著者
古賀 浩平
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は大脳皮質における高次脳機能を明らかにすることであった。特に以下の点に焦点を絞って研究を行った。A)無麻酔下サル大脳皮質からのin vivoパッチクランプ法の確立、B)生理的感覚刺激によって誘起される応答をシナプスレベルで解析し、皮質における情報処理機構を明らかにする。以下の実験は、生理学会や疼痛学会など国内外の学会の研究指針および倫理規定に従って行った。1)一年目の研究実施計画(麻酔下サル大脳皮質からのin vivoパッチクランプ記録法の確立)を継続して行った。サルの大脳皮質からパッチクランプ記録を行う際、呼吸由来の脳の揺れが想像以上に大きかった。その為、現状では記録の確立が困難であると考え、記録法の習練が必要と考えた。2)従って、上記の実験を続けながら、小動物からの記録法も同時に目指した。その結果、幼若から成熟までのラット及びマウスの大脳皮質第一次体性感覚野から、麻酔下でin vivoパッチクランプ記録法を適用した。長時間の安定した記録を確立し、受容野へ生理刺激(ブラシ、熱、ピンチ刺激)を行いその応答を解析した。さらに、アジュバンドを用いて後肢に炎症が生じたモデルラットを作製し、正常状態での皮質深層細胞の膜特性及び生理刺激によって誘起される性質を比較した。炎症モデルラットでは、熱及びピンチ刺激で大脳皮質第一次体性感覚野の深層細胞にはより大きな膜の脱分極が観察された。これは第一次体性感覚野V層の錐体細胞は皮質視床路から入力を受け、視床を主に運動野、第二次体性感覚野、脊髄へ軸索を伸ばしている細胞であることから、痛みの高次統合機能を活性化する出力系と考えられる。これらの結果は、国際疼痛学会で発表した。3)1)の実験途中でサルが死亡し、以降供給ができなかった為、研究を継続することができなくなった。
著者
齋藤 滋 塩崎 有宏 中村 隆文
出版者
富山大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

胎児・胎盤は母体にとり異物であるが、免疫学的胎児許容機構が働き、胎児は拒絶されない。この機構が破錠すると母体免疫細胞は胎児を攻撃し流産が起こると推定されるが、これまでにヒトでは母体免疫細胞が直接胎児組織を攻撃した証拠を得ることができていなかった。そこで、本研究では細胞傷害性T細胞(CTL)や活性化NK細胞の細胞傷害に関与する顆粒内蛋白であるPerforin (P)、GranzymeB (GrB)、Granulysin (GL)の発現を流産検体で検討したところ、流産例の胎盤付着部(着床部)においてGL陽性のリンパ球が有意に増加していた。一方、P、GrB陽性細胞数には差を認めなかった。Flow cytometryにてGL陽性細胞はCD16^-CD56^<bright>NK細胞であることが判明した。脱落膜CD16^-CD56^<bright>NK細胞を分離後、IL-2で活性化させヒト絨毛外トロホブラスト(EVT)細胞株を共培養させたところ、12時間後にGLはEVT細胞の細胞質に発現し、24時間後にGLはEVT細胞の核に移行し、その後、EVT細胞はアポトーシスに陥った。この反応は細胞接触を必要とし、Pの発現も必要であることを確認した。GL発現ベクターにGFPを連合させたベクターをEVT細胞に発現させても同様の現象が認められた。GFP遺伝子をタンデムに2分子連合したベクターを用い単純拡散で核膜を移行できなくしても、GLは核に移行したことからGLは能動的に核内に移送され、その後アポトーシスを引き起こすことが判明した。次に免疫組織学的に流産胎盤の核にGLが発現していないかを検討したところ、流産例のEVTでは正常妊娠例に比し核内GL陽性細胞数が有意に多かった。また、核内GL陽性EVT細胞はTUNEL陽性でアポトーシスに陥っていた。今回の成績はヒト流産症例において宿主免疫担当細胞(NK細胞)がEVTを攻撃してアポトーシスを引き起こすことを初めて証明したものである。今後、妊娠高血圧腎症の胎盤や癌組織での応用が期待される。
著者
上村 公一 船越 丈司
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

