著者
宮平 勝行
出版者
琉球大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

平成21年度は,サンパウロ市周辺で実施した聞き取り調査や収集した資料をもとに,継承沖縄語が沖縄人ディアスポラの日常会話やポルトガル語の地域月報,ポピュラー音楽,舞台劇などでどのように用いられているのかを調査した。ポルトガル語で書かれた沖縄の昔話などに出てくる沖縄語の借用に始まり,ポピュラー音楽に表れる沖縄語とポルトガル語のコード切替,移民100周年記念大会で披露された舞台劇での沖縄語のみによる語りなど,様々なコミュニケーションの位相で沖縄語の使用が確認できた。しかしながら,世代が進むにつれて沖縄語は用いられなくなり,3世に至るともっぱら比喩的コード切替(Holmes,2008)を通して沖縄人としてのアイデンティティを指標する様子をレポートした。一方でこうして失われつつある沖縄語を維持・継承しようとする非営利団体による沖縄語の講座もサンパウロ市郊外のビラ・カロン地区で開かれている。そこで,対面及びオンラインビデオ会議による聞き取り調査と記述式アンケート調査を実施し,沖縄人ディアスポラによる沖縄語継承の試みを報告し,その課題などを探った。考察にあたってはウェールズ語,マオリ語,スコットランド・ゲール語など,代表的な継承言語の研究成果を参照している。研究調査の結果からは,同講座が地域における継承言語の威信を高め,言語アイデンティティの高揚に寄与していることが明らかになった一方で,ディアスポラにおける沖縄語の普及にはいくつかの難しい課題があることを突き止めた。3世代におよぶ受講生の母語,第二・第三言語に関わる文化背景が多様であること,消滅の危機にある沖縄語を越境の地で学ぶ際の教材・人材の不足,さらに共通語としての英語が沖縄入ディアスポラに及ぼす脅威などである。うちなぁぐちの保護・維持にはディアスポラ共同体や沖縄単独の努力ではなく,沖縄を一員とする国際間協力が重要であることを説いた。
著者
川上 紳一 東條 文治
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.50, no.11, pp.829-830, 2003-11-30
参考文献数
2
被引用文献数
1
著者
戸渡 智子
出版者
福岡女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、日常生活において曝される温熱・光環境について、年間を通した実態調査を行うと同時に、唾液分析によりホルモン分泌量を測定し、環境要因と内分泌挙動との関係について検討を行った.その結果、温熱・光環境ともに内分泌挙動と有意な相関がみられ、特に光環境が内分泌挙動の変動に及ぼす影響については、短期の光曝露履歴が個人内変動と関係し、長期的な光曝露履歴が個人間の差と関係することが示唆された.
著者
奥村 幸彦 岡崎 健
出版者
一般社団法人日本機械学会
雑誌
日本機械学會論文集. B編 (ISSN:03875016)
巻号頁・発行日
vol.73, no.731, pp.1434-1441, 2007-07-25
被引用文献数
3

This paper reports on the pyrolysis and CO_2-gasification of various biomass materials in a pressurized thermobalance. In particular, the primary yields of total volatiles, tar and non-condensable gases, together with the composition of non-condensable gases, are measured as a function of temperature at 1 atm and 10.8 ata. The use of a high-intensity infrared heating source, in conjunction with a non-absorbing carrier gas (viz. argon), is reported to reduce the significance of secondary gas-phase pyrolysis reactions. Linear trends with atomic H/C ratio are observed in the tar yield, total volatile yield and CH_4 yield during pyrolysis. The gasification kinetics of biomass chars (pyrolysed to 700℃ at a medium heating rate) have also been measured by measuring the rate of weight loss during reaction with CO_2 as a function of temperature. First-order kinetic rate constants are then determined by fitting the weight loss data using a random pore model. The results indicate that the reactivity of the biomass materials is intermediate between lignin and cellulose and that they are much more reactive than a black coal char.
著者
日野 幹雄 福西 祐 灘岡 和夫 野上 啓一郎
出版者
東京工業大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1988

