著者
鷲見 成正 利島 保 苧阪 直行 後藤 倬男 中谷 和夫 仁平 義明
出版者
慶応義塾大学
雑誌
総合研究(B)
巻号頁・発行日
1992

本研究は、科学研究費補助金総合研究(B)の主旨に則り、研究者相互の情報交換と討議を通じて今後の研究展開に向けての新たな視点をさぐる研究集会開催を中心にして進められた。イメージサイエンス(画像科学)からピクトリアルサイエンス(図像科学)への知覚心理学的展開を目指す本研究の課題は、“見えるもの"が“見えざるもの"の姿かたち・雰囲気・意図などをいかにして写しだしてくるかの解明にある。知覚事像との関連で(1)色・形、(2)空間・運動、(3)音響・触感覚、等各研究班を組織し、図像情報生成の知覚・認知機構ならびに基礎データの提示とそれらについての総合的検討を行なった。とくに研究集会を通じて得られた理工学研究者と実験心理学者間の研究交流は、この種の新しい領域の今後の展開に向けての貴重な貢献といえるだろう。第1次研究集会(東京:平成4年9月17〜19日)研究テーマ「形態知覚と図像情報」基調講演「色、形、視覚」小町谷朝生(東京芸大)形態知覚研究班ならびに参加者全員による研究討議[参加者数:第1日(約40名)、第2日(約90名)、第3日(約50名)]第2次研究集会(開催地:呉、平成4年10月29〜31日)研究テーマ「空間知覚と図像情報」基調講演「サイエンティフィックビジュアライゼーションの現状」中前栄八郎(広島県立大)空間・運動知覚研究班ならびに参加者全員による研究討議[参加者数:第1日(約30名)、第2日(約30名)、第3日(約50名)]第3次研究集会(開催地:大阪、平成4年12月17〜19日)研究テーマ「視覚構造・触知覚・音響と図像情報」基調講演「聴覚における感性情報処理をめぐって」難波精一郎(大阪大)視覚・音響・触・触ー運動研究班ならびに参加者全員による研究討議[参加者数:第1日(約40名)、第2日(約50名)、第3日(約50名)]
著者
加藤 節 西崎 文子 亀嶋 庸一 富田 武 藤原 帰一
出版者
成蹊大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

近年、「内戦」が冷戦終結後の世界における戦争の新たな形態として頻発し、人々の関心をよんでいる。しかし、ふりかえってみると、20世紀全体が「戦争と革命の世紀」であるとともに、あるいはむしろそれゆえに、すぐれて「内戦の世紀」であった。今世紀は、ロシア革命に続く内戦から、ユーゴあるいはアフガニスタンの内戦に至るまで「内戦」を構造的に反復し続けてきたからである。本研究は20世紀がなぜそのように「内戦」を反復し続けてきたかを、多様的領域を専門とする政治学者の共同研究によって解明することを目的として発足した。その場合、本研究では次の三点に留意して分析を進めた。「内戦」を国民国家の擬制的性格に関連づけること、国民国家形成期における「内戦」の諸相に歴史的な光を当てること、国民国家体系としての現代世界における内戦の要因に理論的な考察を加えることがそれである。こうした作業を通して、本研究は歴史と理論との両面から「内戦」に政治学的考察を加えることができたと考えている。
著者
中村 みほ
出版者
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本年度は当該研究の最終的まとめの段階であり、追加データの収集、研究成果のまとめ、成果発表を行った。1.ウィリアムズ症候群(以下WS)における顔認知:WS患者は定型発達成人に見られるような倒立顔処理が正立顔処理に比べて苦手である(すなわち顔倒立効果を認めない)とする報告と、定型発達者と変わらずに顔倒立効果を認めるとする報告が混在している。我々はその認知機能を詳細に調べたWS患者において、脳磁図および脳波により倒立効果の発現の有無を検討した。それにより、自験例においても顔倒立効果を認める例と認めない例の存在を明らかにし、その違いはWSに特徴的な視空間認知障害のレベルに依存する可能性があることを示唆した。(Nakamura et al. 2013)2.WS患者における社会性の認知発達:視点取得課題(ある物体を別の視点からみるとどのように見えるかを問う課題。社会性の発達と関連があるとされている。)を心的回転課題(物体を回転させるとどのように見えるかを問う課題。)との比較において検討した。WS患者においては精神年齢を一致させたコントロール群に比して両課題ともに低い成績を示した。また、WS患者において、精神年齢の増加に伴い心的回転課題の成績の改善がみられるのに対し、視点取得課題ではそれを認めなかった。心的回転課題は視空間認知機能と関連すると考えられるが、視点取得課題とは異なる発達過程を示すことが示唆された。Hirai et al. 2013)3.WSの社会性の認知発達:顔への注意の強さを視線追跡装置を用いて検討した。課題に無関係に画面上に現れる顔画像に対して、他の物体の画像と比べて注視する時間が長いことが客観的に確認された。(in preparation)
著者
菅原 透 瀬戸 雅博
出版者
秋田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

