著者
井川 憲男 赤坂 裕 石野 久彌 郡 公子 曽我 和弘 松本 真一
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

気象庁の20年間(1981〜2000年)の全国842地点のアメダスデータを利用して、欠測や非観測要素を補充して作成され、2005年に拡張アメダス気象データが公開された。拡張アメダス気象データを多目的に有効活用するには、人体や建材等への影響を予測するための紫外放射量(UV-A,UV-B)や、緑化に関連する光合成有効放射量(PAR)など、現状の拡張アメダスに収録されていない基礎データを増強する必要がある。気象要素推定モデルを開発するため、基礎データを収集することを目的として、これまでに日射量、気温、湿度、風向・風速などの気象観測を実施している秋田県立大学(由利本荘市)、首都大学東京(八王子市)、大阪市立大学(大阪市)、鹿児島大学(鹿児島市)、に、本補助金によって照度、UV-A、UV-B、PAR、赤外放射量などのセンサーを追加導入し、計測システムを再構築した。測定開始日を平成18年1月1日とし、1分間隔での測定を開始した。現在、1年間以上の測定データが蓄積され、さらに、測定を継続している。測定データを基に、紫外放射量と日射量の関係を詳細に比較検討し、晴天指標と澄清指標で天空状態を分類する方法が、日射量からUV-A、UV-Bを推定する数式モデルの開発に有力な手法であることが確認できた。また、日射量から照度を推定する既開発モデルを測定データにより比較検証し、その高い推定精度が再確認できた。日射の直散分離法についても基本モデルを提案した。また、風向・風速・降水量については長時間間隔のデータから、1分間隔のデータを推定するための手法を検討し、基本的方向性が見えてきた。今後、さらに測定を重ね、長期連続測定により取得した各種気象要素データを基に、拡張アメダス気象データをさらに増強、高精度化するための気象要素の推定法を開発する予定である。今後得られる成果より、さらに多目的利用が可能な、次世代の「拡張アメダス気象データ」を多数のユーザーに提供できると信じる。
著者
飛奈 裕美
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

筆者の研究課題は、イスラエルの非軍事的占領政策が、エルサレムのパレスチナ社会の日常生活にどのような影響を与えているか、およびそのような日常生活のなかでパレスチナ人は占領を生き抜くためにどのような戦術を用いているか(非暴力的抵抗)を明らかにすることである。今年度は、東エルサレムを中心としたパレスチナ/イスラエルでのフィールドワークに重点を置き、以下の項目の調査を行った。(1)東エルサレムでは、パレスチナ人の住居が「違法建設」として破壊されるという問題が起こっている。イスラエルの建設制度や住宅政策を検証することを通して、なぜパレスチナ人が「違法」に住居を建設しなければならない状況に陥るのかを、法的・行政的側面から明らかにした。その上で、パレスチナ人が東エルサレムに住み続けるために、住居建設という分野でどのような戦術を用いているのかを明らかにした。本調査項目の研究成果を、2008年9月にウランバートルで行われた国際学会で口頭発表にて発表を行い、そこでの議論も踏まえて、論文にまとめ、『イスラーム世界研究』第2巻2号で発表した。(2)東エルサレムのパレスチナ人には、ヨルダン川西岸・ガザ地区のパレスチナ人とは異なる法的地位が与えられている。それはイスラエル居住権という地位であり、居住権はイスラエル市民権とは異なり、イスラエル内務省の裁量によって剥奪可能な法的地位である。このような脆弱な法的地位を与えられていることによって引き起こされる東エルサレムのパレスチナ人の日常生活上の諸問題をフィールドワークで明らかにした。本調査項目の研究成果を、(A)(1)の研究成果と合わせて2008年9月にウランバートルで行われた国際学会、(B)2008年11月にクアラルンプールで行われた国際シンポジウム、(C)2008年12月に京都で行われた国際シンポジウムにて発表した。以上のように、本年度は、フィールドワークに重点を置きながら調査を行い、国際学会・国際シンポジウムで積極的に研究成果を海外に発信しながら議論を行い、その成果を日本語および英語でまとめて発表した。
著者
大高 保二郎
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

わが国においてほとんど未開拓の分野であったイベリア半島の古代美術について、前3世紀末から見出される古代ローマの影響を境に、1.古代イベリア美術(広い意味において)、2.ギリシア・ローマ的美術、に大別される。前者は、土着のイベリア半島の風土にケルト、フェニキア(後にカルタゴ)の流入で緊密に融合して東方的な様式を形成する一方、後者はその伝統を断ち切り、古典的な美術様式を移植することになった。
著者
平井 肇
出版者
滋賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

