著者
服部 圭介
出版者
大阪経済大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

研究成果として主に,論文"Policy and Product Differentiations Encouragethe International Transfer of Environmental Technologies"をまとめた。ここでは,地球環境という国際公共財を共有する国家間の戦略的な技術移転のインセンティブを分析した。結果として,環境政策の水準と,国際市場における企業が生産する財の差別化の程度にかんする非対称生が大きな場合のみ,自発的な環境技術移転が行われることが明らかとなった。これは,地球温暖化問題に対する京都議定書における,CDM(クリーン開発メカニズム)や,ODA(政府開発援助)を通した環境技術の移転の問題に関して,重要な政策的含意を有すると考えられる。
著者
伊藤 信之
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は,走幅跳の助走動作をバイオメカニクス的に分析し,大学生走幅跳選手の助走トレーニングへの適用の可能性を探ることであった.助走後半の走動作は,助走動作局面,移行局面,踏切準備局面に分けられ,それぞれの局面ごとに動作評価のための評価要素を抽出することができた.これによって,実際の競技会などで撮影された動画を対象にして,詳細な動作分析を省いても,的確な評価を行っていくことが可能となると考えられた.
著者
高田 龍一
出版者
松江工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

コンクリートのASR対策はコンクリートの耐久性にとって、重要な課題である。本研究により、初期の促進養生がASR 抑制に効果的な手法であることを明らかにした。また、反応性骨材の種類によって抑制効果は異なってくることを明らかにした。この研究成果は、コンクリート二次製品への適用に有効である。
著者
生野 壮一郎 神谷 淳 齋藤 歩 多田野 寛人 伊東 拓
出版者
東京工科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では,有限要素法や境界要素法の問題点を克服する手法として注目されている,有限節点法(FiniteNodeMethod,FNM)と境界節点法(BoundaryNodeMethod,BNM)の領域形状表現と補間関数の構成を完全分離することにより,新しい解法スキームを考案し,電磁界解析等の分野への同法の適応可能性を調べることに成功した.その際,FNM,BNMの新しい定式化を完了し,様々な境界条件を付加することが可能となった.また,完全メッシュレス法の応用技術として,MeshlessTimeDomainMethod(MTDM)の開発を行い,任意形状導波路内の電磁波伝播解析を行った.
著者
坂口 聡
出版者
関西大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

プロパルギルアミンは、有機合成上有用な中間体であることから、効率的な合成法の開発が望まれている。末端アセチレンをC=N結合へ付加する反応は、プロパルギルアミンの簡便な合成法となるが、末端アセチレンのC=O結合への付加によるプロパルギルアルコールの合成に比べ、成功例は少ない。以前、私はイリジウム錯体触媒存在下、アミン、アルデヒドおよび1-オクチンのような単純アルキンの反応により、反応中生成するイミンの窒素原子に隣接するC-H結合の活性化を経る新規な三成分カップリング反応を見出し報告している。本研究では、アミン、アルデヒドおよびトリメチルシリルアセチレンの反応を行ったところ、1:1:1カップリングおよび1:2:2カップリング反応が生起し、対応するプロパルギルアミン誘導体が得られることが明らかになった。触媒量の[IrCl(cod)]_2存在下、n-ブチルアミン、n-ブチルアルデヒドおよびトリメチルシリルアセチレンをTHF中60℃で反応させたところ、系中でアミとアルデヒドから生成したイミンへ、トリメチルシリルアセチレンが付加した1:1:1カップリング生成物が78%の収率で得られた。またこのとき、アミン、アルデヒドおよびアルキンが1:2:2の比でカップリングした生成物の副生が確認された。そこで1:2:2カップリング生成物の生成を目指し種々検討した結果、1,4-ジオキサン中75℃で反応させることにより、目的物が80%を超える収率で合成できることが明らかになった。溶媒にシクロペンチルメチルエーテルを用い100℃で反応を行うと、短時間で反応は完結した。このような、アミン、アルデヒドおよびトリメチルシリルアセチレンの1:2:2カップリング反応は報告例がなく、本反応は、新規なプロパルギルアミン誘導体の触媒的合成法として有用である。
著者
片瀬 一男 秋永 雄一 古賀 正義 木村 邦博
出版者
東北学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

