著者
酒井 千絵
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

2017年度は大学における国際化・グローバル化に向けた取り組みを観察し、資料を収集した。特に、英語を用いる授業の実施や研究者の国際的な研究体制を支援する具体的な取り組みについて、聞き取りを行うとともに、実際にその取り組みに参加し、参与観察を行った。また、主に中国からの大学及び大学院への留学生に対して聞き取り調査を行い、日本への留学を決断した経緯や留学生活に対する評価、卒業後のキャリア展望について情報を収集した。調査を通じて、国際化・グローバル化に向けた政府の教育行政の取り組みがもつ問題点が明確化されてきている。たとえば、英語を共通語とするグローバルな研究体制の中で日本の高等教育が持つプレゼンスや地位を上げていくことをめざす一方で、日本人学生を主体とする大学学部教育では、その取り組みに呼応していく学生が一部にとどまっていること、英語圏からの留学生も一定数含まれる短期留学・交換留学と、東アジアの非英語圏からの留学生とが混在していること、などの矛盾を含むものであることが分った。2017年度はまた、オーストラリア・パースで行われた「アジアにおける女性」の学会に参加し、日本から中国へ移住する女性の経験に関する研究発表を行い、合わせて、アジア研究者の国際交流のあり方について、研究者から話を聞いた。大学や研究機関の国際化・グローバル化においては、アメリカやヨーロッパが目指すべきモデルとしてイメージされることが多いが、日本との人的交流の規模を考えると、中国をはじめとするアジア諸国の役割は大きい。日本に留学して学ぶ中国からの学生に加え、中国で学ぶ日本人や研究・教育活動に当たる日本人研究者への聞き取りは、英語を軸に成り立つ研究ネットワークと併存する、アジア圏での研究交流のあり方を示唆するものとして分析が可能である。
著者
筒井 淳也
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

女性の労働力参加について、構造要因と制度要因を区分した枠組みを用いたより立体的な理論モデルを構築し、それを数量データによって検証することができた。日本の場合、内部労働市場型の働き方が家族キャリアを考慮する女性の継続就業を難しくしており、これが意図せざる結果として女性の経済活動の活性化を阻害することになった。
著者
大岡 頼光
出版者
中京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

自治体住民1人当り児童福祉教育費と年少人口増加率はほぼ相関がなかった。地方の子育て世帯を呼び込む政策は近隣との奪い合いに終わりがちだ。高齢者向けの保障を合理化し少子化対策に振り向けられるのは国だけだ。仏が常に出産奨励主義なのは独に対抗するためで、強い意志は19世紀末から一貫する。社会保障目的税CSGの増税を唱えたマクロンが大統領選挙に勝てたのは、高齢者の貧困率が若い世代より低いからだ。CSGはスウェーデンの課税給付金の発想(「全員が税を負担できるように、全員に十分給付する」)に似ている。また、人口減対策の財源を作るため、高卒の社会人の大学入学を公費で促し、税をより払う大卒者を増やす必要がある。
著者
魚住 明代 廣瀬 真理子 相馬 直子 舩橋 恵子
出版者
城西国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

