著者
川村 尚 海老原 昌弘 辻 康之
出版者
岐阜大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1994

金属原子間結合電子系と配位子π電子系の間の共役を利用して、酸化還元電位の制御されたクラスター錯体を創製し、これを機能性材料としての応用する可能性を探ることを目的として本研究を進めた.1.ロジウム複核錯体カチオンラジカル塩の合成と物性解析.[Rh_2(mhp)_4](mhp=2-oxo-6-methylpyridinato)と[Rh_2(mmap)_4](mmap=2-methylamino-6-methylpyridinato)のCVは化学的に可逆な1電子酸化波をそれぞれ0.48,-0.49V vsFc^+/Fcに示した.この結果は,金属原子間結合と配位子間のσ-π共役が化学的意味をもつことを示している.カチオンラジカルの塩[Rh_2(mhp)_4]SbCl_6・o-C_6H_4Cl_2の結晶において隣接ラジカル分子のピリジン環が互いに重なりあった3次元的相互作用系が形成されていた.一方,[Rh_2(mmap)_4]SbF_6・2o-C_6H_4Cl_2の結晶構造においては,ラジカルの2次元配列が見いだされた.前者結晶のペレットの室温における電導度は8×10^<-8>S/cm^<-1>であって、セレンと同程度の電導度をもつ半導体であることが示された。2.第10族,11族元素複合錯体の構成,構造,分子物性.新規複合錯体[M(mnt)_2{Ag(PR_3)_2}_2],(M=Pt,Pd;R=Bu,Ph;mnt^<-2>=maleonitriledithiolate)の生成を見いだし,それらの構造と電気化学的挙動等を調べた.これらの錯体は,結晶内で平面状のM(mnt)_2の上下に2つのAg(PR_3)_2が結合した3核錯体構造をもつ.これら錯体のCVは,化学的に可逆な1電子酸化波を示したが,生成カチオンラジカルは単離できるほどには安定ではなかった.^<195>Pt-NMRはAg核による分裂を示さず,Pt-Ag結合距離が短いにも拘わらず,Pt-Ag間には化学結合の存在しないことが示された.
著者
三澤 毅
出版者
名古屋大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

近年、原子炉の大型化や高燃焼度化に伴い原子炉の安定性に関する議論が盛んになってきている。本研究ではこの原子炉の安定性、すなわち原子炉に加えられた外乱に対する原子炉の振る舞いに関する研究を行うために、新たな高次摂動理論(Modified Explicit Higher Order Perturbation Method、MHP法)を導出した。このMHP法は、原子炉内での中性子の拡散方程式を固有値方程式として解き、その結果得られる高次モード固有関数を用いて摂動が加わった後の中性子束を関数展開する手法により、摂動後の中性子束分布および反応度の変化を求めるという理論である。MHP法の特徴は、これまで困難とされてきた中性子エネルギーを多群化した場合での高次摂動理論の解析を可能にすることであり、これにより初めて高次摂動理論を実際の原子炉の解析へ適用できるようになったといえる。引き続きこのMHP法を検証するために、エネルギー多群での多次元拡散方程式に基づく高次モード固有関数解析コード(NEUMAC-3)、およびMHP法解析コード(TWOPERT)を開発し、最も簡単な2次元の1領域体系に摂動が加わった際の中性子束分布および反応度の変化を、MHP法により求める計算を行い、厳密計算との比較を行なった。その結果、MHP法を用いることにより、摂動に対する中性子束分布及び摂動反応度の変化をこれまでの1/100程度の非常に短時間で、しかも精度良く求めることができることが分かった。さらにMHP法を実機の大型発電用原子炉(PWR)に適用し、制御棒挿入の摂動に対する中性子束分布等の変化の解析を行った結果、予め高次モード固有関数を求めておくことにより、MHP法用いて実機のPWRでの様々な摂動に対する振る舞いを短時間で精度良く求めることができることが分かり、MHP法を実機の原子炉の安定性解析に用いることができる見通しがついた。
著者
海老原 昌弘 川村 尚
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