マグマの形成メカニズムの理解やガラス材料の製造工程を最適化する上で重要となる,リケイトメルトの熱力学的性質について調べた.本研究ではメルトの起電力を測定してNa2O成分の活量を算出し,SiO_2-Na_2O-CaOの3成分からなるメルトの高温下での熱力学的性質を明らかにした.シリケイトメルトの性質をより精密に理解するために,本研究で得られた熱力学量を化学結合力や原子の配置と関連づけて考察した.
著者
北嶋 克寛 赤木 康宏
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究課題は、映像(実写映画、アニメ映画、ゲームなど)制作現場において新たな映像編集技術として期待される、実写映像とCG映像のシームレスな合成技術について包括的に研究開発することを目的とする。実写をベースとする映像においてある特定の(気に入らない)樹木の形状と動きをCGに置き換えかつ周辺の様子に合わせて樹木の配色を自動変換する手法、および背景画像に大量に登場する人のリアルな個人顔形状やアニメキャラクタを短時間で生成する手法などを開発した。
著者
室岡 義勝 南澤 究 阿部 美紀子 久松 真 山田 隆 山下 光雄 NANTAKORN Boonkerd NEUNG Teaumroong NAZALAN Najimudin NGUEN Huuhiep HARUMASTINI Sukiman BAYANIM Espiritsu
出版者
広島工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

日本、タイ、マレーシア、インドネシア、フイリッピンおよびベトナムの科学者が、東南アジア各地域の植物と共生する窒素固定細菌・微細藻類および菌根菌を採取して、持続的バイオマス生産への効果を調査・研究した。共生微生物をバイオコンポストとして用いた結果、イネやマメ科作物などの食糧生産、デンプンやセルロース資源バイオマスの生育促進およびヤシ油・ジャトロファ油の増産を促した。共生微生物によって、エコシステムが構築され化学肥料の削減をもたらした。ここに、持続的食料およびバイオマス資源生産に共生微生物を積極的に利用することを提言する。
著者
朴美姫 鈴木 義人 蝶野 真喜子 山口 五十麿
出版者
植物化学調節学会
雑誌
植物化学調節学会研究発表記録集 (ISSN:09191887)
巻号頁・発行日
no.36, pp.43-44, 2001-10-09

Gibberellin responsive gene 092 was isolated from cucumber hypocotyls by means increased in hypocotyls of cucumber by GA treatment. The sequence data suggested that the clone encoded an arabinogalactan-protein. The ful1-length cDNA of 092 was introduced into tobacco plants under the control of 35S promoter The AGP was extracted and purified from the transgenic tobacco by reversed-phase-high performance liquid chromatography (RP-HPLC) and gel filtration chromatography (GFC) and analyzed Using β-glucosyl Yariv reagent which binds selectively with AGPs. The transgenic plants gave aβ-Yariv-reactive peak in addition to those present in wild type plants. β-Yariv regent inhibited hypocotyl elongation promoted by GA and IAA treannent in intact cucumber seedling and hypocotyl segments of azuki bean. Together with results using anti-AGP antibodies, the product of 092 was suggested to be an AGP. The transgenic tobacco plants showed earlier flowering than wide ty'pe plants.
著者
河口 公夫 塚田 全彦
出版者
国立西洋美術館
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1998