戦後に発展をみた欧州の福祉国家は、近年の少子・高齢化や経済のグローバル化によって、抜本的な改革を迫られている。他方で、家族の多様化や家族機能の衰退は、社会的支援策へのニーズをますます高めている。本研究は、多様化する家族のなかでも、とくにひとり親(母子)世帯に焦点を当てて、その支援策のあり方について、家族主義の伝統が比較的強く残る西欧の大陸諸国(ドイツ、フランス、オランダ)と、韓国を取り上げて、文献・実証研究の両面を通して比較研究を行った。対象国の事例から、所得保障と母親の労働環境の向上と福祉・教育サービスを軸にして、それらを横につなぐ視点に立った支援策が必要であることが明らかにされた。
著者
小野寺 理佳 梶井 祥子
出版者
名寄市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究の目的は、「未成年の子ども(孫世代)のいる夫婦(子世代)の離婚や再婚」による家族関係の変化に関わって、祖父母世代が多世代を繋ぐ働き(多世代の紐帯)を果たすことにより、子世代・孫世代への支援となり得ることを明らかにすることである。平成29年度は、スウェーデン調査の2年目であった。平成29年度も、平成28年度と同様に、現地の関係各所との交渉・調整の結果、ストックホルム市とエステルスンド市両地域において調査を実施することとなった。平成29年度は、平成28年度調査から得られた結果をふまえて、社会福祉サービス部門の職員(離婚家庭に実際に関わる社会福祉士、親の離婚を経験した子どものためのサポートプロジェクト職員、家族関係のコンサルタント、高齢化した祖父母世代が入居する高齢者特別住居のスタッフ等)やファミリーセラピーを行なう民間機関のコーディネーター、当該領域の研究者(ストックホルム市の児童・青少年センタースタッフとストックホルム大学で児童心理や家族問題を研究する研究者)の意見・認識をとらえるための聴き取りを行なった。その結果、親の離婚や再婚により子どもはより豊かなネットワークを得ることができるという認識が浸透していること、祖父母による世代間支援については、祖父母自身の就労と自立、生活水準、子世代に干渉しない抑制的な態度が求められる社会であること等が影響しており、福祉が担う範囲が拡がっていること、「交替居住」について肯定的な評価が多い一方で、「交替居住」に伴うストレスに苦しむ子どもの存在があり、その子どもを対象とするサポートプログラムの実施が広がりつつあるなかで、祖父母世代がそこに関われる可能性もあること、祖父母世代が仕事をして自立して生きることと自分の関心を優先させて暮らしてきた結果として、老後の施設での生活において世代間関係の希薄さが自覚される場合もあること等が確認された。
著者
吉村 治正 正司 哲朗 渋谷 泰秀 渡部 諭 小久保 温
出版者
奈良大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

一般的に、モニター登録型のWeb調査では排他的・保守的でネガティブな回答傾向が現れやすいといわれている。この偏りを検証すべく、本課題ではモニター登録型のWeb調査に加え、住基台帳からの無作為標本抽出にもとづく独自のWeb調査を実施した。二つの調査の結果の比較から、一般的なモニター登録型Web調査の偏りは、非回答誤差・測定誤差および職業的回答者の存在のいずれを主たる原因とするとも見なし得ず、したがって網羅誤差に帰属されるべきことが明らかとなった。
著者
品田 知美 田中 理恵子
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、「日本および英国の核家族において、日常の生活様式の選択および水準維持が、子どもを持つことや働きかたへの理想とどのように関連しながら現実に選択されているのか、ミクロな家族システム内で生じている力学に関する知見を得る」という第1の目的は昨年度までに概ね達成された。日本の親たちに期待されている生活様式水準については、研究協力者による雑誌分析の結果によると、とりわけ食の分野において時間短縮というトレンドが提示されているようでも、実質的には相当に質への要求が高止まりしており、母親たちへの期待値は高いのではないかという暫定的知見が得られた。また、英国および日本の双方において小学生の子どもと同居する女性に対してインタビューを実施した。家族と労働にかんしてどのような意識構造のもとで両国で日々の生活が営まれているのかについて、その差異と共通性への知見を得ることができた。現時点ではすべての実査を終えたばかりであり、内容については十分な分析に至っていない。1つ暫定的な結論を述べるならば、日本の親たちの生活時間のトレンドは、食を整える時間がやや減って、子どもとかかわる時間が増加したという、英国の親たちに接近しているにしても、インタビュー調査によれば、意味するところはかなりの違いを伴っている可能性が示唆された。最終年度には、これまでの実査で得られた知見をもとに、「子どものいる核家族のワークライフバランスを実現するにあたり、生活領域で希求されていることと、現代日本の労働システムには、どのような点において齟齬が生じているのかについて理論的に考察する」第2の目的に向けて取り組む予定である。
著者
前田 忠彦 松本 渉 高田 洋 伏木 忠義 吉川 徹 加藤 直子
出版者
統計数理研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

訪問面接調査や留置調査など調査員が介在する調査法,Web調査などそれ以外の調査モードを含む様々な調査で実施の際に付帯的に得られる調査プロセスに関する「調査パラデータ」を解析し,調査の精度管理に有用な情報を得ることを目指した検討を行った。また,調査不能率が高い場合に懸念される調査不能バイアスの影響を評価したり,それを調整する方法についての研究を行った。面接調査等の訪問記録や,電話調査での発信記録を分析することによって,調査員の行動をよりよく理解することができるようになり,調査員教育に生かすことができる。また他の調査モードで得られる回答所要時間のデータなどで回答者行動の理解を深めることができる。
著者
石川 由香里 加藤 秀一 片瀬 一男 林 雄亮 土田 陽子 永田 夏来 羽渕 一代 守 如子 苫米地 なつ帆 針原 素子
出版者
活水女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