酢酸を架橋配位子とし一酸化炭素と塩化物イオンをエカトリアル配位子に持つイリジウム(II)複核錯体[Ir_2(O_2CCH_3)_2Cl_2(CO)_2]を原料として,この錯体の軸位にアセトニトリル,ピリジン,ジメチルホルムアミド,ホスフィン,アルシンなどを結合させた化合物[Ir_2(O_2CCH_3)_2Cl_2(CO)_2L_2]を合成した.この内7種の化合物についてX線構造解析を行いIr-Ir距離がその配位子の違いによってアセトニトリル錯体の2.569(1)Åからトリシクロヘキシルホスフィン錯体の2.6936(7)Åまで約0.12Å変化することがわかった.また,どの錯体も化学的に可逆な酸化波が確認され,その電位は配位子の種類に依存してトリシクロヘキシルホスフィン錯体の0.21Vからアセトニトリル錯体の1.30Vまで変化することがわかった.ホスフィンを軸配位子とする錯体はそのg_⊥とg_<//>の値,およびそれぞれの超微細構造のパターンからそのHOMOはσ_<Ir-Ir>軌道であることが明らかとなった.[Ir_2(O_2CCH_3)_2Cl_2(CO)_2](酢酸イオンを架橋配位子とし一酸化炭素と塩化物イオンがエカトリアル配位子)の架橋配位子の置換を目的として合成を行った.この錯体を原料として,2-ヒドロキシイソキノリン(Hhiq)と反応させることにより錯体の酢酸架橋がhiq^-に置換した錯体を合成した.この錯体のアキシアル位にメチルピリジン(mpy)およびトリフェニルホスフィン(PPh_3)を結合させた化合物[Ir_2(hiq)_2Cl_2(CO)_2L_2]を合成しX線構造解析を行った.Ir-Ir距離は酢酸架橋の錯体とほぼ同じでそれぞれ2.5928(7),2.634(2)Åであった.また,4-メチル-2-ヒドロキシピリジン(Hmhp)と[Ir_2(O_2CCH_3)_2Cl_2(CO)_2]を封管中,130℃で反応させると3つの架橋配位子を持つ[Ir_2(mhp)_3(CO)_2Cl(Hmhp)]が生成した.Ir-Ir距離は架橋配位子が2つの錯体と比べて短く2.5491(3)Åであった.[Ir_2(hiq)_2Cl_2(CO)_2(mpy)_2]は不可逆な酸化波のみが観測された.[Ir_2(hiq)_2Cl_2(CO)_2(PPh_3)_2]および[Ir_2(mhp)_3(CO)_2Cl(Hmhp)]はスキャン速度を速めると0.53,0.95Vにそれぞれ可逆な波が観測された.
著者
千種 眞一 片岡 朋子
出版者
東北大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

従来の文字類型学を概観し,系統発生的な進化の最高段階としてのアルファベットを基盤とする文字学が東アジア文字文化圏の漢字その他の文字に関する形字法に基づく文字類型学を不十分にしか扱えないことを論じた。そして自足型アルファベット・アルファベット包含型表語文字組織・アルファベット排他的記憶型文字組織からなる文字の音韻形態的分類を柱とする文字類型学によって提案されている進化論的モデルを適用して、日本文字における漢字仮名まじり文という書記体系や音読み・訓読みのシステムを考察することにより、進化論的モデルから見て、日本漢字が中国漢字よりも明らかに表語的な文字としてきわめて興味深い事例であることを明らかにした。大和語に対する中国漢字のいわゆる訓読みの現象が、漢字のもつ本来の音声的な関係を捨象して、もっぱら表語的に利用されている文字も可能だという意味からである。漢字の認知文字論的な考察では、形字法的な観点から日本の常用漢字、とくに形声字に焦点を当てながら、独体字・合体字の構成に関して、いわゆる部首を意味範疇認知情報単位、音符を音声認知情報単位、字訓語(あるいは字音語)を意味認知情報単位と捉えなおすことによって、漢字の認知文字論的な分析の可能性を示した。部首別・音符別の漢字分布などを調査して、部首が意味範疇認知情報単位として十全に機能しているものから、さらに情報検索指標として、そして単なる文字構成要素としてほとんど字形の中に埋没しているようなものに至るまでさまざまな機能の仕方を見せていること、音声認知情報単位としての音符も意味の共通性を明確に認知させるほどには機能していないこと、しかしながらこうした状況があるからこそ、これらの意味範疇的あるいは音声的情報だけでなく、複合文字表現のもたらす情報をも駆使して、漢字の認知プロセスが成功裡に行われているということを明らかにした。
著者
佐藤 衆介 二宮 茂 山口 高弘
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

