMIP-1αのみが有意に増加した。一方、血清では、対照群に比べ、OVA投与群でIL-5が、OVA/RSV投与群でIL-17が各々有意に増加した。RSウイルス感染喘息マウスでは、MIP-1α等を介して好酸球性炎症が引き起こされることが示唆された。
著者
山田 武千代 坂下 雅文 窪 誠太 藤枝 重治
出版者
福井大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

スギ抗原で刺激されたヒト好塩基球の培養上清により、気道粘膜由来線維芽細胞からのTSLP産生は有意に増加した。スギ花粉症患者自己IgG(高濃度)、キメラ分子で作用させることにより、ヒト好塩基球による気道粘膜由来線維芽細胞からのTSLP産生を抑制した。気道粘膜由来線維芽細胞にIL-4存在下でヒスタミンを付加するとTSLP産生は有意に増強した。刺激ヒト好塩基球の培養上清による線維芽細胞からのTSLP産生は抗IL-4Ra(CD124)阻止 抗体、抗ヒスタミン(H_1)受容体抗体の処理により有意に減少することを明らかにした。スギ抗原刺激によりヒト好塩基球からのヒスタミン遊離とIL-4とIL-13の産生が有意に増加することを確認した。 スギ花粉症でも好塩基球がIgE依存性アレルギー疾患の責任細胞であり、Th2応答や適応免疫応答である2次抗体産生を制御していると考えられる。好塩基球は、アレルギーなどの抗原特異的な免疫反応で、司令塔として重要な役割を果たしていると考えられる。
著者
湯田 厚司 石永 一 山中 恵一
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

スギ花粉症の次世代治療に期待される舌下免疫療法を本邦で初めて小児例で検討し、安全性と有効性を確認した。同法は小児でも安全に施行でき、成人よりも効果的であった。本研究の遂行で様々な課題もわかり、特に本法が有効であったスギ花粉症例で、合併するヒノキ花粉症に無効な例が半数近く存在した。治療と同時に作用機序解明に免疫学的変化の検討も行った。治療により、誘導性制御性T細胞の増加、治療有効群でスギ花粉特異的IgG4の増加、治療無効群で血清IL-33の増加が確認できた。血清L-31, IL17Aには変化がなかった。
著者
北村 嘉章
出版者
徳島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

スギ花粉症患者において、ヒスタミンH_1受容体拮抗薬による初期療法群は無治療群と比べ、くしゃみ、水様性鼻汁などのアレルギー性鼻炎症状が抑制され、同時にその鼻粘膜のヒスタミンH1受容体遺伝子発現が抑制された。花粉症に対するヒスタミンH_1受容体拮抗薬による初期療法の分子メカニズムとして、鼻粘膜におけるヒスタミンH_1受容体遺伝子発現の亢進を抑制し、効果を発現することが示唆された。
著者
岡崎 純子 石田 清
出版者
大阪教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

雄性両性異株は希な性表現で雄株と両性花株から構成される性型である。この性型の進化・維持要因として提唱されている雄株の高い繁殖成功についての検証を行った。材料としてマルバアオダモ(モクセイ科)を用い、雄株と両性株の花粉発芽率・花粉管伸長の比較、両性型花粉の混合受粉実験によって結実した種子のDNAマーカーによる父系解析を行った。その結果、雄株花粉由来の種子が多く産出されており、これは雄株の花粉の高い発芽率が関与していることが判明した。これらから雄株は高い繁殖成功を示すことが明らかになった。
著者
公文 富士夫 三宅 康幸 福島 和夫 石田 桂
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

長野市南部の高野層の補足的なボーリング(約3万~10万年前), 熊本市北部に分布する芳野層のボーリング(37m, 24~36万年前), 長野県川上村の川上湖成層のボーリング(38m, 15~25万年前?)を行った. 高野層については,新規に購入した密度計を利用して粒子密度の解明を行うとともに, 2本目のコア試料の解析によって, 有機炭素含有量等の変動の確認をおこなった. また, 芳野層については有機炭素量測定のほかに, 珪藻や花粉分析によるチェックを行い, 分析はほぼ終了している. 川上湖成層のコア試料については現在解析中である. また, 本研究において気候復元の中心となる有機炭素・窒素量の解析にあたって, 異なる堆積盆間の比較や統合を図るために標準化する手法を導入し, 過去16万年間の連続的な気候変動を明らかにすることができた. この結果に芳野層や川上湖成層の資料を繋ぎ合わせることによって, 過去40万年間の日本列島陸域の気候変動を解明する見通しをえた. また, 海洋および汎世界的な気候変動との正確な対応づけを図るために, JAMSTECによる下北沖コア試料の研究にも参画して, 気候資料を統合して古気候を復元するための準備を進めた.
著者
福和 伸夫 飛田 潤 護 雅史
出版者
名古屋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