2003年11月から12月にかけて「教育と社会に対する高校生の意識:第5次調査」を実施した。そして、このデータをもとに分析を行い、2005年3月に報告書を作成した。報告書では、次のようなテーマをもとに、分析を行った。1.第1に、高校生の進路志望(教育・職業アスピレーション)や教育達成など教育をめぐる高校生の意識や実態をとりあげ、それがどのような要因に規定されているのか分析した。この分析においては、高校生の出身階層となる親の地位が、彼らの進路志望や教育達成に与える影響、さらには父母の結婚類型が子どもに及ぼす影響などが明らかになった。またフリーターの問題も、進路意識や規範意識(校則意識)との関連で扱った。くわえて、「アノミー型アスピレーション」という現代の高校生に特有の進路志望のあり方についても、それが形成されるメカニズムが明らかなった。2.第2に、高校生が現代社会をどのように認知し、また評価しているのかについて検討を加えた。ここでは、不公平感や学歴社会イメージ、性別役割意識といった高校生の社会意識が、家族や学校においてどのように形成されているのか分析を行った。3.第3に、この17年間の宮城県の高校教育の変容についても触れた。そして、いくつかの高校を事例として選んで、いわゆる「進路多様高」の成立経過や、仙台における女子教育の変容について時系列的な分析を行った。
著者
濱中 春
出版者
島根大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

今年度は、1800年頃の教育書や医学書における庭園や造園に関する記述を収集し、分析した。主要なテクストは、十八世紀の教育学の重要な潮流を形成するとともに、デッサウという、当時のドイツにおいて庭園文化が先進的に発展した場所を基点とする汎愛主義教育関連の著作である。それらの言説における庭園の位置づけの特徴は、教育の一環としての造園や園芸作業および植物学という側面がクローズアップされていることである。それは具体的には、当時の教育学や医学において論争されていた子どもの性教育、とくにオナニーの問題に関連し、汎愛主義教育においては、庭園の植物を性教育の材料とすることや、造園や園芸作業をオナニーの防止手段とすることが示されている。十八世紀にはしばしば、子どもは植物に、教育はその栽培にたとえられているが、汎愛主義教育には、その子どもの身体という自然を訓育するために庭園という自然が利用されるという、「自然」の二重の規律化が見出される。なお、現在はこれらの考察結果を論文としてまとめる作業を行っており、その成果を学術雑誌に発表する予定である。三年間の研究を総括すれば、1800年前後のドイツにおいては、「自然」という概念が、自然環境だけではなく、身体、健康、子どもなど多様な対象にわたって適用されている。それは、悪しき文明の対極としてポジティヴな価値を持ち、かつ人間による制御の対象でもあるという両義的な概念である。風景庭園という人工的につくりだされた自然の空間は、まさにそのような両義的な自然概念を具現化した空間であり、そこに、もう一つの「自然」である身体(健康や子どもの身体を含む)の問題系が交差することによって、この時期の庭園観に身体性のさまざま局面が浮上してくることになったということができる。
著者
鍛治 哲郎 高橋 宗五 川中子 義勝 臼井 隆一郎 安岡 治子 高田 康成 西中村 浩 柴 宜弘
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

20世紀末に近代の産物である「国民国家」を否定する方向でヨーロッパ統合という試みがなされる一方、旧ソ連・東欧諸国においては、ソ連の解体し、「東欧革命」のあと、逆に「国民国家」として新たな国家統合を試みる動きがはじまり、各地で紛争が生じている。本研究はこうした状況を踏まえ、それ自体多様な歴史的内実を有するドイツ理念とヨーロッパ理念の相関関係という問題を、特に20世紀における展開を中心に、今日的視点で整理することを目的とした。そして、ドイツを中心としつつも、歴史的にはギリシア、ラテン文化・思想の伝統を踏まえ、地域的には周辺諸地域、とりわけ旧東欧、ソ連諸国との関わりのなかで、ヨーロッパ統合の時代における新たなドイツ理念の展開を研究していった。その結果、19世紀のドイツ・ロマン主義や20世紀初頭のドイツにおける民族主義がその周辺諸地域に大きな影響を与えたこと、こうした地域、とりわけバルカン諸国においては、この影響下で作り上げられた民族的な神話と、それに基づく人々の集団的な記憶と強力なナショナリズムが今日に至るまでなお力を持ち続けていることが確認できた。さらに、国法学者カール・シュミットに中心を当てた共同研究も行ない、この思想家が汎カトリックの思想基盤に立つヨーロッパ有数の思想家であると同時に、その活躍した時代がナチズムの時代に当たり、ヒトラーの桂冠法学者としての20世紀におけるドイツとヨーロッパの理念の相関関係を体現する思想家であることが浮かび上がってきた。また、ミュンヒェン・シュヴァービングを震源地とする母権思想はシュミット自信も自覚していたように、彼の男性的父権的政治思想の対極をなしていること、ベルリンを本拠とする男性同盟的ドイツという思想とミュンヒェンの母権思想の対比が20世紀初頭のドイツにおけるヨーロッパ理念の対極であることなども明確になった。
著者
柳原 英人
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