終日放牧、半日放牧=フリーストール(FS)、繋留舎飼の順で、睡眠は長く、敵対行動は少なくなった。放牧では血中オキシトシン(Oxy)が高く、N/L比やコルチゾール(Cor)は低かった。放牧地での刈取草摂食に比べて立毛草摂食で、Oxyは高く、Corは低くなった。エンリッチメント処理では、立位休息が短く、睡眠、摂食、伏臥、親和行動が多く、内臓廃棄は低く、肉質評価は高かった。ブラッシング処理後にOxyは上昇した。運動場解放により、行動は多様化し、Oxyは上昇した。
著者
北村 光司
出版者
東京理科大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

乳幼児の事故を予防するための1つの方法として、保護者の乳幼児事故に関する認知の教育支援がある。これはリスクコミュニケーションの観点から重要な課題である。しかし、従来の乳幼児事故に関する教育支援や情報提供の方法は、書籍やパンフレットによる注意喚起にとどまっており、効果的な方法ではなかった。それは、(1)事故に関する情報を提供するのみという情報の一方通行で終わってしまっており、その情報による効果の検証が行われていないためと、(2)事故に対する認識や考え方は人それぞれによって異なるにもかかわらず、すべての人に一様に同じ情報を発信していたためである。この問題点を解決するためには、情報を提供しながら、ユーザの認知構造の調査や情報の効果の検証を行い、それらの情報をもとに次に提供する情報を適宜選択するシステム、すなわち、フィードバック系をもった情報制御システムが必要となる。そこで、(1)サービスを提供しながらユーザの認知構造や情報の効果を検証するためのサービス統合型センシング機能と、(2)得られたユーザからの情報に基づいて個人適合する機能を特徴とする情報循環システムを提案した。(1)サービス統合型センシング機能に関しては、2005年より(株)ベネッセコーポレーションと共同でWeb上で事故シーンアニメーション動画を提供するサービスを行っており、そのサービス上で保護者が入力した子どもの年齢や発達段階や、動画を見た後に行うアンケートの回答をログデータとして収集し、分析した。(2)個入適合する機能に関しては、保護者が認知していない事故の動画を適切に選択するための手法として、乳幼児の事故に関連するパラメータ(事故の種類、子どもの発達段階、事故に関連したモノ、事故時の子どもの行動など)を特徴量で表現することによって、類似する特徴を持つ動画を選択する手法提案し、保護者20人を対象に検証実験を行い、ランダムに提供するよりも、効果的に認知を向上させることが可能であることを確認した。
著者
松本 ますみ 小林 敦子 小林 元裕 権 寧俊 花井 みわ 砂井 紫里 清水 由里子
出版者
敬和学園大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

中国の朝鮮族と回族を抽出し、民族教育の経験と民族アイデンティティの相関性について歴史社会学的研究調査を行った。その結果、1)両民族とも民族教育経験者が民族の矜持が強いこと、2)同民族内のネットワークに依拠し、漢語と民族語を駆使し対外通商業務、出国、留学、出稼ぎを行うという共通点があることが分かった。両民族はグローバル化の波にのった「成功した」民族であり、その鍵は民族教育にあることが分かった。
著者
高村 禅
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