国境を越えてスポーツに参加する人々について、競技種目や競技レベル、参加の形態、場所などの多様なケースや角度から分析し、彼らの行動や経験が身体文化の伝播や授業、普及にどのような影響を及ぼすのかについて検討した。その結果、スポーツのグローバル化が人々のスポーツとのつきあい方をより多面的で多様なものにしていること、スポーツのグローバル化にみられる現象や問題、課題は、他の文化や社会制度と共通する点が多々あることが明らかになった。
著者
久方 瑠美
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本年度は、視野安定および物体の定位に関連する錯視として「運動による位置ずれ」錯視と、輪郭運動および眼球運動との関係を実験的に検討した。「運動による位置ずれ」とは、ぼやけた静止輪郭内に運動するもの(例えば正弦波)が存在する場合、静止輪郭が内部の運動方向へずれて知覚される現象である。従来の研究では、静止している輪郭へ内部正弦波の運動がどう影響するかについて調べられて来た。そこで本研究では、輪郭自体も内部正弦波と独立に運動する場合において「運動による位置ずれ」がどのように発生するのかを調べるために実験を行った。その結果、輪郭自体が運動していてもそれに関係なく、輪郭の位置ずれは内部正弦波の運動方向へ発生することが明らかになった。さらに、網膜上において刺激の輪郭が内部正弦波と逆方向に運動している場合に、位置ずれ量が大きくなる非対称性が明らかになった。この実験結果から、網膜上の運動情報が「運動による位置ずれ」に重要であることを示している。今後、この実験結果をふまえて、どのような種類の運動が運動による位置ずれに重要であるか検討していくことができるだろう。
著者
綱島 亮
出版者
山口大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

ポリ酸と呼ばれる分子性金属酸化物について、簡便に行えるクロマトグラフィー的分析手法の開拓を目指し、電気泳動に注目した。個々のポリ酸は、サイズと電荷に依存した移動度を有することを明らかにした。これにより、様々なポリ酸が混在する溶液中であっても、任意の成分を分離することが可能になり、合成収率の向上や形成機構解明に向けた反応系のクロマトグラフィー分析が合成実験の範疇で行えるようになった。
著者
嶋田 義仁 砂野 幸稔 鷹木 恵子 今村 薫 菊地 滋夫 縄田 浩志
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

イスラーム圏アフリカにおける白色系民族と黒色系民族の紛争と共存のメカニズムを総合的に地域比較するなかで,宗教と民族の関係を宗教人類学的に考察することが本研究の全体構想であった。本研究期間中に総計41回の海外調査を24ヵ国において実施した。また,4回の国際ワークショップを開催して国際的な研究者ネットワークの構築を図るとともに,4巻の『イスラーム圏アフリカ論集』を発刊して西アフリカ,東アフリカ,北アフリカそれぞれのイスラーム圏を総合的に比較研究した。イスラーム圏アフリカにおける白色系民族と黒色系民族の紛争と共存のメカニズムの宗教人類学的論考をまとめた『イスラーム圏アフリカ論集V』を,電子ジャーナルとして現在編集中である。
著者
永木 正和 木立 真直 納口 るり子 茂野 隆一 松下 秀介 川村 保 広政 幸生 長谷部 正 坪井 伸広
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