MBE装置を用いてルチル型遷移金属酸化物薄膜の成長を目的とした実験を行った.ルチル型遷移金属酸化物の中でも室温で金属強磁性を示す事で知られるCrO_2単結晶膜をMBEで成長させることを第一の目標とした.遷移金属酸化物はその価数によって様々な化合物が存在し,Crの場合には3価が安定であるため,単純な酸化法ではCr_2O_3が成長する,Cr^<4+>として安定化して成長させるためにまず,酸化源としてオゾンを選んだ.まず初年度にはオゾン純化装置を開発し純度90%以上のオゾンビームをMBE装置内に導入できるようにした.またRHEED像の観察システムを開発し,オゾンビーム中での薄膜成長をRHEEDを用いてリアルタイムに測定ができるようになった.CrO_2単結晶膜のMBE成長については,ルチル(TiO_2(100))単結晶を基板として,純オゾン中でのMBE成長を試みた.基板温度を室温から500℃まで様々に変化させ,オゾン分圧を,×10^<-4>〜×10^<-6> Torrと変化させて成長条件の探索を行ったがいずれのオゾン圧においても150℃以下ではアモルファスに,それ以上の温度では,Cr_2O_3(100)が成長した.このことからCr^<4+>の成長には高い酸化力を持つ酸化源(オゾン)のみでは十分でなく,比較的高い圧力下での成長が不可欠であると考えられる.本課題の遂行過程において開発,改良したMBE装置を用いて,いくつか副産的な成果もあった.一つ目は,RHEED装置の改良の結果,格子不整合の大きな金属多層膜において,その格子歪みが膜成長とともに緩和していく様子を定量的に観察することが可能となり,Co/Rh超格子の格子歪みと磁気異方性の関係を定量的に理解することに成功した.また二つ目の成果としてMgO(001)を基板としてオゾン中でFe酸化物を成長させるとγFe203エピタキシャル膜が得られるという発見である.この成果は今後様々な方向に展開する可能性がある.
著者
丹野 浩一 佐藤 友章
出版者
宮城工業高等専門学校
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

近年、VOC、室内感染症、高齢化に伴う介護環境問題、ヒートアイランド現象、多様なウイルス疾病など衛生環境の悪化が問題になっている。これに伴って抗菌・坑かび材料の開発が活発に行われ有機系材料については2億円市場にも成長している。最近は無機系材料の開発にも関心がもたれ、酸化チタンなど光触媒材料が市場化されている。しかしながら光触媒系が効力を発揮するためには光源が必要であり、使用環境が限定される。本研究では多様な環境下で抗菌効果を発揮できる材料の開発を目的として、光触媒、非光触媒系複合抗菌材料の開発に関する基礎研究を行った。本研究成果が対象とする分野は、緑化計画に伴う植栽によるビル外壁のクラックの汚染、内装建材、介護環境の抗菌、排水管の抗菌やバイオコロージョン防止、水質汚濁の防止などである。本研究では、光触媒から酸化チタンを、そして非光触媒から抗菌性が証明されている貝殻、抗菌性金属などを用い、これらの複合粒子を作成し、それを焼結した。基礎研究として粒子単体の抗菌性、複合粒子の抗菌性、焼結体の抗菌性についてそれぞれ実験し比較検討した。その結果、試料単体の抗菌性については従来公表されている結果とほぼ同等の抗菌性があることがわかった。また、複合粒子とした場合には各抗菌要素の相乗効果が作用し、紫外光の有無にかかわらず、ほとんどすべての試料について抗菌性の発現が認められた。これに対し、焼結した試料については抗菌性は試料によって大きく異なる結果を呈した。PH測定などの結果、焼結により組成の変化が生じ、場合によっては中和傾向となる様相を呈し抗菌性が低下することが判明した。なお、研究推進における調査過程で将来の応用を考えた場合に環境影響にも配慮することの重要性が指摘されたため、本来目的としていた要件のひとつであった金属元素の効力比較については今回の実施を見合わせた。
著者
進藤 春雄 沖村 邦雄
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

