著者
重本 直利 細川 孝 望月 太郎 碓井 敏正 細井 克彦 植田 健男 碓井 敏正 細井 克彦 小山 由美 植田 健男 中村 征樹
出版者
龍谷大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

研究成果は以下の5点である。(1)ステークホルダー間調整視点から「評価-機能モデル」を仮説的一般理論としてまとめた。(2)「評価-機能」の相互関係性の検討を行う上での基本用語の整理を行った。(3)韓国およびドイツ等での「大学内ステークホルダー間調整」視点からの調査において、教員、研究員(職員)、学生(院生)における「評価-機能」の相互関係性をまとめた。(4)日本の大学および認証機関における「PDCAサイクル」での評価の取り組みを「評価-機能モデル」から検討し、結論としてコミュニケーション型モデル・了解志向型モデルを提案した。(5)『研究報告書(研究記録を含む)』としてまとめた(2010年3月19日)。また、重本直利は『大学経営学序説』(晃洋書房、2009年)において成果の一部の公表を行った。
著者
松塚 ゆかり BAILEY Thomas R
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

米国での詳細なフィールド調査を通し、大学におけるナレッジマネージメントの概念と機能のメカニズム、活用の範囲とその効果、実践過程で生じた問題点や課題を明らかにするとともに、日本の大学におけるナレッジマネージメントの実践モデルを設計し、これを教育研究の分野で実践した。その結果を国内外の学会や研究会などで発表するとともに、報告書として「IR からKM へ-教育調査研究から『知』の共有への可能性-」にまとめた。
著者
上山 隆大
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、伝統的に「公的な」知識生産の拠点であった大学が、市場化の流れによって急速に「私的な」性格を強めている現状を歴史的に概観すると共に、失われつつある「アカデミックコモンズ」の再構築の必要性を実証的に論じることにある。本研究は、おもに1970年代から2000年ごろまでのアメリカの大学の変遷を、「知識経済」に政策の基盤をおこうとするアメリカ政府の産業政策との関わりから検証することを目指した。
著者
両角 亜希子
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、アメリカの大学の中でも、とくに授業料依存型の財務構造をもつ大学における経営戦略の実態を明らかにし、日本の大学経営に対する具体的な示唆を導きだすことにある。アメリカの私立大学のなかでも、潤沢な基本財産をもつ大学に注目が集まりがちだが、アメリカにおいても数の上では大半を占める授業料依存型の私立大学である。こうしたタイプの大学の多くは研究機能より教育機能で個別化戦略を立てていることが多い。そこで、アメリカで近年盛んにおこなわれている学生の学習状況調査(とくにインディアナ大学が行っているNational Survey of Student Engagementを中心に検討)で高い評価を上げている大学を探し、その中から、授業料依存率の高い大学をいくつか抽出してその特徴を検討した。
著者
姉崎 洋一 木村 純 光本 滋 千葉 悦子 浅野 かおる 長澤 成次 町井 輝久 町井 輝久 石山 貴士
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、世紀の時代転換期において、大学が迫られている知識基21盤型社会への主体的対応、さらには研究・教育・社会貢献のありようについての比較調査研究である。とくに、日中韓の東アジアにおいて大学のガバナンス、マネジメントにおいて、どのようなリーダーシップとパートナーシップがとられようとしているかについて、実証的動態分析を行った。今後の方略についての貴重な実践的知見が得られたといえる。
著者
北坂 真一
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究の主な結論は次の通り。第1に、日本の大学のデータを検討し、当局による大学行政を産業組織論の観点から再検討することが有益であることを指摘した。第2に、国立大学81校や私立大学107校のパネルデータを使いトランスログ費用関数をそのコストシェア方程式とともに同時推定することによって、規模や範囲の経済性が存在することを示した。第3に、国立大学のパネルデータを使い確率的フロンティアモデルを推定することにより、その非効率性の存在を明らかにした。第4に、国立大学の集計された時系列データを使い生産関数を推定し、大学教育の技術進歩率が年率0.4%~0.8%程度と低いことを明らかにした。
著者
岡 晋
出版者
国立民族学博物館
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