1.国内研究本年度は研究最終年度にあたるため、各分担者間の研究分担課題の最終微調整、課題の確認、補足的な調査活動、および研究会での研究成果の報告を内容とする活動を行った。国内調査等は個別補完的に行うものとし、小規模にとどめた。2.海外交流、海外調査(1)韓国の農産物・食品流通は日本と類似の展開が認められている。わが国の韓国からの輸入依存が高まる可能性が高いとの認識から、以前より韓国の研究者集団(韓国生鮮農産物新流通研究会)と交流をもっていたが、相互研究発表の形でソウルにおいて「日韓共同シンポジューム」を開催した。情報システムと物流システム(特にロジスティックス)の構築が主要な議論となった。(2)日韓シンポジュームの後は韓国農村で生鮮野菜の流通システムを調査した。3.秋以降は数次の研究会(主に筑波大学にて)(1)筑波大学で公開研究会を開催し、分担者は順次研究報告した。最後の2月の研究会では、本研究全体の統一コンセプトの再確認、ならびに総体的な結論について討論した。(2)研究成果を要約的に言及すると、方法論的には産業組織論であるが、主として川下に切り口を置くアプローチをとった。ちょう度、食品の安全性問題や風評被害が発生した時期であり、これまで市場経済学やマーケッティング経済学ではあまり重視されてこなかった「製品品質の1つとしての安全性」、「製品に付加する1つのサービスとしての安心」を市場流通させるための不可欠な商品属性であることを見いだし、これを取引理論、情報理論を手がかりにした経済学理論を構築した。また、経済学の範疇を超えて、消費者倫理に関しても、一定の考え方を提示できた。(3)ホーム・スキャン・データ等の新しいデータ利用等から、この時期に発生した食品の品質事故問題、また伝統食品対遺伝子組み換え食品の対比での商品の認証や差別化流通に関するタイムリーな消費者行動の実証分析をなし得た。(4)消費者行動の多様化に対応して国内流通・加工業が顧客をターゲット化しており、それが商品に付随する品質やサービスの多様化、市場を主導している小売り市場の多様化、海外からの原料農産物積極輸入の背景が解明された。国内小売業の競争戦略、品質管理戦略に端を発して流通システムが海外からの輸入急増を導いていた。海外での市場再編動向の最新事情も入手した。4.本研究の成果と公表の仕方今年(平成14年)6月末を目処にして専門著書としての公刊を予定している。各分担者はさらなる研究成果の精緻化と推敲に取り組んでいるところである。
著者
谷口 昌宏 西川 治 山岸 晧彦
出版者
金沢工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

走査型アトムプローブ(Scanning Atom Probe, SAP)の特性を活かすことで酸化チタンによる有機分子の分解を個々の原子のレベルで解析する事に成功した。また、金属状態のチタンの表面に生成する酸化膜も酸化チタンの純粋な試料と同様に有機分子の光分解活性を示すことを見出した。また、有機分子が解析出来るという利点を生かして、生体分子の分析を試み、いくつかのアミノ酸を構成する原子群を直接検出する事に成功した。
著者
北市 伸義 大野 重昭 南場 研一 吉田 和彦 大神 一浩
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究ではぶどう膜炎における疾患感受性遺伝子や再発など予後に影響を与える遺伝子を検索した。まず世界14ヵ国25施設のベーチェット病臨床像をまとめ、地域による症状や予後の違いを明らかにした。日本では同病の視力予後は依然として不良で、小児発症例が少ないことも明らかとなった。並行して各国からベーチェット病や原田病、尋常性白斑などの遺伝子サンプルを収集・検討し、ベーチェット病と原田病の間で再発に関与すると考えられる遺伝子に差異が見られた。
著者
佐藤 昇
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

本年度はまず、アテーナイ民主政が、紀元前4世紀(とりわけ380年代)の国際環境と国内世論とのせめぎ合いの中で如何にして政策決定に至ったのか、諸要素の相互関係について、外交に関わる二枚の民会決議碑文の検討を行なった。この成果に関しては、論文'ATHENS, PERSIA, CLAZOMENAE, ERYTHRAE : AN ANALYSIS OF INTERNATIONAL RELATIONSHIPS IN ASIA MINOR AT THE BEGINNING OF THE 4TH CENTURY BCE.'として、『Bulletin of the Institute of Classical Studies』誌第49号(2006年)に掲載される予定である。また同時に、紀元前4世紀アテーナイにおける贈収賄言説についての分析を行なった。当該期の弁論史料中に見出される膨大な賄賂言説を整理し、贈収賄に関する非難が発生する文化的、社会的背景に対して検討を加えること通じて、民主政アテーナイには如何なる権力観が共有されていたのかを考察し、更に民主政への市民参加社会層との関わりについて考察を加えた。この件については、その成果の一部を、5月にロンドン大学キングスカレッジ古典学部に於いて、口頭報告の形式で発表した。さらに、この調査全体を、東京大学大学院に提出する学位請求論文としてまとめた。給付された科学研究費補助金は、以上の諸テーマに関する、欧米各国で出版されている研究文献、一時史料の入手、及びデータ整理等に要するパソコン周辺機器の購入に充てられた
著者
BERTHOUZE Luc
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

