著者
須賀 晃一 吉原 直毅 薮下 史郎 若田部 昌澄 若松 良樹 船木 由喜彦 須賀 晃一 藪下 史郎 飯島 昇藏 船木 由喜彦 若松 良樹 梅森 直之 川岸 令和 清水 和巳 若田部 昌澄 谷澤 正嗣
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

社会的正義の基本概念は、今日の社会的問題、公共的問題に解決策を示唆しうるもの、また社会の歴史的・民主的発展に適合的な内実を備えたものであるべき点が明らかにされた。さらに、社会的正義の諸要素間の論理的整合性を追及する一方で、政策理論の基礎を与える組合せを、対象となる財・サービスごとに検討すべきことで合意が得られ、公共財・準公共財・価値財などに関していくつかの試みがなされた。公開性、公正性、接近可能性が重視される一方で、匿名性の処遇については意見が分かれた。
著者
若田部 昌澄
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

1970 年代日本のマクロ経済思想と経済政策の関係について歴史的な考察を行った。この場合の歴史的というのは、経済史的な事実を踏まえるだけではなく、経済学史、経済思想史的な観点から、当時のマクロ経済政策を分析することを意味している。この研究では、大きく言って三つの成果を得た。第一に、1970 年代の大インフレはそれを許容する経済思想のもとで生まれた。当時の政策担当者の間においてはインフレを許容する思想が強かった。為替政策については円高を恐れる発想が強く、財政政策については福祉国家建設が。第二に、日本銀行においては複数の思想があったものの、70 年代の経験を通じて物価安定化を強調する思想が強化されることになった。第三に、国際通貨制度の変化に対して当時の政策担当者、経済学者は一部の例外を除いてブレトン・ウッズ体制を前提としており、それが70 年代大インフレに貢献したと考えられる。
著者
川田 順造 鈴木 裕之 鶴田 格 分藤 大翼 塚田 健一
出版者
神奈川大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

世界でもアフリカ地域はとくに、「音文化」が豊かに発達し、継承されてきた地域だ。西洋近代で作られた「音楽」に当たる概念はあまりに狭いので、口頭伝承、器音、身体表現をともなう歌や囃子なども含めた「音の文化」を、私たちの班では研究対象としてきた。近年日本へも盛んにミュージシャンが来演している「グリオ」系の声のパフォーミング・アーツはじめ、アフリカ起源のアメリカ黒人が生んだ、ジャズ、レゲエ、ラップにいたるまで、20世紀の世界の音楽は、アフリカの音文化を抜きにして語ることができない。アフリカでもすでに、いくつもの音文化がユネスコの世界無形文化遺産として登録されているが、大陸全体での音文化の豊かさから見れば不十分であり、ユネスコなどの国際機関を通じて世界に知らせるべき無形文化遺産(日本の公式用語では無形文化財)はまだ多い。私たちの研究班では、アフリカのさまざまな地域ですでに長い調査体験をもつ研究者の、現地調査に基づく第一次資料によって、今期3年度間には、無形文財を支えている地域社会との関係を明らかにする研究を行った。無形文化財は、有形のものと異なり、それを担い、未来に向かって継承してゆく地域社会との結びつきが極めて重要であり、地域社会なしには、無形文化遺産はあり得ないと言ってもいい。今期私たちの班では、西部アフリカ(ブルキナファソ、ギニア)、中部アフリカ(カメルーン)、東部アフリカ(エチオピア、タンザニア)と、かなり偏りなく取りあげられた地域社会について、それぞれが継承してきた音文化との関わり、継承の未来について研究した。その研究成果は、研究代表者川田が多年専門家として活動してきたユネスコにも報告しており、活用されることが期待される。
著者
西村 美保
出版者
福岡教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究ではヴィクトリア朝における女性の召使について、衣服、生活、文学表象という3つの観点から考察を深め、彼らのヴェールに包まれた生活に少しでも光を当てようと努めた。ヴィクトリア時代に、召使の数が急増した背景には幾つかの理由が考えられるが、最も重要なのは召使がステイタス・シンボルであったことである。中産階級として見られたい人々は少なくとも一人は召使を雇った。召使の世界にも階級があり、女性の召使の場合、ハウスキーパーを頂点に、レディーズ・メイド、ガヴァネス、乳母と続き、底辺に雑役女中がいた。雇われる家の規模や雇い主の所得によって、その数や賃金は異なったが、賃金表には謎の部分も多い。仕事着は女性の場合、自身で用意する事が期待されることも多かった。当時の写真はあたかも彼らの衣服が白か黒といった印象を与えがちであるが、イギリスの博物館が所蔵するメイドの衣服や、アーサー・マンビーの日記におけるハンナ・カルウィックの衣服への言及はメイドの衣服としてライラック色のコットン・プリントのドレスも当時一般的であった可能性を示唆している。文学表象としての召使いを吟味するにあたって、ヴィクトリア朝小説4作品を取り上げた。女性の召使は欲望の対象として見なされがちであるが、主人の話し相手から結婚の対象となったり、情報提供者としての役割を与えられ、プロットにひねりを加える場合もある。文学テクストに描かれる召使が現実社会における召使とそう違わないことから、それだけ召使が作家にとって身近なものであったと言う事ができる。召使いの登場は小説にリアリティとファンタジーの両方をもたらしている。召使いが主人と結婚することは現実世界においては滅多に起こらないことであり、階級差のある男女の交際や結婚がいかに困難を極めたかはハンナ・カルウィックとアーサー・マンビーの事例が鮮明に物語っている。
著者
藤澤 健司 宮本 洋二 石川 邦夫 湯浅 哲也
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