本年度得られた成果を列挙する。1. RNA抽出条件の精査と品質の確認これまでの研究で開発した変性剤を用いたトラップ抽出法でも、PCR可能なことが確認されたが、本年度はさらに品質を上げるため、変性剤を用いない方法の開発を試みた。その結果、一旦70℃以上にサンプルを過熱し、一旦熱変性させ、その後常温で速やかにトラップすることで、十分なトラップが可能な条件が見つかった。本法は、変性剤を用いないため、後処理に対する影響が少なく、より適しているとがえれる。2. 単一細胞よりRNAを瞬間抽出し、解析部に確実に渡すためのチップ開発本年度は、特定の検出方法に特化した、チップの設計・最適化を行う。現在、パフォーマンス上のボトルネックとして、単一細胞をチップ内に導入する工程である。したがってここを改善するため、複数の細胞をが含まれている液より、単一細胞を自動的にピックアップし、それぞれの解析流路に一つずつ導入する、微小流体デバイスを開発した。これは、本法以外にも、単一細胞の解析、特に再生医療等での利用が期待されている。3. RNA解析方法の開発3-1 チップ内集積化可能な簡易解析方法の開発昨年度開発したチップ上にミネラルオイルを保持する方法をさらに発展させ、ミネラルオイルを用いない方法の開発に取り組む。具体的には、チップ内部の、水上気圧を制御し、かつガスを投下しにくい膜をチップ内にコーティングする手法を検討する。ミネラルオイルを用いずとも、蒸発が抑えられることを確認した。3-2 チップ外の装置を組み合わせたより高度な解析法の開発チップ内で抽出したRNAをゲル内に保持し、外へ取り出す手法により、定量的な評価を行った。
著者
加藤 万里子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本年度は光星の光度曲線の理論を確立した。まず可視光や赤外線など長波長では、光球のすぐ外のプラズマから放出される自由-自由遷移により放射を私のoptically thide wind理論を用いて計算した。横軸を対数でとりと、白色矮星の重さや波長によらいない普遍則があることがわかった。ただしx線や紫外線の光度曲線は光球からの異体輪射でわれによく近似できる。この普遍則は折れ曲がりのをあらわすパラメタ1つで体系化できる。この理論をいくつかほ新星の光度曲線と詳しく合わせることにより、精密に連星にパラメタを決定することができることを示した。これまでの研究の総まとめとも言える。また、2006年2月にへびつかい度RS星が20年ぶりに爆発した。今回は日本の観測グループを組織して緻密なy光度曲線を得ることに成功した。これはガス円盤の存在をはっきり示している。そこで白色矮星に照らされたガス円盤と伴星を含むモデルを計算し、光度曲線を合わせることにより、この星がI_a型超新星への迄すじの王期に位置することを示した。また今回はじめて軟X線の光度曲線が得られたのでそのモデル計算も行った。軟x線が長く続くことは、白色矮星の上にヘリウム層がつもっていることそ示していることがわかった。つまりこの星はIa型超新星の親天体である。さらに昨年にひきつづき、超エディユトン光度の理論研究をすすめることができた。観測データのそろった5つの古典新星につき、吸収係数の減少を考慮した光度曲線モデルを計算し、新星のピークを再現することに成功した
著者
早坂 康隆
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は舞鶴構造帯に沿う大規模横ずれテクトニクスの実体解明を目的として,テレーンアナリシスに基づく舞鶴帯の拡がりの確定,舞鶴帯に分布する花崗岩類の起源,舞鶴帯のメランジュ様構造形成の運動像と変形時期の解析を行った.また,本研究に資するためEPMA年代測定のシステム確立をめざした.1)JEOL JXA-8200を用いたEPMA年代の測定システムを確立した.2)九州東部朝地変成岩地域の荷尾杵花崗岩のSHRIMP年代の測定結果と朝地変成岩の変成作用および周辺地質体の地質構造を総括し,西南日本の地体再配列が白亜紀前期に起こったことを明らかにした.3)広島県北西部吉和地域の詳細な地質図を作成して構造解析を行い,この地域の舞鶴帯が高圧変成岩や非変成整然層からなる異地性岩塊を含むメランジュ帯であることを明らかにした.4)舞鶴-大江地域の舞鶴帯北帯の圧砕花崗岩類のSHRIMP年代とCHIME年代の測定結果,および周辺地体の地質構造を総括し,舞鶴帯北帯がロシア沿海州のハンカ地塊に対比可能であることを明らかにした。5)島根県江津地域の変成オフィオライトと弱変成田野原川層が,それぞれ,舞鶴帯の夜久野岩類と舞鶴層群に対比されることを明らかにした.また,オフィオライト中の圧砕花崗岩がハンカ地塊と北中国地塊の衝突帯に位置するYanbian地域の後変動時A-type花崗岩に対比可能であることを明らかにした.6)舞鶴帯に分布するトリアス系の砂岩から分離した砕屑性ジルコン・モナザイトのSHRIMP年代とEPMA年代を測定し,東部地域がハンカ地塊を,西部地域が北中国地塊をそれぞれ後背地に持つと推定した.7)以上の成果を総括し,ジュラ紀〜前期白亜紀頃に,舞鶴構造帯と飛騨外縁帯に沿って500km程度の右ずれ変移が起こったと結論した.
著者
中尾 龍馬
出版者
国立感染症研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