1.美術品が曝される温湿度変化の実データ収集国立西洋美術館からの作品貸出の際に、輸送・展示期間の温湿度の連続計測を行い、実際に作品が曝される温湿度変化に関する知見を得た。貸与先での温湿度管理は必ずしも貸す側が求める範囲内で適正に管理されるとは言えないことが明らかとなった。2.温湿度変化に伴い絵画作品におこる変化の計測輸送・展示中に起こる温湿度変化に作品(特に紙を支持体とするもの)が曝された場合に生じる、作品の形状、水分量の変化について、基礎実験データの収集を行った。その結果、一般的な傾向として相対湿度の変化に合わせて速やかに紙試料の形状、'水分量は変化し、相対湿度が高くなると試料の変形、含水率は大きくなり、相対湿度の変化幅が大きい方が変形、水分量の変化幅も大きいことがわかった。また、これらの変化の傾向に高い規則性が見られるもの、場所によるバラツキが大きいもの、等、相対湿度変化の影響が紙の種類によって異なることがわかった。3.マイクロクライメイトボックスの素材と構造の検討ボックスの素材と構造についていくつかのパターンを製作して性能の評価実験を行った。その結果、マイクロクライメイトボックスの特徴として、熱伝導率が低い素材を用いても、薄い材料を使う限り、外部の温度変化が内部に伝わるのを緩衝する効果はあまり期待できないが、相対湿度変化についてはボックス外部の変化が比較的早い場合には内部の環境を十分安定化できることがわかった。その度合いは素材により多少の差はあるものの、密閉を確保すれば大きな違いはないことがわかった。しかし長期間では外部と平衡に向かう変化が緩やかに生じるため、注意を要することがわかった。4.マイクロクライメイトボックスの基本構造の決定と評価上記よりボックスの基本構造を決定するとともに、作品の寸法・状態により個々に仕様を検討する必要があることを確認した。
著者
立石 憲彦
出版者
愛媛大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

高分子化合物によって赤血球が集合を起こすことはよく知られている。集合体は高分子化合物の濃度によって形成速度や大きさに差が現われてくる。我々は集合体形成物質としてデキストランT-70を用いて濃度(0〜4g/dl)に伴って集合体の形成にどのような影響があるかを次の3つの方法で観察をおこない、比較検討した。(1)単離ウサギ腸間膜に赤血球浮遊液を灌流し、微小血管の壁近くに形成される血漿層の厚みと血管内径の関係。(2)低ズリレオスコープ下における赤血球連銭形成速度。(3)赤血球集合・沈降過程におけるレーザー光透過量の変化。【結果】低ズリレオスコープ法による集合体形成速度およびレーザー散乱光による集合体形成及び沈降速度はデキストラン濃度が2.5g/dlで最大となった。一方、単離ウサギ腸間膜の微小血管における赤血球の流動を観察すると、デキストラン濃度が増加するにつれて血漿層の厚さが増すが、増加率はデキストラン濃度が2.5g/dl付近で最も大きく、逆に2.5g/dl付近のデキストラン濃度では灌流抵抗の増加率が低いことが明らかになった。【考察】低ズリレオスコープによる赤血球集合体形成およびレーザー散乱法による赤血球集合・沈降過程においては、ともに赤血球に加わるずり応力は低く、0〜2dyn/cm^2程度であり、デキストラン濃度変化によって赤血球集合体形成速度に変化が見られた。一方、微小血管内では血管壁に近いところではズリ応力が大きく(〉20dyn/cm^2)、赤血球は軸集中し、かつ、赤血球同士の衝突頻度が増える。中心軸付近ではズリ応力は小さいために集合体形成が促進された状態になったと考えられた。また、血漿層の厚みと灌流抵抗の増加率の変化は赤血球が集合を起こすことで循環抵抗の増加を抑えていることが考えられた。
著者
舟山 裕士 増田 高行 中村 正孝 佐々木 巌
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

