著者
川上 紳一
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.52, no.8, pp.577-584, 1997-08-05
参考文献数
23

1995年から文部省重点領域研究として「全地球史解読」がスタートした. この「全」は「地球」にかかり地球中心核から地球をとりまく宇宙までを, 地球システムの動態もろとも解読することを意味する. 「全」は「解読」にかかり, 地層や岩石の残る過去40億年にわたる地球史を網羅することを意味する. さらに「全」は「解読」にかかり, 可能なすべての手法を結集して地層や岩石に記録されたあらゆる事柄の解読を意味する. つまり, 地球をまるごと理論することを目指した壮大な計画である. 「縞々学」の成立に始まるこうした研究の流れを概観し, さまざまな議論を通じて構築されつつある. 新しい地球史年表や歴史科学としての地球史研究の方法論を紹介し, この計画の現状と展望を述べよう.
著者
植村 誠
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

矮新星のアウトバーストを可視光と近赤外線で同時に観測することによって、降着円盤の最外縁に起因する変動現象の機構を研究した。その結果、アウトバースト極大時に最外縁の低温部分が一部、縦方向に膨張し、非軸対称な形状に変化することがわかった。この変形は、おそらく伴星からの強い潮汐効果が原因と考えられる。また、アウトバースト終了後、円盤は即座には静穏状態に戻らず、中間的な状態が存在することも判明した。
著者
後藤 正道 圓 純一郎
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

ブルーリ潰瘍は、抗酸菌M.ulcerans感染による痛みのない皮膚潰瘍であるが、病変に痛みがない原因は不明であった。M.ulceransが産生する毒性脂質mycolactoneをマウス足底に注射すると、局所に知覚過敏の後に知覚鈍麻がおき、末梢神経にシュワン細胞の膨化と壊死が起こった。また、培養シュワン細胞にmycolactoneを投与すると、シュワン細胞の壊死とアポトーシスが起こった。さらに、ヒトの治療前後の皮膚生検組織でも神経の変性所見を見出した。これらの研究結果から、ブルーリ潰瘍の無痛性はmycolactoneの細胞毒性に起因することが明らかになった。
著者
中沢 正治 小佐古 敏荘 高橋 浩之 持木 幸一 井口 哲夫 長谷川 賢一
出版者
東京大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1988

本研究は、CR-39固体飛跡検出器にポリエチレンなどの適当なラジエ-タを組み合わせ、ラジエ-タ物質と中性子の核反応で生じた荷重粒子CR-39への入射量を調整することで、全体として中性子感度曲線が、中性子線量当量換算係数のエネルギ-依存性をできるだけ再現するような最適ラジエ-タの組み合わせと飛跡計数方式を見出すことを目的としている。咋年度までに、標準的なラジエ-タ付きCR-39線量計および飛跡読み取りシステムの試作と予備的な中性子感度曲線の校正(検証)実験を行なった。本年度は、まず中性子検出効率の理論的検討を行ない、実験的に確証するため、東大原子力工学研究施設内の重照射設備およびブランケットにおいて中性子照射実験を行った。試料として、CR-39プラスチックに厚さがそれぞれ0.86,1.90,4.02mg/cm^2のポリエチレン、および厚さ5mmの^6Li_2CO_3を密着させたものを使用し、人体のアルベド効果を模擬するため、後方にポリエチレンブロックを置いて行なった。その結果、各ラジエ-タ厚で、中性子エネルギ-に依存する検出効率の実験値は、誤差の範囲内で比較的良く計算値と一致した。つぎに、これら4種の感度特性と、ラジエ-タ無しの特性からレムレスポンスを近似的に求めるため、重み係数を最小2乗法により求めた。これによると再現性は良好である。特に、中性子線量当量換算係数が大きく変化する100KeVから1MeVの中性子エネルギ-領域の再現性に優れていることが明らかとなった。しかし、10MeVを超えると、検出器感度が低下するため、レムレスポンスの再現性が悪くなる。この対策として、薄いアルミ板をCR-39プラスチックの前面に置くことのより、感度を高められることが確認されている。以上より、小型・計量で取り扱いが容易な中性子個人被爆線量計の実用化の見通しがついた。
著者
谷口 彩子
出版者
社団法人日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.103-110, 1991-02-15
被引用文献数
4