Porphyromonas gingivalisの血球凝集素HagBが糖修飾を受け、バイオフィルム形成に関与することを明らかにした。また、P. gingivalis培養上清から外膜ヴェシクルを精製し、これを解析したところ、その構成要素には、Rgp、Kgp等の病原因子のほか、メジャー線毛、およびマイナー線毛の構成タンパクFimA、MfaIが豊富に含まれていた。外膜ヴェシクルは口腔上皮細胞に対しRgpに依存した強力な脱離活性を示した。以上より、P. gingivalisのHagBを介したバイオフィルム形成や、外膜ヴェシクルを介した組織傷害が、歯周病の病態形成に関与する可能性が示唆された。
著者
白川 茂 平野 正美 難波 紘二 本庶 佑 畑中 正一 内野 治人
出版者
三重大学
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1988

多数例のリンパ系腫瘍の免疫表現型と免疫遺伝子型の対比検討から、一般に成熟型腫瘍では両者の良好な相関があり、T・B細胞系統性及びクローン性の確実な指標として、遺伝子型によるDNA診断の有用性が確立されたが、未熟型腫瘍では表現型・遺伝子型不一致例、また二重遺伝子型を示す例があり、腫瘍隋伴異常再構成ないし未分化幹細胞段階での不確定な細胞分化様式の可能性が示された。ことにB細胞分化の初期では有効なIg遺伝子産物産生に至るまでに、活発なIgHV、D、J領域遺伝子の再構成及び転写が行われ、就中B前駆細胞の最も分化した段階のCD20(+)c-ALLに二重遺伝子型の頻度が最も高く、この事象がcommon recombinase活性の増大によりTcR遺伝子再構成が誘発された可能性によることが示唆された。またT細胞腫瘍につき複数のprobeを用いてTcRβ鎖遺伝子再配列の様式を検討し、T-ALL、T-CLLの一部に異常再配列を認め、recombinase lovelでの誤りによる可能性が示唆された。また検索症例のなかで、Tリンパ芽球性リンパ腫から異系統の骨髄球系白血病に移行した症例で、biphenotypicであるにも拘らず、腫瘍細胞が単一細胞起源であることを分子生物学的に立証した。また我が国の悪性リンパ腫の特徴の一つである発生頻度の少ない濾胞性リンパ腫につき、特徴的な染色体異常t(14、18)の確認と、本症に特異的とされるbcl-2遺伝子再構成がmajor及びminor切断点領域ともに、欧米に比べ有意に低率であることが判明した。さらに血管免疫芽球性リンパ節症(AILD)が我が国では、Bリンパ腫よりTリンパ腫前病変の可能性が遺伝子型から同定され、ことに多様な生物活性をもつIL-5遺伝子転写の著明な増強をみるAILD-T症例を認め、当該リンパ節の多彩な病変との関連が考えられた。その他、骨髄stroma初代培養系を用いて、praーB細胞株からB細胞系及びmyeloid系へ分化誘導される培養系が確立され、またsublineからIL-5のautocrineによる腫瘍化細胞株が樹立された。
著者
中村 栄男
出版者
愛知県がんセンター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