中国雲南省迪慶州に居住するナシ族の宗教的職能者「トンバ」と、ナシ族の共同体を支える親族組織、出自の記憶、祖先祭祀の関係性について、各種史料の分析と現地調査を行い、次の点を詳らかにした。(1)「トンバ」は総称であり、担う儀式ごとに職能者の名称は異なる。中でも、「カドゥ」は共同体の祖先祭祀(祭天)儀礼を司る世襲職であって、社会制度上、修行次第で誰もがなれる「ダフ」等とは根本的に異なる。(2)ナシ族の祖先祭祀は、「カドゥ」が担う祭天儀礼と、「ダフ」が担う送葬儀礼、家長が担う死者供養の三種類があり、「祖先」(出自)の想起のされ方は送葬儀礼と死者供養が共通し、祭天儀礼は後二者とは構造的に対立する。即ち、送葬儀礼と死者供養は、最近の死者から始原へと溯るのに対し、祭天儀礼は始原から最近の死者へと近付いていく。(3)「カドゥ」の「世襲制」は、共同体の基幹である「家」制度に支えられている。「家」は「断絶」の危機に際して養子・婿を迎え、それでも断絶した場合、断絶家は別家の分家時に「再興」される。その際、断絶家の「祖先」は再興家によって継承される。即ち、「家」は祖先供養を通じて双系的に継承され、実際の「血縁」関係は世代を重ねるごとに忘れられていく。(4)ナシ族の共同体内には、「○○族であったが、いつのまにかナシ族になった」という「家」が少なくない。この「いつのまにか」のプロセスには、「家」制度と「カドゥ」による共同体の祖先祭祀が機能している。以上四点は、ナシ族の宗教的職能者を一括に「トンバ」と呼び、その内容の差異に注意を払ってこなかった従来までの文化人類学研究や歴史学研究からは到達し得ないものであり、それらを詳細かっ明確に示したという点で本研究は非常に価値がある。また、異なる「出自」をもつ集団が「ナシ族」へと取り込まれていくプロセスは、複雑に民族が雑居する中国西南地域での研究に対しても、有効な視点を提供する。
著者
溝井 裕一
出版者
関西大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

今年度において研究代表者は、「ファウスト伝説」が育まれた背景にある16世紀ドイツの魔法信仰、悪魔信仰の研究を進めるとともに、集合的記憶研究と伝説研究の接点について考察を行なった。まず、今年度の全期間をかけて著書『ファウスト伝説』を執筆した。そこでは従来の研究成果に加えて、8月3日〜9月日にヨーロッパで収集した資料を参照しながら近世の世界観についてより詳細に論じている。また近世の魔法信仰を知る上で貴重な資料である『魔法に関するキリスト教的考察と警告』(アウグスティン・レルヒアイマー、本名ヘルマン・ヴィテキント、1586年)の内容を分析し、その成果を2008年6月14日、日本独文学会で発表している。さらにこれとは異なるアプローチとして、論文「伝説と集合的記憶」を書き、伝説研究と集合的記憶研究の接点について論じた。集合的記憶とは、個人だけでなく集団においても過去のイメージの再構築がおこなわれると想定して用いられる概念である。記憶研究によれば、集団や個人が過去を想起する時、過去にまつわる情報の選択と結合が行なわれる。その際、想起する者の欲求に従って、過去のイメージが歪められたり、新たに架空の要素が混入したりすることがある。研究代表者は、この過程と伝説形成の過程に類似点があることに着目した。伝説が形成される場合も、担い手の欲求に従って歴史的事件や人物に関する過去の情報が選択され、それらが古い物語の展開にあわせて結合される。しかもこの時、史実とはかなり異なる過去像がしばしば提示されるのである。研究代表者は本論文の中で、伝説形成を集合的記憶における想起のプロセスのひとつと位置づけて考察した。
著者
和氣 典二 河本 健一郎 和氣 洋美 張 善俊 斎田 真也 葭田 貴子 葭田 貴子 大森 馨子 宮崎 由樹
出版者
神奈川大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