硫化水素(H2S)の細胞への毒性作用の機序を解明するため、ラット胎児心筋由来細胞(H9c2cells)、ラットII型肺胞上皮由来細胞(L2 cells)にH2S供与体としてのNaHSを暴露した。H9c2 cellで3mM、十数時間後から細胞質の萎縮が観察された。5mMで顕著な形態的アポトーシス様細胞死が確認され、caspase3の活性化が見られた。L2 cellsではNaHS 2-3mM、数十分後から、核凝集、細胞膜のAnnecinVとの反応、Cytochrome Cの細胞質への漏出が確認された。L2 cellsではH9c2 cellsより濃度は低く、短時間で細胞毒性が確認された。H2Sの細胞毒性は組織により感受性が異なっていた。
著者
金谷 健
出版者
京都大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

廃棄物は焼却処理によって敏速に減量化される反面、重金属は逆に濃縮される。そのため焼却灰埋立地浸出水は重金属濃度が高くなることが懸念されるが、現在までのところ排水基準以下であることが多い。その理由のひとつは履土(土壌)による重金属吸着現象にあると考えられる。土壌の重金属吸着現象に関しては、従来から土壌学等の分野において多くの研究がなされてきた。しかしそれらの研究は中性〜酸性領域でなされており、焼却灰が高アルカリ性であることを考えると、参考にはなるものの直接には利用できない。そこで本研究では、アルカリ領域での履土の重金属吸着現象について実験的に検討し、焼却灰埋立地に濃縮されている重金属による長期的環境影響を予測するための基礎的知見を得ることを、研究目的とした。この研究目的を達成するため、3種類の履土(砂質土、山土、畑土)及び3種類の重金属(Pb,Cd,Zn)を用いて、アルカリ領域をも含めて、回分式吸着実験を行った。得られた主要な知見は次の通りである。(1)酸性から弱アルカリ性へとpHが増加するに伴い、履土の重金属吸着量が増加する傾向が3種類全ての重金属及び履土について認められ、焼却灰のアルカリ剤としての性質が履土の重金属吸着能を高めることが確認された。(2)弱アルカリ性から強アルカリ性へとpHが増加するに伴い、履土の重金属吸着量は重金属の種類によって異なる変化を示す傾向が認められた。
著者
藤井 克彦
出版者
山口大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

近年、環境への配慮から産業廃棄物・排水の排出規制が一段と厳格化しており、これらの適正な処理に多くの企業がコストと手間をかける時代となっている。申請者は高濃度の糖が存在する厳しい条件下で生育できる微生物の探索を行い、幾っかの環境試料から高濃度糖を含む無機塩培養液で良好に生育する酵母を分離した。そこで本研究計画では、分離株の生化学的および生理学的解析を行うとともに、分離株が産業排水の浄化に利用可能かどうかについて検討を行うこととした。本年度は、分離株OK1-3株を用いて食品産業排水を浄化できるか検討した。まずフラスコスケールで分離株の浄化能を検討した。乳業排水(糖分を多く含む氷菓子排水)および水産加工排水(タンパク質を多く含む練製品排水)に無機塩類培地成分を加え、これに分離株を接種して培養した。培養期間中、全有機炭素値を定期的に測定した。検討の結果、分離株は乳業排水培地で増殖し、3日間の培養で全有機炭素値が約30%低下した。次に、分離株を担体に固定化し、固定化担体の排水浄化能を検討した。その結果、9日間の培養で70-80%の有機炭素が無機化されていることがわかった。さらに1.5L規模の排水浄化装置を試作し、これに固定化担体を充填し、排水の連続浄化を試みた。4日間の連続稼動の結果、排水中の有機炭素量は日を追って低下し、最終日には全有機炭素の90%程度が無機化されていた。しかし比較に用いた醸造酵母でも同様の結果が得られ、OKI-3株独自の有用性を見出すには至らなかった。
著者
西條 辰義 下村 研一 蒲島 郁夫 大和 毅彦 竹村 和久 亀田 達也 山岸 俊男 巌佐 庸 船木 由紀彦 清水 和巳
出版者
高知工科大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007-07-25