節外性リンパ腫の中心をなす粘膜関連リンパ組織型B細胞リンパ腫(MALTリンパ腫)は発生頻度が高く、明確な疾患単位を形成する。しかし、その腫瘍発生での分子病態の解明は不明のままであった。我々は、t(11;18)染色体転座がMALTリンパ腫の原因の一つである可能性を報告してきた。そして外科的手術材料を用いてt(11;18)切断点を世界に先駆けて公表した。さらに18番染色体上の責任遺伝子の同定に成功し、未知の遺伝子であることからMALT1と命名した。一方、11番染色体上の遺伝子は既知のAPI2であった。t(11;18)染色体転座によるAPI2-MALT1キメラ遺伝子の形成が、MALTリンパ腫の発生に深く関わるものと推定された。当該研究期間中にRT-PCR法あるいはFISH法を用いてAPI2-MALT1キメラ遺伝子のパラフィン切片からの検出システムを開発すると共に、その医学的意義についての解明を進めた。その結果、胃MALTリンパ腫においてはAPI2-MALT1キメラ遺伝子の検出がHelicobacter pylori除菌療法に対するMALTリンパ腫の反応性を予測し得る分子マーカーであることを初めて明らかにした。一方、これら有為なデータの解析において強力な臨床治療研究グループとの提携が不可欠であった。また、それら治療研究グループの育成と連携において、本邦は欧米に比べて未だ立ち遅れた状況にあることが痛感された。今後の研究の展開を計る上での幾つかの課題を残した研究期間であったとも云える。
著者
武田 光夫
出版者
電気通信大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

従来の代表的な非接触立体計測法であるモアレ法は,連続で滑らかな形状の物体に対しては有効であるが,モアレ縞の縞次数に飛びが生じるような強い段差や不連続性をもつ物体は測定できない.また,ステレオ視差法は,ステレオ画像の対応点決定の計算量が多いという問題に加えて,反射率が一様な表面を持つ物体の場合には照合する特徴点が得られないという問題がある.本研究では,従来の立体計測法が対応できないこれらの物体の形状を非接触で自動計測することを目的として以下のように新しい立体計測法の原理を考案し実験によりその有効性を実証した.(1)従来のモアレ法やステレオ視差法のような基線を媒介とした3角測量法的な原理に代わるものとして,光波干渉を利用した直接的な2点間測距の原理を採用し,それを被測定物体上の全点に対して多点同時並列的に実現するような新しい方法の原理を考案した.粗面物体を測定できるようにスペックル干渉計と類似な光学系を用いたが,スペックル干渉計測法は物体の元の位置・形状からの相対的な変位・変形を測る,いわば差分量△hの計測技術であったのに対して,本研究の方法は,位置・形状そのもの,すなわちh自身の計測技術である点にその特長と新規性がある.(2)光源に波長走査可能な半導体レーザを用い,干渉計のなかにテレセントリック結像系を導入し,物体をイメージセンサ上に共役結像することにより,粗面物体上の各点からの散乱光を再統合して各点が互いに独立な干渉光路をもつ(画素と同数の)超多チャンネル測距干渉計が実現できることを見いだし,上述の原理に基づく立体計測システムを構築した.(3)段差のある針状物体や深穴の形状を非接触自動測定することにより原利の有効性を実験的に確認した.
著者
寺崎 朝子 中川 裕之 中川 裕之
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

ニワトリ脳より申請者が同定したアクチン結合タンパク質lasp-2に東化活性があることを明らかにし、ニワトリ初代神経細胞の成長円錐やスパインに局在することを示した。また、アクチン結合領域を欠損したlasp-2の導入によって神経細胞の成長円錐の運動が異常になることも明らかにした。関連した論文を2本、総説1本を発表した。
著者
早川 竜馬
出版者
独立行政法人物質・材料研究機構
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、近年、フレキシブルな機能を有する電子デバイスとして注目されている有機トランジスタの特性を有機ヘテロ界面での電荷移動を光により制御することによって変調することである。下地となるクォテリレン有機トランジスタの高性能化に成功し、2分子層程度でも良好に動作する薄膜トランジスタの作製に成功した。有機ヘテロ界面での効果的な電荷移動を誘起させるために電子受容性が極めて高い電荷移動錯体を用いて積層型トランジスタを作製した。電荷移動錯体分子を蒸着することによりクォテリレントランジスタの閾値電圧を変化させることに成功した。この結果から、有機ヘテロ界面を利用したデバイス制御が可能であることが示された。
著者
福間 浩司 磯部 博志 林田 明
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