われわれは水酸化カルシウムを出発物質として、焼結反応なしに低結晶性炭酸アパタイトの開発に成功している。炭酸アパタイトの粒径の違いによる吸収と骨形成に及ぼす影響を検討したところ、顆粒径の小さいものほど吸収が大きく、また骨形成が大きくなることが示された。さらにウサギのサイナスリフトの実験では、骨置換性と吸収性に優れ、骨補填材として有用であることが示唆された。
著者
岡ノ谷 一夫
出版者
千葉大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

鳥類のうち、鳴禽に属する種は、種間コミュニケーションに使う音声を2段階の学習によって獲得する。まず、成鳥の歌を聴き、聴覚的記憶を形成する時期があり、それに続いて、自分で発声しながら、発声パターンと聴覚記憶とを照合させる過程である。こうした過程を経て学習された歌はある程度定型的だが、鳴禽類の一種、ジュウシマツにおいてはある種の文法規則で表現できる可塑性を持っている。ジュウシマツは東南アジアの野鳥コシジロキンパラを家禽化した種である。コシジロキンパラの歌は、ジュウシマツとは異なり線形で定型的である。2種を使って親を入れ替える実験を行った結果、この2亜種間の歌の違いは、学習のちがいのみならず、生得的な学習可能性の違いであることが、私たちの研究でわかってきた。さらに、ジュウシマツの歌制御神経系の一部(NIf)を破壊することで、複雑な歌が単純化することから、この部位が文法生成に関連していると予測される。ジュウシマツとコシジロキンパラのNIfは、光学顕微鏡のレベルでは違いが見られず、容量にも差がない。このことから、分子レベルで違いを検出する必要がある。NIfの遺伝子発現の違いが、文法のありなしを決めているとの仮説を立て、マイクロアレイを使ったスクリーニングを行うことにした。初年度は、ジュウシマツとコシジロキンパラの成鳥オスの脳を薄切し、それぞれの切片から5つの歌制御神経核を切り出し、cDNAライブラリーを作成した。
著者
飯吉 令枝 平澤 則子 小林 恵子 藤川 あや
出版者
新潟県立看護大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

高齢者の健康状態と生活の追跡調査により、IADL低下に関連する要因として加齢、食料品の買い物等日常生活行動や地域の役割遂行があげられた。また保健師への聞き取り調査から、保健師は日常生活のしづらさを把握して自立生活継続につながるための介護予防マネジメントを行っている反面、介護予防が必要な高齢者の早期発見の工夫が課題としてあげられた。申請者らはこれらの調査から介護予防が必要な高齢者を早期発見するための近隣での見守りリストを作成し、民生委員に調査した。8割以上の民生委員が役立つと回答し、このリストの活用の可能性が示唆された。
著者
楪 博行 栗山 修
出版者
京都文教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

大規模被害への損害賠償について、アメリカの大規模不法行為と証券詐欺の事例を参考にして、これらの事例の現況と問題点を検討し、わが国へ示唆するものを考察した。多くの大規模不法行為および証券詐欺の訴えはクラス・アクションによる。そこで、アメリカにおけるクラス・アクションの現況を踏まえ、コモン・ローと大陸法体系をもつカナダでの状況と比較しながら、クラス・アクションでの損害賠償の妥当性を中心に検討した。
著者
茂木 一司 福本 謹一 上田 信行 苅宿 俊文 刑部 育子 阿部 寿文 下原 美保 佐藤 優香 宮田 義郎 熊倉 敬聡
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