今年度を総括して述べれば、来年度への調査実施に向けた準備を順調に進めることができた年度と言える。中学生と高校生向けの調査票は、昨年度においてすでに完成していたが、それに加え5月に実施した研究会において、大学生に対する調査票を確定することができた。過去7回の調査結果の分析に際しては、独立変数に設定できる質問項目が少ないことが反省材料であった。とくに家庭の社会経済的背景についてたずねることについて、学校側の抵抗感が大きく、最近ではとくに質問項目として盛り込むことが難しくなってきた。しかし、一昨年および昨年度に行われた大学生対象の予備調査において、大学生であれば親の学歴や職業についての質問項目に答えることへの抵抗はほとんど見られず、分析に耐えるだけの回答を得ることができていた。したがって本調査においても、大学生対象の調査票の項目には、親の学歴や生活状況を尋ねる質問を含めることとした。今年度のもう1つの大きな取り組みとしては、調査先の決定があった。そのために協同研究者はそれぞれ、調査候補となっている都道府県及び区市町村の教育委員会ならびに対象校へ調査の依頼のために手分けしてうかがった。その結果、年度末までには、かなり理想に近づく形での調査協力を取り付けることができた。年度内に3回実施された研究会においては、調査協力依頼のための文書を作成し、またそれぞれの調査先から調査実施の条件として示された個別の案件についても審議した。また実査に加わる調査員に対するインストラクションの内容、保険、旅費の配分など、調査に必要なすべての事柄について確認を行った。
著者
岩上 真珠 渡辺 秀樹 宮本 みち子 米村 千代 大槻 奈巳 松木 洋人
出版者
聖心女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015

・アンケート調査の属性集計から、調査結果の全体的な要約の作成と、それを踏まえた研究分担者の各自のテーマの分析案を検討する作業を行ない、10月以降にとりまとめる予定であった。・アンケート調査の自由回答欄も分析するため、記入内容をテキストデータ化する作業を行なった(業者委託)。30代では結婚・育児に関する不安、60代では将来の経済的生活、子どもとの関係に関する問題などが比較的多く記述されていた。10月以降に、自由回答の分析方法の検討も行なう予定であった。・インタビュー調査については、調査会社と対象者の選定作業や個人情報保護の取り扱いの取り決めなどの準備作業を行ない、平成29年9~10月に約20人(平成28年度延期分を合わせて合計40名)に対し実施予定であった。・平成29年8月に研究代表者が死去したことにより研究事業が廃止となったため、上記9月以降の作業の実施をすべて中止せざるをえなかった。
著者
福田 節也
出版者
国立社会保障・人口問題研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

近年、先進諸国では、世帯内におけるジェンダーの平等性が高いほど出生力が高いという傾向が見られつつある。日本では夫婦間の性別役割分業のあり方と出生はどのように関わっているのであろうか。当該年度における研究では、厚生労働省が実施している「21世紀出生児縦断調査(平成13年出生児)」のデータを用いて、夫婦の性別役割分業と第2子出生との関連についての分析を行い、研究所のワーキングペーパー(http://www.ipss.go.jp/publication/e/WP/IPSS_WPE28.pdf)として刊行した。分析の結果、日本では第1子出生時に妻が専業主婦であった世帯の方が、共働きであった世帯よりも第2子出生確率が高いことが明らかになった。しかし、専業主婦世帯、共働き世帯ともに、夫の育児参加と第2子出生との間には正の関連がみられた。また、妻がフルタイム就業である共働き世帯では、妻の家事頻度と第2子出生との間に強い負の関連が見出され、就業女性の「セカンド・シフト」が出生に対して負の影響をもつことが示唆された。一方で、夫による家事参加は出生に対して全く影響を与えていなかった。ただし、妻が自営業者・家族従業者である場合は、夫の家事参加と第2子出生に正の関連があった。この関連は、夫婦共に自営業である場合に特有のものとみられる。自営業における就業環境、例えば、職場と住居が近接しており、就業時間が柔軟であり、仕事内容における男女差が少ないといった条件が整えば、日本でもジェンダー役割の平等性と出生との間に正の関連が見出される可能性が示唆される。政策的な含意としては、女性の就業と出生との間にみられる負の関連をいかに取り除くかが、引き続き重要な政策課題である。また、長時間労働や長時間通勤といった男性の働き方を含めた改革が日本のジェンダーと出生力の両方を改善する鍵であることが示唆される。
著者
濱野 健
出版者
北九州市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本年度は研究計画の三年目に当たる。本年度も、昨年同様に、国内における研究協力団体への定期的な参与観察を実施した。実施先は、首都圏および北部九州である。調査回数は、平成29年4月から8月まで、延べ3回にわたる。その他にも、8月には中部地方にて、研究協力者への長時間への個別聞き取り調査などを実施した。また、研究協力者の依頼をうけて、本研究課題の成果に基づく情報提供を実施し、成果の還元に努めるなどした。また、本年度の具体的な研究成果として、本年度は国際学術誌にて査読付きの研究論文を英文にて出版した。内容については、本研究課題以前に実施していた研究内容、及び本研究での問題設定を、今後の検討課題も含めて考察した内容となっている。しかしながら、平成29年度については同年9月より米国にて在外研究のために一年間在籍することになったため、年度の後半については当初予定していた最終年度としての成果の公開にはいたらなかった。しかしながら、当初平成29年度までを予定していた研究計画を一年間延長することが認められたため、在外研究期間中に本研究に関わる文献資料や先行研究の収集を集中的に実施した。また、現地で開催される学術会議やカンファレンス(米国アジア学会年次大会等)などに出席し、本研究に関連する研究報告などの知見を得ることができた。また、所属先であるミシガン大学にて、関連する涼気の研究者などと交流をすることにより、本研究についての新しい視点や先行研究などの紹介を得ることができた。
著者
石田 賢示
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