次世代大型ディスプレイパネル対応の大面積プロセスや太陽電池薄膜CVD用大面積プラズマ源の実現を目的に、大規模マイクロ波ラインプラズマ生成技術の研究を行い、最長2mのラインプラズマ生成に成功した。プラズマ電子密度の軸方向一様性は長さ2mにわたって4%以内、電子密度は最大7x1011cm-3の高密度であり、電子密度の値がマイクロ波カットオフ密度より十分に高い密度となる条件が軸方向一様性を決めていることを明らかにした。
著者
石田 尚臣
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

研究代表者らの研究グループはこれまでにHIVプロモーター領域に設定したsiRNAがウイルスの複製を抑制する事を明らかにし、またその抑制活性は転写抑制(TGS)にある事を証明してきた。siRNAによる転写抑制はAGO1-siRNA複合体形成にある事を証明し、その複合体は直接標的DNAに結合しうる事を証明した。この配列結合性は、来はめて特異性が高い事を明らかにし、またその結合は、siRNA,HIV-1(標的配列)の共存在下で認められる事を証明した。
著者
木村 弘信 原岡 喜重 河野 實彦 八牧 宏美 高野 恭一 岩崎 克則 古島 幹雄 山田 光太郎
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

1)一般超幾何関数およびOkubo方程式の研究,2)Painleve方程式をはじめとする非線形可積分系の研究が本課題の目的である.GL(N,C)の正則元の中心化群の共役類はNの分割によって決まるが,一般超幾何関数は,このようにして得られる極大可換部分群の普遍被覆群の指標をラドン変換して得られるGrassmann多様体Gr(n,N)上の関数である.この積分表示の被積分関数から定義される代数的なde Rham cohomology群を具体的決定を行った.この問題はn=2の場合には一般的に,またn>2のときにNの分割が(1,...,1)や(N)の場合にすでに解決していたがそれ以外の場合には未解決であった.今回,分割が(q,1,...,1)の場合にcohomology群のpurity, top cohomology群の次元,具体的な基底の構成を与えた.この結果は関数を特徴付けるGauss Manin系を決定するときに重要である.また,分割が(N)の場合,すなわちgeneralized Airy関数の場合にde Rham cohomologyに対する交点理論を整備し,その交点数をskew Schur関数を用いて明示的に決定する研究を行った.このときに,特異点理論におけるflat basisの類似物が重要な役割を果たすことが示された.アクセサリパラメータを持たない方程式については,Okubo方程式についての結果を用いることによって,解の積分表示を持つことが示された.この積分表示はGKZ超幾何関数の積分表示の特別な場合になっており,その枠組みでの明確な位置づけと不確定特異点をもつ方程式を含む総合的な理解はこれからの課題である.Painleve方程式については,解全体をパラメトライズする解析的な空間である初期値空間の研究において,この空間にSymplecticな構造がはいること,初期値空間の幾何学的構造がPainleve方程式を本質的に決定してしまうことが示された.さらにPainleve方程式に関する不思議な現象が発見された.Painleve II型方程式は自然数によって番号付けされるひとつの系列の有理関数解を持つことが知られているが,この有理関数解を係数とするgenerating functionを作るとそれはAiry関数の無限大での漸近展開から得られることが分かった.
著者
佐藤 和彦
出版者
東京学芸大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

1987年度から、1989年度にかけて、日本中世の民衆運動に関する史料の蒐集と研究をおこなった。日本中世の民衆生活・思想などに関する研究は、西岡虎之助、林屋長三郎氏らの段階を経て、近年、横井清・三浦圭一、網野善彦らの仕事によって多くの成果を生みだしている。本研究は、これらの成果に学びつつ、日本中世における民衆の生活、生産、思想、芸能、宗教、闘争などを民衆運動として総合的に把握し、その特質を解明しようとした。作業の第一歩は、民衆運動に関する史料を調査し、それを蒐集することからはじめられた。東京大学史料編纂所、京都府立総合資料館などにおいて史料を調査した。ついで、民衆運動の展開した地域におもむき、文献史料の残存状況、伝承などの残存状況を調査した。1987年度は若狭国太良荘(現福井県小浜市)、備中岡上原郷(現岡山県総社市)などの調査をおこない、1988年度は、若狭国太良荘、1989年度には、京都府、および、近紀岡葛川(現滋賀県大津市)などの調査をおこなった。その結果、太良荘地域において3点の新史料を発見した。なお、各年度ともに、中世民衆運動についての関連文献リストを作成し、1989年度において研究報告書を作成した。なお、今後、このような研究を深めるためには、つぎのようなアプロ-チが必要となろう。すなわち、中世民衆の武装の問題、対領主意識の変化、闘争参加のさいの「いでたち」(服装)、当該段階の権力の本質などを追究することである。さらに、アジア諸国やヨ-ロッパ諸国の封建社会における階級闘争と対比させつつ、日本中世の農民闘争のもつ階級闘争としての成果と現限とを明らかにすることが必要である。このことは、日本中世の民衆運動の本質を解明するための基礎作業となるであろう。
著者
金澤 章
出版者
北海道大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