異文化理解・多文化共生の可能性を探る身体・メディア活用型プロジェクトの主要な成果は、(1)日本文化(美術)、身体を基礎にしたアート(学習)、障害児(者)のアート(学習)、プログラミング(cricket, scratch)による創造学習、などのワークショップの開発・実践・評価、(2)カフェ的な空間=オールナタティブスペースの創出と学びの検討、(3)ワークショップにおけるファシリテータ養成プログラムの開発とNPOの教育力の活用、の3点である。(1)では、異文化や多文化を単なる外国文化との交流だけでなく、障害のあるなしも含めた広い概念で捉え直し、日本文化(美術)を基盤にした(ワークショップ型学習には不可欠な)身体性を中心に据えたワークショップ(型学習)の開発・実践・評価を行い、それが表現性や協同性という特色によって、学びを創造的にし、(学校教育を含めた)現代の閉塞的な教育状況において非常に有効であることが実証できた。(2)(3)では、新しい学びの空間(学習環境のデザイン)をカフェという「ゆるやかにつどい語らう場」での学びがやはり現代教育にとって有効であることやワークショップという学びを支えるファシリテータに必要な資質の検討や育成のプログラムを作成した。
著者
小関 正道 中川 敦子 寺尾 清
出版者
山脇学園短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

1、目的(1)アルカリイオン水が動物細胞に及ぼす影響を直接検討するために、メダカのえら細胞に与える影響を検討する。(2)アルカリイオン水がラットに与える生理的影響を、飼料条件、アルカリイオン水のpHおよびアルカリイオン水の原水の種類を変動させて検討する。2、方法(1)メダカを35℃のアルカリイオン水中に30分間入れた時と、常温で1ヶ月間アルカリイオン水中で飼育した時のえら細胞の形態学的変化を光学顕微鏡で観察する。(2)ラットを酸化した飼料とイオン交換水を原水としたpH10.5〜10.89のアルカリイオン水、市販固形飼料と水道水を原水としたpH10.5またはpH11のアルカリイオン水、またはAIN93飼料とミネラルウオーターを原水としたpH11のアルカリイオン水のそれぞれで飼育した場合の生理的変化を、血液生化学検査値や臓器重量の変化などにより検討する。3、結果(1)メダカを35℃のアルカリ性の水に入れた場合にはえら細胞が破壊されるが、同一pHのアルカリイオン水ではえら細胞は膨張するものの破壊されることはなく、アルカリ性の水に比べ影響が穏やかであった。常温で1ヶ月間飼育した場合にはアルカリイオン水による影響は認められなかった。(2)ラットにアルカリイオン水を摂取させると脾臓重量や胸腺重量が低下することがあり、免疫系への影響が考えられたが、ミネラルウオーターを用いた実験では結果が再現されず、また血清免疫グロブリン値にも変化がなく結論は得られなかったが、更に検討することが必要である。アルカリイオン水を摂取したラットの血清鉄濃度の低下は今回も観察されたが、常に再現される結果とはならなかった。アルカリイオン水摂取による血清脂質レベルの低下はしばしば観察され、特に中性脂肪レベルの低下は有意差にはならないもののほとんどの実験で観察されている。また精巣周辺重量がアルカリイオン水摂取群で低下傾向にあることからも、体内脂肪レベルの低下効果はアルカリイオン水摂取による生理効果として充分に考えられるものといえるので、この点を明白にする研究を早急に実施する必要がある。
著者
加藤 貴彦 黒田 嘉紀 中尾 裕之
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1.サンプルの収集:某電気機械器具製造工場の従業員とその関連会社の従業員、男性1225名、女性429名の計1654名から文書による研究協力の承諾を得た後、詳細なライフスタイル情報・健診データとゲノムDNAを収集した。2.遺伝子診断結果を用いた介入研究:DNAの抽出に成功し、ALDH2遺伝子型の分析の成功例は850名である。意識調査の結果、「解析結果の返却を希望した」社員420名を2群(初期介入群、後期介入群)に分け、専属産業医が遺伝子診断結果を用いた対面による飲酒に関する健康指導を実施した。通知群235名中、期間中に通知できたのは154名(65.5%)で、うち139名(59.1%)を追跡できた。非通知群は、233名中203名(87.1%)を追跡できた。通知前後の飲酒習慣、肝機能検査データは、通知前と通知後1年後の健康診断データを使用した。その結果、毎日飲酒する人の割合は、通知前後で男女とも飲めない遺伝子であるGG型保有者で通知群、非通知群ともに増加傾向がみられた。不況による過ストレスや女性への深夜勤務導入などが要因として考えられた。男女別、遺伝子型別に通知前と通知後5か月のGOT、GPT、_Y-GTP値を比較したが、通知群、非通知群ともに有意な変化はみられなかった。3.行動変容ツールとして有用な候補遺伝子の探索:PhIPの代謝に関与するGlutathione S-transferase (GST) A1の遺伝子多型と前立腺癌、口腔扁平上皮癌、尿路上皮癌との関連性について症例・対照研究を行った。その結果、GSTA1遺伝子多型と喫煙者前立腺癌、男性喫煙者口腔扁平上皮癌、非喫煙者尿路上皮癌罹患とのあいだに、統計学的に有意な関連性が認められた。
著者
西野 耕一
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