特定領域「実験社会科学」の研究者のほとんどがその研究成果を英文の学術雑誌に掲載するというスタイルを取っていることに鑑み, 社会科学の各分野を超えた領域形成が日本で始まり, 広がっていることを他の日本人研究者, 院生などに伝えるため, 和書のシリーズを企画し, 勁草書房の編集者と多くの会合をもち『フロンティア実験社会科学』の準備を実施した. 特定領域におけるステアリングコミッティーのメンバーと会合を開催し, 各班の内部のみならず, 各班の連携という新たな共同作業をすすめた. 方針として, (1)英文論文をそのまま日本語訳するというスタイルは取らない. (2)日本人研究者を含めて, 高校生, 大学初年級の読者が興味を持ち, この分野に参入したいと思うことを目標とする. (3)第一巻はすべての巻を展望する入門書とし, 継続巻は各班を中心とするやや専門性の高いものにする. この方針のもと, 第一巻『実験が切り開く21世紀の社会科学』の作成に注力した. 第一巻では, 社会科学の各分野が実験を通じてどのようにつながるのか, 実験を通じて新たな社会科学がどのように形成されようとしているのかに加えて, 数多くの異分野を繋ぐタイプの実験研究を紹介した. この巻はすでに2014年春に出版されている. 継続の巻も巻ごとで差はあるものの, 多くの巻で近年中に出版の見込みがついた. さらには, 特定領域成果報告書とりまとめを業務委託し, こちらも順調にとりまとめが進んだ. 以上のように本研究は当初の目標を達成した.
著者
井戸田 秀樹
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は,鋼構造部材の靭性に不可避な不確定性が存在することを前提とし,鉄骨ラーメンの耐震信頼性を効率的に向上させるための部材靭性統計量制御についての新たな知見を目的としたものである.研究成果は以下の3点である.(1)部材靭性の不確定性が鉄骨ラーメンの耐震信頼性に与える影響を把握した.(2)文献調査と実験に基づく部材耐力および靭性の統計情報の再構築を行った.(3)鉄骨ラーメンの効率的な耐震信頼性向上を実現する部材靭性の統計的性質を提示した.
著者
齋藤 俊浩
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

研究目的東京大学秩父演習林を含む埼玉県西部の奥秩父地域においては、1990年代からシカの個体数が増加していると推定され、過度の採食による下層植生の衰退など、森林植生に及ぼす影響は深刻である。森林の植生変化は、その森林の生態系の上に成立している自然の音環境にも影響を及ぼしている可能性があり、本研究においては、シカの個体数増加が森林生態系へ及すインパクトを、音環境を指標として捉えることを目的としている。研究方法森林のタイプ、標高別に調査地を4ヶ所設置した(調査1〜4)。調査地1、2、3では、5月〜8月にほぼ週に1回(調査地4は、月に1回)のペースで定点録音を行い、調査地1、2では、同じく週に1回、ウグイスのさえずり録音を行った。定点録音は、ステレオマイク、さえずり録音は、モノラルマイクを用い、記録媒体は、主にメモリーレコーダーを用いた。録音データは、コンピューターに取込みソナグラムを作成し、また、聞取りによって音源を確定した。これらの音声データは、これまでに構築してきたデータと比較するとともに、さえずり録音による音声データについては、さえずりの頻度や構造を比較した。研究成果本調査の録音データから、鳥類のさえずり、風の音、セミやバッタといった昆虫の発する音といった森林の音環境の構成に大きな変化はみられなかった。下層植生が衰退している調査地1、2、3においては、ウグイスの個体数の減少が示唆され、特に調査地2では、ウグイスのさえずりが確認できなくなっていた。下層植生の変化が少ない調査地4においては、ウグイスは個体数をこれまでと同様に維持していると考えられ、さえずり頻度にも変化はみられなかった。シカの個体数増加による下層植生の衰退により、営巣場所などを下層植生に依存しているウグイスが、個体数を減少させたという間接効果の可能性があり、ウグイスのさえずりという本調査地域の音環境の主要な音源に大きく影響していると考えられる。
著者
宇城 輝人
出版者
公立大学法人福井県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、就業者の大半が雇用され、社会保障が雇用に関連づけられるような社会(賃労働社会)の成り立ちを、以下の3点に焦点をおいて知識社会学的に検討した。(1)労働と非労働の境界線が19世紀末から20世紀前半のフランスでどのように構成されたのか。(2)労働の残余だった非労働がどのようにして人間の本質として経験されるのか。(3)そのような非労働を生きる人間たちの集団生活がどのような空間秩序(都市、郊外)のもとに形成されたのか。
著者
小杉 泰 足立 明 東長 靖 田辺 明生 藤倉 達郎 岡本 正明 仁子 寿晴 山根 聡 子島 進
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、環インド洋地域を構成する南アジア、東南アジア、西アジア/中東について、イスラーム、ヒンドゥー教、仏教が20世紀後半から宗教復興を遂げている状況を調査し、社会と宗教がともに現代的なテクノロジーによって変容している実態を解明した。特に先端医療の発展によって、宗教的な生命倫理が再構築されていることが明らかとなった。
著者
黒田 公美
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