1.移植腸管浸潤リンパ球サブセットおよび接着分子発現の部位的検討【方法】経時的に屠殺し摘出したgraftをPLP固定後凍結切片上で免疫組織学的に各種リンパ球サブセットおよびICAM-1、LFA-1につき発現部位の相違につき検討した。【結果】MHCclassII抗原(Ia)は拒絶群で早期に粘膜固有層および陰窩上皮に発現した.ICAM-1は対照群と異なり血管内皮および間質細胞に強く反応し拒絶後期にはむしろ反応性は低下した.LFA-1は元来白血球の表面抗原であるが拒絶群の血管内皮にも一部反応性がみられた.特に、拒絶時には血管に接着し凝集像を示す白血球に強い陽性像がみられた.2.小腸保存と粘膜バリア【方法】移植前に1,4,8次間のEuro-Collins液または生食液にて冷保存したgraftで移植後のbacterial translocationを血中エンドトキシン濃度で検討した.【結果】Euro-Collins液で保存したgraftでは血中エンドトキシン濃度の上昇はみられなかったが、生食液で保存した群では8次間保存群で血中エンドトキシンは高値を示した.したがって、短時間の保存であれば生理食塩水で十分と考えられたが、保存時間は4時間を超えるべきではないと考えられた.3.移植におけるPCO-OH(過酸化リン脂質)の白血球刺激作用について【方法】30分阻血、最灌流30分後の小腸においてLTB4拮抗剤、allopurinolを前投与し粘着障害について検討した.【結果】LTB4拮抗剤、allopurinolの両者において粘膜障害を抑制したが、PCOOHの産生はallopurinolの前投与群でのみ抑制された.PCO-OHの過酸化に関わるラディカルは白血球に由来すると従来いわれていたが、むしろキサンチンオキシダーゼ系でありPCOOHは粘膜障害産物由来というよりは白血球活性化因子の一つであることがこの実験から明らかとなった.【研究のまとめと今後の展望】小腸移植における拒絶では早期にClassII抗原の発現とともに血管内皮上にICAM-1の発現があり、第1相とともに白血球の活性化が起こることが明らかにされたが、それとともにPCCOHが白血球の強い活性化因子であることが判明した.PCOOHは拒絶モニタリングに有用てあるばかりでなく、PCOOH産生を抑制することにより拒絶による粘膜障害を軽減する効果があることが期待される.
著者
黒須 純一郎
出版者
イタリア学会
雑誌
イタリア学会誌 (ISSN:03872947)
巻号頁・発行日
no.37, pp.42-56, 1987-10-30

L'autore dell'opera "Della moneta", Ferdinando Galiani, e noto come precur-sore della teoria del valore della utilita marginale nella storia dell'economia politica perche ha sciolto "il paradosso del valore" sul concetto della utilita e rarita, per primo e nel modo piu persuativo. Inoltre la sua definizione e teoria che il "valore e una idea di proporzione tra il possesso d'una cosa e quello d'un altra nel concett d'un uomo", e il valore e composto "da due ragioni, che con questi nomi esprime : d'utilita e rarita" (libro I, capo II "Dichiarazione de' principi onde nasce il valore delle cose tutte") hanno goduto la massima stima nella storia dello studio covenzionale. Dunque Galiani ha detto nella introduzione del libro I "De' metalli" che, avendo <<deliberato di scrivere... la natura e le qualita della moneta, o sia di que' metalli che le nazioni culte come un equivalente d'ogni altra cosa usano di prendere e dare>> <<il solo amore al ben pubblico e che a scrivere sui conforta>>. Nella introduzione del libro II "Della natura della moneta" ha poi detto, basandosi sull'opinione comune dei piu, che la moneta e <<grande ed utilissima inven-zione>>, e <<una perfezione degli ordini delle societa civili>> contro i poeti e savi che <<lo stato infelicissimo di natura secoli d'ore denominarono>>, e <<dell'argento e dell'oro, che non avevano, si fecero imprima veementissimi disprezzatori.>> Infine, nella "Conclusione dell'opera", ha affermato : <<mi affligge che, mentre i regni di Napoli e di Sicilia risorgono e si sollevano colla presenza del proprio sovrano, il restante d' Italia manchi sensibilmente di giorno in giorno e declini.>> Da i suoi pareri sopra riportati si deduce che scopo della sua opera non soltanto e la critica dell'alterazione della moneta e la discussione della politica dell'-abbondanza del Tesoro pubblico, ma anche il chiarimento dei metodi di universsalizzare la ricchezza nella societa sarebbe devuta essere il mezzo principale per correggere il disordine del valore della moneta, sfuggire alla stagnazione economica e realizzare una societa ricca. Cioe tema centrale di "Della moneta" e : 1) sotanza del valore, 2) mezzo del cambio, 3) meccanismo della decisione del valore (prezzo), 4) circolazione della moneta, 5) bilancio della finanza. Consider-ando questi punti conferma che sostanza della ricchezza nazionale non e lamoneta, ma e la ricchezza reale e che si puo ottenere e aumento della ricchezza reale per mezzo della circolazione rapida della moneta.
著者
泉水 英計
出版者
神奈川大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