本研究では、二本鎖RNA分子が、植物のゲノムDNAに対して配列特異的なメチル化ならびに転写不活性化を誘導することを利用してエピジェネティックな転写不活性化(TGS)の系を確立すること、ならびに、その不活性化状態の維持機構を解明することを目的として研究を行った。CaMV 35Sプロモーターにより転写制御されるカルコーン合成酵素遺伝子を導入することで花色の変化を誘導した形質転換ペチュニアを用いた研究により、外来遺伝子がTGSを受けるためには、プロモーター近位配列が高い頻度でメチル化を受けることが関連していることを明らかにしていた。本年度は、外来遺伝子が転写不活性化されているペチュニア植物体に対して、DNAメチル化の阻害剤5-アザシチジンによる処理を行うことにより、TGSが解除されるか否か、また、その際にメチル化の程度、および、特定の領域の脱メチル化がTGSに影響を及ぼすか否かを検討した。その結果、TGSは部分的に解除され、その際に、転写開始点の上流約300 bpの領域においてメチル化の程度が低下した。同様な効果は、ヒストン脱アセチル化阻害剤として知られるトリコスタチンAによる処理によっても得られた。この実験と並行して行った、ウイルスベクターを用いてプロモーター領域に対する二本鎖RNAを産生し、その機能によるエピジェネティックな変化を誘導する実験により、このプロモーター領域の全域のメチル化はTGSに必ずしも必要な条件ではないが、部分的にメチル化が誘導されることがTGSと密接に関連することを見出した。以上の研究から得られた知見を総合し、高い効率でTGSを誘導するため、ならびに、それを維持するためには、このプロモーターの転写開始点から約300 bp上流の領域の一部に対して高い頻度でメチル化が誘導されることが必要であり、この領域全体にわたって高いメチル化が存在することは、世代を越えて安定にTGSの状態が伝達されるために十分な条件であるという結論を得た。
著者
橋本 直純 長谷川 好規 今泉 和良
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

肺線維症の線維化病変においてさまざまな細胞起源由来線維芽細胞の存在が証明された。その中で血管内皮間葉系細胞転換による線維化病変は低酸素状態をもたらしうる。遷延化低酸素状態は線維化微小環境として更なる線維化および肺構成細胞間葉系形質転換を介した線維芽細胞誘導をもたらすことを明らかにした。これらの知見は、線維化形成における誘導因子を解明することにつながり新たな治療標的を確立できると考えられた。
著者
福土 審 青木 正志 金澤 素 中尾 光之 鹿野 理子
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

脳腸相関とは、中枢神経系と消化管の機能的関連を言う。これは発生学的に古い現象であるが、不明な点が多い。脳腸相関には大きく分けて2つの現象・経路がある。一つはストレスにより、中枢神経系興奮が自律神経内分泌系を介して消化管機能を変容させる現象・経路である。もう一つは、消化管からの信号が求心路から中枢神経系に伝達され、中枢神経機能を変容させる現象・経路である。われわれは、ストレスにより、あるいは、消化管刺激により、脳の特定部位でcorticotropin-releasing hormone(CRH)を中心とする神経伝達物質が放出され、局所脳活動を賦活化する、そして、過敏性腸症候群においてはこの現象が増強されている、と仮説づけた。本研究は、この仮説を動物実験とヒトに対する脳腸検査によって検証することを主目的とし、positron emission tomography(PET)と脳波power spectra、topographyをはじめとする脳機能画像と併せ、脳腸相関におけるCRHならびにその他の物質の役割を明確にした。平成15-18年度の科学研究費により、過敏性腸症候群の動物モデルを作成することができた。この動物モデルの病態はCRH拮抗薬により改善した。また、消化管への物理ストレスにより内臓痛が生じ、視床と辺縁系で脳血流量が増加した。同時に、脳波power spectra、topogramが変化し、腹痛とともに不安が生じた。この時、消化管運動も変化した。過敏性腸症候群ではこれらの現象が顕著であるが、これらもCRH拮抗薬により改善した。過敏性腸症候群あるいはその病態を示す動物では、辺縁系におけるCRH遊離がこれらの結果を招くことが示唆された。これらの知見を平成15-18年度に得たことにより、脳腸相関におけるCRH系の関与を明らかにするという研究目的を達成することができた。
著者
稲垣 芳則 保科 定頼 横田 徳靖 中里 雄一 恩田 啓二
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