1)変化検出課題や二重課題による注意やパタン知覚の研究や触覚と視覚の比較研究を行った。変化検出課題を視野狭窄が生じている緑内障や網膜色素変性の眼球運動は人為的に視野を制限したときの4゜から8゜の場合と類似していることや変化を検出するときの反応時間は視力に影響されずに加齢や視野の障害の程度に依存することを明らかにした。触覚で変化検出課題を行うと、触覚の反応時間は視覚より顕著に長くなる。この知見から手の触野を視野で表すと、約0.5゜に相当する。二重課題では偏心度を変えたときの輝度コントラストと色コントラストを検討し、偏心度が増すと、感度が著しく低下することを示した。また、輝度コントラスト感度に差がなくても、色コントラスト感度では高齢者は顕著に若年者より低下する。パタン知覚の場合、先天盲や先天的ロービジョンは3次元情報を触覚で報告できないが、後天盲ではそれが可能である。2)応用的観点から、地下空間の快適性・安全/安心に大きな影響を与えるものに視認性や視覚的注意があることを指摘し、それを踏まえた空間の評価法を提案した。また、画像処理の応用面として、電子透かし技術の実用化をはかった。
著者
田中 理恵 (市川 理恵)
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究は、正倉院文書を用いて「石山寺造営事業・二部大般若経写経事業・宝亀年間の一切経写経事業」の財政を解明することで、古代国家の銭貨政策の内容・意図を追究することを目的とした。本年度は、1石山寺造営事業と宝亀年間の一切経写経事業の財政構造をあきらかにし、論文にまとめ、さらに2古代国家の銭貨政策の内容と意図をあきらかにした。まず(1)正倉院文書による価格調査を行い、先行研究が指摘する宝亀元年の物価高騰が存在しなかったこと、天平宝字末年の物価上昇は二段階あり、第一段階は天平宝字六年の米価高騰、第二段階は天平宝字八年の全品目の物価高騰であったことを発見した。さらに(2)新銭の流通状況を調査し、特に天平宝字四年(七六〇)に発行された万年通宝は、和同開珠を基準とする価値体系のなかにその十倍の価値を持つ万年通宝が投入されたことを確認した。すなわち藤原仲麻呂が推進する事業を掌る中央官司に、新銭を下賜するという方法で、財政的に支援していたことをあきらかにした。これに対し、宝亀年間の一切経写経事業の帳簿を検討した結果、天平神護元年(七六五)の神功開宝発行時は、和同開琳と万年通宝の価値をそれぞれ十分の一にしたうえで、万年通宝と同価値の神功開宝を発行していたことを発見した。これまで古代国家は、下落した銭貨価値を取り戻すために次々と旧銭の十倍の価値をつけて新銭を発行してきたと考えられてきた。しかし神功開宝は、天平宝字八年以来の物価高騰を収束させるために発行されたと考える。今後、論文「奈良時代の銭貨政策-万年通宝・神功開宝を中心に-」としてまとめる予定である。
著者
勝野 眞吾 鬼頭 英明 西岡 伸紀 三好 美浩 和田 清 吉本 佐雅子 尾崎 米厚 永井 純子
出版者
岐阜薬科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

若者の喫煙,飲酒を含む薬物乱用は変化するので繰り返し調査をしてモニタリングを行うことが必要である.本研究では,日本とアジアの青少年の薬物乱用の実態を調査し,データ・アーカイブを構築した.得られた結果は以下のようである.(1) 日本の青少年の喫煙,飲酒経験は連続して低下しており,2009年の時点でのこれまで1度でも喫煙経験した者の割合は13.1%,飲酒生涯経験率は56.7%であった. (2) 何らかの違法薬物を一度でも経験した者は2009年,男子1.1%,女子で0.6%であった. (3) 日本を含むアジア諸国の青少年の違法薬物乱用経験は欧米に比べて著しく低い. (4) 日本の高校生のほとんどは,薬物乱用の危険性をよく理解し,乱用に拒否的な態度を もつ. (5) 以上をまとめデータ・アーカイブを構築するとともに,その重要性を指摘した.
著者
辻 彰 寺崎 哲也
出版者
金沢大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