「出入国管理及び難民認定法」の改正が施行された1990年以降、日本に居住する外国人の人口構造が量と質の両面で大きく変化してきた。日本では、これまで移民とネイティブ(すなわち日本国籍者)を直接比較できるようなデータの整備・公開が必ずしも十分ではなかった。そこで本研究では、ネイティブとの比較分析を通じ、日本社会における移民の地位達成過程構造の特質を解明することを目的として設定した。既存データの二次分析や独自に実施した社会調査データの分析結果から、第二世代移民の地位達成構造がネイティブと類似していることが明らかになった。ただし、同化した移民が機会と困難の双方に直面しうる点には注意すべきである。
著者
須藤 遙子
出版者
筑紫女学園大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、自衛隊広報センターと広報イベントのフィールドワークを通し、1990年代半ば以降に積極化してきた自衛隊広報戦略の内容と経緯を実証的に考察してきた。海上自衛隊佐世保史料館、航空自衛隊浜松広報館、陸上自衛隊広報センター、海上自衛隊呉史料館などの大型広報施設をはじめ、プラチナチケットともなっている富士総合火力演習や、F15座席の試乗などもできる各地の航空祭等、近年の自衛隊体験型イベントの人気は想像以上だった。自衛隊という存在が国民に定着し、好意的に受け入れられていることは、総務省の調査でも判明しているが、本来の目的である自衛官への応募数は減少している。
著者
正田 悠
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

「音楽は感情の言語である」といわれるように,音楽には意図や感情を受け手に伝達するコミュニケーションとしての機能がある。本研究では,演奏者と鑑賞者が「共に会する」生演奏における,演奏者ならびに鑑賞者の時々刻々の反応を調べた。特筆すべき成果として,生演奏場面では,演奏者の不安が高い("あがり" を経験している)と,演奏に伴う身体運動が抑制されること,心拍数および心拍のゆらぎが大きくなること,生理的複雑性が低下することが示された。また,鑑賞者の微細な身体運動,鑑賞時の時々刻々の印象の変化,および心拍数は,録音された演奏をスピーカーで聴取するときよりも生演奏鑑賞中に抑制される傾向にあることが示された。
著者
川合 南海子
出版者
愛知淑徳大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