すべての哺乳類において、親による子育て(哺乳、仔の安全や衛生を守るなどの母性的養育行動)は子の生存にとって不可欠である。したがって親の脳内には養育本能を司る神経メカニズムが備わっており、その基本的な部分はすべての哺乳類で共通であると考えられる。そこで我々は、人間の養育行動とその病理の理解を深める目的で、マウスをモデル動物として養育行動の神経メカニズムを解析している。本研究では、養育しているマウスとしていないマウスの脳内養育行動中枢(内側視索前野、MPOA)を単離し、DNAマイクロアレイ法による網羅的遺伝子発現解析を行うことにより、養育している時だけ発現が上昇する遺伝子群を探索した。見出された遺伝子群はすべて、細胞内シグナル伝達系の一つであるERK経路に関連していた。実際にマウスが養育を開始すると15分でERKが活性化される。また、ERK活性化を特異的阻害剤SL327によって抑制すると、養育未経験なマウスは養育行動を学習できなくなった。しかし、すでに養育を十分習得した母マウスの養育行動にはSL327は影響を与えなかった。さらに、転写因子FosBの遺伝子破壊(KO)マウスでは、養育行動が低下していることが知られているが、このFosBKOマウスでは、MPOAにおけるSPRY1およびRadの発現量が低下していた。SPRY1とRadはそれぞれ、ERK活性化およびカルシウム流入を介した神経細胞活動に対しフィードバック抑制を行う。さらにRadは神経突起の伸長などの形態変化を誘導する機能も持つ。以上の結果より、仔マウスからの知覚刺激により親マウスの脳のMPOAニューロンにおいてERK活性化が起こり、cFos/FosB転写システムが活性化されてSPRY1とRadを誘導し、これらの分子によってニューロンの活性制御と形態変化が起こることが、養育行動の獲得に重要であると考えられた(投稿中)。
著者
中村 正人 松田 佳久 高木 征弘 今村 剛 はしもと じょーじ 山本 勝 大月 祥子 小郷原 一智 林 祥介
出版者
独立行政法人宇宙航空研究開発機構
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

欧州の金星探査機Venus Expressにより得られた観測データを金星探査機「あかつき」のデータ解析システムで分析するとともに、大気大循環・放射輸送・雲物理・大気化学の数値シミュレーションを行い、大規模風系の維持と大気物質の循環のメカニズムを探った。これらの成果をもとに、残された問題点を洗い出し、2015年に改めて周回軌道投入を目指す「あかつき」の観測計画の最適化を進めた。
著者
宮宗 秀伸
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

代表者はこれまでに、代表的な臭素系難燃剤の一つであるデカブロモジフェニルエーテル(DecaBDE)への曝露が、マウスにおいて精子数を減少させることを明らかにしてきた。本研究ではDecaBDE曝露が引き起こす精子数減少の分子メカニズムの解析を行った。本研究課題によって、新生児期マウスへのDecaBDE曝露は、1) 血中テストステロン濃度の減少、2) 精巣におけるアンドロゲン受容体や甲状腺ホルモン受容体の減少を引き起こし、さらに3) 甲状腺ホルモンのスプライシング産物の比率に影響をおよぼすことが明らかとなった。これらの結果は、DecaBDEが精子数減少を引き起こす分子機構の一端を明らかとした。
著者
宇山 智彦 BEATRICE Penati PENATI Beatrice FENATI Beatrice
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

当初はウズベキスタンの地方文書館で史料調査を行う計画であったが、近年、外国人研究者にウズベキスタンの文書館の利用許可が非常に下りにくくなっているため、実現できなかった。その代わり、モスクワのロシア国立社会政治史文書館(RGASPI)で、ウズベキスタンの地方の党組織から共産党中央委員会中央アジア・ビューローに送られた文書を閲覧した。その結果、土地水利改革が、モスクワからの押しつけというよりも、地方からの要請で行われた面が大きいという仮説を裏付けることができた。前年度までの作業と合わせ、土地水利改革の前史(ロシア帝国期の土地調査・税制を含む)、政策立案の方法、改革に関与した諸組織・指導者、改革の経済的・社会的影響を解明し、研究の目的をほぼ達することができたと言える。研究分担者は2011年8月にカザフスタンのナザルバエフ大学助教授となり、日本を離れたが、研究成果の取りまとめと発表はその後も続けている。成果の一部は、ESCAS(欧州中央アジア研究学会)などヨーロッパ各地の学会・セミナーで発表した。また、1920年代のネップ期に中央綿作委員会が、金融・商業・食料供給・投資を含むウズベキスタン経済のさまざまな分野において果たした役割と、他の諸機関との競争関係を分析した論文が、2012年内にフランスのCahiers du Monde Russe誌に掲載されることが決定した。また、ロシア革命から農業集団化前夜までの、ウズベキスタンにおける土地水利改革を含む農業・経済政策と社会・環境変化についてのモノグラフを執筆中で、遠からず完成する予定である。
著者
相馬 充 谷川 清隆
出版者
国立天文台
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