The purpose of the study was to understand the mechanisms underlying early locomotor skill acquisition by replicating the bouncing study of Goldfield et al. (developmental psychology) by using a robot strapped to a Jolly Jumper. Such replication was expected to help construct hypotheses and predictions on the key requirements for the acquisition of motor skills in humanoid. A small biped humanoid robot was constructed for the purpose of the experiment. In human infants, the natural compliance of the infant's musculoskeletal system reduces the dynamic loads of bouncing. In robots, however, mechanical compliance has a negative influence on positional accuracy, stability and control bandwidth. Compliant extensions were constructed using visco-elastic material placed in brass bushes and mounted in series with the actuators. A compliant foot system was implemented as using springy toes and a rigid heel. While compliance provided the damping necessary to cut off oscillations at an early stage, it also induced backlash, which from a control point of view, results in delay in the feedback loop. For robust jumping performance to occur, those delays must be compensated for by the control structure. A control structure based on biologically-plausible oscillators (Bonhoeffer-Van de Pol) used as pattern generators, was developed. It was shown that the architecture displayed flexible phase locking whereby the oscillators could entrain to sensory feedback from sensors placed under the feet, even in the presence of large delays. This property of flexible phase locking makes the choice of a particular organization of oscillators less critical than when harmonic oscillators are used, especially when self-tuning of the oscillators' time constants is possible ("tuning" phase studied in year 15). Robustness to environmental perturbations was tested systematically. The control framework showed to be very flexible, with rapid adaptations to changes in ground height for example.
著者
福島 敦樹
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

実験的アレルギー性結膜疾患発症における抗原提示細胞の役割を解析した. 結膜に存在する抗原提示細胞の表面に発現している共刺激分子が結膜炎誘導能を持つT細胞を活性化し, 結膜炎発症に関与している可能性が示唆された. 抗原提示細胞としての機能を持つマクロファージにはF4/80やCD11bが発現している. これらの分子はマクロファージのみならず好酸球にも発現しており, 結膜好酸球浸潤に重要な働きを持つことが判った.
著者
飯塚 正人 大塚 和夫 黒木 英充 酒井 啓子 近藤 信彰 床呂 郁哉 中田 考 新井 和広 山岸 智子
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

ムスリム(イスラーム教徒)を反米武装闘争(「テロ」)に駆り立ててきた/いる,ほとんど唯一の要因と思われる「イスラームフォビア(ムスリムへの迫害・攻撃)」意識の広範な浸透の実態とその要因,また「イスラームフォビア」として認識される具体的な事例は何かを地域毎に現地調査した。その結果,パレスチナ問題をはじめとする中東での紛争・戦争が世界中のムスリムに共通の被害者意識を与えていること,それゆえに反米武装闘争を自衛の戦いとして支持する者が多く,反イスラエル武装闘争を支持する者に至っては依然増加を続ける気配であることが明らかになった。
著者
小谷 泰則 石井 源信
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究ではfMRIと脳波を用いて、メンタルトレーニングの効果を評価し、脳活動モデルをもとにした新たなメンタルトレーニング・プログラムを開発することを目的とした。本研究では、まずこれまでの日本において行われたメンタル・トレーニング研究に関して歴史的な経緯を含め、文献レビューを行った。さらに、近年の脳科学研究における内容を参考に「メンタル・トレーニングの生理心理学的メカニズムについて文献研究を通して仮説を立てた。研究1では、被験者は、大学スキー選手を対象とし、メンタルトレーニング・プログラム実施の前と実施後にそれぞれスキー滑走イメージ中の脳活動をfMRIを用いて測定した。研究2では、イメージ及び集中力、動機づけのトレーニングのトレーニングプログラム実施の前後に脳波を測定し、研究3では、動機づけと関連する脳活動について研究を行った。その結果、メンタルトレーニング・プログラムに対して以下のような新たな示唆を見いだすことができた:(1)イメージトレーニングでは、実際の運動学習場面や日常のトレーニング場面と同様に、Step by step的なイメージの内容を想起させることが重要である。(2)時付けを高めるプログラムでは、個々のトレーニング課題に明確で具体的な数値目標を設定し、その目標の何パーセントを達成できたかという「正しくて詳しいフィードバック情報」を与えることが重要であると言える。(3)また、本研究のfMRIを用いた実験から、脳の島皮質が情動をともなう情報と関連していることが示された。島皮質は、体制感覚の情報を処理し、それを意識化する働きをしていると考えられている。そのため、リラクセーショントレーニングとして、選手の心拍が低下したといった身体の安静化への意識付けが情動のコントロールに非常に効果的であることが示された。
著者
辻 俊宏 山中 一司 三原 毅
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