男性同士の恋愛を描いたマンガや小説を愛好する女性たちがいる。恋愛における女性の存在を回避する彼女らは、自分の女性性や性役割について違和感を抱いているのではないか。腐女子を通して、現代の女性たちが感じている葛藤や抑圧を可視化することが本研究の目的である。20歳前後の女子大学生を対象に、好んで読む小説・マンガのジャンルによって3群に分け、ジェンダー・パーソナリティや性役割観について質問紙調査を行った。その結果、腐女子は伝統的な性役割を肯定する傾向が、腐女子でない女性よりも顕著に低かった。腐女子は、自身の女性性を受容している一方で、女性への通念的な性役割に対しては否定的であることが明らかとなった。
著者
山本 由美子
出版者
大阪府立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は生命科学技術、なかでも出生前検査をめぐる諸問題を中期中絶と女性の任意性に注目するものである。あらたな出生前検査の出現は、同検査と中絶をめぐる諸体制が、女性の身体リスクを過小評価したうえに成り立ってきたことを表面化させた。また特定の属性の胎児に焦点をあてる出生前検査やそれに伴う中絶を容認する根拠は、以前として曖昧であることを浮き彫りにした。本研究では、生殖をめぐって展開される生命科学技術と医療専門家および国家による統治と、そこに内包される問題を医学的・社会的・倫理的に明らかにした。また出生前検査と「言語的承認」の関係を分析することにより、統治のあらゆる段階において女性が客体化されていることを明らかにした。この統治の仕組みは、特定の属性の胎児の排除を不問にしたまま、生命科学技術における商業性の排除、女性の任意性および女性身体の保護のいずれも担保しえていないことが分析された。〈女性身体の保護〉の理論構築では、医療システムを超えた〈子産みの統治性〉というあらたな概念を用いることで、生殖の統治それ自体からの解放をも展望する分析が可能となることが示唆された。なお、研究遂行の過程で、21トリソミー発見をめぐる女性科学者の功績が公正に評価されていれば、21トリソミーの人々の現在の立ち位置が大きく変わっていた可能性が示唆された。今後の研究のあらたな論点として取り入れ、引き続き分析していく予定である。
著者
大島 章子 伊藤 宗之
出版者
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

てんかんの遺伝性モデル動物スナネズミの発作は、ヒトにみられるような年齢依存的な発作形成過程を持つ。われわれは、スナネズミの発作形成初期に、発作誘因である床換えにより耳介のリズミカルな運動が出現し、その後、発作部位が拡大することを見出し、遺伝素因の上に加えられた外部刺激、前庭刺激後の後発射による耳介の動きの出現が、全身発作に至る発作形成の初期過程であるという仮説をたて、以下の実験を行った。耳介のリズミカルな運動の原因部位として、電気刺激により耳介の運動を誘発しうる大脳皮質部位を調べたところ、冠状縫合の側後方に存在した。一方、前庭刺激に応答する大脳皮質部位、前庭皮質の存在およびその位置を調べるため、前庭装置の解剖学的特徴を調べ、前庭刺激としての電気刺激を行うための手術手技を開発した。見出された前庭皮質の位置は、耳介の運動を誘発する大脳皮質部位と位置的に重なった。また、耳介の運動を誘発しうる大脳皮質部位の刺激条件を検討したところ、特定範囲内の刺激間隔で最低3発の低電流の矩形波で運動が誘発された。これらの結果は、上に述べたわれわれの仮説の可能性を空間的な、また電気生理学的な意味で支持する結果と考えられる。また、耳介の動きを誘発しうる大脳皮質部位へ投射している可能性のある細胞群が視床に見出されたが、その部位が、他の動物種で前庭皮質へ投射していると報告されている部位に対応していたことから、前庭反応と耳介運動誘発の二つの現象が、視床内で関連している可能性も考えられた。さらに、遺伝素因の可能性のある物質として、実験的なてんかん発作形成に関与しているP70蛋白について調べた結果、抗P70抗体と反応し、P70と等電点と分子量の似た蛋白が、神経細胞の主として核、およびゴルジ装置に存在することがわかった。これらの結果をもとに、スナネズミの発作の初期過程から抵闘値部位の拡大に至る発作形成機序、また、ヒトにみられる闘値の固体差についてさらに検討を進めうると考えられる。
著者
川端 亮 渡邉 光一 猪瀬 優理 弓山 達也 河野 昌弘
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究においては、私たちのグループは、UMLを用いて、宗教の体験談を図示する方法を開発した。Enterprise Architect13というソフトウェアを用いて、既に教団誌に発表された体験談や、これまでメンバーが聞き取ってきた体験談を、クラス図とステートマシン図によって示した。日本社会学会大会で、「ライフヒストリーの図式化の試み」と題して、その成果を報告した。また、学術論文としてもその成果を発表した。さらにこのUMLによる体験談の図示をもとに、宗教体験談を聞き取る項目を検討し、インタビューガイドを作成した。そのガイドに従い、インタビュー調査を実施した。