著者
木下 望
出版者
日本眼光学学会
雑誌
視覚の科学 (ISSN:09168273)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.95-98, 2019 (Released:2019-12-25)
参考文献数
19

オルソケラトロジーの近視進行抑制効果について,2005年以降世界中より多数の研究が報告されメタ解析も報告されるに至り,オルソケラトロジーは現在最も信頼性が高い近視進行抑制治療法であると認知されるようになった。一方,0.01%アトロピン点眼液は2012年にその効果が報告され近年注目されている。両者ともに作用機序の詳細は不明だが,オルソケラトロジーは光学的,アトロピンは薬理学的であり,両者の作用機序は異なる可能性が高い。我々は両者の併用の有効性を確かめる前向き臨床研究を施行し,相加効果があることを報告した。
著者
佐藤 知己 北原 モコットゥナシ イヤス シリヤ
出版者
北海道大学アイヌ・先住民研究センター
雑誌
アイヌ・先住民研究 (ISSN:24361763)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.75-101, 2022-03-01

本稿は北海道大学が作成・配布する「北大キャンパスマップ」に掲載される学内諸施設の名称をアイヌ語訳する作業の過程および訳案と、作業過程での議論をまとめて記録し、今後に残すものである。既存の語彙にない表現の翻訳としては、ウポポイ(民族共生象徴空間)で行われて来た展示・表示のアイヌ語化と通じるところがある。ただし、ウポポイでは日本語表現もアイヌ民族を主体とする表現を検討する余地があったが、本作業は和人を主体として長年使用されて来た語句を如何にアイヌ語化するかという視点を含んでおり、よりラディカルな形で脱植民地化というテーマに接近したものとなった。そのため、一致点を容易に見いだせず、狭義の言語学的翻訳論における議論のみでは不十分であることが浮き彫りにされた。なお、作成の過程では和人研究者(佐藤)とアイヌ民族に出自を持つ研究者(北原および複数名)が協議し、それぞれの立場からの議論を行ったが、議論は主として、現在用いられている日本語名称をアイヌ語訳する際の言語学的な精緻化、およびアイヌ民族の視点を反映させた訳の検討、そうした視点の必要性の3点について行った。なお、参考のために海外の同様の事例も検討することとし、サーミ語とフィンランド語の事例について、寄稿を受けて紹介することとした。本稿はこれらの議論を踏まえ、1から3は佐藤が、4はイヤスが、5から9は北原が執筆した。
著者
永田頌史
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.161-171, 1993-06-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
4 1

心理・社会的ストレスによって免疫系が影響を受けることは, 一般に知られているが, 近年の神経科学, 免疫学の進歩により, その機序が詳細に解明されつつあり, 脳と免疫系が共通の情報伝達機構を持っていることが明らかになってきた. 心理・社会的ストレスによって細菌やウイルスに対する感染抵抗性が低下することや生活変化に伴うストレス, 適切でない対処行動や感情の障害された状態によって, 好中球の貪食能, リンパ球反応性, NK活性が抑制されること, またこれらが発癌にも関与することを示唆する成績について紹介した. 脳と免疫系の相互作用について, 視床下部-脳下垂体-副腎系のほかに, 自律神経系を介した免疫系への制御系の存在, 免疫・アレルギー反応の外部刺激による条件づけ, サイトカインの中枢作用, 免疫細胞からの神経ペプチド類の産生などについて, 著者らの成績も含めて解説した.
著者
吉場 史朗 加藤 俊一 大谷 慎一 小原 邦義 前田 清子 南 睦彦 寺内 純一 渡会 義弘 金森 平和 稲葉 頌一 絹川 直子
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.48-57, 2009 (Released:2009-06-30)
参考文献数
6
被引用文献数
1 1