我々は特発性細菌性腹膜炎(SBP)において最大の謎である感染経路の解明とSBPの迅速診断方法の開発を目的に以下の研究成果を得た.1.Thioacetamide投与による肝硬変ラットではSBPの発症が認められたが,コントロールラットでは認められなかった.2.SBPは腸内細菌の増殖が大腸より下部小腸に起こるときに発症しやすいと考えられた.3.SBP発症時腸内細菌の増殖した腸管の支配リンパ節には細菌の移送を認めたが門脈血および末梢血には認めなかった.4.SBP発生機序における腸内細菌の腹腔内への侵入経路の一つとして直接腸管壁の経由が強く示唆された.5.培養で菌が検出できない腹水でも,原核生物特有の塩基配列をPrimerとしたPCRでは腹水中の微量大腸菌あるいは死菌が検出できた.仮説では腸管内から腹腔内への細菌の侵入経路は(1)血行性,(2)リンパ行性あるいは(3)腸管壁から腹腔内へ直接,の3つの経路が考えられていた.今回の研究によりSBPでは(1)(2)の経路より,(3)の経路の可能性が最も高いとの結論を得た.またSBPの発症は必ずしも腸内からの生菌の移行だけでなく,むしろ死菌や菌体成分や腹水中で免疫反応を起こすことがSBPの本質であると推測した.一方,臨床例の検討でも腹水培養で細菌が証明されることは少ない.腹水中の細菌のDNAをPCRで検出する方法は感度が高く迅速診断が可能で,SBPの診断に有用であると考える.ただし消化管穿孔に起因する続発性細菌性腹膜炎とSBPとの鑑別が臨床上困難であることは今後の課題である.
著者
森口 裕之
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

第3年度の研究では、「Ink-jet Printing」および「マイクロピペット描画法」を用いた新たな細胞アレイ作成法を開発した。本手法を神経系の細胞群に適用することで、実際に「小規模な神経回路」(構成細胞数が1個から数個の神経回路)のアレイ(小規模神経回路アレイ)が形成され、様々な細胞構成の神経回路が規則的に配列されていることを生かした神経回路活動のハイスループット計測が可能であることを示した。本技術は、「神経回路」という多数の要素が入り組んだ相互作用を行う系における、種々の構成要素(細胞)の性質とシステム全体(神経回路)の挙動の関係をマルチスケールの生体計測に基づいて実験的にアプローチするための実用的な実験系であると位置づけられる。小規模な神経回路は、一枚の培養底面上に数百から数万個形成させることが可能である。これらの神経回路の多くにおいては、リズミックな自発発火と細胞内カルシウムレベルの振動が観察され、単一ニューロンのみからなる(アストロサイトなどのグリア細胞もいない)最小構成のオータプス神経回路においても、周期的な自発発火が生じ得ることが確認された。また、第1年度の研究で開発した可動式の金属微小電極を用いた細胞外の電圧パルス刺激に対しても、周波数と振幅の両面での減衰を伴う振動的な発火が数秒から数十秒間持続することを示す信号が観察された。本結果は、再帰的構造の神経回路ではニューロンの膜電位振動か自発的に生成され得ることを示唆しており、今後は、本実験系を用いた小規模神経回路活動の網羅的計測と解析を通して、機能的神経回路が自律的に形成されるプロセス、さらに、出来上がった神経回路が機能する仕組みを説明し理解していきたいと考えている。
著者
木村 俊一 澤木 勝茂 井上 昭彦 鈴木 輝好 辻村 元男 鈴木 淳生 高嶋 隆太 八木 恭子 後藤 允 中野 張
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

「OR指向ファイナンス」とは,数理ファイナンス理論をオペレーションズ・リサーチ(OR)における意思決定支援という観点からそのモデル作りを見直そうという本研究の基本概念である.この基本概念の下に,5つの研究テーマ(1) オプション価格評価;(2) 仕組債の価格評価;(3) 数理ファイナンス理論 (4) 企業ファイナンスにおける価値評価;(5) リアルオプションに対する数理モデルの開発とそれらの応用に関する研究を行い,数多くの国際的な研究成果を得た.