中国沿岸部や韓国などの東アジアの湿潤地域では, アジア大陸内部からダストが間断なく供給されると同時に, 過去から現在まで人類が継続的に活動してきた痕跡が数多く残されており, 人類の活動と気候変動の影響を研究するための理想的なフィールドである. 中国沿岸域や韓国の旧石器遺跡のダスト堆積物について交流磁化率や磁気ヒステリシス特性の測定を行い, 磁性ナノ粒子の種類・含有量・粒径分布を求めた. 乾燥地域のダスト堆積物との比較から, 従来の磁気測定では解明できなかった湿潤地域の気候と磁性ナノ粒子の対応関係を明らかにすることができた.
著者
東 正剛 緒方 一夫 辻 瑞樹 緒方 一夫 辻 瑞樹
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

インドとその周辺のツムギアリについて分子系統解析を行い、インド・スリランカ個体群はバングラディッシュまで分布する東南アジア個体群とは明らかに異なる系統であり、乾燥・寒冷期にインド南西部にあったレフュージア熱帯林から拡散したことが明らかとなった。系統上近縁と考えられているアシナガキアリはツムギアリほど明瞭な系統地理を示さず、人為的攪乱の影響を大きく受けていることが明らかとなった。DNA解析と生態調査の結果、生態系攪乱規模の違いは遺伝的なものではなく、侵入先の生態系が大きく関わっていることが示唆された。
著者
高原 光 深町 加津枝 大迫 敬義 小椋 純一 佐々木 尚子 佐野 淳之 大住 克博 林 竜馬 河野 樹一郎
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

堆積物中に残存している花粉や微小な炭(微粒炭)の分析から,特に過去1万年間には,火が植生景観に強く影響してきたことを解明した。特に1万~8千年前頃には火事が多発して,森林植生の構成に影響を及ぼした。また,過去3千年間には,農耕活動などに関連して火事が多発し,照葉樹林やスギ林などの自然植生はマツ林と落葉広葉樹林へと大きく変化した。火入れによって,ナラ類を中心とする落葉広葉樹林が成立する機構も解明できた。草原や里山景観の形成には,火入れが強く関連していることが明らかになった。
著者
林 竜馬
出版者
京都府立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究課題の目的である、約12万年前の温暖期(最終間氷期)における近畿地方での森林変化を明らかにし、温暖期の気候システムの変化が森林に及ぼす影響について解明するために、本年度は以下の内容の研究を実施し、研究成果の公表を行なった。1.最終間氷期における森林変遷の特徴と気候システム変化の影響の解明:現在の温暖期と比較した、最終間氷期の森林変遷の共通性と特異性とを明らかにするために、琵琶湖高島沖堆積物の最終間氷期の層準と、琵琶湖ピストンコアの現在の温暖期の層準にあたる花粉分析結果について、花粉組成や年間花粉堆積量の対比を行なった。その結果、最終間氷期の前半には現在の温暖期と比べてブナが多く生育していた事、さらに後半ではアカガシ亜属から成る常緑広葉林の拡大が少なかった事が示された。現在よりも海水準が高く、夏の気温も温暖であったとされる最終間氷期において、常緑広葉樹林が制限されていたことの要因として、最終間氷期の前半で冬の日射量が少なかったことに起因して寒冷な冬の気候が成立したこと、さらに後半では急激な夏の日射量の低下による冷涼な夏の気候が成立したことが考えられた。2.成果の公表:最終間氷期を含む過去約14~3万年前における琵琶湖高島沖、神吉盆地堆積物の花粉分析結果について、学会誌に公表した。また、平成21年7月6日から11日にかけてアメリカのオレゴン州立大学で開催されたPAGES(Past Global Changes)国際会議に参加し、本研究の成果を発表した。