目的: 人間が一生の間にどの程度,輸血を受けるのかを知ることは,献血の際に,ボランティア·ドナーに説明するための必要なデータの一つである. 方法: 輸血回数を求めるに当たって,1.年齢別·性別人口,2.供給された献血本数,3.輸血を受けた患者の性別と年齢,を2つの県で集めた.第一は2002年の福岡県で,もう一つは2005年の神奈川県であった.各年齢の輸血回数の計算は,[Page=nage/Nage×T/t]の式で求めた.{Page:nage:各年齢の輸血患者実数,各年齢(Nage)ごとの輸血回数,T: 一年間に供給された血液本数,t: 病院で輸注された血液本数} 結果: 1)福岡県の2002年の全人口は,5,034,311名であった(男性2,391,829; 女性2,642,482).地域の赤十字血液センターは福岡県で輸血されるすべての血液をカバーしていた.2002年の血液供給本数は226,533本であった.一つの大学病院で輸血された患者数は,1,190名(男性646,女性544)であった.これらの患者に使用された血液は13,298本(男性7,210,女性6,088)であった.2)神奈川県の2005年の人口は,8,748,731名であった(男性4,420,831; 女性4,327,900).地域の赤十字血液センターは福岡県と同様,県内使用血液のすべてをカバーしていた.2005年の供給本数は297,592本であった.5つの大学病院と1つのがん専門病院で輸血を受けた患者の総数は3,744名(男性1,673,女性2,071)であった.これらの患者に使用された血液は57,405本(男性31,760,女性25,645)であった.男性の寿命を79歳とすれば,福岡県で0.420回,神奈川県では0.297回輸血を受けていた.女性の平均寿命を87歳とすれば,福岡県では0.344回,神奈川県では0.275回輸血を受けていた. 結論: 我々のデータから,日本人は一生の間に男性は1/3,女性は1/4が輸血を受けると考えられた.さらに,輸血の可能性は80歳以上で男性,女性ともに急増していた.
著者
砂田 利一
出版者
一般社団法人 日本数学会
雑誌
数学 (ISSN:0039470X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.193-203, 1987-07-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
15
著者
豊田 一則
出版者
日本脳循環代謝学会
雑誌
脳循環代謝(日本脳循環代謝学会機関誌) (ISSN:09159401)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.293-297, 2016 (Released:2016-07-29)
参考文献数
6

Bleeding with Antithrombotic Therapy Study(BAT 研究)の前向き観察研究では,脳血管障害や心臓血管病に対して抗血小板薬かワルファリンを服用する患者を4009 例登録し,抗血小板薬の二剤併用やワルファリンと抗血小板薬の併用が単剤治療に比べて出血イベントを増やすことを,日本人患者集団ではじめて示した.そのサブ研究として,登録患者の観察期間中の血圧値と出血イベント発症との関係を調べ,観察期間中に頭蓋内出血を発症した患者で,収縮期・拡張期ともイベント発症までに血圧が漸増していた.頭蓋内出血発症の至適カットオフ値として観察終了時収縮期血圧130/81 mmHg 以上を提示し,国内ガイドラインで抗血栓薬服用者への厳格な血圧管理を推奨する根拠となった.また後ろ向き観察研究では発症24 時間以内に入院した脳出血患者1006 例を登録し,発症前の抗血栓薬服用が早期血腫拡大や急性期死亡に関連することを示した.
著者
稲吉 晃
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.2_79-2_97, 2022 (Released:2023-12-15)
参考文献数
32