水を作動流体とする軸対称衝突噴流を用いて、そのよどみ領域における希薄分散粒子群の乱流特性を実験的かつ数値的に調べ、粒子群の乱流輸送メカニズムおよび伝熱との関係を明らかにした。以下に具体的な研究成果を記す。(1)粒子挙動の3次元計測:2台のテレビカメラを用いるステレオ画像計測技術を適用して、ノズルより希薄に注入されたガラスビーズ(粒径=0.8、1.0、1.2、1.4mm、比重2.6)の軌跡を時系列ラグラジアン計測した。取得されたデータより、オイラー平均量(粒子平均速度、粒子速度変動)、粒子スリップ速度、平均軌跡、平均軌跡からの拡散、速度変動のラグラジアン自己相関などを明らかにした。(2)粒子挙動の数値シミュレーション:連続相は希薄分散粒子相による影響を受けない(one-way coupling)との仮定の下で、Lagrangian eddy-particle interactionモデルによる粒子挙動の数値シミュレーションを実施した。まず、手法構築のため円管内乱流における液滴の管壁付着の予測を行い、従来の報告と良好な一致を得た。次に、衝突噴流場における粒子挙動の予測を行い、(1)に述べた実験結果との妥当な一致を見た。(3)伝熱促進の実験的検討:アルミニウム粒子、スチレン粒子、ガラス粒子を複数の重量割合(1、2、3%)で懸濁させ加熱衝突壁の伝熱促進割合を測定した。その結果、粒子緩和時間と粒子衝突割合との積によりよどみ領域の伝熱促進割合が整理できることを明らかにした。
著者
鈴木 和良 馬 燮銚 小杉 健二
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

シベリアにおける凍土や雪氷の特徴に関して、既存研究成果の取りまとめを行った。その過程で、シベリアの積雪・凍土、ならびに湖氷・河川氷の総説としてまとめ上げ、シュプリンガー出版より印刷中である。本研究で行った実験に関しては、凍結土壌の物理特性として、凍結土壌ならびに未凍結土壌と共に温度が高くなると同じ含水量でも通期係数が大きくなる傾向にあることが分かった。さらに、簡便な同化手法と領域気候モデルの出力を用いて、降水量などの環境因子と融雪流出の年々変動の関係を解析している。
著者
福家 教子
出版者
国立療養所 大島青松園
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

【研究目的】要介護高齢者の摂取食形態を調べ,入所者の口腔内細菌叢,口腔水分量および咀嚼機能を摂取食形態別に比較することによって,きちんと形のある普通の食形態の食事をすることの重要性を明らかにする。【対象】ハンセン病療養所である大島青松園の入所者102名(平均年齢77.4歳)を対象者とした。【方法】1.摂取食形態を普通食,軟食および絶食(非経口栄養剤)に分類して,対象者の食形態を調べた。2.採血して血清アルブミン量を測定した。3.滅菌綿棒で口腔粘膜全体を擦過して検体を採取した。その検体を血液寒天培地,チョコレート寒天培地およびカンジダ培地で塗沫培養し,菌量および菌の同定を行った。4.口腔水分計を用いて口腔内の水分量を測定し,咀嚼力判定ガムを用いて咀嚼能力を調べた。【結果】1.入所者の摂取食形態は,普通食78名,軟食19名および絶食5名であり,普通食の摂取者が最も多かった。2.食形態が普通食から軟食,絶食になるに従って,栄養状態の指標となる血清アルブミン量が減少した。3.普通食摂取者および軟食摂取者の口腔内からは,口腔内常在菌であるαレンサ球菌およびナイセリアを多く検出した。非経口摂取者の口腔内からは、日和見感染症の原因菌である緑膿菌、セラチアおよびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌を多く検出した。また,普通食摂取者に比べて軟食摂取者の口腔内カンジダ菌の検出割合がやや多かった。4.食形態が普通食から軟食,絶食になるに従って,口腔水分量が減少し,咀嚼能力が低下する傾向があった。【考察】より普通の食形態に近い食事を提供することは,入所者に必要栄養量だけでなく「食べる楽しみ」を与え,QOLを向上させることにつながる。さらに,咀嚼による自浄作用や唾液分泌を促し,日和見感染症の原因となる細菌の増殖防止にもなる可能性が示された。
著者
加藤 聖子 内田 聡子
出版者
順天堂大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