It is said that the translated books of household management in the early years of the Meiji Era had much influence on home economics in Japan. But it is not known about their original texts. The purpose of this paper is to clarify the original of Nagata Kensuke tr., "Hyakkazensho Kajiken'yakukun," which is said to be the first translated one, and the author. The results are as follows: (1) The original of "Kajiken'yakukun" is "Household Hints," the last part of "Chambers's Information for the People," first cdition which was published in Edinburgh, in 1833, by W. &amp R. Chambers, Ltd. But, "Household Hints" did not appear in the first edition. It seems to have been written by the year 1856, according to the British Library General Catalogue. (2) The authors, William Chambers (1800-1883) and Robert Chambers (1802-1871) were Edinburgh publishers. (3) By 1873, Hatakeyama Yoshinari, a student sent abroad by the Satsuma-han and Ambassador Iwakura, had carried back "Chambers's Information for the People."
著者
小佐古 敏荘 西村 和雄 沢田 一良 平野 尚 志田 孝二
出版者
東京大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1989

本研究は陽子ビ-ムによる簿層放射化法を用いたトライボロジ-計測法を、基礎実験、応用計測の両面から確立しようとするものである。研究においては以下の諸項目にわたって検討を加えた。(1)タンデムバンデグラ-フ加速器を用いた簿層放射化法の検討7MeVの陽子ビ-ムを鉄材料に照射し、^<56>Fe(p,n)^<56>Co,^<57>Fe(p,n)^<57>Co,^<58>Fe(p,n)^<58>Coの反応を起こさせ、数ケ月の短半減期放射化コバルトを鉄表面数十μmに作った。照射は大型散乱槽内で行い、照射ジグを作り照射野を特定できる形にし、照射電流もモニタできる測定系を整えた。(2)鉄試料中の放射化生成物分布の測定(1)で放射化されたテストピ-スに純Ge放射線検出器を用いて、生成核種を測定した。また(1)研磨装置を用いて〜1μm位づつ研磨して、減衰γ線をGe検出器で測定し、摩耗量対放射線減衰の校正曲線を作成した。(ii)標準デ-タとして、鉄の箔(約10μm)を購入しこれを積層させて放射化し、鉄内放射化分布を調べた。(3)上記の(2)の鉄研磨デ-タと箔の実験結果を比較の上、^<56>Co/^<57>Co,^<56>Co/^<58>Coの比の形で摩耗量が表せるよう実験デ-タを整理し、解折計算を行い,汎用な校正関数を作成した。(4)本方法を実際の機械摩耗部分に適用してみるために、自動車エンジン部品摩耗試験のためのテストベンチを作成した。(5)(4)のテストベンチのカムノ-ズ摩耗部に対して、陽子ビ-ムによる簿層放射化法を用いたトライボロジ-試験を実施した。試験に当っては、最適コリメ-タの検討、検出器の最適配置、自動計測システムの構築、オンラインデ-タ処理プログラムの開発などをおこなった。(6)本方法の総合的検討をおこない、実用に供せられる形でのまとめを行なった。
著者
嶋 昭紘 酒井 一夫 鈴木 捷三 小佐古 敏荘 井尻 憲一
出版者
東京大学
雑誌
核融合特別研究
巻号頁・発行日
1988