我々の研究は西暦628年(推古天皇36年)の日本書紀最初の日食記録が記録どおりに皆既日食であったことを明らかにしたことに端を発している.これにより,過去の地球自転速度変動を明らかにすることの重要性が認識されたためである.我々は地球自転回転角パラメータΔTと同時に月の潮汐項を決める手法を開発し,これによって,まず,紀元前200年以降,現在まで,月の潮汐項がほぼ一定であることを明らかにした.これは,紀元前198年から紀元前181年までの中国とローマにおける皆既日食と金環日食の記録,および,紀元後616年,628年,702年の中国と日本における皆既日食や皆既に近い日食と紀元後681年の日本の火星食の記録などから判明した事実である.ΔTの値については,紀元後1年以後1200年までの中国や欧州の日食記録を調査し,454年と616年の間に3000秒以上の急激な減少が,また,873年と912年の間に600秒以上の急激な減少があったが,その他には特に目立った変化がないことがわかった.さらに,ΔTの値が他の期間では減少傾向にあるのに対して,616年と873年の間ではほとんど変化がないか,むしろやや増加していることが明らかになった.これは,西暦628年と873年の日本の日食記録,616年,702年,729年,761年,822年の中国の日食記録と840年のベルガモ(イタリア)の日食記録などから判明したものである.この他,ΔTの決定には,月食の時刻記録も有用であり,将来の解析に用いるため,世界の古代におけるこれらの記録を収集し,計算機で扱えるファイルとして保存する作業も行った.
著者
佐々木 悠介
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

前年度に引き続き、写真言説の中でとりわけ重要と思われる、カルティエ=ブレッソン受容文脈の変遷について、研究・調査を行った。昨年度、新型インフルエンザ流行と、海外での資料開示状況が思わしくなかったために見合わせていた出張を積極的に行った。まず六月にニューヨーク近代美術館のアーカイヴへの出張を行った。これはアメリカにおけるカルティエ=ブレッソン受容の状況を掘りこす意味で重要な調査であり、一部、公開審査を停止している資料があったものの、二十世紀後半の状況について、調査を行うことできた。また、八月には国際比較文学会(ICLA)の大会(於韓国ソウル、中央大学校)に参加し、研究発表を行った。これは、前述ニューヨーク出張の成果を踏まえたものである。またこの研究発表に関連して、国際比較文学会のProceedings(研究発表記録集)も英文原稿を投稿し(本年一月)、掲載可否の査読を待っているところである。なお、本研究に関連して博士論文の執筆中であるため、これ以外の途中段階の研究報告は行わなかった。本研究の二年間の採用年度の間に、次々と新しい題材が見つかり、研究対象の範囲を拡げてきたが、写真関連の一次資料(写真集ど)および二次資料(研究文献)は、国内の所蔵が極めて少なく、基本的な文献でも国内の図書館に全く所蔵されていない物も少ななかった。また、これらについて海外の図書館から複写取り寄せを試みたが、いずれも新しい時代の題材であるために,複写許可がりない物がほとんどであった。したがって、必要最低限のものは独自に購入せざるを得ず、本年度も昨年度に引き続き、洋文献購入特別研究員奨励費の多くを使った。その結果、本研究に関わる題材の、海外における研究状況の概略が明らかになったほか、従来の真研究の通説とは違った構図も徐々に発掘でき、現在執筆中の博士論文にも大きな前進が見られた。
著者
諫早 直人
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