我々は以前ヒト正常子宮内膜よりSide Population細胞を分離しSP細胞が長期増殖能を持ち内膜腺上皮や間質細胞への分化能を有すること、このSP細胞の割合は月経期内膜に最も高いことを報告した。子宮内膜症の発症を月経血逆流説から検討するため、インフォームドコンセントを得た患者から月経血を採取し内膜細胞を分離培養しSP細胞を分離しその増殖能を解析した。月経血中の内膜細胞にはSP細胞が存在した(n=5,平均0.704%)。このSP細胞およびnon SP細胞を分離培養し、増殖能を解析したところ、SP細胞の増殖能が亢進されていた。また、コラーゲンプレートに500 cells/cm^2の細胞を播種したところ、SP細胞のみでコロニーが形成され、このコロニーより分離された細胞は同様にコラーゲンプレート上にコロニーを形成した(自己複製能)。また、昨年度ラット子宮内膜細胞のSP細胞とnon SP細胞を用いたマイクロアレイによりSP細胞で有意に発現の高かった受容体蛋白を蛍光免疫染色で解析すると、月経血中子宮内膜のSP細胞にnon SP細胞に比べ陽性細胞数が多かった。以上より、月経血中の子宮内膜細胞に、増殖能の高い、コロニー形成能、自己複製能を有する細胞が存在することが明らかになった。この細胞群が異所性に増殖する性質を持っ子宮内膜症の発生機構に関与する可能性が示唆された。内膜症からの癌化機構を検討するため、内膜症と卵巣癌(明細胞腺癌)が共存する組織切片を用いて、子宮体癌SP細胞で発現が増加していた蛋白の発現を免疫染色法で解析した。この蛋白発現は卵巣癌近傍の子宮内膜症に強く発現されていたが、離れた部位の内膜症組織や正常内膜には発現していなかった。
著者
森田 圭亮
出版者
京都学園大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、個々の事例を包括的に捉える形で、租税回避行動のメカニズムや租税回避の抑制方法に関する分析を行った。また、租税知識に焦点を当てながら、従来の研究ではあまり分析の対象にされていなかったループホールを活用した租税回避行為に関する分析を行った。得られた研究成果は次のとおりである。第1に、所得階層ごとに租税回避を実行する動機が異なることを示した。第2に、新たな租税回避抑制手段として税の前納制度を提案した。第3に、従来各国で行われている租税執行政策の問題点を指摘し、改善策を提案した。第4に、ループホールを活用した租税回避行為に対する税務行政の在り方について提言を行った。
著者
成田 伸 大原 良子 鈴木 幸子 遠藤 俊子 齋藤 益子 吉沢 豊予子 野々山 未希子 水流 聡子 跡上 冨美 矢野 美紀 西岡 啓子 加藤 優子 森島 知子 齋藤 良子 角川 志穂 段ノ上 秀雄 黒田 裕子 工藤 里香
出版者
自治医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

望まない妊娠や性感染症罹患の予防を専門的に支援する避妊・性感染症予防カウンセラー育成プログラムを構築した。プログラムは6日間の集合教育と専用のウエブサイトを活用した自己学習からなり、2008年度と2009年度の2回にわたって助産師を対象に開催した。育成プログラムの成果を評価するために、受講者と非受講の比較群で学習成果を比較した結果、受講者に知識の増加や態度の変容がみられた。また受講者のカウンセリング能力が向上した。今後は、育成されたカウンセラーの実践自体を評価する研究が必要である。
著者
竹内 典之 野中 理伸 中島 皇
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