本研究は、「種々の栄養物質およびその構造類似薬物の小腸、腎臓、肝臓、脳組織における細胞膜輸送機構」を解明し、「担体輸送系の基質認識特性」を検討することによって「組織選択的ドラッグデリバリ-システムの確立」を目指すことを目的とした。小腸上皮細胞膜輸送にはラット、ウサギ刷子縁膜小胞を、腎尿細管上皮細胞膜輸送にはラット側底膜小胞および刷子縁膜小胞の他にラット腎、肝組織抽出法を、血液脳関門輸送には、ウシ単離脳毛細血管、脳毛細血管内皮培養細胞および脳組織抽出法を、それぞれの目的に応じて用い、以下に示すように薬物の担体介在輸送を明らかにした。1)リン酸系薬物:リン酸構造を有するfosfomycinは、既に報告したfoscarnetと同様に、細胞内に向けられたNa^+勾配を駆動力として小腸刷子縁膜リン酸輸送系を介して二次性能動輸送される。2)モノカルボン酸系薬物:本系薬物の消化管吸収や脳移行は従来よりpHー分配仮説に従って単純拡散で進行すると解釈されてきた。これに対して本研究では、酢酸が小腸刷子縁膜をH^+との共輸送系あるいはHCO_3ーとの交換輸送系を介して二次性能動輸送される。いずれの輸送においても酢酸の取り込みはpH依存的であり、管腔側酸性環境で促進される。血液脳関門においても酢酸はH_+と共輸送系を介してpH依存的に脳内に取り込まれる。これらのモノカルボン酸輸送系はnicotinic acid,salicylic acid,valproic acidなどのモノカルボン酸構造を有する薬物のみを立体選択的に認識し、輸送する。3)塩基性薬物:thiamine,scopolamine,eperizoneなどの塩基性薬物は脳毛細血管内皮細胞コリン輸送系を介して脳内に取り込まれる。βーラクタム系抗生物質:腎臓と肝臓の血液側細胞膜および肝胆管腔側膜をprobenecidと共通の有機アニオン輸送系を介して取り込まれる。以上の知見は、生体膜輸送系の構造認識輸送特性を利用することによって、薬物を特定の組織にタ-ゲッティングし、または逆に移行性を回避させるなど、創薬に貢献するものと期待される。
著者
門脇 大
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

研究の主目的である「近世期怪異観の解明」に関して、特に18・19世紀を中心とした研究を行い、その成果を学会発表・論文・共著で公表した。18世紀中期以降に流行した心学の資料を中心とした研究と、中世・近世・近代を横断する化物の研究の2つの方向性を主軸として研究を行った。研究が進展するとともに、近世怪異小説そのものよりも、その周辺分野の研究を進める必要が生じたため、やや当初の計画を変更しつつ研究を進めた。また、公表するに至らなかったものの、近世怪談とその周辺分野に関する基礎研究を行った。その成果は次年度以降に順次公表する。
著者
町田 一男
出版者
藤岡市立鬼石小学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