走査プローブ顕微鏡により逆圧電応答を計測する圧電応答顕微鏡(PFM)により、強誘電体メモリ用薄膜の疲労現象やMEMSのアクチュエータ用薄膜の性能向上のメカニズムが明らかにされつつある。しかしデバイスの動作環境、すなわち分極反転過程および逆圧電駆動中の分域をナノスケールの空間分解能で観察する手法は確立されていない。本研究では、表面に作製した電極対(表面電極対)の微小なギャップを利用してデバイスの動作環境の再現を試み、ナノスケールにおける弾性特性評価が可能な超音波原子間力顕微鏡(UAFM)により評価して、強誘電体材料の実用的な環境における材料評価技術の確立を目的とした。強誘電体材料には様々なものがあるが、ここでは特定の結晶方位に分極処理を施すことで従来の材料に比べて著しく高い圧電係数を発現することで近年注目されているマグネシウムニオブ酸鉛(Pb(Mg2/3Nb1/3)O3-PbTiO3:PMN-PT)単結晶について実験を行った。その結果、この材料はキュリー点が130℃と低いために真空蒸着による電極作製時の入熱で脱分極分域組織が発生してしまったものの、表面電極対の電場で分域構造を駆動可能なことが初めて示された。その際に発生した分域境界をUAFMで観察した結果、表面下で斜めになっていることを示唆する結果が得られた。これはPFMのように誘電率の高い材料で電場が表面に集中する状況では不可能な測定であり、UAFMによる表面下欠陥の3次元構造の解析の可能性を実証できた。このように強誘電体材料の分域構造の評価において表面電極対を用いた電界印加およびUAFMによる非破壊評価が有用なことを初めて実証した。以上の研究により微細加工電極により分極・駆動される強誘電体の超音波原子間力顕微鏡による非破壊評価に関する基盤技術が確立でき当初の目的を達成した。
著者
藤田 栄一
出版者
大阪薬科大学
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1984

本研究班では新しい化学構造を有する優れた抗癌剤の生産的開発ならびにそれらの有用性について組織的に研究している。新抗癌剤の合成開発研究分野からは、放射線制癌における新規低酸素性癌細胞増感剤としてニトロトリアゾール誘導体の開発、カンプトテシン系新規抗癌剤の新しい簡便合成法のための重要中間体の好収率合成、抗腫瘍性天然物メガホン、スパトールなどの能率的不斉全合成、新規核酸系抗癌性化合物2′、3′-ジデオキシ-2′-(または3′-)置換リボフラノシルシトシンの開発、抗腫瘍活性シソ科ジテルペンの一種シコクシンの活性増強化、分子軌道法的計算を基盤とする抗腫瘍性シクロペンテンジオン類の合成開発、脳腫瘍の化学療法改善を企図するオキシセルローズ-アドリアマイシン複合体の合成開発、制癌性トロポロン誘導体の合成と構造活性相関の解明などに成功した。天然資源からの新規抗癌剤の探索に関する分野においては、中国産シソ科植物から抗癌性ジテルペン、ラブドロキソニンAの単離構造決定、抗腫瘍性多糖体誘導血清内腫瘍退縮因子の癌治療の応用に関する問題点の解明、放線菌代謝産物から新規抗癌性天然物ラクトキノマイシン-A及び-B、カズサマイシン、アワマイシン、トリエノマイシン-A及び-Bなどの単離構造決定、茜草根より抗癌活性スペクトル幅の広い2環性ヘキサペプチドの単離と化学構造の解明などに成功した。新規抗癌性化合物SM-108、ネプラノシンA、MST-16などの投与法、他の薬剤との交叉耐性ならびに作用機序に関しても興味ある新知見を得た。本年度は本研究班が認可されて2年目になるが、上述の通り数々の新知見ならびに有望な新規抗癌性化合物が、合成と天然資源からの探索の両面から見出されており、可成りの成果が得られたと考えている。さらに各分野研究者の専門的知識と情報を結集して本研究課題を強力に推進させたい。
著者
小澤 浩之
出版者
昭和大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