本研究によって開発された撹拌型融雪雨量計は従来の溶液型融雪雨量計の溶液を低温・降雪時に撹拌することによって凍結を防ぎ、降雪の融解を促進させる機能を持たせた独創的なものである。また、太陽電池+バッテリ-仕様の観点からは太陽エネルギーを直接融雪に利用できるような機器の先駆的役割をなすものである。この試作機は従来の貯留式雨量計、ヒーター付き雨量計に比べれば、それぞれデータが短いインターバルで取れる点、AC100Vが供給できない場所(山地域や森林地帯)でも観測可能な点などが優れている。京都大学芦生演習林において、1995年から1997年にかけての二冬の野外長期稼動試験の結果、新撹拌型転倒マス雨量計と撹拌型貯留雨量計は約1000mmの期間総降水量、降雪強度50mm/日の降水も確実に記録し、撹拌型融雪雨量計の有効性が確かめられた。また、北海道演習林での野外試験によって、この試作機は暖地のみならず寒地の積雪地帯でも使用できる可能性が出てきた。現段階では撹拌器に市販のバスポンプが用いられているが、今後の課題として効率の良いモーターの選定(作成)及び太陽電池とバッテリ-の組み合わせの駆動電源装置システムの小型化・計量化が挙げられる。また、その実用化が図られれば、アメダスの観測所等などでも広く採用されるようになり、冬期の精度の良い降水量データが場所に制約されることなく得られる。冬期の降水量が正確に把握されれば、積雪地域おける降雪・融雪のメカニズムやその流域の流出特性の解明など、森林水文学の分野に大きく貢献することになる。それのみならず、冬期の降水量は夏期の渇水に大きく関与していると思われ、精度の高い降水量の見積と流出特性の把握は水資源という面にも有用なデータを提供することになる。
著者
酒井 治孝 瀧上 豊 酒井 英男 谷村 好洋 豊田 和弘 百原 新 桑原 義博 山中 寿朗 藤井 理恵
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

ヒマラヤ山脈上昇史の鍵を握る変成岩ナップは, 約1440万年前に地表に露出・急冷し, 年間3-4cm の速度で南南西に前進し, 約1100 万年前に運動を停止した.冷却は先端から北方へ向け年間約1-1.5cm の速度で進行した.古カトマンズ湖の泥質湖成堆積物の堆積開始は約100 万年前まで遡り, 寒冷期には化学的風化が進まず, 堆積速度が遅く, 温暖期には化学的風化が促進され, 堆積速度が速かったことが判明した.
著者
佐藤 啓文
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

1.分子内の構造揺らぎを扱うためには、相互作用点モデルに基づく記述が便利である。しかしながら、このモデルは距離空間(Distance Geometry)内での表現であるために、現実の三次元空間との対応が必ずしも容易ではない。このために相互作用点モデルを用いると直感的な理解がしばしば困難になる。典型的な例は溶媒和構造を表す動径分布関数である。これは一次元方向への射影であるために、実際に「どんな水和構造か」という視覚的な理解と常に単純に結び付けられる訳ではない。そこで、我々は相互作用点モデルによる結果(動径分布関数の組)を、通常の三次元空間内の分布関数へ変換する新しい方法を提案した。この方程式では、溶質分子を構成する各原子を中心とした球面調和関数等の角度依存する基底関数系で分布関数を展開する。その結果、単純な線型方程式を解けばよく、従来の類似法で必須となる繰り返し計算等を避けて、簡便に三次元分布関数を決定できる特長がある。また、液体の積分方程式理論はもちろんのこと、分子シミュレーションや散乱実験の解析にも利用できる可能性がある。2.典型的な量子化学的立場では、分子間相互作用は、波動関数・電子分布に基づいて議論される。一方、分子シミュレーションなどの古典的描像では、分子を構成する原子間の相互作用として捉えるほうが一般的であり、直感にも直接訴える。そこで、量子化学的な多体相互作用をMulliken近似に基づいて分解することで、量子化学的な分子間相互作用を原子を単位とした新しい表式を導いた。この方法は、今後構造揺らぎを扱う積分方程式理論を構築していく上で、重要な礎になると考えている。3.キサンチンオキシダーゼによる酸化反応について、量子化学計算や、周辺残基の効果を取り入れたQM/MM型の計算を行い、反応機構を解明した。その結果、従来理論計算によって提案されている機構は、計算手法や実験事実との整合性に問題があることが明らかとなった。