○研究目的:養護教諭を中心に,健康生活指導を行う「すくすく教室」を通して,児童が勉強会や測定等を行いながら,自分自身生活を振り返ることで生活習慣改善の主体的な取り組みに気付くこと。○研究方法:・「すくすく教室」を月1回程度定期的に,水曜日のなかよしタイム(通常より長い昼休み)に実施する。実施後のアンケート調査・分析を行う。・月1回程度の形態測定及び運動量・運動強度測定(5月と11月,各2週間)を実施する。・学習した内容,測定結果は各家庭に知らせ,連携を図る。○研究成果:・「すくすく教室」では,児童が身近に感じているおやつの中の清涼飲料水から始まり,おやつ,食事と広げていくことで,砂糖からご飯,カロリーと児童の中の「ものさし」を意識させる指導ができた。外部の管理栄養士と連携することで,勉強会の進め方やプリントの作製のアドバイス,使用する教材の提供,指導後の話し合いを通じて専門的なアドバイスを受けながら取り組むことができた。学習結果を家庭に返すことにより,家庭で親子の追学習が行われるなど,家庭での健康への意識・理解を高めることができた。・「形態測定」では,食生活や肥満傾向など課題がある児童について,家庭と連携した個別指導ができた。・「運動量・運動強度測定」では,児童の興味・関心を引き出し,自ら運動しようという意欲を引き出し,結果を返すことを通じて,保護者が自分の子どもの健康状態に意識することが深まった。
著者
加地 大介
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、時間生成を重要な実在的様相のひとつと考える立場から、時間生成にまつわる存在論的推論を適切な形で処理できる時間論理の形式体系を構成すること、そしてその形式体系を前提として、時間生成をその中心的位置に組み込んだ包括的存在論を構築することを目的として行われた。前者に関しては、(命題)時間部分論理PS4.3を構成した。PS4.3は、ディオドロス様相論理として知られているS4.3という体系によって単純部分論理SPLを時間化した体系である。S4.3はそれを特徴づけるクリプキ・フレームが稠密順序列となるので、そこにおける可能命題は、稠密直線時間上の現在または未来の少なくとも一つの時点において真であることを主張する命題として解釈することができるのである。PS4.3の構文論と意味論を規定したうえで、タブローによるその証明論を構成し、健全性・完全性・決定可能性が成立することを示した。後者に関しては、単純部分命題論理にもとづいて時制主義的な存在論を構築する方法を提示した。また、いくつかの式を公理として追加することにより、PS4.3に基づいて実体主義的な時間様相の形式存在論を構成できることを示した。さらに、タイムトラベルの可能性と時間生成の実在性という、時間に関する二つの具体的な存在論的問題についても考察した。前者については、実体の歴史に即した形で実在する過去と実在しない未来という区別を行い、少なくともパラドクスを引き起し得るような過去へのタイムトラベルは不可能であることを示した。後者については、できごとの生起自体のなかに可能性から必然性への変化・非実在性から実在性への変化という時間的方向性が含まれていることを示し、そこに時間生成の実在性を見出すべきであることを主張した。
著者
櫻川 智史
出版者
静岡県工業技術研究所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

熱中症とは、温度と相対湿度が高い場合に起こる様々な病的症状の総称である。これまで、熱中症はスポーツ活動や労働作業時の問題として取り上げられてきたが、近年では日常の生活活動時にも多く発生している。特に、高齢者は若年層に比べて体温調節機能が低下していることや、水分をあまり補給しないことで脱水症状に陥りやすく、日常生活の中で熱中症を発症するケースも多く見られている。しかし、高齢者施設での熱中症の危険性を数値で評価している事例は少なく、具体的な問題点や対策法も提示されているとはいえない。本研究では、夏期暑熱時の高齢者施設における熱中症の危険性に着目し、気温(乾球温度)、相対湿度、黒(グローブ)球温度等を用いた暑さ指数(WBGT)を指標とし、木造および鉄筋コンクリート(RC)造施設内の温熱環境を評価した。評価対象は、静岡市内の特別養護老人ホームとした。当該施設は、木造平屋建とRC造4階建により構成される。夏期暑熱時(7~9月)の各棟共用部分における測定の結果、RC造棟では、冷房の強弱により急激に温湿度が変化した。木造棟では、空調による制御が比較的容易であり、温湿度やWBGTの急激な変化は認められなかった。しかし、空調をしないと木造でも熱中症の危険性は高くなり、注意を要した。空調の使用で熱中症の危険は回避される一方、冷房を嫌う高齢者も数多く観察された。特に、リウマチ罹患では冷風による痛みを危惧し、毛布・靴下の着用や、極端に冷房を避ける傾向が認められた。高齢者と若年者では単なる温度感覚差のみならず、生理的な特性(発汗機能など)も大きく異なるため、高齢者の熱中症の危険性は増大する。夏期暑熱時においては、室内であっても高齢者の特性に配慮した熱中症の対策が必要となる。また、年間を通した温湿度計測においても木造棟はRC造に比べ湿度変化が小さかった。
著者
武久 康高
出版者
比治山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、戦後台湾のサブカルチャーの分野において、「桃太郎」がどのように表現され、いかなる意味を担っていたのか調査したものである。結果、1960年前後には「桃太郎」が反共政策へと利用され、また、新たな物語を創造するための素材となっていたこと、1970年になると、「日本」との関連を示すために使われていることが分かった。一方、戦後日本で新たにつくられた「桃太郎」は、旧植民地の存在を忘却した上で成立していたことを指摘した。
著者
平野 恒夫 生田 茂 山下 晃一 長村 吉洋 田中 皓 長嶋 雲兵 岩田 末廣 村上 明徳
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1994