東海・東南海・南海地震や首都直下地震に対する地震防災戦略が策定されたにも関わらず国民の防災対策は遅々として進んでいない。その最も大きな原因は、地震災害の発生をまだ十分に「納得」せず、「わがこと」と捉えていないことにある。そこで、この研究では、国民が地震災害の発生の危険性について十分に「納得」し、さらに災害がわが身に降りかかったときの状況を「わがこと」と感じるためのウェブシステムを構築する。このウェブシステムは、インターネット接続環境さえあれば、時間や場所を選ばず、誰もが地震時に経験する揺れや、周辺の状況をリアルに体感できるものとする。平成22年度は、まず、相互分散運用でデータを相互参照できるシステムをWebGIS上に構築し、分散する地図・空中写真・標高・地下構造などのデータを利用して、当該サイトの立体地形・建物画像・地盤モデルなどを自動生成する新たなシステムを開発した。次に、PC画面上を床応答変位で移動する室内画像に、家具を転倒させる動画機能を持たせると共に、ウェブ上で、室内写真・屋外写真などを入力すると、当該居室の揺れを予測し、この床応答変位で写真をPC画像上で移動させるソフトを完成させた。さらに、相互分散運用型データベースシステム、WebGIS、強震動・応答予測システム、PC上を画像が移動する動画生成システム、床面と壁面と側面の動画を表示する3台のプロジェクターを同時制御するPCが、連携して動作する全体システムを構築し、Webを介した入出力で全てを制御できるバーチャルウェブ振動台を実現した。最後に、名古屋市域を対象としたプロトタイプシステムをウェブ上で公開した。これに加え、国や自治体が評価した地震動に対する揺れ体感も可能にした。
著者
猪原 健弘 木嶋 恭一 出口 弘 今田 高俊 桑子 敏雄 蟹江 憲史 金子 宏直 中丸 麻由子
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究課題では、人文学、社会科学、理学、工学を横断するアプローチにより、参加型合意形成メカニズムについての理論・方法・実践に関する知識体系を整備した。特に、(1)合理的な主体の集団の中に協力が生まれるメカニズムを、コンピュータ・シミュレーションを用いて解明した。(2)合意と合意形成が満足するさまざまな性質、特に、合意の達成のされやすさや、合意の崩れにくさについての理論的成果を集約し、可視化した。(3)合意形成の支援のモデルを構築した。という3点が研究成果として得られた。
著者
神邊 靖光 生馬 寛信 新谷 恭明 竹下 喜久男 吉岡 栄 名倉 英三郎 橋本 昭彦 井原 政純 高木 靖文 阿部 崇慶 入江 宏
出版者
兵庫教育大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1988

幕末から明治維新を経て「学制」領布に至る間、幕藩体制下に設立された藩校と、明治初年の藩校・明治新政府の管轄下に設けられた諸学校と、の教育の目的・内容・方法の変化・相違点は学校の組織化にあるということを課題とし、この課題を実証的に解明すること、その過程に見出される教育の本質・属性の連続・非連続の問題も併せて考究することを意図してこの研究は進められた。藩校は江戸後期に急増するが、士道の振気と、藩財政の窮乏を打開するために儒教倫理にもとづく教育による人材の育成を目的として設立されたという点では、共通の課題を持っていた。しかし藩校の制度の定型はなく、また各藩の教育外条件は一様ではなかったので、250に及ぶ藩校は、250の様態をもっていた。更に洋学の受容、外圧という条件が加わると、学ぶべき洋学の選択、外圧の影響の強弱によって藩校は多様化を一層進めてゆくことになった。加えて幕末の国内情勢の二分化により、学校観も多様化した。幕末までの学校は、制度・組織を先例に倣って類似的に完結されていたが、外国の規制度に関する知識を直接に或は間接的に学ぶことによって、更に明治新政府の対藩政策によって学校改革の必要に迫られる。そのため伝統的な閉鎖的・個別的な性格から脱皮しなければならなくなり、自律的に或は他律的に共通性をもった相似的なものへと変化していった。このような経緯・動向が「学制」に示された、組織化を推進しようとする学校制度の実施を容易ならしめたのである。本研究は藩校教育を核として、幕末維新期の教育の各領域における組織化の過程を今後も継続してい くことになっている。平成2年3月、3年3月に、幕末維新期の学校調査、昌平坂学問所、5藩校、郷学校、数学教育、医学教育、お雇い教師に関する11編の報告を発表した。平成4年には、藩校、儒学教育、数学教育、芸道教育に関する報告をおこなう。
著者
中村 宏樹 ZHAO YI
出版者
岡崎国立共同研究機構
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

化学反応動力学を詳細に特徴づける時に、初期及及び終状態(内部状態)を指定した反応過程に対する断面積なる物理量が良く用いられるが,内部状態の詳細には拘らず、全体として反応が起こり易いのかどうかを特徴つける量に熱反応速度定数がある。初期内部状態については熱分布についての平均を取り、終状態については全て和を取る。Zhao氏はアメリカで電子的に断熱な化学反応の熱反応速度定数の理論とその具体的評価を行って来たが、我々の所ではその経験を活かし、しかも我々独自の非断熱遷移理論(Zhu-Nakamura理論)を用いて電子的に非断熱な化学反応の熱反応速度定数を評価する理論を構築し、その具体的応用を行う研究を進めている。始終電子状態を指定した熱反応速度定数を、遷移状態が非断熱結合の為に生じている場合について定式化する理論を構築した。現在、この理論を用いて1次元及び2次元系での計算を行いその有効性を確認している。多次元系の量子力学的厳密計算は不可能であるので、この理論の活用が期待される。1-2次元系で旨く行くことが確認出来れば、今後、多次元系への適用に挑戦する。
著者
三原 建弘 杉崎 睦 磯部 直樹 牧島 一夫 根来 均 林田 清 宮田 恵美 上野 史郎 松岡 勝 吉田 篤正
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

全天X線監視装置MAXIは2009 年8 月15 日から観測を開始した。本科研費により地上解析計算機と地上ソフトウエアの整備を行い、2009 年12 月から観測データの自動世界公開を行っている。MAXI は3 年9 か月を経た現在でも順調に観測を続けている。3 年間の観測で|b|>10°の高銀緯領域において0.6mCrab 以上の502 個のX線源を検出した。14 個のセイファート銀河からも有意なパワースペクトルを得たが、検出器数が予定より半減、観測時間が半減したため統計負けし、精度の良いブラックホールの質量推定には至っていない。