植生は、地圏と気圏とを結ぶ径路であり、根系は土壌中の水分や化学物質のシンクである。葉は気圏への水蒸気のソ-スであるばかりでなく、光合成作用によって炭酸ガスを吸収し酸素を放出し、蒸散作用によりあるいは遮蔽効果により気温暖和の作用を行う。本研究は、植生の効果を考慮し地圏と気圏を一体として取扱う水文学の確立のための基礎研究である。1.風洞付きライシメ-タ-による実験:長さ4m、幅35cm、風路部高さ50cm、土壌部高さ50cmの風洞を二台製作し、一台は裸地のままあるいは芝生とし、他の一台は(稲科の)雑草を植え、比較実験を行い、次の結果を得た。裸地、芝生に対し雑草は日射の遮蔽と蒸散の効果により流下方向に大きな気温低下(最大3ー4℃)と湿度上昇(最大5g/m^3)をもたらす。雑草風洞のCO_2シンク量は日射量と、水蒸気ソ-ス量は飽差量と高い相関をもち、土壌水分は2次元的な因子として作用する。熱シンク量は水蒸気ソ-ス量及び流入温度で説明される。2.枯葉の保温効果:芝生とその上に枯葉層を作った場合の冬期夜間の風速・気温・地温等を測定し、長波放射による枯葉層上面の冷却・枯葉層内の保温効果を調べた。3.数値モデルNEO-SPAM,Soil,Plant,Atmospheric Modelの開発とシミュレ-ション:植生の存在を考慮した気流の運動および連続の方程式、熱および炭酸ガスの拡散方程式、根系をシンクとした土壌中の水分移動に関する不飽和浸透方程式、および新たに導いた植生の気孔の蒸発散・光合成作用を表す式により非定常三次元場の数値モデルを開発し、実験結果をシミュレ-トした。また、植生の配列が気候暖和に及ぼす効果を調べた。さらに植生による気候暖和が葉による遮蔽作用よりも、蒸散作用によるものであることを明らかにした。
著者
岡 剛 石原 荘一
出版者
明治大学
雑誌
明治大学科学技術研究所紀要 (ISSN:03864944)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.51-69, 1968

The object of this research is to check up the relation of the following three items by experiments of the scavenging action, in a visible state, .of two stroke cycle engines. (A) The form of a cylinder-liner. (B) The flowing state of scavenging medium in the cylinder. (C) Efficiency with relation to scavenging performance. There have been carried out many investigations of the relation between (A) and (B) or (A) and (C), but no report has been found in the relation between (B) and (C). It is very difficult to investigate the relation between (B) and (C) of a scavenging action at the same time, but if working fluid is the liquid, the test becomes easy. Then several experiments were performed by the newly developed method in which the scavenging efficiency was made calculable by the observation of the change of the specific gravity of the water in the cylinder when the salt water mixed with ink was introduced there by the scavenging action. The experimental results were formulated with the scavenging characteristic curves with a consideration to the short circuiting loss and rate of diffusion, of scavenging medium. The third report contains two subjects, as shown in the titles. The first subject is the second report and also a report on the cross scavenging on two dimensional flow. The second subject is an experiment on three dimensional flow by a device using crank mechanism of an actual engine. In this experiment, it was found that there was much back flow from the exhaust ports into the cylinder at the inceptive stage of the scavenging action.
著者
末田 達彦
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