本稿は、開港場行政を日本と列国の合意によってのみ有効となる「行政規則の束」と捉え、そうした行政が如何に成立したのか、「港規則」の内容の変遷を検討することで明らかにする。和親条約が結ばれた1854年から明治維新直後の1870年までの「港規則(案)」の内容を検討した結果、初期には水域における船舶にかんする内容のみならず、陸上における乗組員の行動や治安維持にかかわる内容が含まれていたが、時代が下るにつれて徐々に水域の規則に内容が絞り込まれていくことが明らかになった。切り離された陸上部分については別に規則を定める努力がなされたが、日本と列国の交渉が成立しなければ規則は実効性をもたなかった。その結果、各開港場では行政規則が成立している行政領域と、成立していない行政領域がまだら状に存在することになったのである。交渉が難航した行政規則は、地方レベルから国家レベルへと交渉の場が移され、それはその後の条約改正交渉の主要な一部を占めていく。本稿の成果により、開港場行政のあり方が条約改正交渉を複雑化させるひとつの背景となったとみとおすことができる。
著者
佐藤 洋希
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.90, no.3, pp.409-421, 2023 (Released:2023-12-13)

本稿では、占領期の日本放送協会松山中央放送局管内における「ラジオの集い」の実施内容の形成過程を跡付けた。当初、同管内の「ラジオの集い」は、その「公民教育」の射程として、CIEや日本放送協会の関心事であった「政治教育」を強調していた。一方で、その後、愛媛県の社会教育課や農業改良課と結びつくことによって「考える農民」の育成にも取り組まれていった。こうした取り組みの総括的な団体として同管内では1952年に「ラジオの集い」連合会が結成されるに至ったのである。
著者
Renato Sala
出版者
The Japanese Association for Arid Land Studies
雑誌
沙漠研究 (ISSN:09176985)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.205-211, 2017 (Released:2017-05-04)
参考文献数
31

The domestication of camels happened at the start of the III millennium BC in their natural habitats, for the dromedary in SE-Arabia, for the Bactrian camel in SW-Central Asia. Three steps of camel domestication and use are distinguished: for harvesting its body products, as transport animal (drafted, loaded, and ridden), as military animal. With the start of the I millennium BC the introduction of new saddle types and of hybridization techniques promoted, in all the arid expanses of Afro-Eurasia, the growing superiority of the loaded camel over wheels and draft transports, and of camelry over cavalry.
著者
Airi YAMAGUCHI Naoki SHIDA Mahito ATOBE Tomoko YAJIMA
出版者
The Electrochemical Society of Japan
雑誌
Electrochemistry (ISSN:13443542)
巻号頁・発行日
vol.91, no.11, pp.112016, 2023-11-30 (Released:2023-11-30)
参考文献数
35
被引用文献数
1

Photocatalytic single-electron transfer (SET) reactions involving perfluoroalkyl halides play a crucial role in synthetic organic chemistry. However, the electrochemical data for these compounds, which are essential in the discussion of the SET process, are missing. In this study, the electrochemical reduction potentials of perfluoroalkyl halides, alkyl halides, and other analogous compounds were investigated in 0.1 M Bu4NPF6/CH3CN using Ag, Pt, and glassy carbon electrodes. The Ag electrode showed remarkable catalytic properties and a positive reduction peak shift during the reduction reaction; this indicates that the Ag electrode is suitable for estimating the electrochemical potential of the SET process. This study provides a comprehensive dataset for the electrochemical measurements of perfluoroalkyl and alkyl halides, which will help synthetic organic chemists select appropriate reaction systems for these compounds.
著者
和田 卓巳 廣中 謙一 黒田 真也
出版者
一般社団法人 日本生物物理学会
雑誌
生物物理 (ISSN:05824052)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.288-292, 2021 (Released:2021-09-28)
参考文献数
16

Organisms can adapt to the environment robustly despite large heterogeneity of cellular response. Heterogeneity of cellular responses has been regarded as noise, which reduces accurate information transmission. The heterogeneity consists of intracellular variation caused by stochasticity of biochemical reactions, and intercellular variation caused by differences in amounts of molecules (cell-to-cell variability). We found that intercellular variation increases gradualness of the multi-cellular dose-response (response diversity effect), resulting in increase of accuracy of information transmission. This “response diversity effect” is a novel mechanism that enables multi-cellular organisms to utilize cell-to-cell variability as information not noise.