平成5年度に引き続き、星間分子の構造と化学反応に関して以下の研究を行った。1.我々が見い出したMgを含む星間分子としては最初の例であるMgNCに対して、さらに精度をあげたACPF/TZ2P+f法による電子状態の計算を行い、回転定数B_0の実測値5966.90MHzに対して、計算値5969.3MHzを得た。異性体のMgNCに対しても同様な計算を行い、実験値5094.80MHzに対して5089.3MHzの値を得た。また、星間分子候補として有力なFeCOの基底状態の分子構造をMRSDCI法で計算し、分光学定数を予測した。(平野)2.新たに見い出されたCOの赤外領域での発光スペクトルをリドベルグ状態間の遷移として同定した。(平野、長嶋)3.FeH,FeCOに関してf関数をも含む基底関数を用い、大規模なMRCIの計算を行った。また、MgC_2の構造と分光学定数をSDCIレベルで計算した。(田中)4.解離性再結合反応HCNH^++e^-→の反応機構を検討し、炭素星周辺でHNC/HCN比が1に近いことを量子化学的に説明した。(平野、長嶋)5.アセチレンシアニドHC_3Nの生成機構に関して、種々の中間体のエネルギーを計算して、C_2H_2またはC_2HとCNからの生成が可能であることを示した。(長村)6.星間反応C(^3P)+C_2H_2→C_3H_2のポテンシャル面をCASSCF/DZPとMP4/6-31G^<**>法で求めた。また、cyclic-C_3H_2からlinear-C_3H_2への異性化反応過程と、cyclic-C_3H+Hへの解離過程がほぼ障壁なしに起こることを明らかにした。(山下)
著者
岡村 直利
出版者
国際医療福祉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

新しい数値計算技術であるGPGPU技術が素粒子現象論、特にLHC実験に関係する研究に必要な生成散乱断面積を計算するシステムの高速化に応用可能か検証することをめざし、標準模型に含まれる全粒子を含んだ生成散乱断面積を、GPU上で計算するためのサブルーチン集HEGET(HELAS Evaluation with GPU Enhanced Technology)を作成した。HEGETをGPU上でモンテカルロ積分を行うプログラムと合わせて使うことで、従来のシステムと同精度のまま、プログラムの開始から終了までの時間を、多数のjetを含む場合を除いて、遅くても約10倍、最大で100倍程度の高速化を実現した。
著者
須佐 宏
出版者
和歌山大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

本研究は「紀伊万葉」に代表されるようなご当地ソングを小学校の歴史学習とも関連づけながら、子どもたちの興味・関心を誘い,古典学習の教材としてどう活かしていくかの研究である。取り上げた歌は、山部赤人が和歌浦の地で読んだ「和歌浦 潮満ち来れば 潟を無み 芦辺をさして田鶴鳴き渡る」の歌。4年生と1年生で実践を試みた。4年生では、教材化にあたって、実際に見たことのある景色を事前にデジタル画像として保存し、子どもたちのつまづきや気づきに合わせて提示できるようにした。また,子どもたちが実際に足を運んで記録してきたデジタルデータも保存できるようにした。また、音声言語として声に出して読むことが児童の古典理解を大きく助けるものだと考え、個々の音読データを記録し、自己の読み声も確かめられるようにもした。1年生では、親子体験プログラムという計画を立て、撮ってきた画像を使った万葉クイズや親子暗記対決などをし、親子で楽しみながら少しずつ身近なものになるよう心がけた。1年生にとって意味理解は難しいが、ことばのリズムとして体得するにはちょうどよく、1年生の子どもであっても、容易にこの歌を覚えて暗唱できるようになった。親子で行った歌会では、1年生が★なみのおと こころにひびき 気もちいい けしきもよくて すてきなじかん(まりん)★かたおなみ みんなできたよ たのしいな あそんでいたら しおがひいたね(たいが)★かたおなみ 大きいうみが ありました こんどはなつに いってみたいよ(こうせい)などの歌を詠むことが出来き、和歌浦を身近に感じると共に、五七五七七のリズムを楽しみながら身につけていく機会を持つことができた。