木曽山中には、中世・近世に枯死したが、その後数百年の間腐朽を免れ、今日まで保存されている木曽ヒノキの倒木が散在する。これらの倒木が中近世に起源を持つものであることは、倒木更新し、現在では樹齢300年前後に達した老大木が、依然その上に鎮座していることから明らかである。本研究では、木曽山中を探索してこれら中近世の木曽ヒノキ倒木を発掘したうえ、これらを樹齢300年の木曽ヒノキ現生木の年輪曲線に繋ぎ、全体として西暦1100年代まで遡る長さ800年の標準年輪曲線を作成した。この標準年輪曲線と過去100年間の気象観測の応答関数解析により、中部山岳における年輪成長には、第一に成長に先立つ冬季の気温が、第二に前年成長期の降水量が、支配的な影響を及ぼしていると判明した。この結果から伝達関数を用いて過去800年の気温変動を復元したところ、13世紀中葉から19世紀中葉まで続く寒冷期を挟んで、その前には顕著な寒冷化の傾向が、その後には現在まで続く温暖化の傾向が現われた。この[寒冷化→寒冷期→温暖化]という気候変動は、それぞれ『中世の温暖期』の終焉部、『小氷期』、『地球温暖化』に対応するもので、北米、ヨーロッパなどの気侯変動などともよく同調している。また、本年輪曲線と過去の火山噴火の関係を解析したところ、南極やグリーンランドの氷床にまで硫酸降下の痕跡を残すほどの大規模な噴火の直後には、年輪成長が顕著に低落し、それが10〜20年ほど続くことが判った。この結果は、火山噴火で成層圏にまで吹き上げられた硫酸エアロゾルがその日傘効果により気候を寒冷化させるという気象学上の仮説を裏付けるものである。
著者
中島 映至 太田 幸雄 竹内 延夫 高村 民雄 沼口 敦 遠藤 辰雄
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本研究は、ほぼ当初予定した計画以上の成果をあげて終了した。主な成果としては、(1)船舶用のスカイラジオメーターが全自動で稼動し、観測船白鳳丸やみらいによる観測のみならず日本-オーストラリア間の2つの商船航路において定期観測を実現できた。それによって幅広い緯度範囲においてエアロゾルの気性積算の光学特性が明らかになりはじめた、(2)エアロゾル気候モデルがほぼ完成し、自然起源と人為起源のエアロゾルの放射強制力がシミュレーションできるようになったことが挙げられる。その結果、エアロゾルの一次散乱アルベドがアジアの広域において0.8から0.9と言う低い値であり大きな太陽放射吸収を引き起こしていること、そのために、産業革命以降の人為起源エアロゾルの直接効果による全球平均放射強制力は今まで言われていたものよりもかなり小さく-0.20W/m2程度であることが明らかになった。人為起源の硫酸塩エアロゾルと有機炭素エアロゾルによる冷却効果(日傘効果)の約半分が黒色炭素エアロゾルによる加熱硬化によって相殺されている。また、人工衛星によるエアロゾルと雲の光学的特性のリモートセンシング手法が確立され、1990年の1,4,7,10月の4ヶ月に適用された。その結果、低層の水雲の光学特性がエアロゾル粒子の気柱総数に依存する「エアロゾルによる間接効果」をはじめて全球規模で確認できた。産業革命以降の人為起源エアロゾルが海上で引き起こした間接効果の大きさは-1W/m2程度であると推定される。
著者
成田 健一
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究では、都市内に存在する緑地のもつ環境調節効果を多角的に把握する目的で、以下の二つの測定を実施した。一つは、夏季に行った短期集中観測で、グラウンドから樹林を通って市街地へとつながる側線を設定し、夏季における卓越風向に沿った緑地内部とその周辺の詳細な気温分布を測定した。その結果、これまでの数値モデル計算では表現されていなかった、平均流に逆らって乱流で輸送される水平熱輸送の存在が指摘された。このことは、たとえ風下側に位置するとしても、周辺市街地は緑地内部の熱環境に大きく影響を与えていることになり、緑地計画において緑地の規模を論議する場合にも、このような現象は無視できないと考えられる。二つめは、設計データとしての緑地効果の定量的な把握を目的に行った、1年間にわたる長期気温測定である。これまで我が国では「みどり」の熱的効果というと夏季の暑熱緩和機能のみが注目されてきたが、実際の設計を考える上では、冬季も含めた年間の環境把握がまずもって必要である。今回、1年間を通してのデータを解析することにより、落葉樹林における日中の気温低下には樹木の落葉・展葉と対応した明確な季節変化があること、それに対し夜間の気温差は年間を通して一定していること、緑地と周辺市街地との日最高気温差は盛夏には日中の最高気温時、秋以降は日没後の夕方から夜間にかけて出現頻度が高いことなど、興味深い成果が数多く得られた。
著者
吉澤 剛 山内 保典 東島 仁 中川 智絵
出版者
北海道大学 高等教育推進機構 高等教育研究部 科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)
雑誌
科学技術コミュニケーション (ISSN:18818390)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.93-106, 2011-06

Science communication now needs extending its activities to engage more various actors in intermediary organization linking science and society. Through a comparative analysis of 4 intermediaries in the UK, including the British Science Association (BA), Sciencewise-ERC, the National Endowment for Science, Technology and the Arts (NESTA), and the Research Information Network (RIN), this article first illustrates the variety of linking in these intermediaries as a motto like "from science to society / from society to science", "dialogue between science and society for policy", "science for society", and "science community as society". It then draws some lessons for the institutionalization and management of the corresponding organizations in Japan. Important might be the demonstration of the relevance of such organizations by collaborating external partners, promoting internal members' private activities and engaging them with formative evaluation.
著者
青山 智夫 神部 順子 長嶋 雲兵
出版者
Society of Computer Chemistry, Japan
雑誌
Journal of computer chemistry, Japan (ISSN:13471767)
巻号頁・発行日
vol.7, no.5, pp.185-200, 2008-12-15
参考文献数
17
被引用文献数
2 3