1.今年度は昨年度にひきつづきトリチウムシミュレーターのハードウェア部分の最終調整、実用に供せる形でのソフトウェア設備、実地利用、操作方法のマニュアル化等を行った。2.自家開発したメダカ特定座位法により、生殖細胞突然変位の線量率効果を調べた。1000Rを急照射(1000R/10min:100R/min)または緩照射(1000R/24hours:0.694R/min)した野生型雄メダカと、3標識を持ったテスター雌メダカ(b/b gu/gu 1f/1f)を交配し、胚発生過程における死亡と変異形質を検索した。その結果、(1)優性致死率は、精子では緩照射でより高いという逆の線量率効果が認められ、(2)特定座位突然変異頻度の急照射/緩照射の比は、生ずる突然変異に関してはどのステージにおいても1.0より大きく、線量率効果が認められるが、(3)総突然変異については、急照射/緩照射の比が2.13、2.10、0.88(各々精子、精細胞、精原細胞)となり、有意差は精子と精細胞においてのみ認められた(p<0.05)。3.トリチウムシミュレーターを用い、哺乳類培養細胞の細胞死および突然変異が対数的減衰線量率照射と一定線量照射により違いがあるかどうかを調べた。その結果、コロニー形成法でみた細胞死の割合、6TG耐性を指標にした突然変異頻度ともに、対数的減衰線量率で照射した場合の方が効果的であることがわかった。
著者
小佐古 敏荘 四方 隆史 志田 孝二
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

本研究は100MeV以上の電子、陽子、重イオンの高エネルギ-加速器からの放射線遮蔽をリ-ス項、遮蔽特性の観点から、数値計算及び実験の双方から系統的に研究を進めようとするものである。研究は以下の3項目に関して進められ検討された。(1)高エネルギ-放射線種々の物質の遮蔽特性の数値計算による検討遮蔽に用いられる各種物質の基本的な遮蔽減衰特性を求めるために、1次元S_N輸送計算コ-ドANISNを用いて解析計算をおこなった。使用した中性子断面積はDLCー87/HILOで、中性子エネルギ-は400MeVからThermalまでである。散乱ルジャンドル展開項はP_3まで、S_Nの角度分点はS_<16>である。入射中性子は単エネルギ-のものを考え、3m厚の無限平板体系に垂直入射の条件で入射させた。鉛、鉄、重コンクリ-ト、コンクリ-ト、大理石、パラフィン、水などについての計算を行い、線量当量の空間分布図の形で結果を得た。(2)大型加速器施設(理化学研究所リングサイクロトロン)における実験重イオンビ-ムによる放射線の発生測定のためには、ガンマ線用に電離箱を、中性子用に放射化箔(C、Al、Au、Ag、Ni、In等)および減速材型中性子検出器を用い、生成量及び角度分布測定を試みた。タ-ゲット条件としては、Nイオンビ-ムを核子当り135HeVに加速したものを鉄の厚いタ-ゲットに入射したものを設定した。遮蔽デ-タとしては、主として減速材型検出器を用いて、コンクリ-ト壁の透過デ-タ、迷路部のストリ-ミングデ-タを中心に測定した。(3)高エネルギ-放射線の発生項の評価上記条件下での高エネルギ-粒子発生についてはモンテカルロ計算コ-ドNMTCにより評価し、総合的な形で、実験値との差異、計算上の問題点を検討した。
著者
中嶋 信生 唐沢 好男 本城 和彦 山尾 泰 藤井 威生
出版者
電気通信大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

自動車事故防止を目的として,高信頼な車車間情報通信,高精度測位,危険の表示方法等の研究開発を行った.具体的にはMIMO+アダプティブ複号化,路側無線機中継,車の置かれた状況に応じたルーティング手法等の適用により,車車間通信の高信頼化を図ると共に,電波干渉の強い車車間通信に耐える低歪・高能率な無線回路を開発した.衝突防止に向けた車対人の相対測位ならびに歩行者の高精度電波測位では, 2. 4 GHzの周波数で推定誤差1m以下を達成した.ウェアラブル型の常時即時認識可能なドライバー用情報表示機器を実現した.
著者
澄川 喜一 長澤 市郎 小野寺 久幸 岡 興造 寺内 洪 小町谷 朝生 田淵 俊雄 坂本 一道 佐藤 一郎 大西 長利 増村 紀一郎 稲葉 政満 前野 尭 BEACH Milo C FEINBERG Rob 杉下 龍一郎 新山 榮 馬淵 久夫 中里 寿克 ROSENFIELD J 原 正樹 小松 大秀 中野 正樹 手塚 登久夫 浅井 和春 水野 敬三郎 海老根 聰郎 辻 茂 山川 武 福井 爽人 清水 義明 平山 郁夫
出版者
東京芸術大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