「民族」という語は日本近代史の最も重要な用語である。「人種」「国民」「人民」などが混在した維新期を経て、欧化政策に対抗した明治20年代の国粋主義のなかで普及し、穂積憲法学により皇室を宗家とする血族団体という意味に変容したといわれている。しかし、このような形成過程の説明は十分な根拠に基づいたものではなかった。「民族」およびその類語概念が用いられた明治初期の文献と、それが書かれる際に参照された西欧語文献を、書誌的に厳密に比較をした結果、「民族」の確実な初出は、明治9年の加藤弘之『国法汎論』であることが明らかとなった。原著はプルンチェリ『Allgemeines Staatsrecht』であり、法人としての「Volk」に対する文化集団としての「Nation」の下位分類を「Stamm」とした。加藤の訳語はそれぞれ「国民」「民種」「民族」であり、「Volk」については文脈により様々な意訳があるが、「民種」と「民族」については安定している。このような「民種」と「民族」の用法は明治20年代の三宅雪嶺の文章にもみえ、これまでは国粋主義の打ち出した「民族」概念の不安定さと理解されていた「民種」の混用を一貫性のあるものとして説明できる。一方で、同時代に彼らと対抗関係にあった官製の「独逸学」は敢えて加藤の用法を捨て、「Nation」を「族民」と訳している現在まで続く「民族」の用法を確立した穂積八束はこの系統に連なることから、「族民」から穂積の「民族」への移行過程の解明が次の課題である。
著者
益本 仁雄 宇都宮 由佳 中野 美雅
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.54-65, 1998-10
参考文献数
13
被引用文献数
3

筆者らは, 1992年以来, 北タイのある農村で情報化が村人と共同体に与える影響と彼らの意識, 行動, 生活価値観などの変容について継続研究を行っている。この村は, 情報流入が極く少量であったが, 1996年末の電化によるテレビの普及を契機に, 爆発的に情報が流入し, 人類の情報に対する歴史的変化の縮図の様相を呈している。電化後1年半経過した最近(1998年5月)の実態の分析結果を以下に示す。情報受信の総件数は, 電化半年後に比べ増加し, 特に口コミの増加が顕著であり, テレビやラジオから新聞・雑誌へのメディア選択の拡大がみられる。受信内容としては村外情報が増加し, 経済・景気, エイズ・衛生, 王室関連など顕著で, 生活商品, ファッションなどが登場して村人の関心領域の拡大を示した。さらに, 「情報」に対する理解や認識が村人に形成されつつあること, 外部情報を積極的に取り入れ商人との売買交渉で対抗するようになったこと, 人の家族の移動が活発になってきたこと, 就労形態・方法や生活価値観に変化がみられること, 周囲の村との所得格差が解消しつつあること, 他方, 村人の一部に情報化に対する拒否反応・過剰適応の存在などが観察された。
著者
度会 好一
出版者
法政大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

16世紀のポルトガルに隠れユダヤ教徒が大量発生した理由は、マノエル一世がユダヤ人を強制的にキリスト教に改宗させながら、彼らの内面の信仰を黙認したことにある。マノエルの期待通り、彼らはポルトガルの海外膨張に貢献しただけでなく、アントウェルペン、アムステルダム、ロンドンに進出して植民主義の尖兵となった。文化的には、キリスト教徒を装った隠れユダヤ教徒として、割礼をせず、祈りの時に跪き、救済を個人的なものと考える、ユダヤ教徒らしからぬ雑種であった。