デジタル一眼レフカメラで月光スペクトルと空の色相を撮影し,空中Suspended Particulate Matter (SPM) を計測する簡便法を示した.カメラに取り付ける回折系の制作方法,色相の定量化とSPM濃度の関係を示した.それらの方法により北緯32度,東経120 ∼130度間の空中SPMの濃度と性質の相違を評価し,次の結果を得た.<BR>1. 東経120度以西では仰角大の場合に高SPM濃度となる場合がある.物理的には仰角小の方が濃度は高くなるが,強い上層風に乗りSPM塊が流れているのならば逆転する可能性がある.地上高数kmに高濃度SPM塊が存在する場合はライダー観測にある.<BR>2. 仰角58度の月光スペクトルの青色領域に顕著な吸収帯がある.仰角20 ∼30度ではその吸収帯がなまる.光は仰角小ほどSPM層を長距離通過するので多種類のSPMの吸収の平均となる.仰角大の月光スペクトルに吸収帯があることはSPM塊の局在性を示す.<BR>3. 東経120度以西では地上のSPM濃度と仰角小のスペクトルの赤色成分との間には関連がない.東経131度では地上のSPM濃度が高いとき小仰角では赤成分が顕著となり青緑色成分は減少する.月の色は橙である.<BR>4. 東経120度以東の成層圏に不可視のSPMが存在する.<BR>これらの結果はSPMの性質が経度10度を移動する間に変化していることと矛盾しない.
著者
高橋 永治
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.65-72, 1969-12

1968年12月1日から1969年4月22日まで「ふじ」の航路に沿って,太平洋西部・インド洋・南極海の162地点の表面水中のクロロフィル-a量の定量を行なった クロロフィル-a量は,南極海が最も多く,インド洋の南緯32度以南,太平洋西部,南支那海の順に少なくなり,インド洋の南緯32度以北は最も少なかった クロロフィル-a量の変動の様子は,これまでの結果と似ているが,細部については必ずしも一致せず,論議のためには更に多くの観測結果が必要である.
著者
養父 志乃夫 山田 宏之 中島 敦司 中尾 史郎 松本 勝正
出版者
社団法人日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 : 日本造園学会誌 : journal of the Japanese Institute of Landscape Architecture (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.447-450, 2000-03-30
参考文献数
7
被引用文献数
1 6

従来から行われてきている草本種子を用いた法面緑化工法ではない,自然の表土と,それに含まれる埋土種子を利用する緑化工法に関する研究のため,香川県内において試験施工を行った。樹林内の表土を尾根部,中腹部,谷部の3箇所から1997年3月と6月に採取し,土嚢袋に詰めたて勾配32度の南西斜面に設置し,追跡調査を実施した。施工後2年目の段階で,土壌採取場所の違いにより異なる植生が成立した。いずれの区においてもアカメガシワ,ヌルデ等の先駆性の植物が優先的に成立したが,尾根部から採取した土壌区では特にススキが密生し,最大の被覆量を占めた。ススキも含め,植物被覆量の多い区ほど土壌流亡が少ないことも明らかになった。
著者
波多野 純 野口 憲治 フォラー マティ
出版者
日本工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、長崎出島のオランダ商館長などが遺した記録(模型、日誌など)を基に、日本の町家の地域的特質を、従来とは異なる目で分析する。オランダ商館長らが製作させた模型は、長崎の町家等をモデルとした。それらは、外観の特徴ばかりではなく、部屋の格式や用途によって室内意匠が異なることを正確に伝えている。また、その様相は、1822年~1828年代の状況を示している。
著者
吉田 隆 下平 保直 林王 弘道 横内 克巳 秋山 秀樹
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.15, no.6, pp.499-507, 2006-11-05
参考文献数
13
被引用文献数
2

黒潮の流路情報をもとに黒潮大蛇行を判定する基準を検討した。潮岬での黒潮の離岸を示す串本と浦神の潮位差が小さい値に安定していることに加えて,遠州灘沖での黒潮流軸の最南下点が北緯32度より南に位置することを,黒潮が大蛇行流路であるか否か判定する基準とした。さらに,大蛇行・非大蛇行流路と黒潮流路のA,B,C,D,N型分類との対応について整理した。