今年度も韓国、日本の諸機関において実地調査を遂行した。とりわけ韓国に関しては、これまでにおこなってきた清州新鳳洞古墳群出土馬具や高霊池山洞古墳群出土馬具に対する調査成果について、前者は共同、後者は単独で公表することができた。また、新たに嶺南大学校博物館が所蔵する慶山林堂古墳群出土遺物、そして昌原大学校博物館が所蔵する蔚山中山里遺跡出土遺物について、それぞれ韓国人研究者との共同調査をおこなった。その概要についてはすでに一部発表をおこなっており、今後も引き続き調査を継続する予定である。また、日本の宮崎県六野原古墳群出土馬具についても所蔵先の研究者と共同で報告をおこなった。以上のような実地調査やその共同報告作業の成果にもとついて、雑誌・学会発表をおこなった。とりわけ今年度は日本列島古墳時代の馬具にづいて検討をおこなった。具体的には初期轡について検討をおこない、それらの製作技術と系譜について明らかにした。さらには轡だけでなく初期馬具全体に対する検討結果について口頭発表をおこなった。また東アジアにおける鉄製輪鐙の出現について検討をおこない、現状では日本列島に世界最古の鉄製輪鐙が存在することを明らかにした。このような今年度の成果をこれまでに進めてきた中国東北部や朝鮮半島の研究成果と総合し、博士学位論文『古代東北アジアにおける騎馬文化の考古学的研究』を京都大学大学院文学研究科に提出した。これによって、本研究が課題として掲げた騎馬文化と王権の関係、そして古代国家形成における馬の果たした役割についてモデル化を試み、騎馬文化東漸の歴史的メカニズムを解き明かす、という所期の目標を達成することができた。
著者
佐藤 俊樹
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

1)意味システム論としてのコミュニケーションシステム論を、特に従来の社会学での制度概念とのつながりと複数の分野への応用しやすさに注目して、理論的に再構築した。2) 1)の成果を都市の生成に適用することで、都市の自己生成の形態を、自己産出的な意味システム論の視点から明らかにした。
著者
南 俊朗 大浦 洋子
出版者
九州情報大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は授業や図書館において得ることのできるデータ解析を通じて学習者としての学生の学びへの姿勢に関するモデル構築を目的とした.通常のアンケート解析による直接的な統計解析ではなく図書館の貸出データなどから間接的な手法により潜在的な姿勢の把握手法の開発を目標とした.研究においては対象者の学習姿勢に関する情報を発見するための新しい指標の提案とデータ適用および考察を行った.その結果,図書館データ解析より,法学部系の学生が文系の典型例となっていることなどの発見があった.授業データ解析からは学ぶ内容に対する広い視野をもった学生の成績が良いことが見い出された.研究成果は国際会議・雑誌等で周知を図った.
著者
瀬谷 貴之
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

本年度の研究は、解脱上人貞慶が勧進状を起草し、その弥勒信仰から、強く関与したとされる興福寺北円堂鎌倉再興事業の実態について主に明かにした。まず、解脱上人貞慶関係の基本史料(『讃仏乗抄』『祖師上人御作抄』『解脱上人小章集』など)について調査・再検討した。その結果、北円堂再興造営は、貞慶により南都仏教に宣揚・確立された、釈迦(舎利)=弥勒という思想・信仰に基づくものであることがわかった。その理由としては、次ぎの(1)〜(3)が挙げられる。(1)北円堂本尊弥勒仏の頭部には、唐招提寺舎利を込めた弥勒菩薩像を納めた厨子が、板彫五輪塔に挟まれ納入される。(2)弥勒仏脇侍の無着像は宝筐とされる布に包まれた持物を持つが、これは本来舎利瓶とみられる(これについては同じく脇侍の世親像についても言える可能性が高い)。(3)北円堂それ自体の特徴として、屋根に頂く大きな火炎宝珠形があるが、これも当時の宝珠形舎利容器と共通する。そして、これら北円堂再興造営に、釈迦・舎利信仰の強い影響がみられ、造形に反映されているという事実は、現在、興福寺南円堂に安置される鎌倉初期の四天王像が、本来の仏師運慶一門によって制作された北円堂像ではないかとされる学説の有力な手掛かりとなる。なぜなら同四天王像のうち多聞天像は、その持物である舎利塔をことさら高く掲げる。また一般に多聞天(北方天)は、陰陽五行説に基づき身色を黒色系とするが、現南円堂像は、その身色を白肉色とすることを特徴とし、これも当時の南都仏教界において、貞慶によって唱えられていた舎利の色を「白玉色」とする思想に影響を受けたものとみられる。以上のことから、現南円堂四天王像は・貞慶の思想的影響を受けた北円堂像の蓋然性が濃いのだが、その詳細については今後の研究課題としたい。