本研究プロジェクトは、広く海外所在の日本・東洋美術品の保存修復に係る調査研究の一環として、在米日本・東洋美術品の日米保存修復研究者による共同研究である。我が国の美術品は、固有の材料・技法をもって制作されるが、異なる風土的環境下でどのような特質的被害を生ずるかは従来研究されていなかった。たまたま米国フリーア美術館所有品に修理すべき必要が生じ、本学を含む我が国の工房で修復処置を行った。その機会に保存修復に関する調査研究が実施された。本プロジェクトの目的は、とくに絵画、彫刻、工芸についての保存修復の実情を調査することにあった。具体的には、本学側においては米国の美術館等の保存修復の方法、哲学、施設的・人員的規模等を調査し、フリーア美術館側は我が国の最高レベルの修復技術(装こう)とその工房の実態、すなわち施設、用具、手法、人員等を調査し、相互の研究結果を共同討議した。3年度間の研究成果概要を以下箇条書きで示す。1)フリーア美術館付属保存修復施設をはじめ6美術館(ナショナルギャラリー、メトロポリタン美術館、ボストン美術館、ゲティー美術館、ロード・アイランド・スクール・オブデザイン付属美術館)の保存修復施設、及び3大学の保存修復教育課程(ニューヨーク大学保存修復センター、デェラウェア大学保存修復プログラム、ニューヨーク州立大学バッファロ-校)を調査した。2)美術館及び収蔵庫並びに付属の研究室、工房は、一定範囲の温湿度(フリーア美術館の場合は温度68〜70゜F、湿度50〜55%、ただし日本の美術品に対しては湿度65%で管理する等、その数値は美術館により若干変化の幅がある)にコントロールされる。我が国の修復は自然な環境下で行われるから、そのような点に経験度の関与が必要となる一つの理由が見いだされる。しかし、完全な人工管理環境下での修復が特質的な材料・技法を満足させるものであるか否かの解明は、今後の研究課題である。3)CAL(保存修復分析研究所)やGCI(ゲティー保存修復研究所)のような高度精密分析専門機関は我が国にも必要である。4)米国の美術館は保存修復施設並びに専門研究者を必備のものと考え、展示部門ときわめて密接な関係をもって管理運営し、コンサバタ-の権威が確立されている。その点での我が国の現状は、当事者の間での関心は高いが、配備としては皆無に近い。5)大学院の教育課程は科学な計測・分析修得を主としながら、同時に物に対する経験を重視する姿勢を基本としており、その点で本学の実技教育に共通するところがある。米国の保存修復高等教育機関のシステムを知り得たことは、本学で予定している保存修復分野の拡充計画立案に大変参考になった。6)保存修復に対する考え方は米国内においても研究者による異同があり、修復対象作品に良いと判断される方向で多少の現状変更を認める(従来の我が国の修理の考え方)立場と、現状維持を絶対視する立場とがある。現状維持は、将来さらに良い修復方法が発見された場合に備える、修復箇所の除去可能を前提とする考え方である。保存修復の理想的なあるべき姿の探求は、今後の重要な国際的な研究課題である。7)それは漆工芸等においてはとくに慎重に検討されるべき課題であり、彼らには漆工芸の基礎的知識不足が目立つ。そのような我が国固有の材料、技法面についての情報提供、技法指導などの面での積極的交流が今後とくに必要であろう。逆に建築分野は彼らが先進している。8)米国研究者は我が国の工房修復を実地に体験し、深く感銘した。それは装こう技術が脳手術のようだという称賛の言葉となって表れた。9)ミーティングにおける主要話題は、保存修復は現地で行われるべきであり、それを可能とする人材養成が必要である。保存修復教育には時間がかかることはやむを得ない、期間として6年位が目安となろう。科学教育は大学で行われるべきだが、日本画に限れば工房教育がよい、などであった。