【目的】強制的歯牙移動時の疼痛により、プロトオンコジンのひとつであるFos陽性細胞が脳に発現することが中枢神経における可塑性、持続性疼痛と関連が深い現象として注目されているが、そのメカニズム解明の第一歩として今回は動物実験におけるFos陽性細胞出現の推移と、アンケート調査により実施した矯正治療中の患者の傷み感覚の推移について比較検討することとした。【動物実験の方法】Urethane,α-chloralose麻酔下で、Wistar ratをindomethacin投与群、非投与群に分けそれぞれ200gで上顎切歯を離開する矯正刺激を加えた。各群とも刺激直後、2時間後、12時間後に4%paraformaldehyde溶液で灌流固定し脳幹部の凍結切片作成後、抗c-foc抗体を用いたABCによりSP5CにおけるFOS陽性細胞を免疫組織学的に検索した。また、矯正刺激を24時間経験させたラットに1週間後同様の手順で刺激し経時変化を調べた(矯正刺激経験群)。【結果および考察】動物実験における経時変化では、2時間後をピークとして陽性細胞が認められた。indomethacin投与群においては反応が見らなかった。一方患者の痛み反応としては、2時間後より痛み反応が出現し、48時間をピークとして減少した。また矯正治療直後にロキソニン(三共)60mgを経口投与した場合、痛み減少傾向を示した。したがって、Fos陽性細胞の出現は、実際の痛み感覚よりもかなり早く出現し、そそ消失後も実際の痛みは長く継続する性質があり、それにプロスタグランディンが関与していることが示唆された。また、痛み刺激経験群においては、動物実験においてはFos発現細胞数が減少し、患者においては痛み反応が低下した。したがって、間欠的に繰り返される痛み刺激に対して、受容系が寛容状態になることが示唆された。
著者
松尾 裕彰
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

昨年度に行った研究で、健常人においてアスピリン以外の非ステロイド性抗炎症薬であるロキソプロフェンナトリウムやジクロフェナクにもアスピリン同様に小麦製品摂取後の血中グリアジン濃度上昇作用があること、および、非ステロイド性抗炎症薬のなかでもシクロオキシゲナーゼ2を選択的に阻害するメロキシカムはその作用がほとんど無いことを明らかにした。本年度は、血中に検出される小麦グリアジンの性状および生物学的活性を明らかにする目的で以下のとおり実施した。健常人3名にアスピリン(1000mg)を投与し、30分後にうどん(小麦粉120g)を摂取させ、試験前及び食後0,15,30,60,120,180分に採血を行った。食後60分の血清から70%エタノールによりグリアジンを抽出し、ゲル濾過HPLC(TSKgel-2000)により解析した結果、分子量約3万をピークトップとするブロードなピークが認められた。すなわち、グリアジンは抗原性を有する高分子の状態で吸収され血液中に存在していることが示唆された。また、血清を直接ゲル濾過により分析すると、分子量3万のピークに加え免疫複合体と推測される分子量10万以上のピークが認められた。次に、血清中に検出されるグリアジンの抗原としての活性を、小麦依存性運動誘発アナフィラキシー患者由来好塩基球を用いて評価した。その結果、健常人の血中に存在するグリアジンは好塩基球からのヒスタミンを遊離する活性をもつことが明らかとなった。さらに、小麦依存性運動誘発アナフィラキシー患者の小麦負荷試験時の血中に存在するグリアジンは、同様に好塩基球からのヒスタミン遊離活性を有することが示された。以上の結果は、非ステロイド抗炎症薬の服用が食物抗原の吸収を促進することを示唆するものである。従って、非ステロイド抗炎症薬の服用は食物アレルギーの症状誘発やアレルゲンへの感作段階における危険因子であると考えられた。
著者
宇都宮 啓吾
出版者
大谷女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

従来より纏まった形ではその全体像を把握し難い天台宗系統の訓点資料の研究を行ない、現在は天台真盛宗総本山西教寺の聖教に注目して、天台宗山門派の聖教を個別に調査して来た。その結果として、西教寺正教蔵に存する訓点資料の全ての抽出とその書誌的データと目録化、および、南北朝以前の訓点資料を含めた古写本全ての撮影とデジタルアーカイブ化が完了した。また、その成果を踏まえて、以下の如きことも明らかになった。(1)西教寺聖教の中の正教蔵とされる聖教が比叡山西塔北谷正教坊を由来とする聖教であること。(2)その実態は天台僧舜興によって集書され、舜興は比叡山葛川の総一和尚となるなど、幅広く活躍する人物として多くの聖教を収集できる立場にあったこと。(3)西教寺正教蔵に存する訓点資料の具体的な把握が可能となった。(4)更に、特に注目される個別の訓点資料(具体的には、『無量義経疏』寛平点・『妙法蓮華経』院政期字音点等)に関する国語学上の意義付け。(5)比叡山における聖教調査における里坊を視野に入れた調査の重要性上記の如く、西教寺正教蔵の解明が比叡山西塔北谷正教坊の解明へと繋がり、更には、天台宗山門派系統の聖教解明として発展できることが明かとなり、目録が公開されることによって、他の研究者にも大きく寄与出来るものと思われる。